(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147794
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220929BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20220929BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220929BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20220929BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
C22C28/00 A
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049198
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江口 徹
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BA20
4K018BB04
4K018CA04
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
4K018KA63
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040NN01
5E062CD04
5E062CG02
(57)【要約】
【課題】R-M系合金粉末をR-T-B系焼結磁石表面に存在させて拡散させる方法において磁気特性の低下を抑制しつつ金属溜りの発生を抑えることが可能なR-T-B系焼結磁石の製造方法の提供。
【解決手段】本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程と、R-M-Zr系合金を準備する工程と、前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、前記R-M-Zr系合金を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程と、を含み、前記R-M-Zr系合金における、Rの含有量は70mass%以上95mass%以下であり、Mの含有量は4.5mass%以上25mass%以下であり、Zrの含有量は0.5mass%以上5mass%以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含む)を準備する工程と、
R-M-Zr系合金(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、MはAl、Cu、Zn、Ga、Fe、Co、Niからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含む)を準備する工程と、
前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、前記R-M-Zr系合金を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程と、を含み、
前記R-M-Zr系合金における、Rの含有量は70mass%以上95mass%以下であり、Mの含有量は4.5mass%以上25mass%以下であり、Zrの含有量は0.5mass%以上5mass%以下である、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R-M-Zr系合金のMは、CuおよびGaの少なくとも1つを必ず含み、前記M中のCuおよびGaの合計含有割合は80%以上である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はR-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類系焼結磁石は、高い需要を示しており、その中でも、R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含む。Bは硼素である)は、最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。R-T-B系焼結磁石は、各種モータ等の小型、軽量化を通じて、省エネルギー、環境負荷低減に貢献している。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてR2T14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR2T14B化合物は、高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
高温では、R-T-B系焼結磁石の保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R-T-B系焼結磁石において、R2T14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素RL(例えば、NdやPr)の一部を重希土類元素RH(例えば、TbやDy)で置換すると、HcJが向上することが知られている。RHの置換量の増加に伴い、HcJは向上する。しかし、R2T14B化合物中のRLをRHで置換すると、R-T-B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)が低下する。また重希土類元素は資源リスクの高い原料であることからその使用量を削減または使用せずにHcJを向上させることが求められている。
【0006】
特許文献1には、R1i-M1j(R1はY及びScを含む希土類元素、M1はAl、Si、C、P、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上、15<j≦99、iは残部。) かつ金属間化合物相を70体積%以上含む合金の粉末をR-T-B系焼結磁石表面に存在させた状態で熱処理し拡散させることでHcJを向上させることが開示されている。特許文献2には、R-T-B系焼結磁石の表面に粘着剤を塗布し、Dy及びTbの少なくとも一方である重希土類元素の合金または化合物の粉末を付着させて熱処理することでHcJを向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-263179号公報
【特許文献2】国際公開第2018/030187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特許文献1に記載されているようなR-M合金粉末をR-T-B系焼結磁石表面に存在させた状態で熱処理し拡散させる方法について検討したところ、熱処理後の焼結体表面に高さ0.1~0.5mmの凸部が複数個発生する場合があることがわかった。さらに調べたところ、凸部はR-M合金が溶解して生じた液相とR-T-B系焼結磁石から生じた液相が混ざった組成であり、前記液相の混合物が凝固して盛り上がった金属溜りであることがわかった。金属溜りがあると後工程において加工精度が低下するため、金属溜りを取り除く工程が増加し生産性が低下する問題が発生する。
【0009】
そこで、本開示の実施形態は、磁気特性の低下を抑制しつつ金属溜りの発生を抑えることが可能なR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含む)を準備する工程と、R-M-Zr系合金(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、MはAl、Cu、Zn、Ga、Fe、Co、Niからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含む)を準備する工程と、前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、前記R-M-Zr系合金を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程と、を含み、前記R-M-Zr系合金における、Rの含有量は70mass%以上95mass%以下であり、Mの含有量は4.5mass%以上25mass%以下であり、Zrの含有量は0.5mass%以上5mass%以下である。
ある実施形態において、前記R-M-Zr系合金のMは、CuおよびGaの少なくとも1つを必ず含み、前記M中のCuおよびGaの合計含有割合は80%以上である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の実施形態によると、磁気特性の低下を抑制しつつ金属溜りの発生を抑えることが可能なR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
【
図2】本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法における工程の例を示すフローチャートである。
【
図3】サンプルNo.1-1の外観を示す写真である。
【
図4】サンプルNo.1-2の外観を示す写真である。
【
図5】サンプルNo.1-3の外観を示す写真である。
【
図6】サンプルNo.1-4の外観を示す写真である。
【
図7】サンプルNo.1-5の外観を示す写真である。
【
図8】サンプルNo.1-6の外観を示す写真である。
【
図9】サンプルNo.1-7の外観を示す写真である。
【
図10】サンプルNo.1-8の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本開示によるR-T-B系焼結磁石の基本構造について説明をする。R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR2T14B化合物粒子からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0014】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、
図1Bは
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。
図1Aおよび
図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、
図1Bに示されるように、2つのR
2T
14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR
2T
14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。典型的な主相結晶粒径は磁石断面の円相当径の平均値で3μm以上10μm以下である。主相12であるR
2T
14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR
2T
14B化合物の存在比率を高めることによってB
rを向上させることができる。R
2T
14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R
2T
14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。
【0015】
また、主相であるR2T14B化合物のRの一部をDy、Tb、Hoなどの重希土類元素で置換することによって飽和磁化を下げつつ、主相の異方性磁界を高められることが知られている。特に二粒子粒界相と接する主相外殻は磁化反転の起点となりやすいため、主相外殻に優先的に重希土類元素を置換できる重希土類拡散技術は、飽和磁化の低下を抑制しつつ効率的に高いHcJが得られる。
【0016】
一方、二粒子粒界相14aの磁性を制御することによっても、高いHcJが得られることが知られている。具体的には二粒子粒界相中の磁性元素(Fe、Co、Ni等)の濃度を下げることによって、二粒子粒界相を非磁性に近づけることで、主相同士の磁気的な結合を弱めて磁化反転を抑制することができる。
【0017】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法では、R-T-B系焼結磁石素材表面から粒界を通じて磁石素材内部へ、R-M-Zr系合金に含有されるRとMを拡散させている。本発明者は検討の結果、RとMを拡散させる合金粉末にさらにZrを特定範囲含有させることで、金属溜まりの発生を抑えることができることを見出した。さらに、拡散後のR-T-B系焼結磁石内部にはZrはほとんど拡散されないことがわかった。これにより、磁気特性の低下を抑制しつつ金属溜まりの発生を抑えることができる。これは、拡散させる合金粉末として、Zrを特定範囲含有させることで、ZrをR-T-B系焼結磁石内部へほとんど拡散させずに、R-M-Zr系合金の融点を高くすることが出来るからだと考えられる。これにより磁気特性の低下を抑制しつつ、拡散時にR-M-Zr系合金から生じる液相量を減らすことで金属溜まりの発生を抑えることが可能となると考えられる。
【0018】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図2に示すように、R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程S10とR-M-Zr系合金を準備する工程S20とを含む。R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程S10とR-M-Zr系合金を準備する工程S20との順序は任意である。
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図2に示すように、更に、R-T-B系焼結磁石素材表面の少なくとも一部にR-M-Zr系合金を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程S30を含む。
【0019】
なお、本開示において、拡散工程前および拡散工程中のR-T-B系焼結磁石を「R-T-B系焼結磁石素材」と称し、拡散工程後のR-T-B系焼結磁石を単に「R-T-B系焼結磁石」と称する。
【0020】
(R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程)
R-T-B系焼結磁石素材において、Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、Rの含有量は、例えば、R-T-B系焼結磁石素材全体の27mass%以上35mass%以下である。TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tは必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である。
Rが27mass%未満では焼結過程で液相が十分に生成せず、焼結体を充分に緻密化することが困難になる可能性がある。一方、Rが35mass%を超えると焼結時に粒成長が起こり、HcJが低下する可能性がある。Rは28mass%以上33mass%以下であることが好ましい。
【0021】
R-T-B系焼結磁石素材は例えば、以下の組成範囲を有する。
R:27~35mass%、
B:0.80~1.20mass%、
Ga:0~1.0mass%、
X:0~2mass%(XはCu、Nb、Alの少なくとも一種)、
T:60mass%以上を含有する。
【0022】
好ましくは、R-T-B系焼結磁石素材において、Bに対するTのmol比[T]/[B]が14.0超15.0以下である。より高いHcJを得ることができる。本開示における[T]/[B]とは、Tを構成する各元素(Fe、Co、Al、MnおよびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tは必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上)の分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの[T]と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの[B]との比である。mol比[T]/[B]が14.0を超えるという条件は、主相(R2T14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを示している。mol比[T]/[B]は14.3以上15.0以下であることがさらに好ましい。さらに高いHcJを得ることができる。Bの含有量はR-T-B系焼結体全体の0.9mass%以上1.0mass%未満が好ましい。
【0023】
R-T-B系焼結磁石素材は、Nd-Fe-B系焼結磁石に代表される一般的なR-T-B系焼結磁石の製造方法を用いて準備することができる。一例を挙げると、ストリップキャスト法等で作製された原料合金を、ジェットミルなどを用いて粒径D50が2.0μm以上3.5μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより焼結体を作製して準備することができる。粒径D50が2.0μm以上3.5μm以下に粉砕することにより、高いBrと高いHcJを得ることができる。好ましくは、粒径D50は、2.5μm以上3.3μm以下である。生産性の悪化を抑制した上で貴重なRHを削減しつつ、より高いBrと高いHcJを得ることができる。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られる粒度分布において、小径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%になる粒径である。また、粒径D50は、例えば、Sympatec社製の粒度分布計測装置「HELOS&RODOS」を用いて、分散圧:4bar、測定レンジ:R2、計測モード:HRLDの条件にて測定することができる。
【0024】
(R-M-Zr系合金を準備する工程)
前記R-M-Zr系合金において、Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含む。Rの含有量は、R-M-Zr系合金全体の70mass%以上95mass%以下である。Mは、Al、Cu、Zn、Ga、Fe、Co、Niからなる群から選択された少なくとも1つである。Mの含有量は、R-M-Zr系合金全体の4.5mass%以上25mass%以下である。Zrの含有量は、R-M-Zr系合金全体の0.5mass%以上5mass%以下である。R-M-Zr系合金の典型例は、TbNdPrCuZr合金、TbNdCePrCuZr合金、TbNdGaZr合金、TbNdPrGaCuZr合金などである。上記元素の他にMn、O、C、N等の不可避不純物等の元素を少量含有してもよい。
【0025】
Rが70mass%未満であると、HcJが低下する可能性があり、95mass%を超えるとR-M-Zr系合金の製造工程中における合金粉末が非常に活性になる。その結果、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じる可能性がある。好ましくは、Rの含有量はR-M-Zr系合金全体の80mass%以上90mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。
また、本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、重希土類元素(TbやDy等)の使用量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができる。そのため、好ましくは、重希土類元素の含有量は、R-M-Zr系合金全体の10mass%以上20mass%以下であり、さらに好ましくは、R-M-Zr系合金は、重希土類元素を含有しない。
【0026】
Mが4.5mass%未満であるとRおよびMが二粒子粒界相に導入されにくくなり、HcJが十分に向上しない可能性があり、25mass%を超えるとRの含有量が低下してHcJが十分に向上しない可能性がある。好ましくは、Mの含有量は、R-M-Zr系合金全体の7mass%以上15mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。また、MはCuおよびGaの少なくとも1つを含有した方が好ましく、CuおよびGaの両方を含有した方がさらに好ましい。前記M中のCuおよびGaの合計含有割合は80%以上が好ましい。CuおよびGaを含有することで、より高いHcJを得ることができる。
【0027】
Zrが0.5mass%未満であると、拡散後のR-T-B系焼結磁石における金属溜まりの発生を抑えることができない可能性があり、5mass%を超えると、HcJが低下する可能性がある。RとMを拡散させる合金粉末にZrを特定範囲含有させることで、磁気特性の低下を抑制しつつ金属溜りの発生を抑えることができる。好ましくは、Zrの含有量は、0.8mass%以上4mass%以下であり、さらに好ましくは、0.8mass%以上2mass%以下である。より磁気特性の低下を抑制しつつ金属溜まりの発生を抑えることができる。
【0028】
R-M-Zr系合金の作製方法は、特に限定されない。ロール急冷法によって作製してもよいし、鋳造法で作製してもよい。また、これらの合金を粉砕して合金粉末にしてもよい。遠心アトマイズ法、回転電極法、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法などの公知のアトマイズ法で作製してもよい。
【0029】
(拡散工程)
前述のように準備したR-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、準備したR-M-Zr系合金系合金を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程を行う。これにより、R-M-Zr系合金からRおよびMを含む液相が生成し、その液相がR-T-B系焼結磁石素材中の粒界を経由して焼結素材表面から内部に拡散導入される。拡散工程におけるR-T-B系焼結磁石素材へのR-M-Zr系合金の付着量は1mass%以上5mass%以下が好ましく、さらに好ましくは、R-T-B系焼結磁石素材へのR-M-Zr系合金の付着量は1.5mass%以上3mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。
【0030】
拡散工程における加熱する温度が700℃未満であると、RおよびMを含む液相量が少なすぎて高いHcJを得ることができない可能性がある。一方、1100℃を超えるとHcJが大幅に低下する可能性がある。好ましくは、拡散工程における加熱する温度は800℃以上1000℃以下である。より高いHcJを得ることができる。また、好ましくは、拡散工程(700℃以上1100℃以下)が実施されたR-T-B系焼結磁石に対し、拡散工程を実施した温度から15℃/分以上の冷却速度で300℃まで冷却した方が好ましい。より高いHcJを得ることができる。
【0031】
拡散工程は、R-T-B系焼結磁石素材表面に、任意形状のR-M-Zr系合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R-T-B系焼結磁石素材表面をR-M-Zr系合金の粉末層で覆い、拡散工程を行うことができる。例えば、塗布対象の表面に粘着剤を塗布する塗布工程と、粘着剤を塗布した領域にR-M-Zr系合金を付着させる工程を行ってもよい。粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、PVP(ポリビニルピロリドン)などが挙げられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR-T-B系焼結磁石素材を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60~200℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。また、例えばR-M-Zr系合金を分散媒中に分散させたスラリーをR-T-B系焼結磁石素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させR-M-Zr系合金とR-T-B系焼結磁石素材とを付着させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒドおよびケトンを例示できる。
【0032】
(熱処理を実施する工程)
好ましくは、
図2に示すように、拡散工程が実施されたR-T-B系焼結磁石に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、400℃以上750℃以下で、かつ、前記拡散工程で実施した温度よりも低い温度で熱処理S40を行う。熱処理を行うことにより、より高いH
cJを得ることができる。
【実施例0033】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0034】
実験例1
[R-T―B系焼結磁石素材を準備する工程]
表1のNo.1に示すR-T-B系焼結磁石素材の組成になるように各元素を秤量し、ストリップキャスト法により原料合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、前記粗粉砕粉をジェットミルにより微粉砕を行った。微粉砕により粒径D50:4.2μmの微粉末を得た。得られた微粉砕粉を磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中で4時間焼結(焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)した後、急冷しR-T-B系焼結磁石素材を得た。得られたR-T-B系焼結磁石素材の密度は7.5Mg/m3以上であった。
得られたR-T-B系焼結磁石素材の成分を求めるために、Nd、Pr、Dy、B、Co、Al、Cu、Ga、Tbの含有量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により測定した。分析した結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
[R-M-Zr系合金を準備する工程]
表2のNo.1-A~1-Gに示す合金の組成になるように、各元素を秤量し、それらの原料を溶解して、単ロール超急冷法によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金(R-M-Zr系合金および比較例の合金)の組成を表2に示す。なお、表2における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を使用して測定した。
【0037】
【0038】
[拡散工程]
表1のNo.1のR-T-B系焼結磁石素材を切断、切削加工し、45mm×52mm×4mmの直方体にした。加工後のR-T-B系磁石素材にディッピング法により粘着剤としてPVAをR-T-B系磁石素材の全面に塗布した。次に表3に示す条件で粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材の全面に合金を付着させた。なお、合金付着量は、乳鉢を用いて合金をアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き45~1000μmの数種類の篩を通過させ、粒度の異なる合金を用いることにより調整した。そして、真空熱処理炉を用いて、100Paに制御した減圧アルゴン雰囲気中で、表3示す条件で合金およびR-T-B系焼結磁石素材を加熱した後、冷却した。
【0039】
[熱処理工程]
前記拡散工程で加熱したR-T-B系焼結磁石素材に対し、真空熱処理炉を用いて100Paに制御した減圧アルゴン中にて500℃の加熱する熱処理を行った。なお、拡散工程におけるR-M-Zr系合金およびR-T-B系焼結磁石素材の加熱温度、ならびに、拡散工程後の熱処理を実施する工程におけるR-T-B系焼結磁石の加熱温度は、それぞれ熱電対を用いて測定した。
【0040】
[サンプル評価]
熱処理後の各サンプルに対し表面研削盤を用いて、全面を切削加工し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの直方体形状のサンプル(R-T-B系焼結磁石)を得た。得られたサンプルを、B-Hトレーサによって残留磁束密度B
rおよび保磁力H
cJを測定した。結果を表3に示す。また、拡散工程後の各サンプルNoの外観を
図3~
図10に示す。
図3はNo.1-1の外観を示す写真であり、
図4はNo.1-2の外観を示す写真であり、
図5はNo.1-3の外観を示す写真であり、
図6はNo.1-4の外観を示す写真であり、
図7はNo.1-5の外観を示す写真であり、
図8はNo.1-6の外観を示す写真であり、
図9はNo.1-7の外観を示す写真であり、
図10はNo.1-8の外観を示す写真である。
No.1-1~1-8におけるR-T-B系焼結磁石表面上に発生した金属溜まりの個数を評価した。なお、金属溜まりは約0.5mm以上の凸部とした。比較例であるNo.1-1は金属溜まりが9個発生した。一方、本発明例であるNo.1-2~1-4はB
rが1.450T以上かつH
cJが2126kA/m以上の高い磁気特性が得られており、さらに金属溜まりは発生しなかった。また、比較例であるNo.1-5は高いB
rおよび高いH
cJが得られているが、金属溜まりが30個以上発生していた。また、比較例であるNo.1-6は金属溜まりは発生しなかったが、Brが低下した。また、比較例であるNo.1-7および1-8は高いB
rおよび高いH
cJが得られているが、金属溜まりがそれぞれ7個、2個発生した。
【0041】