(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146989
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】シリカ-チタニア複合酸化物
(51)【国際特許分類】
C01B 33/20 20060101AFI20220929BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220929BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220929BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C01B33/20
C08L63/00 C
C08K3/34
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048053
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】沼田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】木口 雅英
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慧
【テーマコード(参考)】
4G073
4J002
4M109
【Fターム(参考)】
4G073BA20
4G073BA63
4G073BA75
4G073BB03
4G073BB05
4G073BB57
4G073BB66
4G073BD03
4G073BD21
4G073CD01
4G073FA14
4G073FC07
4G073FD23
4G073GA01
4G073GA11
4G073GA40
4G073UA08
4G073UA20
4J002CD021
4J002CD041
4J002CD051
4J002CD071
4J002CD141
4J002DE136
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4J002GJ02
4J002GQ00
4J002GQ05
4M109AA01
4M109BA03
4M109EA02
4M109EB12
4M109EB17
(57)【要約】
【課題】 エポキシ樹脂硬化用硬化剤として用いることができ、かつエポキシ樹脂硬化物の線膨張係数を低下させて、当該硬化物の信頼性を高めることのできるフィラーとしても使用できる無機粉末の提供。
【解決手段】 BET比表面積が25~60m2/g、好ましくは25~40m2/gであり、ブロモフェノールブルーを指示薬としたアミン滴定法で検出できるpKa4.1以下の酸量が0.1μmol/m2以上、好ましくは0.15μmol/m2以上のシリカ-チタニア複合酸化物。pKa4.1以下の酸点がエポキシ樹脂の硬化を促進するが、比表面積が小さすぎると、酸点の絶対量も減るため硬化剤としての効果が出がたく、大きすぎるとエポキシ樹脂に充填し難くなる。このようなシリカ-チタニア複合酸化物は、シロキサン化合物とチタンアルコキシドとを気化させ、その混合物の燃焼反応を利用する方法により製造することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の物性を有することを特徴とするシリカ-チタニア複合酸化物。
(1)BET比表面積が25~60m2/g
(2)pKa4.1以下の酸量が0.1μmol/m2以上
【請求項2】
遠心沈降法により得られる重量基準粒度分布から算出される累積50%重量径(D50)および同累積90重量%径(D90)が以下の関係にあるシリカ-チタニア複合酸化物。
0.3 ≦ (D90-D50)/D50 ≦0.5
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシリカ-チタニア複合酸化物とエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物からなる半導体用封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシリカ-チタニア複合酸化物に関する。詳しくは、エポキシ樹脂硬化用硬化剤として用いることができ、かつエポキシ樹脂硬化物の線膨張係数を低下させて、硬化物の信頼性を高めることの可能なフィラーとして使用できるシリカ-チタニア複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着剤、シール剤、コーティング剤等の様々な用途に用いられている。
【0003】
一般に、エポキシ樹脂には、硬化反応を進行させるための成分として硬化剤や硬化促進剤が添加される。
【0004】
半導体用封止材にもエポキシ樹脂が用いられ、例えば、フリップチップ実装体では、接続した半導体チップおよび配線基板、およびバンプを保護するためのアンダーフィル剤として使用される。エポキシ樹脂、半導体チップ、および配線基板は、それぞれ異なる線膨張係数を有するため、接続部が応力を吸収できないと、当該接続部にクラックが発生することがある。このクラックの発生を抑えるため、アンダーフィル剤には、シリカなどの線膨張係数の比較的小さいフィラーを混合している。
【0005】
近年、アンダーフィル剤は硬化物の性能向上のため、エポキシ樹脂、硬化剤、フィラーだけでなく、様々な添加剤を加えている(たとえば、特許文献1または2)。製造工程の簡略化を求めて、硬化剤として用いることのできるフィラーなどの複数の特性を持つ材料が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-135429号公報
【特許文献2】特開2020-186397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、エポキシ樹脂硬化用硬化剤として用いることができ、エポキシ樹脂硬化物の線膨張係数を低下させて、当該硬化物の信頼性を高めることのできるシリカ-チタニア複合酸化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記目的を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、強い固体酸をもつシリカ-チタニア複合酸化物がエポキシ樹脂硬化剤としての特性を有するフィラーとして用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の物性を有することを特徴とするシリカ-チタニア複合酸化物である。
【0010】
(1)BET比表面積が25~60m2/g
(2)pKa4.1以下の酸量が0.10μmol/m2以上
【発明の効果】
【0011】
本発明により、エポキシ樹脂硬化用硬化剤として用いることができ、エポキシ樹脂硬化物の線膨張係数を低下させて、当該硬化物の信頼性を高めることのできるシリカ-チタニア複合酸化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で得られたシリカ-チタニア複合酸化物の重量基準粒度分布
【
図2】実施例2で得られたシリカ-チタニア複合酸化物の重量基準粒度分布
【
図3】実施例3で得られたシリカ-チタニア複合酸化物の重量基準粒度分布
【
図4】比較例1で得られたシリカの重量基準粒度分布
【
図5】比較例2で用いた酸化チタンの重量基準粒度分布
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、
(1)BET比表面積が25~60m2/g、
(2)pKa4.1以下の酸量が0.1μmol/m2以上、
という物性を有する。
【0014】
(1)BET比表面積
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物のBET比表面積は、窒素吸着BET1点法によって特定され、25~60m2/gである。25m2/gより小さい場合は粒子表面の酸点による寄与が少ないことを意味し、エポキシ樹脂の硬化反応が進まず、通常使用されるフィラーと変わらない。60m2/gを超えて大きい場合はエポキシ樹脂に高充填することが難しくなり、硬化物の線膨張係数を低下させるフィラーとしての効果が出がたい。より好ましくは、25~40m2/gである。
【0015】
(2)pKa4.1以下の酸量
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物のpKa4.1以下の酸量は、ブロモフェノールブルーを指示薬としたアミン滴定法で特定され、0.1μmol/m2以上である。0.1μmol/m2よりも少ない場合は粒子の固体酸性が弱いことを意味し、酸触媒によるエポキシド開環反応が進まないため、硬化剤としての効果が十分に出ず、エポキシ樹脂硬化反応が進行し難い。より好ましくは0.15μmol/m2以上である。
【0016】
なおシリカ-チタニア複合酸化物においては、上記pKa4.1以下の酸点のなかにpKaが1.7以下である酸点をもつ場合があるが、本発明者等の検討によれば、エポキシ樹脂の硬化剤として作用する酸点はpKaが4.1以下であればよく、上記pKa1.7以下の酸点は、その存在量の多寡を問わない。
【0017】
さらにpKa4.1を超える酸点も存在するのが一般的であるが、このような酸点はエポキシ樹脂の硬化剤としての作用に事実上寄与しない。
【0018】
上記物性(1)比表面積、および(2)酸量を満足する本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、エポキシ樹脂硬化用フィラーとして、硬化剤とフィラーの両方の役割を発揮する。
【0019】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、上記物性を有すればよいが、以下のような物性をさらに有することが好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂への充填性の向上、流動性の向上などの点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、1次粒子が球状であることが好適である。より具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したSEM像を得、画像解析により個々の粒子について下記式(1)によって定義される値C(円形度)を求め、この円形度Cを2000個以上の粒子について相加平均値として算出する平均円形度が0.8以上であることが好ましい。
【0021】
C=4πS/L2
[式(1)において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
【0022】
さらに、透明性には粒子による散乱も影響する点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は遠心沈降法により得られる重量基準粒度分布から算出されるメジアン径(累積50%重量径:以下、D50)が50~200nmの範囲にあることが好ましい。
【0023】
さらに、エポキシ樹脂への充填性の点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は多分散粒子であることが好ましい。具体的には、上記D50および同累積90重量%径(以下、D90)の関係において、(D90-D50)/D50が0.3~0.5の範囲にあることが好ましい。
【0024】
さらに、エポキシ樹脂の屈折率と一致することで透明性が発揮できる点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は波長589nm(ナトリウムのD線)における屈折率が1.50~1.60の範囲にあることが好ましい。
【0025】
当該屈折率は、Tiの割合(Tiモル比)に依存して変化する。即ち、シリカ(SiO2)の屈折率1.46をベースとし、TiO2の割合が増えていくに従い上昇していく。そのため上記屈折率を得やすい点で、Tiの割合(Tiモル比)は、SiとTiとの合計を100mol%とした際に、4~17mol%であることが好ましく、特に5~17mol%であることが好ましい。
【0026】
また、シリカとチタニアが相分離すると粒子内で屈折率が変化し、エポキシ樹脂に充填した際に白濁が発生する点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は結晶型が非晶質である(X線回折によりピークが検出されない)ことが好ましい。
【0027】
さらに、光触媒作用による樹脂の分解、劣化を防ぐ点で本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、光触媒活性を持たないことが好適である。
【0028】
また粉体として存在している場合、色調は目視で白色であることがより好ましい。
【0029】
(シリカ-チタニア複合酸化物の製造方法)
上記のような特性を有する本発明のシリカ-チタニア複合酸化物の製造方法は特に制限されないが、本発明者等の検討によれば、シロキサン化合物とチタンアルコキシドとの混合物の燃焼反応を利用する方法により製造することができる。
【0030】
シロキサン化合物としては、気化可能な化合物であればよいが、具体的にはヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の炭化水素基置換シロキサンが挙げられる。またチタンアルコキシドとしては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラ-s-ブトキシチタン、テトラ-t-ブトキシチタンなどの有機チタン化合物が挙げられる。前記シロキサン化合物のうち一種類、あるいは複数種類と前記チタンアルコキシドのうち一種類、あるいは複数種類とを混合して使用することができる。
【0031】
この製造方法によれば、原料混合物におけるTiモル比は、製造されるシリカ-チタニア複合酸化物におけるTiモル比とほぼ一致するから、シロキサン化合物とチタンアルコキシドとの混合割合は、目的値に一致するように各化合物におけるSi含有量、Ti含有量を考慮して用いればよい。但し若干のずれも生じ得るため、製造されたシリカ-チタニア複合酸化物におけるTiモル比は、XRF等で確認して確定させることが望ましい。
【0032】
シロキサン化合物とチタンアルコキシドとの混合物の燃焼反応を利用する方法においては、用いるバーナの形状は特に限定されないが、同心円多重管バーナであることが、点火の容易さや燃焼安定性等の点で好ましい。同心円多重管バーナは、中心および中心管から同心円状に広がる複数の環状管より構成される。
【0033】
以下、中心管および2本の環状管から構成される同心円3重管バーナを用いた方法を詳述する。
【0034】
上記3重管バーナの中心管には、気化したシロキサン化合物とチタンアルコキシドと酸素を予め混合し導入する。この際、シロキサン、チタンアルコキシド、酸素の他に、窒素などの不活性ガスを混合してもよい。また、酸素源として空気を利用してもよい。
【0035】
混合する酸素の量は、RO=(シロキサン化合物とチタンアルコキシドに混合する酸素量)/(化学量論的にシロキサン化合物とチタンアルコキシドが完全燃焼するに必要な酸素量)、及びO2濃度=(中心管に導入した酸素量)/(中心管に導入した酸素量+中心管に導入した窒素量)を指標に調整することができる。
【0036】
より厳密には、上記ROは、下記式(1)によって定義される。
【0037】
RO=NO0/NDO0 式(1)
NO0:中心管導入酸素量(Nm3/h)
NDO0:中心管に導入する可燃性物質が化学量論的に完全燃焼するのに必要な酸素量(Nm3/h)
【0038】
上記NDO0は、中心管に導入する可燃性物質、具体的にはシロキサン化合物及びチタンアルコキシドの導入量を以下のように定義し、かつ、シロキサン化合物及びチタンアルコキシドの化学構造に依存して要求される酸素量を係数として用いることにより算出できる。
【0039】
NS:中心管導入シロキサン量(Nm3/h)
NT:中心管導入チタンアルコキシド量(Nm3/h)
【0040】
例えば、シロキサン化合物がオクタメチルシクロテトラシロキサンである場合、当該化合物はC8H24O4Si4であるから、化学量論的に完全燃焼すると8CO2+12H2O+4SiO2となり、よって必要な酸素量(O2量)は16モル倍である。またチタンアルコキシドがテトラ-i-プロポキシチタンである場合には、完全燃焼に必要な酸素量は18モル倍である。よって、これら化合物を原料とした場合のNDO0は以下のようになる。
【0041】
NDO0=16NS+18NT
【0042】
なおNDO0は中心管に導入する可燃性物質全てを完全燃焼させるために必要な酸素量であるから、仮にシロキサン化合物及びチタンアルコキシド以外の可燃性ガスを導入した場合には、その寄与も考慮する必要がある。例えば、水素ガスを導入した場合には以下のようになる。
【0043】
RO=NO0/NDO=NO0/(16NS+18NT+0.5NH0)
NH0:中心管導入水素量(Nm3/h)
【0044】
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物を製造する際には、上記ROを0.2以上とする。ROが0.2より小さい場合は、原料の未燃焼が発生する。
【0045】
またO2濃度は80%以下とする。O2濃度が80%より大きい場合は、火炎の逆火が発生する虞があり、燃焼が不安定である。
【0046】
中心管の外側にある第1環状管には、燃焼補助火炎形成のため水素や炭化水素などの可燃性ガスを導入する。このとき、窒素などの不活性ガス、および/または酸素などの支燃性ガスを混合してもよい。第1環状管における可燃性ガスの量は、火炎が形成できる程度であれば適宜設定して良く、中心管における組成とは異なり得られるシリカ-チタニア複合酸化物の物性に影響を与えないが、安定した火炎を形成しやすい点で、下記式で定義される補助燃料比RSFLが0.005~0.5となるようにすることが望ましい。0.5より大きい場合は格別な効果はなく、経済的に不利になる。0.005より小さい場合は燃焼が不安定となり、火炎が形成されない。
【0047】
RSFL=NDO1/NDO0
NDO1:第1環状管に導入する可燃性物質が化学量論的に完全燃焼するのに必要な酸素量(Nm3/h)
【0048】
例えば、第1環状管に導入する可燃性ガスが水素ガスであり、その導入量を
NH1:第1環状管導入水素量(Nm3/h)
と定義した場合、NDO1は0.5NH1となる。そして、前記と同様にシロキサン化合物がオクタメチルシクロテトラシロキサン、チタンアルコキシドがテトラ-i-プロポキシチタンである場合には、
RSFL=0.5NH1/NDO0
=0.5NH1/(16NS+18NT+0.5NH0)
=NH1/(32NS+36NT+NH0)
となる。
【0049】
第1環状管の外側にある第2環状管には、燃焼補助火炎形成のため酸素などの支燃性ガスを導入する。このとき、窒素などの不活性ガスを混合しても良い。第2環状管における支燃性ガスの量は、火炎が形成できる程度であれば適宜設定して良く、中心管における組成とは異なり得られるシリカ-チタニア複合酸化物の物性に影響を与えないが、下記式で定義される支燃性酸素比Rcmbtsが0.1~2.0となるように供給することが望ましい。2.0より大きい場合は格別な効果はなく、経済的に不利になる。0.1より小さい場合は燃焼が不安定となり、火炎が形成されない。
【0050】
Rcmbts=NO2/NDO0
NO2:第2環状管導入酸素量(Nm3/h)
=0.21×第2環状管導入空気量(Nm3/h)
【0051】
上記のようにして製造したシリカ-チタニア複合酸化物は、金属フィルター、セラミックフィルター、バグフィルター等によるフィルター分離やサイクロン等による遠心分離で燃焼ガスと分離させて、回収すればよい。
【0052】
上述した製造方法によれば、比表面積および酸量のみならず、他の物性も通常は、前述した範囲のものとなる。
【0053】
さらに上記方法で製造したシリカ-チタニア複合酸化物は無孔性であり、その密度は理論値にほぼ一致する。即ち、シリカ(SiO2)の密度を2.2g/cm3、チタニア(TiO2)の密度を3.9g/cm3とし、Tiモル比を用いて計算した数値は、実測値と一致する。
【0054】
上記のようにして製造した本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、そのままエポキシ樹脂に混合することもできるが、表面処理剤により表面処理して使用に供することもできる。
【0055】
即ち、本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、処理後の物性が前記した表面積及び酸量を満足する限り、シリル化剤、シリコーンオイル、シロキサン類、金属アルコキシド、脂肪酸及びその金属塩等の表面処理剤によって表面処理されていてもよい。
【0056】
具体的なシリル化剤として、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、o-メチルフェニルトリメトキシシラン、p-メチルフェニルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、i-ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、へキサプロピルジシラザン、ヘキサブチルジシラザン、ヘキサペンチルジシラザン、ヘキサヘキシルジシラザン、ヘキサシクロヘキシルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザン等のシラザン類等が挙げられる。
【0057】
また、シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、末端反応性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0058】
また、シロキサン類としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等が挙げられる。
【0059】
また、金属アルコキシドとしては、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-i-プロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-s-ブトキシアルミニウム、トリ-t-ブトキシアルミニウム、モノ-s-ブトキシジ-i-プロピルアルミニウム、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラ-s-ブトキシチタン、テトラ-t-ブトキシチタン、テトラエトキシジルコニウム、テトラ-i-プロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、ジメトキシ錫、ジエトキシ錫、ジ-n-ブトキシ錫、テトラエトキシ錫、テトラ-i-プロポキシ錫、テトラ-n-ブトキシ錫、ジエトキシ亜鉛、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムイソプロポキシド等が挙げられる。
【0060】
また、更に脂肪酸及びその金属塩を具体的に例示すれば、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ステアリン酸、ヘプタデシル酸、アラキン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などの長鎖脂肪酸が挙げられ、その金属塩としては亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、リチウム等の金属との塩が挙げられる。
【0061】
上記表面処理剤を使用した表面処理の方法は公知の方法が何ら制限無く使用できる。例えば、シリカ-チタニア複合酸化物を攪拌下に表面処理剤を噴霧するか、気化させて蒸気として接触させる方法が一般的である。
【0062】
公知の一般的な表面処理方法によれば、処理後の比表面積は同等か若干低下する程度であり、また処理剤の使用量を適切に制御することで酸点を残したまま表面処理することができる。
【0063】
なお、本発明のシリカ-チタニア複合酸化物におけるエポキシ樹脂の硬化剤としての作用を利用しない場合には、表面処理後の酸量が前記値を下回っても構わない。
【0064】
(用途))
本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、エポキシ樹脂の硬化剤としての作用を有する。そのためエポキシ樹脂組成物におけるフィラー兼硬化剤として好適に使用できる。
【0065】
当該エポキシ樹脂の種類は特に限定されるものではないが、1分子中にエポキシ基を2個以上有するオリゴマー、ポリマーであるエポキシ樹脂が好適である。例えば、ビスフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂等があげられる。これらのうち一つを単独で、あるいは複数を混合して用いればよい。
【0066】
また、エポキシ樹脂組成物とする場合には、その硬化物の性能向上のため、公知の硬化剤、硬化促進剤、添加剤などの各成分を加えてもよい。
【0067】
このようなエポキシ樹脂組成物は、公知のエポキシ樹脂組成物と同様の用途に使用することができ、例えば半導体封止材として使用できる。
【0068】
またエポキシ樹脂組成物とする場合、本発明のシリカ-チタニア複合酸化物の配合量は、その用途に応じて公知の範囲から適宜選択して決定できるが、一般的には全組成部中30~85質量%、多くは40~75質量%である。
【0069】
さらに本発明のシリカ-チタニア複合酸化物は、そのエポキシ樹脂の硬化剤としての作用を利用せず、単に他の樹脂組成物のフィラーとして使用することもできる。この場合には、公知のシリカ-チタニア複合酸化物と同様に使用すればよい。具体的には、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン系樹脂のフィラー等として使用することができる。
【実施例0070】
以下、本実施形態における実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0071】
なお、以下の実施例および比較例における各種の物性測定等は以下の方法による。
【0072】
(1)BET比表面積
BET比表面積測定装置(柴田科学社製SA-1000)を用い、窒素吸着BET1点法により比表面積(m2/g)を測定した。
【0073】
(2)XRF
粒子中のシリカ含有量とチタニア含有量を蛍光X線分析装置(リガク社製ZSX PrimusIV)を用いて測定した。得られたSi量とTi量との合計を100mol%として含有量を算出した。
【0074】
(3)酸量
粒子の酸量は、Lewis酸、Bronsted酸の合計酸量とし、メチルレッドおよびブロモフェノールブルー、チモールブルーを指示薬としたアミン滴定法にて以下のように測定した。
【0075】
粒子0.5gとベンゼン(富士フィルム和光純薬社製 試薬特級)20mLをガラス製のサンプル管瓶(アズワン社製、内容量30ml、外径約28mm)に秤量した。このサンプル管瓶を、超音波細胞破砕器(BRANSON社製Sonifier SFX250、プローブ:1/4インチ)のプローブチップ下面が液面下15mmになるように設置し、出力20Wで3分間分散して分散液を調製した。
【0076】
この分散液にメチルレッド(富士フィルム和光純薬社製)をベンゼンで0.1重量%に希釈した溶液を0.1mL加えて手振りで混合し、1時間静置後、ブチルアミン(富士フィルム和光純薬社製 和光特級)をベンゼンで0.05mol/Lに希釈した溶液で滴定した。滴定の終点は、分散液の色が赤色から黄色になる点とした。ブチルアミンの滴定量からpKa4.8における酸量(mmol/g)を求め、対象の比表面積から算出される単位表面積当たりの酸量(μmol/m2)をpKa4.8以下の酸量とした。
【0077】
同様の方法で指示薬をブロモフェノールブルー(富士フィルム和光純薬社製)、チモールブルー(富士フィルム和光純薬社製)に変えて滴定した。滴定の終点は、それぞれ分散液の色がブロモフェノールブルーは黄色から青色になる点とし、チモールブルーは赤色から黄色になる点とした。指示薬として、ブロモフェノールブルーを用いたものをpKa4.1以下の酸量(μmol/m2)とし、チモールブルーを用いたものをpKa1.7以下の酸量(μmol/m2)とした。
【0078】
(4)炭素量
燃焼法元素分析装置(住化分析センター社製スミグラフNC-22F)を用いて炭素量を測定した。なお測定サンプル量は50~100mgとした。
【0079】
(5)光触媒活性
アセトアルデヒド空気浄化性能試験(JIS R 1701-2)の緩和条件を用いて光触媒活性によるアセトアルデヒド除去率を評価した。試験片は粉末サンプル200mgをスリガラス(49×99mm)に秤量し、それを蒸留水で塗り広げた後に自然乾燥したものを1枚の試験片とした。緩和条件のため試験には試験片を2枚用いた。
【0080】
(6)XRD測定
結晶構造はX線回折装置(リガク社製smartLab)を用いて測定した。測定条件はCuKα線を用い、スキャン範囲2θ=10~90°、スキャンスピ-ド1°/min、ステップ幅0.02°とした。
【0081】
(7)粒度分布
(測定サンプルの調製)
測定サンプルである粒子濃度0.25質量%水懸濁液を、以下のように調製した。粒子0.05gと蒸留水20mlをガラス製のサンプル管瓶(アズワン社製、内容量30ml、外径約28mm)に入れ、超音波細胞破砕器(BRANSON社製Sonifier II Model 250D、プローブ:1/4インチ)のプローブチップ下面が水面下15mmになるように試料入りサンプル管瓶を設置し、出力20W、分散時間3分の条件で粒子を蒸留水に分散し、測定サンプルである粒子濃度0.25質量%水懸濁液を調製した。
【0082】
(粒度分布測定)
CPSInstruments Inc.製のディスク遠心式粒度分布測定装置(DC24000)を用いて、重量基準粒度分布を測定した。なお測定条件は、回転数18000rmp、温度32℃、シリカとシリカーチタニアの真密度を2.2g/cm3、チタニアの真密度を3.9g/cm3とした。なお各実施例で製造したシリカーチタニアにおけるチタニアの比率は比較的少ないため、真密度を2.2g/cm3としても結果は誤差範囲に収まる。
【0083】
得られた重量基準粒度分布からD10とD25とD50とD75とD90を算出した。それぞれ、累積10重量%径、累積25重量%径、メジアン径(累積50重量%)、累積75重量%径及び累積90重量%径である。
【0084】
(8)エポキシ樹脂硬化特性
(エポキシ樹脂組成物の調製)
ビスフェノールA+F型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル社製、ZX-1059)100重量部に対して粒子100重量部の割合で混合し手練りした。その後、自転公転式ミキサー(シンキー社製、あわとり練太郎AR-500)を用いて、回転数1000rpmで8分間撹拌、その後、回転数2000rpmで2分間脱泡することで混錬し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0085】
(樹脂硬化特性評価)
エポキシ樹脂組成物を120℃と150℃の恒温槽で加熱し、加熱し始めてからゲル化するまでの時間を測定した。なお、樹脂硬化特性において加熱後30分ですでにゲル化していたものについては<0.5、24時間でゲル化しなかったものについては>24と表記する。
【0086】
実施例1
シロキサン化合物としてオクタメチルシクロテトラシロキサンを、チタンアルコキシドとしてテトラ-i-プロポキシチタンを原料として用い、以下の条件設定のもと3重管バーナで燃焼させ、シリカ-チタニア複合酸化物を製造した。
【0087】
オクタメチルシクロテトラシロキサンとテトラ-i-プロポキシチタンは、Tiモル比が5.0となるように混合し、加熱気化させて酸素および窒素と混合し、473Kで中心管に導入した。当該中心管におけるROは0.7、O2濃度は30vol%となるように各ガスの比率は調整した。
【0088】
第1環状管にはRSFLが0.26でかつ体積比1.4:1となるよう水素と窒素を423Kで導入した。第2環状管にはRcmbtsが0.52となる量の空気を423Kで導入した。これらの条件は表1に示す。なお、表中のRDTは下記で定義され、中心管にシロキサン化合物及びチタンアルコキシド以外の可燃性物質が導入されない場合には1であり、他の可燃性物質が含まれた場合には、その割合に応じて1未満の値をとる。
【0089】
RDT=NDOM/NDO0
NDOM:中心管に導入するシロキサン化合物及びチタンアルコキシドが化学量論的に完全燃焼するのに必要な酸素量(Nm3/h)
上記条件にて得られた粒子の物性、及び樹脂硬化特性を表1に示す。
【0090】
実施例2~3及び比較例1
製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして粒子の製造を行った。各評価結果を表1に示す。
【0091】
実施例4
実施例2と同様の方法で得られたシリカ-チタニア複合酸化物を表面処理反応装置に100重量部投入後、窒素置換しながら、250℃に昇温した。その後、反応装置を密閉し、水蒸気を0.4重量部導入した。そして、ヘキサメチルジシラザンを4重量部添加した。1時間保持し、窒素置換を行った後、室温まで冷却し、表面にトリメチルシリル基を導入した疎水化シリカ-チタニア複合酸化物を得た。各評価結果を表1に示す。
【0092】
比較例2
酸化チタン(IV),アナターゼ型(富士フイルム和光純薬社製、和光一級)を使用した。樹脂硬化特性を表1に示す。
【0093】
さらに、ディスク遠心式粒度分布測定装置で測定された重量基準粒度分布について、
図1に実施例1の、
図2に実施例2の、
図3に実施例3の、
図4に比較例1の、
図5に比較例2の粒度分布を示す。
【0094】
【0095】
これら実施例より、シリカ-チタニア複合酸化物粒子がエポキシ樹脂の硬化剤として用いることのできるフィラーであるということが分かる。また表面処理が行なわれたものであっても、比表面積と酸量の両物性を満たせば硬化剤としての効果があることが分かる。