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特開2022-147165中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147165
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20220929BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 71/54 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 71/28 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20220929BHJP
   C02F 3/06 20060101ALI20220929BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 71/60 20060101ALI20220929BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20220929BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D69/02
B01D69/12
B01D71/54
B01D71/32
B01D71/28
B01D71/26
C02F3/06
C02F3/10 Z
B01D71/40
B01D71/60
B01D63/02
C02F1/44 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048301
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】李 胤制
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝明
(72)【発明者】
【氏名】安保 貴永
【テーマコード(参考)】
4D003
4D006
【Fターム(参考)】
4D003AA01
4D003AB01
4D003AB18
4D003CA07
4D003CA08
4D003DA11
4D003DB03
4D003EA30
4D003FA10
4D006GA35
4D006HA12
4D006HA93
4D006JA25A
4D006KA43
4D006KB22
4D006KB23
4D006KB25
4D006KC14
4D006LA06
4D006MA01
4D006MA06
4D006MA11
4D006MA22
4D006MA30
4D006MA31
4D006MB11
4D006MB12
4D006MB15
4D006MB16
4D006MC21
4D006MC22
4D006MC24
4D006MC36X
4D006MC39
4D006MC53
4D006MC60
4D006MC74
4D006MC78
4D006MC79
4D006NA46
4D006NA63
4D006NA67
4D006PA02
4D006PB08
4D006PB62
4D006PB63
4D006PC62
4D006PC67
4D006PC69
(57)【要約】
【課題】微生物層が形成されやすい中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法の提供。
【解決手段】廃水処理中に、廃水中の微生物又は菌に由来する微生物層6が外表面に形成される、廃水処理用の中空糸膜1であって、以下に示す測定条件により測定される前記中空糸膜1の表面ゼータ電位が-8mV以上である、中空糸膜1。
(測定条件)
固形分濃度0.25質量%、平均粒径500nmのポリスチレンラテックスを10mMの塩化ナトリウム水溶液で150倍に希釈した粒子分散液(25℃におけるpH=6)を用い、複数の前記中空糸膜を平板測定用セルのサンプル設置面に重ねず隙間がないように並べて敷き詰めて、密着させた状態で、電気泳動法により前記ポリスチレンラテックスのゼータ電位測定結果から、前記中空糸膜の表面ゼータ電位を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水処理中に、廃水中の微生物又は菌に由来する微生物層が外表面に形成される、廃水処理用の中空糸膜であって、
以下に示す測定条件により測定される前記中空糸膜の表面ゼータ電位が-8mV以上である、中空糸膜。
(測定条件)
固形分濃度0.25質量%、平均粒径500nmのポリスチレンラテックスを10mMの塩化ナトリウム水溶液で150倍に希釈した粒子分散液(25℃におけるpH=6)を用い、複数の前記中空糸膜を平板測定用セルのサンプル設置面に重ねず隙間がないように並べて敷き詰めて、密着させた状態で、電気泳動法により前記ポリスチレンラテックスのゼータ電位測定結果から、前記中空糸膜の表面ゼータ電位を算出する。
【請求項2】
前記中空糸膜は、中空状の膜本体と、前記膜本体の外表面に形成されたコーティング層とを備え、前記コーティング層はカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含む、請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーが、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩及びポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドから選ばれる1種以上を含む、請求項2に記載の中空糸膜。
【請求項4】
前記アニオン性ポリマーが、ポリスチレンスルホン酸及びポリアクリル酸から選ばれる1種以上を含む、請求項2又は3に記載の中空糸膜。
【請求項5】
前記コーティング層の表面に、前記カチオン性ポリマーが偏在している、請求項2~4のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項6】
前記膜本体は、1層以上の多孔質層と1層以上の非多孔質層とを有する複層構造を有し、最外層に前記多孔質層が配置されている、請求項2~5のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項7】
前記多孔質層が、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなる、請求項6に記載の中空糸膜。
【請求項8】
前記非多孔質層が、スチレン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなる、請求項6又は7に記載の中空糸膜。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の中空糸膜を含む、中空糸膜モジュール。
【請求項10】
請求項9に記載の中空糸膜モジュールを含む、廃水処理装置。
【請求項11】
請求項9に記載の中空糸膜モジュール、又は、請求項10に記載の廃水処理装置を用いて廃水を処理する廃水処理方法であって、
前記中空糸膜の外表面に、廃水中の微生物又は菌に由来する前記微生物層を形成させた後、前記中空糸膜の中空部に酸素を含む気体を供給する、廃水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃水や生活廃水は、廃水中に含まれる有機物等を取り除く処理が施されてから、工業用水として再利用されるか、もしくは河川等に放流される。工業廃水等の処理方法としては、一般的に、被処理水を曝気して好気的な微生物に有機物等を分解させる活性汚泥処理法等が挙げられる。このような、活性汚泥処理法等に代表される生物学的水処理方法では、好気性微生物や、硝酸性窒素を除去するための脱窒細菌等が利用されている。また、近年では、活性汚泥処理法による処理と、分離膜モジュールによる膜ろ過とを組み合わせた膜分離活性汚泥(MBR)法による処理が行われるようになっている。
【0003】
好気性微生物を利用して廃水を処理する場合、微生物の活性維持と処理能力向上のため、被処理水を空気もしくは酸素で曝気する必要がある。このように、被処理水を効率よく曝気する方法として、中空糸膜を用いた方法が採用されている。この中空糸膜は、廃水処理等の他、例えば、飲料水製造又は浄水処理等の様々な分野で利用されている。
【0004】
さらに、最近では、中空糸膜を用いて廃水処理を行うにあたり、中空糸膜の外表面に、廃水中の微生物等に由来する微生物層(バイオフィルム)を形成させ、この状態で廃水処理を行う方法も提案されている。中空糸膜の外表面に微生物層を形成し、中空糸膜の内面側から酸素を供給するバイオリアクター、いわゆるメンブレンエアレーション型バイオフィルムリアクター(MABR)では、微生物層の膜厚方向で酸素勾配が形成される。これにより、微生物層の内層側において好気処理(BOD酸化、アンモニアの硝酸化)が進行するとともに、微生物層の外層側において硝酸の嫌気処理(BOD酸化、脱窒処理)が進行するので、ワンプロセスで各種の汚染物質を除去することが可能になる。従って、従来の膜分離活性汚泥法のような、好気処理と嫌気処理とを別々の処理槽で行う方法に比べて省スペースの設備が実現できる。
【0005】
また、MABRは、微生物層を備えることで従来に比べて酸素溶解効率を高められることから、酸素を供給するブロワの稼働負荷を抑制できるとともに、スラッジの発生も低減できるので、設備全体のランニングコストを低減することが可能になる。さらに、微生物層の形成により、中空糸膜の膜表面積を大きく確保できるので、廃水の流入負荷変動に対して安定的に処理を行うことが可能になる。よって、MABRは、各種の廃水処理装置等において広く導入検討が進められている。
例えば特許文献1には、中空糸膜を水平方向と鉛直方向とに交差させて配置した中空糸膜モジュールを備えた生物処理装置が開示されている。特許文献1の中空糸膜モジュールによれば、中空糸膜に微生物が付着しやすくなり、微生物層が形成されやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-75538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の中空糸膜モジュールでは、水平に配置された中空糸膜の内部に凝縮水(酸素や空気等に含まれる水分や廃水中の水分が膜の中で水として凝縮したもの)が蓄積しやすくなる。そのため、中空糸膜から酸素が透過しにくくなり、有効表面積が低下することにより、廃水の処理能力が低下するという問題がある。そのため、中空糸膜を交差させて使用しなくても微生物が付着しやすく、微生物層が形成されやすい中空糸膜が求められている。
本発明は、微生物層が形成されやすい中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 廃水処理中に、廃水中の微生物又は菌に由来する微生物層が外表面に形成される、廃水処理用の中空糸膜であって、
以下に示す測定条件により測定される前記中空糸膜の表面ゼータ電位が-8mV以上である、中空糸膜。
(測定条件)
固形分濃度0.25質量%、平均粒径500nmのポリスチレンラテックスを10mMの塩化ナトリウム水溶液で150倍に希釈した粒子分散液(25℃におけるpH=6)を用い、複数の前記中空糸膜を平板測定用セルのサンプル設置面に重ねず隙間がないように並べて敷き詰めて、密着させた状態で、電気泳動法により前記ポリスチレンラテックスのゼータ電位測定結果から、前記中空糸膜の表面ゼータ電位を算出する。
[2] 前記中空糸膜は、中空状の膜本体と、前記膜本体の外表面に形成されたコーティング層とを備え、前記コーティング層はカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含む、前記[1]の中空糸膜。
[3] 前記カチオン性ポリマーが、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩及びポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドから選ばれる1種以上を含む、前記[2]の中空糸膜。
[4] 前記アニオン性ポリマーが、ポリスチレンスルホン酸及びポリアクリル酸から選ばれる1種以上を含む、前記[2]又は[3]の中空糸膜。
[5] 前記コーティング層の表面に、前記カチオン性ポリマーが偏在している、前記[2]~[4]のいずれかの中空糸膜。
[6] 前記膜本体は、1層以上の多孔質層と1層以上の非多孔質層とを有する複層構造を有し、最外層に前記多孔質層が配置されている、前記[2]~[5]のいずれかの中空糸膜。
[7] 前記多孔質層が、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなる、前記[6]の中空糸膜。
[8] 前記非多孔質層が、スチレン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなる、前記[6]又は[7]の中空糸膜。
[9] 前記[1]~[8]のいずれかの中空糸膜を含む、中空糸膜モジュール。
[10] 前記[9]の中空糸膜モジュールを含む、廃水処理装置。
[11] 前記[9]の中空糸膜モジュール、又は、前記[10]の廃水処理装置を用いて廃水を処理する廃水処理方法であって、
前記中空糸膜の外表面に、廃水中の微生物又は菌に由来する前記微生物層を形成させた後、前記中空糸膜の中空部に酸素を含む気体を供給する、廃水処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微生物層が形成されやすい中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る中空糸膜の一実施形態を模式的に説明するための、中空糸膜の複層構造を示す部分斜視図である。
図2】本発明に係る中空糸膜の一実施形態を模式的に説明するための、中空糸膜に備えられるコーティング層の表面に微生物層が形成された状態を示す部分斜視図である。
図3】本発明に係る中空糸膜の一実施形態を模式的に説明するための、微生物層における好気処理領域及び嫌気処理領域を示す概略図である。
図4】本発明に係る中空糸膜モジュール、廃水処理装置、及び廃水処理方法の一実施形態を模式的に説明するための、廃水の処理槽を含む装置全体の構成を示す概略図である。
図5】微生物層の付着量の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法の一実施形態を挙げ、図1~4を適宜参照しながら詳述する。
なお、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
図1~4に示すような、本実施形態の中空糸膜1、この中空糸膜1を備えた中空糸膜モジュール10、この中空糸膜モジュール10を複数備えた廃水処理装置100、及び、中空糸膜モジュール10又は廃水処理装置100を用いた廃水処理方法は、例えば、工業廃水や生活廃水等に含まれる有機物等を取り除く処理(廃水処理)に用いられるものである。
【0013】
[中空糸膜]
以下、本発明の中空糸膜の一実施形態について詳述する。
図1、2に示すように、本実施形態の中空糸膜1は、廃水処理中において、廃水中の微生物又は菌に由来する微生物層6が外表面に形成されるものである。
図示例の中空糸膜1は、中空状の膜本体7と、膜本体7の外表面に形成されたコーティング層8とを備える。
【0014】
<膜本体>
図示例の膜本体7は、2層の多孔質層2,4と1層の非多孔質層3を含む複層構造とされているとともに、最外層に多孔質層4が配置されている。図示例においては、2層の多孔質層2,4の間に非多孔質層3が配置された3層構造とされている。以下の明細書において、最内層に配置された多孔質層2を「第1多孔質層2」ともいい、最外層に配置された多孔質層4を「第2多孔質層4」ともいう。
【0015】
また、図示例の膜本体7は、最内層である第1多孔質層2の内面(非多孔質層3と接する側とは反対側の面)2b側が中空部5とされている。この中空部5に酸素を供給することで、内面2b側から外層側の第2多孔質層4の表面4aに向けて酸素を透過させることが可能に構成されている。
【0016】
(多孔質層)
本実施形態の膜本体7において、第1多孔質層2及び第2多孔質層4の2層の多孔質層は、非多孔質層3を介して同心状に配置されている。また、図示を省略するが、第1多孔質層2及び第2多孔質層4は、それぞれ、複数の細孔を有する膜から構成されており、これら多孔質層2,4の全周にわたって細孔が形成されている。
【0017】
本実施形態において、第1多孔質層2及び第2多孔質層4に形成される細孔とは、少なくとも内表面側から外表面までの連通孔を意味する。例えば図3に示すように、第1多孔質層2においては、内面2b側から外面(非多孔質層3と接する側の面)2a側までの連通孔を意味し、第2多孔質層4においては、内面(非多孔質層3と接する側の面)4b側から表面4a側までの連通孔を意味する。
また、本実施形態で説明する「細孔」とは、三次元的な構造を形成している膜基材の隙間の空間を表し、内面側から表面(外面)側に向けて酸素が透過する際の、酸素の通り道となる部分を意味する。
【0018】
多孔質層2,4は、例えば、溶融延伸法により形成される。溶融延伸法とは、まず、多孔質層の材料となる樹脂を融点以上の流動状態に加熱し、これを筒状に吐出する。次いで、吐出された流動状態にある樹脂を冷却することで非流動状態にし、形状を固定する。その後、形状が固定された樹脂に対して最適条件で延伸加工を施すことで、多孔質構造が形成される。
【0019】
多孔質層2,4は、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなることが、酸素透過性をより高める観点から好ましい。多孔質層が上記の樹脂の1つ以上を含む材料からなることで、上記のような多孔質構造に制御しながら形成することが可能になり、酸素透過性がより高められるとともに、耐酸化劣化性、耐薬品性、耐熱性及び機械的耐久性を付与できる。また、製膜原液を調整する際の溶剤への溶解性も良好となる。
第1多孔質層2及び第2多孔質層4は、同じ材料からなるものでもよいし、異なる材料からなるものでもよい。特に、第1多孔質層2及び第2多孔質層4は、それぞれポリオレフィン系樹脂を含む材料からなることが好ましい。
【0020】
第1多孔質層2及び第2多孔質層4の各膜厚は、多孔質層全体の合計膜厚、すなわち、図示例における第1多孔質層2と第2多孔質層4との合計の平均膜厚Dpが10~100μmとなるような膜厚であることが好ましい。各多孔質層の合計の平均膜厚Dpが10μm以上であれば、中空糸膜1全体における十分な機械的強度の確保に寄与できる。一方、各多孔質層の合計の平均膜厚Dpが100μm以下であれば、必要以上に膜の外径が大きくなることがないので、中空糸膜1をモジュール化する際の膜の充填量が小さくなるのを防止できる。
また、上記の観点からは、各多孔質層の合計の平均膜厚Dpは、15~90μmがより好ましく、20~80μmがさらに好ましい。
【0021】
多孔質層2,4の平均膜厚は、中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この画像を解析して多孔質層2,4の膜厚を複数箇所(5箇所)で測定し、その平均値を求めたものである。
【0022】
本実施形態の膜本体7においては、最外層に多孔質層が配置されている。このように、最外層に多孔質層が配置されることで、十分な酸素透過性を確保することができる。
【0023】
多孔質層2,4に形成される複数の細孔の平均細孔径は、それぞれ0.01~5μmであることが好ましい。多孔質層2,4における細孔の平均細孔径が0.01μm以上であれば、酸素透過に対して影響のある抵抗とはなりにくい。また、多孔質層2,4における細孔の平均細孔径が5μm以下であれば、十分な膜強度が得られる。
また、上記の観点からは、多孔質層2,4における細孔の平均細孔径は、それぞれ0.03~4μmがより好ましく、0.05~3μmがさらに好ましい。
【0024】
多孔質層2,4に形成される複数の細孔の平均細孔径は、SEMを用いて多孔質層の外表面部分を観察し、30個の細孔を無作為に選び、各細孔の最長径を測定して、これら30個の細孔の最長径を平均して求めた値である。
【0025】
(非多孔質層)
本実施形態の膜本体7において、非多孔質層3は、第1多孔質層2と第2多孔質層4との間に単層で設けられている。
【0026】
非多孔質層3は、例えばスチレン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなることが好ましい。非多孔質層3が上記の樹脂の1つ以上を含む材料からなることで、十分な酸素透過性を確保しながら、中空糸膜1全体の機械的強度をより高めることが可能になる。上記の樹脂の中でも、酸素透過性がより高まる観点から、非多孔質層3はスチレン系樹脂を含む材料からなることがより好ましい。
【0027】
スチレン系樹脂は、スチレン系モノマーを重合してなる重合体、又はスチレン系モノマー及び他のモノマーを重合してなる重合体である。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられる。
他のモノマーとしては、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0028】
スチレン系樹脂は、スチレン系樹脂を構成するモノマー単位の総質量に対して、スチレン系モノマー単位を50~100質量%有するものが好ましく、70~100質量%有するものがより好ましく、90~100質量%有するものがさらに好ましい。特に、スチレン系樹脂を構成するモノマー単位の総質量に対して、スチレン単位を50~100質量%有するものが好ましく、70~100質量%有するものがより好ましく、90~100質量%有するものがさらに好ましい。
【0029】
非多孔質層3の平均膜厚は、0.3~10μmであることが好ましい。非多孔質層3の平均膜厚が0.3μm以上であれば、製造時に欠陥が発生することなく、安定的に生産することが可能になる。また、非多孔質層3の平均膜厚が10μm以下であれば、実使用において影響があるような酸素透過性の低下を抑制できる。
また、上記の観点から、非多孔質層3の平均膜厚は、0.5~8μmがより好ましく、1~6μmがさらに好ましい。
【0030】
非多孔質層3の平均膜厚は、中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この画像を解析して非多孔質層3の膜厚を複数箇所(5箇所以上)で測定し、その平均値を求めたものである。
【0031】
図3に示すように、非多孔質層3の合計の平均膜厚Dn、すなわち、単層とされた非多孔質層3の平均膜厚Dnと、多孔質層2,4の合計の平均膜厚Dp、すなわち、第1多孔質層2と第2多孔質層4との合計の平均膜厚Dpとは、次式{0.005≦Dn/Dp≦1.0}で表される関係を満たすことが好ましい。
非多孔質層3の平均膜厚Dnと多孔質層2,4の平均膜厚Dpとの関係が上記式で表される関係を満たすことで、多孔質層2,4及び非多孔質層3の全体膜厚に対する非多孔質層3の膜厚の割合が小さくなる。したがって、実使用に適した十分な機械的強度を確保しながら非多孔質層を薄膜化できるので、酸素透過性をより高められる。
また、上記の観点からは、非多孔質層3の合計の平均膜厚Dnと多孔質層2,4の合計の平均膜厚Dpとの関係は、次式{0.007≦Dn/Dp≦0.9}で表される関係がより好ましく、次式{0.01≦Dn/Dp≦0.8}で表される関係がさらに好ましい。
【0032】
<コーティング層>
コーティング層8は、膜本体7の外表面(本実施形態では第2多孔質層4の表面4a)に形成された層であり、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含む。
カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含むコーティング層8が膜本体7の外表面に形成されていることで、中空糸膜1の表面ゼータ電位が高くなりやすく、コーティング層8の表面8aへの微生物層6の付着性が高まり、微生物層6が短期間で形成されやすくなる。特に、中空糸膜1の表面ゼータ電位がより高まり、微生物層6がより短期間で形成されやすくなる観点から、コーティング層8の表面8aに、カチオン性ポリマーが偏在していることが好ましい。
なお、廃水処理が進むに連れて微生物層6は肥大化するため、肥大化した微生物層6を定期的に剥離する必要がある。コーティング層8が膜本体7の外表面に形成されていることで、一旦、剥離した微生物層6がコーティング層8の表面8aに短時間で再付着する。
ここで、「コーティング層8の表面8a」とは、コーティング層8の第2多孔質層4と接する側とは反対側の面のことである。
【0033】
コーティング層8は、カチオン性ポリマーを含む層と、アニオン性ポリマーを含む層とが交互に積層された複層構造であることが好ましい。通常、第2多孔質層4の表面4aはマイナスに帯電していることから、コーティング層8の最内層、すなわち第2多孔質層4の表面4aと接する層が、カチオン性ポリマーを含む層であることが好ましい。また、コーティング層8の最外層、すなわち微生物層6と接する層が、カチオン性ポリマーを含む層であることが好ましい。
なお、カチオン性ポリマーを含む層とアニオン性ポリマーを含む層との界面においては、カチオン性ポリマーを含む層からなる領域と、アニオン性ポリマーを含む層からなる領域とが、互いに若干入り込んでいても構わない。
【0034】
カチオン性ポリマーとしては、例えば4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びることのできる官能基を有する化合物が挙げられ、具体的には、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、polystylenemethylenediethylmethylamine(PSMDEMA)、precursor of poly(phenylene vinylene)(Pre-PPV)、polymethylpyridylvinyl(PMPyV)、protonated poly(p-pyridyl vinylene)(R-PHPyV)などが挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)が好ましい。
これらカチオン性ポリマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
アニオン性ポリマーとしては、例えばスルホン酸、硫酸、カルボン酸など負電荷を帯びることができる官能基を有する化合物が挙げられ、具体的には、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、Poly(1-(4-(3-carboxy-4-hydroxyphenylazo)benzenesulfonamido)-1,2-ethanediyl)(PAZO)、Poly(anilinepropanesulfonic acid)(PAPSA)、Sulfonated polyaniline(SPAN)、Poly(thiophene-3-acetic acid)(PTAA)、Poly(2-acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid)(PAMPSA)、ポリチオフェンやポリアニリン等の導電性高分子、発色団を有する高分子、液晶型ポリマー、DNA等の生体高分子などが挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリアクリル酸(PAA)が好ましい。
これらアニオン性ポリマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
コーティング層8の平均膜厚は、1~30μmであることが好ましい。コーティング層8の平均膜厚が1μm以上であれば、コーティング層8を安定的に製作することが可能になる。また、コーティング層8の平均膜厚が30μm以下であれば、実使用において影響があるような酸素透過性の低下を抑制できる。
また、上記の観点から、コーティング層8の平均膜厚は、2~20μmがより好ましく、3~10μmがさらに好ましい。
【0037】
コーティング層8の平均膜厚は、中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この画像を解析してコーティング層8の膜厚を複数箇所(5箇所以上)で測定し、その平均値を求めたものである。
【0038】
<微生物層>
微生物層6は、例えば中空糸膜1を後述する中空糸膜モジュールとして廃水処理に使用する際に、別の廃水処理場等で既に使用している活性汚泥を種として微生物又は菌を増殖処理し、所定濃度としたものに中空糸膜モジュールを浸漬させることで、微生物又は菌に由来して、中空糸膜1の外表面に形成されるものである。本実施形態の場合、微生物層6はコーティング層8の表面8aに形成される。すなわち、本実施形態において、コーティング層8の表面8aが中空糸膜1の外表面である。
【0039】
上記の活性汚泥は、廃水の種類によって様々な成分構成・割合が存在するが、廃水中に含まれるBOD(有機物)成分や栄養分(窒素、りん等)を食物とし、増殖を行ったものを用いることができる。そして、これに含まれる微生物や菌に由来する層として、コーティング層8の表面8aに微生物層6が形成される。
【0040】
図3は、微生物層6における好気処理領域及び嫌気処理領域を模式的に示す概略図である(図2も参照)。図3に示すように、本実施形態の中空糸膜1は、上記の微生物層6が形成されることで、中空糸膜1の中空部5から第1多孔質層2、非多孔質層3、第2多孔質層4及びコーティング層8を順に透過した酸素が微生物層6内で溶解拡散し、微生物層6の膜厚方向において酸素勾配(濃度)が形成され、内層側においては酸素に富んだ好気状態となる一方、外層側は酸素が減少した嫌気状態となる。これにより、微生物層6は、内層側に好気処理領域6Aが形成され、外層側に嫌気処理領域6Bが形成された状態となる。
【0041】
そして、好気処理領域6Aにおいては、好気処理(BOD酸化)によって廃水中に含まれるアンモニアの酸化が進行し、硝酸化される。さらに、嫌気処理領域6Bにおいては、嫌気処理(BOD酸化)によって、好気処理領域6Aで生じた硝酸が、嫌気バクテリアによって窒素として処理され、脱窒される。これにより、好気処理及び嫌気処理の両方をワンプロセスで行うことができるので、従来、好気処理と嫌気処理とを別々の処理槽で行っていた場合に比べ、省スペースの設備が実現できるとともに、処理効率も向上する。
【0042】
なお、微生物層6の膜厚としては特に限定されず、所定以上の厚み、又は所定の処理時間に達したところで空気によるバブリング洗浄等の操作を行い、最適な好気処理及び嫌気処理を行うことが可能な膜厚に調整すればよい。
【0043】
<中空糸膜の外形状及び平均外径D>
中空糸膜1の外形状としては特に限定されないが、例えば略円筒状などが挙げられる。
ここで、本実施形態で説明する中空糸膜1の外形状とは、微生物層6を除いた状態での外形状、及び、コーティング層8の表面8aに微生物層6が形成された状態での外形状の両方を含む。
また、本実施形態で説明する「略円筒状」とは、長手方向に垂直な任意の断面の形状が、例えば、真円形、卵形、長円形、楕円形等のオーバル形である立体形状を意味する。
【0044】
なお、図1~3に示すように、第1多孔質層2と第2多孔質層4との間に非多孔質層3が配置されている場合、これらの界面においては、多孔質層2,4からなる領域と、非多孔質層3からなる領域とが、互いに若干入り込んでいても構わない。
【0045】
中空糸膜1の外径は特に限定されないが、微生物層6を除く平均外径Dで0.01~3.0mmであることが好ましい。中空糸膜1の平均外径Dが3.0mm以下であることで、膜モジュール化する際に膜の充填量が小さくなるのを防止できる。また、中空糸膜1の平均外径Dが0.01mm以上であることで、中空部5の内径を十分に確保できるので、中空部5を流れる酸素の流量が圧力損失等によって低下する影響を軽減できる。
また、中空糸膜1の平均外径Dは、コーティング層8の表面8aに形成される微生物層6が剥がれ落ちない程度の表面積を確保できる寸法であることがより好ましい。
【0046】
なお、本実施形態で説明する「中空糸膜の平均外径D」とは、微生物層6が形成される前の中空糸膜1を長手方向に対して垂直な任意の面で切断したとき、その切断面の外縁を内接する最少の円の直径を意味する。また、この中空糸膜1の平均外径Dは、上記の切断面における任意の3箇所以上、10箇所以下測定し、その平均値として求めることができる。
【0047】
<表面ゼータ電位>
中空糸膜1の表面ゼータ電位は、-8mV以上である。中空糸膜1の表面ゼータ電位が-8mV以上であることで、中空糸膜1の外表面(本実施形態ではコーティング層8の表面8a)に、微生物層6が形成されやすくなる。
中空糸膜1の表面ゼータ電位は、-7mV以上が好ましく、-5mV以上がより好ましい。また、中空糸膜1の表面ゼータ電位は、20mV以下が好ましく、15mV以下がより好ましく、10mV以下がさらに好ましい。すなわち、中空糸膜1の表面ゼータ電位は、-8~20mVが好ましく、-7~15mVがより好ましく、-5~10mVがさらに好ましい。
中空糸膜1の表面ゼータ電位は、例えば膜本体7の外表面に形成されるコーティング層8を構成するカチオン性ポリマーやアニオン性ポリマーの種類に応じて容易に制御できる。また、詳しくは後述するが、に、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを交互に積層させて、膜本体7の外表面にコーティング層8を形成する際の積層回数によっても、中空糸膜1の表面ゼータ電位を容易に制御できる。
【0048】
中空糸膜1の表面ゼータ電位は、以下に示す測定条件により測定される。
(測定条件)
固形分濃度0.25質量%、平均粒径500nmのポリスチレンラテックスを10mMの塩化ナトリウム水溶液で150倍に希釈した粒子分散液(25℃におけるpH=6)を用い、複数の前記中空糸膜を平板測定用セルのサンプル設置面に重ねず隙間がないように並べて敷き詰めて、密着させた状態で、電気泳動法により前記ポリスチレンラテックスのゼータ電位測定結果から、前記中空糸膜の表面ゼータ電位を算出する。
ポリスチレンラテックスの表面は、例えばヒドロキシプロピルセルロース(質量平均分子量=30000)でコーティングされ、ゼータ電位がほぼゼロに抑えられていることが好ましい。
【0049】
中空糸膜1の表面ゼータ電位は、具体的には、以下のようにして測定される。
複数の中空糸膜1を平板測定用セルのサンプル設置面に重ねず隙間がないように並べて敷き詰め、両面テープで貼り付けて作製した試料と、前記粒子分散液をゼータ電位・粒径測定装置にセットし、測定位置を上下に移動させて、各セル位置での移動度を測定する。測定位置は7点とする。各セル位置での前記粒子分散液の粒子の移動度のデータをもとに、最小自乗法で近似し、係数比較して、粒子の真の移動度を下記式(1)表される森・岡本の式より求める。そして、真の移動度を下記式(2)で表されるSmoluchowskiの式中の「U」に代入して、中空糸膜1の表面ゼータ電位を求める。
obs(Z)=AU(Z/b)+ΔU(Z/b)+(1-A)U+U ・・・(1)
ζ=4πηU/ε ・・・(2)
式(1)中、「Uobs(Z)」は測定される見掛けの速度であり、「Z」はセル中心からの距離であり、「A」は1/[(2/3)-(0.420166/k)]で求められる値(ただし、k=a/b:セル断面の辺(横と縦)の長さ、a>b)であり、「U」は粒子の真の移動度であり、「U」はセルの上面、下面における溶媒の流速の平均であり、「ΔU」はセルの上面、下面における溶媒の流速の差である。
式(2)中、「ζ」は表面ゼータ電位であり、「η」は溶媒の粘度であり、「U」は電気移動度であり、U=V/Eで求められる値(ただし、Vは泳動速度であり、Eは電場である。)であり、「ε」は溶媒の誘電率である。
【0050】
<中空糸膜の製造方法>
以下、中空糸膜1の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の中空糸膜1の製造方法は、紡糸工程と延伸工程とコーティング層形成工程とを有する。紡糸工程と延伸工程との間に、アニール工程を有することが好ましい。
【0051】
(紡糸工程)
紡糸工程は、溶融した樹脂を紡糸して中空糸膜前駆体を得る工程である。
図示例のように、1層の非多孔質層3を2層の多孔質層2,4で挟みこんだ3層構造である膜本体7を製造する場合、最内層ノズル部、中間層ノズル部、最外層ノズル部が同心円状に配された複合ノズル口金を用い、紡糸工程を行う。具体的には、最内層ノズル部には、第1多孔質層2を形成する材料を溶融状態で供給する。中間層ノズル部には、非多孔質層3を形成する材料を溶融状態で供給する。最外層ノズル部には、第2多孔質層4を形成する材料を溶融状態で供給する。ついで、各材料を各ノズル部から押し出し、巻き取る。
各材料押し出す際の吐出温度は、各材料がそれぞれ十分に溶融し、紡糸可能な温度であればよい。
押出速度と巻取速度を適宜調節しつつ、未延伸状態で冷却固化することにより、中空糸膜前駆体が得られる。中空糸膜前駆体は、1層の未延伸の非多孔質層前駆体が、非多孔質状態である2層の多孔質層前駆体で挟まれた3層構造を有する。
【0052】
(アニール工程)
アニール工程は、紡糸工程で得られた中空糸膜前駆体をアニール処理(定長熱処理)する工程である。
紡糸工程で得られた中空糸膜前駆体は、延伸工程の前に各材料の融点以下で、定長熱処理(アニール処理)することが好ましい。定長熱処理は、多孔質層2,4を形成する材料としてポリエチレンを用いた場合には、105~130℃で、8~16時間行うことが好ましい。定長熱処理の温度が105℃以上であれば、品質の良好な中空糸膜1が得られやすい。定長熱処理の温度が130℃以下であれば、十分な伸度が得られやすく、延伸時の安定性が向上し、高倍率での延伸が容易になる。また、処理時聞が8時間以上であれば、品質の良好な中空糸膜1が得られやすい。
【0053】
(延伸工程)
延伸工程は、紡糸工程で得られた中空糸膜前駆体又はアニール処理された中空糸膜前駆体を延伸し、膜本体7を得る工程である。
延伸工程では、紡糸工程で得られた中空糸膜前駆体又はアニール処理された中空糸膜前駆体を、多孔質層2,4を形成する材料のビカット軟化点以下の延伸温度Tで延伸することが好ましい。延伸温度Tが多孔質層2,4を形成する材料のビカット軟化点以下であれば、膜本体7の孔径を拡大できる。延伸温度Tがビカット軟化点を超えると、結晶ラメラ構造が崩れやすくなり、逆に一旦開孔された多孔質部が閉塞する場合がある。
【0054】
延伸工程では、必要に応じて上述のアニール工程を行った後、延伸温度Tで行う延伸(熱延伸)の前に、冷延伸を行うことが好ましい。具体的には、冷延伸に引き続いて熱延伸を行う2段延伸、又は、冷延伸に引き続いて熱延伸を2段以上の多段に分割して行う多段延伸が好ましい。
冷延伸は、比較的低い温度下で膜の構造破壊を起きせ、ミクロなクラッキングを発生させる延伸である。冷延伸の温度は、0℃から、ビカット軟化点-20(℃)よりも低い温度までの範囲内が好ましい。
【0055】
延伸倍率は、非多孔質層3を形成する材料や、多孔質層2,4を形成する材料に応じて適宜設定できるが、未延伸の中空糸膜前駆体に対する最終的な倍率(総延伸倍率)を2~5倍とすることが好ましい。総延伸倍率が2倍以上であれば、多孔質層2,4の空孔率が高くなりやすく、優れた酸素透過性が得られやすい。総延伸倍率が5倍以下であれば、中空糸膜1の破断伸度が高くなりやすい。
【0056】
延伸後の膜本体7に対しては、中空糸膜の寸法安定性を向上させるため、膜本体7を定長の状態、又は、定長に対して70%以下の範囲内で少し弛緩させた状態で、緩和熱セットを行うことが好ましい。緩和熱セットを効果的に行うためには、緩和熱セット温度は、延伸温度T以上が好ましい。また、緩和熱セット温度は、非多孔質層3を形成する材料及び多孔質層2,4を形成する材料のいずれか低い方の融点以下が好ましい。
【0057】
(コーティング層形成工程)
コーティング層形成工程は、膜本体7の外表面にコーティング層8を形成し、中空糸膜1を得る工程である。
コーティング層形成工程では、交互積層法(Layer by Layer法)により、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを交互に積層させてコーティング層8を形成することが好ましい。具体的には、カチオン性ポリマーを含む水溶液に膜本体7を浸漬させた後に、膜本体7を洗浄する工程(α)と、アニオン性ポリマーを含む水溶液に膜本体7を浸漬させた後に、膜本体7を洗浄する工程(β)とを交互に繰り返して、膜本体7の外表面にコーティング層8を形成する。こうして形成されたコーティング層8は、カチオン性ポリマーを含む層と、アニオン性ポリマーを含む層とが交互に積層された複層構造を有する。
【0058】
コーティング層形成工程は、工程(α)で始まり、工程(α)で終わることが好ましい。最後の工程(α)の後に、乾燥工程を行うことが好ましい。また、工程(α)と工程(β)との間に乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法としては、例えば減圧乾燥、加圧乾燥、加熱乾燥、風乾などが挙げられる。風乾を行う場合の温度は特に限定されないが、常温で行うことが好ましい。ここで、「常圧」とは、20℃±15℃の温度範囲を意味する。
膜本体7を洗浄する方法としては特に限定されないが、例えば膜本体7を水に浸漬させる方法、膜本体7に水を吹きかける方法などが挙げられる。
【0059】
コーティング層形成工程は、延伸工程の後に続けて行ってもよいし、複数の膜本体7を束ねた状態にしてから行ってもよい。複数の膜本体7を束ねた状態にしてからコーティング層形成工程を行う場合、例えば複数の膜本体7をシート状とし、その両端部をハウジングで固定してモジュール前駆体とした後に、コーティング層形成工程を行い、膜本体の外表面にコーティング層を形成することが好ましい。
【0060】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の中空糸膜1は、中空糸膜1の表面ゼータ電位が-8mV以上であることから、中空糸膜1の外表面(本実施形態ではコーティング層8の表面8a)への微生物層6の付着性が高まり、短期間で微生物層6が形成される。加えて、微生物層6の保持性も高まる。特に、コーティング層8の表面8aに、カチオン性ポリマーが偏在していれば、活性汚泥が中空糸膜1に引き付けられやすくなり、コーティング層8の表面8aに微生物層6がより短期間で形成されやすくなる。この微生物層6の膜厚方向で酸素が効果的に拡散溶解し、さらに、酸素が豊富な好気処理領域6Aと、酸素が少ない嫌気処理領域6Bとが形成されるので、好気処理と嫌気処理とをワンプロセスで行うことが可能になる。
また、肥大化した微生物層6を剥離しても、コーティング層8の表面8aに微生物層6が短時間で再付着する。
さらに、本実施形態の中空糸膜1は多孔質層2,4及び非多孔質層3を含む複層構造を採用しているので、多孔質層2,4による高い酸素透過性、及び、非多孔質層3による高い膜強度を両立でき、優れた水処理効率及び機械的特性が得られる。
【0061】
<他の実施形態>
本発明の中空糸膜は上述したものに限定されない。
例えば、膜本体は1層の多孔質層を含むものでもよいし、3層以上の多孔質層を含むものでもよい。ただし、いずれの場合も最外層に多孔質層が配置されることが好ましい。
また、膜本体は2層以上の非多孔質層を含むものでもよい。
さらに、中空糸膜は、多孔質層、非多孔質層、コーティング層及び微生物層に加えて、これら以外の層(他の層)を含んでいてもよい。他の層を備える構成を採用する場合には、他の層を高い酸素透過性を有する層とすることが、中空糸膜全体の酸素透過性をより高める観点から好ましい。
【0062】
[中空糸膜モジュール及び廃水処理装置]
図4に示す本実施形態の中空糸膜モジュール10は、本実施形態の中空糸膜1を含むものである。
また、本実施形態の廃水処理装置100は、中空糸膜モジュール10を含んで構成されるものである。
以下、本実施形態の中空糸膜モジュール10及び廃水処理装置100について詳述する。
【0063】
<中空糸膜モジュール>
図4に示すように、本実施形態の中空糸膜モジュール10は、ハウジング12(上部ハウジング12A及び下部ハウジング12B)、複数の中空糸膜1をシート状とした中空糸膜シート状物11から概略構成されている。
【0064】
中空糸膜シート状物11は、上述したような本実施形態の中空糸膜1が複数束ねられてなるものである。中空糸膜シート状物11は、その両端部が詳細を後述するハウジング12内に挿入されて開口されており、全体として平型のシート状に構成される。
【0065】
ハウジング12は、中空糸膜シート状物11の両端部が挿入、固定される略中空状の部材であり、図示例では、上部ハウジング12A及び下部ハウジング12Bから構成される。すなわち、上記の中空糸膜シート状物11は、上部ハウジング12Aと下部ハウジング12Bとの間でシート状に保持される。
また、図示例では上部ハウジング12Aに気体供給ライン120が接続され、酸素又は空気が上部ハウジング12Aの内部に供給されるように構成されている。
【0066】
中空糸膜モジュール10は、図示略のブロワから供給される酸素又は空気が、ハウジング12を介して複数の中空糸膜1の中空部内に送り込まれ、例えば図2,3に示すように、第1多孔質層2、非多孔質層3、第2多孔質層4及びコーティング層8を透過し、さらに微生物層6内を膜厚方向で溶解拡散するように構成される。
【0067】
なお、図4中では図示を省略しているが、例えば、上部ハウジング12Aと下部ハウジング12Bとの間に、該上部ハウジング12A及び下部ハウジング12Bの両端部同士を接続するように、棒状部材等からなる一対の支柱を設けることがより好ましい。このような一対の支柱を設け、上部ハウジング12Aと下部ハウジング12Bとが一定の間隔を保持することで、中空糸膜シート状物11の面形態を維持して平型の中空糸膜モジュール10を構成できる。
【0068】
また、図示例においては、平型のシート状とされた中空糸膜モジュール10を示しているが、これには限定されず、例えば、中空糸膜モジュールを円筒形や角筒形等に構成することも可能である。
【0069】
また、上述したように、複数の膜本体をシート状とし、その両端部をハウジングで固定してモジュール前駆体とした後に、コーティング層形成工程を行い、膜本体の外表面にコーティング層を形成してもよい。この場合、中空糸膜モジュールの状態で中空糸膜が得られる。
【0070】
<廃水処理装置>
本実施形態の廃水処理装置100は、本実施形態の中空糸膜モジュール10を単体もしくは複数のユニットの状態で含んで概略構成される。図示例の廃水処理装置100は、処理槽110の内部に中空糸膜モジュール10が収容されてなる。
なお、複数の中空糸膜モジュールの集合体を「中空糸膜モジュールユニット」ともいう。
【0071】
処理槽110は、被処理水である廃水Wを収容するものである。処理槽110としては、例えば、金属製の大型容器状とされた処理槽等、従来から当該分野で用いられているものを何ら制限無く採用できる。また、図4においては詳細な図示を省略しているが、処理槽110には、被処理水である廃水を内部に収容するための廃水導入管と、処理が完了した処理水を槽外に排出するための排出管が接続される。
【0072】
処理槽110内には中空糸膜モジュール10が収容され、この中空糸膜モジュール10が廃水Wに浸漬するように配置されている。中空糸膜モジュール10は、中空糸膜1の長手方向が鉛直方向となるように、処理槽110内に収容されることが好ましい。中空糸膜1の長手方向が鉛直方向となるように中空糸膜モジュール10が処理槽110内に収容されれば、中空糸膜1の内部に凝縮水(酸素、空気等に含まれる水分や廃水中の水分が膜の中で水として凝縮したもの)が蓄積されにくくなり、廃水の処理能力をより良好に維持できる。
また、上述したように、中空糸膜モジュール10の上部ハウジング12Aには気体供給ライン120が接続され、酸素、空気、又は、空気を分離又は濃縮する処理によって成分構成比を変更した気体が供給される。
【0073】
上記構成により、本実施形態の廃水処理装置100は、処理槽110内の廃水Wに対し、中空糸膜モジュール10を構成する中空糸膜1による好気処理及び嫌気処理を同時に進行させ、ワンプロセスで廃水処理を行うことができる。これにより、従来のような好気処理と嫌気処理を別々の処理槽で行っていた場合に比べ、装置が小型化され、省スペース性に優れたものとなる。
【0074】
なお、処理槽110内において、中空糸膜モジュール10は、例えば、廃水Wの流れを邪魔しないように配置される図示略のフレーム部材等により、処理槽110の開口部111側から収容されていればよい。この場合、処理槽110の開口部111近傍にフレーム部材の一端側を固定し、このフレーム部材の他端側に、中空糸膜モジュール10に備えられる上部ハウジング12Aを固定すればよい。
【0075】
<作用効果>
本実施形態の中空糸膜モジュール10は、上述した本発明の中空糸膜1を含むものなので、上記同様、微生物層6が形成されやすい。加えて、多孔質層による高い酸素透過性、及び、非多孔質層による高い膜強度を両立でき、優れた水処理効率及び機械的特性が得られるとともに、好気処理と嫌気処理とをワンプロセスで行うことが可能になる。しかも、従来のMABRよりもさらに小型化及び省エネルギー化が可能である。
【0076】
また、本実施形態の廃水処理装置100によれば、上述した本発明の中空糸膜モジュール10が備えられたものなので、上記同様、微生物層6が形成されやすい。加えて、優れた水処理効率及び機械的特性が得られるとともに、従来は個別の装置で行っていた好気処理及び嫌気処理の両方を微生物層のみで実施でき、省スペース性を備えたものとなる。また、本発明によれば装置全体を小型化できるので、例えば、廃水の簡易処理が必要な用途や、狭いスペースでの廃水処理が必要な用途においても非常に好適な廃水処理装置100を提供できる。
【0077】
しかも、本発明の中空糸膜1は微生物層が形成されやすいので、使用する際に中空糸膜1を交差させて使用する必要がなく、中空糸膜1の長手方向が鉛直方向となるように、処理槽110内に収容することができる。よって、本実施形態の中空糸膜モジュール10及び廃水処理装置100によれば、中空糸膜1の内部に凝縮水(酸素や空気等に含まれる水分や廃水中の水分が膜の中で水として凝縮したもの)が蓄積されにくいため、廃水の処理能力が低下しにくい。
【0078】
[廃水処理方法]
本実施形態の廃水処理方法は、図4に示すような、本実施形態の中空糸膜モジュール10、又は、本実施形態の廃水処理装置100を用いて廃水を処理する方法である。
【0079】
具体的には、本実施形態の廃水処理方法は、まず、処理槽110内に被処理水となる廃水Wを導入する。この際、処理槽110内に配置された中空糸膜モジュール10が廃水W中に浸漬されるように、処理槽110内を廃水Wで満たす。
【0080】
次いで、図示略のブロワから気体供給ライン120を介して中空糸膜モジュール10に酸素又は空気を供給することにより、例えば図2,3に示すように、中空糸膜1の中空部5から、第1多孔質層2、非多孔質層3、第2多孔質層4及びコーティング層8に向けて酸素又は空気を透過させる。本実施形態では、このような廃水処理の初期段階において、コーティング層8の表面8aに、廃水W中に存在する微生物や菌等を付着させ、これに由来する微生物層6を形成させる。
【0081】
その後、中空糸膜モジュール10への酸素又は空気の供給を継続することにより、上述したように、微生物層6の膜厚方向における酸素の溶解拡散が進行し、図3に示すような、好気処理領域6A及び嫌気処理領域6Bが形成される。
【0082】
そして、好気処理領域6Aにおいて、好気処理により、廃水中に含まれるアンモニアが硝酸化される。また、嫌気処理領域6Bにおいて、嫌気処理により、好気処理領域6Aで生じた硝酸が窒素として処理され、脱窒される。このように、好気処理及び嫌気処理の両方をワンプロセスで行うことで、これらを別々の処理槽で行っていた場合に比べ、処理効率が向上する。
【0083】
次いで、所定の時間で上記の生物処理を行った後、例えば、中空糸膜モジュール10の下方に配置された散気装置(図示略)等を用いたバブリング処理により、中空糸膜1から微生物層6を剥離させる。
その後、図示略の分離膜等による固液分離法を用いることで、微生物層の剥離分を含むスラッジを回収し、廃水処理が完了する。
【0084】
なお、第1多孔質層2の内面2b側、すなわち中空部5から供給する気体(酸素又は空気)の圧力は特に限定されないが、200kPa以下の圧力であることが好ましい。気体の圧力が200kPa以下であれば、廃水処理効果に与しない気体の過供給を防止できるとともに、この過供給によって部材が損傷するのを防止できる。なお、上記の気体の圧力下限は、実使用に十分な廃水処理効果が得られる観点から、例えば、5kPa以上とすればよい。
【0085】
また、中空糸膜モジュール10に向けて供給する、酸素を含む気体としては、例えば、純酸素であることが好ましい。このように、純度の高い酸素を中空糸膜モジュール10に供給することで、微生物層6に溶解拡散する酸素濃度が十分なものとなり、上述した好気処理及び嫌気処理を効率的に進行させ、より効果的な廃水処理が可能になる。
【0086】
また、中空糸膜モジュール10に向けて酸素を含む空気を供給する場合、この空気は大気中の空気であればよい。このように、廃水処理に大気中の空気を用いる場合には、酸素を用いる場合に比べ、ランニングコストが低減されるメリットがある。
【0087】
さらに、中空糸膜モジュール10に向けて供給する、酸素を含む気体としては、例えば、大気中の空気を分離又は濃縮する処理により、成分構成比を変更したものであってもよい。このように、廃水処理に、大気中の空気の成分構成比を変更したものを用いた場合には、上記同様、酸素を用いる場合に比べてランニングコストが低減されるとともに、処理する廃水の特性に合わせた処理を行うことが可能になる。
【0088】
また、中空糸膜モジュール10の下方に散気装置(図示略)を配置し、散気装置から窒素を高濃度で含む気体(高窒素濃度気体)を供給し、廃水Wを曝気してもよい。高窒素濃度気体の気泡は、中空糸膜1の外表面に形成された微生物層6と接触して、嫌気処理領域6Bの酸素濃度をさらに低下させる。これにより、嫌気処理領域6Bはより嫌気的になる。また、散気装置から発生する気泡により廃水Wが撹拌され、廃水Wが全体的に嫌気性環境となることにより、廃水W中を浮遊するフロックの微生物叢は、嫌気性細菌が優勢となる。
【0089】
<作用効果>
本実施形態の廃水処理方法によれば、上述した本発明の中空糸膜モジュール10又は廃水処理装置100を用い、中空糸膜1の外表面に微生物層6を形成させた後、中空糸膜1の内面2b側の中空部5から酸素を含む気体を供給することによって廃水Wを処理する方法を採用している。これにより、上記同様、従来は別のプロセスで行っていた好気処理及び嫌気処理の両方をワンプロセスで実施できるので、処理効率に優れるとともに、装置を小型化することも可能になる。
【実施例0090】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各種測定は以下の通りである。
【0091】
[測定方法]
<多孔質層及び非多孔質層の平均膜厚の測定>
中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この画像を解析して多孔質層及び非多孔質層の膜厚をそれぞれ5箇所で測定し、その平均値を求めた。
【0092】
<多孔質層の細孔の平均細孔径の測定>
SEMを用いて多孔質層の外表面部分を観察し、30個の細孔を無作為に選び、各細孔の最長径を測定し、その平均値を求めた。
【0093】
<中空糸膜の平均外径の測定>
微生物層が形成される前の中空糸膜を長手方向に対して垂直な任意の5箇所の面で切断し、投影機を用いて各切断面の外縁を内接する最少の円の直径を測定し、その平均値を求めた。
【0094】
<表面ゼータ電位の測定>
中空糸膜1の表面ゼータ電位を以下のようにして測定した。
固形分濃度0.25質量%、平均粒子径が500nmであり、表面がヒドロキシプロピルセルロース(質量平均分子量=30000)でコーティングされたポリスチレンラテックスを10mMの塩化ナトリウム水溶液で150倍に希釈して粒子分散液(25℃におけるpH=6)を調製した。
複数の中空糸膜を平板測定用セルのサンプル設置面に重ねず隙間がないように並べて敷き詰め、両面テープで貼り付けて試料を作製した。
このようにして得られた試料と粒子分散液をゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製、製品名「ELSZ-2000ZS」)にセットし、測定位置を上下に移動させて、各セル位置での前記粒子分散液の粒子の移動度を測定した。測定位置は7点とした。各セル位置での移動度のデータをもとに、最小自乗法で近似し、係数比較して、粒子の真の移動度を前記式(1)で表される森・岡本の式より求めた。そして、真の移動度を前記式(2)で表されるSmoluchowskiの式中の「U」に代入して、中空糸膜の表面ゼータ電位を求めた。
【0095】
<微生物層の付着量の測定>
図5に示すように、中空糸膜モジュール10を水槽210に収容し、廃水Wを廃水タンク220に貯留した。水槽210と廃水タンク220、廃水タンク220とポンプ230、ポンプ230と水槽210をそれぞれチューブ240で接続し、ポンプ230を稼働させて、以下に示す条件で廃水Wを水槽210と廃水タンク220との間で循環させ、中空糸膜モジュール10を廃水に曝露して中空糸膜1の外表面に微生物層を形成した。
・廃水W:MLSS(Mixed Liquor Suspended Solids:活性汚泥浮遊物)が1000mg/Lである活性汚泥。
・循環流:上昇流(下から上)。
・循環時間:2時間。
・膜面積:0.002m
・膜の有効長:200mm。
・活性汚泥の体積:0.8L。
【0096】
廃水Wを2時間、循環させた後のMLSSを測定した。
別途、水槽210に中空糸膜モジュール10を収容しない状態で、廃水Wを水槽210と廃水タンク220との間で2時間、循環させ、循環前後のMLSSを測定し、その差(循環前のMLSS-循環後のMLSS)を求め、これをブランク試験のMLSS変化とした。
下記式(3)より、中空糸膜の単位膜面積当たりの汚泥付着量(mg/m)を求め、これを微生物層の付着量(mg/m)とした。
a={(c-c+c)×b}/d ・・・(3)
式(3)中、「a」は中空糸膜の単位膜面積当たりの汚泥付着量(微生物層の付着量)であり、「c」は循環前のMLSS(1000mg/L)であり、「c」はt時間(2時間)循環させた後のMLSSであり、「c」はブランク試験のMLSS変化であり、「b」は活性汚泥の体積(0.8L)であり、「d」は膜面積(0.002m)である。
【0097】
[実施例1]
最内層ノズル部、中間層ノズル部、最外層ノズル部が同心円状に配された複合ノズル口金を用い、以下のようにして紡糸工程を行った。
最内層ノズル部と最外層ノズル部には、多孔質層を形成するための樹脂として、チーグラーナッタ一系触媒を用いて単独重合により製造された高密度ポリエチレン(旭化成株式会社製、商品名「サンテック(登録商標)B161」)を供給した。
一方、中間層ノズル部には、非多孔質層を形成するための樹脂として、ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、商品名「Harmolex NF324A」)を供給した。
そして、吐出口温度190℃、巻取り速度100m/分で溶融紡糸し、得られた中空糸膜前駆体をボビンに巻き取った(紡糸工程)。
紡糸工程で得られた中空糸膜前駆体をボビンに巻いた状態で、108℃、12時間の条件で定長熱処理(アニール処理)を行った(アニール工程)。
アニール工程の後、連続して、常温(20℃)下で総延伸倍率が150%の冷延伸を行い、引き続き106℃に加熱された加熱炉中で総延伸倍率が620%になるまで熱延伸を行った。さらに、115℃に加熱された加熱炉中で総延伸倍率が400%になるように緩和熱セットを行い(延伸工程)、膜本体を得た。
得られた膜本体の平均外径Dは0.28mm(280μm)であった。また、多孔質層の合計の平均膜厚Dpは279μmであり、非多孔質層の平均膜厚Dnは1μmであり、Dn/Dp=0.003であった。また、第1多孔質層の細孔の平均細孔径は0.1μmであり、第2多孔質層の細孔の平均細孔径は0.1μmであった。
得られた膜本体12本の両端部をハウジング内に配置してモジュール前駆体を製造した。
【0098】
カチオン性ポリマーとしてポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)を濃度が0.1質量%になるように水に溶解して、PDDA水溶液を調製した。
別途、アニオン性ポリマーとしてポリアクリル酸(PAA)を濃度が0.1質量%になるように水に溶解して、PAA水溶液を調製した。
先に得られたモジュール前駆体をPDDA水溶液に30分間浸漬した。その後、純水に1分間浸漬させる洗浄操作を3回行った(工程(α))。
引き続き、モジュール前駆体をPAA水溶液30分間浸漬した。その後、純水に1分間浸漬させる洗浄操作を3回行った(工程(β))。
引き続き、モジュール前駆体をPDDA水溶液に30分間浸漬した。その後、純水に1分間浸漬させる洗浄操作を3回行った(工程(α))。
引き続き、モジュール前駆体を40℃で2時間風乾し、カチオン性ポリマーを含む層と、アニオン性ポリマーを含む層とが交互に積層された複層構造を有するコーティング層が膜本体の外表面に形成された中空糸膜を中空糸膜モジュールの状態で得た。
得られた中空糸膜モジュールから中空糸膜を取り外して、中空糸膜の表面ゼータ電位を測定した。結果を表1に示す。
また、中空糸膜モジュールを用いて微生物層の付着量を測定した。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例2]
工程(α)と工程(β)を交互に行ってコーティング層を膜本体の外表面に形成する際に、工程(α)の回数を3回、工程(β)の回数を2回に変更した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を中空糸膜モジュールの状態で製造し、各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0100】
[実施例3]
工程(α)と工程(β)を交互に行ってコーティング層を膜本体の外表面に形成する際に、工程(α)の回数を4回、工程(β)の回数を3回に変更した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を中空糸膜モジュールの状態で製造し、各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例4]
工程(α)と工程(β)を交互に行ってコーティング層を膜本体の外表面に形成する際に、工程(α)の回数を5回、工程(β)の回数を4回に変更した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を中空糸膜モジュールの状態で製造し、各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0102】
[比較例1]
実施例1と同様にして膜本体及びモジュール前駆体を製造した。
得られた膜本体を中空糸膜として用い、膜本体の表面ゼータ電位を測定した。結果を表1に示す。
また、モジュール前駆体を中空糸膜モジュールとして用い、微生物層の付着量を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
[比較例2]
工程(α)と工程(β)を交互に行ってコーティング層を膜本体の外表面に形成する際に、工程(α)の回数を1回、工程(β)の回数を0回に変更した、すなわち、2回目の工程(α)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を中空糸膜モジュールの状態で製造し、各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1中の「PDDA」はポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドであり、「PAA」はポリアクリル酸である。
表1から明らかなように、実施例1~4で得られた中空糸膜は、表面に微生物層が形成されやすかった。
一方、表面ゼータ電位が-8mV未満である比較例1~2で得られた中空糸膜は、各実施例で得られた中空糸膜に比べて、表面に微生物層が形成されにくかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の中空糸膜、中空糸膜モジュール、廃水処理装置及び廃水処理方法は、微生物層が形成されやすく、小型化及び省エネルギー化が可能であるため、例えば、生活廃水や工業廃水の処理に好適である。
【符号の説明】
【0107】
1 中空糸膜
2 第1多孔質層(多孔質層)
2a 外面
2b 内面
3 非多孔質層
4 第2多孔質層(多孔質層)
4a 表面
4b 内面
5 中空部
6 微生物層
6A 好気処理領域
6B 嫌気処理領域
7 膜本体
8 コーティング層
8a 表面
10 中空糸膜モジュール
11 中空糸膜シート状物
12 ハウジング
12A 上部ハウジング
12B 下部ハウジング
100 廃水処理装置
110 処理槽
111 開口部
210 水槽
220 廃水タンク
230 ポンプ
240 チューブ
図1
図2
図3
図4
図5