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特開2022-146908金属酸化物薄膜、その製造方法、及び、金属酸化物薄膜被覆体
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  • 特開-金属酸化物薄膜、その製造方法、及び、金属酸化物薄膜被覆体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146908
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】金属酸化物薄膜、その製造方法、及び、金属酸化物薄膜被覆体
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20220928BHJP
   C01G 19/02 20060101ALI20220928BHJP
   C01F 17/32 20200101ALI20220928BHJP
   C03C 17/25 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C01G25/02
C01G19/02 C
C01F17/32
C03C17/25 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039579
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021047587
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594192349
【氏名又は名称】リソテック ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆誠
(72)【発明者】
【氏名】藤原 匡之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正典
(72)【発明者】
【氏名】関口 淳
【テーマコード(参考)】
4G048
4G059
4G076
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD02
4G048AE08
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC21
4G059AC22
4G059EA01
4G059EA02
4G059EA03
4G059EA04
4G059EA05
4G059EB05
4G076AA02
4G076AB12
4G076BA15
4G076BB03
4G076BD02
4G076CA10
4G076CA23
4G076CA40
4G076DA11
4G076DA16
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】透明性、防曇性、及び、防汚性を高いレベルで実現可能な金属酸化物薄膜、その製造方法、及び、金属酸化物薄膜被覆体を提供する。
【解決手段】金属酸化物薄膜であって、表面粗さRaが200nm以下であり、波長200nm~800nmの光線透過率が90%以上であり、金属酸化物薄膜中の金属酸化物の最小粒径をXnm、金属酸化物薄膜の厚さをYnmとしたときに以下の式(1)及び(2)を満たす金属酸化物薄膜。
0.5≦X≦200・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0・・・(2)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物薄膜であって、表面粗さRaが200nm以下であり、波長200nm~800nmの光線透過率が90%以上であり、金属酸化物薄膜中の金属酸化物の最小粒径をXnm、金属酸化物薄膜の厚さをYnmとしたときに以下の式(1)及び(2)を満たす金属酸化物薄膜。
0.5≦X≦200・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0・・・(2)
【請求項2】
前記金属酸化物薄膜を構成する金属酸化物が、ジルコニウム、チタン、セリウム、インジウム、スズ、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、及び、ハフニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含有する請求項1に記載の金属酸化物薄膜。
【請求項3】
前記金属酸化物薄膜の厚さが0.5nm~600nmである請求項1又は2に記載の金属酸化物薄膜。
【請求項4】
金属酸化物微粒子を分散剤により有機溶媒中に分散安定化させた金属酸化物微粒子分散液を、基材に塗布・乾燥し、エージングした後、溶媒で洗浄し、100~1000℃で焼成して焼結する請求項1~3のいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子の平均粒子径が200nm以下である請求項4に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項6】
基材と、前記基材上に形成された請求項1~3のいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜とを有する金属酸化物薄膜被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物薄膜、その製造方法、及び、金属酸化物薄膜被覆体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やガラス、あるいはプラスチックは、工業的にはそのままの状態で使用されることはほとんどなく、一般に塗料を表面に塗布(ウェットコーティング)したり、蒸着法等を用いて表面に被膜を形成(ドライコーティング)したりして使用されることが多い。その理由は、基材の表面に特定の機能、例えば、色彩や反射率制御等の光学的機能、表面硬度や耐摩耗性等の機械的強度、あるいは、表面抵抗や親水性等の機能を付与し、その利用目的に応じた実用性を高めるためである。
【0003】
例えば、特許文献1には、光触媒機能を有する酸化チタン薄膜被覆ガラス板の実用性を特定の手法で向上させることが記載されている。具体的には、表面圧縮応力が特定値以下であるガラス基板の表面にチタン元素を含有する薄膜を形成し、薄膜表面を特定の温度で加熱し、特定条件下で冷却することにより、酸化チタン薄膜被覆ガラス板の表面圧縮応力を向上させ、摩擦耐性を向上することが記載されている。
【0004】
金属・ガラス、あるいはプラスチック表面へ形成される金属酸化物被膜には多くの種類があり、またその形成方法も多岐にわたる。
しかしながら、特許文献1においては、光触媒機能を有する酸化チタン薄膜被覆ガラス板に限定された薄膜のみが記載され、特定の性能要求しか考慮されていなかった。そのため、特許文献1に記載の発明は、多種多様な用途に使用することが難しいものであった。前記の理由から、透明性、防曇性、及び防汚性を同時に高いレベルで実現可能な薄膜は今まで得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-112949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の問題を鑑み、透明性、防曇性、及び、防汚性を高いレベルで実現可能な金属酸化物薄膜、その製造方法、及び金属酸化物被覆体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題は、本発明の金属酸化物薄膜によって解決される。詳しくは、本発明の金属酸化物薄膜を薄膜形成の対象となる基材の表面に形成することによって、上記課題は解決される。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を要旨とする。
[1]金属酸化物薄膜であって、表面粗さRaが200nm以下であり、波長200nm~800nmの光線透過率が90%以上であり、金属酸化物薄膜中の金属酸化物の最小粒径をXnm、金属酸化物薄膜の厚さをYnmとしたときに以下の式(1)及び(2)を満たす金属酸化物薄膜。
0.5≦X≦200・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0・・・(2)
[2]前記金属酸化物薄膜を構成する金属酸化物が、ジルコニウム、チタン、セリウム、インジウム、スズ、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、及び、ハフニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含有する[1]に記載の金属酸化物薄膜。
[3]前記金属酸化物薄膜の厚さが0.5nm~600nmである[1]又は[2]に記載の金属酸化物薄膜。
[4]金属酸化物微粒子を分散剤により有機溶媒中に分散安定化させた金属酸化物微粒子分散液を、基材に塗布・乾燥し、エージングした後、溶媒で洗浄し、100~1000℃で焼成して焼結する[1]~[3]のいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
[5]前記金属酸化物微粒子の平均粒子径が200nm以下である[4]に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
[6]基材と、前記基材上に形成された[1]~[3]のいずれか一項に記載の金属酸化物薄膜とを有する金属酸化物薄膜被覆体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透明性、防曇性、及び、防汚性を高いレベルで実現可能な金属酸化物薄膜、その製造方法、及び金属酸化物被覆体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】酸化ジルコニウム薄膜被覆体の分光特性の一例を示す図である。
図2】酸化ジルコニウム薄膜被覆体の分光特性の他の一例を示す図である。
図3】酸化スズ薄膜被覆体の分光特性の一例を示す図である。
図4】酸化スズ薄膜被覆体の分光特性の一例を示す図である。
図5】酸化セリウム薄膜被覆体の分光特性の一例を示す図である。
図6】酸化セリウム薄膜被覆体の分光特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の両端の数値を含む。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
以下、本発明の実施形態に係る金属酸化物薄膜について説明する。
【0011】
<金属酸化物薄膜>
本発明の金属酸化物薄膜は、表面粗さRaが200nm以下であり、波長200nm~800nmの光線透過率が90%以上であり、金属酸化物薄膜中の金属酸化物の最小粒径をXnm、金属酸化物薄膜の厚さをYnmとしたときに以下の式(1)及び(2)を満たす。
0.5≦X≦200・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0・・・(2)
なお、本明細書において、金属酸化物薄膜とは、金属酸化物を含有する薄膜を意味する。
また、本明細書において、金属酸化物薄膜や金属酸化物薄膜被覆体が「透明」であるとは、それらの波長200nm~900nmの光線透過率が90%以上であることを意味する。また、「波長Anm~Bnmの光線透過率がC%以上」とは、Anm~Bnmの波長域のどの波長においても透過率がC%以上であることを意味する。
また、本明細書において、金属酸化物薄膜や金属酸化物薄膜被覆体の光線透過率は、石英基板の分光特性に対する相対値で示した値を意味する。
【0012】
本発明の金属酸化物薄膜が前記の効果を奏する理由は、以下に限られるものではないが、以下のように推察される。
(i)金属酸化物薄膜中の金属酸化物の最小粒径をXnm、金属酸化物薄膜の厚さをYnmとしたときに以下の式(1)及び(2)を満たす金属酸化物薄膜にすることで、波長200nm~800nmの広範囲で、より好適には波長200nm~900nmの広範囲で高い光線透過率を付与できる。すなわち、金属酸化物薄膜に優れた透明性を付与できるため、透明性を有する基材に前記薄膜を形成しても、前記基材の透明性を損ない難い。
0.5≦X≦200・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0・・・(2)
(ii)金属酸化物薄膜の表面粗さを適度に小さくすることで、ナノオーダーで高さがある程度揃った微細な凹凸が形成され、金属酸化物薄膜の親水性を高くすることができる。このため、高湿度下でも曇りにくく(つまり、防曇性が高く)、水中で有機物が付着しにくい(つまり、防汚性が高い)という機能を基材に付与することができる。
以上のことにより、透明性、防曇性、及び、防汚性に優れるようになるものと推察される。更に、以下の理由により、透明性、防曇性、及び防汚性に加えて、機械的物性と耐久性とを同時に高いレベルで実現可能とし得るものと推察される。
(iii)金属酸化物薄膜は概して高い硬度を有するので、基材に金属酸化物薄膜を設けることにより、基材を傷付きにくくすることができる。
(iv)金属酸化物薄膜は、実質的に金属酸化物のみからなる薄膜として形成することができる。したがって、実質的に金属酸化物のみからなる金属酸化物薄膜とした場合は、金属酸化物薄膜や金属酸化物薄膜によって被覆された被覆体の使用中に、金属酸化物薄膜から不純物等の何らかの物質が溶け出して周囲に悪影響を及ぼす可能性が大きく低減され得る。
【0013】
前記(i)~(iv)に記載した効果を奏することにより、本発明の金属酸化物薄膜は、光学用のガラスや光学用のプラスチックの表面処理、医療用の金属・ガラス・プラスチック等の表面被覆用薄膜として極めて有用である。
具体的な例を挙げると、内視鏡レンズの表面に前記金属酸化物薄膜を設けた場合、繰り返し使用しても、傷つきにくく、曇りにくく、汚れにくいレンズが得られる。このため、内視鏡による観察や手術の精度を向上させることが可能である。また、実質的に金属酸化物のみからなる金属酸化物薄膜とすることにより、使用中に溶出してくる物質が極めて少なくなるため、人体への影響も非常に少なくすることができる。
【0014】
前記金属酸化物薄膜の表面粗さ(Ra)は、200nm以下である。Raは、金属酸化物薄膜の均一性の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下、更に好ましくは50nm以下、より更に好ましくは30nm以下、より更に好ましくは15nm以下、より更に好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下、最も好ましくは3nm以下である。また、親水性、防曇性の観点から、好ましくは0.01nm以上、より好ましくは0.03nm以上、更に好ましくは0.05nm以上、より更に好ましくは0.07nm以上、特に好ましくは0.1nm以上である。本明細書において、Raは実施例に記載の方法で測定される。
前記金属酸化物薄膜の表面粗さの最大値(Rmax)は、金属酸化物薄膜の均一性の観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは100nm以下、より更に好ましくは50nm以下、より更に好ましくは30nm以下、特に好ましくは20nm以下、最も好ましくは15nm以下である。また、親水性、防曇性の観点から、好ましくは0.05nm以上、より好ましくは0.1nm以上、更に好ましくは0.5nm以上、より更に好ましくは0.7nm以上、特に好ましくは1.0nm以上である。本明細書において、Rmaxは実施例に記載の方法で測定される。
【0015】
前記金属酸化物薄膜の波長200nm~800nmの光線透過率は90%以上である。前記波長域の光線透過率が90%未満では、様々な用途に適する十分な透明性が得られなくなる恐れがある。
透明性の観点から、前記金属酸化物薄膜の波長400~900nmにおける光線透過率(1)は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
透明性の観点から、前記金属酸化物薄膜の波長280~400nmにおける光線透過率(2)は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
透明性の観点から、前記金属酸化物薄膜の波長200~280nmにおける光線透過率(3)は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
前記金属酸化物薄膜は、前記光線透過率(1)~(3)がいずれも、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
【0016】
透明性の観点から、前記金属酸化物薄膜の可視光領域における光線透過率は、90%以上であり、好ましくは95%以上である。なお、前記の「可視光領域」とは、400nm以上780nm以下の波長域を意味する。
【0017】
透明性の観点から、前記金属酸化物薄膜のUV-A領域における光線透過率は、90%以上であり、好ましくは95%以上である。なお、上記の「UV-A領域」とは、315nm以上400nm未満の波長域を意味する。
【0018】
透明性の観点から、前記金属酸化物薄膜のUV-B領域における光線透過率は、90%以上であり、好ましくは95%以上である。なお、上記の「UV-B領域」とは、280nm以上315nm未満の波長域を意味する。
【0019】
透明性の観点から、前記金属酸化物薄膜のUV-C領域における光線透過率は、200nm以上の領域で90%以上であり、好ましくはUV-C領域全体で90%以上である。なお、上記の「UV-C領域」とは、100nm以上280nm未満の波長域を意味する。
【0020】
紫外領域の光線透過率を前記範囲のように高くすることにより、前記金属酸化物薄膜やそれを形成した基材を、紫外線照射用装置の保護カバー等の用途にも用いることができる。
【0021】
様々な用途に適する透明性をより確保しやすく観点から、前記金属酸化物薄膜の光線透過率は200nm~800nmの光線透過率が90%以上であり、100nm~900nmの光線透過率が90%以上であることがより好ましい。
【0022】
前記金属酸化物薄膜のヘイズは、特に限定されない。
【0023】
前記金属酸化物薄膜における、大気中での水の接触角は、特に限定されないが、本発明の効果を達成しやすくする観点から、好ましくは10°以下であり、より好ましくは9.0°以下であり、更に好ましくは8.5°以下である。
本明細書において、前記金属酸化物薄膜の大気中での水の接触角は実施例に記載の方法で測定される。
【0024】
前記金属酸化物薄膜の水中での油滴の接触角は、特に限定されないが、本発明の効果を達成しやすくする観点から、好ましくは100°以上であり、より好ましくは110°以上であり、更に好ましくは115°以上である。
本明細書において、前記金属酸化物薄膜の水中での油滴の接触角は実施例に記載の方法で測定される。
【0025】
前記金属酸化物薄膜の厚さは、特に限定されないが、本発明の効果を達成しやすくする観点から、後述する焼結を行う前の厚さが、好ましくは0.5nm~600nm、より好ましくは0.5~300nm、更に好ましくは1.0~150nm、より更に好ましくは1.0~100nm、より更に好ましくは1.5~50nm、より更に好ましくは1.5~25nm、特に好ましくは2.0~15nmであり、最も好ましくは2.0~10nmである。
本明細書において、前記金属酸化物薄膜の厚さは実施例に記載の方法で測定される。
【0026】
<金属酸化物>
前記金属酸化物薄膜を構成する金属酸化物は、好ましくは、ジルコニウム、チタン、セリウム、インジウム、スズ、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、及び、ハフニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含有する金属酸化物である。
透明性の観点から、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、スズから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含有する金属酸化物がより好ましく、酸化ジルコニウムが更に好ましい。
【0027】
<金属酸化物薄膜の製造方法>
前記金属酸化物薄膜を製造する方法は、特に限定されないが、所定の粒径を有する金属酸化物微粒子を、分散剤により有機溶媒中に分散安定化させた金属酸化物微粒子分散液を基材に塗布し(塗布工程)、乾燥させ、エージングした後(乾燥及びエージング工程)、特定の溶媒で洗浄し(洗浄工程)、100~1000℃で焼成することにより焼結する(焼成工程)。金属酸化物微粒子としては、後記の方法により合成した金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。
【0028】
なお、前記金属酸化物薄膜の製造方法においては、粒子と基材表面との間で何らかの相互作用が生じるものと考えられる。そして、このことが一つの要因となって、前記の特性を備える金属酸化物薄膜を形成することができる。
【0029】
[金属酸化物微粒子分散液の調製]
金属酸化物微粒子と後記の分散剤とを有機溶媒中に添加することで、また、後記のように金属酸化物微粒子を作製する際の反応液にカルボン酸類等の添加剤を添加しておくことで、金属酸化物微粒子が有機溶媒に分散し、安定した金属酸化物微粒子分散液を調製することができる。金属酸化物微粒子は、金属酸化物に結合又は金属酸化物を修飾している分散剤や添加剤が、有機溶媒によって溶媒和されるため、他の特殊な分散剤を加えたり、特殊な操作を追加したりすることなく、汎用の有機溶媒中に前記微粒子を添加することによって、安定した分散液を調製することができる。
【0030】
有機溶媒としては、金属酸化物微粒子を分散させ得るものであればどのようなものでも使用でき、単独又は数種類を組み合わせて使用することもできる。前記有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素系、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N-メチルピロリドン等のケトン類、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩化脂肪族炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル類が挙げられる。金属酸化物微粒子の分散安定性の観点から、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、デカヒドロナフタレン、酢酸ブチルが好ましい。
【0031】
前記分散液に用いる有機溶媒の量は、特に限定されないが、経済的に安定した分散液を調製できる観点から、金属酸化物微粒子と有機溶媒との合計質量に対して、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。また、合計99.7質量%以下が好ましく、99.5質量%以下がより好ましく、99質量%以下が更に好ましい。
【0032】
前記分散剤としては、金属酸化物微粒子を分散させ得る作用を有する化合物であればどのような化合物でも使用でき、例えば、カプリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、チグリン酸、プロピオン酸、メチル酪酸、ヘキサン酸、ノナン酸、o-トルイル酸、p-トルイル酸、安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、フェニルチオ酢酸、オレイン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記分散液に用いる分散剤の量としては、特に限定されないが、経済的に安定した分散液を調製できる観点から、金属酸化物微粒子の全質量に対して分散剤を合計10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。また、合計70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましい。
【0033】
前記金属酸化物微粒子分散液は、低分子分散剤、高分子分散剤(バインダー樹脂)、増粘剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤、乳化剤等を更に含有していてもよい。
【0034】
[塗布工程]
前記金属酸化物微粒子分散液の基材への塗布方法は、基材の材質や形状により、自由に選択される。例えば、基材が直径300mm以下の平板上のものであれば、スピンコートが可能である。基材が広幅のフィルム状であれば、グラビアロール、リップロール、リバースロール等を用いてロールtoロールで連続的に塗布することも可能である。また、表面が立体的で複雑な形状の場合は、ディップコートやスプレーコートが好適である。
【0035】
前記金属酸化物微粒子分散液を塗布する基材についても特に制限はなく、例えば、ガラス等の無機基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等のポリマーフィルム基材を使用できる。
前記基材には、金属酸化物薄膜の密着性を高めるために表面処理を行ってもよい。表面処理液としては、例えば、シランカップリング剤、有機金属が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリス(2-メトキシエトキシ)ビニルシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランがあげられ、有機金属としては、例えば、有機チタン、有機アルミニウム、有機ジルコニウムが挙げられる。シランカップリング剤又は有機金属を有機溶媒、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等で0.1~5質量%の濃度に希釈したものを用いる。この表面処理液をスピナー等で基材上に均一に塗布した後に乾燥することによって表面処理ができる。
【0036】
[乾燥及びエージング工程]
塗膜の乾燥は、塗膜中の有機溶媒を一定量以下にするために行われる。そのため、乾燥の温度と時間は、塗膜に要求される残存有機溶媒量とその有機溶媒の種類によって決定される。塗布後の乾燥条件は任意である。
また、乾燥雰囲気についても空気中、窒素雰囲気中、減圧下等、特に制限されない。具体的には、塗膜を乾燥するための温度は、20~300℃が好ましく、25~200℃がより好ましい。塗膜を乾燥するための時間は、1~1800秒間が好ましく、2~1200秒間がより好ましい。塗膜を乾燥することにより、塗膜中の有機溶媒の量を、塗布した分散液の質量に対し50質量%以下にすることができる。
塗膜のエージングは、得られる金属酸化物薄膜の欠陥を減少させ、金属酸化物薄膜の機械的強度を向上させるために行う。塗膜のエージングにより、金属粒子の凝集および基材との間で非共有結合等の結合が起きていると考えられ、これにより上記目的を達成できると考えられる。その目的を達成するために、塗膜のエージングの条件は任意に設定される。具体的には、塗膜をエージングするための温度は、5~300℃が好ましく、10~200℃がより好ましい。塗膜をエージングするための時間は、0.01~180分間が好ましく、0.02~60分間がより好ましい。また本工程は、前記乾燥工程の後に行うこともできるし、乾燥工程と合わせて行うことも可能である。
【0037】
[洗浄工程]
塗膜の洗浄は、塗膜中の金属酸化物微粒子の量を、塗布した金属酸化物微粒子の質量に対し50質量%以下にするために行われる。乾燥及びエージング後の薄膜の洗浄に使用される溶媒は、分散液の製造に使用した前記有機溶媒が主に使用される。エステル系溶媒を溶媒として用いてもよい。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等のモノカルボン酸エステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等の多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒を用いることができる。
洗浄方法は、基材の種類や形状により、任意に選択される。前記洗浄の条件を最適化することにより、所望の厚さの被膜を得ることが可能となる。具体的には、塗膜を洗浄するための溶媒の温度は、0~80℃が好ましく、5~60℃がより好ましい。使用する有機溶媒の量は前記目的が達成されれば特に限定されない。
前記乾燥工程と前記洗浄工程を両方備えることで、例えば、乾燥工程で十分に除去できない高沸点溶媒等を洗浄工程で十分に除去する事ができる。
前記乾燥工程およびエージング工程後に洗浄工程を備えることで、金属酸化物微粒子の凝集、基材との結合生成により塗膜の機械的強度を向上させ、かつ過剰な金属酸化物微粒子を除去する事により透過率も同時に向上させることができる。
【0038】
[焼成工程]
焼成工程は得られる金属酸化物薄膜の機械的強度を向上させるために必要な工程であるが、その温度と時間は、使用する金属酸化物微粒子分散液の種類によって決定される。前記焼成工程によって金属酸化物微粒子が強固に結着し、所望の機械的強度を発現する。前記焼成工程の条件は、基材の耐熱性も考慮して決定すればよい。
前記の洗浄工程と焼成工程の最適化により、得られる金属酸化物薄膜の厚さが決定され、かつ、金属酸化物薄膜の表面に金属酸化物微粒子の大きさに由来するナノレベルの微細な凹凸構造が形成される。
【0039】
<金属酸化物微粒子>
前記金属酸化物微粒子としては、例えば、ジルコニウム、チタン、セリウム、インジウム、スズ、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、及び、ハフニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含有する金属酸化物である金属酸化物微粒子が挙げられる。前記金属酸化物の具体例としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ハフニウム、酸化亜鉛が挙げられる。これらの中でも、透明な分散液を得る観点から、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、スズから選ばれる一種以上の金属元素を含有する金属酸化物が好ましい。
これらの中でも、特に、透明分散の観点から、酸化ジルコニウムが好適である。
但し、金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物は、ここに例示したものに限定されない。前記金属酸化物は、1種が単独で金属酸化物微粒子を構成していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で金属酸化物微粒子を構成していてもよい。
【0040】
前記金属酸化物微粒子は、好ましくは金属酸化物ナノ粒子であり、より好ましくは、耐擦傷性等の観点から、結晶性金属酸化物ナノ粒子である。本明細書においては、ナノサイズより大きい粒径を有する金属酸化物微粒子や結晶性金属酸化物微粒子、金属酸化物ナノ粒子、結晶性金属酸化物ナノ粒子をまとめて金属酸化物微粒子と称することがある。
結晶性金属酸化物ナノ粒子の平均粒子径は、任意であるが、結晶性金属酸化物ナノ粒子の一次粒子及び結晶子の平均粒子径は、例えば、結晶性金属酸化物ナノ粒子を目的に応じた分散媒体に透明分散させるためには重要であり、また、上記の範囲の表面粗さを持つ微細な凹凸構造を有する薄膜を形成する観点から、200nm以下であることが好ましい。
結晶性金属酸化物ナノ粒子の一次粒子及び結晶子の平均粒子径、換言すれば、金属酸化物薄膜に含まれる金属酸化物の最小粒径は、それぞれ、通常0.5nm以上、好ましくは1.0nm以上であり、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。結晶性金属酸化物ナノ粒子の一次粒子及び結晶子の平均粒子径が前記下限以上であれば、薄膜を形成したときに適度な微細な凹凸構造が形成されやすく、親水性を発現させやすくなる。一方、結晶性金属酸化物ナノ粒子の一次粒子及び結晶子の平均粒子径が前記上限以下であれば、結晶性金属酸化物ナノ粒子を透明に分散させやすくなり、また、薄膜を形成したときの表面凹凸構造が粗くなることが回避され、親水性を発現させやすくなる。なお、結晶性金属酸化物ナノ粒子の一次粒子及び結晶子の平均粒子径は、通常のX線回折測定(XRD)、動的光散乱法(DLS)、透過型電子顕微鏡(TEM)等により測定することができる。本明細書においては、実施例に記載の手順で、複数の粒子の一次粒子の粒子径を測定しそれらの算術平均値を求めることにより、平均粒子径を算出している。
【0041】
また、金属酸化物微粒子、金属酸化物ナノ粒子、及び、結晶性金属酸化物ナノ粒子の体積基準の粒度分布は、特に限定されないが、下限については、均一微細な凹凸構造を形成させRaを所定の範囲とすることができる観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1.0nm以上である。また、上限については、表面のRaを所定の範囲とすることができる観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下、特に好ましくは150nm以下、最も好ましくは100nm以下である。
【0042】
金属酸化物薄膜中の金属酸化物の最小粒径をXnm、金属酸化物薄膜の厚さをYnmとしたとき、Y/Xは、下限については十分な機械的物性、耐久性を維持できる観点から、1.0以上であり、より好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上である。上限については、十分な光線透過率を維持できる観点から、3.0以下であり、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。
なお、本明細書において、微粒子の粒度分布は、動的光散乱法(DLS)及び原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。
【0043】
また、以下で説明する前記金属酸化物微粒子の製造方法において、反応液原料の添加剤としてカルボン酸類を使用した場合、あるいは添加剤としてカルボン酸を添加せず、金属酸化物微粒子を回収後にカルボン酸類を使用した場合には、各粒子の表面にはカルボン酸類が吸着する。この場合、有機溶媒に対する各粒子の分散性は、より一層向上する。各粒子に吸着したカルボン酸類の量は任意であり、その用途に応じて所望の量を吸着させるようにすればよい。なお、前記金属酸化物微粒子にカルボン酸類が吸着していることは赤外吸収分光法(IR)により確認できる。
【0044】
結晶性金属酸化物ナノ粒子の結晶性、一次粒子の平均粒子径は、X線回折測定、動的光散乱法(DLS)、透過型電子顕微鏡観察により確認することができる。結晶子の平均粒子径は、X線回折測定の2θ=30°付近の(111)面のピーク半価幅より下記のScherrer式(式(3))を用いて計算することができる。
〔Scherrer式〕
結晶子サイズ(D)=K・λ/(β・cosθ)・・・(3)
ここで、KはScherrer定数でK=0.9であり、X線(CuKα1)波長(λ)=1.54056Å(1Å=1×10-10m)である。また、CuKα線由来のブラッグ角(θ)及び半価幅(βo)はプロファイルフィッティング法(Peason-XII関数又はPseud-Voigt関数)により算出される。更に、計算に用いた半価幅βは予め標準Siにより求めておいた装置由来の半価幅βiから下記式(4)を用いて補正される。
β=(βo-βi1/2・・・(4)
【0045】
<金属酸化物微粒子の製造方法>
前記結晶性金属酸化物ナノ粒子に代表される金属酸化物微粒子は、金属酸化物前駆体を、アミン類の存在下、分子内に酸素原子を有する有機溶媒を用いたソルボサーマル法により合成する。
【0046】
[ソルボサーマル法]
ソルボサーマル法とは、所定の溶媒の存在下、密閉容器中で高温の環境下で粒子を製造する方法であり、使用する溶媒ならびに合成温度に応じた圧力下で行う。
通常、金属酸化物前駆体と、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒と、必要に応じて、所定量のアミン類とを共存させることにより、反応液を用意する。なお、反応液には、その他の成分が含有されていてもよい。例えば、必要に応じて、その他の添加剤を含有させてもよい。これにより、この反応液は、分子内に酸素原子を有する有機溶媒中又は水溶媒に、金属酸化物前駆体、アミン類及び添加剤が溶解又は分散した組成物として用意される。
【0047】
[金属酸化物前駆体]
金属酸化物前駆体としては、所望の結晶性金属酸化物ナノ粒子が得られる限り任意の物質を使用することができる。したがって、合成しようとする結晶性金属酸化物ナノ粒子等の金属酸化物微粒子に含有される金属元素を含有する金属単体や金属化合物から適切なものを任意に選択して使用することができる。
前記金属酸化物前駆体としては、例えば、金属塩化物、金属アセテート、金属アルコキシド、金属水酸化物が挙げられる。これらの中でも、副生する不純物(例えば、塩化物等)の観点から、金属アルコキシド、金属アセテート、金属水酸化物が好ましい。
【0048】
前記金属酸化物前駆体としては、例えば、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウム-ジ-n-ブトキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、チタニウム-ジイソプロポキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、チタニウム-ジイソプロポキシド(ビスエチルアセトアセテート)、チタニウム-2-ヘキソキサイド、チタニウム-n-ブトキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムメトキシプロポキシド、チタニウム-n-ノニロキシド、チタニウムオキシド(ビステトラメチルペンタンジオネート)、チタニウム-n-プロポキシド、チタニウムステアリルオキシド、チタニウムトリイソステアリルイソプロポキシド、チタニウムトリメチルシロキシド、ジルコニウム-n-ブトキシド、ジルコニウム-t-ブトキシド、ジルコニウム-ジ-n-ブトキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、ジルコニウム-ジイソプロポキシド(ビス-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウム-2-エチルヘキサノエート、ジルコニウム-2-エチルヘキソキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウム-2-メチル-2-ブトキシド、ジルコニウム-2,4-ペンタンジオネート、ジルコニウム-n-プロポキシド、ジルコニウム-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、ジルコニウムトリメチルシロキシド、ジルコニルプロピオネート、ハフニウム-n-ブトキシド、ハフニウム-t-ブトキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウム-2,4-ペンタンジオネート、ハフニウムテトラメチルヘプタンジオネート、セリウムアセテート水和物、セリウム-t-ブトキシド、セリウム-2-エチルヘキサノエート、セリウムイソプロポキシド、セリウムメトキシエトキシド、セリウム-2,4-ペンタンジオネート水和物、セリウム-2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート、水酸化セリウム、が挙げられる。
【0049】
前記金属酸化物前駆体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
金属酸化物前駆体は、反応液中においてどのような状態で存在していてもよい。但し、通常は、金属酸化物前駆体は分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒中に溶解した状態で存在する。
【0050】
[分子内に酸素原子を有する有機溶媒]
分子内に酸素原子を有する有機溶媒は、金属酸化物前駆体が結晶性金属酸化物ナノ粒子等の金属酸化物微粒子へと変化する反応の反応溶媒として機能すると共に、金属酸化物前駆体に酸素を供給する酸素供給源としても機能する。この分子内に酸素原子を有する有機溶媒は、酸素を含有する有機溶媒であれば他に制限は無く任意のものを使用することができる。分子内に酸素原子を有する有機溶媒の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、前記反応の反応性及び酸素供給性能の観点から、通常1以上30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
前記分子内に酸素原子を有する有機溶媒の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、前記反応の反応性及び酸素供給性能の観点から、通常32以上が好ましく、50以上がより好ましく、70以上が更に好ましい。また、通常500以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下が更に好ましい。
分子内に酸素原子を有する有機溶媒の沸点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、溶媒の揮発性の観点から、通常50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、100℃以上が更に好ましく、150℃以上が特に好ましい。また、通常300℃以下が好ましく、270℃以下がより好ましく、250℃以下が更に好ましい。
【0051】
分子内に酸素原子を有する有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、エーテル類、エステル類、シロキサン類が挙げられる。また、これらの分子内に酸素原子を有する有機溶媒の1分子中に含まれる酸素原子の個数は、1個以上であれば特に限定されない。
分子内に酸素原子を有する有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、アセトン、ベンズアルデヒド、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ジフェニルエーテル、ヘキサメチルジシロキサンが挙げられる。これらの中でも、酸素供給性能の観点から、ベンジルアルコール、メトキシエタノールが好ましい。
なお、分子内に酸素原子を有する有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
分子内に酸素原子を有する有機溶媒の使用量に制限はないが、分子内に酸素原子を有する有機溶媒中の金属酸化物前駆体の濃度は、通常0.1mol/L以上が好ましく、0.3mol/L以上がより好ましく、0.5mol/L以上が更に好ましい。また、通常1.0mol/L以下が好ましく、0.8mol/L以下がより好ましく、0.6mol/L以下が更に好ましい。分子内に酸素原子を有する有機溶媒の使用量が前記範囲内であれば、ゲル化が生じにくく、また、前記金属酸化物微粒子の収量が低くなりにくい。
【0053】
前記水溶媒の使用量に制限はないが、水溶媒中の金属酸化物前駆体の濃度は、通常0.1mol/L以上が好ましく、0.3mol/L以上がより好ましく、0.5mol/L以上が更に好ましい。また、通常1.0mol/L以下が好ましく、0.8mol/L以下がより好ましく、0.6mol/L以下が更に好ましい。水溶媒の使用量が前記範囲内であれば、ゲル化が生じにくく、また、前記金属酸化物微粒子の収量が低くなりにくい。
【0054】
[アミン類]
前記アミン類は、1級アミン類、2級アミン類及び3級アミン類のいずれを用いてもよい。但し、3級アミン類を用いると、前記金属酸化物微粒子の製造方法においてアミン類を使用した効果が小さくなる場合があるため、1級アミン類及び2級アミン類のうちの1種以上を用いることが好ましい。中でも、酸化劣化着色が少ないという観点から、1級アミン類が好ましい。
また、アミン類としては、合成の際の粒子安定剤としての作用が高いという観点から、脂肪族アミン類が好ましい。特に、粒子成長の促進剤あるいは抑制剤としての効果が高いという観点から、1級及び2級のうちの1種以上の脂肪族アミン類を使用することが好ましい。
アミン類の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常8以上が好ましく、14以上がより好ましく、16以上が更に好ましい。また、通常24以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下が更に好ましい。アミン類の炭素数が前記範囲内にあれば、高温下で変性したアミンを除去しやすく、また、合成の際の粒子の安定剤としての効果を確保しやすい。
前記アミン類としては、例えば、1級アミンのうち、脂肪族アミンとしては、オレイルアミン、オクチルアミンが挙げられ、芳香族アミンとしては、例えば、アニリンが挙げられる。2級アミンのうち、脂肪族アミンとしては、例えば、ジオクチルアミン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミンが挙げられる。
前記アミン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記アミン類の使用量は、金属酸化物前駆体の全モル数に対して、モル数で、通常0.5倍以上が好ましく、1.0倍以上がより好ましく、1.5倍以上が更に好ましい。また、通常10倍以下が好ましく、6.0倍以下がより好ましく、4.0倍以下が更に好ましい。前記アミン類の使用量が前記下限以上であれば、アミン類を使用した効果を確保しやすくなり、得られる金属酸化物微粒子の粒子サイズが大きくなりにくく、得られる金属酸化物微粒子の結晶性を良好にしやすくなる。また、前記アミン類の使用量が前記上限以下であれば、前記製造方法において不純物の発生が抑制され、得られる金属酸化物微粒子の品質を良好にしやすくなる。
【0055】
[その他の添加剤]
反応液には、前記金属酸化物前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒及びアミン類の他に、添加剤を共存させてもよい。添加剤としては、例えば、カルボン酸類、分子内に酸素原子を有する有機溶媒以外の溶媒、ホスフィン類が挙げられる。
【0056】
[カルボン酸類]
カルボン酸類は、得られる結晶性金属酸化物ナノ粒子等の金属酸化物微粒子をカルボン酸類で修飾するための化合物である。分子内に酸素原子を有する有機溶媒中にカルボン酸類を共存させることにより、表面にカルボン酸類を有する金属酸化物微粒子を得られるようになる。そのため、金属酸化物微粒子の有機溶媒に対する分散性を向上させることが可能となる。分子内に酸素原子を有する有機溶媒中にカルボン酸類を共存させて金属酸化物微粒子を合成してもよいし、カルボン酸類を共存させずに金属酸化物微粒子を合成した後にカルボン酸類を金属酸化物微粒子に作用させてもよい。合成中の副反応や不純物の混入を防止する観点から、金属酸化物微粒子を作製した後にカルボン酸類を作用させることが好ましい。分子内に酸素原子を有する有機溶媒中にカルボン酸類を共存させる方法であれば、金属酸化物微粒子の合成後にカルボン酸類や分散剤を添加する工程を省略することができる。
カルボン酸類の具体的種類に制限は無く、金属酸化物微粒子に結合できる限り任意の化合物を用いることができる。着色が少ないという観点から、カルボン酸類としては脂肪族カルボン酸類が好ましい。
また、カルボン酸類の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常2以上が好ましく、3以上がより好ましい。また、通常24以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下が更に好ましい。カルボン酸類の炭素数を前記範囲内にすることで、高温下で変性したカルボン酸を除去しやすく、また、修飾剤としての効果を確保しやすくなる。
【0057】
前記カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、チグリン酸、プロピオン酸、カプリル酸、メチル酪酸、ヘキサン酸、ノナン酸、o-トルイル酸、p-トルイル酸、安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、フェニルチオ酢酸、オレイン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸が用いられる。
前記カルボン酸類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記カルボン酸類の使用量に制限はないが、金属酸化物前駆体の全モル数に対して、通常0.1倍以上が好ましく、0.75倍以上がより好ましく、1.0倍以上が更に好ましい。また、通常5.0倍以下が好ましく、3.0倍以下がより好ましく、2.0倍以下が更に好ましく、1.5倍以下が特に好ましい。カルボン酸類の使用量を前記上限以下とすることで、カルボン酸類を使用した効果を得やすくなる。また、カルボン酸類の使用量を前記下限以上とすることで、前記金属酸化物微粒子の製造方法においてゲルの発生が抑制され、得られる金属酸化物微粒子の品質を良好にしやすくなる。また、アミン類とカルボン酸類とを併用する場合には、ゲルの発生を抑制できる観点から、カルボン酸類の使用量は、アミン類に対して、モル比で、通常0.5倍以下が好ましく、0.25倍以下がより好ましい。
【0058】
前記アミン類は、結晶成長促進剤及び、結晶成長抑制剤として作用することができる。
例えば、結晶性金属酸化物ナノ粒子として酸化ジルコニウムを合成する場合、アミン類の使用により結晶成長が促進される。したがって、このようなアミン類を含む合成方法を用いることで、結晶性金属酸化物ナノ粒子を、従来よりも低温かつ短時間で合成しやすくなる。すなわち、金属酸化物前駆体に対するアミン類の添加、合成温度、合成時間、分子内に酸素原子を有する有機溶媒等を適宜調節することで結晶性金属酸化物ナノ粒子の結晶性、粒子の平均粒子径等を制御することができる。
また、金属酸化物微粒子を製造する際の添加剤としてカルボン酸類を用いた場合、前記カルボン酸類もアミン類と同様に結晶性金属酸化物ナノ粒子の表面に吸着し、結晶性金属酸化物ナノ粒子と有機溶媒との親和性を向上させる。これにより、結晶性金属酸化物ナノ粒子同士が強く引き合うことが抑制されるため、カルボン酸類を使用した場合には、結晶性金属酸化物ナノ粒子同士の凝集はより一層確実に抑制される。
【0059】
[その他の溶媒]
反応液には、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒以外の溶媒を含有させてもよい。その他の溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0060】
[反応液の調製方法]
結晶性金属酸化物ナノ粒子等の金属酸化物微粒子を製造するための反応液の調製方法は、特に限定されず任意である。また、前記金属酸化物前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒、アミン類及び必要に応じて用いられる添加剤を混合する順序も特に限定されず任意である。但し、金属酸化物前駆体は、空気中の水分と速やかに反応するものが多い。そのため、窒素雰囲気等の不活性ガス中で混合することが好ましい。例えば、分子内に酸素原子を有する有機溶媒を所定時間窒素バブリングした後、金属酸化物前駆体を所定量混合、攪拌し、その後、アミン類及び添加剤を所定量混合する方法が挙げられる。
【0061】
[反応]
前記反応液を用意した後、前記反応液を所定の反応条件に保持し、反応を進行させ、反応液内において金属酸化物微粒子を得る。
・反応温度
反応温度(ここでは、反応液の温度)は、特に限定されず、結晶性金属酸化物ナノ粒子等の所望の金属酸化物微粒子が得られる限り任意である。但し、比較的低い温度で結晶性金属酸化物ナノ粒子を得られることが利点の一つであり、反応温度は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、160℃以上が更に好ましい。また、通常240℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。反応温度が前記範囲内であれば、結晶性を有する金属酸化物ナノ粒子が得られやすく、有機物の分解による副生物の量が多くなる可能性も低く、結晶性金属酸化物ナノ粒子の品質が良好となる。なお、反応温度は一定でも変動していてもよい。また、反応液の温度が、前記反応温度の範囲内に継続的に収まっていてもよく、断続的に収まっていてもよい。更に、反応液内の温度は均一でも不均一でもよい。したがって、結晶性金属酸化物ナノ粒子が得られる限り、例えば反応液内の一部が前記反応温度の範囲外となっていても構わない。
・反応圧力
反応を進行させる際の圧力条件は、特に限定されず、結晶性金属酸化物ナノ粒子等の所望の金属酸化物微粒子が得られる限り任意である。但し、通常は、圧力条件は自圧以下である。なお、ここで自圧とは、分子内に酸素原子を有する有機溶媒の前記温度における蒸気圧を指す。
・反応時間
反応時間は、特に限定されず、結晶性金属酸化物ナノ粒子等の所望の金属酸化物微粒子を得ることができる限り任意である。但し、前記金属酸化物微粒子の製造方法においては、金属酸化物前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒及びアミン類を反応系に共存させることにより、従来よりも短時間で結晶性金属酸化物ナノ粒子を得ることができることが利点の一つである。このため、反応時間は通常48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましく、18時間以下が更に好ましい。また、通常1時間以上が好ましく、4時間以上がより好ましく、8時間以上が更に好ましい。
【0062】
・反応の際の雰囲気
反応の際の雰囲気は、特に限定されず、結晶性金属酸化物ナノ粒子等の所望の金属酸化物微粒子を得ることができる限り任意である。但し、反応は不活性雰囲気下で行なうことが好ましい。金属酸化物前駆体は、空気中の水分と速やかに反応するものが多いためである。なお、ここで不活性雰囲気とは、金属酸化物前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒及びアミン類のいずれもが雰囲気と反応しないことを意味する。不活性雰囲気を構成する雰囲気ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムが挙げられる。なお、不活性雰囲気には、単独の不活性ガスを用いてもよく、2種以上の不活性ガスを用いてもよい。
前記の反応条件を満たすためには、例えば、反応液を密閉容器内において前記の所定の反応温度に保持するようにすればよい。例えば、反応液を不活性雰囲気下で密閉容器(オートクレーブ容器等)に封入し、前記密閉容器内で加熱して前記の所定の反応温度に保持するようにすればよい。
・反応の際の工程
前記反応液の用意と反応の進行とは、一連の工程として行なうことも可能である。例えば、予め所定の反応条件を整えておいた環境で、金属酸化物前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒、アミン類及び必要に応じて添加剤を混合すれば、反応液の用意と反応の進行とを、互いに区別しない一連の工程として行なうことが可能となる。
このような合成方法により結晶性金属酸化物ナノ粒子を得ることができるが、結晶性金属酸化物ナノ粒子は、一次粒子(金属酸化物ナノ結晶の粒子が他の粒子と接していない単独の粒子のこと)もしくは弱い凝集状態のスラリーとして得られる。
【0063】
[その他の工程]
必要に応じ、前記工程以外の工程を実施してもよい。
例えば、回収工程を行なってもよい。回収工程では、前記の製造方法で得られた結晶性金属酸化物ナノ粒子等の金属酸化物微粒子を単離し、回収する。回収の際の手法は任意であるが、例えば、金属酸化物微粒子を含む組成物(反応液)と貧溶媒とを混合することにより、容易に沈殿が生じ、金属酸化物微粒子を沈殿物として回収することができる。ここで、貧溶媒とはアミン類及びカルボン酸類のうちの1種以上が吸着した金属酸化物微粒子に対する溶媒を意味する。貧溶媒としては、例えば、アルコール類が挙げられる。なお、貧溶媒の使用により、金属酸化物微粒子を洗浄することも可能となる。
また、沈殿した金属酸化物微粒子の回収は、遠心分離、フィルターろ過、その他の通常の回収方法が適用できる。
【0064】
<金属酸化物薄膜被覆体>
金属酸化物薄膜が、前記のガラス等の無機基材;ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等のポリマーフィルム等の基材の表面に設けられ、当該基材の表面を覆うことにより、金属酸化物薄膜被覆体となる。
【実施例0065】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0066】
[製造例1:金属酸化物微粒子1の作製]
500mLのベンジルアルコール(分子内に酸素原子を有する有機溶媒)を1Lの3つ口フラスコに入れ、30分窒素バブリングした。窒素バブリングしたまま、金属酸化物前駆体として70質量%のジルコニウムプロポキシドの1-プロパノール溶液116.7g(ジルコニウムプロポキシドのモル数=0.25mol)を加え、30分攪拌し、ここにオレイルアミン100.3g(アミン類=0.375mol)を添加して更に30分攪拌して反応液を調製した。この反応液をステンレス製密閉容器に封入し、200℃で12時間加熱した。反応終了後、得られた乳白色スラリー状の反応液に大過剰のエタノールを添加して沈殿物を生成させ、遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物をエタノールで3回洗浄後、回収、乾燥して、結晶性酸化ジルコニウム(金属酸化物ナノ結晶)20gを得た(金属酸化物微粒子1)。金属酸化物微粒子1の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-ARM200F)を用いて200万倍(加速電圧200kV)で観察された画像をもとに、粒子100個の大きさ(一次粒子径)を計測し、算術平均して平均粒子径を求めたところ、2nmであった。
【0067】
[製造例2:金属酸化物微粒子2の作製]
200℃での加熱時間を48時間に変更した以外は、製造例1と同様の手順で金属酸化物微粒子2を作製した。金属酸化物微粒子2の平均粒子径を前記と同様に測定したところ、5nmであった。
【0068】
[製造例3:金属酸化物微粒子3の作製]
37.32mLのベンジルアルコール(分子内に酸素原子を有する有機溶媒)を200mLのビーカーに入れ、塩化スズ(IV)五水和物1.75g(モル数=5mmol)を加え、30分間攪拌しながら窒素バブリングして反応液を調製した。この反応液をステンレス製密閉容器に封入し、130℃で3時間加熱した。反応終了後、得られた反応液に大過剰のアセトンを添加して沈殿物を生成させ、遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物をエタノールで3回洗浄後、回収、乾燥して、結晶性酸化スズ(金属酸化物ナノ結晶)0.4gを得た(金属酸化物微粒子3)。金属酸化物微粒子3について、粒径測定システム(大塚電子株式会社製、「ELSZ-2000」)で測定した粒度分布のモード径(最頻径)を確認したところ、8nmであった。
【0069】
[製造例4:金属酸化物微粒子4の作製]
135gの純水を300mLビーカーに入れ、酢酸セリウム(III)水和物3.52g(モル数=10.50mmol)を加え、攪拌しながら5mol/LのNaOH水溶液を15mL滴下し、そのまま1時間攪拌した。その後、遠心分離してゲルを回収し純水で6回洗浄して75gの純水を入れて前駆体溶液を得た。次に、39.84mmol/Lのオレイン酸Na水溶液35gを100mLビーカーに入れ、攪拌しながら15gの前駆体溶液を添加して反応液を調製した。この反応液をステンレス製密閉容器に封入し、180℃で6時間加熱した。反応終了後、得られた反応液に大過剰の純水を添加し、遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物をメタノールで3回洗浄後、回収、乾燥して、結晶性酸化セリウム(金属酸化物ナノ結晶)0.38gを得た(金属酸化物微粒子4)。金属酸化物微粒子4について、粒径測定システム(大塚電子株式会社製、「ELSZ-2000」)で測定した粒度分布のモード径(最頻径)を確認したところ、8nmであった。
【0070】
[製造例5:金属酸化物微粒子分散液1の調製]
製造例1で得られた結晶性酸化ジルコニウム(金属酸化物微粒子1)0.3gを、溶媒である酢酸ブチル28.5gに添加し、沈殿している結晶性酸化ジルコニウムをほぐしながら、超音波洗浄機にて60min分散させた。その後、分散剤としてカプリル酸0.09gとアクリル酸0.06gを加え(分散剤は結晶性酸化ジルコニウムに対して合計50質量%)、更に、超音波洗浄機にて60min分散させ、透明な金属酸化物微粒子分散液1を調製した。
【0071】
[製造例6:金属酸化物微粒子分散液2の調製]
金属酸化物微粒子1に代えて、製造例2で得られた結晶性酸化ジルコニウム(金属酸化物微粒子2)を用いること以外は製造例5と同様の操作を行うことで、透明な金属酸化物微粒子分散液2を調製した。
【0072】
[製造例7:金属酸化物微粒子分散液3の調製]
金属酸化物微粒子1に代えて、製造例3で得られた結晶性酸化スズ(金属酸化物微粒子3)を用い、更に溶媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAとも記す)、分散剤をカプリル酸のみ(分散剤は結晶性酸化スズに対して合計100質量%)に代えた以外は製造例5と同じ手順で、透明な金属酸化物微粒子分散液3を調製した。
【0073】
[製造例8:金属酸化物微粒子分散液4の調製]
金属酸化物微粒子1に代えて、製造例4で得られた結晶性酸化セリウム(金属酸化物微粒子4)を用い、更に溶媒をPGMEA、分散剤を4-トリフルオロメチル安息香酸のみ(分散剤は結晶性酸化セリウムに対して合計100質量%)に代えた以外は製造例5と同じ手順で、透明な金属酸化物微粒子分散液4を調製した。
【0074】
[実施例1:金属酸化物薄膜1の形成]
25mmφの石英基板(厚さ1mm)上に、金属酸化物微粒子分散液1を1mLスポイトで滴下し、3000rpmの速度で20秒間回転させて前記基板上に塗布した。その後、ホットプレートを用いて80℃で60秒間プレベークして、基板上に塗膜を形成した。
次に、塗膜が形成された基板を、暗所に25℃、3時間放置することによりエージングを行った。
エージング後の塗膜に対して、スピンコーターを用いて、300rpmで10秒間回転させながら溶媒であるPGMEAを供給することにより、塗布面を洗浄した。
その後、溶媒洗浄後の塗膜付き基板を、4時間かけて室温から800℃まで昇温して、800℃で30分間保持し、その後、放冷することより、塗膜を焼結し、金属酸化物薄膜1を形成した。
【0075】
[実施例2:金属酸化物薄膜2の形成]
金属酸化物微粒子分散液1に代えて、金属酸化物微粒子分散液2を用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物薄膜2を形成した。
【0076】
[実施例3:金属酸化物薄膜3の形成]
金属酸化物微粒子分散液1に代えて、金属酸化物微粒子分散液3を用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物薄膜3を形成した。
【0077】
[実施例4:金属酸化物薄膜4の形成]
金属酸化物微粒子分散液1に代えて、金属酸化物微粒子分散液4を用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物薄膜4を形成した。
【0078】
[比較例1:金属酸化物薄膜C1の形成]
25mmφの石英基板(厚さ1mm)上に、金属酸化物微粒子分散液1を1mLスポイトで滴下し、1000rpmの速度で20秒間回転させて前記基板上に塗布した。その後、ホットプレートを用いて80℃で60秒間プレベークして、基板上に塗膜を形成した。
その後、塗膜付き基板を、4時間かけて室温から800℃まで昇温して、800℃で30分間保持し、その後、放冷することより、塗膜を焼結し、金属酸化物薄膜C1を形成した。
【0079】
[比較例2:金属酸化物薄膜C2の形成]
金属酸化物微粒子分散液1に代えて、金属酸化物微粒子分散液2を用いること以外は比較例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物薄膜C2を形成した。
【0080】
[比較例3:金属酸化物薄膜C3の形成]
金属酸化物微粒子分散液1に代えて、金属酸化物微粒子分散液3を用いること以外は比較例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物薄膜C3を形成した。
【0081】
[比較例4:金属酸化物薄膜C4の形成]
金属酸化物微粒子分散液1に代えて、金属酸化物微粒子分散液4を用いること以外は比較例1と同様の操作を行うことで、金属酸化物薄膜C4を形成した。
【0082】
各実施例及び比較例の金属酸化物薄膜の物性値の測定と評価は以下の手順で行った。
【0083】
[金属酸化物薄膜の物性値の測定]
・表面粗さRa、表面粗さの最大値Rmax、及び金属酸化物微粒子のAFM表面観察での一次粒子径(最小粒径(X))の測定
表面粗さ測定は、原子間力顕微鏡(AFM)であるブルカー・エイエックスエス社製 NanoScope V / Dimension Iconを用いて行った。AFM測定条件は、測定モードをタッピングモードとし、測定範囲を1μm×1μm、測定点数512×512とした。測定データを元に表面粗さRa及び表面粗さの最大値Rmaxを算出した。算出に当たっては、測定箇所によるばらつきを統計的に処理し、3視野分の測定値を用いて、算術平均値を算出して、Ra及びRmaxの測定値とした。また、観察された表面上の金属酸化物微粒子のうち最小粒径のものを一次粒子径の測定値(最小粒径(X))とした。
【0084】
・金属酸化物薄膜の厚さ
焼成後の金属酸化物薄膜について、リソテックジャパン社製分光エリプソメータUNECSを用いて厚さをそれぞれ測定し、それらを金属酸化物薄膜の厚さとした。
【0085】
・水の接触角の測定及び評価
実施例及び比較例で得られた金属酸化物薄膜について、親水性を評価するために、以下の手順で、各薄膜における水の接触角を測定した。
大気中で、各金属酸化物薄膜上にピペットで1μLの純水を滴下し、0.1秒経過後に側面から撮影し、撮影画像に基づいて接触角を測定することにより評価した。具体的には、接触角が10°以下であれば親水性が十分高いものと評価し、接触角が上記値を超える場合は親水性が不足しているものと評価した。
【0086】
・分光透過率の測定及び透明性の評価
実施例及び比較例で得られた金属酸化物薄膜付きの石英基板について、オーシャンオプティクス社製分光光度計USB-4000を用いて、200nmから900nmの波長域の分光透過率測定を行った。全波長域において90%以上の透過率を示す場合、十分透明であると判断して「A」と評価し、いずれかの波長で透過率が80%以上90%未満である場合を「B」と評価し、いずれかの波長で透過率が80%未満である場合を「C」と評価した。
実施例1、2及び比較例1、2の金属酸化物薄膜付きの基板の分光透過率のグラフを図1、2に示す。濃い実線が実施例1で得られた金属酸化物薄膜付き基板の分光特性であり、薄い実線が実施例2で得られた金属酸化物薄膜付き基板の分光特性であり、濃い破線が比較例1で得られた金属酸化物薄膜付き基板の分光特性であり、薄い破線が比較例2で得られた金属酸化物薄膜付き基板の分光特性である。なお、図1の分光特性は、同様の手順で測定した単独の石英基板の分光特性に対する相対値で示したものであり、光線透過率100%の場合、石英基板の光線透過率と等しいことを意味する。
図1から明らかなように、200nm~400nmの全範囲において、実施例1、2の金属酸化物薄膜は、単独の石英基板と同等の高い透明性を示し、透過率低下もほとんどないことが判る。一方で、比較例1、2の金属酸化物薄膜には前記波長範囲において透過率が80%以下となる波長領域が存在していた。また、図2から明らかなように、400nm~900nmの全範囲において、実施例1、2金属酸化物薄膜は、単独の石英基板と同等の高い透明性を示し、透過率低下もほとんどないことが判る。
【0087】
各実施例及び比較例の測定と評価の結果を表1に示す。なお、実施例3及び4、並びに比較例3及び4の「平均粒子径」については、平均粒子径の代わりにモード径を記載する。
【0088】
【表1】
【0089】
[水中撥油性の評価]
水中撥油性については、実施例1,2で得られた金属酸化物薄膜付きの石英基板、及び、単独の石英基板を純水中に静置し、ピペットで1μLの植物油(キャノーラ油)を金属酸化物薄膜上に吐出し、約1秒経過後に側面から撮影し、その撮影画像に基づいて接触角を測定することにより評価した。具体的には、接触角が100°以上であれば十分な撥油性があるものと評価し、接触角が100°値未満である場合は撥油性が不足しているものと評価した。
その結果、実施例1、2の金属酸化物薄膜付きの基板は、それぞれ接触角が、124°、119°であり、十分な水中撥油性を有していた。つまり、実施例1、2の金属酸化物薄膜は高い防汚機能を有することが判る。
【0090】
[防曇性の評価]
実施例1で得られた金属酸化物薄膜付きの石英基板について、以下の手順で防曇性の評価を行った。
容器に満たされた65℃の温水の水面に対して5cmの距離をあけて前記基板を配置し、その曇りの状況を目視で観察した。その結果、実施例1の基板は、3分経過しても曇らなかった。つまり、実施例1の金属酸化物薄膜は高い防曇性を有していることが判る。
【0091】
[防汚性の評価]
実施例1、2で得られた金属酸化物薄膜付きの石英基板、及び、単独の石英基板について、以下の手順でセルフクリーニング効果の有無を確認することにより、防汚性を評価した。
予め各基板を純水で濡らした後、ゴマ油を0.1mL滴下し、次いで2mLの純水を供給することにより、ゴマ油が流れ落ちるかどうか(すなわち、セルフクリーニング効果を有するか否か)を確かめた。ここで用いたゴマ油は、炭素数18の不飽和脂肪酸であるオレイン酸とリノール酸を主成分とする混合物である。
その結果、実施例1、2の金属酸化物薄膜付き基板では、単独の基板に比べて、高いセルフクリーニング効果が得られた。つまり、実施例1、2の金属酸化物薄膜は良好な防汚性を備えていることが判る。
【0092】
前記のように、表1に示された測定結果、及び、上記の各種評価結果から明らかなように、実施例1、2、3、4の金属酸化物薄膜では、表面にナノ構造体を有することにより、透明性、防曇性、及び防汚性に優れていることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、透明性、防曇性、及び、防汚性を高いレベルで実現可能な金属酸化物薄膜、その製造方法、及び金属酸化物被覆体を提供することができるので、光学材料、医療用材料、電子部品等の幅広い分野において好適に使用することができ、産業上、極めて重要である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6