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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147892
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】Fc受容体を固定化した抗体吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20220929BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20220929BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20220929BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20220929BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220929BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
B01J20/281 R ZNA
B01D15/00 K
B01J20/24 C
C07K1/22
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049346
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直優
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4H045
【Fターム(参考)】
4D017AA09
4D017BA07
4D017CA12
4D017CA14
4D017CB01
4D017DA07
4D017DB02
4G066AB05D
4G066AB13D
4G066AB27D
4G066AC03B
4G066AC03D
4G066AC17C
4G066BA20
4G066BA28
4G066BA36
4G066CA54
4G066DA07
4G066GA11
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 従来よりも抗体吸着量が向上し、抗体の分取目的にも利用可能な、Fc受容体を固定化した抗体吸着剤を提供すること。
【解決手段】 Fc受容体を、長さが2nm以上のペプチドリンカーを介して不溶性担体に固定化した抗体吸着剤により、前記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc受容体と、不溶性担体と、前記受容体を前記担体に固定化させるためのペプチドリンカーとを含む、抗体吸着剤であって、
前記ペプチドリンカーの長さが2nm以上である、前記吸着剤。
【請求項2】
ペプチドリンカーが、以下の(1)または(2)のいずれかに示すポリペプチドである、請求項1に記載の吸着剤;
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のプロリンから105番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のプロリンから105番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から105番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を含むアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項3】
ペプチドリンカーが、配列番号17に記載のアミノ酸配列のうち6番目のプロリンから87番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドである、請求項2に記載の吸着剤。
【請求項4】
Fc受容体が、以下の(i)または(ii)のいずれかに示すポリペプチドである、請求項1から3のいずれかに記載の吸着剤;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体への結合活性を有するポリペプチド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の吸着剤を充填したカラムに抗体を含む溶液を添加して当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した抗体を溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、抗体の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fc受容体を固定化した抗体吸着剤に関する。より詳しくは、従来よりも抗体吸着量が向上した前記吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬品は生体内の免疫機能を担う分子である抗体(免疫グロブリン)を利用した医薬品である。抗体医薬品は抗体が有する可変領域の多様性により標的分子に対し高い特異性と親和性をもって結合する。そのため抗体医薬品は副作用が少なく、また、近年では適応疾患が広がってきていることもあり市場が急速に拡大している。
【0003】
抗体医薬品が有する糖鎖構造は薬効や安定性に大きく関与することが知られている。そのため、抗体医薬品を製造する際、糖鎖構造の制御は極めて重要である。抗体結合性タンパク質のうち、Fc受容体であるFcγRIIIaは、抗体(免疫グロブリン)の糖鎖構造を認識することが知られており、FcγRIIIaをアフィニティリガンドとして不溶性担体に固定化した吸着剤を用いることで、抗体を糖鎖構造に基づき分離できる(特許文献1)。したがって、前記吸着剤は、抗体医薬品製造時の工程分析に有用である。また、FcγRIIIaのうち細胞外領域(具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでの領域)中の特定位置にあるアミノ酸残基を他の特定のアミノ酸残基に置換した変異体を作製することで、アフィニティリガンドとして必要な、熱安定性、酸安定性、アルカリ安定性を向上させている(特許文献1から3)。
【0004】
しかしながら、不溶性担体と当該担体に固定化したFcγRIIIaまたは前記変異体とを含む抗体吸着剤を、糖鎖構造に基づく抗体の分取目的に適用しようとしたところ、抗体の吸着量が不十分であり、前記吸着剤を工業的な抗体医薬品の製造における抗体の分取目的に適用するのは困難であった。
【0005】
特許文献4には、抗体結合性タンパク質(黄色ブドウ球菌由来Protein A)を、ポリプロリンを含む長さ0.9から91nmのペプチドリンカーを介して、不溶性担体に固定化させることで、抗体吸着量が向上した旨、開示している。一方、Fc受容体を固定化した抗体吸着剤における、ペプチドリンカーを用いた吸着量向上に関する検討は、これまで十分に行なわれていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-086216号公報
【特許文献2】特開2016-169197号公報
【特許文献3】特開2017-118871号公報
【特許文献4】WO2017/018437号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来よりも抗体吸着量が向上し、抗体の分取目的にも利用可能な、Fc受容体を固定化した抗体吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、Fc受容体を不溶性担体に固定化させるためのペプチドリンカーの長さを最適化することで、従来よりも抗体吸着量が向上した抗体吸着剤を得ることができた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]から[5]に記載の態様を包含する。
【0010】
[1]Fc受容体と不溶性担体と前記受容体を前記担体に固定化させるためのペプチドリンカーとを含む抗体吸着剤であって、前記ペプチドリンカーの長さが2nm以上である、前記吸着剤。
【0011】
[2]ペプチドリンカーが、以下の(1)または(2)のいずれかに示すポリペプチドである、[1]に記載の吸着剤;
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のプロリンから105番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のプロリンから105番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から105番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を含むアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【0012】
[3]ペプチドリンカーが、配列番号17に記載のアミノ酸配列のうち6番目のプロリンから87番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドである、[2]に記載の吸着剤。
【0013】
[4]Fc受容体が、以下の(i)または(ii)のいずれかに示すポリペプチドである、[1]から[3]のいずれかに記載の吸着剤;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体への結合活性を有するポリペプチド。
【0014】
[5][1]から[4]のいずれかに記載の吸着剤を充填したカラムに抗体を含む溶液を添加して当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した抗体を溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、抗体の精製方法。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明において不溶性担体に固定化させるFc受容体は、抗体(免疫グロブリン)のFc領域に結合性を有するタンパク質である。Fc受容体がヒトFc受容体である場合の具体例としては、ヒトFcγRI、ヒトFcγRIIa、ヒトFcγRIIb、ヒトFcγRIIIa、ヒトFcRnがあげられる。特にヒトFcγRIIIaは、抗体が有する糖鎖構造を認識可能なヒトFc受容体であり、ヒトFcγRIIIaを不溶性担体に固定化した抗体分離剤は、抗体を糖鎖構造に基づき分離できる(特開2015-086216号公報)ことから、本発明において不溶性担体に固定化させるFc受容体として好ましい態様といえる。
【0017】
ヒトFcγRIIIaの好ましい態様として、
(i)天然型ヒトFcγRIIIaの細胞外領域(配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基)を少なくとも含むポリペプチド、および
(ii)天然型ヒトFcγRIIIaの細胞外領域を少なくとも含み、ただし当該細胞外領域を構成するアミノ酸残基のうち、1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド、
があげられる。また前記(ii)のさらに好ましい態様として、
特開2015-086216号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2016-169197号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2017-118871号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2018-197224号公報で開示のFc結合性タンパク質、
WO2019/083048号で開示のFc結合性タンパク質、
があげられる。
【0018】
本発明においてFc受容体を固定化させる不溶性担体は、後述するペプチドリンカーを固定化可能な活性化官能基を有し、かつ当該抗体の吸着/溶出に用いる溶液や溶剤に対して不溶性の物質であればよく、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体であってもよいし、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体であってもよいし、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体であってもよい。またShodex(昭和電工社製)、Sepharose(サイティバ社製)、Amberlite(デュポン社製)、Cellufine(JNC社製)、POROS(Thermo Fisher Scientific社製)、トヨパール(東ソー社製)といった公知のクロマトグラフィー用担体に、前記活性化官能基を結合させた態様であってもよい。
【0019】
本発明の吸着剤は、前述したFc受容体を、前述した不溶性担体に固定化させるため
のペプチドリンカーの長さを2nm以上とすることを特徴としている。なおペプチドリンカーの長さを2nm以上10nm以下とすると好ましく、3nm以上8nm以下とするとより好ましい。ペプチドリンカーを構成するポリペプチドの配列は、前述した長さの条件を満たしている限り、特に限定はない。一例として、Pro(プロリン)-Ala(アラニン)を8回以上繰返した配列、Gly(グリシン)-Gly-Ser(セリン)を5回以上繰返した配列、Glu(グルタミン酸)-Ala(アラニン)-Ala-Ala-Lys(リジン)(配列番号2)を3回以上繰返した配列、があげられる。
【0020】
前記ペプチドリンカーとして、Fc受容体の部分配列を用いてもよい。Fc受容体の部分配列をペプチドリンカーとしたときの好ましい態様として、ヒトFcγRIIIaのD1ドメインを含むポリペプチドがあげられる。具体的には、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のプロリンから105番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、または
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のプロリンから105番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から105番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を含むアミノ酸配列を有するポリペプチド、
をペプチドリンカーとして用いると好ましい。前記(2)の好ましい態様として、配列番号17に記載のアミノ酸配列のうち6番目のプロリンから87番目のヒスチジンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドがあげられる。
【0021】
前述したペプチドリンカーのC末端側には、不溶性担体に固定化させるためのオリゴペプチドをさらに付加してもよい。前記オリゴペプチドとしては、ポリヒスチジン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸や、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるシステインタグがあげられる。
【0022】
本発明の吸着剤を製造するには、Fc受容体のC末端側に前述したペプチドリンカーを付加したポリペプチドを作製後、当該ポリペプチドを不溶性担体に固定化させて製造すればよい。ペプチドリンカーをFc受容体に付加させる際は、前記ペプチドリンカーをコードするポリヌクレオチドを作製後、当業者に周知の方法を用いて遺伝子工学的にFc受容体のC末端側に付加させてもよいし、化学的に合成した前記ペプチドリンカーを本発明のFc受容体のC末端側に化学的に結合させて付加させてもよい。さらにFc受容体のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドの例としては、PelB(UniProt No.P0C1C1の1番目から22番目までのアミノ酸残基からなるオリゴペプチド)、DsbA、MalE(UniProt No.P0AEX9の1番目から26番目までのアミノ酸残基からなるオリゴペプチド)、TorTなどのペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示できる(特開2011-097898号公報)。またDsbCシグナルペプチド(UniProt No.P0AEG7の1番目から21番目までの領域)、および前記シグナルペプチドのうち、N末端(1番目のメチオニン)およびC末端(20番目のアラニンおよび21番目のアスパラギン酸)以外のアミノ酸を1または数残基欠失させたオリゴペプチドを、前記リガンドのN末端側に付加させてもよい。
【0023】
ペプチドリンカーを付加したFc受容体を不溶性担体に固定化するには、当該不溶性担体にN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミド等の活性基を付与し、当該活性基を介してペプチドリンカーと不溶性担体とを共有結合させることで固定化すればよい。活性基を付与した担体は、例えば適切な反応条件で担体表面に活性基を導入して調製すればよい。
【0024】
一方、担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基やエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。当該化合物の一例のうち、担体表面のヒドロキシ基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが例示できる。前記化合物により担体表面にエポキシ基を導入した後、担体表面にカルボキシ基を導入する化合物としては、2-メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプト酪酸、グリシン、3-アミノプロピオン酸、4-アミノ酪酸、担体表面に存在するヒドロキシ基やエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N-(ε-マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N-(ε-マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4-[4-N-マレイミドフェニル]酢酸ヒドラジド、2-アミノマレイミド、3-アミノマレイミド、4-アミノマレイミド、6-アミノマレイミド、1-(4-アミノフェニル)マレイミド、1-(3-アミノフェニル)マレイミド、4-(マレイミド)フェニルイソシアナート、2-マレイミド酢酸、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、N-(α-マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボニル-(6-アミノヘキサン酸)、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸、(p-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0025】
担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2-(ヨードアセトアミド)酢酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。なお担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にω-アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω-アルケニル部位をハロゲン化し活性化する方法も例示できる。ω-アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3-ブテニルグリシジルエーテル、4-ペンテニルグリシジルエーテルを例示でき、ハロゲン化剤としてはN-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミドを例示できる。
【0026】
担体表面に活性基を導入する方法の別の例として、担体表面に存在するカルボキシ基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性化基を導入する方法がある。縮合剤としては1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。また添加剤としてはN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、4-ニトロフェノール、1-ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
【0027】
Fc受容体を不溶性担体に固定化する際用いる緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、5℃から50℃までの温度範囲の中から活性基の反応性やFc受容体の安定性を考慮の上、適宜設定すればよく、好ましくは10℃から35℃の範囲である。
【0028】
前述した方法でFc受容体を不溶性担体に固定化し得られた本発明の抗体吸着剤を用いて抗体を分離するには、当該抗体吸着剤を充填したカラムにポンプ等の送液手段を用いて平衡化液を添加することでカラムを平衡化し、前記送液手段で抗体を含む溶液を添加することで前記抗体吸着剤に抗体を特異的に吸着させた後、適切な溶出液を前記送液手段で添加することで前記吸着した抗体を溶出させればよい。なお本発明において抗体の分離とは、夾雑物を含む溶液からの抗体分離(夾雑物除去)に限らず、構造・性質・活性等に基づく抗体間での分離も含まれる。
【0029】
前記平衡化液としてはリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、MES緩衝液、クエン酸緩衝液が例示でき、さらに前記緩衝液に、10mMから100mM(好ましくは40mMから60mM)の塩化ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。平衡化液のpHは、pH4.0から7.0までの範囲から、緩衝液成分、カラム形状、吸着剤のカラムへの充填圧力などを考慮し、適宜最適値を決定すればよい。
【0030】
抗体吸着剤に吸着した抗体を溶出させるには、抗体とFc受容体との相互作用を弱めればよく、具体的には、緩衝液によるpHの低下、カウンターペプチドの添加、温度上昇、塩濃度変化が例示できる。抗体吸着剤に吸着した抗体を溶出させるための溶出液の具体例として、抗体吸着剤に抗体を吸着させる際に用いた溶液よりも酸性側の緩衝液があげられる。その緩衝液の種類としては酸性側に緩衝能を有するクエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示できる。溶出液のpHは、抗体が有する機能(抗原への結合性等)を損なわない範囲で設定すればよく、一例としてpH2.5以上6.0以下、pH3.0以上5.0以下、pH3.0以上4.0以下、があげられる。
【0031】
塩濃度の変化で抗体を溶出させる場合、高濃度の塩を含む緩衝液(溶出液)で一段階に溶出してもよく、任意に塩濃度を段階的に上昇させてもよく(ステップグラジエント)、直線的濃度勾配で塩濃度を上昇させてもよい(リニアグラジエント)が、リニアグラジエントで溶出させると好ましい。例えば水溶性の塩として塩化ナトリウムを用いる場合、塩化ナトリウム濃度0Mから1Mまでのリニアグラジエントで溶出させればよい。また、pH変化で抗体を溶出させる場合、平衡化緩衝液よりpHが低下した酸性緩衝液(溶出液)で一段階に溶出してもよく、任意に緩衝液のpHを段階的に低下させてもよく(ステップグラジエント)、直線的濃度勾配で緩衝液のpHを低下させてもよい(リニアグラジエント)が、リニアグラジエントで溶出させると好ましい。例えば抗体が吸着する中性から弱酸性の緩衝液から抗体が溶離する酸性の緩衝液へと、リニアグラジエントで溶出させればよい。
【0032】
前述した方法で溶出された、抗体が含まれる画分を分取することで当該抗体が得られる。分取は常法により行なってよい。具体的には、例えば、一定の時間ごとや、一定の容量ごとに回収容器を交換する方法や、溶出液のクロマトグラムの形状に合わせて回収容器を換える方法や、自動フラクションコレクター等により画分の分取をする方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、Fc受容体と不溶性担体と前記受容体を前記担体に固定化させるためのペプチドリンカーとを含む抗体吸着剤において、前記ペプチドリンカーの長さが2nm以上であることを特徴としている。本発明の吸着剤は、前記ペプチドリンカーがない、従来のFc受容体を固定化した吸着剤と比較し、抗体吸着量が増加している。従って、本発明は工業的な抗体医薬品の製造における抗体の分取に有用である。
【0034】
特にFc受容体として、ヒトFcγRIIIaを用いた場合、これらタンパク質を不溶性担体に固定化して得られる抗体分離剤は、糖鎖構造に基づく分離(特開2015-086216号公報)や、抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づいた分離(特開2016-023152号公報)ができるため、特定の糖鎖構造を有した抗体や、抗体依存性細胞傷害活性の高い(または低い)抗体を、選択的かつ大量に調製できる。
【実施例0035】
以下、比較例および実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1 不溶性担体の調製
(1)ヒドロキシ基を有したゲルへのエポキシ基の導入
(1-1)表面にヒドロキシ基を有したポリメタクリレートゲル(東ソー社製、トヨパール)スラリーをグラスフィルター上で吸引ろ過後、そのまま吸引乾燥することでサクションドライゲルを調製した。
(1-2)サクションドライゲル1.0gに、5mLの水、0.5mLの0.2M水酸化ナトリウム水溶液、および5mmolのエポキシ化試薬(エチレングリコールジグリシジルエーテル)を添加し、50℃に設定した撹拌振とう器内で16時間撹拌振とう反応した。
(1-3)反応終了後、反応液をグラスフィルター上で吸引ろ過し、水で4回、1,4-ジオキサンで4回洗浄することでエポキシ基を導入したゲル(以下、エポキシトヨパールと命名する)を作製した。
【0037】
(2)エポキシトヨパールへのハロアセチル基の導入
(2-1)(1)で得られたエポキシトヨパール1.0g(サクションドライゲル)に、3.5mmolのアミノ化試薬(トリス(2-アミノエチル)アミン)、1mLの水を添加し、45℃に設定した撹拌振とう器内で4時間撹拌振とう反応した。
(2-2)(2-1)の反応終了後、反応液をグラスフィルター上で吸引ろ過し、水で4回、1,4-ジオキサンで4回洗浄することでアミノ基を導入したゲル(以下、アミノトヨパールと命名する)を作製した。
(2-3)アミノトヨパール1.0g(サクションドライゲル)に、7.5mLの1,4-ジオキサン、2.5mLの水、0.5mmolのEDC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド)、0.5mmolのハロアセチル化試薬(ヨード酢酸)を添加し、25℃に設定した撹拌振とう器内で2時間撹拌振とう反応した。
(2-4)(2-3)の反応終了後、反応液をグラスフィルター上で吸引ろ過し、1,4-ジオキサンで4回、水で4回洗浄することでハロアセチル基を導入したゲル(以下、ハロアセチルトヨパールと命名する)を作製した。
【0038】
比較例1 抗体吸着剤の作製(その1)
以下に示す方法で、Fc受容体FcR36iを含むポリペプチドFcR36i_Cys(特開2020-092689号公報)(配列番号4)を不溶性担体に固定化し、抗体吸着剤を作製した。なおFcR36i_Cys(配列番号4)のうち、1番目のメチオニンから22番目のアラニンまでが改良PelBシグナルペプチド(UniProt No.P0C1C1の1番目から22番目までのアミノ酸残基からなるオリゴペプチドであり、ただし6番目のプロリンのセリンへのアミノ酸置換が生じたオリゴペプチド)であり、24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでがFc受容体FcR36iのアミノ酸配列(配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Glu21Gly(この表記は、当該21番目のグルタミン酸がグリシンに置換されていることを表す、以下同様)、Leu23Met、Val27Glu、Phe29Ile、Gln33Pro、Tyr35Asn、Lys40Gln、Gln48Arg、Tyr51His、Glu54Asp、Asn56Asp、Ser65Arg、Ser68Pro、Tyr74Phe、Phe75Ile、Ala78Ser、Thr80Ser、Asn92Ser、Val117Glu、Lys119Val、Glu121Gly、Asp122Glu、Lys132Arg、Thr140Met、Tyr141Phe、Gly147Val、Tyr158Val、Lys165Glu、Phe171Ser、Val176Ile、Ser178Arg、Asn180Lys、Glu184Gly、Thr185Ala、Asn187AspおよびIle190Valのアミノ酸置換が生じたポリペプチド)であり、201番目のシステインから207番目のグリシンまでがシステインタグ配列(配列番号3)である。
【0039】
(1)FcR36i_Cysの調製
(1-1)特開2020-092689号公報に記載の方法で作製したFcR36i_Cys発現ベクターpTrc-FcR36i_Cysを含む遺伝子組換え大腸菌を、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地(トリプトン1.6%(w/v)、酵母エキス1%(w/v)、塩化ナトリウム0.5%(w/v))100mLに接種し、前培養した(37℃、16時間)。
(1-2)前培養後の培養液10mLを、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地1Lに接種し、37℃で2時間培養後、0.01MのIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を1mL加えて、さらに25℃で終夜振とう培養した。
(1-3)培養終了後、遠心分離により集菌し、150mMのNaClを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で懸濁し、超音波発生装置(インソネーター201M(商品名)、久保田商事製)を用いて、4℃で約10分間、約150Wの出力で菌体を破砕した。その後、遠心分離により上清を回収した。
(1-4)あらかじめ150mMのNaClを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)(以下、洗浄緩衝液と表記)により平衡化したIgG Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア社製)を充填したカラムに、(1-3)で回収した上清を添加し、前記カラムに充填した担体の10倍量の洗浄緩衝液で洗浄後、0.1Mグリシン-塩酸緩衝液(pH 3.0)を通液し、FcR36i_Cysに相当する画分を回収した。当該溶出画分に、1Mトリス塩酸緩衝液(pH9.0)を1/50倍量加えて中和することで、精製したFcR36i_Cysを調製した。
(1-5)回収した画分の吸光度を分光光度計により測定し、当該画分に含まれるタンパク質を定量した。またSDS-PAGEも実施し、FcR36i_Cysが純度よく精製されていることを確認した。
【0040】
(2)FcR36i_Cys固定化ゲル(抗体吸着剤)の作製
(2-1)(1)で調製したFcR36i_Cys(配列番号4)30mgに、終濃度1mMとなるようトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)を添加し、1時間静置後、実施例1で作製したハロアセチルトヨパール1.0g(サクションドライゲル)および1Mのトリス緩衝液(pH9.0)を添加し、25℃で2時間反応させた。
(2-2)反応終了後、50mMのクエン酸緩衝液(pH3.0)、20mMのMES緩衝液(pH6.5)、20mMの水酸化ナトリウム水溶液の順で洗浄した。
(2-3)洗浄後のゲル1.0g(サクションドライゲル)に20mMの水酸化ナトリウム1.8mL、57μmolのα-チオグリセロール、1Mのトリス緩衝液(pH8.5)0.18mLを添加し、25℃で2時間追加反応することでFcR36i_Cysを固定化したゲル(抗体吸着剤)を作製した。
【0041】
比較例2 抗体吸着剤の作製(その2)
(1)FcR36i_Cys(配列番号4)のうち、200番目のグリシンと201番目のシステインとの間に、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを挿入したポリペプチド(FcR36i_EAAAK_Cys)を設計した(配列番号8)。
【0042】
(2)FcR36i_EAAAK_Cysをコードするポリヌクレオチド(配列番号9)を鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号6および配列番号7に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。表1に示す組成からなる反応液を前記ポリヌクレオチドおよびプライマーを用いて調製後、当該反応液を98℃で5分熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル繰り返すことで実施した。
【0043】
【表1】
【0044】
(3)(2)で得られたポリヌクレオチドを精製し、制限酵素NcoIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpTrc-PelB(WO2015/199154号に記載の方法で作製)にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌W3110株を形質転換した。
【0045】
(4)(3)で得られた形質転換体(遺伝子組み換え大腸菌)を50μg/mLのカナマイシンを含む2×YTプレート培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)で培養(37℃、16時間)した後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて、発現ベクターpTrc-FcR36i_EAAAK_Cysを抽出した。
【0046】
(5)pTrc-FcR36i_EAAAK_Cysのヌクレオチド配列の解析を、配列番号6または配列番号7に記載の配列らなるオリゴヌクレオチドを用いて行なった。pTrc-FcR36i_EAAAK_Cysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号8に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号10に、それぞれ示す。
【0047】
(6)比較例1(1)に記載の方法で(3)で得られた発現ベクターpTrc-FcR36i_EAAAK_Cysを含む遺伝子組換え大腸菌からFcR36i_EAAAK_Cysを調製し、比較例1(2)に記載の方法でFcR36i_EAAAK_Cysを固定化したゲル(抗体吸着剤)を作製した。
【0048】
実施例2 抗体吸着剤の作製(その3)
(1)FcR36i_Cys(配列番号4)のうち、200番目のグリシンと201番目のシステインとの間に、配列番号2に記載のアミノ酸配列を3回繰返した配列からなるペプチドリンカーを挿入したポリペプチド(FcR36i_(EAAAK)_Cys)を設計した(配列番号11)。
【0049】
(2)鋳型DNAとしてFcR36i_(EAAAK)_Cysをコードするポリヌクレオチド(配列番号12)を用いた他は、比較例2(2)に記載と同様な方法でPCRを実施した。
【0050】
(3)(2)で得られたポリヌクレオチドを精製後、比較例2(3)に記載の方法でライゲーションおよび形質転換して遺伝子組換え大腸菌を取得し、比較例2(4)に記載の方法で発現ベクターpTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysを抽出した。
【0051】
(4)pTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysのヌクレオチド配列の解析を比較例2(5)に記載の方法で行なった。pTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号11に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号13に、それぞれ示す。
【0052】
(5)比較例1(1)に記載の方法で(3)で得られた発現ベクターpTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysを含む遺伝子組換え大腸菌からFcR36i_(EAAAK)_Cysを調製し、比較例1(2)に記載の方法でFcR36i_(EAAAK)_Cysを固定化したゲル(抗体吸着剤)を作製した。
【0053】
実施例3 抗体吸着剤の作製(その4)
(1)FcR36i_Cys(配列番号4)のうち、200番目のグリシンと201番目のシステインとの間に、配列番号2に記載のアミノ酸配列を5回繰返した配列からなるペプチドリンカーを挿入したポリペプチド(FcR36i_(EAAAK)_Cys)を設計した(配列番号14)。
【0054】
(2)鋳型DNAとしてFcR36i_(EAAAK)_Cysをコードするポリヌクレオチド(配列番号15)を用いた他は、比較例2(2)に記載と同様な方法でPCRを実施した。
【0055】
(3)(2)で得られたポリヌクレオチドを精製後、比較例2(3)に記載の方法でライゲーションおよび形質転換して遺伝子組換え大腸菌を取得し、比較例2(4)に記載の方法で発現ベクターpTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysを抽出した。
【0056】
(4)pTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysのヌクレオチド配列の解析を比較例2(5)に記載の方法で行なった。pTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号14に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号16に、それぞれ示す。
【0057】
(5)比較例1(1)に記載の方法で(3)で得られた発現ベクターpTrc-FcR36i_(EAAAK)_Cysを含む遺伝子組換え大腸菌からFcR36i_(EAAAK)_Cysを調製し、比較例1(2)に記載の方法でFcR36i_(EAAAK)_Cysを固定化したゲル(抗体吸着剤)を作製した。
【0058】
実施例4 抗体吸着剤の作製(その5)
(1)FcR36i_Cys(配列番号4)のうち、200番目のグリシンと201番目のシステインとの間に、ヒトFcγRIIIaのD1ドメインを含む、配列番号17に記載のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを挿入したポリペプチド(FcR36i_D1_Cys)を設計した(配列番号18)。
【0059】
(2)FcR36i_Cysをコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を鋳型DNAとしてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号20および配列番号21に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(ベクター作製用)ならびに配列番号22および配列番号23に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(インサート作製用)のうちいずれか一組を用いた。表1に示す組成からなる反応液を前記鋳型DNAおよびプライマーを用いて調製後、当該反応液を98℃で5分熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で5分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル繰り返すことで実施した。
【0060】
(3)(2)で得られた2種類のポリヌクレオチドをそれぞれ精製し、ベクター側ポリヌクレオチドとインサート側ポリヌクレオチドをそれぞれ0.03pmolおよび0.06pmol含む混合溶液を調製した。当該混合溶液に対して、NEB Builder HiFi DNA Assembly Master Mix(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を用いたギブソンアッセンブリ反応により、ベクター側のポリヌクレオチドとインサート側のポリヌクレオチドとのライゲーションを行なった後、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌W3110株を形質転換した。
【0061】
(4)(3)で得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)を、比較例2(4)に記載の方法で発現ベクターpTrc-FcR36i_D1_Cysを抽出した。
【0062】
(5)pTrc-FcR36i_D1_Cysのヌクレオチド配列の解析を、比較例2(5)に記載の方法で行なった。pTrc-FcR36i_D1_Cysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号18に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号19に、それぞれ示す。
【0063】
(6)比較例1(1)に記載の方法で(3)で得られた発現ベクターpTrc-FcR36i_D1_Cysを含む遺伝子組換え大腸菌からFcR36i_D1_Cysを調製し、比較例1(2)に記載の方法でFcR36i_D1_Cysを固定化したゲル(抗体吸着剤)を作製した。
【0064】
実施例5 抗体吸着剤の作製(その6)
(1)FcR36i_Cys(配列番号4)のうち、200番目のグリシンと201番目のシステインとの間に、配列番号17に記載のアミノ酸配列を2回繰返した配列からなるペプチドリンカーを挿入したポリペプチド(FcR36i_2D1_Cys)を設計した(配列番号24)。
【0065】
(2)鋳型DNAとしてFcR36i_D1_Cysをコードするポリヌクレオチド(配列番号19)を、PCRプライマーとして配列番号20および配列番号26に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(ベクター作製用)ならびに配列番号22および配列番号27に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド(インサート作製用)のうちいずれか一組を、それぞれ用いた他は、実施例4(2)に記載と同様な方法でPCRを実施した。
【0066】
(3)(2)で得られた2種類のポリヌクレオチドをそれぞれ精製後、実施例4(3)に記載の方法でライゲーションおよび形質転換して遺伝子組換え大腸菌を取得し、比較例2(4)に記載の方法で発現ベクターpTrc-FcR36i_2D1_Cysを抽出した。
【0067】
(4)pTrc-FcR36i_2D1_Cysのヌクレオチド配列の解析を、比較例2(5)に記載の方法で行なった。pTrc-FcR36i_2D1_Cysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号24に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号25に、それぞれ示す。
【0068】
(5)比較例1(1)に記載の方法で(3)で得られた発現ベクターpTrc-FcR36i_2D1_Cysを含む遺伝子組換え大腸菌からFcR36i_2D1_Cysを調製し、比較例1(2)に記載の方法でFcR36i_2D1_Cysを固定化したゲル(抗体吸着剤)を作製した。
【0069】
実施例6 抗体吸着量の測定(その1)
(1)比較例1および2ならびに実施例2および3で作製した抗体吸着剤を、実施例1(1-1)に記載の方法で吸引乾燥し、サクションドライゲルを調製した。
【0070】
(2)サクションドライゲルにPBS(Phosphate Buffered Saline)を150μL添加し、2000×gで1分間遠心分離した。本操作を3回繰り返すことでゲルを洗浄した。
【0071】
(3)洗浄後のゲルに、PBSを150μL、および人免疫グロブリン溶液(グロブリン筋注1500mg/10mL「JB」、日本血液製剤機構製)を60μL、順次添加し、25℃にて2時間撹拌することで、ゲルに免疫グロブリン(抗体)を吸着させた。
【0072】
(4)(3)の吸着操作後、スピンカラムを2000×gで1分間遠心分離することで、未吸着の抗体を含んだ溶液とゲルとを分離した。
【0073】
(5)ゲルにPBSを150μL添加し、2000×gで1分間遠心分離した。本操作を3回繰り返すことでゲルを洗浄した。
【0074】
(6)ゲルに50mMクエン酸緩衝液(pH3.0)を150μL添加し、2000×gで1分間遠心分離した。本操作を3回繰り返すことでゲルに吸着した抗体を溶出した。溶出液の吸光度を測定して抗体の濃度を算出し、Fc受容体固定化ゲルへの抗体の吸着量を求めた。
【0075】
結果を表2に示す。なお表2におけるリンカー長は、文献(Protein Engineering,14(8),529-532(2001))に記載の値を参考に示している。リンカーの長さが2nm以上(実施例2および3)の抗体吸着剤での、FcR固定化量に対する抗体吸着量は、リンカーなし(比較例1)およびリンカーの長さが2nm未満(比較例2)の抗体吸着剤と比較し、向上していることがわかる。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例7 抗体吸着量の測定(その2)
実施例6(1)の抗体吸着剤を、比較例1ならびに実施例4および5で作製した抗体吸着剤にした他は、実施例6に記載と同様な方法で抗体吸着量を測定した。
【0078】
結果を表3に示す。なお表3におけるリンカー長とは、Fc受容体が含まれる結晶構造(Protein databank:3AY4)より概算したFcγRIIIaのD1ドメイン長の値を示している。ペプチドリンカーの配列が、実施例2および3のような単純なアミノ酸配列の繰返しではなく、特定タンパク質のドメイン配列であっても、リンカーの長さが2nm以上であれば、リンカーなし(比較例1)の抗体吸着剤と比較し、FcR固定化量に対する抗体吸着量が向上することがわかる。
【0079】
【表3】
【配列表】
2022147892000001.app