(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147324
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】繊維間空隙測定装置、繊維間空隙測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 21/00 20060101AFI20220929BHJP
G06T 7/62 20170101ALI20220929BHJP
G01B 21/20 20060101ALI20220929BHJP
D04H 13/00 20060101ALI20220929BHJP
D06H 3/08 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01B21/00 E
G06T7/62
G01B21/20 101
D04H13/00
D06H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048517
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】泉 宏明
(72)【発明者】
【氏名】桂 大詞
【テーマコード(参考)】
2F069
3B154
4L047
5L096
【Fターム(参考)】
2F069AA04
2F069AA61
2F069DD19
2F069GG04
2F069GG07
2F069GG08
2F069NN09
2F069NN10
2F069NN26
3B154AB22
3B154BA53
3B154BC42
3B154CA02
3B154CA22
3B154DA24
4L047EA22
5L096AA09
5L096EA43
5L096FA32
5L096FA66
5L096FA69
(57)【要約】
【課題】繊維材料及び繊維複合材料を構成する繊維群に関して繊維間空隙の特性をより正確に演算することができる繊維間空隙測定装置、繊維間空隙測定方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】繊維間空隙測定装置は、繊維基材の三次元画像の測定対象領域に関していずれかの領域端面を終了面とし、終了面と反対側の領域端面に接する測定対象領域外の面を開始面として選択し、開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の着目点に隣接する点の周囲の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、次層着目点として各繊維から最も離れた点を選択する。また、生成された空隙パス中の各点と各繊維との距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、前記空隙パスごとの前記空隙径の平均値を平均空隙径として演算する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材の三次元画像を生成する三次元画像生成手段と、
前記三次元画像に基づいて、前記繊維基材に含まれる繊維群の繊維間の空隙に関して前記空隙を構成する各点の座標情報及び各点の前記各繊維からの距離を取得する繊維情報取得手段と、
前記三次元画像の測定対象領域に関していずれかの領域端面を終了面とし、終了面と反対側の領域端面に接する測定対象領域外の面を開始面として設定し、前記開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の前記着目点に隣接する点の近傍の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、前記次層着目点として前記各繊維からの距離が最も大きい点を選択する空隙パス生成手段と、
前記空隙パス生成手段で生成された空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、前記空隙パスごとの前記空隙径の平均値を平均空隙径として演算する空隙径演算手段と、を備える、
ことを特徴とする繊維間空隙測定装置。
【請求項2】
前記空隙パス生成手段は、
前記探索領域に、前記各繊維からの距離が最も大きい点が複数存在する場合、前記着目点を挟んで、前記着目点の直前の着目点である前層着目点に対向する対向点により近い点を、前記次層着目点として選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維間空隙測定装置。
【請求項3】
前記繊維基材に含まれる前記繊維群の各繊維が等間隔に配置された理想状態の空隙径を演算する理想空隙径演算手段と、
前記理想空隙径に対する前記平均空隙径の乖離度を演算する乖離度演算手段と、を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維間空隙測定装置。
【請求項4】
前記空隙パス生成手段で生成された空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極小値の2倍の値を繊維間距離として演算する繊維間距離演算手段を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維間空隙測定装置。
【請求項5】
前記空隙パスの長さを、前記開始面と前記終了面との間の距離で除した値を迂回度として演算する迂回度演算手段を備える、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維間空隙測定装置。
【請求項6】
繊維基材の三次元画像を生成し、
前記三次元画像に基づいて、前記繊維基材に含まれる繊維群の繊維外の空隙に関して前記空隙を構成する各点の座標情報及び各点の前記各繊維からの距離を取得し、
前記三次元画像の測定対象領域に関していずれかの領域端面を終了面とし、終了面と反対側の領域端面に接する測定対象領域外の面を開始面として設定し、前記開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の前記着目点に隣接する点の近傍の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、前記次層着目点として前記各繊維からの距離が最も大きい点を選択し、
前記空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、前記空隙パスごとの前記空隙径の平均値を平均空隙径として演算する、
ことを特徴とする繊維間空隙測定方法。
【請求項7】
a)繊維基材の三次元画像を生成するステップと、
b)前記三次元画像に基づいて、前記繊維基材に含まれる繊維群の繊維外の空隙に関して前記空隙を構成する各点の座標情報及び各点の前記各繊維からの距離を取得するステップと、
c)前記三次元画像の測定対象領域に関していずれかの領域端面を終了面とし、終了面と反対側の領域端面に接する測定対象領域外の面を開始面として設定し、前記開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の前記着目点に隣接する点の近傍の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、前記次層着目点として前記各繊維からの距離が最も大きい点を選択するステップと、
d)前記ステップc)で生成された空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、前記空隙パスごとの前記空隙径の平均値を平均空隙径として演算するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料又は繊維複合材料の繊維間空隙測定装置、繊維間空隙測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布等の繊維材料に関し、繊維材料を構成する繊維群の各繊維の平均繊維間距離を求める方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、測定対象の不織布の厚みの測定値を用いて、Wrotnowskiの仮定に基づく式により、当該不織布の厚み平均繊維間距離を求める手法が開示されている。Wrotnowskiの仮定に基づく式によれば、繊維間距離A(μm)、不織布の厚みh(mm)、坪量e(g/m2)、不織布を構成する繊維の繊維径d(μm)、繊維密度ρ(g/cm3)に基づいて、不織布の厚み平均繊維間距離が求められる。
【0004】
また、特許文献2では、3層構造からなるウエットシートの特定層の平均繊維間距離を算出する手法が開示されている。
【0005】
上述した特許文献1、2は、いずれも繊維材料を構成する繊維群の各繊維が等間隔に並んで配置されている理想状態にあることを前提に平均繊維間距離を求める手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-048719号公報
【特許文献2】特開2006-223454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2では、繊維材料を構成する繊維群の各繊維が等間隔、すなわち、各繊維間距離がばらつきを有しない理想状態であることを前提として平均繊維間距離を算出している。したがって、繊維間距離にばらつきが大きい場合、特許文献1、2に記載の技術によって算出された平均繊維間距離は、現実の平均繊維間距離と大きく乖離する場合がある。
【0008】
また、特許文献1、2に記載の技術では、繊維間の空隙の経路(空隙パス)、特に繊維間距離にばらつきがある場合の空隙パスは考慮されていない。したがって、繊維材料を通過する音、空気の流れ、繊維複合材料において繊維間に浸透する樹脂の流れ等に係る特性を評価することは難しい。
【0009】
本発明は、繊維材料及び繊維複合材料を構成する繊維群に関して繊維間空隙の特性をより正確に演算することができる繊維間空隙測定装置、繊維間空隙測定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る繊維間空隙測定装置は、
繊維基材の三次元画像を生成する三次元画像生成手段と、
前記三次元画像に基づいて、前記繊維基材に含まれる繊維群の繊維間の空隙に関して前記空隙を構成する各点の座標情報及び各点の前記各繊維からの距離を取得する繊維情報取得手段と、
前記三次元画像の測定対象領域に関していずれかの領域端面を終了面とし、終了面と反対側の領域端面に接する測定対象領域外の面を開始面として設定し、前記開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の前記着目点に隣接する点の近傍の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、前記次層着目点として前記各繊維からの距離が最も大きい点を選択する空隙パス生成手段と、
前記空隙パス生成手段で生成された空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、前記空隙パスごとの前記空隙径の平均値を平均空隙径として演算する空隙径演算手段と、を備える。
【0011】
また、前記空隙パス生成手段は、
前記探索領域に、前記各繊維からの距離が最も大きい点が複数存在する場合、前記着目点を挟んで、前記着目点の直前の着目点である前層着目点に対向する対向点により近い点を、前記次層着目点として選択する、
こととしてもよい。
【0012】
また、繊維間空隙測定装置は、
前記繊維基材に含まれる前記繊維群の各繊維が等間隔に配置された理想状態の空隙径を演算する理想空隙径演算手段と、
前記理想空隙径に対する前記平均空隙径の乖離度を演算する乖離度演算手段と、を備える、
こととしてもよい。
【0013】
また、繊維間空隙測定装置は、
前記空隙パス生成手段で生成された空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極小値の2倍の値を繊維間距離として演算する繊維間距離演算手段を備える、
こととしてもよい。
【0014】
また、繊維間空隙測定装置は、
前記空隙パスの長さを、前記開始面と前記終了面との間の距離で除した値を迂回度として演算する迂回度演算手段を備える、
こととしてもよい。
【0015】
また、本発明の第2の観点に係る繊維間空隙測定方法では、
繊維基材の三次元画像を生成し、
前記三次元画像に基づいて、前記繊維基材に含まれる繊維群の繊維外の空隙に関して前記空隙を構成する各点の座標情報及び各点の前記各繊維からの距離を取得し、
前記三次元画像の測定対象領域に関していずれかの領域端面を終了面とし、終了面と反対側の領域端面に接する測定対象領域外の面を開始面として設定し、前記開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の前記着目点に隣接する点の近傍の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、前記次層着目点として前記各繊維からの距離が最も大きい点を選択し、
前記空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、前記空隙パスごとの前記空隙径の平均値を平均空隙径として演算する。
【0016】
また、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
a)繊維基材の三次元画像を生成するステップと、
b)前記三次元画像に基づいて、前記繊維基材に含まれる繊維群の繊維外の空隙に関して前記空隙を構成する各点の座標情報及び各点の前記各繊維からの距離を取得するステップと、
c)前記三次元画像の測定対象領域に関していずれかの領域端面を終了面とし、終了面と反対側の領域端面に接する測定対象領域外の面を開始面として設定し、前記開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の前記着目点に隣接する点の近傍の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、前記次層着目点として前記各繊維からの距離が最も大きい点を選択するステップと、
d)前記ステップc)で生成された空隙パスの各点の前記各繊維からの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、前記空隙パスごとの前記空隙径の平均値を平均空隙径として演算するステップと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、三次元画像の測定対象領域に関して開始面、終了面を設定し、前記開始面の各点を着目点として順次設定し、終了面側の層の前記着目点に隣接する点の近傍の探索領域から次層着目点を順次選択して空隙パスを生成するルーチンにおいて、前記各繊維からの距離が最も大きい点を次層着目点として選択する。また、生成された空隙パスの各点の各繊維からの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算し、空隙パスごとの空隙径の平均値を平均空隙径として演算する。したがって、繊維間の空隙パスを考慮した、より正確な繊維間空隙の特性を演算することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る繊維間空隙測定装置を示す機能ブロック図である。
【
図2】コンピュータプログラムによる繊維間空隙演算処理(メインルーチン)を示すフローチャートである。
【
図3】
図2のステップS4に対応する空隙パス生成処理(サブルーチン)を示すフローチャートである。
【
図4】三次元画像に含まれる繊維群を二次元座標に模式的に示した図である。
【
図5】解析対象領域の繊維群及び空隙を説明するための模式図である。
【
図6】着目点、次層着目点及び探索領域を説明するための模式図であり、(A)は開始面及び終了面を含む図、(B)は対向点である次層着目点を含む図、(C)は複数の次層着目点を含む図である。
【
図7】実施の形態に係る空隙パスの例を示す図である。
【
図8】
図7の空隙パスの各点と繊維との距離を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係る繊維間空隙測定装置について図を参照しながら説明する。以下では、本発明に係る繊維間空隙測定装置の一例として、
図1に示す繊維間空隙測定装置1を例示する。
【0020】
繊維間空隙測定装置1は、CPU(Central Processing Unit)3、RAM(Random Access Memory)等で構成される揮発性記憶装置5と、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)等で構成される不揮発性記憶装置7とを備える。
【0021】
不揮発性記憶装置7には、後に詳述する繊維間空隙演算処理を実行するためのコンピュータプログラムPGがインストールされている。コンピュータプログラムPGには、三次元画像生成プログラムPG1、繊維情報取得プログラムPG2等のモジュールが含まれている。
【0022】
なお、三次元画像生成プログラムPG1、繊維情報取得プログラムPG2については後に詳述する。
【0023】
また、不揮発性記憶装置7には、繊維基材をコンピュータ断層撮影(CT(Computed Tomography)撮影)した断層画像(CT画像)に関するCT画像データDTが記憶されている。
【0024】
次に、
図2及び
図3のフローチャートを参照しつつ、コンピュータプログラムPGによる繊維間空隙演算処理について詳細に説明する。
【0025】
まず、ステップS1において、繊維間空隙測定装置1は、三次元画像生成プログラムPG1を実行し、CT画像データDTをボリュームレンダリングすることで三次元画像TDを生成する。
【0026】
なお、本実施の形態では、三次元画像生成プログラムPG1として、日本ビジュアルサイエンス株式会社によって提供されているExFact(登録商標)VRが用いられている。
【0027】
図4に示すように、繊維間空隙測定装置1は、三次元画像を二値化することによって繊維基材に含まれる繊維群FBと、繊維群FBの各繊維間に形成される空隙VDとを識別する。
【0028】
図5に示すように、任意の繊維FB
i(iは1~nの任意の整数)及び空隙VDは、ボクセル法を用いた複数のボクセル(voxel)の集合によって表現される。なお、説明簡略化のため、
図5においては、繊維FB
i及び空隙VDが二次元座標で示されているが、実際にはボクセルの集合(三次元座標)である。
【0029】
任意の空隙VDを構成する各ボクセルに記載されている数値(1、2、3、4、5、6)は、繊維群FB(空隙VD以外の部分)から何ボクセルだけ離れているかを示すものである。繊維群FBの任意の繊維FBiに接する空隙領域の最外のボクセルには「1」が記載され、最外のボクセルの1つ内側のボクセルには「2」が記載され、更にその内側のボクセルには「3」が記載されている。
【0030】
図2のステップS2において、繊維間空隙測定装置1は、繊維情報取得プログラムPG2を実行し、繊維間の空隙VDに関して、空隙VDを構成する各点の座標情報及び各点の各繊維からの距離を取得する。
【0031】
上述したように、各ボクセルに記載された数値は、各繊維FBiから何ボクセルだけ離れているかを示している。換言すれば、任意の空隙パスの空隙VDの各ボクセルに記載の数値の極大値は、当該空隙パスにおける繊維FBi間の空隙のおよその半径を示していると言え、空隙パスを通る音、空気、樹脂等の流体の流れ(例えば、空気のミクロな対流のしやすさ)に影響を与える特性値である。
【0032】
また、任意の空隙パスの空隙VDの各ボクセルに記載の数値の極小値の2倍の値は、当該空隙パスにおけるおよその繊維間距離を示していると言え、空隙パスを通る音、空気、樹脂等の流体の流れ(例えば、流れにくさ)に影響を与える特性値である。
【0033】
図2のステップS3において、繊維間空隙測定装置1は、三次元画像TDから測定対象領域TAを設定する(
図5)。測定対象領域TAは、任意のボクセル数の三次元空間モデルであり、繊維材料の厚み方向、幅方向等、各軸方向での特性評価を行い易いように立方体又は直方体の領域とすることが好ましい。
【0034】
次に、
図2のステップS4において、繊維間空隙測定装置1は、空隙パス生成処理(
図3のフローチャート)を実行する。
【0035】
まず、
図3のステップS41において、繊維間空隙測定装置1は、測定対象領域TAについて開始面SS、終了面FSを設定する。より具体的には、
図6(A)に二次元で簡易的に示すように、繊維間空隙測定装置1は、立方体又は直方体状のボクセルの集合である三次元画像の測定対象領域TAに関していずれかの領域端面を終了面FSとし、終了面FSと反対側の領域端面に接する測定対象領域TA外の面を開始面SSとして設定する。
【0036】
ステップS42において、繊維間空隙測定装置1は、開始面SSの点(ボクセル)を空隙パスVPj(j=1~k、kは開始面SSのボクセル数)の開始点SPjとして順次設定する。ステップS42~S48の処理(ループ1)は、開始面SSの各点の全てが開始点SPjに設定されるまで繰り返される。
【0037】
ステップS43において、繊維間空隙測定装置1は、設定された開始点SPjを着目点FPn(n=1~m、mは開始面SSから終了面FSの1つ前の層までの層数)として、空隙パスVPjの次の点となる次層着目点FPn+1を選択する。
【0038】
繊維間空隙測定装置1は、開始面SSに接する終了面FS側の層(次層)において、着目点FPnに隣接する点(ボクセル)の近傍の点を探索領域SAとして設定する(ステップS44)。本実施の形態では、着目点FPnに隣接する次層の点(ボクセル)の周囲の3×3ボクセルの範囲を探索領域SAとして、次層着目点FPn+1を選択する。
【0039】
繊維間空隙測定装置1は、探索領域SAのうち各繊維からの距離が最も大きい点を次層着目点FPn+1として選択する(ステップS45)。
【0040】
図6(B)に示すように、探索領域SA内に繊維から最も離れた点(図中3と示されたボクセル)が複数ある場合、繊維間空隙測定装置1は、開始面SS側に接する層(前層)の着目点FP
nに隣接する点の近傍の探索領域SAに対応する対応領域CA(3×3ボクセル)に存在する直前の着目点(前層着目点FP
n-1)に基づいて、次層着目点FP
n+1を決定する。具体的には、繊維間空隙測定装置1は、着目点FP
nを挟んで、前層着目点FP
n-1に対向する対向点OPにより近い点を次層着目点FP
n+1として選択する。これにより、例えば、繊維材料を空気が通過する際の空気の流れを考慮した空隙パスVP
jを生成することができる。
【0041】
図6(C)に示すように、各繊維から最も離れており且つ対向点OPに最も近い点が、探索領域SAに複数存在する場合、当該点のいずれかを選択することとしてもよいし、空隙パスVP
jを分割して、空隙パスVP-1
j,VP-2
j等とすることとしてもよい。
【0042】
なお、着目点FPnが開始面SSの点である場合、より開始面SS側の前層が存在しない。この場合で且つ探索領域SA内に繊維から最も離れた点が複数ある場合、着目点FPnに接している点を次層着目点FPn+1として優先的に選択するなど、予め設定された所定の優先順位にしたがって次層着目点FPn+1を選択すればよい。
【0043】
ステップS46では、繊維間空隙測定装置1は、選択された次層着目点FP
n+1を、空隙パスVP
jを構成する点として追加し、不揮発性記憶手段に座標情報を記憶させる。また、繊維間空隙測定装置1は、空隙パスVP
jを構成する次層着目点FP
n+1と最も近い繊維FB
iとの距離を記憶する。次層着目点FP
n+1と繊維FB
iとの距離は、
図2のステップS2で取得した空隙の情報を用いて演算される。
【0044】
ステップS43~S47(ループ2)の処理は、ステップS45で選択される次層着目点FPn+1が終了面FSの点となるまで、次層着目点FPn+1を新たな着目点FPnとして更新(nをインクリメント)して、繰り返される。
【0045】
繊維間空隙測定装置1は、上述した処理をループ1(ステップS42~S48)及びループ2(ステップS43~S47)の各終了条件が満たされるまで繰り返し実行する。
【0046】
図2のステップS5において、繊維間空隙測定装置1は、上述した空隙パス生成処理(ステップS4、
図3のフローチャート)で演算された各空隙パスVP
jについて、空隙パスVP
jを構成する各点と最近の繊維FB
iとの距離の極大値を空隙半径、空隙半径の2倍の値を空隙直径(空隙径)として演算する。また、繊維間空隙測定装置1は、演算された空隙パスVP
jごとの空隙径の平均値を現実の平均空隙径(A)として演算する。
【0047】
図7は、上述した空隙パス生成処理によって生成された空隙パスVP
jの例を示す図である。本例では、隣り合うボクセル間の距離を1としている。
図7に示すように、この空隙パスVP
jでは、途中で分岐した空隙パスVP-1
j~VP-4
jが生成される。また、
図8は、空隙パスVP-1
j~VP-4
jの各点と繊維FB
iとの距離を示したグラフである。例えば空隙パスVP-1
jにおける極大値は、
図8に示すように極大値1(=5)及び極大値2(=4)の2つである。したがって、空隙径は、極大値1(=5)の2倍の10(調整値の0.5を10から引いて9.5としてもよい。)及び極大値2(=4)の2倍の8(調整値の0.5を8から引いて7.5としてもよい。)となる。また、このようにして演算される各空隙パスVP
jの空隙径を平均したものが、平均空隙径となる。
【0048】
また、ステップS6において、繊維間空隙測定装置1は、理想状態の平均空隙径である理想空隙径(B)を演算する。理想状態は、三次元画像TDに含まれる繊維群が等間隔に配置されたと仮定した状態であり、理想空隙径は、空隙が球形状であることを前提とした場合の理想状態における最大空隙径である。
【0049】
本実施の形態では、三次元画像TDに含まれる繊維群が同一繊維径であると仮定したとき、以下の式で演算される理想状態におけるdfを理想空隙径とする。例えば、繊維径d=2μm(マイクロメートル)、空隙率φ=0.92を下記の式に代入すると、理想空隙径df=6.862μmが得られる。
【数1】
【0050】
そして、ステップS7において、繊維間空隙測定装置1は、ステップS6で演算した理想空隙径(B)で、ステップS5で演算した平均空隙径(A)を割って(A÷B)、理想空隙径(B)に対する現実の平均空隙径(A)の乖離度(空隙径乖離度)を演算する。
【0051】
ここで、三次元画像TDに含まれる繊維群が等間隔で配置されていたとすると、現実の平均空隙径(A)と理想空隙径(B)とが等しくなり(A=B)、乖離度は「1」(繊維の分布が最も良い状態)になる。
【0052】
他方、三次元画像TDに含まれる繊維群の各繊維が全て接した状態であるとすると、現実の平均空隙径(A)を表す繊維以外の空隙部分の大きさが、理想状態の平均空隙径よりも大きくなるため、理想空隙径(B)に対する現実の平均空隙径(A)の乖離度(A÷B)は1よりも大きく(繊維の分布が悪い状態に)なる。
【0053】
すなわち、乖離度は、1以上の値で示され、1に近くづくほど繊維の分布が良くなる(理想状態に近くなる)一方、1から離れて大きくなるほど繊維の分布が悪くなる(理想状態から離れる)。
【0054】
また、ステップS8において、繊維間空隙測定装置1は、各空隙パスVPjについて、空隙パスVPjを構成する各点と最近の繊維FBiとの距離の極小値の2倍の値を繊維間距離として演算する。また、繊維間空隙測定装置1は、演算された空隙パスVPjごとの繊維間距離の平均値を平均繊維間距離として演算する。
【0055】
具体的には、
図7及び
図8に示す例の空隙パスVP-1
jの場合、空隙パスVP-1
jの各点と繊維FB
iとの距離の極小値は、極小値1(=2)、極小値2(=2)及び極小値3(=2)の3つである。したがって、算出される3つの繊維間距離は、それぞれ極小値1~3(=2)の2倍の4(調整値の0.5を4から引いて3.5としてもよい。)となる。また、このようにして演算される各空隙パスVP
jの繊維間距離を平均したものが、平均繊維間距離となる。
【0056】
また、ステップS9において、繊維間空隙測定装置1は、各空隙パスVPjの長さ、すなわち、空隙パスVPjを構成する各点をつないだ距離を、開始面SSと終了面FSとの距離で除した値を迂回度として演算する。また、繊維間空隙測定装置1は、空隙パスVPjごとの迂回度の平均値を平均迂回度として演算する。
【0057】
具体的には、
図7に示す例の空隙パスVP-1
jの場合、空隙パスVP-1
jの長さは、22.9となる。また、開始面SSと終了面FSとの間の距離は20である。よって、この場合の迂回度は、1.145(22.9÷20)となる。また、このようにして演算される各空隙パスVP
jの迂回度を平均したものが、平均迂回度となる。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態によれば、
図3のループ1(ステップS42~S48)において、開始面SSの各点が空隙パスVP
jの開始点である着目点FP
nとして順次設定される。また、
図3のループ2(ステップS43~S47)において、終了面FS側の層の着目点FP
nに隣接する点の近傍の探索領域SAから次層着目点FP
n+1が順次選択されて空隙パスVP
jを生成する。
【0059】
上述したループ1、2において、探索領域SAの各点のうち、各繊維から最も離れた点を次層着目点FPn+1として選択する。そして、次層着目点FPn+1が終了面FSに達するまで順次次層着目点FPn+1を演算し、空隙パスVPjを構成する点として記憶される。
【0060】
さらに、繊維間空隙測定装置1は、上述した空隙パス生成処理(ステップS4、
図3のフローチャート)で生成された各空隙パスVP
jについて、空隙パスVP
jを構成する各点と最近の繊維FB
iとの距離の極大値の2倍の値を空隙径として演算する。また、繊維間空隙測定装置1は、演算された空隙パスVP
jごとの空隙径の平均値を現実の平均空隙径(A)として演算する。また、繊維間空隙測定装置1は、理想状態の平均空隙径である理想空隙径(B)と現実の平均空隙径(A)との乖離度を演算する。
【0061】
また、ステップS8において、繊維間空隙測定装置1は、各空隙パスVPjについて、空隙パスVPjを構成する各点と最近の繊維FBiとの距離の極小値の2倍の値を繊維間距離として演算する。また、繊維間空隙測定装置1は、演算された空隙パスVPjごとの繊維間距離の平均値を平均繊維間距離として演算する。
【0062】
また、ステップS9において、繊維間空隙測定装置1は、各空隙パスVPjの長さ、すなわち、空隙パスVPjを構成する各点をつないだ距離を、開始面SSと終了面FSとの距離で除した値を迂回度として演算する。また、繊維間空隙測定装置1は、空隙パスVPjごとの迂回度の平均値を平均迂回度として演算する。
【0063】
そのため、繊維材料及び繊維複合材料を構成する繊維群に関して繊維間空隙の特性をより正確に演算することが可能である。特に、繊維群の各繊維が密着している場合、理想状態を前提として演算した繊維間空隙の特性を表す繊維間距離は、現実の平均繊維間距離に対して大きく乖離する。このような場合も、上述した手法を用いることで平均空隙径、平均繊維間距離、平均迂回度等の繊維間空隙の特性を正確に演算することができるので、繊維材料、繊維複合材料等の性能評価を精度よく行うことが可能である。
【0064】
さらに、理想状態の繊維配置では演算できない、空隙パスVPjの迂回度を演算することができるので、繊維間の流体の流れを考慮した性能評価を行うことが可能である。特に、測定対象領域TAの各軸方向の評価をすることができるので、繊維の配置方向に偏りがある場合、例えば厚み方向に配置される繊維が少ない平板状の繊維材料等の場合においても、各軸方向で精度よく空隙測定を行うことができる。
【0065】
本発明による繊維間空隙測定装置、繊維間空隙測方法及びプログラムは、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0066】
上述した実施の形態では、1つの開始面SSから終了面FSに向けて生成された空隙パスVPjのみに基づいて繊維間空隙の特性値を演算することとしたが、これに限られない。例えば、いずれかの開始面SSから終了面FSへの空隙パスVPjを生成した後、開始面SS側と終了面FS側とを入れ替えて、逆方向の空隙パスVPrjを生成する。そして、空隙パスVPjと逆方向の空隙パスVPrjとの空隙径、繊維間距離、迂回度等を平均して、繊維間空隙の特性値として演算することとしてもよい。また、測定対象領域TAの各軸方向(X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向)の特性値を平均化するなどにより、解析対象の繊維材料の特性値を総合的に評価することとしてもよい。この場合、各軸方向での特性値の偏りを評価して、繊維系材料の異方性を評価することとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、不織布などの繊維基材に含まれる繊維群の繊維間空隙の特性評価に好適である。
【符号の説明】
【0068】
1 繊維間空隙測定装置、3 CPU、5 揮発性記憶装置、7 不揮発性記憶装置、CA 対応領域、DT CT画像データ、FB 繊維群、FPn 着目点、FPn+1 次層着目点、FPn-1 前層着目点、OP 対向点、PG コンピュータプログラム、PG1 三次元画像生成プログラム、PG2 繊維情報取得プログラム、SA 探索領域、TA 測定対象領域、TD 三次元画像、VD 空隙