(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146860
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】生体磁気計測装置、生体磁気計測システム、生体磁気計測方法および生体磁気計測プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/242 20210101AFI20220928BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20220928BHJP
G01R 33/035 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61B5/242
G01R33/02 R
G01R33/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196264
(22)【出願日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2021047934
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 洸樹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰士
(72)【発明者】
【氏名】川端 茂▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】橋本 淳
【テーマコード(参考)】
2G017
4C127
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD32
2G017CB00
4C127AA10
4C127BB05
4C127HH13
(57)【要約】
【課題】脊柱管外の神経の神経活動電流を脊髄の神経活動電流とともに正しく推定する。
【解決手段】生体磁気計測装置は、画像取得部により取得される被検体の評価対象部位を含む形態画像に基づいて、評価対象の神経の位置に沿い、前記被検体の頭尾方向での前後の位置と前記被検体の左右方向での前後の位置とが変化する曲面を関心対象領域に設定する関心対象領域設定部と、前記評価対象部位の神経の電気活動に伴って発生する磁気を磁気計測部により計測することで取得される磁気データに基づいて、前記関心対象領域における電流分布を推定する推定部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像取得部により取得される被検体の評価対象部位を含む形態画像に基づいて、評価対象の神経の位置に沿い、前記被検体の頭尾方向での前後の位置と前記被検体の左右方向での前後の位置とが変化する曲面を関心対象領域に設定する関心対象領域設定部と、
前記評価対象部位の神経の電気活動に伴って発生する磁気を磁気計測部により計測することで取得される磁気データに基づいて、前記関心対象領域における電流分布を推定する推定部と、
を有することを特徴とする生体磁気計測装置。
【請求項2】
前記形態画像を表示する表示部と、
前記表示部に表示された前記形態画像に基づいて入力される前記評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置を受け付ける操作部と、を有し、
前記関心対象領域設定部は、前記操作部で受け付けた前記評価対象の神経の位置に基づいて前記関心対象領域を設定することを特徴とする請求項1に記載の生体磁気計測装置。
【請求項3】
前記形態画像から前記評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置を抽出する抽出部を有し、
前記関心対象領域設定部は、前記抽出部により抽出された前記解剖学的特徴位置に基づいて、前記関心対象領域を設定することを特徴とする請求項1に記載の生体磁気計測装置。
【請求項4】
前記評価対象の神経は、頚髄と頸椎周辺の神経とを含むこと
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の生体磁気計測装置。
【請求項5】
前記評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置は、烏口突起内側から正中側に2cm-4cmの位置かつ第7頸椎前縁の中心の深さ位置であること
を特徴とする請求項4に記載の生体磁気計測装置。
【請求項6】
前記評価対象の神経は、腰髄と腰椎周辺の神経とを含むこと
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の生体磁気計測装置。
【請求項7】
前記評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置は、大坐骨切痕の位置かつ第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さ位置であること
を特徴とする請求項6に記載の生体磁気計測装置。
【請求項8】
被検体の評価対象部位を含む形態画像を取得する画像取得部と、
生体磁気を計測する磁気計測部と、
前記画像取得部により取得された前記形態画像に基づいて、評価対象の神経の位置に沿い、前記被検体の頭尾方向での前後の位置と前記被検体の左右方向での前後の位置とが変化する曲面を関心対象領域に設定する関心対象領域設定部と、前記評価対象部位の神経の電気活動に伴って発生する磁気を前記磁気計測部により計測することで取得される磁気データに基づいて、前記関心対象領域における電流分布を推定する推定部と、を含む生体磁気計測装置と、
を有することを特徴とする生体磁気計測システム。
【請求項9】
画像取得部より取得される被検体の評価対象部位を含む形態画像に基づいて、評価対象の神経の3次元空間での位置の変化に合わせて仮想的な電極を3次元空間に設定する仮想電極設定部と、
前記仮想電極設定部により設定された仮想的な電極で推定した電流波形を取得する電流波形取得部と、を含む生体磁気計測装置と、
を有することを特徴とする生体磁気計測システム。
【請求項10】
画像取得部により取得される被検体の評価対象部位を含む形態画像に基づいて、評価対象の神経の位置に沿い、前記被検体の頭尾方向での前後の位置と前記被検体の左右方向での前後の位置とが変化する曲面を関心対象領域に設定し、
前記評価対象部位の神経の電気活動に伴って発生する磁気を磁気計測部により計測することで取得される磁気データに基づいて、前記関心対象領域における電流分布を推定する
ことを特徴とする生体磁気計測方法。
【請求項11】
画像取得部により取得される被検体の評価対象部位を含む形態画像に基づいて、評価対象の神経の位置に沿い、前記被検体の頭尾方向での前後の位置と前記被検体の左右方向での前後の位置とが変化する曲面を関心対象領域に設定し、
前記評価対象部位の神経の電気活動に伴って発生する磁気を磁気計測部により計測することで取得される磁気データに基づいて、前記関心対象領域における電流分布を推定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする生体磁気計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体磁気計測装置、生体磁気計測システム、生体磁気計測方法および生体磁気計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
頸部または腰部等から発生する磁気を計測する生体磁気計測装置は、例えば、縦横に配列された複数の磁気センサを含むセンサアレイと、センサアレイに近接した位置に配置され、X線が透過しにくいマーカーとを有する。生体磁気の計測では、センサアレイの側方からマーカーおよび被検体のX線像を撮影することで、センサアレイと計測対象の神経との位置関係が取得される(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、生体磁気計測装置は、センサアレイにより取得された磁気データに基づいて、空間フィルター法などの推定手法を使用して生体内で発生する電流を再構成する。そして、再構成により取得された電流分布により神経機能が評価される。この際、磁気データの信号強度は、磁気源とセンサとの距離が離れるほど低下する。信号強度の低下を抑制するため、生体磁気の計測前に計測対象の神経の位置とセンサとの位置関係が取得され、取得された位置情報が空間フィルター法などの推定手法に与えられる。
【0004】
例えば、脊髄は、頭尾方向に延在し、前後方向の位置は変化するが、通常、左右方向の位置は変化しない。このため、脊髄の神経活動電流を推定する場合、空間フィルター法により指定する電流の再構成領域(仮想的な電極)は、脊髄が通る脊柱管の形状に沿った前後方向のみに曲がる面上に設定されればよい。
【0005】
しかしながら、例えば、脊柱管の外側に伸びる腕神経叢は、脊柱管から肩に向けて前方向に離れていく。このため、電流を再構成する再構成領域が脊柱管の形状に沿った平面に設定される場合、腕神経叢の実際の位置と計算上の位置とに差が生じてしまう。この結果、脊柱管から延びる腕神経叢等の神経活動電流の強度を正確に推定することが困難となる。
【0006】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、脊柱管外の神経の神経活動電流を脊髄の神経活動電流とともに正しく推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態の生体磁気計測装置は、画像取得部により取得される被検体の評価対象部位を含む形態画像に基づいて、評価対象の神経の位置に沿い、前記被検体の頭尾方向での前後の位置と前記被検体の左右方向での前後の位置とが変化する曲面を関心対象領域に設定する関心対象領域設定部と、前記評価対象部位の神経の電気活動に伴って発生する磁気を磁気計測部により計測することで取得される磁気データに基づいて、前記関心対象領域における電流分布を推定する推定部と、有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
脊柱管外の神経の神経活動電流を脊髄の神経活動電流とともに正しく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る生体磁気計測装置を含む生体磁気計測システムの一例を示す構成図である。
【
図2】
図1の生体磁気計測装置の動作の一例を示すフロー図である。
【
図3】
図1の形態画像取得部により取得される被検体の形態画像の一例を示す図である。
【
図4】
図1の関心対象領域設定部により設定される関心対象領域の例を示す図である。
【
図5】
図4の基準の関心対象領域と再設定された関心対象領域とを示す斜視図である。
【
図6】磁気データに基づいて推定される関心対象領域での電流分布と、関心対象領域に設定される仮想的な電極での電流波形の変化の例を示す図である。
【
図7】
図1の形態画像取得部により取得される被検体の形態画像の別の例を示す図である。
【
図8】磁気データに基づいて推定される関心対象領域での電流分布と、関心対象領域に設定される仮想的な電極での電流波形の変化の別の例を示す図である。
【
図9】
図6または
図8における神経の位置に沿った仮想的な電極の設置方法の一例を示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る生体磁気計測装置を含む生体磁気計測システムの一例を示す構成図である。
【
図11】
図10の生体磁気計測装置の動作の一例を示すフロー図である。
【
図12】
図1および
図10の生体磁気計測装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る生体磁気計測装置を含む生体磁気計測システムの一例を示す構成図である。例えば、
図1に示す生体磁気計測システム200は、磁気計測部10、形態画像取得部20および生体磁気計測装置100を有する。
【0012】
生体磁気計測装置100は、推定部30、関心対象領域設定部40およびユーザーインターフェース部50を有する。ユーザーインターフェース部50は、表示部60および操作部70を有する。ユーザーインターフェース部50は、タブレット等でもよい。推定部30および関心対象領域設定部40は、生体磁気計測装置100に搭載されるCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが、生体磁気計測プログラムを実行することで実現されてもよい。
【0013】
例えば、磁気計測部10は、複数の超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting QUantum Interference Device)を含むSQUIDセンサアレイと信号処理装置とを有する。磁気計測部10は、神経刺激装置等による電気刺激による被検体(生体)の評価対象部位の神経の電気活動に伴って発生する磁気を計測する。磁気計測部10は、計測した磁気を磁気データとして推定部30に出力する。この実施形態では、磁気計測部10は、脊磁計(MSG:Magnetospinograph)として使用される。
【0014】
例えば、形態画像取得部20は、X線撮影装置、CT(Computed Tomography)撮影装置または磁気共鳴断層画像診断装置に含まれる。以下では、磁気共鳴断層画像診断装置は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置とも称される。
【0015】
形態画像取得部20は、被検体の評価対象部位を含む形態画像を取得する。形態画像取得部20は、形態画像を取得する画像取得部の一例である。形態画像は、X線画像、CT画像またはMRI画像である。形態画像取得部20は、取得した形態画像を形態画像データとして関心対象領域設定部40に出力する。なお、形態画像取得部20を含むX線撮影装置は、被検体に対して正面側と側面側とにそれぞれ配置される。
【0016】
推定部30は、磁気計測部10から受信する磁気データに基づいて、関心対象領域設定部40により設定された関心対象領域における電流分布を推定し、推定した電流分布を出力する。例えば、推定部30が推定した電流分布は、形態画像とともに表示部60に表示されてもよい。関心対象領域は、空間フィルター法などの推定手法で使用される推定アルゴリズムの計算領域である。
【0017】
また、推定部30は、推定した電流分布を使用して、操作者の操作に基づいて操作部70が設定した仮想的な電極で推定した電流波形を取得してもよい。推定部30が取得した電流波形は、表示部60に表示される。推定部30は、仮想的な電極で推定した電流波形を取得する電流波形取得部の一例である。なお、電流波形取得部は、推定部30の外部に設けられてもよい。この場合、電流波形取得部は、推定部30が推定した電流分布を使用して、操作部70が設定した仮想的な電極での電流波形を取得する。
【0018】
関心対象領域設定部40は、形態画像取得部20から受信する形態画像データをユーザーインターフェース部50に出力する。関心対象領域設定部40は、ユーザーインターフェース部50から解剖学的特徴位置情報を受信する。
【0019】
神経活動の評価対象部位が腕神経叢等の頸椎周辺の神経の場合、解剖学的特徴位置情報は、例えば、烏口突起内側の位置情報および第7頸椎前縁の位置情報を含む。神経活動の評価対象部位が腰神経叢等の腰椎周辺の神経の場合、解剖学的特徴位置情報は、大坐骨切痕の位置情報および第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の位置情報を含む。
【0020】
関心対象領域設定部40は、ユーザーインターフェース部50から受信した解剖学的特徴位置情報に基づいて、予め設定した基準の関心対象領域に対する再設定を実施する。関心対象領域設定部40は、再設定した関心対象領域を示す情報を推定部30に出力する。基準の関心対象領域は、被検体の頭尾方向での前後の位置が変化する撓んだ形状の面により示される。再設定後の関心対象領域は、被検体の頭尾方向での前後の位置と被検体の左右方向での前後の位置とがそれぞれ変化する曲面により示される。
【0021】
生体磁気計測装置100が頚髄および頸椎周辺の神経(例えば、腕神経叢)の神経活動電流を推定する場合、関心対象領域設定部40は、烏口突起内側から正中側に2cmから4cmの位置、かつ、第7頸椎前縁の中心の深さ位置を含む曲面を関心対象領域に再設定する。なお、生体磁気計測装置100が、どの神経の神経活動電流を推定するかは、予め、操作部70を介して操作者により指定される。
基準の関心対象領域と、頚髄および腕神経叢の神経活動電流を推定する場合の再設定後の関心対象領域の例は、
図4および
図5に示される。
【0022】
生体磁気計測装置100が腰髄とおよび腰椎周辺の神経(例えば、腰神経叢)の神経活動電流を推定する場合、関心対象領域設定部40は、大坐骨切痕の位置、かつ、第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さ位置を含む曲面を関心対象領域に再設定する。
【0023】
表示部60は、形態画像取得部20により取得された形態画像を画面に表示する機能を有する。また、表示部60は、推定部30により推定された電流分布を画面に表示する機能を有する。
【0024】
操作部70は、表示部60の画面に表示された形態画像に基づいて入力される評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置を受け付ける。例えば、表示部60の画面に表示される形態画像を見る操作者は、画面に表示された形態画像上で解剖学的特徴位置を選択する。例えば、操作者は、腕神経叢の神経活動を評価する場合、ユーザーインターフェース部50に接続されるマウス等を使用して、形態画像に写る烏口突起内側の位置および第7頸椎前縁の位置を指定する。
【0025】
操作部70は、操作者により選択された解剖学的特徴位置の画面上での座標を検出し、検出した座標を解剖学的特徴位置情報として関心対象領域設定部40に出力する。そして、関心対象領域設定部40は、形態画像データで示される形態画像の座標情報と、操作部70から受信する解剖学的特徴位置情報(座標等)とに基づいて、関心対象領域を再設定する。
【0026】
また、操作部70は、操作者による操作に基づいて、表示部60に形態画像とともに表示される、3次元空間で表される関心対象領域に位置する評価対象の神経の位置上に仮想的な電極(以下、仮想的な電極とも称する)を設置する。関心対象領域を3次元空間上に表す手法は後述する。操作部70は、3次元で表される関心対象領域に沿う評価対象の神経の位置上に仮想的な電極を設定する仮想電極設定部(仮想的な電極設定部)の一例である。
【0027】
図2は、
図1の生体磁気計測装置100の動作の一例を示すフロー図である。例えば、
図2に示すフローは、生体磁気計測装置100に搭載されるCPU等のプロセッサが、生体磁気計測プログラムを実行することで実現される。すなわち、
図2は、生体磁気計測装置100により実行される生体磁気計測方法および生体磁気計測プログラムの一例を示す。
【0028】
まず、ステップS10において、関心対象領域設定部40は、推定アルゴリズムの計算領域である関心対象領域の領域情報を設定する。ステップS10により設定される関心対象領域は、脊柱管に沿う面を含む基準の関心対象領域であり、上述したように、被検体の頭尾方向での前後の位置が変化する撓んだ形状の面により示される。
【0029】
次に、ステップS12において、関心対象領域設定部40は、表示部60に表示されるX線画像、CT画像またはMRI画像上における評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置を示す解剖学的特徴位置情報を、操作部70を介して取得する。例えば、操作部70は、形態画像を見る操作者による操作に基づいて、解剖学的特徴位置情報を受け付ける。なお、ステップS10、S12は、逆の順序で実施されてもよい。
【0030】
神経および筋肉は、X線画像およびCT画像では見えず、MRI画像では見えにくい場合がある。一方、烏口突起、第7頸椎または大坐骨切痕等の骨の位置(解剖学的特徴位置)は、X線画像、CT画像およびMRI画像から判断することができる。したがって、関心対象領域設定部40は、操作部70から受信する解剖学的特徴位置情報に基づいて、画像には写らず、または写りにくい腕神経叢または腰神経叢等の神経の位置を判断することができる。
【0031】
次に、ステップS14において、関心対象領域設定部40は、脊柱管外の評価対象の神経が関心対象領域に含まれるように、取得した解剖学的特徴位置情報に基づいて関心対象領域を再設定する。これにより、関心対象領域設定部40は、関心対象領域を、被検体の頭尾方向での前後の位置と被検体の左右方向での前後の位置とが変化する曲面に設定することができる。この結果、関心対象領域を、脊髄だけでなく、腕神経叢または腰神経叢を含む曲面に設定することができる。
【0032】
次に、ステップS16において、推定部30は、評価対象の神経から発生する磁気を示す磁気データを推定アルゴリズムに適用して、再設定した関心対象領域での電流分布を推定する。この際、関心対象領域を示す曲面は、脊髄の位置だけでなく、腕神経叢または腰神経叢の位置を含む。
【0033】
このため、推定部30は、評価対象部位の1つである頚髄または腰髄の神経活動電流とともに、評価対象部位の別の1つである腕神経叢または腰神経叢の実際の位置での神経活動電流を算出することができる。これにより、脊柱管に対して生体の前後方向に位置が離れていく腕神経叢または腰神経叢等の神経活動電流を脊髄の神経活動電流とともに正しく推定することができる。
【0034】
図3は、
図1の形態画像取得部20により取得される被検体の形態画像の一例を示す図である。
図3に示す形態画像には、いずれも頸椎とその周辺とが示される。
図3の左側の形態画像は、被検体を正面から撮影したものである。
図3の右側の形態画像は、被検体を右側面から撮影したものである。
【0035】
図3の上側は、X線撮影装置に含まれる形態画像取得部20により取得されたX線画像の例を示す。
図3の下側は、MRI装置に含まれる形態画像取得部20により取得されたMRI画像の例を示す。操作部70(
図1)を操作する操作者は、表示部60(
図1)に表示される正面視および側面視のX線画像またはMRI画像を観察し、計測対象の神経に腕神経叢が含まれる場合には、烏口突起内側および第7頸椎前縁を画面上で指定する。操作者が指定した画面上の位置は、解剖学的特徴位置情報として関心対象領域設定部40に出力される。
【0036】
なお、形態画像取得部20がCT撮影装置に含まれる場合、操作者は、断面位置を変えながら被検体の断面画像を表示部60に順次表示させることでCT画像を観察し、烏口突起内側およびC7椎体前縁を画面上で指定する。
【0037】
関心対象領域設定部40は、ユーザーインターフェース部50から受信する解剖学的特徴位置情報に基づいて、計測対象の神経に腕神経叢が含まれる場合には、烏口突起の内側(脊柱管側)の位置から正中側に2cmから4cmの範囲の位置および第7頸椎前縁の高さ方向の中心の位置を関心対象領域に含ませる。ここで、烏口突起内側から脊髄側に2cmから4cmの位置は、被検体の個体差を考慮した腕神経叢の左右方向の始点であり、第7頸椎の前縁の高さ方向の中心の位置は腕神経叢の前後方向の始点である。
【0038】
また、関心対象領域設定部40は、腕神経叢の終点である椎間孔の位置を関心対象領域に含ませる。さらに、関心対象領域設定部40は、腕神経叢の上記始点の位置から上記終点を結ぶ直線を、関心対象領域に含ませる。
【0039】
なお、関心対象領域設定部40は、腕神経叢の位置を示す範囲内であれば、烏口突起側から深さ位置まで結ぶ線を、直線ではなく曲がった形状に設定してもよい。また、CT画像またはMRI画像から解剖学的特徴位置を取得する際、姿勢による上位椎体の位置の変動は、姿勢による下位椎体の位置の変動よりも大きい。このため、基準とする解剖学的特徴位置である椎体は、下位側(例えば、最も下位の第7頸椎)が好ましい。
【0040】
そして、関心対象領域設定部40は、基準の関心対象領域を示す撓んだ形状の平面を、腕神経叢を含む曲面に変形することで、関心対象領域を再設定する。これにより、脊髄の神経走行と腕神経叢の神経走行とを両方含む曲面を関心対象領域として設定することができる。なお、
図3に示すMRI画像中に示される腕神経叢始点と椎間孔とを結ぶ複数の白線は、腕神経叢をイメージするために付加したものであり、実際のMRI画像には含まれない。
【0041】
図4は、
図1の関心対象領域設定部40により設定される関心対象領域の例を示す図である。
図4の左側は、
図2のステップS10により設定される基準の関心対象領域の例を示す。
図4の右側は、
図2のステップS14により再設定される関心対象領域の例を示す。
図4では、関心対象領域を示す曲面は、冠状面(Coronal Plane)視、矢状面(Sagittal Plane)視および体軸面(Axial Plane)視において、メッシュ状に示される。
【0042】
冠状面視は、被検体を正面から見た状態を示す。このため、図の左側は、被検体の右側に対応し、図の右側は、被検体の左側に対応する。また、図の上側は、被検体の頭側(上側)に対応し、図の下側は、被検体の尾側(下側)に対応する。
【0043】
矢状面視は、被検体を右側から見た状態を示す。このため、図の左側は、被検体の背側(後側)に対応し、図の右側は、被検体の腹側(前側)に対応する。また、図の上側は、被検体の頭側に対応し、図の下側は、被検体の尾側に対応する。
【0044】
体軸面視は、仰向けの被検体を尾側から見た状態を示す。このため、図の左側は、被検体の右側に対応し、図の右側は、被検体の左側に対応する。また、図の上側は、被検体の腹側に対応し、図の下側は、被検体の背側に対応する。
【0045】
図中の円内に示す黒点は、形態画像により示される解剖学的特徴位置である烏口突起から推測した腕神経叢の始点(2-4cmの範囲)を示す。腕神経叢は、
図3に示したように、烏口突起内側かつ第7頸椎前縁の下方から椎間孔に向けて、脊柱管に向かう方向に延びている。
【0046】
このため、腕神経叢の位置は、脊柱管に沿う撓んだ形状に設定された基準の関心対象領域を示すメッシュに含まれない。基準の関心対象領域は、体軸面に示されるように、左右方向の断面形状が一様な直線で示され、かつ、矢状面で示されるように、頭尾方向での断面形状が一様な曲線で示される。
【0047】
一方、再設定された関心対象領域のメッシュは、脊柱管と腕神経叢に沿う曲面形状に設定されるため、腕神経叢の位置は、再設定された関心対象領域を示すメッシュに含まれる。再設定された関心対象領域は、体軸面に示されるように、左右方向の断面形状が直線でなく、かつ、矢状面で示されるように、頭尾方向での断面形状が一様な曲線でない。再設定された関心対象領域のメッシュは、平面による切り口が楕円、双曲線、放物線などの2次曲線になる曲面である2次曲面により示すことができる。2次曲面は、3元2次方程式で表される。
【0048】
図5は、
図4の基準の関心対象領域と再設定された関心対象領域とを示す斜視図である。
図5に示すように、基準の関心対象領域は、脊柱管の曲がり形状に沿って曲がった面形状に設定される。これに対して、再設定された関心対象領域は、脊柱管部分では脊柱管の曲がり形状に沿った形状を有するとともに、腕神経叢の走行に沿った形状を有する。
【0049】
図1に示した推定部30は、再設定された関心対象領域上に仮想的な電極が配置されるとして、空間フィルター法などの推定手法を使用して、磁気データに基づき生体内で発生する電流を再構成する。このため、関心対象領域上に位置する腕神経叢の神経活動電流を脊髄の神経活動電流とともに正しく推定することができる。
【0050】
なお、従来、腕神経叢の測定に関し、被検体に負担が小さい体位である仰臥位では評価が困難であった。なぜなら、腕神経叢は深さ方向に大きく変化を持つが、X線像には写りこまないために強度の正確な推定が困難なためである。そこで、従来は、伏臥位で計測していた。
【0051】
伏臥位の場合ではセンサエリア部に腕神経叢部を押し当てることで、神経走行の深さ方向の変化が減少する。よって、比較的正確な強度推定が可能であった。一方で、伏臥位では頸髄とセンサの距離が遠くなるために頚髄の生体磁場信号の検出が困難であり、検出できたとしても頚部のねじれが起きていることから安静時の神経活動を正しく反映できるとは断言できず、評価が困難であった。
【0052】
そのため、腕神経叢から頚髄にかけて一貫して神経機能の評価を行うことは困難であった。また、被検体への負担という観点からも、一般に負担の少ない体位である仰臥位で計測可能とする手法の開発が望まれていた。本実施形態では、腕神経叢の解剖学的位置関係を入力し、関心対象部位を腕神経叢に沿って設定することにより、仰臥位で、腕神経叢を計測することが可能となる。これにより、腕神経叢と頸部とを、一連の流れで体位変更なく計測することができる。
【0053】
図6は、磁気データに基づいて推定される関心対象領域での電流分布と、関心対象領域に設定される仮想的な電極での電流波形の変化の例を示す図である。
図6は、被検体の右手に電気刺激を与えたときの電流分布の推定結果を示している。
【0054】
図6の左側は、被検体の頸部の形態画像(X線画像)と、仮想的な電極と、軸索電流の経路と、関心対象領域設定部40内の電流分布とを重ね合わせた画像を示す。
図6の左側の画像は、
図4の冠状面視に対応する。被検体の形態画像上への仮想的な電極の設置は、ユーザーインターフェース部50に接続されるマウス等を使用して、ユーザーが表示部60に表示される形態画像上で位置を指定することにより行うことができる。この際、仮想的な電極は、予め設定された間隔で自動的に設定することも可能である。
【0055】
図6の中央および右側は、基準の関心対象領域で推定した電流波形および再設定した関心対象領域で推定した電流波形をそれぞれ示す。電流波形の強度軸に示される番号は、形態画像中の仮想的な電極の番号に対応する。右手から電気刺激を与える場合、慣例的に反対側である左側に位置するX印で示す仮想的な電極に流れる電流の波形が評価される。
【0056】
2つの電流波形図から、電気刺激に伴う電流が番号の小さい仮想的な電極から番号の大きい仮想的な電極に順次伝搬していることが分かる。但し、左側の電流波形では、伝搬するにつれて信号強度が大きくなる仮想的な電極があり、神経生理学的に説明できない推定結果となっている。
【0057】
右側の電流波形では、腕神経叢を流れる神経活動電流の強度が、左側の電流波形の強度に比べて大きくなっている。また、右側の電流波形では、伝搬するにつれて神経活動電流の強度が低下しており、神経生理学的に問題ない推定結果となっている。このように、基準の関心対象領域の設定では、神経活動電流を正しく推定できないのに対して、再設定された関心対象領域では、神経活動電流を正しく推定することができる。腰神経叢の場合に関しても同様である。
【0058】
図7は、
図1の形態画像取得部により取得される被検体の形態画像の別の例を示す図である。
図7に示す形態画像には、腰椎とその周辺とが示される。
図7の左側の形態画像は、被検体を正面から撮影したものである。
図7の右側の形態画像は、被検体を右側面から撮影したものである。
図7は、X線撮影装置に含まれる形態画像取得部20により取得されたX線画像の例を示す。
【0059】
操作部70(
図1)を操作する操作者は、表示部60(
図1)に表示される正面視および側面視のX線画像を観察し、計測対象の神経に腰神経叢が含まれる場合には、腰神経叢の位置の指標となる解剖学的特徴位置を画面上で指定する。操作者が指定した画面上の位置は、解剖学的特徴位置情報として関心対象領域設定部40に出力される。
【0060】
腰神経叢の位置の指標となる解剖学的特徴位置は、例えば、大坐骨切痕の位置、かつ、第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さ位置である。ここで、大坐骨切痕の位置は、腰神経叢の左右方向の始点であり、第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さ位置は腰神経叢の前後方向の始点である。腕神経叢と同様に腰神経叢の終点は椎間孔である。これにより、腰髄と腰椎周辺の神経とを神経活動電流の評価対象にすることができる。
【0061】
なお、形態画像取得部20がCT撮影装置に含まれる場合、操作者は、断面位置を変えながら被検体の断面画像を表示部60に順次表示させることでCT画像を観察し、大坐骨切痕の位置と第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さ位置とを画面上で指定する。
【0062】
関心対象領域設定部40は、ユーザーインターフェース部50から受信する解剖学的特徴位置情報に基づいて、計測対象の神経に腰神経叢が含まれる場合には、大坐骨切痕の位置と、第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さ位置とを関心対象領域に含ませる。
【0063】
また、関心対象領域設定部40は、大坐骨切痕の位置と、第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さとを結ぶ直線を、関心対象領域に含ませる。なお、関心対象領域設定部40は、腰神経叢の位置を示す範囲内であれば、大坐骨切痕の位置と、第1仙椎椎体後縁と椎弓根下縁との交点の深さとを結ぶ線を、直線ではなく曲がった形状に設定してもよい。
【0064】
そして、関心対象領域設定部40は、
図4および
図5に示した腕神経叢を含む関心対象領域の再設定と同様に、基準の関心対象領域を示す撓んだ形状の平面を、腰神経叢を含む曲面に変形することで、関心対象領域を再設定する。これにより、脊髄の神経走行と腰神経叢の神経走行とを両方含む曲面を関心対象領域として設定することができる。
【0065】
図8は、磁気データに基づいて推定される関心対象領域での電流分布と、関心対象領域に設定される仮想的な電極での電流波形の変化の別の例を示す図である。
図6と同じ要素については、詳細な説明は省略する。
図8は、被検体の右足に電気刺激を与えたときの電流分布の推定結果を示している。
【0066】
図8の左側は、被検体の腰部の形態画像(X線画像)と、仮想的な電極と、軸索電流の経路と、関心対象領域設定部40内の電流分布とを重ね合わせた画像を示す。
図8の中央および右側は、基準の関心対象領域で推定した電流波形および再設定した関心対象領域で推定した電流波形をそれぞれ示す。
図6と同様に、被検体の形態画像上への仮想的な電極の設置は、ユーザーインターフェース部50に接続されるマウス等を使用して、ユーザーが表示部60に表示される形態画像上で位置を指定することにより行うことができる。この際、仮想的な電極は、予め設定された間隔で自動的に設定することも可能である。
【0067】
2つの電流波形図から、電気刺激に伴う電流が番号の小さい仮想的な電極から番号の大きい仮想的な電極に順次伝搬していることが分かる。但し、左側の電流波形は、
図6の左側の電流波形と同様に、伝搬するにつれて信号強度が大きくなる仮想的な電極があり、神経生理学的に説明できない推定結果となっている。
右側の電流波形は、
図6の右側の電流波形と同様に、腰神経叢を流れる神経活動電流の強度が、左側の電流波形の強度に比べて大きくなっている。また、右側の電流波形では、伝搬するにつれて神経活動電流の強度が低下しており、神経生理学的に問題ない推定結果となっている。このように、腰神経叢においても、基準の関心対象領域の設定では、神経活動電流を正しく推定できないのに対して、再設定された関心対象領域では、神経活動電流を正しく推定することができる。
【0068】
以上、この実施形態では、生体磁気計測装置100は、操作部70を介して解剖学的特徴位置情報を取得することで、画像には写らず、または写りにくい腕神経叢または腰神経叢等の神経の位置を判断することができる。そして、関心対象領域設定部40は、判断した神経の位置に基づいて、脊髄から離れた腕神経叢または腰神経叢等の神経の位置を含む関心対象領域を設定することができる。この結果、生体磁気計測装置100は、脊柱管外の神経の神経活動電流を脊髄の神経活動電流とともに正しく推定することができる。
【0069】
次に、3次元空間における神経の位置に沿った、仮想的な電極の設置方法について説明する。
図9は、
図6または
図8における神経の位置に沿った仮想的な電極の設置方法の一例を示す図である。
図9において、メッシュで示す領域は、例えば、
図5に示した再設定された関心対象領域を示す。黒線は、神経の位置(軸索電流の経路)を示し、黒点は、仮想的な電極の設置位置を示す。
図9に示す関心対象領域と各軸は、例えば、斜視図として表示部60にされる。
【0070】
例えば、3次元空間での仮想的な電極は、ユーザーインタフェース部50により2次元平面の被検体の形態画像(X線画像等)上に、軸索電流の経路および仮想的な電極を重ね合わせた後(
図6または
図8の左側の重ね合わせ画像)、2次元平面上の軸索電流の経路および仮想的な電極を
図9の関心対象領域に沿って3次元空間に再配置することで設置することができる。
【0071】
例えば、2次元平面上の被検体の形態画像(X線画像等)上への軸索電流の経路および仮想的な電極の重ね合わせは、ユーザーインターフェース部50に接続されるマウス等を使用して、ユーザーが表示部60に表示される形態画像上で位置を指定することにより行うことができる。この際、仮想的な電極は、予め設定された間隔で自動的に設定することも可能である。
【0072】
また、3次元空間での仮想的な電極は、ユーザーインタフェース部50により
図9の関心対象領域上に直接設置されてもよい。この場合、例えば、まず、被検体の形態画像と、形態画像に対応する
図9の関心対象領域が表示部60に表示される。次に、ユーザーインターフェース部50に接続されるマウス等を使用して、ユーザーが、表示部60にメッシュで表示される関心対象領域上に軸索電流の経路および仮想的な電極の少なくともいずれかを配置する。ユーザーが関心対象領域上に仮想的な電極のみを配置した場合、ユーザーインタフェース部50は、関心対象領域上に配置された仮想的な電極を通る経路を軸索電流の経路として自動的に設定してもよい。ユーザーが関心対象領域上に軸索電流の経路のみを配置した場合、ユーザーインタフェース部50は、予め設定された間隔で、関心対象領域上に仮想的な電極を自動的に配置してもよい。
【0073】
なお、
図9の関心対象領域の表示角度は、ユーザーが関心対象領域上に軸索電流の経路または仮想的な電極を配置しやすくするために適切な角度に設定されている。しかしながら、関心対象領域の表示角度は、ユーザーからの指示に基づいて調整可能にされてもよい。これにより、ユーザーは、表示角度を変えながら、関心対象領域での軸索電流の経路または仮想的な電極の位置を微調整することができ、軸索電流の経路および仮想的な電極の位置を精度よく設定することができる。この際、MRI画像またはCT画像等の形態画像を表示部60に立体的に表示可能な場合、ユーザーインタフェース部50は、関心対象領域の表示角度の調整に連動して、形態画像の表示角度を調整してもよい。
【0074】
以上より、仮想的な電極を、x-axisおよびy-axisで示される平面ではなく、z-axisを含めた3次元空間での実際の神経の位置に合わせて3次元で設置することができる。そして、設置した仮想的な電極で推定した電流波形を取得することにより、ユーザーは神経の走行の位置を正しく反映させた神経機能の評価を行うことができる。また、ユーザーは、神経の位置の設定後に、ユーザーインタフェース部50を介して関心対象領域を再設定することが可能であり、再設定後、神経活動電流の再推定を行い仮想的な電極位置の電流波形を取得することも可能である。関心対象領域が再設定される場合、関心対象領域上の軸索電流の経路および仮想的な電極の位置も再設定される。
【0075】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係る生体磁気計測装置を含む生体磁気計測システムの一例を示す構成図である。
図1と同じ構成については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。例えば、
図10に示す生体磁気計測システム200Aは、磁気計測部10、形態画像取得部20および生体磁気計測装置100Aを有する。
【0076】
生体磁気計測装置100Aは、推定部30、関心対象領域設定部40A、抽出部80Aおよびユーザーインターフェース部50を有する。推定部30、関心対象領域設定部40Aおよび抽出部80Aは、生体磁気計測装置100Aに搭載されるCPU等のプロセッサが、生体磁気計測プログラムを実行することで実現されてもよい。
【0077】
抽出部80Aは、形態画像取得部20から受信する形態画像データを使用して、評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置(烏口突起内側および第7頸椎前縁等)を抽出する。そして、抽出部80Aは、抽出した解剖学的特徴位置を示す解剖学的特徴位置情報を関心対象領域設定部40Aに出力する。すなわち、この実施形態では、生体磁気計測装置100Aは、操作者からの指示を受けることなく、評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置を自動的に抽出することができる。
【0078】
関心対象領域設定部40Aは、解剖学的特徴位置情報を、ユーザーインターフェース部50から受信する代わりに、抽出部80Aから受信することを除き、
図1の関心対象領域設定部40と同様の機能を有する。そして、関心対象領域設定部40Aは、抽出部80Aにより抽出された解剖学的特徴位置に基づいて、基準の関心対象領域を示す曲面を変形して、関心対象領域を再設定する。
【0079】
図11は、
図10の生体磁気計測装置の動作の一例を示すフロー図である。
図2と同様の動作については、詳細な説明は省略する。例えば、
図11に示すフローは、生体磁気計測装置100Aに搭載されるCPU等のプロセッサが、生体磁気計測プログラムを実行することで実現される。すなわち、
図11は、生体磁気計測装置100Aにより実行される生体磁気計測方法および生体磁気計測プログラムの一例を示す。
【0080】
ステップS20、S26は、
図2のステップS10、S16と同じ処理が実施される。ステップS20の後、ステップS22において、抽出部80Aは、X線画像データ、CT画像データまたはMRI画像データに基づいて、脊柱管外を走行する神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置を抽出する。例えば、抽出部80Aは、烏口突起内側および第7頸椎前縁等を解剖学的特徴位置として抽出する。なお、ステップS20、S22は、逆の順序で実施されてもよい。
【0081】
次に、ステップS24において、関心対象領域設定部40Aは、脊柱管外の評価対象の神経が関心対象領域に含まれるように、抽出部80Aが抽出した解剖学的特徴位置に基づいて関心対象領域を再設定する。そして、ステップS26において、推定部30により、再設定した関心対象領域での電流分布が磁気データに基づいて推定される。
【0082】
以上、この実施形態においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。例えば、生体磁気計測装置100は、解剖学的特徴位置情報に基づいて判断した腕神経叢または腰神経叢等の神経の位置に基づいて、脊髄から離れた腕神経叢または腰神経叢等の神経の位置を含む関心対象領域を設定することができる。この結果、生体磁気計測装置100は、脊柱管外の神経の神経活動電流を脊髄の神経活動電流とともに正しく推定することができる。
【0083】
さらに、この実施形態では、生体磁気計測装置100Aは、操作者からの指示を受けることなく、評価対象の神経の位置の指標となる解剖学的特徴位置を自動的に抽出することができる。そして、生体磁気計測装置100Aは、自動的に抽出した解剖学的特徴位置に基づいて、腕神経叢または腰神経叢等の神経の位置を判断することで、評価対象の神経を含む関心対象領域を再設定することができる。
【0084】
図12は、
図1および
図11の生体磁気計測装置100、100Aのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。生体磁気計測装置100、100Aのハードウェア構成は、互いに同じであるため、以下では、生体磁気計測装置100の構成が説明される。
【0085】
例えば、生体磁気計測装置100は、CPU110、RAM(Random Access Memory)120、ROM(Read Only Memory)130、補助記憶装置140、入出力インターフェース150および表示装置160を有し、これらがバスBUSで相互に接続されている。入出力インターフェース150は、操作部70に対応する。表示装置160は、表示部60に対応する。
【0086】
CPU110は、コンピュータの一例である。CPU110は、生体磁気計測装置100の全体の動作を制御する。CPU110は、ROM130または補助記憶装置140に格納された生体磁気計測プログラムを実行することで、推定部30および関心対象領域設定部40の機能を実現する。なお、生体磁気計測装置100Aでは、CPU110は、生体磁気計測プログラムを実行することで、推定部30、関心対象領域設定部40Aおよび抽出部80Aの機能を実現する。
【0087】
RAM120は、CPU110のワークエリアとして用いられ、生体磁気計測プログラムおよび各種パラメータを記憶する。ROM130は、生体磁気計測プログラムを記憶する。
【0088】
補助記憶装置140は、SSD(Solid State Drive)またはHDD(Hard Disk Drive)などである。例えば、補助記憶装置140は、生体磁気計測装置100の動作を制御するOS(Operating System)等の制御プログラム、各種形態画像データおよび各種パラメータ等が格納される。
【0089】
入出力インターフェース150には、マウスおよびキーボード等が接続される。入出力インターフェース150は、他の装置と通信するための通信インターフェースを含んでもよい。表示装置160は、例えば、
図6に示した形態画像および電流波形を表示するウィンドウと、操作ウィンドウとを表示する画面を有する。
【0090】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0091】
10 磁気計測部
20 形態画像取得部
30 推定部
40、40A 関心対象領域設定部
50 ユーザーインターフェース部
60 表示部
70 操作部
80A 抽出部
100、100A 生体磁気計測装置
140 補助記憶装置
150 入出力インターフェース
160 表示装置
200、200A 生体磁気計測システム
BUS バス
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】