(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147033
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】口臭抑制成分のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220929BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220929BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048115
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】原 武史
(72)【発明者】
【氏名】久保庭 雅惠
(72)【発明者】
【氏名】天野 敦雄
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA40
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ20
4B063QQ80
4B063QR49
4B063QR76
4B063QX02
4B063QX10
(57)【要約】
【課題】新規な口臭抑制成分や、より効果の高い口臭抑制成分を探索できる方法を提供する。
【解決手段】
下記工程を含む口臭抑制成分のスクリーニング方法。
被験物質及び口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、Actinomyces属細菌を培養する工程
上記工程後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む口臭抑制成分のスクリーニング方法。
被験物質及び口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、Actinomyces属細菌を培養する工程
上記工程後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程
【請求項2】
Actinomyces属細菌がActinomyces naeslundiiである請求項1に記載の口臭抑制成分のスクリーニング方法。
【請求項3】
口臭原因物質前駆体がL-システインである請求項1又は2に記載の口臭抑制成分のスクリーニング方法。
【請求項4】
Actinomyces属細菌を培養する工程がpH4.0~7.0の範囲で実施される請求項1~3のいずれか1項に記載の口臭抑制成分のスクリーニング方法。
【請求項5】
口臭原因物質が硫化水素である請求項1~4のいずれか1項に記載の口臭抑制成分のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口臭抑制成分のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、口臭に対する意識が高まっている。口臭の主な原因は、口腔内の細菌により産生される口臭原因物質である。口臭原因物質としては、メチルメルカプタンや硫化水素などの揮発性硫黄化合物(VSC)が知られており、これらの口臭原因物質の産生菌も特定されている。例えば、Fusobacterium nucleatumが口臭原因物質の産生菌として知られている(特許文献1)。
【0003】
口腔内の常在菌であるActinomyces naeslundii(以下、「A.naeslundii」と称することがある)は、歯面や歯肉溝に初期定着することが知られている(非特許文献1)。しかしながら、Actinomyces属細菌が口臭原因物質の産生に寄与するか否かについては明らかにはされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Palmer RJ Jr et al., J Bacteriol 2003 185:3400-3409
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
口腔内の常在菌に起因する口臭原因物質の産生機構が解明されれば、これを利用した口臭抑制成分のスクリーニング方法の開発や、新たな口臭抑制成分(口臭抑制剤)の発見に繋がることが期待される。
【0007】
したがって、本発明の目的は、口臭原因物質の産生機構を利用したスクリーニング方法であって、新規な口臭抑制成分や、より効果の高い口臭抑制成分を探索できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の様な事情に鑑み、課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明者らはActinomyces属細菌の存在により、口臭原因物質の産生が顕著に増加することを見出した。また、この機構を利用した口臭抑制成分のスクリーニング方法によれば、新規な口臭抑制成分や、より効果の高い口臭抑制成分の探索ができることを見出して本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、被験物質及び口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、Actinomyces属細菌を培養する工程、及び前記工程後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程を含む口臭抑制成分のスクリーニング方法を提供する。
【0010】
前記Actinomyces属細菌はActinomyces naeslundiiであることが好ましい。
【0011】
前記口臭原因物質前駆体は、L-システインであることが好ましい。
【0012】
Actinomyces属細菌を培養する工程は、pH4.0~7.0の範囲で実施されることが好ましい。
【0013】
前記口臭原因物質は硫化水素であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の口臭抑制成分のスクリーニング方法によれば、新規な口臭抑制成分や、より効果の高い口臭抑制成分を探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】参考例3に係る、L-システインを基質としたActinomyces属細菌のH
2S産生のpH変動を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の口臭抑制成分のスクリーニング方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」と称することがある)は、下記の工程を含むことを特徴とする。
被験物質及び口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、Actinomyces属細菌を培養する工程(以下、「培養工程」と称することがある)
上記工程後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程(以下、「評価工程」と称することがある)
【0017】
口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、Actinomyces属細菌(以下、「口臭原因菌」と称する場合がある)を培養すると、口臭原因物質前駆体が前記口臭原因菌により代謝され口臭原因物質が産生する。ここで、被験物質の存在によって口臭原因物質の産生が抑制されることがある。その場合、前記被験物質が口臭抑制効果を有すると評価できる。本発明のスクリーニング方法はこの様な機構を利用したものである。
【0018】
[培養工程]
本発明の培養工程は、被験物質及び口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、口臭原因菌であるActinomyces属細菌を培養する工程である。培養方法は特に限定されないが、例えば、培地に被験物質と口臭原因物質前駆体とを加えた後、前記の口臭原因菌を植菌して培養する方法や、前記の口臭原因菌を植菌した培地に被験物質と口臭原因物質前駆体とを加えて培養する方法などが挙げられる。なお、被験物質及び口臭原因物質前駆体は、培地に同時に加えても良いし、別々に加えても良く、その順番は特に限定されない。
【0019】
Actinomyces属細菌は特に限定されないが、例えば、Actinomyces naeslundii、Actinomyces israelii、Actinomyces johnsonii、Actinomyces odontolyticus、Actinomyces oricola、及びActinomyces viscosus、Actinomyces orisなどが挙げられる。この中でも、Actinomyces naeslundiiは口臭原因物質の産生機能が高いため、スクリーニング精度が向上するという点で好ましい。
【0020】
被験物質は特に限定されないが、例えば、無機化合物、有機化合物、動植物抽出物などが挙げられる。
【0021】
口臭原因物質前駆体としては、口臭原因物質の前駆体であってActinomyces属細菌により分解(代謝)されるものであれば特に限定されないが、スクリーニングの精度の観点からは、例えば、メチオニン、L-システイン、ホモL-システイン、タウリンなどが挙げられ、好ましくは、メチオニン、L-システイン、ホモL-システイン、より好ましくはL-システインが挙げられる。また、口臭原因物質前駆体が分解(代謝)されて生じる口臭原因物質としては、例えば、硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドなどの揮発性硫黄化合物が挙げられる。ここで、L-システイン及びホモL-システインは主に硫化水素の前駆体となり、メチオニンは主にメチルメルカプタンの前駆体となる。
【0022】
被験物質及び口臭原因物質前駆体は、必要に応じて溶媒に溶解して用いてもよい。被験物質と口臭原因物質前駆体とは同一の溶媒に溶解して使用しても良いし、それぞれ別の溶媒に溶解して使用してもよい。前記溶媒としては、例えば、エタノール、生理的食塩水、リン酸緩衝液、培地(後述の液体培地)などが挙げられる。
【0023】
培地は、一般的に口臭原因菌の培養に用いられる培地であれば特に限定されず、合成培地、天然培地のいずれであってもよいが、スクリーニングの精度の観点からは合成培地であることが好ましい。培地は固体培地及び液体培地のいずれであってもよいが、スクリーニングの精度の観点からは液体培地であることが好ましい。培地の炭素源としては、例えば、グルコース、デンプン、デキストリン、マンノース、フルクトース、シュクロース、ラクトース、キシロース、アラビノース、マンニトールなどを単独又は組み合わせて用いることができる。培地の窒素源としては、アルギニンなどのアミノ酸、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、大豆粉、カザミノ酸などを単独又は組み合わせて用いることができる。培地の無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸第一鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどの無機塩類などを単独又は組み合わせて用いることができる。その他、必要に応じて、ビオチン、チアミン、ビタミンB6などのビタミンなどの微量栄養源を用いることができる。これら微量栄養源は、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカーなどの培地添加物で代用することもできる。
【0024】
培地における被験物質の配合量(含有量)は、特に限定されないが、0.000001~10質量%が好ましく、より好ましくは0.00001~1質量%である。なお、この場合の被験物質の含有率は、培養開始直前の培地におけるものを意味する。
【0025】
培地における口臭原因物質前駆体の濃度は、特に限定されないが、0.001~100mMが好ましく、より好ましくは0.01~20mMであり、特に好ましくは0.1~10mMである。なお、この場合の口臭原因物質前駆体の濃度は、培養開始直前の培地におけるものを意味する。
【0026】
培養工程における培地のpHは、口臭原因菌の種類や使用する培地の種類などによって適宜設定することができ、特に限定されないが、スクリーニングの精度の観点から、pH4.0~7.0であることが好ましく、より好ましくはpH5.0~7.0、さらに好ましくはpH6.0~7.0である。なお、この場合の培地のpHは、培養開始直前の培地におけるものを意味する。
【0027】
培養時間は、口臭原因菌の種類や使用する培地の種類などによって適宜設定することができ、特に限定されないが、口臭原因菌による口臭原因物質前駆体の分解に要する時間を確保する観点から、0.5~72時間が好ましく、より好ましくは3~48時間である。
【0028】
培養温度は、口臭原因菌の種類や使用する培地の種類などによって適宜設定することができ、特に限定されないが、口臭原因菌を良好に生育可能な観点から、好ましくは20~50℃、より好ましくは30~45℃、さらに好ましくは35~40℃である。
【0029】
[評価工程]
本発明の評価工程は、培養工程後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程である。つまり、培養工程後の培養系中に含まれる口臭原因物質前駆体の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程、培養工程後の培養系中に含まれる口臭原因物質の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程、培養工程後の培養系中に含まれる口臭原因物質前駆体と口臭原因物質の双方の量を測定して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程の何れか1つの工程を意味する。
【0030】
「培養系中」は、培養工程後の培養器具内の固相、液相、及び気相の総称を意味する。本工程において、例えば、口臭原因物質前駆体が液相(例えば、液体培地)に含まれる場合は、液相に含まれる口臭原因物質前駆体の量を測定して被験物質の口臭抑制効果を評価する工程であってもよい。また、例えば、口臭原因物質が気相に存在する場合は、気相に含まれる口臭原因物の量を測定して被験物質の口臭抑制効果を評価する工程であってもよい。
【0031】
評価工程は、後述の評価方法[3]及び[4]にて説明する様に、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定する工程と、口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量から被験物質の口臭抑制効果を評価する工程とに分かれていてもよい。
【0032】
口臭原因物質前駆体の存在下で口臭原因菌を培養すると、口臭原因物質前駆体が口臭原因菌により分解(代謝)され、口臭原因物質が産生する。ここで、被験物質が培地中に存在することにより口臭原因物質前駆体や口臭原因物質の量が変化し得る。例えば、被験物質の存在により口臭原因菌による口臭原因物質の代謝経路が阻害され、口臭原因物質の産生能が低下した場合、口臭原因物質前駆体の分解は抑制される。また、被験物質が殺菌効果を有することより口臭原因菌が死滅した場合は、口臭原因物質の産生量は低下し、口臭原因物質前駆体の分解も抑制される。さらに、被験物質が口臭原因物質前駆体に直接的に作用することにより、口臭原因菌が口臭原因物質前駆体を分解することができなくなり、その結果、口臭原因物質前駆体の分解が抑制されるということも考えられる。なお、口臭原因物質前駆体の挙動について、口臭原因物質前駆体の分解が抑制される場合についてのみ例を挙げて説明したが、本発明の評価工程では、被験物質の存在により口臭原因物質前駆体の分解が促進される場合であっても評価することが可能である。上記の通り、本発明の評価工程は、口臭原因物質前駆体や口臭原因物質の挙動を総合勘案して、被験物質の口臭抑制効果を評価する工程であるといえる。
【0033】
培養系中の口臭原因物質前駆体や口臭原因物質の量を測定する方法としては、例えば、分析機器を用いた方法や、「臭い」を官能試験により判断する方法が挙げられる。ここで、分析機器を用いた方法は、官能試験を用いた方法と比較して、絶対評価が可能であることからスクリーニングの精度が高いという点、必要とする口臭原因物質前駆体などの量が少ないことから一度に多くの被験物質について評価を行うことができるという点で有効である。一方、官能試験を用いた方法は、分析機器を用いた方法と比較して、煩雑な操作を行うことなく簡便に評価を行うことができるという点で有効である。
【0034】
分析機器を用いた方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー-質量分析法、ガスクロマトグラフィー-水素炎イオン検出法、ガスクロマトグラフィー-炎光光度検出法(検出器として炎光光度検出器を使用)、ガスクロマトグラフィー-電子捕獲式検出法、高速液体クロマトグラフィー-紫外可視分光法、高速液体クロマトグラフィー-質量分析法などのクロマトグラフを用いた分析法や、半導体センサを用いた検出法などが挙げられる。口臭原因物質としての揮発性硫黄化合物は、例えば、ガスクロマトグラフィー-炎光光度検出法により、培養系中の含有量を求めることができる。クロマトグラフを用いた分析法では、口臭原因物質前駆体に対応するピークの面積から培養系中の口臭原因物質前駆体の含有量を算出することができる。
【0035】
本発明の評価工程における、被験物質の口臭抑制効果を評価する方法としては、例えば、以下の評価方法[1]~[4]の方法が挙げられる。
[1]口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量そのものから評価する方法
[2]口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量と、口臭原因物質前駆体の使用量との比較から評価する方法
[3]2以上の被験物質を使用して得られた口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量を比較して評価する方法
[4]口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量と、被験物質を使用しないこと以外は同様にして得られた口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量とを比較して評価する方法
【0036】
評価方法[1]は、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定することと同時に実施されるものである。例えば、測定の結果、口臭原因物質前駆体が全部消失していることが確認できた場合は、被験物質が口臭抑制効果を有しないと評価することができる。また、測定の結果、口臭原因物質が産生していないことが確認できた場合は、被験物質が良好な口臭抑制効果を有していると評価することができる。よって、本評価方法は、評価方法[2]~[4]の様な煩雑な操作が必要でなく、簡便に実施することが可能である。その一方で、本評価方法は定性的なものであり、被験物質の口臭抑制効果の有無についての判断は可能であるものの、被験物質の口臭抑制効果を定量的に判断する場合は評価方法[2]~[4]を行うことが望ましい。
【0037】
評価方法[2]は、[2-1]口臭原因物質前駆体の測定量と、口臭原因物質前駆体の使用量との比較から被験物質の口臭抑制効果を評価する方法、又は[2-2]口臭原因物質の測定量と、口臭原因物質前駆体の使用量との比較から被験物質の口臭抑制効果を評価する方法である。ここで、「口臭原因物質前駆体の使用量」とは、培養工程における培養開始前の培地に含まれる口臭原因物質前駆体の量を意味する。前記[2-1]は、例えば、培養工程終了後の培地中の口臭原因物質前駆体の量を測定するとともに、培養開始前の培地に含まれる口臭原因物質前駆体の量を測定し、これらの量の変化から被験物質の口臭抑制効果を評価する方法が例示される。前記[2-2]は、例えば、培養工程終了後の培養系中の口臭原因物質の測定量から未分解の口臭原因物質前駆体の量を算出し、これと口臭原因物質前駆体の使用量とを比較することにより、被験物質の口臭抑制効果を評価する方法が例示される。本評価方法は、評価方法[3]及び[4]の様に比較対象を改めて用意する必要が無い点で簡便に実施することが可能である。その一方で、本評価方法は、被験物質や口臭原因菌が存在すること以外の影響(例えば、熱による口臭原因物質前駆体の自己分解など)を考慮していないため、被験物質の口臭抑制効果をより精密に判断する必要がある場合は評価方法[3]及び[4]を行うことが望ましい。
【0038】
評価方法[2]における評価工程としては、具体的には以下の通りである。
培養工程後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定すると共に、使用した口臭原因物質前駆体の量を測定し、これらの量の変化から被験物質の口臭抑制効果を評価する工程
【0039】
評価方法[3]は、2以上の被験物質から得られた口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量を比較して被験物質の口臭抑制効果を評価する方法である。つまり、対象とする被験物質と、前記の被験物質以外の被験物質(「その他の被験物質」と称することがある)とについて培養工程を実施し、それぞれの培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定して、これらを比較することにより被験物質の口臭抑制効果を評価する方法である。本評価方法は、被験物質の口臭抑制効果を精密に評価することが可能な点で優れる。特に、2以上の被験物質についての口臭抑制効果を精密に比較することが可能な点で優れる。
【0040】
評価方法[3]における評価工程を採用した場合の本発明のスクリーニング方法としては、具体的には以下の通りである。
被験物質及び口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、口臭原因菌を培養する工程(「培養工程1」と称する)
培養工程1後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定する工程
口臭原因物質前駆体及びその他の被験物質の存在下、口臭原因菌を培養する工程(「培養工程2」と称する)
培養工程2後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定する工程
被験物質を使用した場合の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量と、その他の被験物質を使用した場合の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量との比較から被験物質の口臭抑制効果を評価する工程
【0041】
評価方法[4]は、口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量と、被験物質を使用しないこと以外は同様にして得られた口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量とを比較して被験物質の口臭抑制効果を評価する方法である。つまり、対象とする被験物質について培養工程を行うと共に、被験物質を使用しないこと以外は同様にして培養工程を実施し、それぞれの培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定して、これらの比較から被験物質の口臭抑制効果を評価する方法である。本評価方法は、被験物質の口臭抑制効果を定量的に且つ精密に評価することが可能な点で優れる。
【0042】
評価方法[4]における評価工程を採用した場合の本発明のスクリーニング方法としては、具体的には以下の通りである。
口臭原因物質前駆体及び被験物質を含有する培地を用いて、口臭原因菌を培養する工程(「培養工程A」と称する)
培養工程Aの後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定する工程(「測定工程A」と称する)
口臭原因物質前駆体を含有する培地を用いて、口臭原因菌を培養する工程(「培養工程B」と称する)
培養工程B後、培養系中の口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の量を測定する工程(「測定工程B」と称する)
測定工程Aにおける口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量と、測定工程Bにおける口臭原因物質前駆体及び/又は口臭原因物質の測定量との比較から被験物質の口臭抑制効果を評価する工程
【0043】
[生菌数測定工程]
本発明のスクリーニング方法は培養工程の後に、さらに生菌数測定工程を含んでいてもよい。生菌数測定工程は、培地中の口臭原因菌の生菌数を測定する工程であって、評価工程の前後のいずれにおいて実施してもよく、評価工程と同時に実施してもよい。
【0044】
被験物質が口臭原因菌による口臭原因物質の産生を抑制(阻害)する効果(口臭抑制効果)を評価する場合、その効果は口臭原因菌を殺菌すること(死滅させること)により、口臭原因物質の産生を抑制する効果(「殺菌効果」と称することがある)と、口臭原因菌による代謝を阻害することにより、口臭原因物質の産生を抑制する効果(「代謝阻害効果」と称することがある)とに分類されるが、本発明のスクリーニング方法に生菌数測定工程が含まれる場合は口臭原因菌の生死を判断することができるため、被験物質の殺菌効果及び代謝阻害効果のそれぞれについて評価することが可能となる。つまり、口臭抑制効果が存在し、口臭原因菌が死滅している場合は、被験物質が殺菌効果を有すると判断でき、口臭抑制効果が存在し、口臭原因菌が生存している場合は、被験物質が代謝阻害効果を有すると判断できる。
【0045】
生菌数の測定方法は特に限定されないが、例えば、培地の一部を寒天培地に塗布し、一定時間培養後に生成したコロニーの数を計測するコロニーカウント法、顕微鏡観察によって培地における菌数を測定する方法、生菌に含まれているATP量を測定して菌数を算出する生物発光法などが挙げられる。
【0046】
[培養器具]
本発明の口臭抑制成分のスクリーニング方法では、特定の培養器具を用いることによって、より効率的に被験物質の口臭抑制効果を評価することが可能である。
【0047】
口腔内の常在菌は、その多くが嫌気性細菌であるため、培養は嫌気条件下で行う必要がある。一般的な嫌気性細菌の培養方法としては、培地が入った培養容器を嫌気性インキュベーター内に入れ、培養容器を嫌気状態に置換するという操作が必要となる。よって、培養容器は少なくとも開放系である必要がある。
【0048】
ここで、本発明の様に、口臭原因物質前駆体の存在下で口腔内の常在菌(特に、口臭原因菌)を培養し、その後に培養系中の口臭原因物質などを測定する場合、口臭原因物質(つまり「臭い」)は常温で気体であることが多く、培養容器が開放系であると臭いが培養容器外に出ていくこととなり、発生した口臭原因物質の測定が正確性を欠くとともに、その再現性が低くなってしまうという問題があった。このため、培養容器を嫌気状態に置換することができ、容器内に浮遊菌が侵入しないように、且つ極力「臭い」が培養容器外に出ていかないように、培養容器の蓋をある程度緩めて培養を行うという手法が採られてきたが、この様な方法であっても測定の正確性や再現性は満足いくものとはなっていなかった。
【0049】
そこで、本発明者らは、嫌気性細菌を培養する際に、その容器内の雰囲気を嫌気状態に置換することが可能であり、容器内に浮遊菌が侵入しないように、且つ嫌気性細菌により産生した気体(例えば、口臭原因物質)については容器外に出ていきにくい培養器具(「本発明の培養器具」と称することがある)を見出した。
【0050】
本発明の培養器具は、培養容器及び通気管を有する栓からなる培養器具であって、培養容器が注液口を有し、前記注液口に前記栓が装着された培養器具である。前記通気管は、培養容器外の気体と培養容器内の気体とを交換することのできるように配置されている。前記通気管は、培養容器外に位置するその先端にゴム管が接合されていることが好ましい。培養容器の注液口は前記栓によって密閉されており、該密閉部から通気管とゴム管との接合部は容器内に浮遊菌が侵入しないようにアルミホイルやパラフィンなどにより被覆されていることが好ましい。
【0051】
培養容器の容量は培養する嫌気性細菌の種類によっても異なるが、例えば、0.001~10Lが好ましく、0.01~1Lがより好ましく、0.1~0.3Lが特に好ましい。培養容器の形状としては特に限定されないが、丸底フラスコ、ナスフラスコ、三角フラスコ、平底フラスコ、及び坂口フラスコなどが挙げられる。培養容器の素材は特に限定されないが、例えば、ガラス、プラスチックなどが挙げられる。通気管の長さは特に限定されないが、例えば、2~40cmが好ましく、より好ましくは3~30cm、特に好ましくは5~15cmである。通気管の内径は特に限定されないが、例えば、0.1~2cmが好ましく、より好ましくは0.2~1cm、特に好ましくは0.25~0.5cmである。また、通気管の容器外の先端にゴム管を備える場合のゴム管の長さは特に限定されないが、例えば、2~40cmが好ましく、より好ましくは3~30cm、特に好ましくは5~15cmである。ゴム管の内径は特に限定されないが、例えば、0.1~2cmが好ましく、より好ましくは0.2~1cm、特に好ましくは0.25~0.5cmである。
【実施例0052】
以下に、実験例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0053】
[細菌の前培養]
(Actinomyces属細菌の前培養)
A.naeslundii ATCC19039を用いて前培養を行った。具体的な方法としては以下の通りである。
トリプチケースソイ培地に1mg/mL酵母エキス、5μg/mLヘミン、1μg/mLメナジオンを添加したTSB培地20mLにA.naeslundii ATCC19039のコロニーを添加し、37°Cで48時間嫌気培養した。この菌液0.1mLをTSB培地20mLに添加し、37°Cで22時間嫌気培養した。
【0054】
Actinomyces naeslundiiと同様にして、Actinomyces israelii、Actinomyces johnsonii、Actinomyces odontolyticus、Actinomyces oricola、及びActinomyces viscosusの前培養を行った。
【0055】
[細菌の前培養]
(Fusobacterium属細菌の前培養)
F.nucleatum ATCC25586を用いて前培養を行った。具体的な方法としては以下の通りである。
1g/mLトリプチケースペプトン、1mg/mL酵母エキス、1g/mLバイオセートペプトン、1.92g/mLブレインハートインヒュージョン、5μg/mLヘミン、1μg/mLメナジオン、0.2mMリン酸水素二カリウム、0.3mMリン酸二水素カリウム、4.8mM炭酸水素ナトリウム、72μM塩化カルシウム、1.4mM塩化ナトリウム及び66μM硫酸マグネシウムを添加した培地15mLにF.nucleatumのコロニーを添加し、37°Cで23時間嫌気培養した。この菌液1mLを前記培地20mLに添加し、37°Cで20時間嫌気培養した。
【0056】
[mCDMの調製]
表1で示す構成を有する培地(Modified Chemically Defined Medium、mCDM)を調製した。具体的な方法としては以下の通りである。
リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、及び塩化マンガン・4水和物を純水(MilliQ水)で溶解後、オートクレーブ滅菌した。また、それ以外の試薬は、純水(MilliQ水)で溶解後、0.2μmメンブランフィルターでろ過滅菌し、これらの溶液を混合することにより調製した。
【0057】
【0058】
[GC-FPDの分析条件]
参考例及び実施例におけるGC-FPDの分析条件は以下の通りである。
Apparatus:GC-14B
Column:ZO-1H 3.1m×3.2mm i.d. (Shinwa Chemical Industrial Ltd.)
Column Temp.:70℃
Injection mode:Splitless (180℃)
Carrier Gas:Nitrogen (constant flow rate 50mL/min)
Transfer temp.:150℃
Detector Temp.:180℃
【0059】
[培養器具]
参考例及び実施例における培養器具は、ガラス製の200mL三角フラスコに、培養容器外に位置する先端にゴム管(長さ:10cm、内径:0.3mm)を備えたステンレス製の通気管(長さ:10cm、内径:0.3mm)を有するシリコン栓をしたのち、フラスコの密閉部から通気管とゴム管との接合部までをアルミホイルで被覆したものを用いた。
【0060】
[参考例1―1]
mCDMにL-システインを最終濃度が5mMとなるよう添加し、pHを6.5に調整したものを培養液とした。A.naeslundiiの菌液をPBSで洗浄後、OD600が1.0になるように培養液で調整した。この培養液で再懸濁した菌液10mLとmCDM30mLとを三角フラスコ内で混合し、嫌気ジャーで37℃、15時間培養した。培養後のフラスコ内のヘッドスペースガスを10mL採取し、1mLをGC-FPDへ供することにより、GC-FPD分析を行った。
【0061】
[参考例1―2]
A.naeslundiiの菌液をFusobacterium nucleatum subsp. nucleatum ATCC 25586の菌液に変更したこと以外は同様の操作を行い、培養後のフラスコ内のヘッドスペースガスを10mL採取し、1mLをGC-FPDへ供することにより、GC-FPD分析を行った。
【0062】
[参考例1―3]
A.naeslundiiの菌液を使用しなかったこと以外は同様の操作を行い、培養後のフラスコ内のヘッドスペースガスを10mL採取し、1mLをGC-FPDへ供することにより、GC-FPD分析を行った。
【0063】
参考例1―1で発生したH2S量は、345.7±33.58ppmであった。
参考例1―2で発生したH2S量は、28.91±1.6ppmであった。
参考例1―3で発生したH2S量は、0.16±0.01ppmであった。
【0064】
[参考例2]
最終濃度が0、0.1、0.3、0.5mMとなるようにL-システインをmCDMに添加し、pHを6.5に調整したものを培養液とした。A.naeslundiiの菌液をPBSで洗浄後、OD600が1.0になるように培養液で調整した。この培養液で再懸濁した菌液10mLとmCDM30mLとを三角フラスコ内で混合し、嫌気ジャーで37℃、15時間培養した。培養後のフラスコ内のヘッドスペースガスを10mL採取し、1mLをGC-FPDへ供することにより、GC-FPD分析を行った。この結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
表2から理解できる通り、L-システインを添加した培養液においてH2Sの産生が確認された。
【0067】
[参考例3]
最終濃度が5mMになるようにL-システインをmCDMに添加し、pHを3.5、5.5、6.5、7.5に調整したものを培養液とした。調製したA.naeslundiiの菌液をPBSで洗浄後、OD600が1.0になるように調整した。この培養液で再懸濁した菌液10mLとmCDM30mLを三角フラスコに混合し、嫌気ジャーで37℃、15時間培養した。培養後のフラスコ内のヘッドスペースガスを10mL採取し、1mLをGC-FPDへ供することにより、GC-FPD分析を行った。
【0068】
A.naeslundiiの菌液を、Actinomyces israeliiの菌液、Actinomyces johnsoniiの菌液、Actinomyces odontolyticusの菌液、Actinomyces oricolaの菌液、又はActinomyces viscosusの菌液に変更したこと以外は同様の操作を行った。また、A.naeslundiiの菌液を使用しなかったこと以外は同様の操作を行った。
【0069】
以上の実験に基づき、L-システインを基質としたH
2S産生のpH変動を解析し、結果を
図1に示す。
図1からも明らかな通り、Actinomyces属細菌がH
2S産生能を有することが明らかとなった。また、Actinomyces属細菌の中でもA.naeslundiiのH
2S産生能が最も高いこと、また、A.naeslundiiのH
2S産生能はpH6.5の環境下において特に顕著であることが明らかとなった。
【0070】
[実験例1]
基質として、最終濃度が0.5mMになるようにL-システインを添加したmCDMとA.naeslundiiを懸濁し、被験物質として、最終濃度が0.001質量%となるように塩化セチルピリジニウム(CPC)を添加し、pH6.5の環境下で培養した。培養後のフラスコ内のヘッドスペースガスを10mL採取し、1mLをGC-FPDへ供することにより、GC-FPD分析を行った。その結果、H2Sの測定値は0.13ppmであった。また、ブランクとして塩化セチルピリジニウムを添加しないものを使用してH2S産生度を測定した。その結果、H2Sの測定値は170ppmであった。
【0071】
以上の通り、CPCを添加することでH2S産生量が抑制されることが明らかとなった。ここから、本発明がスクリーニング機能を備えることが確認された。