(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146894
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】過塩素酸の定量方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20220928BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20220928BHJP
B01J 20/287 20060101ALI20220928BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
G01N30/88 H
G01N30/06 Z
B01J20/287
G01N30/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026320
(22)【出願日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021046915
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅仁
(57)【要約】
【課題】3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸を精度良く定量する方法を提供する。
【解決手段】3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸の定量方法であって、有機溶媒に対してアルカリ水溶液を接触させ、3級アミンは有機相に残して過塩素酸を水相に移行させる移行工程と、イオンペア剤を含有した溶離液を使用した逆相モードの高速液体クロマトグラフ法にて、逆相カラムに対して水相を通過させ、過塩素酸を定量する定量工程と、を有する、過塩素酸の定量方法その関連技術を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸の定量方法であって、
前記有機溶媒に対してアルカリ水溶液を接触させ、前記3級アミンは有機相に残して前記過塩素酸を水相に移行させる移行工程と、
イオンペア剤を含有した溶離液を使用した逆相モードの高速液体クロマトグラフ法にて、逆相カラムに対して前記水相を通過させ、前記過塩素酸を定量する定量工程と、
を有する、過塩素酸の定量方法。
【請求項2】
前記3級アミンはトリ-n-オクチルアミン(TNOA)である、請求項1に記載の過塩素酸の定量方法。
【請求項3】
前記イオンペア剤は、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-アミルアミン、ジ-n-ヘキシルアミンの少なくともいずれか又はその塩である、請求項1又は2に記載の過塩素酸の定量方法。
【請求項4】
前記移行工程後の前記水相のpHを8.0以上とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の過塩素酸の定量方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は芳香族系化合物を主成分とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の過塩素酸の定量方法。
【請求項6】
前記3級アミンはトリ-n-オクチルアミン(TNOA)であり、
前記イオンペア剤は、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-アミルアミン、ジ-n-ヘキシルアミンの少なくともいずれか又はその塩であり、
前記移行工程後の前記水相のpHを8.0以上とし、
前記有機溶媒は芳香族系化合物を主成分とする、請求項1に記載の過塩素酸の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過塩素酸の定量方法に関し、更に詳しくは、3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数種の金属イオンを含む水溶液から特定の金属を回収することは、金属の精錬や精製を行う上での重要な要素技術である。特定の金属を分離する方法の一つとして、各種有機抽出剤を用いた溶媒抽出法が知られている。
【0003】
例えば、ニッケルとコバルトを分離するための溶媒抽出法には、3級アミンであるトリ-n-オクチルアミン(TNOA)等のアミン系抽出剤(以降、3級アミン抽出剤ともいう。)を用いた方法が工業的に広く行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この方法においては、ニッケルとコバルトとの溶媒抽出分離前の水溶液中に含まれる不純物や酸化性金属イオンなどの影響により、3級アミン抽出剤が劣化するという課題を抱えている。抽出能力を維持するために、高価な抽出剤の頻繁な補充が必要となる。また、3級アミン抽出剤の分解生成物がクラッドを形成し、後々の油水分離を阻害することも考えられる。
【0006】
このような3級アミン抽出剤の劣化を促進する成分の一つとして過塩素酸の存在が考えられる。過塩素酸は、上記溶媒抽出分離を行う前工程から、3級アミン抽出剤を含有する抽出溶媒中に混入していると考えられる。3級アミン抽出剤の品質管理という点では、抽出溶媒中に濃縮されている過塩素酸の量(以降、濃度)を把握することが重要である。
【0007】
過塩素酸の分析方法としては、イオンクロマトグラフ法が挙げられる。
【0008】
イオンクロマトグラフ法では、クロマト分離後に電気伝導度検出器や質量分析計を検出器として用いることで過塩素酸を選択的に定量することができるが、適用試料は水溶液に限られる。このため、有機溶媒系の試料(上記例で言うと抽出溶媒)には適用することが不可能である。また、イオンクロマトグラフ法で使用する陰イオン交換カラムは試料溶液中に共存する有機成分(上記例で言うとTNOA)によって劣化しやすい。
【0009】
本発明の課題は、3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸を精度良く定量することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、
3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸の定量方法であって、
前記有機溶媒に対してアルカリ水溶液を接触させ、前記3級アミンは有機相に残して前記過塩素酸を水相に移行させる移行工程と、
イオンペア剤を含有した溶離液を使用した逆相モードの高速液体クロマトグラフ法にて、逆相カラムに対して前記水相を通過させ、前記過塩素酸を定量する定量工程と、
を有する、過塩素酸の定量方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、
前記3級アミンはトリ-n-オクチルアミン(TNOA)である、第1の態様に記載の過塩素酸の定量方法である。
【0012】
本発明の第3の態様は、
前記イオンペア剤は、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-アミルアミン、ジ-n-ヘキシルアミンの少なくともいずれか又はその塩である、第1又は第2の態様に記載の過塩素酸の定量方法である。
【0013】
本発明の第4の態様は、
前記移行工程後の前記水相のpHを8.0以上とする、第1~第3のいずれか一つの態様に記載の過塩素酸の定量方法である。
【0014】
本発明の第5の態様は、
前記有機溶媒は芳香族系化合物を主成分とする、第1~第4のいずれか一つの態様に記載の過塩素酸の定量方法である。
【0015】
本発明の第6の態様は、
前記3級アミンはトリ-n-オクチルアミン(TNOA)であり、
前記イオンペア剤は、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-アミルアミン、ジ-n-ヘキシルアミンの少なくともいずれか又はその塩であり、
前記移行工程後の前記水相のpHを8.0以上とし、
前記有機溶媒は芳香族系化合物を主成分とする、第1の態様に記載の過塩素酸の定量方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸を精度良く定量する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、既知量の過塩素酸を含有させた水溶液に対して実施例1の手法を適用して得られた検量線(横軸:過塩素酸濃度(mg/L)、縦軸:クロマトグラフにおける過塩素酸のピーク強度)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。
【0019】
本実施形態は、3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸の定量方法に係る。
【0020】
まず、該有機溶媒に対してアルカリ水溶液を接触させ、3級アミンは有機相に残して前記過塩素酸を水相に移行させる移行工程を行う。
【0021】
移行工程の対象となる有機溶媒には限定は無いが、特許文献1に記載された「3級アミンを抽出剤として含有する有機相」に対して金属(例えば鉄、銅、亜鉛、コバルト等)を回収する処理が行われた後の有機相であってもよい。その場合、移行工程の対象となる有機溶媒は芳香族系化合物を主成分(最も量が多い、好適には有機溶媒全体に対して50wt%を超えた化合物)としてもよい。
【0022】
3級アミンには限定は無いが、例えば上記TNOAが挙げられる。トリイソオクチルアミンを使用してもよい。有機溶媒中の3級アミンの濃度には限定は無いが、有機溶媒全体に対して20~40wt%であってもよい。
【0023】
過塩素酸は、HClO4又はClO4
-を指す。過塩素酸の濃度には限定は無いが、有機溶媒全体に対して1~10000wtppmであってもよい。
【0024】
有機溶媒中の重金属の濃度は、例えば上記のように金属を回収する処理が行われた後の有機相に従えば、例えば有機溶媒全体に対して0.1wt%以下であってもよい。
【0025】
上記のように金属を回収する処理が行われた後の有機相は、特許文献1では元は抽出剤である。そして、この抽出剤の抽出対象となったのは、塩酸酸性である塩化ニッケル溶液である。
【0026】
特許文献1の例を採用するならば、元の塩化ニッケル溶液においては酸化剤として塩素ガス(Cl2)の吹き込みも行われており、該有機溶媒中は物質が酸化しやすい状態(いわば該有機溶媒中が酸化雰囲気)である。
【0027】
そのため、特許文献1の例を採用するならば、本実施形態にて移行工程の対象となる有機溶媒中の塩化物イオン(Cl-)の濃度は高く、例えば0.5~10wt%である。そして、上記のように金属を回収する処理が行われた後の有機相では、過塩素酸が含有されている可能性が高い。過塩素酸の濃度には限定は無いが、例えば有機溶媒全体に対して1~10000wtppmであってもよい。また、過塩素酸以外の酸性成分(例えば塩酸)の濃度には限定は無いが、例えば有機溶媒全体に対して0.5~10wt%であってもよい。また、塩化物イオンの濃度に対する過塩素酸の濃度の比は、1/5000~1/10であってもよい。
【0028】
有機溶媒に対して接触させるアルカリ水溶液は、3級アミンを有機相に残し且つ過塩素酸を水相に移行させられれば限定は無い。アルカリ水溶液の特性は、3級アミンの特性に応じて決定可能である。
【0029】
但し、3級アミンがTNOAである場合、特に有利な効果がある。TNOAは弱塩基性である一方、過塩素酸は酸性を示す。そのため、有機溶媒に対して該アルカリ水溶液を接触させることにより、TNOAを有機相に残し且つ過塩素酸は水相に移行させられる。つまり、過塩素酸の定量前に、TNOAと過塩素酸とを容易に分離できる。これにより、本発明の課題で記載したような、クロマトグラフを利用する際の困難を取り除ける。
【0030】
3級アミンがTNOAである場合、より確実に、TNOAを有機相に残し且つ過塩素酸を水相に移行させるべく、該アルカリ水溶液のpHを8.0以上にするのが好ましく、9.0以上にするのがより好ましく、10.0以上にするのが更に好ましい。
【0031】
該アルカリ水溶液の組成にも限定は無く、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液であってもよい。
【0032】
該有機溶媒と該アルカリ水溶液の比率は、該有機溶媒中の過塩素酸の濃度、過塩素酸以外の酸性成分(例えば塩酸)の濃度、及び該アルカリ水溶液のpH等に応じて調整可能である。但し、移行工程後の水相のpHを中性~アルカリ性の範囲(例えばpHを8.0以上、9.0以上、又は10.0以上)となるよう、該有機溶媒と該アルカリ水溶液の比率を調整するのが好ましい。
【0033】
水相と有機相との2相分離は、公知の手法を採用して構わない。例えば、遠心分離することで2相分離を行っても構わない。
【0034】
移行工程後、イオンペア剤を含有した溶離液を使用した逆相モードの高速液体クロマトグラフ法にて、逆相カラムに対して前記水相を通過させ、過塩素酸を定量する定量工程を行う。
【0035】
定量工程においては、平衡化させた逆相カラムに対し、移行工程を経た後の水相を注入し、過塩素酸を保持させる。その後、適当な洗浄液を使用し、過塩素酸とは異なる夾雑成分を逆相カラムから溶出する。そして、最終的に、逆相カラムに対して溶離液(移動相)を流して過塩素酸を逆相カラムから溶離させる溶離工程を行い、過塩素酸のクロマトグラフを取得する(測定工程)。本実施形態においては、溶離工程の際の溶離液にイオンペア剤を含有させる。そして、過塩素酸のクロマトグラフから、最終的に過塩素酸を定量する。
【0036】
本実施形態においては、溶離液に対してイオンペア剤を含有させる。これにより、過塩素酸とイオンペア剤との間のペアが形成される。該ペアが逆相カラムに保持されることにより、逆相カラムへの過塩素酸の保持時間を確保できる。別の言い方をすると、イオンペア剤を使用しないと、溶離液を流したときに、過塩素酸は逆相カラムから急速に溶離する。つまり、溶離工程開始直後にクロマトグラフにおいて過塩素酸のピークが出現する、又は測定結果を記録開始した時にはピークの一部しか得られないこともあり得る。そうなると、クロマトグラフにおいて過塩素酸のピークを正確に得られない。
【0037】
上記問題点は、水相中において塩化物イオンが高濃度であると顕著となる。なぜなら、溶離液を流したときに、過塩素酸が逆相カラムから急速に溶離すると共に塩化物イオンも急速に溶離するためである。そうなると、クロマトグラフにおいて過塩素酸のピークと塩化物イオンのピークとが重なり、過塩素酸のみを正確に定量することが困難となる。
【0038】
そこで、本実施形態のように溶離液にイオンペア剤を含有させることにより、塩化物イオンは上記の通り逆相カラムから急速に溶離する一方で、過塩素酸は逆相カラムにある程度保持できる。つまり、過塩素酸の保持時間と塩化物イオンの保持時間との間に差をつけることができ、ひいては両者を効果的に分離できる。
【0039】
本実施形態における溶離液及びイオンペア剤としては、逆相カラムへの過塩素酸の保持時間と塩化物イオンの保持時間との間に差をつけられるものであれば限定は無い。ただ、高速液体クロマトグラフ法に用いられる器具(例:コロナ荷電粒子検出器又は蒸発光散乱器及び質量分析計を用いた検出器)へのダメージを低減するため、且つ、バックグラウンドシグナルの上昇を抑制するために、揮発性の高いものを溶離液及びイオンペア剤として使用するのが好ましい。
【0040】
溶離液としては例えばアセトニトリルが挙げられるが、これに限定されない。
【0041】
揮発性を高くすることを考慮すると、イオンペア剤は、具体的には、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-アミルアミン、ジ-n-ヘキシルアミンの少なくともいずれか又はその塩(例えば後掲の実施例の項目に記載のジブチルアミン酢酸塩)であってもよい。
【0042】
溶離液におけるイオンペア剤の比率には限定は無いが、疎水性及び揮発性という点でバランスを取るには1~50mmol/Lとするのが好ましく、5~10mmol/Lとするのがより好ましい。もちろん、その他、溶離液として公知の化合物(溶媒、緩衝剤等)を適宜加えても構わない。
【0043】
本工程である溶離工程(測定工程)にて用いる検出器としては、高速液体クロマトグラフ法に使用することのできる、いかなる検出器を用いてもよい。ただ、測定感度の観点から、先に挙げたコロナ荷電粒子検出器や蒸発光散乱器又は質量分析計(装置)を使用することが好ましい。
【0044】
上記の各処理はあくまで一具体例である。例えば、高速液体クロマトグラフ法に使用される器具、逆相カラムに使用される充填剤や、夾雑成分を溶出する洗浄剤などは、公知のものを適宜採用すればよい。逆相カラムの種類(別の言い方をすると逆相カラムに使用される充填剤)にも限定は無く、例えばシリカゲルを基材としつつオクタデシルシリル基を修飾したもの(C18)を使用してもよいし、それ以外のもの(例えばC8、C4、C1)を使用してもよい。
【0045】
溶離工程(測定工程)の測定結果から過塩素酸に由来するピークの面積を算出する。また、事前に試薬の過塩素酸を用いて作成した検量線を利用して、抽出溶媒中の過塩素酸濃度を算出する。このように定量工程を行うことにより、3級アミンと過塩素酸とを含有する有機溶媒中における過塩素酸を精度良く(一例としては高感度且つ安定的に)定量できる。
【0046】
本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
【0047】
本実施形態では、移行工程においてアルカリ水溶液との接触により、有機溶媒中の3級アミンは有機相に残しつつ、過塩素酸は水相に移行させている。これと同じ原理を、有機溶媒中に存在する物質であって過塩素酸以外の物質に適用しても構わない。この物質としては、例えば疎水性スルホン酸類(例:ベンゼンスルホン酸)、フェノール類、カルボン酸類、硫酸イオン等が挙げられる。定量工程において、過塩素酸と同時に上記列挙物質のうち少なくともいずれかを定量してもよい。また、過塩素酸の代わりに上記列挙物質のうち少なくともいずれかを定量してもよい。
【実施例0048】
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
本実施例において用いた試薬の詳細は以下の通りである。
・過塩素酸ナトリウム一水和物:富士フイルム和光純薬株式会社製、標準溶液用作成に使用
・アセトニトリル:富士フイルム和光純薬株式会社製、高速液体クロマトグラフ溶離液に使用
・ジ-n-ブチルアミン:東京化成株式会社製、イオンペア試薬として使用
【0050】
本実施例において用いた高速液体クロマトグラフ法における、液体クロマトグラフに係る装置や各種条件の詳細は以下の通りである。
・液体クロマトグラフ装置(LC):アジレントテクノロジーズ社製 Agilent1290infinity2
・カラム:Waters製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm×150mm(逆相カラム)
・カラム温度:40℃
・カラムへの試料注入量:0.5μL
・検出器:サーモフィッシャーサイエンティフィック製Corona Ultra
・溶離液:水/アセトニトリル/50mMジブチルアミン酢酸塩(イオンペア剤)水溶液(以下の括弧内は、測定開始からの所定時間経過後における、この順での各物質のwt%を示す。)
0min(88/2/10)→5min(0/90/10)→7min(0/90/10)→7.01min(88/2/10)→9min(88/2/10)
・溶離液流量0.5mL/min
・バルブ切替:測定開始からの経過時間が0~1.4minだとLCと廃棄用配管とを連通、1.4~9.0minだとLCと質量分析装置(MS)とを連通
【0051】
本実施例において用いた高速液体クロマトグラフ法における、LCから得られた結果に基づく質量分析に係る装置や各種条件の詳細は以下の通りである。
・質量分析装置(MS):アジレントテクノロジーズ社製 Agilent 6530
・極性:Negative
・測定質量範囲:m/z:70~1000
・イオン化方法:ESI
・ガス温度、流量:280℃、12L/min
・ネブライザ圧:55psi
・シースガス温度、流量:350℃、12L/min
・フラグメンター:100V
・スキャン速度:3spec/s
【0052】
本実施例においては、塩素ガスの吹き込みが行われ且つ塩酸酸性である塩化ニッケル溶液に対してTNOAを抽出剤として含有する有機相に金属(例えば鉄、銅、亜鉛、コバルト等)が抽出された後、該金属を抽出剤から回収した後の有機相即ち抽出溶媒を、上記有機溶媒として採用した。
【0053】
該抽出溶媒(採取日の異なる4種類:試料A~D)を15mLのPP製遠沈管に1g採取し、そこに0.5Nの水酸化ナトリウム溶液(pHは11.5程度)を10mL添加した。5分間振とうし、その後、4000rpmで5分間遠心分離を行った(移行工程)。移行工程後の水相のpHは11.0程度であった。
【0054】
その後、水相を0.5Nの水酸化ナトリウム溶液で50倍希釈した溶液1mLを測定用のバイアル瓶に移液し、上記液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)にセットし、上記条件で測定を行った(定量工程)。
【0055】
図1は、既知量の過塩素酸を含有させた水溶液に対して実施例1の手法を適用して得られた検量線(横軸:過塩素酸濃度(mg/L)、縦軸:クロマトグラフにおける過塩素酸のピーク強度)である。
図1に示すように、実施例1の手法を適用して得られた検量線の直線性は極めて良好であった。
【0056】
この検量線を用いて算出した試料A~D中の過塩素酸の濃度は、試料Aでは210wtppm、試料Bでは210wtppm、試料Cでは410wtppm、試料Dでは260wtppmであった。
【0057】
そして、試料A~Dに対して所定量の過塩素酸ナトリウム一水和物を添加することにより、既知量の過塩素酸が上乗せされた試料A´~D´を作製した。そして、試料A´~D´中の過塩素酸の濃度を算出した。上乗せされた過塩素酸の濃度に対する、試料A´~D´中の過塩素酸の濃度と試料A~D中の過塩素酸の濃度との差分の百分率を算出した。この試験を添加回収試験とみなし、この百分率を過塩素酸の回収率とみなした。その結果、本実施例での回収率は、試料Aでは94%、試料Bでは101%、試料Cでは98%、試料Dでは92%であった。いずれも良好な数値であった。以降、回収率において100%を超えた数値は誤差であり、100%に近い数値であることに相違はない。
【0058】
[実施例2]
実施例1とは別工程から採取したTNOA含有抽出溶媒(採取日の異なる4種類:試料E~H)を15mLのPP製遠沈管に1g採取し、そこに0.5Nの水酸化ナトリウム溶液(pHは11.5程度)を10mL添加した。5分間振とうし、その後、4000rpmで5分間遠心分離を行った。移行工程後の水相のpHは11.0程度であった。その後、水相1mLを希釈せず直接バイアル瓶に移液し、上記液体クロマトグラフ質量分析装置にセットし、実施例1と同様の条件で測定を行った。実施例1と同様に、検量線を作成し、該検量線を用いて試料E~H中の過塩素酸濃度を算出した。
【0059】
試料E~H中の過塩素酸の濃度は、試料Eでは2wtppm、試料Fでは2wtppm、試料Gでは3wtppm、試料Hでは2wtppmであった。
【0060】
試料E~Hに対する添加回収試験の回収率は、試料Eでは95%、試料Fでは101%、試料Gでは100%、試料Hでは103%であった。いずれも良好な数値であった。
【0061】
[比較例1]
実施例1に用いた抽出溶媒と同じもの(試料A~D)を、アルカリ水溶液でなく純水10mLと振とうすること以外は実施例1と同じ操作で分析を行った。移行工程後の水相のpHは8.0未満であった。
【0062】
その結果、試料A~Dの過塩素酸の濃度は10wtppm未満であった。試料A~Dに対する添加回収試験の回収率は、いずれも0%であった。
【0063】
[比較例2]
実施例2に用いた抽出溶媒と同じもの(試料E~H)に対し、LCでの処理において溶離液にイオンペア剤を含有させないこと以外は実施例1と同じ操作で分析を行った。溶離液は以下のように設定した。
・溶離液:水/アセトニトリル
0min(98/2)→5min(10/90)→7min(10/90)→7.01min(98/2)→9min(98/2)
【0064】
その結果、試料E~Hの過塩素酸の濃度は1wtppm未満であった。試料E~Hに対する添加回収試験の回収率は、試料Eでは11%、試料Fでは15%、試料Gでは4%、試料Hでは19%であった。