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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146767
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】面状構造体
(51)【国際特許分類】
   B65D 5/02 20060101AFI20220928BHJP
   B65D 3/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B65D5/02 Z
B65D3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021047900
(22)【出願日】2021-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】521121064
【氏名又は名称】株式会社ドミノアーキテクツ
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】舘 知宏
(72)【発明者】
【氏名】安達 瑛翔
(72)【発明者】
【氏名】須藤 海
(72)【発明者】
【氏名】大野 友資
(72)【発明者】
【氏名】田口 頼幸
(72)【発明者】
【氏名】朝霧 向一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝男
(72)【発明者】
【氏名】袴田 英幹
(72)【発明者】
【氏名】湯田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】武重 日香里
【テーマコード(参考)】
3E060
【Fターム(参考)】
3E060AA11
3E060AB01
3E060AB22
3E060BC02
3E060CD03
3E060CD04
3E060CD20
3E060CE08
3E060CE15
3E060CE30
3E060DA01
3E060DA11
3E060DA25
(57)【要約】
【課題】平面形態と立体形態とに変形可能な面状構造体において、面状構造体全体を狙いとする立体形状に調整でき、その立体形状に容易に保持できる技術を提供することにある。
【解決手段】面状構造体は、複数の面部12と、複数の面部12の境界に設けられ、少なくとも一部において曲線状をなす折り線14と、を備え、複数の面部12のそれぞれは、折り線14から直線状に延びるとともに閉断面形状をなす複数の中空部を備えることで、曲げ剛性に異方性を持ち、複数の中空部は、面状構造体を曲線折りするときに直線エレメント26を形成し、面状構造体は、折り線14での折り角度の可変範囲全域において、全ての面部12において、直線エレメント26を維持し、かつ、隣り合う中空部によって形成される直線エレメント26をねじれのない位置関係に維持した状態のまま、全ての面部12を交差させることなく、曲線折りを行うことができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の面部と、
前記複数の面部の境界に設けられ、少なくとも一部において曲線状をなす折り線と、を備え、
前記複数の面部のそれぞれは、前記折り線から直線状に延びるとともに閉断面形状をなす複数の中空部を備えることで、曲げ剛性に異方性を持ち、
前記複数の中空部は、本面状構造体を曲線折りするときに直線エレメントを形成し、
本面状構造体は、前記折り線での折り角度の可変範囲全域において、全ての前記面部において、前記直線エレメントを維持し、かつ、隣り合う前記中空部によって形成される前記直線エレメントをねじれのない位置関係に維持した状態のまま、全ての前記面部を交差させることなく、前記曲線折りを行うことができる面状構造体。
【請求項2】
前記面部は、
少なくとも一つの面材と、
前記少なくとも一つの面材と一体化され、前記中空部を形成する中空形成材と、を備える請求項1に記載の面状構造体。
【請求項3】
次の式(A)で表される、前記面材の曲げ剛性R1に対する前記中空形成材の曲げ剛性R2の比の値を前記面部の曲げ剛性比R2/R1としたとき、前記面部の曲げ剛性比R2/R1は100以上となる請求項2に記載の面状構造体。
R2/R1=(E2/E1)×(h2/h1)・・・(A)
(式(A)において、E1は、前記面材の曲げ弾性率[GPa]、h1は、前記面材の厚さ[mm]、E2は、前記中空形成材の曲げ弾性率[GPa]、h2は、前記中空形成材の厚さ[mm]を表す。)
【請求項4】
前記面部は、前記少なくとも一つの面材として単数の中立面材のみを備え、
前記中空形成材は、前記中立面材に対して前記面部の厚み方向の両側に個別に設けられる請求項2から3のいずれかに記載の面状構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、平面形態と立体形態に変形可能な面状構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、平面形態と立体形態とに変形可能な面状構造体として抜板を開示する。抜板は、平面形態にあるとき全体として平面状をなし、立体形態にあるとき容器状をなす。抜板は、主に、矩形状の底部と、折り線を介して底部の長辺部分に連続する一対の長辺側片部と、折り線を介して底部の短辺部分に連続する一対の短辺側片部とを備える。平面形態から立体形態に抜板を変形させるとき、底部に対して一対の短辺側片部を個別に折り曲げた後、底部に対して一対の長辺側片部を個別に折り曲げる変形プロセスを経ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭54-078283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の開示技術では、立体形態にある面状構造体全体の形状を調整する余地がない。本願発明者は、面状構造体全体の立体形状を調整したうえで、狙いとする立体形状に保持するうえで、特許文献1の開示技術に関して改良の余地があるとの認識を得た。
【0005】
本開示の目的の1つは、平面形態と立体形態とに変形可能な面状構造体において、面状構造体全体を狙いとする立体形状に調整でき、その立体形状に容易に保持できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の面状構造体は、複数の面部と、前記複数の面部の境界に設けられ、少なくとも一部において曲線状をなす折り線と、を備え、前記複数の面部のそれぞれは、前記折り線から直線状に延びるとともに閉断面形状をなす複数の中空部を備えることで、曲げ剛性に異方性を持ち、前記複数の中空部は、本面状構造体を曲線折りするときに直線エレメントを形成し、本面状構造体は、前記折り線での折り角度の可変範囲全域において、全ての前記面部において、前記直線エレメントを維持し、かつ、隣り合う前記中空部によって形成される前記直線エレメントをねじれのない位置関係に維持した状態のまま、全ての前記面部を交差させることなく、前記曲線折りを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の平面形態にある面状構造体の斜視図である。
図2図1の面状構造体を厚み方向の一方側から見た図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】実施形態の立体形態にある面状構造体の斜視図である。
図5】実施形態の面状構造体に関する曲げ変形の仕方を説明するための図である。
図6図5のB-B断面における曲面折りの前後の状態を示す模式図である。
図7図5のC-C断面における曲面折りの前後の状態を示す模式図である。
図8図1のD-D断面における曲面折りの前後の状態を示す模式図である。
図9】第1変形形態の平面形態にある面状構造体の斜視図である。
図10】第1変形形態の面状構造体を厚み方向の一方側から見た図である。
図11】第1変形形態の立体形態にある面状構造体の斜視図である。
図12】第1変形形態の面状構造体に関する曲げ変形の仕方を説明するための図である。
図13】第2変形形態の面状構造体を図3と同じ視点から見た断面図である。
図14A】第3変形形態の面状構造体の部分断面図である。
図14B】第4変形形態の面状構造体の部分断面図である。
図15A】第5変形形態の面状構造体の部分断面図である。
図15B】第6変形形態の面状構造体の部分断面図である。
図15C】第7変形形態の面状構造体の部分断面図である。
図16】第8変形形態の面状構造体を図2と同じ視点から見た図である。
図17A】第9変形形態の面状構造体の部分断面図である。
図17B】第10変形形態の面状構造体の部分断面図である。
図18図3の面状構造体が曲げ変形した状態を示す図である。
図19】(a)は、曲率保持率の測定に用いられる治具を示す正面図であり、(b)は、(a)のF-F断面図であり、(c)は、その上面図である。
図20】曲率保持率と曲げ剛性比との関係を示すグラフである。
図21】(a)は、固有値解析に用いたモデルの断面形状を示し、(b)は、他のモデルの断面形状を示す。
図22】(a)は、面材の厚さと固有値比との関係を示すグラフであり、(b)は、ピッチと固有値比との関係を示すグラフであり、(c)は、積層数と固有値比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本開示の面状構造体を想到するに至った背景を説明する。図1図4を参照する。本開示の面状構造体10では、面状構造体10全体の立体形状を調整したうえで、狙いとする立体形状に保持し易くするうえで、次の二つの特徴を採用している。
【0009】
第1の特徴として、面状構造体10は、複数の面部12の境界に設けられ、少なくとも一部において曲線状をなす折り線14を備えている。これにより、面状構造体10は、後述のように、面部12の曲げ変形と折り線14での折り変形とを同時に行う曲線折りを行うことができる。
【0010】
この曲線折りを行ううえで、面状構造体10の各面部12が曲げ剛性に等方性を持つ場合(後述する)を考える。この場合、面部12の曲げ変形する箇所を線織面と捉えた場合に、線織面を形成する直線エレメント(後述する)の位置が一定に定まり難くなる。このため、面状構造体10を曲線折りする度に、曲げ変形する面部12の形状が一定の立体形状に定まり難くなってしまう。
【0011】
この対策として、第2の特徴として、面状構造体10は、複数の面部12のそれぞれにおいて曲げ剛性に異方性を持たせている。これを実現するうえで、複数の面部12のそれぞれは、折り線14から直線状に延びる複数の中空部22(図示せず)を備える。これにより、面状構造体10を曲線折りするときに、中空部22によって直線エレメント26を定位置に設けることができる。
【0012】
これらが相まって、後述のように、面状構造体10全体を1自由度の機構として動作させることができる。ひいては、後述のように、面状構造体10全体を狙いとする立体形状に容易に調整でき、その狙いとする立体形状に容易に保持することができる。
【0013】
以下、実施形態の面状構造体10の詳細を説明する。以下、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0014】
(第1実施形態)図1図2を参照する。面状構造体10は、複数の面部12と、複数の面部12の境界に設けられる折り線14と、を備える。本実施形態では、複数の面部12として二つの面部12A、12Bを備える。
【0015】
折り線14は、隣り合う面部12を折り曲げることによって形成される。折り線14は、折り線14の少なくとも一部に設けられ、曲線状をなす曲線領域16を備える。本実施形態の曲線領域16は、折り線14に連続する面部12におけるいずれかの中空部22の直線方向X(後述する)に起伏する波形をなす。本実施形態の曲線領域16は、その直線方向Xの一方側に向けて凸となる曲線状をなす凸部分18を備える。本実施形態の曲線領域16は、折り線14の全体に設けられる。この他にも、折り線14は、折り線14において曲線領域16以外の残部に設けられ、直線状をなす直線領域を備えていてもよい。
【0016】
図3を参照する。面部12は、少なくとも一つの面材20と、少なくとも一つの面材20と一体化され、複数の中空部22を形成する中空形成材24と、を備える。本実施形態の面部12は、少なくとも一つの面材20として二つの面材20と、一つの中空形成材24とを備える。本実施形態の複数の面材20は、面部12の厚み方向Zに間を空けて設けられている。本実施形態の中空形成材24は、厚み方向Zに隣り合う面材20の間に設けられる。
【0017】
面材20と中空形成材24の素材は特に限定されない。面材20と中空形成材24は同一の素材によって構成されてもよいし、別々の素材によって構成されてもよい。面材20と中空形成材24は、縫い止め、接着等によって一体化される。中空形成材24は、本実施形態のように、面材20と協働して中空部22を形成してもよいし、中空形成材24のみによって中空部22を形成してもよい(図15A図15C参照)。本実施形態の中空形成材24は、山部と谷部が交互に並ぶコルゲート状の板材によって構成される。
【0018】
図2図3を参照する。複数の面部12のそれぞれは、折り線14から直線状に延びる複数の中空部22を備える。図2では、中空部22の中心線La(図3参照)によって中空部22を示す。ここでは、中空部22のなす直線に沿った方向を直線方向Xという。この中空部22のなす直線は、中空部22の中心線Laに沿って設けられる。この他に、中空部22の直線方向Xに直交する断面において、厚み方向Z及び直線方向Xと直交する方向を幅方向Yという。
【0019】
中空部22は、その直線方向Xに直交する断面において、閉断面形状をなす。ここでの閉断面形状とは、直線方向Xに直交する断面において、中空部22の中心線La周りの全周に亘り連続する断面形状であることを意味する。中空部22は、その直線方向Xに直交する断面において、外部に開いた開断面形状ではないということである。ここでの開断面形状とは、例えば、直線方向Xに直交する断面において、外部に開いた凹状及びスリット状の何れかを想定している。
【0020】
複数の面部12のそれぞれは、直線状に延びる複数の中空部22を備えることで、曲げ剛性に異方性を持つことができる。ここでの「曲げ剛性に異方性を持つ」とは、中空部22の中心線Laを厚み方向Zに反り曲げようとする反り曲げ力に対する曲げ剛性と、中空部22の中心線La周りに面部12を曲面状に曲げようとする曲面曲げ力に対する曲げ剛性とが異なることをいう。本実施形態の面部12は、反り曲げ力に対する曲げ剛性を大きくし、曲面曲げ力に対する曲げ剛性を小さくするように曲げ剛性に異方性を持つことができる。
【0021】
図1図4を参照する。前述の通り、面状構造体10は、曲線状の折り線14を備えることで、曲線折りを行うことができる。ここでの曲線折りとは、折り線14の曲線領域16から直線方向Xに連続する箇所で面部12を曲面状に曲げる曲げ変形と、折り線14での折り角度を変える折り線14に沿った折り変形とを一体的に行う変形をいう。
【0022】
この他に、面状構造体10は、前述の通り、複数の面部12のそれぞれに、折り線14から直線状に延びる複数の中空部22を設けることで、曲げ剛性に異方性を持たせている。これにより、一の面部12(例えば、面部12A)における曲げ変形量を変化させるための外力F1を入力したとき、その外力を、その面部12に連続する折り線14の折り角度を変化させる内力F2として伝搬させ易くなる。これと同時に、その外力F1を、折り線14に連続する他の面部12(ここでは面部12B)における曲げ変形量を変化させるための内力F3として伝搬させ易くなる。つまり、一の面部12に入力される外力F1を、面状構造体10全体の曲線折り量(面部12の曲げ変形量及び折り線14の折れ角度)を変化させるための内力F2、F3として、面状構造体10の他の箇所に伝搬させ易くなる。
【0023】
この結果、曲面折りを行うことができる面状構造体10全体を1自由度の機構として動作させることができる。このように動作する面状構造体10は、折り線14の折り角度θaが定まれば、複数の面部12の曲げ変形量とが定まる変形挙動となる。複数の折り線14がある場合、いずれか一つの折り線14の折り角度θaが定まれば、残りの折り線14の折り角度θaも定まる変形挙動となる。
【0024】
以上の面状構造体10は、平面形態Fa(図1参照)と立体形態Fb(図4参照)に変形可能である。面状構造体10は、平面形態Faにあるとき、面状構造体10全体として平面状をなす。面状構造体10は、曲線折りを行うことによって、平面形態Faから立体形態Fbに変形可能である。面状構造体10は、立体形態Fbにあるときの曲線折り量(曲げ変形量及び折れ角度)を小さくすることによって平面形態Faに展開可能である。
【0025】
折り線14の折り角度θaを考える。折り角度θaは、面状構造体10が平面形態Faにあるときに最小のゼロとなる。折り角度θaは、折り線14に連続する一の面部12が他の面部12にめり込むように当たるときに最大折り角度θa2(図4参照)となる。最大折り角度θa2は、隣り合う中空部22のなす直線エレメントに関してねじれのない位置関係(後述する)を維持できなくなるように、互いに当たっている隣り合う面部12が変形し始める直前の角度をいう。最大折り角度θa2を超えたとき、隣り合う面部12における面材20及び中空形成材24の何れかの接触箇所、又は、それらの接触箇所に対して折り線14の曲げ外側において変形し始める。面状構造体10は、曲線折りによって、ゼロから最大折り角度θa2までの範囲で折り線14の折り角度θaを変更できる。
【0026】
面状構造体10が立体形態Fbにあるとき、面部12は、折り線14の曲線領域16から直線方向Xに連続する箇所において単曲面状をなす。面状構造体10が立体形態Fbにあるとき、折り線14が直線領域を備える場合、面部12は、直線領域に連続する箇所において平面状をなす。ここでの単曲面とは、可展面となる曲面をいい、柱面、錐面、接線曲面の何れかをいう。ここでの可展面とは、線織面の一種であり、ひずみなく平面に展開することができる面をいう。線織面は、母線(直線)を連続的に移動させた軌跡によって得られる曲面をいう。この線織面を表す母線が直線エレメントとなる。
【0027】
図4図7を参照する。単曲面は、面部12がなす曲面部分の任意の点Pでの一対の主曲率(曲率の最大値と最小値)をk1、k2としたとき、ガウス曲率(k1×k2)がゼロとなる曲面でもある。立体形態Fbにあるとき、複数の面部12のそれぞれは、単曲面を定める一方の主曲率をゼロに維持した状態のまま、他方の主曲率を変化させるように曲げ変形することになる。このとき、「一方の主曲率(ゼロとなる主曲率)」に対応する主方向は中空部22の直線方向Xとなり、「他方の主曲率(変化する主曲率)」に対応する主方向は点Pにおいて直線方向Xと直交する方向となる。図6図7の立体形態Fbでの断面形状は、「他方の主曲率」をとる法平面に沿って切断した断面である。立体形態Fbにあるとき、複数の面部12のそれぞれは、この断面の曲率を変化させるように曲げ変形することになる。面状構造体10が曲線折りをするときの面部12の曲げ変形量は、この「他方の主曲率(変化する主曲率)」によって表されることになる。ここでの主方向とは、点Pを通る主曲率を与える法平面における点Pでの接線方向をいう。
【0028】
図5の(+)は、立体形態Fbにあるとき、手前側(図6で紙面上側)に凸となることを示し、(-)は奥側(図7で紙面下側)に凸となることを示す。面部12は、折り線14の曲線領域16から直線方向Xに連続する箇所において、折り線14の形状に応じた単曲面状をなす。平面形態Faにある面状構造体10を厚み方向Zの一方側(図5の視点)から見たとき、曲線領域16の凸部分18が凸となる方向を凸方向Daという。このとき、厚み方向Zの一方側(図5の視点)から見て、手前側に凸となる折り変形を山折りとし、奥側に凸となる折り変形を谷折りとする。
【0029】
折り線14で山折りの折り変形をするときを考える。このとき、折り線14の凸部分18に対して凸方向Daにある面部12Aには、厚み方向Zの一方側(図5の視点)から見て手前側に凸となる曲面状に曲げ変形する凸曲面部28が設けられる。凸曲面部28は、凸部分18から直線方向Xに連続する箇所に設けられる。これと同時に、折り線14に対して凸方向Daとは反対側にある面部12Bには、厚み方向Zの一方側から見て奥側に凸となる曲面状に曲げ変形する凹曲面部30が設けられる。凹曲面部30は、凸部分18から直線方向Xに連続する箇所に設けられる。折り線14で谷折りの折り変形をするときは、折り線14で山折りの折り変形をする場合と比べて、面部12において凸となる曲げ変形方向が逆向きとなる。つまり、折り線14での凸部分18に対して凸方向Daにある面部12に凹曲面部30が設けられ、凸部分18に対して凸方向Daとは反対側にある面部12に凸曲面部28が設けられる。
【0030】
面部12は、複数の中空部22の配置パターンに応じた形状の単曲面状をなす。本明細書での「状」とは、直前に付く用語の指す形に対して幾何学的に厳密に一致する形のみではなく、その形にほぼ一致する形も含まれる。面部12は、例えば、本実施形態のように複数の中空部22が平行に配置される場合、柱面状をなす。ここでの柱面とは、線織面を形成する全ての直線エレメントが平行な面をいう。面部12は、複数の中空部22が放射状に配置される場合(図16の面部12Aを参照)、錐面状をなす。ここでの錐面とは、線織面を形成する全ての直線エレメントが定点を通る面をいう。この場合、複数の中空部22によって形成される直線エレメントも放射状をなすことになる。
【0031】
面状構造体10は、次の二つの条件を満たすように曲線折りを行うことができる。第1の条件は、面状構造体10は、折り線14での折り角度θaの可変範囲全域において、全ての面部12において、中空部22によって形成される直線エレメント26を維持した状態のまま、曲線折りを行うことである。図4では、中空部22によって形成される一部の直線エレメント26のみ模式的に図示する。ここでの折り角度θaの可変範囲とは、ゼロから最大折り角度θa2までの範囲をいう。これは、面状構造体10を曲線折りする過程において、直線エレメント26そのものの曲げ変形を生じさせることなく、曲線折りを行うことができることを意味する。ここでの中空部22によって形成される直線エレメント26の一つは、平面形態Faにある面状構造体10を厚み方向Zから見たとき、中空部22と重なる位置において、中空部22の中心線Laに沿って形成される。
【0032】
第2の条件は、面状構造体10は、折り線14での折り角度θaの可変範囲全域において、全ての面部12において、隣り合う中空部22によって形成される直線エレメント26をねじれのない位置関係に維持した状態のまま、曲線折りを行うことである。複数の直線の位置関係としては、平行、交差及びねじれの三種類がある。ここでのねじれのない位置関係とは、この三種類の位置関係のうち、平行及び交差の何れかをいう。第2の条件は、隣り合う中空部22によって形成される直線エレメント26のねじれ変形を生じさせることなく、曲線折りを行うことができることを意味する。この条件は、一つの面部12に設けられる全ての中空部22において満たされる。ここでの交差の位置関係とは、前述のように複数の直線エレメント26が放射状に配置される場合に、複数の直線エレメント26を延長した直線が定点で交差する位置関係をいう。
【0033】
この他に、面状構造体10は、折り線14での折り角度θaの可変範囲全域において、全ての面部12を交差させることなく、曲線折りを行うことができる。ここでの交差とは、折り線14を介して他の面部12と繋がっていない一の面部12の端縁部12aと他の面部12とが当たることをいう。面部12は、折り角度θaの可変範囲全域において、折り線14以外の箇所で、他の面部12と当たることなく動くことができるということである。これにより、折り線14での折り角度θaの可変範囲全域において、前述の第1、第2の条件を満たすように、曲線折りを行うことができる。
【0034】
前述の第1、第2の条件を満たすうえでは、例えば、面材20及び中空形成材24の曲げ剛性を調整してもよい。中空形成材24の曲げ剛性に対して面材20の曲げ剛性を小さくする程、前述の条件を満たし易くできる。この条件を満たすうえで、中空形成材24の曲げ剛性よりも面材20の曲げ剛性を小さくしてもよい。ここでの中空形成材24の曲げ剛性とは、中空形成材24を平面状に展開したときの曲げ剛性をいう。曲げ剛性を調整するうえでは、言及している材の厚みの他、素材の物性等を調整すればよい。この他にも、前述の条件を満たすうえでは、面部12の断面形状を調整してもよい。例えば、後述のように、面部12の面材20として単数の中立面材20Aのみを備える構成とすれば、前述の条件を満たし易くなる。この他にも、目的とする形状に面材20を予め曲げ変形することで面材20に曲げ癖をつけておいてもよい。
【0035】
図8を参照する。前述の第1、第2の条件を満たすうえで、面状構造体10は、折り線14のある箇所に設けられ、隣り合う面部12を厚み方向Zに部分的に分断する切れ込み34を備えていてもよい。切れ込み34は、面部12を構成する複数の構成材のうちの一つの構成材を残して、他の構成材を分断する。この複数の構成材とは、面材20及び中空形成材24をいう。隣り合う面部12は、折り線14のある箇所において、切れ込み34以外の部分で連続することになる。本実施形態の切れ込み34は、一つの面材20のみを残して、残りの構成材(残りの面材20と中空形成材24)を分断する。本実施形態の切れ込み34は、複数の面材20のうちの厚み方向Zの外側にある面材20を残して、残りの構成材を分断する。この他にも切れ込み34は、複数の面材20のうちの内側にある面材20を残して、他の構成材を分断してもよい。これにより、折り線14に近い箇所において、折り線14での折り変形によって面部12全体が厚み方向Zに潰れ変形する事態を避けることができ、前述の第1、第2の条件を満たすように曲線折りを行い易くなる。この他にも、前述の第1、第2の条件を満たすうえで、折り線14での折り変形による面部12の潰れ変形の影響を無視できる程度に面部12の厚みを薄くしてもよい。
【0036】
以上の面状構造体10の効果を説明する。
【0037】
(A)面状構造体10は、前述の第1、第2の特徴を備えることで、1自由度の機構として動作できる。よって、面状構造体10の一部に外力を入力することで、面状構造体10全体の立体形状を容易に調整できる。
【0038】
(B)この他にも、面状構造体10が立体形態Fbにあるとき、その一部の動きを拘束することで、その全体の動きも拘束できるようになる。よって、面状構造体10の一部を固定するだけで、面状構造体10全体を狙いとする立体形状で固定できる。ひいては、面状構造体10全体を狙いとする立体形状に容易に保持できる。
【0039】
例えば、折り線14において任意の折り角度θaとなるように、面状構造体10の一部に外力を入力することで、面状構造体10全体を狙いとする立体形状に調整できる。この他に、このような狙いとする立体形状の状態のまま、面状構造体10の一部を固定するだけで、狙いとする立体形状に保持できる。
【0040】
このような狙いとする立体形状として、折り角度θaの可変範囲途中にあるときの立体形状を用いてもよいし、折り角度θaが最大折り角度θa2にあるときの立体形状を用いてもよい。いずれの立体形状を用いる場合でも、前述の第一、第二の条件を満たすことによって、単曲面状の面部12をねじれ面状にする歪み変形の発生を抑えることができる。ひいては、面状構造体10において折り角度θaを変更できる範囲の任意の位置において静止したとき、面部12の歪み変形に起因する弾性反発力の発生を抑制できる。これにより、面状構造体10全体を任意の位置において静止した状態で更に容易に保持できる。
【0041】
本実施形態によれば、前述した効果を得るうえで、面状構造体10の動きを拘束するフレーム等の追加機構を不要にできる。
【0042】
本実施形態によれば、面状構造体10は、1自由度の機構として動作できるため、面状構造体10全体の形状を調整するうえで、外力を入力すべき箇所が制限されない。
【0043】
面状構造体10の面部12は曲げ剛性に異方性を持つ。よって、曲げ剛性に等方性を持つ場合と比べ、面部12の形状が乱雑になり難い。ひいては、平面形態Faと立体形態Fbの何れにあるときも形状を容易に保持できる。ここでの「曲げ剛性に等方性を持つ」とは、平面形態にある面部12と平行な互いに直交する二つの方向軸周りでの曲げ力に対する曲げ剛性が同等であることをいう。
【0044】
面状構造体10の各面部12は曲げ剛性に異方性を持つ。よって、面部12における反り曲げ力に対しては高剛性を持ち、かつ、面部12における直線方向Xでの座屈変形に対して高強度を持つ、これに伴い、面部12における反り曲げ力による反り曲げ変形や直線方向Xの座屈変形を生じさせることなく、立体形態Fbにある面状構造体10を容易に自立させ易くなる。
【0045】
以上の効果は、ある程度大きな構造物であっても得られる。ここでの構造物とは、例えば、人が入ることができるドアや囲い程度の大きさの建材を想定している。面状構造体10は、例えば、椅子、ベッド等の什器の他、ドア、可動間仕切り、可動ひさし等に用いられる。
【0046】
以上の面状構造体10を得るにあたっては、既存の段ボールの中芯材料や中空材料を中空形成材24に利用してもよい。これにより、製造工程が簡便となる。
【0047】
面状構造体10の中空部22内には面状構造体10に所定の機能を付加するための機能材を配置してもよい。機能材は、例えば、断熱性を付加するための断熱材、遮音性を付加するための遮音材、防音性を付加するための防音材、及び、遮光性を付加するための遮光材の何れかをいう。これにより、面状構造体10に多様な機能を付加することができる。
【0048】
次に、面状構造体10に関する種々の変形形態を説明する。
【0049】
(第1変形形態)図9図11を参照する。本変形形態では、複数の面部12として三つの面部12A~12Cを備える。三つの面部12A~12Cは、第1面部12A、第2面部12B、第3面部12Cを含む。三つの面部12A~12Cは、平面形態Faにある一の面部12Aにおけるいずれかの中空部22の直線方向Xに、第1面部12A、第2面部12B及び第3面部12Cの順で並ぶように設けられる。
【0050】
本変形形態の曲線領域16は、前述の直線方向Xの一方側(図10の上側)に向けて凸となる曲線状をなす第1凸部分18Aと、その直線方向Xの他方側(図10の下側)に向けて凸となる曲線状をなす第2凸部分18Bとを備える。
【0051】
図11図12を参照する。面状構造体10が立体形態Fbにあるとき、複数の面部12A~12Cには、各凸部分18A、18Bに連続する箇所に凸曲面部28、凹曲面部30が設けられる。
【0052】
本変形形態の面状構造体10が立体形態Fbにあるとき、第1面部12と第3面部12が脚部として機能する。これにより、床等の物体上において、面状構造体10を載せることができる。
【0053】
(第2変形形態)図13を参照する。本変形形態の面部12は、少なくとも一つの面材20として三つの面材20と、二つの中空形成材24とを備える。このように面材20の個数は特に限定されない。面材20の個数は、一つ(後述する図17A図17B参照)、二つ(図3参照)、三つ(図13参照)及び四つ以上の何れでもよい。
【0054】
(第3、第4変形形態)図14A図14Bを参照する。中空形成材24は、直線方向Xに直交する断面において、厚み方向Zに隣り合う面材20を繋ぐ板状をなしてもよい。この板状の中空形成材24は、直線方向Xに直交する断面において、幅方向Yに間隔を空けて複数設けられる。
【0055】
面材20に対して中空形成材24のなす角度θbは特に限定されない。角度θbは、図14Aに示すように、面材20に対して傾斜していてもよい。角度θbは、図14Bに示すように、90°と同等の角度でもよい。ここでの「同等」とは言及している条件と同一の場合の他に、ほぼ同一である場合も含まれる。この場合、厚み方向Zに隣り合う面材20と中空形成材24はトラス状に設けられる。
【0056】
図14A図14Bの変形形態の中空部22は、隣り合う中空形成材24の間ごとに設けられる。中空部22の断面形状は、例えば、台形状(図14A参照)、矩形状(図14B参照)等をなす。
【0057】
(第5~第7変形形態)図15A図15Cを参照する。図3図13の形態では、面材20と中空形成材24とによって中空部22が形成された。この他にも、中空形成材24そのものを中空断面形状とすることによって、中空形成材24のみによって中空部22を形成してもよい。図15A図15Cの変形形態では、中空形成材24の内部に中空部22が形成されるとともに、中空形成材24の外部において面材20と中空形成材24によって形成される。中空形成材24の断面形状は、例えば、円形状(図15A図15C参照)、多角形状(図15B参照)である。幅方向Yに隣り合う中空形成材24は、幅方向Yに間隔を空けて設けられてもよいし(図15A参照)、互いに接触していてもよい(図15C参照)。
【0058】
(第8変形形態)図16を参照する。図2の形態では、複数の中空部22は、一つの面部12において平行に配置される例を説明した。複数の中空部22は、一つの面部12において互いに交わらなければよく、平行に配置されていなくともよい。この一例として、図16に示すように、複数の中空部22は、一つの面部12(ここでは面部12A)において放射状に配置されていてもよい。この場合、前述の通り、面状構造体10が立体形態Fbにあるとき、面部12は錐面状をなす(図示せず)。
【0059】
ここで、隣り合う一方の面部12を一方面部12Xといい、他方の面部12を他方面部12Yという。一方面部12Xの中空部22の端部と他方面部12Yの中空部22の端部とは突き合わせるように配置される。図2の実施形態では、この条件を満たす一方面部12Xの中空部22と他方面部12Yの中空部22とは、同一直線上に並ぶように設けられた。この他にも、図16に示すように、一方面部12Xの中空部22のなす直線(中心線La)と他方面部12Yの中空部22のなす直線(中心線La)との延び方向は、折り線14において変わるように設けられてもよい。ここでは、一方面部12Xにおいて複数の中空部22のなす直線は平行の位置関係にあり、他方面部12Yにおいて複数の中空部22のなす直線は交差の位置関係にある例を示す。この他にも、隣り合う面部12X、12Yの両方において、複数の中空部22のなす直線が交差の位置関係にあってもよい。この他にも、一方面部12Xの中空部22の端部と他方面部12Yの中空部22の端部とは、折り線14に沿った方向にずらすように配置されてもよい。
【0060】
(第9、第10変形形態)図17A図17Bを参照する。本変形形態の面部12は、少なくとも一つの面材20として単数の中立面材20Aのみを備える。面部12は、中立面材20Aとは別の面材20を備えていないということである。中立面材20Aは、面部12において曲げ変形が行われたとき、幅方向Yでの伸縮が生じ難い曲げ中立面32上に位置する。この曲げ中立面32は、面部12の厚み方向Zの最表面部ではなく、その厚み方向Zの途中位置に設けられる。中立面材20Aは、単数及び複数の面部材の何れによって構成されてもよい。
【0061】
中空形成材24は、中立面材20Aに対して面部12の厚み方向Zの一方側の両側に個別に設けられる。面部12の厚み方向Z両外側には中空形成材24が設けられ、面材20が設けられないということである。本実施形態の中空形成材24は、コルゲート状の板材によって構成される。図17Aの変形形態では、厚み方向Z両側の中空形成材24は、中立面材20Aを挟んで対称となる位置にあるように設けられる。図17Bの変形形態では、厚み方向Z両側の中空形成材24は、幅方向Yに向かって位相が揃うように設けられる。
【0062】
以上の利点を説明する。図18を参照する。面部12が厚み方向Z外側に露出する面材20を備える場合を考える。この場合、面部12において曲げ変形が行われたとき、面材20が幅方向Yに大きく縮み変形することで、面材20の縮む箇所Paにおいて曲面曲げ力に対する曲げ剛性が高くなる。
【0063】
これに対して、面部12が中立面材20Aのみを備える場合を考える。この場合、面部12において曲げ変形が行われたとき、中立面材20Aが曲げ中立面32上にあるため、中立面材20Aが大きく縮み変形する事態を避けることができる。ひいては、他の面材20を備える場合と比べて、面部12の曲げ変形を行い易くしつつ、面材20として高剛性の素材を用いることができる。
【0064】
この他にも、面状構造体10における面部12と折り線14の数は特に限定されない。
【0065】
次に、前述した面状構造体10において曲線折りを行い易くするための条件を説明する。一般的には、特定方向の曲げに対する物体の曲げ剛性R[GPa]は、曲げ弾性率Eと断面二次モーメントIとの積(E×I)で表すことができる。物体の断面形状が厚さhと横幅bを持つ矩形状であるとすると、断面二次モーメントIは、b×hに比例した数値となる。これらを用いて、物体の曲げ剛性Rは、E×b×hに比例した数値によって表すことができる。
【0066】
面材20の曲げ剛性R1、曲げ弾性率E1、厚さh1、横幅b1との関係は、次の式(1)で表すことができる。中空形成材24を平面状に展開したときの中空形成材24の曲げ剛性R2、曲げ弾性率E2、厚さh2、横幅b2との関係は、次の式(2)で表すことができる。式(1)、(2)のkは係数である。
R1=k×E1×b1×h1・・・(1)
R2=k×E2×b2×h2・・・(2)
【0067】
これらの横幅b1、b2が共通であるとしたとき、面材20の曲げ剛性R1に対する中空形成材24の曲げ剛性R2の比の値である面部12の曲げ剛性比R2/R1は、式(1)、(2)から、次の式(A)で表すことができる。
R2/R1=(E2/E1)×(h2/h1)・・・(A)
【0068】
この曲げ剛性比R2/R1は、面材20及び中空形成材24の相対的な曲がり難さを、面材20及び中空形成材24の厚さh1、h2と曲げ弾性率E1、E2によって表したものである。この曲げ剛性比R2/R1が大きくなるほど、面材20に対して中空形成材24が相対的に曲げ変形し難くなる。このため、曲げ剛性比R2/R1が大きくなるほど、反り曲げ力に対する曲げ剛性が大きくなり、かつ、曲面曲げ力に対する曲げ剛性が小さくなる。
【0069】
本願発明者は、この曲げ剛性比R2/R1が大きくなるほど、良好な曲げ追従性を得ることができるという知見を新たに得た。ここでの曲げ追従性とは、面部12の一部での曲げ変形に追従する、面部12の他の箇所におけるねじれ変形を伴わない曲げ変形のし易さをいう。この曲げ追従性が悪化してしまうと、面部12の一部に外力F1を入力したとき、面部12の他の箇所においてねじれ変形が生じてしまう。この結果、面部12に入力した外力F1を、曲げ変形量を変化させるための内力F3として他の面部12に伝搬させ難くなり、面状構造体10全体を1自由度の機構として動作させ難くなる。これに対して、この曲げ追従性が良好となるほど、前述した直線エレメント26をねじれのない位置関係に維持した状態のまま、曲線折りを行い易くなる。ひいては、面部12に入力した外力F1を他の面部12まで伝搬させ易くなり、面状構造体10全体を1自由度の機構として動作させ易くなる。
【0070】
本実施形態の面部12の曲げ剛性比R2/R1は、好ましくは、100以上である。この条件を満たすことで、曲げ剛性比R2/R1との関係で良好な曲げ追従性を得ることができる。曲げ剛性比R2/R1は、更に良好な曲げ追従性を得るうえでは、800以上とすることがさらに好ましい。これは、以下に説明する実験的検討及び解析的検討によって得られた知見である。曲げ剛性比R2/R1の上限値は、特に限定されない。この条件は面状構造体10における全て及び一部の面部12の何れにおいて満たされてもよい。
【0071】
曲げ剛性比R2/R1を目的とする大きさにするうえでは、面材20及び中空形成材24の相対的な厚さh1、h2と、面材20及び中空形成材24の相対的な曲げ弾性率E1、E2との何れかを調整してもよい。例えば、面材20の厚さh1に対する中空形成材24の厚さh2の比の値(=h2/h1)を大きくすることで、曲げ剛性比R2/R1を大きくすることができる。これは、例えば、中空形成材24に対して面材20を薄くすることで実現できる。この他にも、面材20の曲げ弾性率E1に対する中空形成材24の曲げ弾性率E2の比の値(=E2/E1)を大きくすることで、曲げ剛性比R2/R1を大きくすることができる。これは、例えば、中空形成材24の素材に対して面材20の素材を柔らかくすることで実現できる。
【0072】
次に、前述の曲げ追従性に関する効果を確認するために行った試験を説明する。この試験では、図3の面状構造体10における面部12を模したサンプルを作成した。サンプルは、X方向寸法を500mm、Y方向寸法を300mmとした。サンプルは、図21(a)に記載の形状を模した断面形状を持ち、その寸法条件は次の表1に記載の通りとなる。表1のh3は、中空形成材24の高さである。表1に記載のない寸法条件として、中空形成材24のピッチpを3mmとした。ここでの中空形成材24のピッチpとは、幅方向Yに隣り合う中空形成材24の厚み方向Z中央部分の間隔をいう。サンプルの面材20はポリエステル樹脂を用いた。中空形成材24は、サンプルNo.3では軟質ポリ塩化ビニルを用いて、それ以外のサンプルではエポキシ樹脂を用いた。
【0073】
【表1】
【0074】
サンプルの曲げ追従性を評価するため、次に説明する曲率保持率を測定した。この曲率保持率の測定には、図19に示す板状の治具40を用いた。治具40には、治具40を貫通する円弧状の貫通孔42が形成される。この治具40の貫通孔42にサンプル44の一部を挿通することで、その一部における曲げ内側の外面が貫通孔42のなす円弧の曲率半径(以下、設定曲率半径という)で保持される。この設定曲率半径は、286.5mmに設定した。このサンプル44は、治具40の貫通孔42から300mmだけ引き出し、そのサンプル44の先端部(図の範囲Sa)を計測箇所として、その計測箇所の曲率半径(計測曲率半径という)を計測した。計測箇所の曲率半径は、サンプル44の先端部における曲げ内側の外面におけるY方向の中央位置P1と、Y方向両端から内側に20mmだけ間を空けた位置P2との計三点を通る円弧を求め、その円弧の曲率半径によって特定する。この曲率半径は、例えば、ImageMeasure等の画像計測ソフトを用いて計測する。
【0075】
曲率保持率は、設定曲率に対する計測曲率の割合(=(1/計測曲率半径)/(1/設定曲率半径))によって表される。この曲率保持率は、曲げ変形のための外力を面部12の一部に入力した状態で維持するとき、その外力入力箇所の曲率半径(設定曲率半径)が外力入力箇所から離れた位置でどの程度保持されるかを示している。この曲率保持率が高くなるほど、面部12全体としてねじれのない位置関係に維持した状態のまま、面部12全体を曲げ変形し易くなり、良好な曲げ追従性を得られることになる。
【0076】
本試験では、この曲率保持率が90%以上となるサンプルを合格とした。この合格基準となる曲率保持率は、曲げ剛性比を設定した根拠となる目安を示すに過ぎず、曲げ剛性比との関係で必ず満たすべき条件ではない。
【0077】
図20は、サンプルNo.2~8の内容についての、曲げ剛性比と曲率保持率との関係を示す。表1、図20に示すように、曲げ剛性比を100以上とした場合、良好な曲率保持率(例えば、0.90以上の曲率保持率)を得られることがわかる。特に、曲げ剛性比R2/R1が100となる箇所付近を境として、曲率保持率の変化傾向が急激に変化していることがわかる。曲げ剛性比を100未満にした場合、曲率保持率が急激に悪化している。一方、曲げ剛性比を100以上にした場合、良好な曲率保持率で安定している。このように、曲げ剛性比R2/R1を100以上にすることで、曲げ剛性比R2/R1との関係で良好な曲げ追従性を得られることを把握できる。また、曲げ剛性比を800以上とした場合、より良好な曲率保持率(例えば、0.97以上の曲率保持率)を得られることがわかる。
【0078】
また、例えば、サンプルNo.1、2、4、5、6の比較により、曲率保持率との関係に、曲げ剛性比R2/R1を定める面材20及び中空形成材24の厚み比h2/1が影響していることを把握できる。この他にも、サンプルNo.3、6の比較により、曲率保持率との関係に、曲げ剛性比R2/R1を定める面材20及び中空形成材24の曲げ弾性率比E2/E1が影響していることを把握できる。この他にも、サンプルNo.4、7~9の比較により、良好な曲げ追従性を得るうえで、中空形成材24の高さh3は大きな影響のないことを把握できる。
【0079】
次に、前述の曲げ追従性に関する効果を確認するために行った固有値解析を説明する。この固有値解析では、Altair hyperworks 2017を用いた。この固有値解析では、面状構造体10の面部12を模したモデルを作成した。モデルとしては、図21(a)、(b)の二つの形態のモデルを作成した。
【0080】
この固有値解析では、面状構造体10の面部12に関する種々のパラメータを変更した条件のもと、二種類の異なる固有モードを判別し、その固有モードの固有値(固有振動数)を取得した。ここでの二種類の異なる固有モードとは、中空部22の中心線La周りに面部12全体が曲面状に曲がる曲げ変形モードと、複数の中空部22のなす直線エレメントがねじれの位置にあるように面部12全体がねじれるねじれ変形モードである。
【0081】
固有モードに対応する固有値Fと、固有モードに対応するモード質量m及びモード剛性Kとの間には以下の関係式(3)が成立する。この関係式(3)から、次の関係式(4)が成立する。この関係式(4)から分かるように、固有値Fが小さくなるほど、その固有値Fに対応する固有モードのモード剛性Kが小さくなり、その固有モードが起き易くなる。
F∝(K/m)1/2・・・(3)
F×(m)1/2∝(K)1/2・・・(4)
【0082】
これをふまえて、前述の固有値解析により取得した固有値を用いて、曲げ変形モードの固有値F1に対するねじれ変形モードの固有値F2の比の値である固有値比(=F2/F1)を算出した。この固有値比F2/F1が大きくなるほど、面部12におけるねじれ変形モードの発生を抑えつつ、曲げ変形モードが生じ易くなることを意味する。言い換えると、固有値比F2/F1が大きくなるほど、面部12全体としてねじれのない位置関係に維持した状態のまま、面部12全体が曲げ変形し易くなり、良好な曲げ追従性を得られることを意味する。
【0083】
この固有値解析では、以下の(1)~(5)のパラメータを変更した条件で行うことで、固有値比F2/F1に及ぼす影響を確認した。(1)~(3)に関しては、図21(a)のモデルに関するパラメータを変更した条件のもとで固有値比F2/F1を取得した。(4)に関しては、図21(a)、図21(b)のモデルに関する固有値比F2/F1を取得した。(5)に関しては、図21(a)のモデルにおいて、両方の面材20がある場合の固有値比F2/F1と、片方の面材20がある場合の固有値比F2/F1とを取得した。(1)~(5)に関しては、標準条件として、面材20の厚さは0.05mm、中空形成材24の厚さは0.5mm、中空形成材24の高さは6mm、中空形成材24のピッチpは3mm、積層数は1とした。(1)~(3)では、変更対象となるパラメータのみ、標準条件から変更した。
(1)面材20の厚さh1
(2)中空形成材24のピッチp
(3)面材20と中空形成材24を組とする部分の積層数
(4)中空形成材24の形状
(5)片方の面材20の有無
【0084】
図22(a)に示すように、固有値比F2/F1には、曲げ剛性比R2/R1に用いられる面材20の厚さh1、つまり、面材20及び中空形成材24の厚み比h2/h1が大きく影響を及ぼしていることを把握できる。詳しくは、厚さh1が小さくなるほど厚み比h2/h1が大きくなり、それに伴い固有値比F2/F1が大きくなり、曲げ追従性が向上することを把握できる。図22(a)では、今般の解析条件下で曲げ剛性比R2/R1が100になる箇所を示す。この解析結果は、厚み比h2/h1を大きくするほど曲げ剛性比R2/R1が大きくなり、それに伴い良好な曲率保持率(良好な曲げ追従性)を得られるという試験結果と共通の傾向を示す。
【0085】
図22(b)、(c)に示すように、固有値比F2/F1に対しては、(2)、(3)のパラメータは、(1)のパラメータほど大きな影響を及ぼしていないという知見を得た。この他に、(4)、(5)のパラメータは、図示しないものの、(1)、(2)、(3)のパラメータと比べて、固有値比F2/F1に対する影響がほとんどないという知見を得た。これは、中空形成材24のピッチ、積層数、中空形成材24の形状、片方の面材20の有無によって、曲げ追従性には大きな影響がないことの裏付けとなる。
【0086】
以上の実施形態及び変形形態は例示に過ぎない。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している構造には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができる誤差の分だけずれた構造も当然に含まれる。
【0087】
以上の構成要素の任意の組み合わせも有効である。例えば、変形形態に対して実施形態及び他の変形形態の任意の説明事項を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10…面状構造体、12…面部、14…折り線、20…面材、20A…中立面材、22…中空部、24…中空形成材、26…直線エレメント。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C
図16
図17A
図17B
図18
図19
図20
図21
図22