(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147139
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】シリカゾルの製造方法、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/141 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C01B33/141
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048267
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 裕太
(72)【発明者】
【氏名】出島 栄治
(72)【発明者】
【氏名】本田 耕史
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 康弘
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC01
4G072DD06
4G072EE01
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH30
4G072JJ23
4G072KK03
4G072LL06
4G072LL11
4G072MM01
4G072PP01
4G072PP15
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT19
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】シリカゾルの製造時間を短縮することができるシリカゾルの製造方法を提供する。
【解決手段】以下の工程(1)及び(2)を含む、シリカゾルの製造方法。前記シリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨する研磨方法。前記研磨方法を含む半導体ウェハの製造方法。前記研磨方法を含む半導体デバイスの製造方法。
工程(1):テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させてシリカ粒子の分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られたシリカ粒子の分散液に50℃~150℃の水を加えてシリカゾルを得る工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)及び(2)を含む、シリカゾルの製造方法。
工程(1):テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させてシリカ粒子の分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られたシリカ粒子の分散液に50℃~150℃の水を加えてシリカゾルを得る工程
【請求項2】
工程(2)において、加える水の温度が70℃~120℃である、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項3】
工程(2)において、加える水の温度が90℃~110℃である、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項4】
工程(2)において、更に、シリカ粒子の分散液を加熱し、有機溶媒を含む液体を留去する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項5】
工程(2)において、シリカ粒子の分散液の加熱方法が、熱媒を用いて加熱する方法である、請求項4に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項6】
工程(2)において、熱媒の温度が、130℃以下である、請求項5に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項7】
工程(2)において、単位時間あたりに留去する液体の質量と加える水の質量との比を4:6~6:4になるように維持する、請求項4に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項8】
工程(2)において、加える水の質量が、工程(1)で得られたシリカ粒子の分散液の液体成分の質量の0.5倍~5倍である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項9】
工程(2)を、内壁が樹脂で覆われた容器内で行う、請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項10】
工程(1)において、テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシランである、請求項1~9のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項11】
工程(1)において、テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応を、アルカリ触媒を含む溶液(A)に、テトラアルコキシシランを含む溶液(B)及びアルカリ触媒を含む溶液(C)を添加して行う、請求項1~10のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項12】
更に、以下の工程(3)を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
工程(3):工程(2)で得られたシリカゾルを加圧加熱処理する工程
【請求項13】
シリカゾル中のシリカ粒子の濃度が、3質量%~50質量%である、請求項1~12のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項14】
シリカゾル中の金属含有率が、1ppm以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨する、研磨方法。
【請求項16】
請求項15に記載の研磨方法を含む、半導体ウェハの製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の研磨方法を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカゾルの製造方法、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や無機化合物等の材料の表面を研磨する方法として、研磨液を用いた研磨方法が知られている。中でも、半導体用のプライムシリコンウェハやこれらの再生シリコンウェハの最終仕上げ研磨、及び、半導体デバイス製造時の層間絶縁膜の平坦化、金属プラグの形成、埋め込み配線形成等の化学的機械的研磨(CMP)では、その表面状態が半導体特性に大きく影響するため、これらの部品の表面や端面は、極めて高精度に研磨されることが要求されている。
【0003】
このような精密研磨においては、シリカ粒子を含む研磨組成物が採用されており、その主成分である砥粒として、コロイダルシリカが広く用いられている。コロイダルシリカは、その製造方法の違いにより、四塩化珪素の熱分解によるもの(ヒュームドシリカ等)、水ガラス等の珪酸アルカリの脱イオンによるもの、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応(一般に「ゾルゲル法」と称される)によるもの等が知られている。
【0004】
シリカ粒子の製造方法に関し、これまで多くの検討がなされてきた。例えば、特許文献1には、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応によりシリカ粒子の分散液を製造した後に、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換するシリカゾルの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応によりシリカ粒子の分散液を製造した後の、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程において、その工程時間が長いという課題を有する。一般に、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程では、シリカ粒子の分散液を外部から加熱して有機溶媒を含む液体を留去させながら、水を添加する。その際、加熱温度を上げ過ぎると、加熱器とシリカ粒子の分散液との界面での蒸発速度が速くなり過ぎて、界面でのシリカ粒子の乾燥凝集が促進されるため、シリカゾルの製造の歩留まりが悪化するという課題を有する。そのため、シリカ粒子の乾燥凝集を少なくするには、外部からの加熱温度を低くしなければならいため、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程の工程時間を短くするのは難しいという課題を有する。
【0007】
また、精密研磨に用いられるシリカゾルは、不純物として金属を含まないことが望まれる。シリカゾル中への金属成分の溶出を避けるため、シリカゾルの製造は、樹脂で内壁が覆われた容器内で行われることが望ましい。樹脂は、金属と比較して伝熱係数が低いため、金属の容器の内壁を樹脂で覆うことで、外部から加熱する際の熱効率が悪く、有機溶媒を含む液体の留去に時間がかかってしまうという課題を有する。更に、樹脂は、金属と比較して耐熱性に乏しいため、加熱温度を低く設定しなければならないことからも、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程の工程時間を短くするのは難しいという課題を有する。
【0008】
以上のことから、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応によりシリカ粒子の分散液を製造した後の、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程において、その工程時間を短くするのは難しいという課題を有する。
【0009】
特許文献1で開示されているシリカゾルの製造方法は、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を水に置換する工程において、その工程時間を短くするような工夫がなされていない。
【0010】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、シリカゾルの製造時間を短縮することができるシリカゾルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の通り、従来のゾルゲル法によるシリカゾルの製造方法では、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程の工程時間を短くすることは困難であった。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程において、加える水の温度を制御することで、シリカゾルの製造時間を短縮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]以下の工程(1)及び(2)を含む、シリカゾルの製造方法。
工程(1):テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させてシリカ粒子の分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られたシリカ粒子の分散液に50℃~150℃の水を加えてシリカゾルを得る工程
[2]工程(2)において、加える水の温度が70℃~120℃である、[1]に記載のシリカゾルの製造方法。
[3]工程(2)において、加える水の温度が90℃~110℃である、[1]に記載のシリカゾルの製造方法。
[4]工程(2)において、更に、シリカ粒子の分散液を加熱し、有機溶媒を含む液体を留去する工程を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
[5]工程(2)において、シリカ粒子の分散液の加熱方法が、熱媒を用いて加熱する方法である、[4]に記載のシリカゾルの製造方法。
[6]工程(2)において、熱媒の温度が、130℃以下である、[5]に記載のシリカゾルの製造方法。
[7]工程(2)において、単位時間あたりに留去する液体の質量と加える水の質量との比を4:6~6:4になるように維持する、[4]に記載のシリカゾルの製造方法。
[8]工程(2)において、加える水の質量が、工程(1)で得られたシリカ粒子の分散液の液体成分の質量の0.5倍~5倍である、[1]~[7]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
[9]工程(2)を、内壁が樹脂で覆われた容器内で行う、[1]~[8]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
[10]工程(1)において、テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシランである、[1]~[9]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
[11]工程(1)において、テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応を、アルカリ触媒を含む溶液(A)に、テトラアルコキシシランを含む溶液(B)及びアルカリ触媒を含む溶液(C)を添加して行う、[1]~[10]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
[12]更に、以下の工程(3)を含む、[1]~[11]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
工程(3):工程(2)で得られたシリカゾルを加圧加熱処理する工程
[13]シリカゾル中のシリカ粒子の濃度が、3質量%~50質量%である、[1]~[12]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
[14]シリカゾル中の金属含有率が、1ppm以下である、[1]~[12]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
[15][1]~[14]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨する、研磨方法。
[16][15]に記載の研磨方法を含む、半導体ウェハの製造方法。
[17][15]に記載の研磨方法を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリカゾルの製造方法によれば、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程の工程時間を短くすることで、シリカゾルの製造時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳述するが、本発明以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いる。
【0015】
(シリカゾルの製造方法)
本発明のシリカゾルの製造方法は、以下の工程(1)および工程(2)を含む。
工程(1):テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させてシリカ粒子の分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られたシリカ粒子の分散液に50℃~150℃の水を加えてシリカゾルを得る工程
【0016】
(工程(1))
工程(1)は、テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させてシリカ粒子の分散液を得る工程である。
【0017】
テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等のアルコキシ基の炭素数が1~12のテトラアルコキシシランが挙げられる。これらのテトラアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのテトラアルコキシシランの中でも、加水分解反応が速く、未反応物が残留し難く、生産性に優れ、安定なシリカゾルを容易に得ることができることから、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましく、テトラメトキシシランがより好ましい。
【0018】
テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させてシリカ粒子の分散液を得る方法は、加水分解反応及び縮合反応を制御しやすく、加水分解反応及び縮合反応の反応速度を高めることができ、シリカ粒子の分散液のゲル化を防ぎ、粒子径の揃ったシリカ粒子を得られることから、アルカリ触媒を含む溶液(A)に、テトラアルコキシシランを含む溶液(B)及びアルカリ触媒を含む溶液(C)を添加して行う方法が好ましい。
【0019】
溶液(A)は、アルカリ触媒を含む。
【0020】
溶液(A)中のアルカリ触媒としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチル水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらのアルカリ触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリ触媒の中でも、触媒作用に優れ、粒子形状を制御しやすく、金属不純物の混入を抑制することができ、揮発性が高く加水分解反応及び縮合反応後の除去性に優れることから、アンモニアが好ましい。
【0021】
溶液(A)は、アルコキシシランの加水分解を促進させることができることから、水を含むことが好ましい。
【0022】
溶液(A)は、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れることから、水以外の溶媒を含むことが好ましい。
【0023】
溶液(A)中の水以外の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコールや、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、酢酸エチル等のエステルなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、テトラアルコキシシランを溶解しやすく、加水分解反応及び縮合反応で用いるものと副生するものとが同一で、製造上の利便性に優れることから、アルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが更に好ましい。
【0024】
溶液(A)中のアルカリ触媒の濃度は、溶液(A)100質量%中、0.5質量%~2.0質量%が好ましく、0.6質量%~1.5質量%がより好ましい。溶液(A)中のアルカリ触媒の濃度が上記下限値以上であると、シリカ粒子の凝集を抑制し、得られる分散液中のシリカ粒子の分散安定性に優れる。また、溶液(A)中のアルカリ触媒の濃度が上記上限値以下であると、反応が過度に速く進行せず、反応制御性に優れる。
【0025】
溶液(A)中の水の濃度は、溶液(A)100質量%中、3質量%~30質量%が好ましく、5質量%~25質量%がより好ましい。溶液(A)中の水の濃度が上記下限値以上であると、加水分解反応で生成するケイ酸の反応液中での分散性に優れる。また、溶液(A)中の水の濃度が上記上限値以下であると、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れる。
【0026】
溶液(A)中の水以外の溶媒の濃度は、アルカリ触媒と水の残部とすることが好ましい。
【0027】
溶液(B)は、テトラアルコキシシランを含む。
【0028】
溶液(B)は、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れることから、溶媒を含むことが好ましい。
【0029】
溶液(B)中の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコールや、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、酢酸エチル等のエステルなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、加水分解反応及び縮合反応で用いるものと副生するものとが同一で、製造上の利便性に優れることから、アルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが更に好ましい。
【0030】
溶液(B)中のテトラアルコキシシランの濃度は、溶液(B)100質量%中、76質量%~89質量%が好ましく、77質量%~88質量%がより好ましい。溶液(B)中のテトラアルコキシシランの濃度が上記下限値以上であると、用いる溶媒の量を低減することができ、シリカ粒子の生産性に優れる。また、溶液(B)中のテトラアルコキシシランの濃度が上記上限値以下であると、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れる。
【0031】
溶液(B)中の溶媒の濃度は、溶液(B)100質量%中、11質量%~24質量%が好ましく、12質量%~23質量%がより好ましい。溶液(B)中の溶媒の濃度が上記下限値以上であると、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れる。また、溶液(B)中の溶媒の濃度が上記上限値以下であると、用いる溶媒の量を低減することができ、シリカ粒子の生産性に優れる。なお、溶液(B)中の溶媒の濃度は、通常、溶液(B)のテトラアルコキシシランの残部であることが好ましい。
【0032】
溶液(C)は、アルカリ触媒を含む。
【0033】
溶液(C)中のアルカリ触媒としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチル水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらのアルカリ触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリ触媒の中でも、触媒作用に優れ、粒子形状を制御しやすく、金属不純物の混入を抑制することができ、揮発性が高く加水分解反応及び縮合反応後の除去性に優れることから、アンモニアが好ましい。
【0034】
溶液(C)は、反応液の組成の変動を小さくすることができることから、溶媒を含むことが好ましい。
【0035】
溶液(C)中の溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコールなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、加水分解反応及び縮合反応で用いるものと副生するものとが同一で、製造上の利便性に優れることから、水、アルコールが好ましく、水がより好ましい。
【0036】
溶液(C)中のアルカリ触媒の濃度は、溶液(C)100質量%中、2質量%~5質量%が好ましく、3質量%~4質量%がより好ましい。溶液(C)中のアルカリ触媒の濃度が上記下限値以上であると、シリカ粒子の凝集を抑制し、得られる分散液中のシリカ粒子の分散安定性に優れる。また、溶液(C)中のアルカリ触媒の濃度が上記上限値以下であると、反応が過度に速く進行せず、反応制御性に優れる。
【0037】
溶液(C)中の水の濃度は、溶液(C)100質量%中、95質量%~98質量%が好ましく、96質量%~97質量%がより好ましい。溶液(C)中の水の濃度が上記下限値以上であると、加水分解反応で生成するケイ酸の反応液中での分散性に優れる。また、溶液(C)中の水の濃度が上記上限値以下であると、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れる。
【0038】
テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応の反応温度(反応液の温度)は、20℃~50℃が好ましく、25℃~45℃がより好ましい。反応温度が上記下限値以上であると、反応が過度に遅く進行せず、制御性に優れる。また、反応温度が上記上限値以下であると、加水分解反応速度と縮合反応速度のバランスに優れる。
ここで反応系内の反応液とは、溶液(A)、溶液(B)及び溶液(C)の混合液に相当する。
【0039】
加水分解反応及び縮合反応の反応系内の水の濃度は、反応系内の反応液100質量%中、3質量%~30質量%に維持することが好ましく、5質量%~25質量%に維持することがより好ましい。反応系内の水の濃度が上記下限値以上であると、中間生成物であるケイ酸の反応液中での分散性に優れる。また、反応系内の水の濃度が上記上限値以下であると、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れる。
ここで反応系内の反応液とは、溶液(A)、溶液(B)及び溶液(C)の混合液に相当する。
【0040】
加水分解反応及び縮合反応の反応系内のアルカリ触媒の濃度は、反応系内の反応液100質量%中、0.5質量%~2.0質量%に維持することが好ましく、0.6質量%~1.5質量%に維持することがより好ましい。反応系内のアルカリ触媒の濃度が上記下限値以上であると、シリカ粒子の凝集を抑制し、得られる分散液中のシリカ粒子の分散安定性に優れる。また、反応系内のアルカリ触媒の濃度が上記上限値以下であると、反応が過度に速く進行せず、反応制御性に優れる。
【0041】
(工程(2))
工程(2)は、工程(1)で得られたシリカ粒子の分散液に50℃~150℃の水を加えてシリカゾルを得る工程である。
【0042】
工程(2)におけるシリカ粒子の分散液に加える水の温度は、50℃~150℃であり、70℃~130℃が好ましく、90℃~110℃がより好ましい。加える水の温度が50℃以上であると、シリカ粒子の分散液に加えられる熱量が多くなるため、シリカゾルの製造時間を短縮することができる。また、シリカ粒子の分散液に加える水の温度が150℃以下であると、蒸気としてシリカ粒子の分散液から抜けてしまう水の量を少なくすることができるため、シリカゾルの製造時間を短縮することができる。
【0043】
50℃~150℃の水を加える方法は、例えば、予め加熱した水をポンプで加える方法、水の流路に熱交換機を設けて加熱しながら加える方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、温度制御性に優れ、蒸気の取り扱いも容易なことから、水の流路に熱交換機を設けて加熱しながら加える方法が好ましい。
【0044】
工程(2)において、効率よく有機溶媒を含む液体を水に置換できることから、シリカ粒子の分散液を加熱し、有機溶媒を含む液体を留去することが好ましい。有機溶媒を含む液体の留去は、水を加える前に行ってもよく、水を加えると同時に行ってもよく、水を加えた後に行ってもよい。
【0045】
水の添加と有機溶媒を含む液体の留去とを同時に行う場合、シリカ粒子の分散液の液面の上昇や低下を防ぐことができ、容器の内壁にシリカ粒子が凝集するのを防ぐことができることから、単位時間あたりに留去する液体の質量と加える水の質量との比が4:6~6:4になるように維持して行うことが好ましい。
【0046】
シリカ粒子の分散液の加熱方法としては、例えば、直火によって加熱する方法、電気ヒーターによって加熱する方法、熱媒を用いて加熱する方法等が挙げられる。これらのシリカ粒子の分散液の加熱方法の中でも、温度制御性に優れることから、熱媒を用いて加熱する方法が好ましい。
【0047】
熱媒を用いて加熱する方法としては、例えば、シリカ粒子の分散液に熱媒循環型投げ込み式ヒーターを入れて加熱する方法、多重構造の壁面を有する容器を用いて壁面に熱媒を循環させて加熱する方法等が挙げられる。これらの熱媒を用いて加熱する方法の中でも、製造装置を簡便にできることから、多重構造の壁面を有する容器を用いて壁面に熱媒を循環させて加熱する方法が好ましい。
【0048】
ここで用いる熱媒の温度は、65℃~140℃以下が好ましく、100℃~130℃がより好ましい。熱媒の温度が65℃以上であると、有機溶媒を留去するのに優れる。また、熱媒の温度が140℃以下、特に130℃以下であると、シリカ粒子の分散液と熱媒やヒーターなどの加熱用装置と気相との三相界面でのシリカ粒子の分散液の蒸発速度を低くすることができ、シリカ粒子の凝集を防ぐことができる。
【0049】
工程(2)において、加える水の質量は、シリカ粒子の分散液の液体成分の質量の0.5倍~5倍とするのが好ましい。加える水の質量が0.5倍以上であると、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を十分に置換することができる。また、加える水の質量が5倍以下であると、シリカ粒子が長時間高温にさらされて溶解しゲル化することを防ぐことができる。
【0050】
工程(2)は、金属不純物の溶出を防ぐことができることから、内壁が樹脂で覆われた容器内で行うことが好ましい。
【0051】
(工程(3))
本発明のシリカゾルの製造方法は、シリカ粒子の縮合度を高めることができることから、更に、以下の工程(3)を含むことが好ましい。
工程(3):工程(2)で得られたシリカ粒子の分散液を加圧加熱処理する工程
【0052】
加圧加熱処理の圧力は、0.10MPa~2.3MPaが好ましく、0.14MPa~1.0MPaがより好ましい。加圧加熱処理の圧力が0.10MPa以上であると、シリカ粒子の縮合度を高めることができる。また、加圧加熱処理の圧力が2.3MPa以下であると、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比を大きく変化させることなくシリカ粒子を製造することができ、シリカゾルの分散安定性に優れる。
加圧は、密閉した状態でシリカ粒子の分散液を分散媒の沸点以上に加熱すればよい。密閉した状態でシリカ粒子の水分散液を100℃以上に加熱した場合、圧力は、その温度の飽和水蒸気圧となる。
【0053】
加圧加熱処理の温度は、100℃~220℃が好ましく、110℃~180℃がより好ましい。加圧加熱処理の温度が100℃以上であると、シリカ粒子の縮合度を高めることができる。また、加圧加熱処理の温度が220℃以下であると、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比を大きく変化させることなくシリカ粒子を製造することができ、シリカゾルの分散安定性に優れる。
【0054】
加圧加熱処理の時間は、0.25時間~10時間が好ましく、0.5時間~8時間がより好ましい。加圧加熱処理の時間が0.25時間以上であると、シリカ粒子の縮合度を高めることができる。また、加圧加熱処理の時間が10時間以下であると、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比を大きく変化させることなくシリカ粒子を製造することができ、シリカゾルの分散安定性に優れる。
【0055】
加圧加熱処理は、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比を大きく変化させることなくシリカ粒子の縮合度を高めることができることから、水分散液中で行うことがより好ましい。
【0056】
加圧加熱処理を水分散液中で行う際のpHは、6.0~8.0が好ましく、6.5~7.8がより好ましい。加圧加熱処理を水分散液中で行う際のpHが6.0以上であると、シリカゾルのゲル化を抑制することができる。また、加圧加熱処理を水分散液中で行う際のpHが8.0以下であると、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値、会合比を大きく変化させることなくシリカ粒子の縮合度を高めることができる。
【0057】
(シリカゾルの物性)
以下に本発明のシリカゾルの製造方法により製造されるシリカゾルの好適物性等について説明する。
【0058】
シリカゾル中のシリカ粒子の平均1次粒子径は、5nm~100nmが好ましく、10nm~60nmがより好ましい。シリカ粒子の平均1次粒子径が5nm以上であると、シリカゾルの保存安定性に優れる。また、シリカ粒子の平均1次粒子径が100nm以下であると、シリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、シリカ粒子の沈降を抑制することができる。
【0059】
シリカゾル中のシリカ粒子の平均1次粒子径は、BET法により測定する。具体的には、比表面積自動測定装置を用いてシリカ粒子の比表面積を測定し、下記式(1)を用いて平均1次粒子径を算出する。
平均1次粒子径(nm)=6000/(比表面積(m2/g)×密度(g/cm3))
・・・ (1)
【0060】
シリカゾル中のシリカ粒子の平均1次粒子径は、公知の条件・方法により、所望の範囲に設定することができる。
【0061】
シリカゾル中のシリカ粒子の平均2次粒子径は、10nm~200nmが好ましく、20nm~100nmがより好ましい。シリカ粒子の平均2次粒子径が10nm以上であると、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れ、シリカゾルの保存安定性に優れる。また、シリカ粒子の平均2次粒子径が200nm以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れ、シリカ粒子の沈降を抑制することができる。
【0062】
シリカゾル中のシリカ粒子の平均2次粒子径は、DLS法により測定する。具体的には、動的光散乱粒子径測定装置を用いて測定する。
【0063】
シリカゾル中のシリカ粒子の平均2次粒子径は、公知の条件・方法により、所望の範囲に設定することができる。
【0064】
シリカゾル中のシリカ粒子のcv値は、10~50が好ましく、15~40がより好ましく、20~35が更に好ましい。シリカ粒子のcv値が10以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れる。また、シリカ粒子のcv値が50以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れる。
【0065】
シリカゾル中のシリカ粒子のcv値は、動的光散乱粒子径測定装置を用いてシリカ粒子の平均2次粒子径を測定し、下記式(2)を用いて算出する。
cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm))×100 ・・・ (2)
【0066】
シリカゾル中のシリカ粒子の会合比は、1.0~4.0が好ましく、1.1~3.0がより好ましい。シリカ粒子の会合比が1.0以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れる。また、シリカ粒子の会合比が4.0以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、シリカ粒子の凝集を抑制することができる。
【0067】
シリカゾル中のシリカ粒子の会合比は、前述の測定方法にて測定した平均1次粒子径と前述の測定方法にて測定した平均2次粒子径とから、下記式(3)を用いて算出する。
会合比=平均2次粒子径/平均1次粒子径 ・・・ (3)
【0068】
シリカゾル中のシリカ粒子の表面シラノール基密度は、0.1個/nm2~10個/nm2が好ましく、0.5個/nm2~7.5個/nm2がより好ましく、2.0個/nm2~7.0個/nm2が更に好ましい。シリカ粒子の表面シラノール基密度が0.1個/nm2以上であると、シリカ粒子が適度な表面反発を有し、シリカゾルの分散安定性に優れる。また、シリカ粒子の表面シラノール基密度が10個/nm2以下であると、シリカ粒子が適度な表面反発を有し、シリカ粒子の凝集を抑制することができる。
【0069】
シリカゾル中のシリカ粒子の表面シラノール基密度は、シアーズ法により測定する。具体的には、下記に示す条件で測定、算出する。
シリカ粒子1.5gに相当するシリカゾルを採取し、純水を加えて液量を90mLにする。25℃の環境下、pHが3.6になるまで0.1mol/Lの塩酸水溶液を加え、塩化ナトリウム30gを加え、純水を徐々に加えながら塩化ナトリウムを完全に溶解させ、最終的に試験液の総量が150mLになるまで純水を加え、試験液を得る。
得られた試験液を自動滴定装置に入れ、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが4.0から9.0になるのに要する0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴定量A(mL)を測定する。
下記式(4)を用いて、シリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の消費量V(mL)を算出し、下記式(5)を用いて、シリカ粒子の表面シラノール基密度ρ(個/nm2)を算出する。
V=(A×f×100×1.5)/(W×C) ・・・ (4)
A:シリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴定量(mL)
f:用いた0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の力価
C:シリカゾル中のシリカ粒子の濃度(質量%)
W:シリカゾルの採取量(g)
ρ=(B×NA)/(1018×M×SBET) ・・・ (5)
B:Vから算出したシリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した水酸化ナトリウム量(mol)
NA:アボガドロ数(個/mol)
M:シリカ粒子量(1.5g)
SBET:平均1次粒子径の算出の際に測定したシリカ粒子の比表面積(m2/g)
【0070】
尚、前記シリカ粒子の表面シラノール基密度の測定、算出方法は、「G.W.Sears,Jr., Analytical Chemistry, Vol.28, No.12, pp.1981-1983(1956).」、「羽場真一, 半導体集積回路プロセス用研磨剤の開発, 高知工科大学博士論文, pp.39-45, 2004年3月」、「特許第5967118号公報」、「特許第6047395号公報」を参考にした。
【0071】
シリカゾル中のシリカ粒子の表面シラノール基密度は、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応の条件を調整することで、所望の範囲に設定することができる。
【0072】
シリカゾル中のシリカ粒子の含有率は、シリカゾル全量100質量%中、3質量%~50質量%が好ましく、4質量%~40質量%がより好ましく、5質量%~30質量%が更に好ましい。シリカゾル中のシリカ粒子の含有率が3質量%以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる。また、シリカゾル中のシリカ粒子の含有率が50質量%以下であると、シリカゾルや研磨組成物中のシリカ粒子の凝集を抑制することができ、シリカゾルや研磨組成物の保存安定性に優れる。
【0073】
シリカゾル中の水の含有率は、シリカゾル全量100質量%中、50質量%~97質量%が好ましく、60質量%~96質量%がより好ましく、70質量%~95質量%が更に好ましい。シリカゾル中の分散媒の含有率が50質量%以上であると、シリカゾルや研磨組成物中のシリカ粒子の凝集を抑制することができ、シリカゾルや研磨組成物の保存安定性に優れる。また、シリカゾル中の分散媒の含有率が97質量%以下であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる。
【0074】
シリカゾル中のシリカ粒子や水の含有率は、得られたシリカ粒子の分散液中の成分のうち、不必要な成分を留去し、必要な成分を添加することで、所望の範囲に設定することができる。
【0075】
シリカゾルは、シリカ粒子の分散安定性に優れることから、水以外の分散媒を含んでもよい。分散媒は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコールが挙げられる。これらの分散媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、シリカ粒子との親和性に優れる水を分散媒とすることが好ましい。
【0076】
シリカゾルは、シリカ粒子及び水以外に、その性能を損なわない範囲において、必要に応じて、酸化剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、pH緩衝剤、界面活性剤、キレート剤、抗菌殺生物剤等の他の成分を含んでもよい。
特に、シリカゾルの保存安定性に優れることから、シリカゾル中に抗菌殺生物剤を含ませることが好ましい。
【0077】
抗菌殺生物剤としては、例えば、過酸化水素、アンモニア、第四級アンモニウム水酸化物、第四級アンモニウム塩、エチレンジアミン、グルタルアルデヒド、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。これらの抗菌殺生物剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの抗菌殺生物剤の中でも、シリカゾルとの親和性に優れることから、過酸化水素が好ましい。
抗菌殺生物剤は、一般に殺菌剤と言われるものも含む。
【0078】
シリカゾル中の抗菌殺生物剤の含有率は、シリカゾル全量100質量%中、0.0001質量%~10質量%が好ましく、0.001質量%~1質量%がより好ましい。シリカゾル中の抗菌殺生物剤の含有率が0.0001質量%以上であると、シリカゾルの保存安定性に優れる。また、シリカゾル中の抗菌殺生物剤の含有率が10質量%以下であると、シリカゾルの本来の性能を損なわない。
【0079】
シリカゾルのpHは、6.0~8.0が好ましく、6.5~7.8がより好ましい。シリカゾルのpHが6.0以上であると、分散安定性に優れ、シリカ粒子の凝集を抑制することができる。また、シリカゾルのpHが8.0以下であると、シリカ粒子の溶解を防ぎ、長期間の保存安定性に優れる。
シリカゾルのpHは、pH調整剤を添加することで、所望の範囲に設定することができる。
【0080】
シリカゾルに不純物として混入した金属含有率(金属不純物含有率)は、1ppm以下が好ましく、0.2ppm以下がより好ましい。
【0081】
半導体デバイスのシリコンウェハの研磨において、金属不純物が被研磨体の表面に付着、汚染することで、ウェハ特性に悪影響を及ぼすと共に、ウェハ内部に拡散して品質が劣化するため、このようなウェハによって製造された半導体デバイスの性能が著しく低下する。
また、シリカゾルに金属不純物が存在すると、酸性を示す表面シラノール基と金属不純物とが配位的な相互作用が発生し、表面シラノール基の化学的性質(酸性度等)を変化させたり、シリカ粒子表面の立体的な環境(シリカ粒子の凝集のしやすさ等)を変化させたり、研磨レートに影響を及ぼす。
【0082】
シリカゾルの金属不純物含有率は、高周波誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により測定する。具体的には、シリカ粒子0.4g含むシリカゾルを正確に量り取り、硫酸とフッ酸を加え、加温、溶解、蒸発させ、残存した硫酸滴に総量が正確に10gとなるよう純水を加えて試験液を作成し、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定する。対象の金属は、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、コバルト、クロム、銅、マンガン、鉛、チタン、銀、ニッケルとし、これらの金属の含有率の合計を金属不純物含有率とする。
【0083】
シリカゾルの金属不純物含有率は、アルコキシシランを主原料として加水分解反応及び縮合反応を行ってシリカ粒子を得ることで、1ppm以下とすることができる。
水ガラス等の珪酸アルカリの脱イオンによる方法では、原料由来のナトリウム等が残存するため、シリカ粒子の金属不純物含有率を1ppm以下とすることが極めて困難である。
【0084】
シリカゾル中のシリカ粒子の形状としては、例えば、球状、鎖状、繭状(こぶ状や落花生状とも称される)、異形状(例えば、疣状、屈曲状、分岐状等)等が挙げられる。これらのシリカ粒子の形状の中でも、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減させたい場合は、球状が好ましく、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートをより高めたい場合は、異形状が好ましい。
【0085】
シリカゾル中のシリカ粒子は、機械的強度、保存安定性に優れることから、細孔を有しないことが好ましい。
シリカゾル中のシリカ粒子の細孔の有無は、窒素を吸着ガスとした吸着等温線を用いたBET多点法解析により確認する。
【0086】
(研磨組成物)
本発明のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルは、研磨組成物として好適に用いることができる。
研磨組成物は、本発明のシリカゾルの製造方法により製造されたシリカゾル及び水溶性高分子を含むことが好ましい。
【0087】
水溶性高分子は、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨組成物の濡れ性を高める。水溶性高分子は、水親和性の高い官能基を保有する高分子であることが好ましく、この水親和性の高い官能基とシリカ粒子の表面シラノール基との親和性が高く、研磨組成物中でより近傍にシリカ粒子と水溶性高分子とが安定して分散する。そのため、シリコンウェハに代表される被研磨体への研磨の際、シリカ粒子と水溶性高分子との効果が相乗的に機能する。
【0088】
水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン骨格を有する共重合体、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体等が挙げられる。
【0089】
セルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、加水分解処理を施したヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
ポリビニルピロリドン骨格を有する共重合体としては、例えば、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとのグラフト共重合体等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン構造を有する重合体としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体等が挙げられる。
【0090】
これらの水溶性高分子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの水溶性高分子の中でも、シリカ粒子の表面シラノール基との親和性が高く、相乗的に作用して被研磨体の表面に良好な親水性を与えることから、セルロース誘導体が好ましく、ヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。
【0091】
水溶性高分子の質量平均分子量は、1,000~3,000,000が好ましく、5,000~2,000,000がより好ましく、10,000~1,000,000が更に好ましい。水溶性高分子の質量平均分子量が1,000以上であると、研磨組成物の親水性が向上する。また、水溶性高分子の質量平均分子量が3,000,000以下であると、シリカゾルとの親和性に優れ、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる。
【0092】
水溶性高分子の質量平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で、0.1mol/LのNaCl溶液を移動相とする条件で、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定する。
【0093】
研磨組成物中の水溶性高分子の含有率は、研磨組成物全量100質量%中、0.02質量%~10質量%が好ましく、0.05質量%~5質量%がより好ましい。研磨組成物中の水溶性高分子の含有率が0.02質量%以上であると、研磨組成物の親水性が向上する。また、研磨組成物中の水溶性高分子の含有率が10質量%以下であると、研磨組成物調製時のシリカ粒子の凝集を抑制することができる。
【0094】
研磨組成物は、シリカゾル及び水溶性高分子以外に、その性能を損なわない範囲において、必要に応じて、塩基性化合物、研磨促進剤、界面活性剤、親水性化合物、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、pH緩衝剤、界面活性剤、キレート剤、抗菌殺生物剤等の他の成分を含んでもよい。
特に、シリコンウェハに代表される被研磨体の表面に化学的な作用を与えて化学的研磨(ケミカルエッチング)ができ、シリカ粒子の表面シラノール基との相乗効果により、シリコンウェハに代表される被研磨体の研磨速度を向上させることができることから、研磨組成物中に塩基性化合物を含ませることが好ましい。
【0095】
塩基性化合物としては、例えば、有機塩基性化合物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等が挙げられる。これらの塩基性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの塩基性化合物の中でも、水溶性が高く、シリカ粒子や水溶性高分子との親和性に優れることから、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムが好ましく、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムがより好ましく、アンモニアが更に好ましい。
【0096】
研磨組成物中の塩基性化合物の含有率は、研磨組成物全量100質量%中、0.001質量%~5質量%が好ましく、0.01質量%~3質量%がより好ましい。研磨組成物中の塩基性化合物の含有率が0.001質量%以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体の研磨速度を向上させることができる。また、研磨組成物中の塩基性化合物の含有率が5質量%以下であると、研磨組成物の安定性に優れる。
【0097】
研磨組成物のpHは、8.0~12.0が好ましく、9.0~11.0がより好ましい。研磨組成物のpHが8.0以上であると、研磨組成物中のシリカ粒子の凝集を抑制することができ、研磨組成物の分散安定性に優れる。また、研磨組成物のpHが12.0以下であると、シリカ粒子の溶解を抑制することができ、研磨組成物の安定性に優れる。
研磨組成物のpHは、pH調整剤を添加することで、所望の範囲に設定することができる。
【0098】
研磨組成物は、本発明のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾル、水溶性高分子、及び、必要に応じて、他の成分を混合することで得られるが、保管、運搬を考慮し、一旦高濃度で調製し、研磨直前に水等で希釈してもよい。
【0099】
(研磨方法)
本発明の研磨方法は、本発明のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨する方法である。
研磨組成物は、前述した研磨組成物を用いることが好ましい。
具体的な研磨の方法としては、例えば、シリコンウェハの表面を研磨パッドに押し付け、研磨パッド上に本発明の研磨組成物を滴下し、シリコンウェハの表面を研磨する方法が挙げられる。
【0100】
(半導体ウェハの製造方法)
本発明の半導体ウェハの製造方法は、本発明の研磨方法を含む方法であり、具体的な研磨方法は、前述した通りである。
半導体ウェハとしては、例えば、シリコンウェハ、化合物半導体ウェハ等が挙げられる。
【0101】
(半導体デバイスの製造方法)
本発明の半導体デバイスの製造方法は、本発明の研磨方法を含む方法であり、具体的な研磨方法は、前述した通りである。
【0102】
(用途)
本発明のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルは、研磨用途に好適に用いることができ、例えば、シリコンウェハ等の半導体材料の研磨、ハードディスク基板等の電子材料の研磨、集積回路を製造する際の平坦化工程における研磨(化学的機械的研磨)、フォトマスクや液晶に用いる合成石英ガラス基板の研磨、磁気ディスク基板の研磨等に用いることができ、中でもシリコンウェハの研磨や化学的機械的研磨に特に好適に用いることができる。
【実施例0103】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0104】
(平均1次粒子径の測定)
実施例及び比較例で得られたシリカゾルを150℃で乾燥し、比表面積自動測定装置「BELSORP-MR1」(機種名、マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて、シリカ粒子の比表面積を測定し、下記式(1)を用い、密度を2.2g/cm3とし、平均1次粒子径を算出した。
平均1次粒子径(nm)=6000/(比表面積(m2/g)×密度(g/cm3))
・・・ (1)
【0105】
(平均2次粒子径、cv値の測定)
実施例及び比較例で得られたシリカ粒子の分散液を、動的光散乱粒子径測定装置「ゼーターサイザーナノZS」(機種名、マルバーン社製)を用いて、シリカ粒子の平均2次粒子径を測定し、下記式(2)を用いてcv値を算出した。
cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm))×100 ・・・ (2)
【0106】
(会合比の算出)
測定した平均1次粒子径と平均2次粒子径とから、下記式(3)を用いて会合比を算出した。
会合比=平均2次粒子径/平均1次粒子径 ・・・ (3)
【0107】
[実施例1]
純水17.5質量部、メタノール81.4質量部及びアンモニア1.1質量部を混合した溶液(A)に、テトラメトキシシラン85.0質量部及びメタノール15.0質量部を混合した溶液(B)及び純水97.9質量部及びアンモニア2.1質量部を混合した溶液(C)を、142分かけてそれぞれ等速で添加した。添加中、反応液の温度を33℃に保ったまま、反応液の撹拌を続けた。滴下終了後、反応液の温度を33℃に保ったまま、更に反応液を30分間撹拌し、シリカ粒子の分散液を得た。
得られたシリカ粒子の分散液を撹拌し続けながら、反応容器のジャケットの熱媒の温度を上げて加熱して沸騰させ、シリカ粒子の分散液100質量%中28.5質量%に相当する液体を留去した。その後、シリカ粒子の分散液の液体を留去しながら80℃の水をシリカ粒子の分散液に加え、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換し、シリカ粒子の含有率が約20質量%のシリカゾルを得た。その際、液面の高さを一定に保つように、単位時間あたりに留去する液体の質量と加える水の質量との比を4:6~5:5に維持した。加える水の質量が、水を加える前のシリカ粒子の分散液の液体成分の質量の1.6倍に到達した時点を、シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換する工程の終点とした。
尚、反応容器のジャケットの熱媒の温度は、33℃から65℃まで25分かけて昇温させ、その後、110℃まで300分かけて昇温させ、その後、125℃まで75分かけて昇温させ、その後、125℃に一定に保った。
シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換するのにかかった時間を、表1に示す。また、得られたシリカゾルの評価結果を表2に示す。
【0108】
[実施例2]
シリカ粒子の分散液に加えた水の温度を100℃とした以外は、実施例1と同様に操作し、シリカ粒子の含有率が約20質量%のシリカゾルを得た。
シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換するのにかかった時間を、表1に示す。また、得られたシリカゾルの評価結果を表2に示す。
【0109】
[実施例3]
シリカ粒子の分散液に加えた水の温度を130℃とした以外は、実施例1と同様の操作し、シリカ粒子の含有率が約20質量%のシリカゾルを得た。
シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換するのにかかった時間を、表1に示す。また、得られたシリカゾルの評価結果を表2に示す。
【0110】
[比較例1]
シリカ粒子の分散液に加えた水の温度を25℃とした以外は、実施例1と同様の操作し、シリカ粒子の含有率が約20質量%のシリカゾルを得た。
シリカ粒子の分散液中の有機溶媒を含む液体を水に置換するのにかかった時間を、表1に示す。また、得られたシリカゾルの評価結果を表2に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
表1及び表2に示す通り、実施例1~3及び比較例1では、1次粒子径、2次粒子径、cv値、会合比がほぼ同一のシリカゾルが得られたにもかかわらず、25℃の水を加えた比較例1に対し、加温した水を加えた実施例1~3は、製造時間を短縮することができた。これは、加えた水の熱量によって有機溶媒を含む液体の留去が効率よく行われたためであると考えられる。特に、100℃の水を加えた実施例2は、製造時間を大幅に短縮することができた。これは、加えた水の温度が最適で、シリカ粒子の分散液に加えられる熱量を大きくし、かつ、水が蒸気として容器外に抜けてしまうことを防ぐことができたためと考えられる。
本発明のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルは、研磨用途に好適に用いることができ、例えば、シリコンウェハ等の半導体材料の研磨、ハードディスク基板等の電子材料の研磨、集積回路を製造する際の平坦化工程における研磨(化学的機械的研磨)、フォトマスクや液晶に用いる合成石英ガラス基板の研磨、磁気ディスク基板の研磨等に用いることができる。中でもシリコンウェハの研磨や化学的機械的研磨に特に好適に用いることができる。