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特開2022-146727ペースト状食品基材、ペースト状食品基材の製造方法及びペースト状食品基材を用いた加熱調理食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146727
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ペースト状食品基材、ペースト状食品基材の製造方法及びペースト状食品基材を用いた加熱調理食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20220928BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20220928BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20220928BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20220928BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20220928BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20220928BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20220928BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20220928BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220928BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220928BHJP
   A21D 13/30 20170101ALI20220928BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L35/00
A23L29/269
A23L29/256
A23L29/238
A23L29/212
A23D7/005
A23L23/00
A23L27/00 D
A23L5/00 N
A21D13/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047842
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増子 瞳
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
4B032
4B035
4B036
4B041
4B047
【Fターム(参考)】
4B025LD02
4B025LE07
4B025LG12
4B025LG14
4B025LG27
4B025LK03
4B025LP10
4B026DC06
4B026DG04
4B026DG12
4B026DL03
4B026DP01
4B026DP06
4B026DX01
4B026DX03
4B026DX10
4B032DB02
4B032DE06
4B032DP66
4B035LC11
4B035LE02
4B035LE11
4B035LG12
4B035LG21
4B035LG27
4B035LK01
4B035LK02
4B035LP03
4B035LP21
4B035LP46
4B036LE02
4B036LF05
4B036LF15
4B036LG02
4B036LH11
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH21
4B036LK01
4B036LP01
4B036LP12
4B036LP19
4B041LC03
4B041LH02
4B041LH16
4B041LK18
4B041LK21
4B041LP01
4B041LP18
4B047LB09
4B047LE02
4B047LF02
4B047LG10
4B047LG11
4B047LG26
4B047LG27
4B047LG43
4B047LG50
4B047LG64
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】本発明の一以上の実施形態は、水中で均一に分散することができ、水中での加熱により粘性を発現することができ、更に、保存中に成分が分離せず、容器からの絞り出しが容易な、スチームコンベクションオーブンでの加熱調理に適したペースト状食品基材を提供する。
【解決手段】本発明の一以上の実施形態に係るペースト状食品基材は、45~55質量%の油脂分、及び、固形分を含み、前記油脂分が、前記基材の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含み、前記固形分が、前記基材の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の水溶性の、水に溶けて粘性を発現できる粘性剤を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペースト状食品基材であって、
前記基材の全量あたり、45~55質量%の油脂分、及び、固形分を含み、
前記油脂分が、前記基材の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含み、
前記固形分が、前記基材の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の水溶性の、水に溶けて粘性を発現できる粘性剤を含む
ことを特徴とするペースト状食品基材。
【請求項2】
前記粘性剤が、前記基材の全量あたり、5~20質量%のα化デンプン、及び、0.05~2質量%のガム質を含むことを特徴とする、請求項1に記載のペースト状食品基材。
【請求項3】
前記α化デンプンが、α化アセチル化アジビン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、トウモロコシα化澱粉、馬鈴薯α化澱粉、及び、タピオカα化澱粉から選ばれる1以上である、請求項2に記載のペースト状食品基材。
【請求項4】
前記ガム質が、キサンタンガム、カラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガム、及び、グァーガムから選ばれる1以上である、請求項2又は3に記載のペースト状食品基材。
【請求項5】
前記基材の全量あたりの水分含量が7質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のペースト状食品基材。
【請求項6】
スチームコンベクションオーブン調理用調味料である、請求項1~5のいずれか1項に記載のペースト状食品基材。
【請求項7】
請求項1に記載のペースト状食品基材の製造方法であって、
原料の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含む、45~55質量%の油脂分と、
前記原料の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の水溶性の、水に溶けて粘性を発現できる粘性剤を含む、固形分と
を混合することを含む方法。
【請求項8】
ホテルパンで、請求項6に記載のペースト状食品基材、湯、及び、必要により他の食材を混合し、前記ホテルパンに収容した混合物を、スチームコンベクションオーブン中で熱風及び/又は水蒸気により加熱調理することを含む、加熱調理食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状食品基材、ペースト状食品基材の製造方法及びペースト状食品基材を用いた加熱調理食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチームコンベクションオーブンは、食品を加熱調理するために用いられる。スチームコンベクションオーブンでは、調理庫に、素材を収容したホテルパンを入れて密閉し、熱風、蒸気等の熱源を加えて、加熱調理する。
【0003】
特許文献1では、スチームコンベクションオーブンによる調理では、従来の調味料に澱粉類を添加して粘度を付与しようとしても、澱粉類が分散しきれずダマ(沈殿)が発生し、及び均一に粘度が発生しないという課題や、密閉した庫内に熱風や水蒸気を強制的に送りこんで調理が行われる(扉を開けたまま加熱調理することは機械の機能上出来ない)ので加熱調理中の撹拌は出来ず、そのため加熱調理中に澱粉類を加えることはできず、予め澱粉類を添加した場合であっても均一に粘度を付与することはできないという複数の課題があることが記載されている。そして、特許文献1では、上記課題を解消するために、澱粉類5~20質量%と水溶性糊料とを含むことを特徴とし、更に炒めた香味野菜類を含んでいてもよいスチームコンベクションオーブン調理用調味料が記載されている。特許文献1に記載のスチームコンベクションオーブン調理用調味料は、水中に、澱粉類5~20質量%と水溶性糊料とを分散して調製されることから、水を主成分とする水系の粘性物であると理解される。
【0004】
特許文献2では、スチームコンベクションオーブンによる調理を意図したものではない、ルウ、ケーキ用生地の素等として利用できるペースト状食品基材において、乳化剤を使用しない又は少量の乳化剤を使用した場合に、均一なペースト状態を長時間維持することができないという課題を解決する手段として、水分含量が1.5重量%~8.5重量%で、少なくとも澱粉質原料および常温で流動性を有する油脂を含有してなることを特徴とする加熱処理済ペースト状食品基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-151408号公報
【特許文献2】特開平10-51号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ルウ等のペースト状食品基材を水に分散させ、必要に応じて具材等の食材が配合された混合物を収容した、ホテルパン等の容器を、スチームコンベクションオーブンの庫内に設置し加熱調理する場合、加熱調理の途中で撹拌や食材の添加ができないため、前記ペースト状食品基材の成分は、前記ホテルパン等で混合する際に、素材の混合物中に、ダマ(沈殿)を発生せず、迅速かつ安定に分散でき、かつ、加熱調理中を通して、前記分散状態を維持できることが望ましい(調理開始時の課題)。また、前記ペースト状食品基材は、加熱調理により前記混合物に粘性を付与するものである場合には、加熱調理中に食材から水分が流失しても、調理される加熱調理食品に、求める粘性を安定均一に付与できる必要がある(加熱調理時の課題)。更に、前記ペースト状食品基材は、チューブ容器、パウチ容器等の容器中での保存中に成分が分離せず、且つ、容器から絞り出し易い物性を有することが望ましい(保存時・開封時の課題)。
【0007】
これらの点で、前記特許文献1に記載された発明は、水系の混合物であり、澱粉類と水溶性糊料が、保存時に沈降分離しやすく、ホテルパン等で水等に希釈する際は、均一に分散できず、前記沈降分離したものが、そのまま希釈されずに残るという問題がある。したがって、成分が不均一に存在する状態で、スチームコンベクションオーブンによる加熱調理を行うと、加熱調理食品に、求める粘性を安定均一に付与することができない。
【0008】
特許文献2に記載された発明は、特定の水分含量で、澱粉質原料および常温で流動性を有する油脂を含有し、かつ、加熱処理を行うことで、均一なペースト状態を維持する。前記加熱処理を行わない場合は、均一なペースト状態を維持することができず(比較例2)、特定の油脂分及び固形分の割合により、加熱処理を行わない場合にも、均一な状態を維持することや、スチームコンベクションオーブンによる調理を意図して、前記の油脂分及び固形分を特定すること、の工夫は施されていない。
【0009】
そこで本発明の一以上の実施形態では、ホテルパン等の中で、湯を加えて混合し、混合物中で均一に分散することができ、スチームコンベクションオーブンでの加熱により安定均一に粘性を発現することができる、特にスチームコンベクションオーブン加熱調理に適した、ペースト状食品基材を提供することを目的とする。更に、保存中に成分が分離せず、容器からの絞り出しが容易なペースト状食品基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成する手段として、以下の発明を完成させた。
(1)ペースト状食品基材であって、
前記基材の全量あたり、45~55質量%の油脂分、及び、固形分を含み、
前記油脂分が、前記基材の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含み、
前記固形分が、前記基材の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の水溶性の、水に溶けて粘性を発現できる粘性剤を含む
ことを特徴とするペースト状食品基材。
(2)前記粘性剤が、前記基材の全量あたり、5~20質量%のα化デンプン、及び、0.05~2質量%のガム質を含むことを特徴とする、(1)に記載のペースト状食品基材。
(3)前記α化デンプンが、α化アセチル化アジビン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、トウモロコシα化澱粉、馬鈴薯α化澱粉、及び、タピオカα化澱粉から選ばれる1以上である、(2)に記載のペースト状食品基材。
(4)前記ガム質が、キサンタンガム、カラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガム、及び、グァーガムから選ばれる1以上である、(2)又は(3)に記載のペースト状食品基材。
(5)前記基材の全量あたりの水分含量が7質量%以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のペースト状食品基材。
(6)スチームコンベクションオーブン調理用調味料である、(1)~(5)のいずれかに記載のペースト状食品基材。
(7)(1)に記載のペースト状食品基材の製造方法であって、
原料の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含む、45~55質量%の油脂分と、
前記原料の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の水溶性の、水に溶けて粘性を発現できる粘性剤を含む、固形分と
を混合することを含む方法。
(8)ホテルパンで、(6)に記載のペースト状食品基材、湯、及び、必要により他の食材を混合し、前記ホテルパンに収容した混合物を、スチームコンベクションオーブン中で熱風及び/又は水蒸気により加熱調理することを含む、加熱調理食品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一以上の実施形態に係るペースト状食品基材は、湯中で均一に分散することができ、上記の分散した状態で加熱により粘性を発現することができ、更に、保存中に成分が分離せず、容器からの絞り出しが容易であるという好ましい効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ペースト状食品基材>
本発明の一以上の実施形態に係るペースト状食品基材は、
前記基材の全量あたり、45~55質量%の油脂分、及び、固形分を含み、
前記油脂分が、前記基材の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含み、
前記固形分が、前記基材の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の粘性剤を含む
ことを特徴とする。
【0013】
前記ペースト状食品基材は、45~55質量%の油脂分を含み、且つ、前記油脂分が、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含むことにより、粘性を付与したペースト状の母体が形成され、これに下記する特定の固形分が合さることで、保存中(特に常温での保存中)に成分が分離せず、容器からの絞り出しが容易となる、特有の物性が達成される。上記の効果は、成分を混合するだけで達成され、基材に加熱処理を施すことは任意である。前記ペースト状食品基材は好ましくは、パウチ容器、チューブ容器等の、密封可能で柔軟な容器に収容された容器詰めペースト状食品基材として提供される。前記ペースト状食品基材の絞り出し性能を、有効に発揮し得る点で、柔軟材製の容器に収容された、容器詰めペースト状食品基材として提供されることが有用である。
【0014】
前記ペースト状食品基材において油脂分の含有量はより好ましくは47~53重量%である。油脂分とは、下記する液体油脂と固体油脂を意味する。液体油脂は、常温で液状の食用油脂であり、固体油脂は、常温で固体状の食用油脂である。
【0015】
前記ペースト状食品基材は、より好ましくは、全量あたり、30~40質量%の液体油脂、及び、10~20質量%の固体油脂を含む。
【0016】
液体油脂とは常温において液体である油脂を指す。常温とは例えば20℃~30℃の温度範囲である。
【0017】
液体油脂は食用可能な液体油脂であれば特に限定されない。液体油脂の例としては、ナタネ油、コーン油、ダイズ油、キャノーラ油等が例示できる。複数の液体油脂の混合油脂も液体油脂として使用できる。液体油脂の融点は、30℃未満、より好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下とするのがよい。
【0018】
固体油脂は食用可能な固体油脂であれば特に限定されない。固体油脂の例としては、豚脂、牛脂等が例示できる。複数の固体油脂の混合油脂も固体油脂として使用できる。固体油脂(混合油脂の場合は全体)の融点は、30~55℃、好ましくは40~50℃とするのがよい。融点とは、油脂のほとんどが液相に転じ、残ったわずかな量の固相が存在するまま全体が流動を開始する温度(上昇融点)のことをいう。
【0019】
前記ペースト状食品基材において固形分とは、前記ペースト状食品基材に含まれる、油脂分、具材及び水を除いた固形分を指し、可溶性固形分及び不溶性固形分の両者を指す。可溶性固形分としては、生デンプン及び粘性剤に加えて、食塩、ショ糖、アミノ酸調味料、ビーフブイヨン等の水溶性成分が挙げられる。不溶性固形分としては、主に不溶性のパルプ分等であり、カレーパウダー、スパイス、肉、野菜、果実及び魚介等のパウダーが挙げられる。なお、固形分には、所謂具材等の200立方ミリメートル程度以上の大きさの固形物は含まない。ペースト状食品基材に前記の大きさの固形物を含む場合は、基材の当該固形物を除いた部分を、本発明の構成にすればよい。
【0020】
前記ペースト状食品基材は、固形分を、好ましくは45~55質量%含み、且つ、前記固形分が、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の粘性剤を含む。これにより、ホテルパン等の容器中で、基材に湯を加えて混合した場合に、前記固体油脂等の溶融により、ペースト状の基材が湯中に溶けて分散し、溶融した油脂を媒介として、前記生デンプン及び粘性剤を、湯中にダマにならず均一に分散することができる。そして、湯中に分散して、粘性を発現する粘性剤の作用により、生デンプンを、湯中にダマにならず均一に分散し維持することができる。したがって、スチームコンベクションオーブン等での加熱調理の際、素材中で均一に分散状態を維持した生デンプンの作用により、求める加熱調理食品の粘性を均一に発現することができる。
【0021】
生デンプンとしては、天然の結晶状態が保たれているデンプン(βデンプン)で、トウモロコシ、馬鈴薯、タピオカ、小麦等のデンプンが挙げられる。生デンプンは、小麦粉等の生デンプンを含む素材として配合されてもよい。生デンプンは水中で加熱することで糊化して、加熱調理食品の好ましい粘性を発現する。加熱中に具材等の食材から水分が放出された場合でも、素材中に均一に分散した生デンプンが糊化することにより粘性が安定均一に付与される。
【0022】
粘性剤とは、水溶性の、水中に容易に分散して、粘性を発現できる成分である。前記ペースト状食品基材は、粘性剤を含むため、湯中に分散させた直後から粘性を有する混合物を生成することができ、これにより、生デンプンの糊化が進行する前でも、混合物中での生デンプン等の固形分の沈澱を抑制することができる。
【0023】
粘性剤としては、α化デンプン、ガム質、野菜や果実のパルプ等が例示できる。好ましくは、粘性剤は、α化デンプンとガム質とを含む。
【0024】
α化デンプンとしては、α化アセチル化アジビン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、トウモロコシα化澱粉、馬鈴薯α化澱粉、及び、タピオカα化澱粉から選ばれる1以上が好ましい。特にα化アセチル化アジビン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が好ましい。前記ペースト状食品基材の全量あたりのα化デンプンの含有量は、好ましくは5~20質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0025】
ガム質としては、キサンタンガム、カラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガム、及び、グァーガムから選ばれる1以上が好ましい。特にキサンタンガム、グァーガムが好ましい。前記ペースト状食品基材の全量あたりのガム質の含有量は、好ましくは0.05~2質量%、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0026】
前記ペースト状食品基材の全量あたりの水分含量は、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。水分含量がこの範囲の前記ペースト状食品基材は、前記の油脂分及び固形分の作用に合わせて、長期保存に適している。前記ペースト状食品基材に含まれる水分は、水を含む液体成分に由来する水分と、固形分に含まれる水分との合計である。水分含量の測定方法は、例えば、乾燥法やカールフィッシャー法を採用し得る。
【0027】
前記ペースト状食品基材を必要に応じて他の食材とともに湯中に混合した混合物を、加熱することでカレーソース、シチューソース等の粘性食品を生成することができる。前記ペースト状食品基材はルウとして利用可能である。具体的には、ホテルパンで、前記ペースト状食品基材に湯を加えて混合して溶かし、必要により他の食材を加えて、スチームコンベクションオーブンで加熱調理することができる。前記ペースト状食品基材は、スチームコンベクションオーブン調理用調味料として好適である。これ以外にも、前記ペースト状食品基材の特性に合わせて、様々な用途に用い得る。
【0028】
<ペースト状食品基材の製造方法>
本発明の別の一以上の実施形態は、前記ペースト状食品基材の製造方法であって、
原料の全量あたり、20~45質量%の液体油脂、及び、10~30質量%の固体油脂を含む、45~55質量%の油脂分と、
前記原料の全量あたり、5~15質量%の生デンプン、及び、0.05~25質量%の水溶性の、水に溶けて粘性を発現できる粘性剤を含む、固形分と
を混合することを含む方法に関する。
【0029】
前記原料の全量あたりの油脂分の含有量はより好ましくは47~53重量%である。
【0030】
前記原料における油脂分は、より好ましくは、全量あたり、30~40質量%の液体油脂、及び、10~20質量%の固体油脂を含む。
好ましくは、粘性剤はα化デンプンとガム質とを含む。
【0031】
前記原料の全量あたりのα化デンプンの含有量は、好ましくは5~20質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0032】
前記原料の全量あたりのガム質の含有量は、好ましくは0.05~2質量%、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0033】
前記原料の全量あたりの水分含量は、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0034】
前記原料において固形分としては、生デンプン及び粘性剤に加えて、食塩、ショ糖、アミノ酸調味料、カレーパウダー、ビーフブイヨン等の粉粒状の調味料や、その他の固形分を含み得る。
【0035】
各成分の好ましい実施形態は、ペースト状食品基材に関して説明した通りである。
【0036】
前記原料を混合する方法は、ペースト状になるように原料を混合する方法であればよく、特に限定されない。
【0037】
前記原料の混合により製造されたペースト状食品基材は、更に、加熱処理、例えば、加熱殺菌処理等の殺菌処理を施しても良い。
製造されたペースト状食品基材は、容器に充填し密封することができる。容器の好ましい実施形態は、ペースト状食品基材に関して説明した通りである。
【0038】
<加熱調理食品の製造方法>
前記ペースト状食品基材は、スチームコンベクションオーブン調理用調味料として利用することができる。スチームコンベクションオーブン調理用調味料は加熱調理食品の製造方法で利用することができる。加熱調理食品とは、スチームコンベクションオーブンで調理された料理等を指す。
【0039】
すなわち本発明の別の一以上の実施形態は、加熱調理食品の製造方法であって、
ホテルパンで、スチームコンベクションオーブン調理用調味料である前記ペースト状食品基材、湯、及び、必要により他の食材を混合し、前記ホテルパンに収容した混合物を、スチームコンベクションオーブン中で熱風及び/又は水蒸気により加熱調理することを含む。
【0040】
前記混合に用いる湯は、常温を超える温度の湯であればよく、熱水を包含する。前記混合物の調製時の湯の温度は、前記ペースト状食品基材中の固体油脂の融点温度を超える温度であることが好ましく、例えば60~95℃の温度であることが好ましい。前記ペースト状食品基材は、簡単な撹拌で湯中で均一に分散することができる。前記混合物中では、前記ペースト状食品基材中の粘性剤により速やかに粘性が付与されるため、前記ペースト状食品基材に由来する他の固形分は、粘性液中で沈降が抑制され、均一に分散維持される。
【0041】
前記混合物は、前記ペースト状食品基材1質量部に対し湯を4~6質量部含有することが好ましい。つまり、前記ペースト状食品基材は、前記の割合で、湯に希釈する形態のものであることが好ましい。
【0042】
前記混合物は、湯と前記ペースト状食品基材に加えて、必要に応じて具材、他の調味料等の食材を更に含むことができる。
【0043】
前記混合物は、スチームコンベクションオーブンの加熱調理により、前記混合物中で均一に分散維持された、前記ペースト状食品基材に由来する生デンプンの糊化が進行し、全体が均一に好ましい粘性を有する加熱調理食品が生成される。加熱調理の間は、前記混合物を撹拌しなくとも組成の偏りの少ない加熱調理食品を得ることができる。
【実施例0044】
実験I.油脂分と固形分の比率の検討
I-1.原料組成
下記表に示す組成の原料を、それぞれ、常温(25℃)において混合し、柔軟材のチューブ容器に密封して、実施例1~3及び比較例1~2の容器入りペースト状カレールウ(ペースト状食品基材)を製造した。実施例1~3及び比較例1~2は、液体油脂:固体油脂の質量比が7:3と一定であり、ペースト状カレールウ全量中の液体油脂と固体油脂の合計量の占める比率(油脂比率)が40~60質量%の範囲で異なる。
【0045】
カレールウの水分含量の測定は、加熱乾燥法により行った。
【0046】
【表1】
【0047】
I-2.容器入りペースト状カレールウの性能評価
前記ペースト状カレールウを1週間常温(25℃)で保存した後、ホテルパンにはった約60℃の湯約2Lに、前記ペースト状カレールウ約500gを容器から絞り出して加えて混合希釈し、更に具材約800gを加えて混合して得た混合物を、ホテルパンごとスチームコンベクションオーブンで約35分間加熱調理して、カレーソース(加熱調理食品)を得た。
【0048】
前記ペースト状カレールウの「保存時の油分離」、「絞り出し」、「湯希釈時の分散性」、「湯希釈時の増粘性」及び「加熱時の増粘性」を以下の基準に従い評価した。
【0049】
(保存時の油分離)
容器入りペースト状カレールウの保存後のチューブ容器内の油分離(固液分離)の有無を観察し、下記の四段階のいずれに該当するか評価した。以降の評価を含めて、5名のパネラーで評価し、各評価をしたパネラーの数を示した。
◎全く油分離はしていない。
○カレールウの上表面がわずかに油分離しているが、均質な分散状態を保っている。
△カレールウの上表面が油の層になって、○よりもさらに油分離している。
×ほぼ全ての油が上面に分離し、完全に油分離している。
【0050】
(絞り出し)
容器入りペースト状カレールウからペースト状カレールウを絞り出す際の感触を、下記の四段階のいずれに該当するか評価した。
◎軽い力で容易に絞り出せる。
○◎よりも力が要るが、容易に絞り出せる。
△絞り出すのに、○よりもさらに強い力が必要である。
×カレールウが硬く、絞り出すのが困難である。
【0051】
(湯希釈時の分散性)
容器入りペースト状カレールウからペースト状カレールウを湯中に希釈分散させたときの、ペースト状カレールウの分散性を、下記の四段階のいずれに該当するか評価した。
◎湯中に投入してから20秒以内に、ペースト状カレールウを湯中に均一に希釈分散させることができた。ルウに含まれる固形分等のダマ(沈殿)は発生しなかった。
○湯中に投入してから20秒超~45秒以内に、ペースト状カレールウを湯中に均一に希釈分散させることができた。
△湯中に投入してから45秒超~60秒以内に、ペースト状カレールウを湯中に均一に希釈分散させることができた。
×湯中に投入してから60秒を超えても、湯中に均一に希釈分散させることができず、分散性がわるい。
【0052】
(湯希釈時の増粘性)
容器入りペースト状カレールウからペースト状カレールウを湯中に希釈分散させた直後の混合物の粘性を、下記の四段階のいずれに該当するか評価した。
◎湯中に投入してから1分以内に、混合物が粘性を発現し、粘性のある混合物中で、ルウに含まれる固形分が、均一に分散維持された。
○前記の混合物が粘性のある状態になるのに、1分超~2分を要した。
△前記の混合物が粘性のある状態になるのに、2分超~2.5分を要した。
×前記の混合物が粘性のある状態になるのに、2.5分を超えた。固形分の分離沈降がみられる。
【0053】
(加熱時の増粘性)
ペースト状カレールウを湯中に分散させ、更に具材を添加した混合物を、スチームコンベクションオーブンで加熱調理して得られたカレーソース試料の粘性を、下記の四段階のいずれに該当するか評価した。
◎カレーソースの全体に、均一に自然なとろみが付与された。
○カレーソースの全体に、均一にとろみが付与された。自然なとろみでは、◎にやや劣る。
△カレーソースにとろみが付与されたが、とろみにややムラがある。
×カレーソース付与されたとろみにムラがある。
【0054】
評価結果を下記の表に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
油脂の合計量の占める比率が40質量%の比較例1は、「保存時の油分離」、「絞り出し」、「湯希釈時の増粘性」、「加熱時の増粘性」の評価が低かった。
【0057】
油脂の合計量の占める比率が60質量%の比較例2は、「保存時の油分離」、「絞り出し」、「湯希釈時の増粘性」、「加熱時の増粘性」の評価が低かった。
【0058】
油脂の合計量の占める比率が50質量%の実施例1、45質量%の実施例2、55質量%の実施例3は、「保存時の油分離」、「絞り出し」、「湯希釈時の分散性」、「湯希釈時の増粘性」、「加熱時の増粘性」の評価がいずれも良好であった。すなわち、実施例1~3では、保存時に、容器中での油分離がなく、デンプン及び粘性剤が油脂中に均一に分散された状態が保持されること、チューブ容器からの絞り出しが容易であること、湯中においてダマを生じずに速やかに分散し、速やかに粘性を発現すること、スチームコンベクションオーブンでの加熱調理時に、粘性剤に基づく一定の粘性に加えて、生デンプンのα化により発現する粘性が加わることで、具材から水分放出しても、安定にカレーソースに自然な粘性が付与されることが確認された。
【0059】
実験II.液体油脂のみ、液体油脂と固体油脂の比率
II-1.原料組成
下記表に示す原料組成の実施例4~6及び比較例3の容器入りペースト状カレールウを、実施例1と同様の手順で製造した。実施例1、4~6及び比較例3は、油脂の合計量の占める比率が45質量%又は50質量%であり、液体油脂及び固体油脂のそれぞれの含有率が異なる。以降の表には、実施例1について、表1及び表2に記載したものと同一の内容を記載した。
【0060】
【表3】
【0061】
II-2.容器入りペースト状カレールウの性能評価
実施例4~6及び比較例3の容器入りペースト状カレールウを、実験Iと同じ基準で評価した。
評価結果を下記の表に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
液体油脂50質量%で固体油脂を含まない比較例3は「保存時の油分離」及び「絞り出し」の評価が低く、1日保存しただけでコーンスターチ等の紛体原料と液体油脂とに相分離した。なお、比較例3は、特開平10-51号公報(前記の特許文献2)の比較例2のルウに近い組成である。
【0064】
液体油脂40質量%、固体油脂10質量%の実施例4は、いずれの評価も良好であったが、「保存時の油分離」及び「絞り出し」の評価が、実施例1よりはやや劣った。
【0065】
液体油脂25質量%、固体油脂20質量%の実施例5は、いずれの評価も良好であったが、「絞り出し」及び「湯希釈時の分散性」の評価が、実施例1よりはやや劣った。
【0066】
液体油脂20質量%、固体油脂30質量%の実施例6は、「絞り出し」の評価がやや低かったが、他はいずれの評価も、実施例5と同等に良好であった。
【0067】
これらにより、液体油脂の含有率が高い場合は、ルウの高粘ペースト状の母体が形成されず、油と固形分が分離しやすくなり(比較例3)、一方、固体油脂の含有率が高くなると、高粘性で分離はしないが、ルウの粘性が高くなり、チューブ容器から絞り出しにくくなる傾向がある(実施例6)。ルウに20~45質量%程度の液体油脂、及び、10~30質量%程度の固体油脂を含むことで、保存時の分離が防止され、絞り出しやすく、かつ、湯希釈時の分散性と加熱時の増粘性がよく、スチームコンベクションオーブンでの加熱調理に適したルウを得ることが可能となる(実施例4、5、6)。
【0068】
実験III.生デンプン、α化デンプン、ガム質の有無
III-1.原料組成
下記表に示す原料組成の実施例7、8及び比較例4~6の容器入りペースト状カレールウを、実施例1と同様の手順で製造した。
実施例7及び8は、それぞれ、実施例1からα化デンプン(α化アセチル化アジピン酸架橋デンプン)、ガム質(キサンタンガム)のいずれかを除去し、調理時に適当な粘性が付与されるように、生デンプン、α化デンプン及びガム質の加配する割合を変えたものである。
また、比較例4~6はそれぞれ、実施例1から生デンプン(コーンスターチ)、α化デンプン(α化アセチル化アジピン酸架橋デンプン)、ガム質(キサンタンガム)のいずれかを除去し、調理時の粘性が実施例1とほぼ同じとなるように、生デンプン、α化デンプン及びガム質の加配する割合を変え、これに応じて、液体油脂及び固体油脂の合計量の占める割合を変えて、原料組成を調整したものである。液体油脂:固体油脂の質量比は7:3で、いずれも実施例1と同じである。比較例4~6は、油脂分の含有量が、本発明で規定する範囲から外れている。
【0069】
【表5】
【0070】
III-2.容器入りペースト状カレールウの製造及び性能評価
実施例7、8及び比較例4~6の容器入りペースト状カレールウを、実験Iと同じ基準で評価した。更に実施例1、7、8及び比較例4~6の容器入りペースト状カレールウの「加熱時の粘性の質」を以下の基準で評価した。
【0071】
(加熱時の粘性の質)
スチームコンベクションオーブンで調理したカレーソースの粘性の質を下記の四段階のいずれに該当するか評価した。
◎まろやかさのある、自然なとろみである。
○自然なとろみであるが、◎にやや劣る。
△粉っぽさや、粘りが感じられる、やや不自然なとろみである。
×粉っぽさや、粘りがより感じられる、不自然なとろみである。
評価結果を下記の表に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
生デンプンを含まない比較例4は「絞り出し」及び「加熱時の増粘性」の評価が低かった。また、α化デンプンを含まない比較例5及びガム質を含まない比較例6は、油脂分の含有量が、本発明で規定する範囲から外れているため、「保存時の油分離」及び「絞り出し」の評価が低かった。
これに対して、ガム質を含む実施例7、及びα化デンプンを含む実施例8は、油脂分の含有量が、本発明で規定する範囲内であり、粘性の質が、実施例1のものとは異なるものであるが、本発明の所望の性能が得られていた。