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特開2022-147701神経細胞ネットワーク、その製造方法、その作製キット、並びに神経細胞の評価方法及び化合物の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147701
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】神経細胞ネットワーク、その製造方法、その作製キット、並びに神経細胞の評価方法及び化合物の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20220929BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220929BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220929BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C12N5/0793
C12N5/071
C12Q1/02
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049075
(22)【出願日】2021-03-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和2年4月7日、https://www.j-sps.org/library/351-第11回年会-2020-要旨集/viewdocument 2.令和2年5月7日、https://nikkemedical.com https://nikkemedical.com/ivent/ https://nikkemedical.com/img/ivent/leaflet1/pdf 3.令和2年6月23日、http://jsot2020.jp/ http://www.senkyo.co.jp/47jsot/HTML5/pc.html#/page/1 4.令和2年9月14日、https://sps.6connex.com/event/virtualmeeting/en-us#!/Posters https://cdn-akamai.6connex.com//742/2062//Poster_Abstracts_09092020_15997139880856096.pdf 5.令和2年9月14日、 https://sps.6connex.com/event/virtualmeeting/en-us#!/Poster_Session_6/n667303 https://cdn-akamai.6connex.com//742/2062//SPS2020_Submission_Final_Code-072_Ref-0070_Poster_15992894482228912.pdf https://cdn-akamai.6connex.com//742/2062/SPS2020_Submission_Final_Code-072_Ref-0070_MP4File_15996089131604390.webm
(71)【出願人】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】澤田 光平
(72)【発明者】
【氏名】馬場 敦
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】島田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松崎 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】延谷 公昭
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX05
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BC41
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】培養容器から剥離せず、安定した自発発火パターンを示す神経細胞ネットワーク、その製造方法、その作製キット、及びそれを用いた化合物の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明は、神経細胞ネットワークであって、培養容器、足場、及び互いに離間した複数の神経細胞集団、異なる神経細胞集団を連結する神経突起を含み、足場は、繊維構造体で構成され、前記足場の底面は、培養容器の内底面に固定されており、神経細胞集団は、前記培養容器と前記足場の界面に形成され、かつ足場に固定されており、複数の神経細胞集団は、自発発火パターンが同期している、神経細胞ネットワークに関する。前記神経細胞ネットワークは、細孔径が100μm以上800μm以下の繊維構造体で構成されている足場を用い、培養容器の内底面に足場の底面を固定し、神経細胞の懸濁液を足場の上部に留まるように足場の表面上に滴下し、培養することで作製することができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経細胞ネットワークであって、
培養容器、足場、互いに離間した複数の神経細胞集団、及び異なる神経細胞集団を連結する神経突起を含み、
前記足場は、繊維構造体で構成され、前記足場の底面は、培養容器の内底面に固定されており、
前記神経細胞集団は、前記培養容器と前記足場の界面に形成され、かつ足場に固定されており、
前記複数の神経細胞集団は、自発発火パターンが同期している、神経細胞ネットワーク。
【請求項2】
前記繊維構造体は、不織布である、請求項1に記載の神経細胞ネットワーク。
【請求項3】
前記繊維構造体は、ゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、フィブリン、キトサン、アルギン酸、アルギン酸カルシウム、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、シアル酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、デンプン、ジェランガム、アガロース、グァーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ダイユータンガム、ポリエチレングリコール、ポロプロピレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、シクロオレフィンポリマー、アモルファスフッ素樹脂、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、及びポリジオキサノンからなる群から選ばれる一つ以上を含む、請求項1又は2に記載の神経細胞ネットワーク。
【請求項4】
前記神経細胞は、ヒト人工多能性幹細胞由来である、請求項1~3のいずれかに記載の神経細胞ネットワーク。
【請求項5】
神経細胞は、ドーパミン作動性神経細胞、グルタミン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞、ノルアドレナリン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、ヒスタミン作動性神経細胞、介在神経細胞、、皮質ニューロン、海馬ニューロン、偏桃体ニューロン、感覚神経細胞、運動神経細胞、及び自律神経細胞、からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれかに記載の神経細胞ネットワーク。
【請求項6】
前記神経細胞ネットワークは、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、マイクログリアからなる群から選ばれる一つ以上のグリア細胞を含む、請求項1~5のいずれかに記載の神経細胞ネットワーク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の神経細胞ネットワークの作製方法であって、
培養容器の内底面に足場の底面を固定する工程、
足場に神経細胞を播種する工程、及び
神経細胞を培養する工程を含み、
前記足場は繊維構造体で構成され、前記繊維構造体の細孔径が100μm以上800μm以下であり、
足場への神経細胞の播種は神経細胞の懸濁液を足場の上部に留まるように足場の表面上に滴下することで行われる、神経細胞ネットワークの作製方法。
【請求項8】
前記繊維構造体を構成する繊維の繊維径は25μm以上80μm以下である、請求項7に記載の神経細胞ネットワークの作製方法。
【請求項9】
前記繊維構造体は、見掛密度が0.1g/cm3以上1.2g/cm3以下である、請求項7又は8に記載の神経細胞ネットワークの作製方法。
【請求項10】
前記培養容器の内底面は、前記繊維構造体の底面と部分的に接着している、請求項7~9のいずれかに記載の神経細胞ネットワークの作製方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の神経細胞ネットワークの作製キットであって、
培養容器、足場、及び神経細胞を含み、
前記足場は、細孔径が100μm以上800μm以下の繊維構造体で構成されており、
神経細胞ネットワークの作製時に、培養容器の内底面に足場の底面を固定し、神経細胞の懸濁液を足場の上部に留まるように足場の表面上に滴下して足場に神経細胞を播種し、神経細胞を培養する、神経細胞ネットワークの作製キット。
【請求項12】
神経細胞の機能を評価する神経細胞の評価方法であって、
請求項7~10のいずれかに記載の神経細胞ネットワークの作製方法にて得られる神経細胞ネットワークを用いて神経細胞の生理学的特性又は構造を評価する、神経細胞の評価方法。
【請求項13】
前記神経細胞の生理学的特性又は構造の評価が、正常の神経細胞と、病態神経細胞の比較により行われる、請求項12に記載の神経細胞の評価方法。
【請求項14】
前記神経細胞の生理学的特性は、活動電位である、請求項12又は13に記載の神経細胞の評価方法。
【請求項15】
前記神経細胞の活動電位を細胞内のカルシウムイオンのイメージング、細胞の膜電位のイメージング、又は多点電極アレイで評価する、請求項14に記載の神経細胞の評価方法。
【請求項16】
化合物の性質を評価する化合物の評価方法であって、
請求項7~10のいずれかに記載の神経細胞ネットワークの作製方法にて得られた神経細胞ネットワークに化合物を接触させる工程と、
化合物と接触することで神経細胞の生理学的特性又は構造が変更するか否かを判断する工程を含む、化合物の評価方法。
【請求項17】
前記化合物は、医薬品、医薬品の候補化合物及び化学物質からなる群から選ばれる一つ以上である請求項16に記載の化合物の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞ネットワーク、その製造方法、その作製キット、並びにそれを用いた神経細胞の評価方法及び化合物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経は、脳などの中枢神経と、運動神経、感覚神経、及び自律神経などの末梢神経に分けられ、生体内でネットワークを構築して、シグナルを伝達する役割を果たしている。そのため、生体外で神経のネットワークを構築し、神経の伝達機能を評価することで、神経発達や神経疾患の研究や、薬物や化合物の神経に対する作用を評価するスクリーニング等への応用が試みられている。
【0003】
特許文献1では、複数の種類の神経細胞の培養物を、多点電極アレイ(microelectrode array、以下MEAと略す)上で分散させて培養し、神経細胞ネットワークを形成させ、細胞の電気的な活動を評価している。特許文献2では、神経細胞の機能を、カルシウムイメージング法を用い、細胞内のカルシウムイオン濃度の増減から評価している。
【0004】
一方、従来の神経細胞の培養物では、多種類の細胞が空間的な配置の制御が行われずに混在した状態であるため、当該培養物中において神経細胞ネットワークの接続がランダムに行われ、培養物中の神経細胞同士がどのようにお互いに影響しているかを評価することができない。特許文献3では、互いに離れた細胞集団を配置し、その間を神経突起で接続させ、電気的な活動を評価している。非特許文献1では、培養容器に神経細胞を播種し、神経細胞を自己集合させ、神経細胞の集団間を神経突起で接続させることで、集団間の神経細胞ネットワーク接続が明確で、シグナル伝達の順序が評価可能となっている。非特許文献2では、神経細胞をパターニングされた培養容器上に播種し、自己組織化させることで、集団の位置を定義し、等間隔の神経細胞ネットワーク構造を構築させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2017-528127号公報
【特許文献2】特許第6735490号公報
【特許文献3】特開2020-156463号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ronen Segev et al., "Formation of Electrically Active Clusterized Neural Networks", Physical review letters, 2003, Vol. 90, No.6, p168101-1 ~168101-4.
【非特許文献2】Tamir Gabay et al., "Engineered self-organization of neural networks using carbon nanotube clusters", Physica A, 2005, 350, 611-621.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
神経細胞ネットワーク、特にヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)由来の神経細胞のネットワークは、培養容器から剥離しやすく、安定した電気的な活動の自発発火パターンを示す神経細胞ネットワークを再現性良く得ることが困難であった。
【0008】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、培養容器から剥離せず、安定した自発発火パターンを示す神経細胞ネットワーク、その製造方法、その作製キット、並びにそれを用いた神経細胞の評価方法及び化合物の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、神経細胞ネットワークであって、培養容器、足場、及び互いに離間した複数の神経細胞集団、異なる神経細胞集団を連結する神経突起を含み、前記足場は、繊維構造体で構成され、前記足場の底面は、培養容器の内底面に固定されており、前記神経細胞集団は、前記培養容器と前記足場の界面に形成され、かつ足場に固定されており、前記複数の神経細胞集団は、自発発火パターンが同期している、神経細胞ネットワークに関する。
【0010】
本発明は、前記神経細胞ネットワークの作製方法であって、培養容器の内底面に足場の底面を固定する工程、足場に神経細胞を播種する工程、及び神経細胞を培養する工程を含み、前記足場は繊維構造体で構成され、前記繊維構造体の細孔径が100μm以上800μm以下であり、足場への神経細胞の播種は神経細胞の懸濁液を足場の上部に留まるように滴下することで行われる、神経細胞ネットワークの作製方法に関する。
【0011】
本発明は、前記神経細胞ネットワークの作製キットであって、培養容器、足場、及び神経細胞を含み、前記足場は、細孔径が100μm以上800μm以下の繊維構造体で構成されており、神経細胞ネットワークの作製時に、培養容器の内底面に足場の底面を固定し、神経細胞の懸濁液が足場の上部に留まるように足場に神経細胞を播種し、神経細胞を培養する、神経細胞ネットワークの作製キットに関する。
【0012】
本発明は、神経細胞の機能を評価する神経細胞の評価方法であって、前記神経細胞ネットワークの作製方法にて得られる神経細胞ネットワークを用いて神経細胞の生理学的特性又は構造を評価する、神経細胞の評価方法に関する。
【0013】
本発明は、化合物の性質を評価する化合物の評価方法であって、前記神経細胞ネットワークの作製方法にて得られた神経細胞ネットワークに化合物を接触させる工程と、化合物と接触することで神経細胞の生理学的特性又は構造が変更するか否かを判断する工程を含む、化合物の評価方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、培養容器から剥離せず、安定した自発発火パターンを示す神経細胞ネットワーク、その製造方法、その作製キット、及びそれを用いた化合物の評価方法を提供することができる。
本発明によれば、培養容器から剥離せず、安定した自発発火パターンを示す神経細胞ネットワークを用いることで、神経細胞の機能及び化合物の性質を効果的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で用いた繊維構造体(足場)の膨潤状態における明視野での共焦点イメージング装置観察像(10倍)である。
図2】実施例3で用いた繊維構造体(足場)の走査型電子顕微鏡観察像(100倍)である。
図3】実施例1において、培養16日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点イメージング装置で観察した明視野観察像であり、(a)は4倍での観察像であり、(b)は20倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図4】比較例1において、培養14日目における培養容器を共焦点イメージング装置で観察した4倍での明視野観察像である。
図5】実施例1において、培養16日目における神経細胞ネットワークのカルシウムイオンをイメージングした結果であり、(a)はカルシウムイメージングを蛍光観察した画像であり、(b)は(a)の蛍光画像内で、神経細胞集団同士の間隔が少なくとも1mm以上離れた任意の10箇所(A~J)において、蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(c)は(b)の10箇所のグラフを周波数解析した結果である。
図6】実施例1において、培養16日目において、少なくとも1mm以上離れた2箇所の神経細胞集団における4-アミノピリジンに対する応答性をカルシウムイメージングで評価した結果であり、(a)は4-アミノピリジン添加前の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(b)は(a)のグラフを周波数解析した結果であり、(c)は4-アミノピリジンを添加した後の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(d)は(c)のグラフを周波数解析した結果である。
図7】実施例2において、培養20日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点イメージング装置で観察した明視野観察像であり、(a)は4倍での観察像であり、(b)は20倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図8】実施例2において、培養20日目における神経細胞ネットワークのカルシウムイオンをイメージングした結果であり、(a)はカルシウムイメージングを蛍光観察した画像であり、(b)は(a)の蛍光画像内で、神経細胞集団同士の間隔が少なくとも1mm以上離れた任意の10箇所(A~J)において、蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(c)は(b)の10箇所のグラフを周波数解析した結果である。
図9】実施例2において、培養20日目において、少なくとも1mm以上離れた2箇所の神経細胞集団における4-アミノピリジンに対する応答性をカルシウムイメージングで評価した結果であり、(a)は4-アミノピリジン添加前の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(b)は(a)のグラフを周波数解析した結果であり、(c)は4-アミノピリジンを添加した後の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(d)は(c)のグラフを周波数解析した結果である。
図10】実施例3において、培養20日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点イメージング装置で観察した明視野観察像であり、(a)は4倍での観察像であり、(b)は10倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図11】実施例3において、培養20日目における神経細胞ネットワークのカルシウムイオンをイメージングした結果であり、(a)はカルシウムイメージングを蛍光観察した画像であり、(b)は(a)の蛍光画像内で、神経細胞集団同士の間隔が少なくとも1mm以上離れた任意の10箇所(A~J)において、蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(c)は(b)の10箇所のグラフを周波数解析した結果である。
図12】実施例3において、培養20日目において、少なくとも1mm以上離れた2箇所の神経細胞集団における4-アミノピリジンに対する応答性をカルシウムイメージングで評価した結果であり、(a)は4-アミノピリジン添加前の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(b)は(a)のグラフを周波数解析した結果であり、(c)は4-アミノピリジンを添加した後の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(d)は(c)のグラフを周波数解析した結果である。
図13】比較例2において、培養20日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点イメージング装置で観察した明視野観察像であり、(a)は4倍での観察像であり、(b)は20倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図14】比較例3において、培養20日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点イメージング装置で観察した明視野観察像であり、(a)は4倍での観察像であり、(b)は10倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図15】比較例3において、培養20日目における神経細胞ネットワークのカルシウムイオンをイメージングした結果であり、(a)はカルシウムイメージングを蛍光観察した画像であり、(b)は(a)の蛍光画像内で、神経細胞集団同士の間隔が少なくとも1mm以上離れた任意の10箇所(A~J)において、蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(c)は(b)の10箇所のグラフを周波数解析した結果である。
図16】比較例3において、培養20日目における、少なくとも1mm以上離れた2箇所の神経細胞集団における4-アミノピリジンに対する応答性をカルシウムイメージングで評価した結果であり、(a)は4-アミノピリジン添加前の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(b)は(a)のグラフを周波数解析した結果であり、(c)は4-アミノピリジンを添加した後の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(d)は(c)のグラフを周波数解析した結果である。
図17】比較例4において、培養20日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点イメージング装置で観察した明視野観察像であり、(a)は4倍での観察像であり、(b)は10倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図18】実施例1において、培養16日目の神経細胞ネットワーク内のシグナル伝達順序を示した図であり、(a)はカルシウムシグナル波形において、1回目に大きなピーク(バースト)が生じた際の解析結果、(b)は2回目に大きなピーク(バースト)が生じた際の解析結果である。矢印はシグナル伝達の順番を示しており、実線矢印が1番目、破線矢印が2番目、点線矢印が3番目を意味する。
図19】実施例1において、培養16日目における、少なくとも1mm以上離れた2箇所の神経細胞集団におけるドーパミンへの応答性をカルシウムイメージングで評価した結果であり、(a)はドーパミン添加前の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(b)は(a)のグラフを周波数解析した結果であり、(c)はドーパミンを添加した後の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(d)は(c)のグラフを周波数解析した結果であり、(e)は(a)、及び(b)において、3分間のピーク数(発火数)を検出した結果である。
図20】実施例1において、培養16日目における、少なくとも1mm以上離れた2箇所の神経細胞集団におけるドロペリドールへの応答性をカルシウムイメージングで評価した結果であり、(a)はドロペリドール添加前の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(b)は(a)のグラフを周波数解析した結果であり、(c)はドロペリドールを添加した後の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(d)は(c)のグラフを周波数解析した結果であり、(e)は(a)、及び(b)において、3分間のピーク数(発火数)を検出した結果である。
図21】実施例1において、培養16日目における、異なるウェル(サンプル)間での神経細胞ネットワークの構造、機能を比較した結果であり、(a)はサンプルAのカルシウムイメージング観察像であり、(b)はサンプルBのカルシウムイメージング観察像であり、(c)は(a)及び(b)において、神経細胞集団の直径の分布の結果であり、(d)はカルシウムイオン蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(e)は(d)のグラフを周波数解析した結果である。
図22】ゼラチン不織布を製造するのに用いる1例の製造装置の模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するため、検討を重ねた。その結果、足場として細孔径が100μm以上800μm以下の繊維構造体を用い、培養容器の内底面に足場の底面を固定し、神経細胞の懸濁液が足場の上部に留まるように足場に神経細胞を播種して培養すると、培養容器と足場の界面に複数の神経細胞集団が形成され、かつ神経細胞集団が足場の底面に固定され、神経細胞集団から伸展した神経突起が複数の神経細胞集団を連結することで、培養容器から剥離せず、安定した自発発火パターンを示す神経細胞ネットワークが形成されることを見出した。
特に、神経細胞ネットワークが安定的に構築されており、神経細胞ネットワークの構造および神経細胞ネットワーク内部の離れた少なくとも2箇所間の機能及び化合物の応答性を評価することができる。
【0017】
前記神経細胞ネットワークにおいて、互いに離間している複数の神経細胞集団は、自発発火パターンが同期している。
【0018】
本発明の1以上の実施形態において、神経細胞集団とは、2個以上の神経細胞を含む神経細胞の集まりであり、例えば、平面的細胞同士が集まった状態のものであってもよく、3次元的に細胞同士が接着して構成されたものであってもよい。神経細胞集団の数は、2個以上であればよく、特に限定されないが、例えば、3個以上であってもよく、5個以上であってもよく、10個以上であってもよい。例えば、足場底面の単位面積当たりに0.5個/mm2以上30個/mm2以下存在してもよく、1個/mm2以上20個/mm2以下存在してもよい。前記神経細胞集団の直径は特に限定されず、繊維構造体への固定のされやすさと神経細胞凝集体内部での細胞の生存しやすさの観点から、例えば、15μm以上500μm以下であってもよく、20μm以上300μm以下であってもよい。
【0019】
前記神経細胞ネットワークにおいて、複数の神経細胞集団は、互いに離間していればよく、その距離は特に限定されないが、例えば、少なくとも1mm以上離れている2個の神経細胞集団を含む。隣接する神経細胞集団の距離は、例えば、1mm以上10mm以下であってもよく、1mm以上4mm以下であってもよい。
【0020】
前記神経細胞ネットワークにおいて、神経細胞集団の直径、及び隣接する神経細胞集団の距離は、神経細胞集団をカルシウムイオンのイメージングや免疫染色結果を観察して確認することができる。
【0021】
本発明の1以上の実施形態において、「互いに離間している複数の神経細胞集団は、自発発火パターンが同期している」とは、少なくとも1mm以上離れている2個の神経細胞集団の自発発火が同期していることを意味する。
自発発火の同期の有無は、神経細胞集団の活動電位を測定することで評価できる。活動電位の測定方法としては、例えば、MEA測定、細胞の膜電位のイメージング、又はカルシウムイオンのイメージング(以下、単にカルシウムイメージングとも記す)が挙げられる。カルシウムイメージングの場合には、得られたカルシウムシグナル波形の形状及び周波数解析にて確認することができる。
神経細胞ネットワークにおいて、任意に選択したそれぞれが少なくとも1mm以上離れている10個の神経細胞集団において、自発発火パターンが同期していることが好ましい。
【0022】
前記繊維構造体は、特に限定されず、繊維で構成され、3次元的に連結された空隙を有するものを適宜用いることができる。例えば、織物、編物、不織布、組紐、3Dプリンティング等が挙げられる。不織布の場合、長繊維不織布でもよく、短繊維不織布でもよい。長繊維不織布としては、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、電界紡糸不織布等が挙げられる。短繊維不織布としては、例えば、ニードルパンチ不織布、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布等が挙げられる。
【0023】
前記繊維構造体の材質は特に限定されないが、例えば、天然高分子化合物や合成高分子化合物などの高分子化合物を用いることができる。天然高分子化合物としては、例えばタンパク質や多糖類が挙げられる。タンパク質としては、例えばゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、フィブリン等が挙げられる。多糖類としては、例えばキトサン、アルギン酸、アルギン酸カルシウム、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、シアル酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、デンプン、ジェランガム、アガロース、グァーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ダイユータンガム等の天然高分子を用いてもよく、カルボキシメチルセルロース等の天然高分子化合物の誘導体を用いてもよい。合成高分子化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポロプロピレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、シクロオレフィンポリマー、アモルファスフッ素樹脂等の非吸収性の合成高分子化合物や、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン等の生体吸収性高分子等が挙げられる。これらの高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記繊維構造体としては、汎用性の観点から、合成高分子を主成分とする合成高分子不織布を用いてもよく、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする不織布を好適に用いることができる。繊維構造体としては、生体親和性の観点から、天然高分子化合物を主成分とする天然高分子不織布を用いてもよく、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布を好適に用いることができる。また、培養状態での透明性の観点から、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を主成分とする不織布を用いてもよい。本発明の1以上の実施形態において、主成分とは、90質量%以上含まれている高分子化合物を意味する。10質量%以下の他の成分は、必要に応じて、主成分以外の他の高分子化合物、架橋剤、薬剤、可塑剤、及びその他の添加剤等であってもよい。
【0025】
前記繊維構造体は、細孔径が100μm以上800μm以下である。これにより、繊維構造体で構成された足場の上部に播種した神経細胞が繊維構造体に侵入し、足場の底面に凝集しながら均一に分散しやすくなり、その後の培養により、足場と培養容器の界面に複数の神経細胞集団が形成される。繊維構造体の細孔径は、130μm以上700μm以下であることが好ましく、170μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の1以上の実施形態において、繊維構造体が不織布の場合、繊維構造体の細孔径は、Wrotnowskiの仮定に基づいて、下記計算式1に基づいて算出することができる。
【数1】
【0027】
本発明の1以上の実施形態において、不織布の見掛密度は、不織布の厚み、直径及び重量に基づいて算出することができる。ゼラチン不織布等の天然高分子不織布の場合、厚み及び直径は、それぞれ、膨潤状態の不織布の厚み及び直径を意味し、重量は、膨潤かつ余分な水分を除いた状態の不織布の重量を意味する。合成高分子不織布の場合、厚み、直径及び重量は、いずれも、乾燥状態の不織布の厚み、直径及び重量を意味する。
【0028】
本発明の1以上の実施形態において、繊維径は、ゼラチン不織布等の天然高分子不織布の場合、膨潤後の不織布を共焦点イメージングシステムで観察し、任意に選択した50本の繊維について繊維径を計測し、それらの平均値を算出することで求めることができる。また、合成高分子不織布の場合、合成繊維の繊維径は不織布を電子顕微鏡又は共焦点イメージングシステムで観察し、任意に選択した50本の繊維について繊維径を計測し、それらの平均値を算出することで求めることができる。
【0029】
本発明の1以上の実施形態において、繊度は、ゼラチン不織布等の天然高分子不織布の場合、水で膨潤させたフィルムら比重を算出し、比重と膨潤状態の不織布の繊維直径から算出することで求めることができる。また合成高分子不織布の場合、合成繊維の公称比重と乾燥状態の不織布の繊維直径から算出することで求めることができる。
【0030】
本発明の1以上の実施形態において、膨潤状態とは、水又は細胞培養の培養液で5分以上静置したものを意味する。
【0031】
前記繊維構造体を構成する繊維は、膨潤状態下で繊維径が2μm以上400μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上100μm以下であり、特に好ましくは25μm以上80μm以下である。繊維構造体を構成する繊維の繊維径が上記範囲内であると、繊維構造体(足場)に神経細胞を播種した際、細胞が足場に侵入しやすい上、足場の底面に均一に分布しやすい。
【0032】
前記繊維構造体は、特に限定されないが、神経細胞が繊維構造体に侵入し、足場(繊維構造体)の底面で凝集しやすい観点から、見掛密度が0.1g/cm3以上1.2g/cm3以下であることが好ましく、0.2g/cm3以上1.0g/cm3以下であることがより好ましく、0.3g/cm3以上0.8g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0033】
前記繊維構造体は、特に限定されないが、例えば、ハンドリング性及び神経細胞の侵入性を高める観点から、厚みが0.1mm以上2mm以下であることが好ましく、0.2mm以上1.7mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上1.4mm以下であることがさらに好ましく、0.4mm以上1.1mm以下であることが特に好ましい。
【0034】
前記足場は、特に限定されないが、夾雑物の発生を抑制し、製品汚染を防ぐ観点から、ゼラチンなどの天然高分子化合物を含む紡糸液をノズル吐出口から空気中に押し出し、前記ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、得られた長繊維を集積させて不織布にすることで作製することが好ましい。紡糸後に繊維を集積(堆積)させる時に繊維同士が、水分を含んだ状態で積層されるため、繊維同士が溶着したり互いに絡んで一体化される。
【0035】
天然高分子化合物がゼラチンである場合、紡糸液は、ゼラチン単独、或いは、必要に応じてゼラチンと上述した他の成分を溶媒に溶解することで得ることができる。溶媒としては、例えば、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセリン等のアルコール類、あるいはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
前記ゼラチンの原材料となるコラーゲンが由来する動物の種類や部位は特に限定されない。コラーゲンは、例えば脊髄動物由来でもよく、魚由来でもよい。また、真皮、靭帯、腱、骨、軟骨等の様々な器官や組織由来のコラーゲンを適宜用いることができる。また、コラーゲンからゼラチンを調製する方法も特に限定されず、例えば酸処理、アルカリ処理、及び酵素処理等が挙げられる。前記ゼラチンの分子量も特に限定されず、様々な分子量のものを適宜選択して用いることができる。また、ゼラチンは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記ゼラチンは、特に限定されないが、適度な柔軟性及び硬さを有し、足場のハンドリング性を高める観点から、ゼリー強度が100g以上400g以下であることが好ましく、より好ましくは150g以上360g以下である。本発明において、ゼリー強度は、JIS K 6503に準じて測定する。前記ゼラチンは、市販品であってもよい。
【0038】
図22は、ゼラチン不織布を製造するのに用いる1例の製造装置の模式的説明図である。製造装置10において、加温槽1に入れたゼラチンを含む紡糸液2をノズル吐出口3から空気中に押し出す。加温槽1にはコンプレッサー4により、所定の圧力をかけておく。12は保温容器である。
また、ノズル吐出口3の後方に位置し、ノズル吐出口3とは非接触状態の流体噴射口5から前方に向けて圧力流体7を噴射させる。流体噴射口5にはコンプレッサー6から圧力流体(例えば圧空)が供給される。前記ノズルの吐出圧は、特に限定されないが、例えば0.1MPa以上1MPa以下であってもよい。
押し出された紡糸液は圧力流体7に随伴されてゼラチン繊維8となり、巻き取りロール11上にゼラチン不織布9となって堆積される。なお、巻き取りロールに変えてネット等の他の捕集手段を用いてもよい。繊維を堆積させる際の捕集距離を変えることで、容易に不織布密度を変えることができる。
【0039】
前記紡糸液は、ゼラチンを水に溶解したゼラチン水溶液を用いることができる。紡糸液の温度は20℃以上90℃以下であることが好ましく、40℃以上90℃以下であることがより好ましい。前記の範囲であればゼラチンは安定したゾル状態を維持できる。また、ゼラチン水溶液のゼラチン濃度は、30質量%以上55質量%以下であることが好ましく、より好ましくは35質量%以上50質量%以下である。前記の濃度であれば安定したゾル状態を維持できる。
【0040】
前記圧力流体の温度は、20℃以上120℃以下であることが好ましく、80℃以上120℃以下であることがより好ましい。圧力流体の流速及び周囲雰囲気の温度にもよるが、前記の温度範囲であれば安定した紡糸ができる。圧力流体は空気を使用することが好ましく、圧力は0.1MPa以上1MPa以下であることが好ましい。前記の範囲であれば、ノズル吐出口から空気中に押し出された紡糸液を吹き飛ばして繊維化できる。
【0041】
ノズル径(内径)等適宜を調整することで、所望の平均繊維径を有するゼラチン不織布を得ることができる。
【0042】
前記ゼラチン不織布は、架橋することが好ましい。これにより形態安定性及び耐水性を高めることができる。架橋は、架橋剤等の化合物を用いた化学架橋であってもよいが、生体安全性の観点から、生体安全性を有する架橋剤を用いる架橋、架橋剤を用いない架橋であることが好ましい。架橋剤を用いない架橋としては、例えば、熱架橋、電子線架橋、γ線等の放射線架橋、紫外線架橋等が挙げられる。簡便に所望の架橋効果を得やすい観点から、熱架橋であることが好ましく、熱脱水架橋であることがより好ましい。熱脱水架橋は、例えば、100℃以上160℃以下で、24時間以上96時間以下行ってもよい。また、熱脱水架橋は、例えば、1kPa以下の真空下で行ってもよい。
【0043】
本発明の1以上の実施形態において、培養容器は、通常細胞培養に用いるものであればよく、特に限定されない。例えば、ディッシュ、プレート、フラスコ、ガラスボトムディッシュ、MEA等を適宜用いることができる。
【0044】
本発明の1以上の実施形態において、繊維構造体で構成されている足場の底面を培養容器の内底面に固定する方法として、例えば、接着、治具のよる固定、培養容器への足場の埋め込み等が挙げられる。接着は、表面張力によるものであってもよく、接着剤を用いるものであってもよい。培養容器の内底面は、繊維構造体の底面と部分的に接着していることが好ましい。これにより、神経細胞集団から神経突起が伸展しやすくなる。
【0045】
表面張力による接着は、繊維構造体がゼラチン等の水溶性高分子を主成分とする不織布の場合は、好適に用いることができる。例えば、表面張力による接着は、繊維構造体を濡らした後、培養容器の内底面に接するように設置後、繊維構造体と培養容器内部の水分を除去することで行うことができる。或いは、表面張力による接着は、繊維構造体を濡らし、余分の水を除去した後、乾燥状態の培養容器の内底面に接するように設置することで行ってもよい。このような表面張力による接着により、培養容器の内底面は、繊維構造体の底面と部分的に接着していることになり、神経細胞集団から神経突起が伸展しやすくなる。
【0046】
本発明の1以上の実施形態において、神経細胞の種類は、特に限定されず、例えば、ドーパミン作動性神経細胞、グルタミン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞、ノルアドレナリン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、ヒスタミン作動性神経細胞、介在神経細胞、皮質ニューロン、海馬ニューロン、偏桃体ニューロン等の投射ニューロン、感覚神経細胞、運動神経細胞、自律神経細胞等が挙げられる。これらの神経細胞は、1種を単独で用いてもよく、目的等に応じて2種以上を併用してもよい。またこれらの神経細胞は、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、マイクログリアなどのグリア細胞のうち1種以上の細胞と併用してもよい。
【0047】
本発明の1以上の実施形態において、神経細胞として、正常神経細胞を用いてもよく、病態神経細胞を用いてもよい。病態神経細胞は、特に限定されないが、例えば、パーキンソン病ドーパミン神経細胞、APOE4/4対立遺伝子変異GABA作動性神経細胞、APOE2/2対立遺伝子変異GABA作動性神経細胞、APOE2/3対立遺伝子変異GABA作動性神経細胞、筋委縮性側索硬化症(ALS)運動神経細胞、家族性アルツハイマー病アミロイド前駆体タンパク変異GABA作動性神経細胞、認知症GABA作動性神経細胞、トラベ症候群GABA作動性神経細胞、てんかんGABA作動性神経細胞等が挙げられる。また、アルツハイマー病ミクログリア等の病態グリア細胞と併用してよい。病態神経細胞を用いた場合、該神経細胞ネットワーク作製キットは、病態神経細胞の性質を評価する評価キットして用いることができる。
【0048】
本発明の1以上の実施形態において、神経細胞の由来は特に限定されず、各種動物由来の神経細胞を用いることができる。動物としては、ヒトでもよく、ヒト以外の動物でもよい。ヒト以外の動物としては、例えば、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター等の齧歯類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の有蹄類等が挙げられる。また、本発明の1以上の実施形態において、細胞は、個々の細胞、細胞株、初代培養等培養で得られる細胞、幹細胞等から得られる細胞、前駆細胞から得られる細胞、ダイレクトリプログラミングから得られる細胞等を含む。
【0049】
幹細胞は、様々な特殊化した細胞型へ分化する可能性がある細胞である。幹細胞としては、特に限定されず、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性癌腫細胞(EC)、胚性生殖幹細胞(EG)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞、胚盤胞由来幹細胞、生殖隆起由来幹細胞、奇形腫由来幹細胞、オンコスタチン非依存性幹細胞(OISC)、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、羊水由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、骨膜由来間葉系幹細胞等が挙げられる。
【0050】
前駆細胞は、前記幹細胞から発生し生体を構成する最終分化細胞へ分化することができる細胞である。
【0051】
前記神経細胞の懸濁液を足場の上部に留まるように滴下することで足場に神経細胞を播種する。これにより、神経細胞が効果的に足場を構成する繊維構造体に侵入し、繊維構造体に固定されながら、足場の底面に凝集する。
【0052】
神経細胞の懸濁液は、神経細胞を液体培地中に懸濁したものを用いることができる。足場の単位表面積当たりの細胞懸濁液の液量(滴下量)は、足場の厚みや目付、細胞懸濁液の濃度などにより適宜決めることができ、特に限定されないが、0.1μL/mm2以上0.6μL/mm2以下であることが好ましく、より好ましくは0.2μL/mm2以上0.5μL/mm2以下であり、さらに好ましくは0.3μL/mm2以上0.4μL/mm2以下である。上述した範囲内であると、足場内に均一に細胞得懸濁液が行き届きやすく、かつ、足場内に細胞懸濁液を保持しやすくなる。
【0053】
足場の単位表面積当たりの神経細胞の播種量は、特に限定されず、神経細胞の種類、足場の面積、厚み及び密度等に基づいて適宜決めることができるが、例えば、均一に神経細胞ネットワークを構築する観点から、200細胞/mm2以上20000細胞/mm2以下であることが好ましく、2000細胞/mm2以上15000細胞/mm2以下であることがより好ましく、4000細胞/mm2以上12000細胞/mm2以下であることがさらに好ましい。
【0054】
神経細胞の培養は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。本発明の1以上の実施形態において、例えば、神経細胞集団の足場への接着性を向上させるため、ラミニン、コラーゲン、ポリ-L-リジン、ポリーD―リジン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、およびこれらの混合物を含む基質溶液液で足場をコーティングした後、足場上に神経細胞を播種し、所定時間例えば3~4時間静置して神経細胞を足場の底面に凝集させるための前培養を行った後に、液体培地を添加して細胞培養を行うことができる。これにより、神経細胞が足場の底面で凝集し、培養容器と足場の界面に形成された複数の神経細胞集団から神経突起が伸展し、異なる神経細胞集団を連結することで、神経細胞ネットワークが形成される。
【0055】
培養は、例えば、27℃以上40℃以下で行ってもよく、31℃以上37℃以下であってもよい。二酸化炭素は、2%以上10%以下の範囲であってもよい。
【0056】
培養時間は、神経細胞ネットワークが形成されるまで行えばよく、特に限定されず、神経細胞の種類、由来及び細胞数、機能的成熟のしやすさ等に応じて適宜決めればよいが、例えば、4日以上90日以下継続して培養してもよく、7日以上60日以下継続して行ってもよく、10日以上30日以下継続して行ってもよい。培地は、2~4日毎に交換してもよい。
【0057】
本発明の1以上の実施形態の神経細胞ネットワークは、例えば、神経細胞ネットワークの構造および神経細胞ネットワークにおけるシグナル伝達の評価に用いることができる。具体的には、神経細胞ネットワークの構造は、免疫染色やカルシウムイメージングの観察像より神経細胞ネットワークを構成する神経突起の太さ、神経細胞集合体の大きさ、神経細胞集合体間の神経細胞ネットワークの接続の有無から評価することができる。神経細胞ネットワークにおけるシグナル伝達の評価は、1mm以上離れた箇所において、神経細胞の機能を比較することで評価できる。また、本発明の1以上の実施形態の神経細胞ネットワークは、神経細胞ネットワークに化合物を接触させた後、化合物と接触することで神経細胞の生理学的特性又は構造が変更するか否かを判断することで化合物の性質を評価するのに用いることができる。神経細胞の生理学的特性は、活動電位に基づいて評価することができる。神経細胞の活動電位の測定方法としての例としては、細胞内のカルシウムイオンのイメージング、細胞の膜電位のイメージング、MEA測定等があげられる。また、本発明の1以上の実施形態では、正常の神経細胞のネットワークと、病態の神経細胞のネットワークを用いて、正常の神経細胞と病態の神経細胞の生理学特性、薬理応答性又は構造を比較することで、病態神経の特性を評価することができる。
【0058】
本発明は、1以上の実施形態において、神経細胞ネットワークの作製キットであって、培養容器、細孔径が100μm以上800μm以下の繊維構造体で構成されている足場、及び神経細胞を含み、神経細胞ネットワークの作製時に、培養容器の内底面に足場の底面を固定し、神経細胞の懸濁液を足場の上部に留まるように滴下して足場に神経細胞を播種し、神経細胞を培養する、神経細胞ネットワークの作製キットを提供する。該神経細胞ネットワークの作製キットは、神経細胞の機能を評価する評価キットや化合物の性質を評価する評価キットとしても用いることができる。培養容器、足場、及び神経細胞としては、上述したものを適宜用いることができる。化合物の性質は、特に限定されないが、例えば、代謝、薬理作用及び毒性作用等であってもよい。化合物は、特に限定されず、任意のものを用いることができ、例えば、医薬品および候補化合物、化学物質を含む。
【実施例0059】
以下、本発明の1以上の実施形態を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0060】
繊維構造体の測定・評価方法は下記のとおりである。
<繊維径>
ゼラチン不織布の場合、膨潤状態の繊維構造体を共焦点イメージング装置(横河電機社、共焦点定量イメージサイトメーターCQ1)で観察し、任意に選択した50本の繊維について繊維径を計測し、それらの平均値を求めた。
合成高分子不織布の場合、合成繊維の繊維径は、不織布を共焦点イメージング装置で観察し、任意に選択した50本の繊維について繊維径を計測し、それらの平均値を算出することで求めた。
<繊度>
ゼラチン繊維の繊度は、水で膨潤させたゼラチンフィルムから比重を測定した後、該比重と膨潤状態の不織布の繊維直径に基づいて算出した。フィルムは、実施例と同じ濃度の溶液をフィルム状に成型し、実施例と同じ熱架橋を施すことで作製したものを用いた。また合成繊維の場合、合成繊維の公称比重と乾燥状態の合成高分子不織布の繊維直径に基づいて合成繊維の繊度を算出した。
<厚み>
合成高分子不織布の場合は乾燥状態の厚みを、ゼラチン不織布の場合は膨潤状態の厚みを、TECLOCK社製シックネスゲージで測定した。
<直径>
合成高分子不織布の場合は乾燥状態の直径を、ゼラチン不織布の場合は膨潤状態の直径をミツトヨ社製のノギスで計測した。
<重量>
合成高分子不織布の重量は、乾燥状態にて精密天秤で測定した。ゼラチン不織布の重量はゼラチン不織布を膨潤後、足場内の余分な水分をキムワイプで吸収し、精密天秤で測定した。
<見掛密度>
不織布の見掛密度は、不織布の厚み、直径及び重量に基づいて算出した。
<細孔径>
合成高分子不織布及びゼラチン不織布の細孔径は、Wrotnowskiの仮定に基づいて、下記計算式1にて算出した。ゼラチンスポンジ及びコラーゲンスポンジの細孔径は膨潤後のスポンジを共焦点イメージング装置で明視野観察し、任意に選択した50箇所の細孔の直径を測定し、下記計算式1で平均値を求めた。
【数2】
【0061】
(実施例1)
<足場の作製>
ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度289g、原料:酸処理豚皮)を使用し、ゼラチン:水=3:5の質量比(ゼラチン濃度37.5質量%)とし、温度60℃で溶解した。このゼラチン水溶液を紡糸液とし、図22に示す製造装置を使用して、巻き取りロール上にゼラチン繊維を集積して不織布を製造した。紡糸液の温度は60℃、ノズル直径(内径)250μm、吐出圧0.3MPa、ノズル高さ5mm、エアー圧力0.275MPa、エアー温度100℃、流体噴射口とノズル吐出口との距離は5mm、捕集距離50cmとした。ゼラチン不織布は室温で一晩風乾し、次いで加熱脱水架橋させた。架橋条件は温度140℃、48時間とした。
得られたゼラチン不織布を膨潤後に直径5mmになるよう打ち抜き、足場として用いた。
<神経細胞ネットワークの作製>
(1)足場(ゼラチン不織布)をEOG滅菌後に、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(-)(1x)、ナカライテスク社)中に10分間静置して膨潤させた。
(2)膨潤後のゼラチン不織布から過剰の液体をピペットで除去した後、端部をピンセットで把持してIWAKI浮遊培養用マイクロプレート(表面処理なし)6Wellの一つのウェル中に設置し、乾燥状態のウェルの内底面にゼラチン不織布の底面を密着させた。これにより、ウェルの内底面は、ゼラチン不織布のゼラチン繊維と部分的に接着することになる。
(3)維持培地として、BrainPhys Neuronal Medium (STEMCELL Technologies社)に対して、20μl/mlのNeuroCultTM SM1 Neuronal Supplement (STEMCELL Technologies社)、
10μl/mlのN2 Supplement-A (STEMCELL Technologies社)、iCell Nervous System Supplement (FUJIFILM Cellular Dynamics Inc.社)、及び1μg/mlのラミニン溶液(Sigma-aldrich社)となるように加えることで調整した。
(4)維持培地に対し、50μg/mlのラミニン溶液(Sigma-aldrich社)を追加で添加し、播種用培地を調整した。
(5)上記播種用培地をゼラチン不織布に対して、20μl滴下し、37度で30分間静置してラミニンコーティングを行い、その後播種用培地をピペットで吸引して除去した。
(6)iCell(登録商標)DopaNeurons(富士フイルム和光純薬)を播種用培地中1×107cells/mLになるように懸濁して得られた細胞懸濁液をゼラチン不織布の表面上に20μL滴下した。足場単位面積当たりの細胞の播種量は7077細胞/mm2である。温度37℃、5%CO2のインキュベーター中で4時間静置培養して細胞をゼラチン不織布の底面(ウェルとゼラチン不織布の界面)に凝集させた。
(7)上記の維持培地2mLを加え、温度37℃、5%CO2のインキュベーター中で14日以上培養し、神経細胞ネットワークを作製した。培地の交換は3,4日に一回行った。
【0062】
(実施例2)
<足場の作製>
ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度247g、原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン:水=3:5.5の質量比(ゼラチン濃度35.3質量%)とし、温度60℃で溶解した。ノズル直径(内径)150μm、ノズル吐出圧0.275MPa、ノズル高さ5mm、エアー圧力0.375MPa、エアー温度100℃、流体噴射口とノズル吐出口との距離は5mm、捕集距離50cmとした以外は、実施例1と同様にしてゼラチン不織布を作製した。
得られたゼラチン不織布を膨潤後に直径5mmになるよう打ち抜き、足場を作製した。
<神経細胞ネットワークの作製>
上記で得られた足場(ゼラチン不織布)を用いた以外は、IWAKI浮遊培養用マイクロプレート(表面処理なし)6Wellの一つのウェルに、高真空処理用グリース(ダウコーニング社製)円形に塗り、そこにゼラチン不織布の底面を接着することで固定し、iCell(登録商標)DopaNeurons(富士フイルム和光純薬)を播種用培地中7.75×106cells/mLになるように懸濁して得られた細胞懸濁液をゼラチン不織布の表面上に14μL滴下し、足場単位面積当たりの細胞の播種量は5522細胞/mm2とした以外は、実施例1と同様にして神経細胞ネットワークを作製した。
【0063】
(実施例3)
<繊維構造体の作製>
ポリエチレンテレフタレート(以下において、単にPETとも記す)製の原綿(繊度:30デニール(30d))のウェブをニードルパンチ法で不織布とし、さらに160度、5分、20kNでプレスした。得られたPET不織布を直径5mmの円柱に打ち抜き、足場として用いた。
<神経細胞ネットワークの作製>
上記で得られた足場(PET不織布)を用いた以外は、実施例2と同様にして神経細胞ネットワークを作製した。
【0064】
(比較例1)
ウェルの内底面に足場の底面を固定しなかった以外は、実施例1と同様にして細胞播種及び細胞培養を行った。
【0065】
(比較例2)
ポリプロピレンの原綿(0.035d)のメルトブロー不織布を作製して用いた以外は、実施例3と同様にして細胞播種及び細胞培養を行った。
【0066】
(比較例3)
足場として膨潤状態のゼラチンスポンジ(ゼルフォーム、ファイザー社製)を用いた以外は、実施例2と同様にして細胞播種及び細胞培養を行った。
【0067】
(比較例4)
足場として膨潤状態のコラーゲンスポンジ(マイティー、高研社製)を用いた以外は、実施例2と同様にして細胞播種及び細胞培養を行った。
【0068】
実施例及び比較例で用いた各足場(繊維構造体)の各種測定・評価結果を下記表1に示した。図1に実施例1で用いた足場の膨潤後の明視野での共焦点イメージング観察像を示した。図2に実施例3で用いた足場の電子顕微鏡写真を示した。
【0069】
【表1】
【0070】
(1)神経細胞ネットワークの形成の確認
実施例1~3及び比較例1~4において、神経細胞を播種し、14日間以上培養した後の足場と培養容器の界面を共焦点イメージング装置(横河電機社、共焦点定量イメージサイトメーターCQ1)で観察した。その結果を図3図4図7図10図13図14、及び図17に示した。
【0071】
図3は実施例1において、培養16日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点顕微鏡で観察した明視野観察像であり、図7図10及び図14は、それぞれ、実施例2~3及び比較例3において、培養20日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点顕微鏡で観察した明視野観察像であり、各図で、(a)は4倍での観察像であり、(b)は20倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図3図7図10及び図14から分かるように、実施例1~3及び比較例3では、足場と培養容器の界面、すなわち足場の底面に複数の神経細胞集団が形成され、これらの神経細胞集団は足場に固定されている。また、神経細胞集団から神経突起が伸展しており、複数の神経細胞集団は神経突起にて連結されている。
実施例1において、隣接する神経細胞集団の距離は、約1.2mm以上約2.8mm以下の範囲であり、実施例2において、隣接する神経細胞集団の距離は、約1.1mm以上約4.0mm以下の範囲であり、実施例3において、隣接する神経細胞集団の距離は、約1.2mm以上4.4以下の範囲であった。
【0072】
図4は、比較例1において、培養14日目における共焦点顕微鏡で観察した4倍での明視野観察像である。
図4から分かるように、比較例1では、足場(ゼラチン不織布)が培養容器の内底面に固定されていないため、培養中に足場が浮遊し、神経細胞が足場内部に固定されず、足場の外部で神経細胞が凝集し、神経突起の伸展が見られなかった、
【0073】
図13及び図17は、それぞれ、比較例2及び4において、培養20日目における繊維構造体と培養容器の界面を共焦点顕微鏡で観察した明視野観察像であり、(a)は4倍での観察像であり、(b)は20倍での観察像であり、(c)は40倍での観察像である。
図13及び図17から分かるように、細孔径が小さい繊維構造体を足場として用いた比較例2、並びにコラーゲンスポンジを足場として用いた比較例4では、培養容器と足場の界面に存在する神経細胞集団が確認できなかった。
【0074】
(2)神経細胞ネットワークの機能性確認
実施例1~3及び比較例3において、神経細胞を16日間以上培養し、カルシウム指示薬(EarlyTox Cardiotoxicity Kit,Molecular Device社)を培地に対して25/100(体積比)添加し、神経細胞ネットワーク内のカルシウムイオンを蛍光染色した。
横河電機社製の共焦点定量イメージサイトメーターCQ1を用い、実施例1ではフレームレート3fpsで3分間、実施例2、3、及び比較例3においては、フレームレート5fpsで4分間、4倍で蛍光タイムラプス像を撮影した。得られた画像から、足場内部の神経細胞ネットワークの構造を評価した。
また、横河電機社製の画像解析装置CellPathfinderを用い、蛍光タイムラプス画像を100μm角で格子状に区切り、任意の10箇所(A~J)のそれぞれの間隔が少なくとも1mm以上離れた神経細胞集団が存在する箇所を選定し、蛍光強度を時間に対してプロットすることで、神経細胞ネットワーク内のカルシウムイオンシグナル波形を得た。
また、得られたカルシウムイオンシグナル波形をMicrosoft Excel内でフーリエ変換することで周波数解析を行った。それぞれが少なくとも1mm以上離れた任意の10箇所の神経細胞集団におけるカルシウムシグナル波形及び周波数解析結果において、波形の形状及びピーク位置が重なるか否かで、神経細胞ネットワーク内で発火が同期しているか否かを評価し、神経細胞の機能的な接続を評価した。
任意の10箇所において、Aから各地点までの距離は下記表2に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
図5は実施例1において16日間培養し、図8、11、15は、それぞれ実施例2、実施例3、比較例3において20日間におけるカルシウムイメージング結果であり、各図で(a)はカルシウムイメージングの4倍の染色像であり、(b)はそれぞれが少なくとも1mm以上離れた任意の10箇所(A~J)の神経細胞集団箇所におけるカルシウムイメージングの蛍光強度を時間に対してプロットしたカルシウムシグナル波形であり、(c)はその周波数解析結果である。
【0077】
図5(a)、図8(a)、図11(a)、図15(a)のカルシウムイメージングの染色像から分かるように、実施例1(図5a)及び実施例2(図8a)では、足場底面の90%以上の領域で、複数の神経細胞の集団とこれらの集団の間を神経突起で連結した均一な神経細胞ネットワークが得られた。実施例3(図11a)では、神経細胞集団及びこれらの神経細胞集団の間を神経突起で連結した神経細胞ネットワークの足場底面での分布が、足場底面の約70%の領域で見られた。比較例3(図15a)では、神経細胞集団及びこれらの神経細胞集団の間を神経突起で連結した神経細胞ネットワークの足場底面での分布が、足場底面の約70%の領域で見られた。図11(a)及び図15(a)において、破線は、足場の端部を示している。
【0078】
図5(b)、図8(b)、図11(b)、及び図15(b)の10箇所のカルシウムシグナル波形のデータから分かるように、実施例1(図5b)、実施例2(図8b)、及び実施例3(図11b)では、10箇所すべてにおいてピークを有するカルシウムシグナル波形が得られ、そのカルシウムシグナル波形の形状が10箇所で類似する形状であった。
一方、比較例3(図15b)ではピークを有するカルシウムシグナル波形は10箇所中5箇所のみであり、その5箇所のカルシウムシグナル波形でも形状が一致しなかった。
【0079】
図5(c)、図8(c)、図11(c)、図15(c)の10箇所のカルシウムシグナル波形の周波数解析結果より分かるように、実施例1(図5c)実施例2(図8c)、及び実施例3(図11c)では、10箇所すべてでピークが得られ、カルシウムシグナル波形に周期的なピークがあり、またカルシウムシグナル波形の主なピークの周波数が概ね一致する。
一方、比較例3(図15c)では、10箇所中5箇所のみしかピークが得られず、また主なピークの周波数が一致しなかった。
【0080】
これらの結果より分かるように、実施例1~3では、複数の神経細胞集団は、電気的活動が同期しており、足場底面の広い範囲で神経細胞ネットワークを介して、電気的なシグナル伝達が行われており、少なくとも2箇所の離間している神経細胞の電気的な機能の接続の有無を評価するのに適している。
一方、比較例3では、複数の神経細胞集団は、電気的活動が同期しておらず、足場底面に構成された神経細胞ネットワーク内での電気的なシグナル伝達が不十分であり、少なくともの2箇所の離間した神経細胞の電気的な機能の接続の有無を評価するのに適していなかった。
【0081】
(3)神経細胞ネットワークの薬物(化合物)応答性の評価1
上記のカルシウムイオン指示薬を添加した各標本において、1mm以上距離が離れた任意の2箇所間で、薬物の添加前後の蛍光強度を時間に対してプロットしたカルシウムイオンシグナル波形及び周波数解析結果を評価した。
カルシウムイメージングの観察は、実施例1では、フレームレート3fpsで3分間、10倍で撮影し、4-アミノピリジンを添加する前と、3μMの4-アミノピリジンを添加してから10分後に蛍光タイムラプス像を撮影した。実施例2、3、及び比較例3においては、フレームレート5fpsで4分間、4倍で撮影し、4-アミノピリジンを添加する前と、10μMの4-アミノピリジンを添加してから10分後に蛍光タイムラプス像を撮影した。
【0082】
図6は実施例1において培養16日目、図9図12及び図16は、それぞれ、実施例2~3、及び比較例3において、培養20日目における、少なくとも1mm以上離れた2箇所の神経細胞集団における4-アミノピリジンに対する応答性を示す結果であり、各図において、(a)は4-アミノピリジン添加前の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(b)は(a)のグラフを周波数解析した結果であり、(c)は4-アミノピリジンを添加してから10分後の蛍光強度を時間に対してプロットしたグラフであり、(d)は(c)のグラフを周波数解析した結果である。
【0083】
図6図9、及び図12の4-アミノピリジン添加前後のカルシウムシグナル波形及び周波数解析結果より、実施例1~3(図6、9、12)では、4-アミノピリジンの添加により、任意の2箇所それぞれで同様に、カルシウムシグナル波形のピークの間隔が広がり、また周波数解析により周波数依存性が消失又は低周波側にシフトする挙動が分かる。この結果より、神経細胞に対する4-アミノピリジンの応答性の信頼性が高いこと、また、4-アミノピリジンに対する応答性において、離れた2箇所間で差異があるかを評価することが可能である。
【0084】
一方、比較例3(図16)においては、4-アミノピリジンの添加により、任意の2箇所それぞれでカルシウムシグナル波形の変化、周波数解析の結果共に異なる挙動を示すため、神経細胞に対する4-アミノピリジンの応答性評価の信頼性が低く、また離れた2箇所間における応答性を評価することに適していないことが分かる。
【0085】
(4)神経細胞ネットワーク内部のシグナル伝達の評価
ク神経細胞ネットワーク内部におけるシグナル伝達挙動を評価するため、実施例1でカルシウム指示薬を添加し、フレームレート3fpsで3分間、4倍で撮影した蛍光タイムラプス像より、任意の位置の神経細胞集団において時間に対する蛍光強度をプロットしてカルシウムシグナル波形を得て、このカルシウムシグナル波形よりピークの傾きの変化を時間に対してプロットした。得られた波形より、ピークの最大値となる順番を評価することで、神経活動の伝達順を評価した。
【0086】
図18は実施例1において、神経細胞ネットワーク内のシグナル伝達順序を示した図であり、(a)はカルシウムシグナル波形において、1回目に大きなピーク(バースト)が生じた際の解析結果、(b)は2回目に大きなピーク(バースト)が生じた際の解析結果である。図18において、矢印はシグナル伝達の順番を示しており、実線矢印が1番目、破線矢印は2番目、点線矢印は3番目を意味する。
図18の(a)及び(b)から分かるように、神経細胞ネットワーク内において、神経細胞集団の直径が比較的に大きい足場の中心部から神経のシグナル伝達が開始し、神経細胞集団の直径が比較的に小さい足場の端部に神経のシグナル伝達が伝わっていく。
【0087】
(5)神経細胞ネットワークの薬物(化合物)応答性の評価2
実施例1でカルシウムイオン指示薬を添加した標本において、1mm以上距離が離れた任意の2箇所間で、薬物の添加前後の蛍光強度を時間に対してプロットしたカルシウムイオンシグナル波形、周波数解析結果及びカルシウムイオンシグナル波形における3分間におけるピーク数(発火数)を評価した。
フレームレート3fpsで3分間、10倍で、ドーパミンの添加前と、ドーパミンを添加してから10分後に蛍光タイムラプス像を撮影し、横河電機社製画像解析装置CellPathfinderを用い、1mm以上離れた任意の2箇所の神経細胞集団において、蛍光強度を時間に対してプロットすることでカルシウムイオンシグナル波形を得た。またカルシウムイオン波形をMicrosoft Excel上でフーリエ変換することで周波数解析、カルシウムイオン波形からピーク検出することで3分間におけるピーク数(発火数)を評価した。
【0088】
図19は実施例1の神経細胞ネットワークにおけるドーパミン300nMに対する応答性評価結果であり、(a)はドーパミンの添加前のカルシウムイオンシグナル波形、(b)はドーパミンの添加後のカルシウムイオンシグナル波形、(c)はドーパミンの添加前のカルシウムイオンシグナル波形の周波数解析結果、(d)はドーパミンの添加後のカルシウムイオンシグナル波形の周波数解析結果、(e)はドーパミンの添加前後の3分間のカルシウムイオンシグナル波形中のピーク数(発火数)である。
【0089】
図19の結果から、ドーパミン300nMを添加することで、カルシウムイオンシグナル波形、周波数解析結果が大きく変化しないものの、3分間のカルシウムイオンシグナル波形におけるピーク数(発火数)が増加していることから、ドーパミン300nMが発火頻度を増加する効果があることが分かる。
【0090】
図20は実施例1の神経細胞ネットワークにおけるドロペリドール3000nMに対する応答性評価結果であり、(a)はドロペリドール添加前のカルシウムイオンシグナル波形、(b)はドロペリドール添加後のカルシウムイオンシグナル波形、(c)はドロペリドール添加前のカルシウムイオンシグナル波形の周波数解析結果、(d)はドロペリドール添加後のカルシウムイオンシグナル波形の周波数解析結果、(e)はドロペリドールの添加前後の3分間のカルシウムイオンシグナル波形中のピーク数(発火数)である。
【0091】
図20の結果より、ドロペリドール3000nMを添加することで、カルシウムイオンシグナル波形のピークが弱くなり、ピーク間隔が減少しており、周波数解析結果が高周波数側に変化していることが確認され、ドロペリドールがカルシウムシグナルの強度、周波数依存性に作用することが分かる。
【0092】
(6)神経細胞ネットワークの異なる標本間での差異の評価
実施例により得られた神経細胞ネットワークにおいて、異なるサンプル間での神経細胞ネットワーク及び機能の差を評価し、評価系としての安定性を評価するため、異なるウェルで得られた神経細胞ネットワーク内部の神経細胞集団の直径分布、カルシウムイオンシグナル波形、及びカルシウムイオンシグナル波形の周波数解析を行った。
評価には実施例1において、異なる2ウェルで得られた神経細胞ネットワークを用いた。神経細胞集団の直径分布の評価には、カルシウム指示薬を添加し、フレームレート3fpsで3分間、4倍で撮影した蛍光タイムラプス像を用いて、CellPathFinder(横河電機社)を用いて解析した。カルシウムイオン波形及び周波数解析は、カルシウム指示薬を添加し、フレームレート3fpsで3分間、10倍で撮影した蛍光タイムラプス像を用い、CellPathFinder(横河電機社)を用いて、任意の神経細胞集団1箇所において、時間に対して蛍光強度をプロットしてカルシウムイオンシグナル波形を得て、Microsoft Excelで周波数解析を行った。
図21にその結果を示した。
【0093】
図21において、(a)、(b)は実施例1における異なる2ウェルの標本におけるカルシウムイメージング像、(c)は神経細胞集団の直径分布、(d)はカルシウムイオンシグナル波形、(e)は周波数解析結果である。
カルシウムイメージング像及び神経細胞集団の直径分布が同等であることから、異なる2ウェル間が同様な神経細胞ネットワーク構造を有していることがわかり、カルシウムイオンシグナル波形及び周波数解析結果の波形形状及びピーク位置が同等であることから、神経細胞ネットワーク内部の電気的な機能も、異なる2ウェル間で同等であることが分かる。
実施例1において、個々の神経細胞集団の直径は、約30μm以上約300μm以下の範囲であった。なお、実施例2及び3でも、カルシウムイメージングで個々の神経細胞集団の直径を確認したところ、実施例2では約30μm以上約200μm以下の範囲、実施例3では、約20μm以上約120μm以下の範囲であった。
【0094】
これらの結果より、実施例では神経細胞ネットワークを安定的に構築しており、神経細胞ネットワーク内部の少なくとも2箇所の離間している神経細胞集団間の機能及び医薬品、その候補化合物、及び化学物質等を含む化合物の応答性を評価することに適していることが分かる。
【符号の説明】
【0095】
1 加温槽
2 紡糸液
3 ノズル吐出口
4、6 コンプレッサー
5 流体噴射口
7 圧力流体
8 ゼラチン繊維
9 ゼラチン不織布
10 製造装置
11 巻き取りロール
12 保温容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22