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特開2022-147809ベーカリー食品用生地及びベーカリー食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147809
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用生地及びベーカリー食品
(51)【国際特許分類】
   A21D 10/00 20060101AFI20220929BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20220929BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220929BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D2/26
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049220
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB21
4B032DK18
4B032DK21
4B032DP08
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】
小麦粉及び卵を配合せずに、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感の少ないベーカリー食品を提供することである。
【解決手段】
乳蛋白質を50~80質量%、油脂を5~30質量%含有し、前記乳蛋白質中のカゼインとホエイプロテインの質量比が20:80~80:20(カゼイン:ホエイプロテイン)であるベーカリー食品用生地。
前記ベーカリー食品用生地を焼成したベーカリー食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳蛋白質を50~80質量%、油脂を5~30質量%含有し、前記乳蛋白質中のカゼインとホエイプロテインの質量比が20:80~80:20(カゼイン:ホエイプロテイン)であるベーカリー食品用生地。
【請求項2】
卵類及び小麦粉を含有しない請求項1に記載のベーカリー食品用生地。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のベーカリー食品用生地を焼成したベーカリー食品。
【請求項4】
前記ベーカリー食品が、焼き菓子、クルトン又はパフである請求項3に記載のベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用生地及びベーカリー食品に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
焼き菓子等のベーカリー食品は、手軽に食することができると共に、美味しさも兼ね備えた食品であり、一般消費者の生活に欠かせない製品となっている。一方で、近年の健康指向の高まりを受けて、ベーカリー食品においても、健康志向の製品が販売されている。健康志向のベーカリー食品としては、低糖質の製品が販売されている。低糖質のベーカリー食品としては、例えば、特許文献1~4のベーカリー食品が提案されている。しかしながら、特許文献1~4のベーカリー食品は、いずれも小麦粉の一部を他の原料で置き換えるものであり、さらに小麦粉の配合を減らして低糖質化した製品の開発も望まれている。
【0003】
また、ベーカリー食品は、美味しさの要素の1つに食感が挙げられる。ベーカリー食品は、様々な食感の製品が存在するが、中でもクリスピーな食感のベーカリー食品は、人気のある製品である。しかしながら、小麦粉が配合されたベーカリー食品は、吸湿や水分の高い製品と組み合わせた場合の水分移行により、食感が低下するという問題があった。クリスピーな食感で、小麦粉が配合されていないベーカリー食品としては、大豆蛋白質を配合したパフが挙げられる。しかしながら、大豆蛋白質を配合したパフは、特別な製造設備が必要であり、設備投資が必要になるという問題があった。
また、ベーカリー食品が小麦粉以外の原料を主成分とした場合、ベーカリー食品は歯への付着感やざらつき感等の好ましくない食感を伴うことがある。そのため、小麦粉以外の原料を主成分としたベーカリー食品において、付着感及びざらつき感を少なくすることも求められている。
【0004】
さらに、近年は、食物アレルギーの患者が増加しており、ベーカリー食品においても、通常ベーカリー食品に配合されている小麦粉や卵を配合しない製品の開発が望まれている。
【0005】
以上のような背景から、小麦粉及び卵を配合せずに、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感の少ないベーカリー食品の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-80669号公報
【特許文献2】特開2020-103200号公報
【特許文献3】特開2020-25479号公報
【特許文献4】特開2020-14434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、小麦粉及び卵を配合せずに、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感の少ないベーカリー食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、ベーカリー食品用生地に、カゼインとホエイプロテインを特定比率で配合することにより、本課題が解決できることが見いだされた。これにより、本発明が完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、乳蛋白質を50~80質量%、油脂を5~30質量%含有し、前記乳蛋白質中のカゼインとホエイプロテインの質量比が20:80~80:20(カゼイン:ホエイプロテイン)であるベーカリー食品用生地である。
本発明の第2の発明は、卵類及び小麦粉を含有しない第1の発明に記載のベーカリー食品用生地である。
本発明の第3の発明は、第1の発明又は第2の発明に記載のベーカリー食品用生地を焼成したベーカリー食品である。
本発明の第4の発明は、前記ベーカリー食品が、焼き菓子、クルトン又はパフである第3の発明に記載のベーカリー食品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、小麦粉及び卵を配合せずに、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感の少ないベーカリー食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、乳蛋白質を50~80質量%、油脂を5~30質量%含有し、前記乳蛋白質中のカゼインとホエイプロテインの質量比が20:80~80:20(カゼイン:ホエイプロテイン)である。
【0012】
本発明でベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品の製造に使用される原料を混合することで得られる焼成前の生地のことである。
【0013】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、乳蛋白質を50~80質量%含有し、好ましくは46~76質量%含有し、より好ましくは52~66質量%含有し、さらに好ましくは56~60質量%含有する。なお、本発明で乳蛋白質は、牛乳等の乳製品から得られる蛋白質のことであり、具体的には、カゼイン、ホエイプロテインである。また、本発明で乳蛋白質は、乳蛋白質そのものであり、例えば、配合される牛乳、チーズ等の乳製品等に含まれる乳蛋白質は含めない。
【0014】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、乳蛋白質中のカゼインとホエイプロテインの質量比が20:80~80:20(カゼイン:ホエイプロテイン)であり、好ましくは30:70~70:30であり、より好ましくは40:60~60:40である。
【0015】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、油脂を5~30質量%含有し、好ましくは8~25質量%含有し、より好ましくは13~21質量%含有し、さらに好ましくは15~20質量%含有する。なお、本発明で油脂は、例えば、配合されるマーガリン等の油脂加工食品、粉末油脂等に含まれる油脂を含める。
【0016】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造に使用される油脂は、ベーカリー食品用生地の製造に使用される油脂であれば、特に制限されることなく使用することができる。本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造に使用される油脂の具体例は、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCTともいう。)、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ココアバターやこれらの油脂の加工油脂(エステル交換油脂、分別油、硬化油(水素添加油)等)等であり、これらの油脂や加工油脂は2種以上を併用することもできる。また、前記油脂や前記加工油脂は、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の油脂加工食品や粉末油脂等の形態で配合することもできる。
【0017】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地が、乳蛋白質、油脂を前記範囲で含有し、前記乳蛋白質中のカゼインとホエイプロテインの質量比が前記範囲であると、小麦粉及び卵を配合せずに、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感の少ないベーカリー食品が得られる。なお、本発明でクリスピーな食感とは、サクッとした食感のことである。また、本発明で付着感とは、ベーカリー食品を食した時の歯への付着しやすさのことである。また、本発明でざらつき感とは、ベーカリー食品を食した時のざらついた食感のことである。
【0018】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、水を好ましくは10~35質量%含有し、より好ましくは15~30質量%含有し、さらに好ましくは18~28質量%含有し、最も好ましくは20~25質量%含有する。なお、本発明で水は、例えば、配合される牛乳等の液体原料に含まれる水分を含める。
【0019】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、乳蛋白質と油脂の合計含有量が好ましくは60~95質量%であり、より好ましくは65~90質量%であり、さらに好ましくは68~85質量%であり、最も好ましくは71~80質量%である。
【0020】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地には、その他に、通常、ベーカリー食品用生地に配合される原料(小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等の穀粉、活性グルテン、でんぷん、セルロース粉末、野菜類、果実類、茶類やその粉末、大豆蛋白質、カカオマス、ココアパウダー、イースト、イーストフード、酵素、食塩、砂糖(グラニュー糖、上白糖)等の糖類・糖アルコール類、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ等の乳製品、乾燥卵白、乾燥卵黄等の卵類、調味料、風味材、乳化剤、膨張剤、香料等)を配合することができる。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、好ましくは小麦粉及び卵類を含有しない。
【0021】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知のベーカリー食品用生地の製造条件及び製造方法を適用できる。本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、例えば、原料を混合させた後、得られた生地を、モールド等を使用して成形することで製造することができる。
【0022】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造方法は、好ましくは乳蛋白質と油脂を混合した後、水等の液体原料を加えて混合する。なお、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造方法で、乳蛋白質、油脂、液体原料以外のその他の原料の添加は、好ましくは乳蛋白質、油脂、液体原料を添加した後に行う。また、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造方法の混合は、原料が均一に分散する程度に行えば、特に条件等は制限されることはない。
【0023】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、乳蛋白質、油脂、水を前記範囲で含有し、前記乳蛋白質中のカゼインとホエイプロテインの質量比が前記範囲であることで、良好な混合適性を有する。なお、本発明でミキシング適性とは、原料の分散のしやすさのことである。
【0024】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地を焼成することで得られる。
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に、他の食材を組み合わせたものを焼成することで得ることもできる。
【0025】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン、タルト等の焼き菓子、クルトン、パフ等である。本発明の実施の形態のベーカリー食品は、好ましくはビスケット、クッキー、クルトン、パフであり、より好ましくはクルトン、パフである。
【0026】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法(製造方法)は、特に制限されるものではなく、従来公知のベーカリー食品と同様の焼成方法(製造方法)により焼成することができる。焼成方法の具体例は、オーブン加熱、直焼き、高周波加熱(電子レンジ加熱)等である。
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法は、好ましくはオーブン加熱である。オーブン加熱は、加熱温度が好ましくは120~200℃、より好ましくは140~180℃であり、加熱時間がより好ましくは5~60分間、好ましくは5~20分間である。
【0027】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感が少ない。
本発明によると、小麦粉及び卵を配合せずに、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感の少ないベーカリー食品が得られる。
【実施例0028】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0029】
<焼き菓子用生地の製造及び評価>
下記表1~3の配合で、下記工程1~3に従って、焼き菓子用生地を得た。工程2の後の焼き菓子用生地を観察し、以下の評価基準で焼き菓子用生地のミキシング適性を評価した。評価結果が◎又は○である場合、ミキシング適性は良好であると判断した。結果を表1~3に示した。
工程1:カゼイン、ホエイプロテインに、油脂(MCT)を加えて混合する。
工程2:油脂が分散した後、水を加えて混合する。
工程3:工程2で得られた生地を2cm×2cmのモールドにすり込んだ後、
成形した生地をモールドから外す。
【0030】
<焼き菓子用生地のミキシング適性の評価基準>
◎:適している
○:許容できる
×:適していない
【0031】
<焼き菓子の製造>
成形した焼き菓子用生地を、天板に並べて、オーブンにて、180℃で9分間焼成することで焼き菓子を得た。焼き菓子の食感を以下の評価方法及び評価基準で評価した。
【0032】
<食感の評価方法>
焼き菓子を5名の専門パネルが食し、クリスピー食感、付着感、ざらつき感を、下記評価基準に従って、1~3点の3段階で採点した。各パネルの採点結果の平均点を算出し、以下の基準に従って評価した。クリスピー食感の評価結果は、◎又は○の場合、クリスピー食感を有すると判断した。付着感、ざらつき感の評価結果は、◎又は○の場合、付着感、ざらつき感が少ないと判断した。結果を表1~3に示した。
なお、焼き菓子の食感を評価した専門パネルは、食品の食感等の官能評価の訓練を定期的に受けており、食品の食感等の官能評価結果に個人差が少ない。
【0033】
<クリスピー食感の評価基準>
3点:非常にクリスピーである
2点:クリスピーに感じる
1点:クリスピーではない
<平均点>
◎:2.5点以上
○:2.0点以上2.5点未満
×:2.0点未満
【0034】
<付着感の評価基準>
3点:付着が気にならない
2点:少し付着する
1点:付着する
<平均点>
◎:2.5点以上
○:2.0点以上2.5点未満
×:2.0点未満
【0035】
<ざらつき感の評価基準>
3点:ざらつかない
2点:少しざらつく
1点:ざらつく
<平均点>
◎:2.5点以上
○:2.0点以上2.5点未満
×:2.0点未満
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
実施例の焼き菓子用生地は、ミキシング適性が良好だった。また、実施例の焼き菓子は、クリスピーな食感を有し、付着感及びざらつき感が少なかった。
一方、比較例1、2の焼き菓子は、付着感又はざらつき感に問題があった。