(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146555
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】気相成長装置における反応炉蓋開放時の装置制御方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047579
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優哉
(72)【発明者】
【氏名】渕上 慶太
【テーマコード(参考)】
5F045
【Fターム(参考)】
5F045AC15
5F045AC16
5F045BB15
5F045EB08
5F045EB12
5F045EB17
5F045EE14
5F045EN02
5F045GB06
5F045GB11
(57)【要約】
【課題】どのような大気圧状態においても、リアクタ内部とグローブボックス内部の圧力差が小さい状態でリアクタを開閉でき、さらに、リアクタ開状態でも排気配管内のガス流れを一定に保持可能な、気相成長装置における反応炉蓋開閉時の制御方法を提供する。
【解決手段】気相成長装置1における反応炉蓋5開閉時の装置制御方法は、前記反応炉蓋5を開放する前に、反応炉内の圧力を、クリーンルーム内の圧力にグローブボックス内の差圧設定値を加えた値に設定し、反応炉3の給気経路7で前記反応炉3へのガスの供給流量を流量調節器7によって一定に制御しながら、反応炉3の排気経路14で圧力コントロールバルブ18の開度を調整することで、前記設定された圧力値になるまで制御し、前記設定された圧力値に到達したら、圧力コントロールバルブ18の開度を固定して、前記反応炉内の排気コンダクタンスを一定としてから前記反応炉蓋4を開放する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンルーム内で、不活性ガスが給排気されているグローブボックス内に配置した反応炉内から、半導体結晶成膜後の基板を取り出すために反応炉蓋を開放する際の気相成長装置における反応炉蓋開放時の装置制御方法において、
前記反応炉蓋を開放する前に、前記反応炉内の圧力を、前記クリーンルーム内の圧力に前記グローブボックス内の差圧設定値を加えた値に設定し、
反応炉の給気経路で前記反応炉へのガスの供給流量を流量調節器によって一定に制御しながら、反応炉の排気経路で圧力コントロールバルブの開度を調整することで、前記設定された圧力値になるまで制御し、
前記設定された圧力値に到達したら、圧力コントロールバルブの開度を固定して、前記反応炉内の排気コンダクタンスを一定としてから前記反応炉蓋を開放する
ことを特徴とする気相成長装置における反応炉蓋開放時の装置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置における反応炉蓋開放時の装置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶成長法の1つに気相成長法がある。気相成長法は、反応炉(リアクタ)内に設置された半導体基板上に原料ガスを供給した後に、当該半導体基板を加熱することで、半導体基板の表面に半導体結晶を成長させる方法である。この際に用いられる原料ガスは、一部が基板上に到達して半導体結晶となるが、残りはリアクタ内壁や排気配管内壁に付着する。その様なリアクタ内壁や排気配管内壁に付着して生成した半導体を反応生成物と呼ぶ。当該反応生成物はパーティクル(微小な塵)となり、基板上で成長する半導体の結晶品質の悪化やばらつきの原因となることが知られている。そのため、リアクタ内壁及び排気配管内壁からの反応生成物の剥離によって発生するパーティクルの低減が求められている。
【0003】
上記パーティクルの低減を行うために、従来技術として、リアクタ開閉時でもドライポンプによる排気を常時行うことで排気側からのパーティクルの拡散を防止することが、特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術を常時運用するには、以下のような課題があった。気相成長装置はクリーンルーム内に設置されている。当該クリーンルーム内にはグローブボックスが設けられており、当該グローブボックスの内部圧力(PG)は、上記クリーンルームの内圧(PC)との差圧(ΔP1)によって制御されている(PG=PC+ΔP1)。通常、グローブボックスの内部圧力は、クリーンルームの内圧より0.1~0.3Pa程度高くなるように制御されている。
【0006】
その一方で、クリーンルームの内圧(PC)は、外部からのパーティクル混入を防止するために、大気圧(PA)に対する差圧(ΔP2)を用いて制御されている(PC=PA+ΔP2)。この点を考慮すると、上記グローブボックスの内部圧力(PG)は、大気圧に対する差圧を用いて制御されているものともいえる(PG=PC+ΔP1=PA+ΔP1+ΔP2)。つまり、グローブボックスの内部圧力は、大気圧の増減の影響を受けるものといえる。
【0007】
この点について、上記特許文献1に記載の技術においては、リアクタ内の圧力を絶対圧で制御している。例えば、リアクタ開閉時のリアクタ内の圧力は、固定値である100kPaを用いていた。そのため、大気圧に変化が起こり、例えば105kPaとなった場合、その差圧の5kPaも、グローブボックスの内部圧力に影響を及ぼして、より大きな差圧がリアクタ内部とグローブボックス内部との間で生じていた。
【0008】
加えて、リアクタの開放状態において、ドライポンプ上流のリアクタ内圧制御用の圧力コントロールバルブ(PCV)とグローブボックス内部圧力の制御を同時に行っていたため、大気圧が変化することで、グローブボックスの内部圧力が一定にならないと同時に、PCVの開度も安定しないために、排気配管内のガス流れを一定に保持することができなかった。
【0009】
以上の点に鑑みて、本発明は、どのような大気圧状態においても、リアクタ内部とグローブボックス内部の圧力差が小さい状態でリアクタを開放でき、さらに、リアクタ開放状態でも排気配管内のガス流れを一定に保持可能な、気相成長装置における反応炉蓋開放時の制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、クリーンルーム内で、不活性ガスが給排気されているグローブボックス内に配置した反応炉内から、半導体結晶成膜後の基板を取り出すために反応炉蓋を開放する際の気相成長装置における反応炉蓋開放時の装置制御方法において、前記反応炉蓋を開放する前に、前記反応炉内の圧力を、前記クリーンルーム内の圧力に前記グローブボックス内の差圧設定値を加えた値に設定し、反応炉の給気経路で前記反応炉へのガスの供給流量を流量調節器によって一定に制御しながら、反応炉の排気経路で圧力コントロールバルブの開度を調整することで、前記設定された圧力値になるまで制御し、前記設定された圧力値に到達したら、圧力コントロールバルブの開度を固定して、前記反応炉内の排気コンダクタンスを一定としてから前記反応炉蓋を開放することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の気相成長装置における反応炉蓋開放時の装置制御方法によれば、反応炉内の圧力をクリーンルーム内の圧力にグローブボックス内の差圧設定値を加えた値に設定した上で、反応炉の給気経路で前記反応炉へのガスの供給流量を一定に制御しながら、反応炉の排気経路で圧力コントロールバルブの開度を調整することで、前記設定された圧力値になるまで制御し、前記設定された圧力値に到達したら、圧力コントロールバルブの開度を固定して、前記反応炉内の排気コンダクタンスを一定としているので、大気圧が変化した場合でも、反応炉内部とグローブボックス内部の圧力差が小さい状態で反応炉蓋を開放することができる。また、反応炉蓋開放状態でも、差圧計による圧力制御が行われるために、グローブボックスの内部圧力が急上昇や急低下を起こすことはないので、パーティクルの発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の装置制御方法を適用可能な気相成長装置の一形態例を示す図である。
【
図2】上記形態例のリアクタ開放動作前の各機器の初期状態を示す図である。
【
図3】上記形態例のリアクタ開放状態における各機器の制御状態を示す図である。
【
図4】リアクタ開放状態におけるリアクタ内部圧力の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明を適用可能な気相成長装置の一形態例を示している。本形態例に示す気相成長装置1は、基板上に半導体結晶を成長させるための反応炉(リアクタ)2と、当該反応炉2を覆うグローブボックス3と、反応炉2及びグローブボックス3にそれぞれ接続されたガス供給系統及びガス排気系統とを備えている。上記気相成長装置1は、クリーンルーム内に設けられている。また、反応炉2の上部には、反応炉蓋(リアクタ上蓋)4が設けられている。
【0014】
ガス供給系統としては、パージガスや反応性ガスを供給弁5及び流量調節器(MFC)6を介して反応炉2に各種ガスを供給する反応炉用ガス給気経路7と、窒素ガスを窒素供給弁8を介してグローブボックス3内に供給するグローブボックス用ガス供給経路9とが設けられている。通常、パージガスとしては窒素やアルゴンといった不活性ガスが用いられており、反応性ガスとしては、基板上に半導体結晶を成長させるためのガスであって、半導体結晶の種類に応じて、ケイ素化合物や有機金属化合物などの各種ガスが用いられている。
【0015】
ガス排気系統としては、まず、グローブボックス3のガス排気系統として、開閉弁10及びエア作動弁11を介してグローブボックス3内から窒素ガスを排気するグローブボックス用ガス排気経路12が設けられている。前記エア作動弁11はグローブボックス3内の圧力を検出するグローブボックス差圧計13で検出した圧力に応じて開度が調節され、グローブボックス3内の圧力を大気圧より僅かに高い圧力となるようにして、外部からグローブボックス3内への大気の侵入を防止するようにしている。
【0016】
一方、リアクタ2のガス排気系統としては、リアクタ2からガスを排気するための排気経路14を有している。当該排気経路14には、リアクタ2内を減圧状態にするためのドライポンプ15が設けられるとともに、リアクタ2内を減圧する際に開弁する減圧弁16と、経路内の排気圧力を検出する排気圧力計17と、当該排気圧力計17の検出圧力に応じて排気経路14におけるガスコンダクタンスを調整するための圧力コントロールバルブ(PCV)18とが設けられている。PCV18は排気圧力計17の二次側に設けられている。また、クリーンルーム内には、当該クリーンルーム内の絶対圧を測定する絶対圧力計19が設けられている。
【0017】
図2及び
図3に示すように、反応炉(リアクタ)2には、内部に基板を出し入れするための反応炉蓋(リアクタ上蓋)4が設けられている。基板の出し入れを行う時以外は、
図2に示すように、リアクタ上蓋4は閉じられており、基板の出し入れを行う時は、
図3に示すように、リアクタ上蓋4が開いた状態になる。通常、リアクタ2内に供給されたパージガスや反応性ガスは、排気経路14から排気される。ここで、当該排気経路14からの排気を止めた状態でリアクタ上蓋4を開くと、排気系統とグローブボックス3内との圧力差や温度差により、排気系統内のガスが逆流することがあり、パーティクルの発生原因となる。そこで、リアクタ上蓋4を開くときには、パーティクルを発生させないような装置制御方法が必要となる。以下に、その方法について説明する。なお、
図2、
図3において、白抜きのバルブ(弁)はバルブの開状態を、黒塗りのバルブ(弁)はバルブの制御状態を、薄墨で塗られたバルブ(弁)はバルブ開度の固定状態を示している。
【0018】
まず、開放動作前の初期状態として、
図2に示すように、リアクタ上蓋4は閉じられている。この時、グローブボックス3内の圧力については、差圧計13にあらかじめ設定された差圧設定値(ΔP
1)に応じて排気側のエア作動弁11が開閉することによって、ある一定の圧力が保持されている。グローブボックス3内には窒素供給弁8を介してガス供給経路9から窒素ガスが供給されている。当該窒素ガスの供給量は窒素供給弁8の開度によって調整される。リアクタ2内へは、窒素ガス等の不活性ガスが供給弁5を介してガス給気経路7から供給されている。当該不活性ガスによって、リアクタ2内は十分にパージされている。この際の不活性ガスの供給量は、流量調節器6によって調整されている。また、リアクタ2内の圧力は、排気経路14上のPCV18の開度によって制御されている(例えば、100kPa。)。
【0019】
次に、上記初期状態からリアクタ上蓋4を開放するために、リアクタ2内の圧力を制御する。まず、リアクタ2の圧力を、絶対圧力計19にて測定したクリーンルーム内圧力(P
C)にグローブボックス3内の差圧設定値(ΔP
1)を加えた設定値(P
C+ΔP
1)に調整する。このとき、上記流量調節器6によるガスの供給流量を一定に制御した上で、排気経路のPCV18の開度を調整することで、リアクタ2内の圧力を制御するようにする。次に、リアクタ2内の圧力が上記設定値になったら、PCV18の開度を固定して、リアクタ2内の排気コンダクタンスが一定となるようにする。その後、
図3に示すように、リアクタ上蓋4を上方に移動させて当該リアクタ上蓋4を開放する。
【0020】
上記のような動作を行うことによって、大気圧が変化した場合でも、リアクタ2内の圧力が調整されているために、リアクタ2内とグローブボックス3内の圧力は常時一定の状態で給排気を行いながらリアクタ上蓋4を開けることができる。また、リアクタ2が開放されて、リアクタ2とグローブボックス3とが一体化した状態においても、当該グローブボックス3内の圧力は、差圧計13の設定値によって制御され続けるために、急上昇や急低下を起こすことはない。そのため、圧力の急激な変化に起因するパーティクルの発生が抑えられる。
【0021】
図4に、リアクタ上蓋4を開放する前後におけるリアクタ2内の圧力の時間変化を示す。リアクタ上蓋4を開放する前は、リアクタ2内の圧力とクリーンルーム内の圧力とがほぼ一致している。この状態でリアクタ上蓋4を開放すると、リアクタ2内の圧力が若干低下する。これは、リアクタ上蓋4を開けることによって、ガスコンダクタンスが変化するためである。また、
図4に示されるように、リアクタ上蓋4が開放されると、リアクタ2内の圧力は不規則に上下を繰り返す挙動を示す。これは、リアクタ上蓋4が開放されて、リアクタ2内とグローブボックス3内とが同一空間となった上で、グローブボックス3内の圧力を制御している排気側の弁の開閉によって、グローブボックス3内の圧力が上下を繰り返す挙動をしているためである。なお、リアクタ上蓋4を開から閉にする際の圧力の低下は約0.7kPaとなっている。
【実施例0022】
パーティクルの発生低減の効果を検討するために、従来技術(特許文献1に記載の技術)と本発明とを用いて、リアクタ上蓋を開放した後に8インチウエハ上に発生したパーティクルの個数をそれぞれ調査した。調査結果を以下の表1に示す。
【0023】
【0024】
上記表1に示すように、リアクタ上蓋開放後の8インチウエハ上のパーティクル個数は、従来技術では約1000個であったのに対し、本発明では約300個となり、本発明を適用することでパーティクルの発生を低減できることが分かった。
【0025】
なお、上記グローブボックス3内において、給排気に窒素ガスが用いられる旨を示したが、これは必ずしも窒素ガスでなければならないものではなく、成長させる半導体結晶の種類や基板の加熱温度等を考慮した上で、アルゴン等の他の不活性ガスを用いても良い。
1・・・気相成長装置、2・・・反応炉(リアクタ)、3・・・グローブボックス、4・・・反応炉蓋(リアクタ上蓋)、5・・・供給弁、6・・・流量調節器(MFC)、7・・・反応炉用ガス給気経路、8・・・窒素供給弁、9・・・グローブボックス用ガス供給経路、10・・・開閉弁、11・・・エア作動弁、12・・・グローブボックス用ガス排気経路、13・・・グローブボックス差圧計、14・・・排気経路、15・・・ドライポンプ、16・・・減圧弁、17・・・排気圧力計、18・・・圧力コントロールバルブ(PCV)、19・・・絶対圧力計