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特開2022-147193親水性コーティング材及びその利用物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147193
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】親水性コーティング材及びその利用物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20220929BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D133/14
C09D175/04
C09D183/02
B32B27/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048344
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 今日子
(72)【発明者】
【氏名】依田 昌子
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK17A
4F100AK25A
4F100AK25C
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AK52A
4F100AK52C
4F100AN00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA30A
4F100CB05C
4F100CC00A
4F100EH46A
4F100EJ08A
4F100EJ91
4F100JB04
4F100JB14A
4F100JB16B
4F100JL00
4F100JL05
4J038CG001
4J038CG111
4J038DG001
4J038DG002
4J038DL021
4J038DL022
4J038JC32
4J038NA01
4J038NA06
4J038NA17
4J038PB01
4J038PB05
4J038PB06
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 基材(例えば熱可塑性ポリウレタン)表面に塗布して硬化させることにより、雨だれ跡の防止性に優れた積層体を形成することが可能な親水性の光重合性コーティング材を提供する。
【解決手段】成分(a)、成分(b)、成分(c)、および成分(d)を含有する親水性の光重合性コーティング材。
成分(a)は、(メタ)アクリレートである。
成分(b)は、分子内に少なくとも一つのアニオン性親水基を有する化合物である。
成分(c)は、アルコキシシロキサンである。
成分(d)は、光重合開始剤である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)、成分(b)、成分(c)、および成分(d)を含有する親水性の光重合性コーティング材。
成分(a)は、(メタ)アクリレートである。
成分(b)は、分子内に少なくとも一つのアニオン性親水基を有する化合物である。
成分(c)は、アルコキシシロキサンである。
成分(d)は、光重合開始剤である。
【請求項2】
成分(c)が、アルコキシ基の一部がパーフルオロエーテル基に置き換えられたアルコキシシロキサンである請求項1に記載の光重合性コーティング材。
【請求項3】
成分(b)が、アクリル酸-3スルホプロピルカリウムである請求項1に記載の光重合性コーティング材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光重合性コーティング材の硬化物からなるコート層を備える物品。
【請求項5】
請求項4に記載の物品であって、
光重合性コーティング材で形成されたコート層と、
熱可塑性ポリウレタンで形成された基材層と、
前記基材層のコート層が形成された面側と反対側の面側にアクリル系、ウレタン系、ゴム系、およびシリコーン系から選ばれた少なくとも1つの樹脂で形成された粘着層と、
を備える積層フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の積層フィルムを用いたペイントプロテクションフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材に関する。特に、基材に塗布・硬化させて、親水性に優れた積層体を形成可能なコーティング材に関する。
【背景技術】
【0002】
高い耐衝撃強度を有する熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、従来から保護フィルムなどの基材として利用されている。特に欧米では、ペイントプロテクションフィルム(PPF)の名称で、石跳ねやキズなどから車体を保護するフィルムが広く普及している。PPFで表面を被覆された製品は、その塗装や形状、外観が損なわれない状態で外界からの様々な刺激、例えば、風雨、埃、砂、河川水、微生物、動植物や昆虫の接触や排泄などによる汚れや傷つきから保護される。
【0003】
世界各地における自動車、バイクなどの車両の普及によって、近年のPPFには広範囲な環境下、例えば寒冷地、熱帯、乾燥地などのより厳しい気候の下で使用可能なものが求められている。特に、大気汚染が拡大している地域や熱帯地域では、酸性雨やスコールによる雨だれ跡がPPF上に残り、車体の外観を損なうことが課題となっている。
【0004】
熱可塑性ポリウレタンを用いた保護フィルムとして、特許文献1には、表面を保護するために使用される多層膜、特に、乗り物(例えば、自動車、航空機、船など)の表面(例えば、塗面)を保護するために使用されるような膜、及びより具体的には、感圧接着剤で裏加工され且つポリウレタン層を熱可塑性ポリウレタン層の最上部に有するような多層保護膜(段落0001)が開示されている。
また、特許文献2には、熱可塑性ポリウレタンに浸透して形成される、フッ素化合物を含有する撥水性の表面層と、貼り付け特性を向上させた粘着層を組み合わせた積層体が開示されている。これらのPPFでも、緒性能の一層の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008-539107号
【特許文献2】国際公開第2016/010041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、基材(例えば熱可塑性ポリウレタン)表面に塗布して硬化させることにより、雨だれ跡の防止性に優れた積層体を形成することが可能な親水性の光重合性コーティング材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、アニオン性親水基を有する化合物とアルコキシシロキサンを含むアクリル系光重合性コーティング材の硬化物からなるコート層が、親水性に優れるため、雨だれ跡の防止性を発現することを見出した。更に、本発明者らは、この光重合性コーティング材の硬化物からなるコート層がPPFなどの積層フィルムとして利用可能であることを見出した。
すなわち本発明は、以下のものである。
【0008】
[1] 成分(a)、成分(b)、成分(c)、および成分(d)を含有する親水性の光重合性コーティング材。
成分(a)は、(メタ)アクリレートである。
成分(b)は、分子内に少なくとも一つのアニオン性親水基を有する化合物である。
成分(c)は、アルコキシシロキサンである。
成分(d)は、光重合開始剤である。
[2] 成分(c)が、アルコキシ基の一部がパーフルオロエーテル基に置き換えられたアルコキシシロキサンである前記[1]に記載の光重合性コーティング材。
[3] 成分(b)が、アクリル酸-3スルホプロピルカリウムである前記[1]に記載の光重合性コーティング材。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の光重合性コーティング材の硬化物からなるコート層を備える物品。
[5] 前記[4]に記載の物品であって、
光重合性コーティング材で形成されたコート層と、
熱可塑性ポリウレタンで形成された基材層と、
前記基材層のコート層が形成された面側と反対側の面側にアクリル系、ウレタン系、ゴム系、およびシリコーン系から選ばれた少なくとも1つの樹脂で形成された粘着層と、
を備える積層フィルム。
[6] 前記[5]に記載の積層フィルムを用いたペイントプロテクションフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光重合性コーティング材から得られる塗膜(コート層)は、良好な親水性を示す。その結果、基材フィルムを熱可塑性ポリウレタンで形成した場合、熱可塑性ポリウレタンが持つ柔軟性に加えて、親水性に優れた積層体の形成が可能となり、積層体は、被着体としての物品の表面を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の光重合性コーティング材の硬化物からなるコート層を備える積層フィルムの1例を示す模式図である。
図2】本発明の光重合性コーティング材の硬化物からなるコート層を備える積層フィルムをPPFとして使用した様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部分には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0012】
[1.光重合性コーティング材]
本発明の第1の実施の形態に係る親水性の光重合性コーティング材は、成分(a)、成分(b)、成分(c)、および成分(d)を含有しており、成分(a)は、(メタ)アクリレートであり、成分(b)は、分子内に少なくとも一つのアニオン性親水基を有する化合物であり、成分(c)は、アルコキシシロキサンであり、成分(d)は、光重合開始剤である。100重量部の成分(a)に対して、好ましくは、成分(b)は、0.01~10重量部であり、成分(c)は、0.01~10重量部であり、成分(d)は、0.01~20重量部である。例えば、図1に示すように、基材フィルム2上にコーティング材を塗布して硬化すると、親水性に優れたコート層1を形成することができる。なお、コーティング材は、さらに、溶剤(e)、添加剤(f)を含んでもよい。
【0013】
[成分(a):(メタ)アクリレート]
成分(a)は、(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂であり、例えば紫外線硬化性樹脂を挙げることができる。この成分(a)は、本発明の光重合性コーティング材の硬化における重合鎖の延長や硬化で生成する塗膜(コート層)の強度の向上に寄与する。このような成分(a)は、光重合性アクリル系化合物あるいはこれを含む溶液として入手できる様々な化合物及び製品から選択され、その種類に制限はない。これらの樹脂を単独で用いてもよいし、複数の樹脂を組み合わせてもよい。特に、塗膜の強度の観点から、2官能以上の(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。
【0014】
(メタ)アクリレートとしては、多価アルコールにα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物が挙げられる。例えば、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンポリトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンテトラエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンペンタエトキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のアクリル酸エステル、2-{3-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-5-(2-ヒドロキシエチル)-2,4,6-トリオキソ-1,3,5-トリアジナン-1-イル}エチル=アクリラート、2-[3,5-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,4,6-トリオキソ-1,3,5-トリアジナン-1-イル]エチル-アクリラートなどが挙げられる。
【0015】
[成分(b):分子内に少なくとも一つのアニオン性親水基を有する化合物]
成分(b)は、分子内に少なくとも一つのアニオン性親水基を有する化合物であれば、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマーのいずれであってもよい。この成分(b)は、本発明の光重合性コーティング材の硬化で生成する塗膜(コート層)の親水性の向上に寄与する。特に、光重合性基を有する化合物が好ましい。
【0016】
分子内に少なくとも一つのアニオン性親水基を有する化合物として、例えば、アクリル酸3-スルホプロピルカリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホン酸、3-[(3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパノアート、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチル、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオナート、RE3000MF(商品名:日本乳化剤(株)製)などが挙げられる。
成分(b)は、成分(a)に対して0.01~10重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.1~5重量部である。
【0017】
[成分(c):アルコキシシロキサン]
成分(c)は、アルコキシ基を有しているシロキサンであれば、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマーのいずれであってもよい。この成分(c)は、アルコキシ基の加水分解によりシラノールが生成することにより、本発明の光重合性コーティング材の硬化で生成する塗膜(コート層)の親水性の向上に寄与する。また、成分(c)のアルコキシ基の一部がパーフルオロエーテル基に置換されていてもよい。
【0018】
アルコキシシロキサンとしてシリケートが挙げられる。加水分解速度を考慮すると、メチルシリケート、エチルシリケート、MS51、MS56、MS57、MS56S(いずれも商品名:三菱化学(株)製)、エチルシリケート28、エチルシリケート28P、エチルシリケート40、エチルシリケート48、EMS-485(いずれも商品名:コルコート(株)製)、KP-912、KP-913、KP-914(いずれも商品名:信越化学工業(株)製)が挙げられる。その他のアルコキシシロキサンとして、ビニルメトキシシラン加水分解縮合物、ビニルエトキシシラン加水分解縮合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン加水分解縮合物、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン加水分解縮合物、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン加水分解縮合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン加水分解縮合物などが挙げられる。成分(c)は、成分(a)に対して0.01~10重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.1~5重量部である。
【0019】
アルコキシシロキサンで、かつアルコキシ基の一部がパーフルオロエーテル基に置換されるもの例として下記式(1)で表されるものが挙げられる。
【0020】
【0021】
上記式(1)中、Xは下記式(1-1)~(1-8)である。アルコキシ基となる(1-1)及び(1-2)とパーフルオロエーテル基となる(1-3)~(1-8)は、式(1)中に任意の割合で含まれる。また、nは繰り返し単位を表す2~200の整数である。
【0022】
【0023】
アルコキシシロキサンで、かつアルコキシ基の一部がパーフルオロエーテル基に置換される化合物は、公知の方法で合成することが可能である。
【0024】
[成分(d):光重合開始剤]:
光重合開始剤は、活性エネルギー線でラジカルを発生する活性エネルギー線重合開始剤であれば特に限定しない。例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤等を挙げることができる。
活性エネルギー線重合開始剤として用いられる化合物としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4′-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4′-イソプロピルプロピオフェノン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1,4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4′-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-(4′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3′,4′-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′,4′-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4′-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2′-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4′-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3′-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′-ジ(メトキシカルボニル)-4,4′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4′-ジ(メトキシカルボニル)-4,3′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4′-ジ(メトキシカルボニル)-3,3′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ―2―メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,3-ジヒドロ-6-(2-ヒドロキシ-2―メチル-1-オキシプオピル)-1,1,3-トリメチル-3-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-オキシプロピル)フェニル]-1H-インデン、2,3-ジヒドロ-5-(2-ヒドロキシ-2―メチル-1-オキシプオピル)-1,1,3-トリメチル-3-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-オキシプロピル)フェニル]-1H-インデンなどがある。これらの化合物は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用することも有効である。
ラジカル重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性樹脂の総量(100重量部)に対して0.01~20重量部であることが好ましい。より好ましくは、1~10重量部である。
【0025】
[成分(e):溶剤]
本発明の光重合性コーティング材に含まれる上記成分(a)、(b)、(c)、および(d)は、有機溶剤等の溶剤に溶解させて用いてもよい。溶剤は特に限定しない。一般的な有機溶剤等を使用できる。
溶剤の具体例としては、炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエンなど)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなど)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなど)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなど)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチルなど)、カーボネート系溶媒(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど)、アミド系溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、水が含まれる。これらを単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0026】
溶剤の添加量は、光重合性コーティング材の固形分が10~90重量%となることが好ましく、光重合性コーティング材の固形分が20~40重量%となることがより好ましい。
【0027】
[成分(f):添加剤]
コーティング材には、上記の他に添加剤を添加してもよい。例えば、コート膜の硬度、耐擦傷性を付与するために、フィラーを添加してもよい。塗工性を上げるために、レベリング剤を添加してもよい。その他、耐候剤、消泡剤等の添加剤を添加してもよい。
より詳細には、コーティング材により形成される膜が有する効果に悪影響を及ぼさない範囲において、活性エネルギー線増感剤、重合禁止剤、重合開始助剤、レベリング剤(表面調整剤)、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、シリカやアルミナに代表される無機フィラー、有機フィラーなど、任意の成分をさらにコーティング材に含有させてもよい。
【0028】
レベリング剤の例として、市販のアクリル系表面調整剤が利用でき、BYK-350、BYK-352、BYK-354、BYK-356、BYK-381、BYK-392、BYK-394、BYK-3441、BYK-3440、BYK-3550(いずれも商品名:ビックケミー・ジャパン(株)製)が挙げられる。
また、レベリング剤の例として、市販のシリコーン系表面調整剤が利用でき、BYK-UV3500、BYK-UV-3570(いずれも商品名:ビックケミー・ジャパン(株)製)、TEGO Rad2100、2200N、2250、2500、2600、2700(いずれも商品名:エボニックデグサジャパン(株)製)、X-22-2445、X-22-2455、X-22-2457、X-22-2458、X-22-2459、X-22-1602、X-22-1603、X-22-1615、X-22-1616、X-22-1618、X-22-1619、X-22-2404、X-22-2474、X-22-174DX、X-22-8201、X-22-2426、X-22-164A、X-22-164C(いずれも商品名:信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0029】
耐候剤の例として、ベンゾトリアゾール類、ヒドロキシフェニルトリアジン類、ベンゾフェノン類などの紫外線吸収剤が挙げられる。
ベンゾトリアゾール類の例として、BASF社製TINUVIN PS、TINUVIN 99-2、TINUVIN326、TINUVIN384-2、TINUVIN900、TINUVIN928、TINUVIN1130、TINUVINCarboprotect、ヒドロキシフェニルトリアジン類の例として、BASF社製TINUVIN400、TINUVIN405、TINUVIN460、TINUVIN477、TINUVIN479、ベンゾフェノン類の例として、ADEKA社製1413、住化ケムテックス社製Sumisorb130などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤を単独で用いてもよいし、複数の紫外線吸収剤を組合せて用いてもよい。紫外線吸収剤は、吸収したい紫外線の波長に基づいて種類や組合せを適宜選択することが好ましい。
また、光安定剤(HALS)としては、BASF社製TINUVIN(登録商標)5100(中性タイプの汎用HALS)、TINUVIN292(化合物名:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート)、TINUVIN152(化合物名:2,4-ビス[N-ブチル-N-(1-シクロヘキシロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ]-6-(2-ヒドロキシエチルアミン)-1,3,5-トリアジン)、TINUVIN144(化合物名:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート)、TINUVIN123(化合物名:デカン二酸、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4ピペリジニル)エステルの反応生成物(1,1-ジメチルエチルヒドロぺルオキシドおよびオクタン存在下))、TINUVIN111FDL(約50%、TINUVIN622、化合物名:(ブタン二酸ポリマー(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-イル)エタノール存在下)、約50%、CHIMASSORB119、化合物名:N-N’-N’’-N’’’-テトラキス(4,6-ビス(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン)、または、(株)アデカ製アデカスタブLAシリーズ等、具体的には、LA-52((5)-6116)、LA-57((5)-5555)、LA-62((5)-5711)、LA-67((5)-5755)、LA-82((5)-6023)、LA-87((5)-6022)を挙げることができる。なお、括弧内は、既存化学物質番号である。
無機フィラーの例として、MEK-ST―40、MEK-ST-L、MEK-ST-ZL、PGM-AC-2140Y、PGM-AC-4130Y、AS-200、AS-520(いずれも製品名:日産化学工業(株)製)、CIKナノテック社製アナターゼTiO、Al、ZnO、ZrO、コバルトブルー、御国色素製酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、酸化チタン、シリカ、アルミナ、MUAフィラーを挙げることができる。
有機フィラーの例として、積水化成品工業性製テクポリマーMBXシリーズ、SBXシリーズ、根上工業製アートパール架橋アクリルビーズ、アートパール架橋ウレタンビーズ、アイカ工業製ガンツパールを挙げることができる。
これらのフィラーを単独で用いてもよいし、複数のフィラーを組合せて用いてもよい。
【0030】
コーティング材には、その他の樹脂成分を添加してもよい。例えば、熱可塑性樹脂、ゴムを挙げることができる。その他の樹脂として、熱可塑性樹脂、ゴムを添加することにより、樹脂本来の特性(力学物性、表面・界面特性、相溶性など)を改質することができる。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、例えば以下のようなものが利用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、超高分子量ポリエチレン、ポリ-4-メチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリアリレート(Uポリマー:ユニチカ(株)商品名、ベクトラ:ポリプラスチックス(株)商品名、など)、ポリイミド(カプトン:東レ(株)商品名、AURUM:三井化学(株)商品名、など)、ポリエーテルイミドおよびポリアミドイミド。ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロンMXD6、ナイロン6,T(いずれも商品名:デュポン(株)製)などのポリアミド。ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6-ナフタレンジカルボキシラートなどのポリエステル。
【0032】
[2.光重合性コーティング材の利用]
本発明の光重合性コーティング材を様々な物品の表面に塗布し、乾燥・光硬化することによって物品表面に防汚・親水機能を与える塗膜(コート層)を形成することができる。上記コート層を形成することのできる物品は特に制限されないが、特に積層フィルムは、液状の本発明の光重合性コーティング材を容易に塗布することができる点で有利である。積層フィルムの中でも防汚・親水機能を求められるPPFは特に上記コート層を利用した物品として有用である。
以下、上記コート層を設けた積層フィルムについて詳述する。
【0033】
[コート層]
光重合性コーティング材を硬化するための硬化処理としては、紫外線照射、電子線照射等の硬化処理が挙げられる。なお、塗膜に溶剤を含む場合には、通常、70~200℃の範囲内で数分、塗膜を加熱し、塗膜中に残留している溶剤を除いた後に、硬化処理を行うことが好ましい。紫外線照射による硬化としては、UVランプ(例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ)から200~400nmの波長の紫外線を塗膜に短時間(数秒~数十秒の範囲内)照射すればよい。また、電子線照射による硬化としては、300keV以下の自己遮蔽型の低エネルギー電子加速器から低エネルギー電子線を塗布液に照射すればよい。
コート層の厚みは、一般的には1~100μm、好ましくは2~50μm、より好ましくは3~30μmである。
【0034】
[基材層]
基材フィルムとしては、熱可塑性樹脂で形成されたフィルムを用いることが望ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ノルボルネン系樹脂等の樹脂を挙げることができる。具体的には、熱可塑性ポリウレタン、ポリカプロラクトン(PCL)、アクリル酸重合体、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルケトン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、または、これらの誘導体が好ましい。これらの樹脂を単独で用いてもよいし、複数の樹脂を組合せて用いてもよい。
さらに好ましくは、熱可塑性ポリウレタンである。熱可塑性ポリウレタンの例として、Nupro社製N4900、Argotec社製Argotec49510、Argotec49510-DV、日本マタイ社製エスマーURSPX86、エスマーURSPX93、エスマーURSPX98、シーダム社製DUS202、DUS213、DUS235、DUS501、DUS601、DUS605、DUS614、DUS203、DUS220、DUS701、XUS2086、XUS2098、DUS451、DUS450、日本ユニポリマー社製ユニグランドXN2001、XN2002、XN2004を挙げることができる。なかでも、ポリヒドロキシ化合物としてポリカプロラクトンポリオールを用いたポリカプロラクトン系熱可塑性ポリウレタンや、ポリカーボネートポリオールを用いたポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタンや、ポリエーテルポリオールを用いたポリエーテル系熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
基材フィルム2の膜厚は特に制限するものではないが、本発明を積層体として用いる場合には、基材フィルムの膜厚は好ましくは25~300μmであり、より好ましくは100~200μmである。基材フィルムの膜厚が25μm以上であると基材の機械的強度が充分であり、基材上に層を形成することが可能になる。また、膜厚が300μm以下であると、積層体の厚みが厚くなりすぎることがない。
【0035】
[粘着層]
本発明の積層フィルムを構成する粘着層は、感圧型接着剤が利用できる。本発明で用いる感圧型接着剤としては、PPFの施工温度下、すなわち約20~約30℃の温度で粘着性を示し、熱可塑性ポリウレタン系材料からなる成形品とガラスや金属、プラスチック、紙などの物品との接着に用いられるものであれば、公知の物を制限なく使用することができる。このような感圧型接着剤として、市販のアクリル系感圧型接着剤、ウレタン系感圧型接着剤を使用することができ、好ましくはアクリル系感圧型接着剤が用いられる。粘着層の厚みは特に限定されないが、通常は10~200μm程度である。
【0036】
[剥離層]
本発明の積層フィルムを構成する粘着層には、好ましくはさらに剥離層が積層される。剥離層の材料としては公知の剥離材が制限なく用いられ、例えばポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂などの樹脂製フィルム、セロハン紙、グラシン紙や、これらにフッ素系あるいはシリコーン系剥離剤で表面被覆したものを使用することができる。剥離層の厚みは特に限定されないが、通常は20~200μm程度である。
【0037】
[保護層]
本発明の積層フィルムには、その保管、運搬、販売の形態に応じて、コート層の外表面を保護層で被覆することができる。このような保護層の材質に制限はなく、一般的に使用されているポリエチレンフィルムなどのプラスチック製フィルムや剥離処理された紙類などを適宜選択することができる。
【0038】
[積層フィルムの製造]
本発明の積層フィルムの製造方法は、各層の形成・積層に適した方法を制限なく採用することができる。例えば、本発明の積層フィルムが剥離層と保護層を有する場合には、本発明の積層フィルムを以下の工程を経て製造することができる。
はじめに、剥離層の剥離処理された面上に粘着層を形成する。そして、形成された粘着層の開放された面と基材層の一方の表面とを密着させて、基材層、粘着剤層、剥離層がこの順で接した積層体を製造する。次に、得られた積層体の基材層の解放された面上に上述の光重合性コーティング材を塗布し、塗布面に紫外線を照射して光重合性コーティング材を硬化する。硬化が完了すると、コート層、基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルムが得られる。さらにコート層の開放面を保護フィルムで被覆する。こうして、保護層、コート層、基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルムが得られる。得られた積層フィルムを適宜裁断、巻取り、包装する。
【0039】
[PPF/表面保護物品]
このようにして完成した本発明の積層フィルムは、PPFとして利用することができる。PPFを施工する際には、塗装面の形状や大きさに合わせた形状に本発明の積層フィルムを裁断し、裁断された積層フィルムを適度な力で展張して塗装面に粘着層を密着させる。
本発明の積層フィルムでは、強度、平滑性、親水性に優れるコート層が、施工面に対する外界の刺激を緩和する機能を有する。その一方で柔軟な基材層が粘着層を介して塗装面に密着する。一定期間使用した後は、塗装面の表面を傷つけることなく積層フィルムを除去することができる。
さらに、例えば、窓、建築材、デジタルサイネージ、包装、オフィス用品に利用でき、エレクトロニクス、保安、産業等の幅広い分野で利用できる。さらに、介護、医療分野において、廃棄物のパッキングや、医療機器表面の保護等にも応用できる。加えて、保護された物品の表面を平滑にできるため、意匠性を向上させることができる。
【実施例0040】
以下に、実施例、比較例を記載するが、記載例のみに限らない。
【0041】
[製造例1:c-1:成分(c)アルコキシシロキサンの合成]
攪拌装置、温度計、滴下漏斗を装備した200mlの4つ口フラスコにMKCシリケートMS56(三菱化学(株)製)71.21g(0.039mol)を入れた。5フッ化プロパノール(ダイキン工業(株)製。以下5FPという)28.34g(0.189mol)、イオン交換水0.31g(0.017mol)、35重量%塩酸0.14gを混合して滴下漏斗に入れ、攪拌しながら投入した。1時間還流させたのち、低沸分を留去した。留出がなくなったところで、冷却しアンモニアガスを吹き込んで中和した。中和完了後、減圧下で残存している5FPおよびメタノールを除去した。冷却後、反応液を濾過して、無色透明液体78.03gを得た。得られた反応生成物(以下(c-1)という)を、19F-NMRにより分析したところ、パーフルオロ基が導入されていることが確認された。
【0042】
[製造例2:c-2:成分(c)アルコキシシロキサンの合成]
攪拌装置、温度計、滴下漏斗を装備した200mlの4つ口フラスコにエチルシリケート48(コルコート(株)製)65.18g(0.047mol)を入れた。5フッ化プロパノール(ダイキン工業(株)製。以下5FPという)34.28g(0.229mol)、イオン交換水0.37g(0.021mol)、35重量%塩酸0.17gを混合して滴下漏斗に入れ、攪拌しながら投入した。1時間還流させたのち、低沸分を留去した。留出がなくなったところで、冷却しアンモニアガスを吹き込んで中和した。中和完了後、減圧下で残存している5FPおよびメタノールを除去した。冷却後、反応液を濾過して、無色透明液体77.50gを得た。得られた反応生成物(以下(c-2)という)を、19F-NMRにより分析したところ、パーフルオロ基が導入されていることが確認された。
【0043】
[光重合性コーティング材の製造]
表1に示す組成で材料を混合し、撹拌し、本発明の光重合性コーティング材1~8および比較用の光重合性コーティング材9~12を製造した。更に、溶剤(成分(e))で固形分30重量%となるように希釈した。以下に使用した材料を示す。
(成分(a))
・アロニックスM-933:東亞合成株式会社製多官能アクリレート
・アロニックスM-923:東亞合成株式会社製多官能アクリレート
(成分(b))
・アクリル酸3-スルホプロピルカリウム
(成分(c))
・前述の方法で製造した反応物(c-1)又は(c-2)
・KP-914:信越化学工業(株)製アルコキシシロキサン商品
(成分(d))
・Omnirad 127:IGM ジャパン
(成分(e))
・プロピレングリコールモノメチルエーテル:三協化学(株)製希釈溶剤
【0044】
実施例1~8および比較例1~4
【0045】
【0046】
[積層フィルムの製造]
基材層としてNupro製熱可塑性ポリウレタンフィルム「N4900」(厚み150μm)を用いた。別途、シリコーン樹脂で剥離処理された剥離層に市販のアクリル系感圧型接着剤を塗布し、120℃で5分乾燥した。こうして剥離層の片面に厚み40μmの粘着層を形成した。
次に、上記粘着層の解放面と上記基材層とを、ゴムローラーを用いて圧着させ、45℃で1日間養生した。こうして基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルムが得られた。
基材層の開放面に、上述の材料を用いて製造した光重合性コーティング材1~12をメイヤーバーで塗布し、80℃3分乾燥した。その後、フュージョンUVランプ搭載ベルトコンベア硬化ユニット(へレウス社製)を用いて、積算光量:400mJ/cmで光重合性コーティング材を硬化させた。基材層上に厚み4μmのコート層が形成された。コート層、基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルム1~12が得られた。
【0047】
[積層フィルムの評価]
水接触角(親水性)
積層体のコート層の表面に蒸留水5.0μlを滴下し、30秒後の水接触角を測定した。測定機器には接触角計Drop Master DM-701(協和界面化学製)を使用した。測定値を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
・A:接触角が40°以下。親水性が良好。
・B:接触角が40°を超え、50°以下。親水性がやや悪い。
・C:接触角が50°を超え、70°以下。親水性がとても悪い。
【0048】
マジック汚れ拭取り試験(親水性)
積層体のコート層の表面に油性マジック(三菱鉛筆製。商品名「パワフルネーム」)で5cmの線を引き、水を吹きかけマジック汚れの拭取り試験を行った。結果を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
・A:汚れが浮き上がり拭取れる。親水性が良好。
・B:拭取れる。親水性がやや悪い。
・C:拭取れるが跡が残る。親水性が悪い。
【0049】
屋外暴露試験
積層体を適当な大きさに切り出し、黒色塗装板に貼りつけた。傾斜角度45°の試験台に固定して屋外暴露試験を3か月実施した。暴露後、水洗し水の接触角を測定した。
・A:接触角が40°以下。親水性が良好。
・B:接触角が40°を超え、50°以下。親水性がやや悪い。
・C:接触角が50°を超え、70°以下。親水性がとても悪い。
・D:水垢が付着したため、水滴が歪み接触角が測定できない。
【0050】
【0051】
表2の結果が示すように、本発明の光重合性コーティング材を用いてコート層を形成した積層フィルムでは、良好な親水性、水垢付着防止性が得られた。特に、成分(a)、成分(b)、成分(c)を含む本発明の光重合性コーティング材では極めて良好な親水性、水垢付着防止性が得られた。これに対して本発明の成分(b)あるいは成分(c)のいずれかを欠く比較例の積層フィルムでは、親水性、水垢付着防止性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の光重合性コーティング材は、親水性・防汚性塗膜材料として利用価値が高い。本発明の光重合性コーティング材を用いたコート層を有する積層フィルムはPPFとして利用価値が高い。本発明の積層フィルムからなるPPFの適用対象として、自動車、バイクなどの車両の他、船舶、建築物、電気製品、展示物、内装、家具、工場設備、産業機器、医療機器など広範な対象を期待することができる
【符号の説明】
【0053】
1:コート層
2:基材
3:粘着層
4:剥離層
5:積層フィルム
6:塗装面
図1
図2