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  • 特開-ヒトFcγRIIIaの保存溶液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147893
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ヒトFcγRIIIaの保存溶液
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/735 20060101AFI20220929BHJP
   C07K 1/18 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C07K14/735 ZNA
C07K1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049347
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】湯本 達弥
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA23
(57)【要約】
【課題】 ヒトFcγRIIIaの溶解性を向上させ、沈殿させることなく安定に保存する保存溶液を提供すること。
【解決手段】 ヒトFcγRIIIaの保存溶液に0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含ませることで、前記課題を解決する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトFcγRIIIaの保存溶液であって、0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含む、前記保存溶液。
【請求項2】
さらに3(w/v)%以上45(w/v)%以下のグリセロールを含む、請求項1に記載の保存溶液。
【請求項3】
ヒトFcγRIIIaと請求項1または2に記載の保存溶液とを接触させる工程を含む、ヒトFcγRIIIaの安定化方法。
【請求項4】
ヒトFcγRIIIaを含む溶液をクロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライし、当該担体にヒトFcγRIIIaを吸着させる工程と、
溶出緩衝液を前記カラムにアプライし、前記担体に吸着したヒトFcγRIIIaを溶出させる工程と、
溶出したヒトFcγRIIIaを含む画分を回収する工程と、
回収した画分を保存する工程とを含む、ヒトFcγRIIIaの製造方法であって、
前記保存する工程が請求項1または2に記載の保存溶液で保存する工程である、前記製造方法。
【請求項5】
ヒトFcγRIIIaが、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドである、請求項1または2に記載の保存溶液;
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FcγRIIIaの保存溶液に関する。特に本発明は、ヒトFcγRIIIaの溶解性を向上させ、かつ沈殿させることなく保存可能な、ヒトFcγRIIIaの保存溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。個々の分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する認識ドメインによって、単一の、または同じグループの免疫グロブリンイソタイプをFcレセプター上の認識ドメインによって認識している。これによって、免疫応答においてどのアクセサリー細胞が動因されるかが決まってくる。Fcレセプターは、さらにいくつかのサブタイプに分類でき、IgG(免疫グロブリンG)に対するレセプターであるFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある。また各レセプターは更に細かく分類されており、Fcγレセプターは、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaおよびFcγRIIIbの存在が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
Fcγレセプターの中でも、FcγRIIIaはナチュラルキラー細胞(NK細胞)やマクロファージなどの細胞表面に存在しており、ヒト免疫機構の中でも重要なADCC(抗体依存性細胞傷害)活性に関与している重要なレセプターである。このFcγRIIIaとヒトIgGとの親和性は結合の強さを示すK値が10-7mol/L以下であることが報告されている(非特許文献2)。また、抗体の糖鎖構造の違いにより、FcγRIIIaと抗体との結合性が異なることが知られている(非特許文献3)。
【0004】
天然型のヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1)はUniProt(Accession number:P08637)などの公的データベースに公表されている。また、ヒトFcγRIIIaの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcγRIIIaの構造略図を示す。なお、図1中の番号はアミノ酸番号を示しており、その番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から16番目のアラニン(Ala)までがシグナル配列(S)、17番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までが細胞外領域(EC)、209番目のバリン(Val)から229番目のバリン(Val)までが細胞膜貫通領域(TM)および230番目のリジン(Lys)から254番目のリジン(Lys)までが細胞内領域(C)とされている。なおFcγRIIIaはIgG1からIgG4まであるヒトIgGサブクラスのうち、特にIgG1とIgG3に対し強く結合する一方、IgG2とIgG4に対する結合は弱いことが知られている。
【0005】
ヒトFcγRIIIaは抗体の糖鎖構造を認識するため、ヒトFcγRIIIaを不溶性担体に固定化して得られる吸着剤は、抗体をその糖鎖構造に基づく結合性の違いにより分離できる(特許文献1および2)。抗体の糖鎖構造は、抗体医薬品における薬効や安定性に大きく関与するため、抗体医薬品を製造する際に糖鎖構造を制御することは極めて重要である。このため前記吸着剤は、抗体医薬品製造時の工程分析や分取に有用である。
【0006】
ヒトFcγRIIIaは、ヒトFcγRIIIaをコードする遺伝子を挿入した遺伝子組換え大腸菌を培養し、得られた培養液を陽イオン交換クロマトグラフィに供することで、高純度かつ高効率に製造できる(特許文献3)。しかしながら、特にアミノ酸置換によりアルカリ耐性を向上させたヒトFcγRIIIaにおいて、前記クロマトグラフィの溶出画分に含まれるヒトFcγRIIIaが沈殿してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-086216号公報
【特許文献2】特開2016-169197号公報
【特許文献3】特開2016-183113号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Takai.T.,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318-326,2005
【非特許文献2】J.Galon等,Eur.J.Immunol.,27,1928-1932,1997
【非特許文献3】C.L.Chen等,ACS Chem. Biol.,12,1335-1345,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ヒトFcγRIIIa(特にアミノ酸置換によりアルカリ耐性を向上させたヒトFcγRIIIa)の溶解性を向上させ、かつ沈殿させることなく安定に保存可能な保存溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒトFcγRIIIaを含む保存溶液に適切な濃度のアルギニンおよび/またはその類縁体を含ませることで、ヒトFcγRIIIaの保存溶液への溶解性が向上し、かつ沈殿が生じないことを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]から[5]に記載の態様を包含する。
【0012】
[1]ヒトFcγRIIIaの保存溶液であって、0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含む、前記保存溶液。
【0013】
[2]さらに3(w/v)%以上45(w/v)%以下のグリセロールを含む、[1]に記載の保存溶液。
【0014】
[3]ヒトFcγRIIIaと[1]または[2]に記載の保存溶液とを接触させる工程を含む、ヒトFcγRIIIaの安定化方法。
【0015】
[4]ヒトFcγRIIIaを含む溶液をクロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライし当該担体にヒトFcγRIIIaを吸着させる工程と、溶出緩衝液を前記カラムにアプライし前記担体に吸着したヒトFcγRIIIaを溶出させる工程と、溶出したヒトFcγRIIIaを含む画分を回収する工程と、回収した画分を保存する工程とを含む、ヒトFcγRIIIaの製造方法であって、前記保存する工程が[1]または[2]に記載の保存溶液で保存する工程である、前記製造方法。
【0016】
[5]ヒトFcγRIIIaが、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドである、[1]または[2]に記載の保存溶液;
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明のヒトFcγRIIIaの保存溶液は、ヒトFcγRIIIaを含む溶液に終濃度で0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含ませることを特徴としており、当該溶液中に存在するヒトFcγRIIIaの溶解性が向上することで沈殿の発生を抑制できる。なおヒトFcγRIIIaの保存溶液に含ませるアルギニンおよび/またはその類縁体を終濃度0.3mol/L以上0.8mol/L以下とすると好ましい。
【0019】
アルギニンはL(+)-アルギニンが好ましい。またアルギニン類縁体の一態様として、L(+)-アルギニン塩酸塩、Nα-カルボベンゾキシ-L(+)-アルギニン、Nα-トシル-L(+)-アルギニン、Nα-(2,4-ジニトロフェニル)-L(+)-アルギニン、Nα-(tert-ブトキシカルボニル)-L(+)-アルギニン塩酸塩、Nα-トシル-L(+)-アルギニンメチル塩酸塩、L(+)-アルギニンメチル二塩酸塩、Nα-ベンゾイル-L(+)-アルギニンエチル塩酸塩、Nα-ベンゾイル-L(+)-アルギニンアミド塩酸塩、L(+)-アルギニン炭酸塩が挙げられる。
【0020】
一態様として、未精製、粗精製または精製済のヒトFcγRIIIaを含む溶液に、前述した濃度のアルギニンおよび/またはその類縁体を添加することでヒトFcγRIIIaを安定化できる。また別の態様として、後述する本発明のヒトFcγRIIIaの製造方法を実施する場合は、溶出緩衝液に前述した濃度のアルギニンおよび/またはその類縁体を添加することで、溶出したヒトFcγRIIIaを安定化できる。さらに別の態様として、沈殿が生じたヒトFcγRIIIa溶液に対して前述した濃度のアルギニンおよび/またはその類縁体を加えることで、沈殿を再溶解しての保存もできる。
【0021】
本発明の保存溶液に、グリセロールを、終濃度3(w/v)%以上45(w/v)%以下となるよう添加すると、当該溶液中でのヒトFcγRIIIaがさらに安定化するため、好ましい。なお前記溶液に添加するグリセロールを、終濃度5(w/v)%以上15(w/v)%以下にすると、さらに好ましい。
【0022】
本明細書において「安定化」とはヒトFcγRIIIaの溶解性が向上し、沈殿が生じにくいことを意味する。
【0023】
本発明のヒトFcγRIIIaの製造方法では、クロマトグラフィ用担体充填カラムを用いた精製工程を含む。前記カラムにアプライする、ヒトFcγRIIIaを含む溶液の一例として、ヒトFcγRIIIaをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドで形質転換した宿主(形質転換体)の培養液より粗精製したヒトFcγRIIIa溶液があげられる。
【0024】
ヒトFcγRIIIaを発現させるための宿主としては、COS細胞やCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞に代表される動物細胞、バチルス(Bacillus)属(ブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌やパエニバチルス(Paenibacillus)属細菌のような広義のバチルス属細菌も含む)や大腸菌(Escherichia coli)に代表される細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属に代表される酵母、麹菌(Aspergillus属菌)に代表される糸状菌などが利用できる。中でも取扱いの簡便な大腸菌を宿主とすると好ましい。なお宿主が大腸菌の場合は、特開2012-034591号公報および特開2013-085531号公報に開示した方法等により、形質転換体を培養することでヒトFcγRIIIaを発現させればよい。
【0025】
前記形質転換体の培養液から、クロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライする、粗精製したヒトFcγRIIIa溶液を得るには、発現の形態によって適宜選択すればよい。例えば、発現したヒトFcγRIIIaが宿主細胞のペリプラズムに発現する場合は、培養液を遠心分離して得られる宿主細胞を適切な緩衝液で懸濁し細胞破砕(物理的破砕、薬剤による破砕など)後、遠心分離により破砕残渣を除去することで、発現したヒトFcγRIIIaを含む無細胞抽出液を得ればよく、発現したヒトFcγRIIIaが宿主細胞のペリプラズムから培養上清に漏出する場合は、培養液を遠心分離して得られる培養上清から発現したヒトFcγRIIIaを回収すればよい。なお薬剤により宿主細胞を破砕する際は、例えば、特開2013-252099号公報に開示した方法や、BugBuster Protein Extraction Reagent(ミリポア社製)等の市販の抽出試薬を用いて破砕するとよい。
【0026】
本発明のヒトFcγRIIIaの製造方法で用いる、クロマトグラフィ用担体充填カラムは、当業者が通常タンパク質精製で用いるクロマトグラフィ用担体を充填したカラムであれば特に限定はなく、前記担体として、ゲル濾過クロマトグラフィ用担体、陽イオン交換クロマトグラフィ用担体、陰イオン交換クロマトグラフィ用担体、疎水クロマトグラフィ用担体、アフィニティクロマトグラフィ用担体が例示できる。中でも陽イオン交換クロマトグラフィ用担体が、本発明の製造法におけるクロマトグラフィ用担体として好ましい。
【0027】
陽イオン交換クロマトグラフィ用担体は、カルボキシメチル基、スルホプロピル基、スルホン酸基といった陽イオン交換基を担体に導入したものであれば特に限定はなく、具体例として、TOYOPEARL CM-650、TOYOPEARL SP-650、TOYOPEARL GigaCap S-650(以上、東ソー製)、CM Sepharose Fast Flow(Cytiva製)があげられる。なお、前記陽イオン交換クロマトグラフィ用担体を用いて、本発明の精製方法を実施する際は、前記担体へのヒトFcγRIIIaを含む溶液(アプライ液)の添加量や、前記担体のタンパク吸着性能等によって決定した量の担体を、適切なオープンカラム等に充填して行なえばよい。また、前記陽イオン交換クロマトグラフィ用担体は、アプライ液を添加する前に、あらかじめ、適切な緩衝液(Tris-HCl緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、リン酸塩緩衝液等)で平衡化するとよい。
【0028】
本発明のヒトFcγRIIIaの精製方法を、陽イオン交換クロマトグラフィ用担体充填カラムを用いて行なう場合の具体例を以下に示す。
(I)前述した方法で得られた粗精製ヒトFcγRIIIa溶液を、あらかじめ平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライし、前記担体にヒトFcγRIIIaを吸着させる。
(II)塩化ナトリウムを含む洗浄液を前記カラムにアプライし、夾雑タンパク質を除去する。
(III)溶出緩衝液を前記カラムにアプライし、前記担体に吸着したヒトFcγRIIIaを溶出させる。溶出緩衝液としては前記洗浄液よりも高い塩化ナトリウムを含む緩衝液を用いればよい。また溶出緩衝液に終濃度0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含ませてもよい。
(IV)溶出したヒトFcγRIIIaを含む画分を回収し、保存する。なお(III)でアルギニンおよび/またはその類縁体を含まない溶出緩衝液で溶出させた場合は、前記画分に終濃度0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含ませてから保存する。
【0029】
本発明におけるヒトFcγRIIIaの一例として、以下の(i)から(v)のいずれかに記載のポリペプチドがあげられる。
(i)配列番号1に記載の天然型ヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列のうち、細胞外領域(図1ではEC領域)の一部である、17番目のグリシン(Gly)から192番目のグルタミン(Gln)までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目のグリシン(Gly)から192番目のグルタミン(Gln)までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基のうち、1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(iv)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(v)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0030】
前記(ii)および(iv)における、「1もしくは数個」とは、例えば、1以上30個以下、1以上20個以下、または1以上10個以下(10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個および1個のいずれか)を意味してよい。
【0031】
前記(ii)の一例として、特開2015-086216号公報で開示のFc結合性タンパク質、特開2016-169197号公報で開示のFc結合性タンパク質、特開2017-118871号公報で開示のFc結合性タンパク質、特開2018-197224号公報で開示のFc結合性タンパク質、およびWO2019/083048号で開示のFc結合性タンパク質があげられる。
【0032】
中でも前記(iii)から(v)のいずれかに記載のポリペプチドは、溶液中で凝集/沈殿しやすい点で、本発明におけるヒトFcγRIIIaの好ましい態様である。なお前記(iii)から(v)に記載の、配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Glu21Gly(この表記は、配列番号1の21番目のグルタミン酸がグリシンに置換されていることを表す、以下同じ)、Leu23Met、Val27Glu、Phe29Ile、Gln33Pro、Tyr35Asn、Lys40Gln、Gln48Arg、Tyr51His、Glu54Asp、Asn56Asp、Ser65Arg、Ser68Pro、Tyr74Phe、Phe75Ile、Ala78Ser、Thr80Ser、Asn92Ser、Val117Glu、Lys119Val、Glu121Gly、Asp122Glu、Lys132Arg、Thr140Met、Tyr141Phe、Gly147Val、Tyr158Val、Lys165Glu、Phe171Ser、Phe176Ile、Ser178Arg、Asn180Lys、Glu184Gly、Thr185Ala、Asn187AspおよびIle190Valのアミノ酸置換を有するアミノ酸残基である。
【0033】
なお、本発明の保存溶液には終濃度0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上、1.5mol/L以下、好ましくは1mol/L以下となるように塩(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等)が含まれてよく、pH7.0以上9.0以下、好ましくはpH7.5以上8.5以下となるよう塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)が含まれてよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明はヒトFcγRIIIaの保存溶液として、0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含んだ溶液を用いることを特徴としている。本発明により、ヒトFcγRIIIaの溶解性を向上させ、かつ沈殿させることなく、溶液中でヒトFcγRIIIaを安定に保存できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】ヒトFcγRIIIaの構造を示す図。
図2】各保存溶液でのヒトFcγRIIIa飽和濃度測定結果を示した図。
図3】ヒトFcγRIIIaの保存安定性評価結果を示した図
【実施例0036】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1 保存溶液の組成検討
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるFcR36i_Cysをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いて大腸菌W3110株を形質転換して組換え大腸菌を得た。なおFcR36i_Cys(配列番号2)において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが改良PelBシグナルペプチド(UniProt No.P0C1C1の1番目から22番目までのアミノ酸残基からなるオリゴペプチドであって、ただし6番目のプロリンをセリンにアミノ酸置換したオリゴペプチド)であり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基であり、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Glu21Gly(この表記は、配列番号1の21番目(配列番号2では28番目)のグルタミン酸がグリシンに置換されていることを表す、以下同じ)、Leu23Met、Val27Glu、Phe29Ile、Gln33Pro、Tyr35Asn、Lys40Gln、Gln48Arg、Tyr51His、Glu54Asp、Asn56Asp、Ser65Arg、Ser68Pro、Tyr74Phe、Phe75Ile、Ala78Ser、Thr80Ser、Asn92Ser、Val117Glu、Lys119Val、Glu121Gly、Asp122Glu、Lys132Arg、Thr140Met、Tyr141Phe、Gly147Val、Tyr158Val、Lys165Glu、Phe171Ser、Phe176Ile、Ser178Arg、Asn180Lys、Glu184Gly、Thr185Ala、Asn187AspおよびIle190Valのアミノ酸置換を有するポリペプチドのアミノ酸配列)であり、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。当該組換え大腸菌を特開2013-085531号公報に記載の方法を参考にして培養し、得られた培養液から遠心分離により大腸菌菌体(湿潤菌体)を得た。
【0038】
(2)(1)で得られた湿潤菌体を、当該湿潤菌体重量の3倍量の1mmol/L EDTAを含む20mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁させ、均一になるまで室温(20℃から25℃)にて撹拌した。
【0039】
(3)室温で撹拌後、核酸分解酵素であるBenzonase(メルク社製)を終濃度2500unit/Lとなるよう添加し、助剤として硫酸マグネシウムを終濃度2mmol/Lとなるよう添加後、室温で撹拌した。
【0040】
(4)室温で撹拌後、糖質分解酵素であるリゾチームを終濃度0.005(w/v)%となるように添加し、さらに室温で撹拌した。
【0041】
(5)室温で撹拌後、非イオン界面活性剤であるTriton X-100(商品名)水溶液を終濃度0.5(w/v)%となるよう添加し、さらに室温で撹拌した。
【0042】
(6)室温で撹拌後、陰イオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムを終濃度0.2(w/v)%となるよう添加し、さらに室温で撹拌した。
【0043】
(7)一晩抽出操作を行なった後、抽出液を遠心分離し(8000rpm、20分、2回)、上清(無細胞抽出液)を得た。
【0044】
(8)(7)で得たFcR36i_Cys抽出液を、あらかじめ20mMのリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィ用担体(TOYOPEARL CM-650M、東ソー製)を充填したカラム(メルクミリポア製)にアプライした。平衡化に用いた緩衝液で洗浄後、0.4mol/Lの塩化ナトリウムを含む20mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0)で洗浄することで、夾雑不純物を除去した。
【0045】
(9)0.7mol/L NaClおよび10%(w/v)グリセロールを含む20mmol/Lのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)(以下、「溶出緩衝液A」とも表記)でFcR36i_Cysを溶出した。
【0046】
(10)(9)で得られた、FcR36i_Cys溶液を、透析により表1の(a)から(o)のいずれかに示す20mmol/L Tris-HCl緩衝液(濃度はいずれも終濃度)に置換した。
【0047】
【表1】
【0048】
(11)緩衝液置換したFcR36i_Cys溶液を限外ろ過膜(ミリポア社製、Amicon Ultra-0.5mL、Ultracel-10K)で沈殿が発生するまで濃縮した。この時、局所的に高濃度のところができないよう、こまめに遠心分離機を止めて撹拌した。
【0049】
(12)遠心分離により(11)で得られた溶液の上清を回収し、280nmの吸光度から上清中のタンパク質濃度を求めた。前記タンパク質濃度をその溶液に対するFcR36i_Cysの飽和濃度とした。
【0050】
比較例1 溶出緩衝液でのヒトFcγRIIIa飽和濃度評価
(1)実施例1(10)での透析緩衝液として溶出緩衝液Aを用いた以外は実施例1と同様の操作を行なった。
【0051】
実施例1および比較例1の結果をまとめて図1に示す。表1(i)の条件、すなわち0.5mol/LのL(+)-アルギニン(L(+)-Arg)を含む溶液では、ヒトFcγRIIIaの飽和濃度が顕著に増加した。一方、終濃度0.1mol/L以下のL(+)-Arg、ポリエチレングリコール(PEG)または硫酸アンモニウム(硫安)を添加しても、ヒトFcγRIIIaの飽和濃度は、アルギニンを含まない溶出緩衝液A(比較例1)のときと同等または低下した。以上の結果から、0.2mol/L以上1mol/L以下のアルギニンおよび/またはその類縁体を含ませることで、ヒトFcγRIIIaの溶解性が向上し、ヒトFcγRIIIaを沈殿させることなく保存できることがわかる。
【0052】
実施例2 アルギニン含有溶液におけるFcR36i_Cysの保存安定性評価
(1)実施例1(9)で得られたFcR36i_Cys溶液に、アルギニンとしての終濃度が0.5mol/LとなるようL(+)-アルギニンおよび/またはL(+)-アルギニン塩酸塩を、終濃度が0.8mol/LとなるようNaClを、それぞれ添加し、pHを8.5に調製後、均一になるよう、転倒混和した。
【0053】
(2)(1)で得られたアルギニンを含むFcR36i_Cys溶液を冷蔵保存し、冷蔵保存開始直後(0日)ならびに保存1日後、8日後、12日後、22日後および33日後の溶液上清中に含まれるタンパク質濃度を、実施例1(12)と同様な方法で測定した。
【0054】
比較例2 溶出緩衝液におけるFcR36i_Cysの保存安定性評価
実施例1(9)で得られたFcR36i_Cys溶液を冷蔵保存し、冷蔵保存開始直後(0日)ならびに保存1日後、8日後、12日後、22日後および33日後の溶液上清中に含まれるタンパク質濃度を、実施例1(12)と同様な方法で測定した。
【0055】
実施例2および比較例2の結果を合わせて表2および図3に示す。ヒトFcγRIIIa保存溶液に、アルギニンを終濃度0.5mol/Lで添加する(実施例2)ことで、アルギニンを添加しないとき(比較例2)と比較し、大幅に保存安定性が向上していることがわかる。具体的には、33日間の冷蔵保存で、アルギニンを含まない保存溶液(比較例2)の場合は10分の1以下までタンパク質濃度が低下したのに対し、0.5mol/Lのアルギニンを含む保存溶液(実施例2)の場合はタンパク質濃度の低下がほとんどなかった。
【0056】
【表2】
図1
図2
図3
【配列表】
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