(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148529
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】接続開閉器
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20220929BHJP
H02G 7/00 20060101ALI20220929BHJP
H01R 4/50 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H02G1/02
H02G7/00
H01R4/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050254
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520123216
【氏名又は名称】北陸電力送配電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神村 明哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 厚司
(72)【発明者】
【氏名】小林 利盛
(72)【発明者】
【氏名】和田 孝平
(72)【発明者】
【氏名】新井 真
(72)【発明者】
【氏名】大島 努
(72)【発明者】
【氏名】上之門 一重
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩
(72)【発明者】
【氏名】隅田 真広
(72)【発明者】
【氏名】扇浦 竜信
【テーマコード(参考)】
5G352
5G367
【Fターム(参考)】
5G352AB07
5G352AC02
5G352AE04
5G352AE07
5G352AM05
5G367BB10
5G367BB14
(57)【要約】
【課題】高所の活線(通電状態)接続工事において、圧縮接続工程を行わずに、架線を接続することにより、作業負担を軽減し、かつ、架線の脱落を抑制することができる接続開閉器を提供することである。
【解決手段】接続開閉器であって、絶縁板と、一対の導電板と、4つのスライドシューと、接続板と、を備え、スライドシューを、外側に向かって移動させることにより、把持面の間に心線を把持する手段と、把持面に把持された心線に、一方向の張力が生じる際に、把持面と心線とを一体的に移動させる、心線の抜け止め手段と、接続板を一対の導電板に着脱させ、通電状態を開閉する手段と、を有する。これにより、架線の接続に圧縮接続工程を行わず、架線の張力を利用して、心線への把持力を大きくすることができるため、作業負担の問題や架線が脱落する問題が解消され、また、接続開閉器単独で、通電状態の開閉操作ができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形板状の絶縁板と、
前記絶縁板上の中心を挟んだ両側に設けられる一対の導電板と、
前記一対の導電板上に設けられるとともに、外側に向かって漸近する対向壁面をそれぞれ有し、導電性を有する一対のクランプと、
前記対向壁面のそれぞれと摺動可能に係合する摺動面、及び、前記絶縁板の長手方向へと延在し心線を把持する把持面を有し、導電性を有する4つのスライドシューと、
前記一対の導電板と着脱可能に係合し、導電性を有する接続板と、
を備え、
前記クランプの前記対向壁面のそれぞれに係合された前記スライドシューを、外側に向かって移動させることにより、前記把持面の間に心線を把持する手段と、
前記把持面に把持された心線に一方向の張力が生じる際に、前記把持面と心線とを一体的に移動させる、心線の抜け止め手段と、
前記接続板を前記一対の導電板に着脱させ、通電状態を開閉する手段と、
を有することを特徴とする接続開閉器。
【請求項2】
前記心線の抜け止め手段は、前記スライドシューの前記把持面が、前記絶縁板の長手方向に沿って波形形状を有することを特徴とする請求項1に記載の接続開閉器。
【請求項3】
前記クランプの前記対向壁面及び前記スライドシューの前記摺動面は、蟻溝及びほぞからなる蟻溝構造を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接続開閉器。
【請求項4】
前記クランプの前記対向壁面に形成された収容部内に、ラチェット部材が配置され、前記ラチェット部材と前記スライドシューの前記摺動面との間に、前記対向壁面に沿って、外側に向かう方向のみに摺動可能なラチェット係合が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の接続開閉器。
【請求項5】
前記ラチェット部材が、付勢部材により、前記スライドシューの前記摺動面に常時押圧されていることを特徴とする請求項4に記載の接続開閉器。
【請求項6】
前記スライドシューは、前記絶縁板側に、前記絶縁板の短手方向に延在する複数のガイド部を備え、
前記把持面が対向する2つ前記クランプにおいて、それぞれの前記ガイド部を、前記絶縁板の長手方向に沿って、互い違いに係合させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の接続開閉器。
【請求項7】
一対の挟持爪を有する接続板ロックをさらに備え、
前記接続板ロックの前記一対の挟持爪が、前記接続板に形成された一対の挟持溝と前記絶縁板とを把持することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の接続開閉器。
【請求項8】
前記クランプ上に回動可能に支持される一端部と、前記クランプに係止可能な他端部を有する心線の脱落防止ロックをさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の接続開閉器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心線を把持する手段を有する接続開閉器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高所の活線(通電状態)接続工事において、バイパス作業を行った後に、架線(電線)を切断し、それぞれの架線の被覆を剥ぎ取り、心線の表面を磨き、2本の架線を接続用スリーブ内で突き合わせ、接続用スリーブの突き合わせ箇所の両側位置を、機械的に圧縮接続する圧縮接続作業が行われていた。
【0003】
この接続用スリーブにおける圧縮接続作業について、例えば、特許文献1には、ヤットコなどのような、所謂、間接活線工具である絶縁操作棒を用いて、仮圧縮接続工程及び本圧縮接続工程を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この圧縮接続工程は、重量のある絶縁操作棒を持った状態で、圧縮を数十回繰り返す必要があるため、時間を要するとともに、身体的負担が非常に大きくなるという問題(以下、「従来の問題点(作業負担が大きい)」という)が生じていた。また、圧縮接続工程の際に用いられる圧縮ダイスは、例えば、架線軸の長手方向と平行である複数の圧縮平面が、架線の軸方向からみて多角形を形成しているため、架線に強い張力が負荷されると、架線が接続用スリーブから脱落してしまう問題(以下、「従来の問題点(架線の脱落)」という)が生じていた。
【0006】
本発明の目的は、高所の活線(通電状態)接続工事において、圧縮接続工程を行わずに、架線を接続することにより、作業負担を軽減し、かつ、架線の脱落を抑制することができる接続開閉器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、接続開閉器は、略矩形板状の絶縁板と、前記絶縁板上の中心を挟んだ両側に設けられる一対の導電板と、前記一対の導電板上に設けられるとともに、外側に向かって漸近する対向壁面をそれぞれ有し、導電性を有する一対のクランプと、前記対向壁面のそれぞれと摺動可能に係合する摺動面、及び、前記絶縁板の長手方向へと延在し心線を把持する把持面を有し、導電性を有する4つのスライドシューと、前記一対の導電板と着脱可能に係合し、導電性を有する接続板と、を備え、前記クランプの前記対向壁面のそれぞれに係合された前記スライドシューを、外側に向かって移動させることにより、前記把持面の間に心線を把持する手段と、前記把持面に把持された心線に一方向の張力が生じる際に、前記把持面と心線とを一体的に移動させる、心線の抜け止め手段と、前記接続板を前記一対の導電板に着脱させ、通電状態を開閉する手段と、を有するものである。
【0008】
また、上記接続開閉器であって、前記心線の抜け止め手段は、前記スライドシューの前記把持面が、前記絶縁板の長手方向に沿って波形形状を有するものとしてもよい。
【0009】
また、上記接続開閉器であって、前記クランプの前記対向壁面及び前記スライドシューの前記摺動面は、蟻溝及びほぞからなる蟻溝構造を備えるものとしてもよい。
【0010】
また、上記接続開閉器であって、前記クランプの前記対向壁面に形成された収容部内に、ラチェット部材が配置され、前記ラチェット部材と前記スライドシューの前記摺動面との間に、前記対向壁面に沿って、外側に向かう方向のみに摺動可能なラチェット係合が形成されているものとしてもよい。
【0011】
また、上記接続開閉器であって、前記ラチェット部材が、付勢部材により、前記スライドシューの前記摺動面に常時押圧されているものとしてもよい。
【0012】
また、上記接続開閉器であって、前記スライドシューは、前記絶縁板側に、前記絶縁板の短手方向に延在する複数のガイド部を備え、前記把持面が対向する2つ前記クランプにおいて、それぞれの前記ガイド部を、前記絶縁板の長手方向に沿って、互い違いに係合させるものとしてもよい。
【0013】
また、上記接続開閉器であって、一対の挟持爪を有する接続板ロックをさらに備え、
前記接続板ロックの前記一対の挟持爪が、前記接続板に形成された一対の挟持溝と前記絶縁板とを把持するものとしてもよい。
【0014】
また、上記接続開閉器であって、前記クランプ上に回動可能に支持される一端部と、前記クランプに係止可能な他端部を有する心線の脱落防止ロックをさらに備えるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高所の活線(通電状態)接続工事において、圧縮接続工程を行わずに、架線を接続することにより、作業負担を軽減し、かつ、架線の脱落を抑制することができる接続開閉器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る接続開閉器の設置個所の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る接続開閉器の斜視図であり、(a)は、取付ける前の状態、(b)は、取付けた後の状態を、それぞれ表す。
【
図3】接続開閉器の断面図であり、(a)は、縦断面図、(b)は、横断面図を、それぞれ表す。
【
図4】接続開閉器の後面側からの部分拡大図である。
【
図5】接続開閉器を接続する工事手順(仮取付け工程)の一例を示す説明図であり、(a)は、引っ掛けた状態、(b)は、脱落防止ロック状態を、それぞれ表す。
【
図6】接続開閉器を接続する工事手順(仮締め付け工程)の一例を示す説明図であり、(a)は、仮締め付け動作中、(b)は、仮締め付け状態を、それぞれ表す。
【
図7】接続開閉器を接続する工事手順(切断工程及び一時的な保護工程)の一例を示す説明図であり、(a)は、切断状態、(b)は、一時的な保護状態を、それぞれ表す。
【
図8】接続開閉器を接続する工事手順(接続工程)の一例を示す説明図であり、(a)は、接続動作中、(b)は、接続状態を、それぞれ表す。
【
図9】接続開閉器を接続する工事手順(接続板ロック工程)の一例を示す説明図であり、(a)は、接続板ロック中、(b)は、接続板ロック状態を、それぞれ表す。
【
図10】接続開閉器を接続する工事手順(防水カバー取付け工程)の一例を示す説明図であり、(a)は、防水カバー取付け中、(b)は、防水カバー取付け状態を、それぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、
図1から
図10を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態の態様に限定されるものではない。
【0018】
<用語について>
本明細書の記載において、「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、「後」とは、それぞれ、図面における「+Y軸方向」、「-Y軸方向」、「+X軸方向」、「-X軸方向」、「+Z軸方向」、「-Z軸方向」を示す。本明細書および特許請求の範囲の記載において、「絶縁板の長手方向」、「絶縁板の短手方向」とは、それぞれ、「架線軸と平行なX軸方向」、「中心軸と平行なY軸方向」を示す。
【0019】
(本実施形態)
<接続開閉器の設置個所について>
図1を用いて、本発明の実施形態に係る接続開閉器100(
図2(a)参照)の設置個所の一例について説明する。活線(通電状態)接続工事において、まず、更新が必要な設備1(例えば、柱上変圧器など)を有する電柱2を跨ぐように、高圧線である架線4上に開閉器設置場所5を含む作業区間Waが設定され、この作業区間Waが、工事用ケーブル6によりバイパスされる。その後、この架線4上の2か所の開閉器設置場所5に、本実施形態の接続開閉器100がそれぞれ接続される。詳細は後述するが、本実施形態の接続開閉器100を用いることにより、従来技術で行っていた圧縮接続工程が不必要になり、従来の問題点(作業負担が大きい及び架線の脱落)を解消することができる。また、接続工事完了後には、接続開閉器100の通電状態を開閉する手段により、単独で、作業区間Waにおける通電状態の開閉操作することができるため、同じ作業区間Waの再工事の際に、新たに架線4を切断せずに対応することができる。
【0020】
<接続開閉器の構成について>
図2から
図4を用いて、本発明の実施形態に係る接続開閉器100について説明する。ここで、X軸方向は、架線軸lwと平行な方向を示し、Y軸方向は、X軸方向と直交し、かつ、中心軸cと平行な方向を示し、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向と直交する方向を示し、架線軸lwと中心軸cとが交差する点を中心位置Oとする。また、
図2(a)では、説明の都合上、錘Wを破線で示している。
図3(a)では、説明の都合上、架線4、接続板80、及び、接続板ロック90を省略して示している。
図4では、説明の都合上、クランプ30を透過させるとともに、ラチェット部材40、付勢部材50、及び、スライドシュー60のみを示すとともに、下側のスライドシュー60にドット模様を付している。
【0021】
接続開閉器100は、絶縁板10、導電板20、クランプ30、ラチェット部材40、付勢部材50、スライドシュー60、脱落防止ロック70、接続板80、接続板ロック90から主に構成される。以下、接続開閉器100のそれぞれの構成を順に説明する。ここで、接続開閉器100において、一対の導電板20、一対のクランプ30、4つのスライドシュー60、及び、一対の脱落防止ロック70は、中心軸cを対称軸として、左右で同一の構成を有するものであるから、以下の説明では、一方について説明する。
【0022】
絶縁板10は、X軸方向に沿って延在する略矩形板状を有し、絶縁性を有するFRP(繊維強化プラスチック)から構成される。絶縁板10は、中心軸cの線上、かつ、中心位置OからY軸方向に等間隔の位置に、X軸方向に延在するとともに、接続板80の固定爪82(
図2(a)参照)と係合する長穴11を備えている。なお、実際には、上方の長穴11が、接続板80の固定爪82と係合するものであり、下方の長穴11は、絶縁板10を180°回転させても利用できるように、汎用性を高めるために設けられている。
【0023】
導電板20は、X軸方向に沿って延在する板形状を有し、導電性を有する金属から構成される。この導電板20は、絶縁板10上の長穴11と重ならない位置に設けられる。この導電板20の中心軸c側には、Z軸方向からみて、下底が上底より長い等脚台形形状を有するとともに、Y軸方向に延在する蟻溝構造を有するほぞ21が形成されている。
【0024】
クランプ30は、導電性を有する金属から構成され、導電板20上に設けられる。ここで、絶縁板10、導電板20及びクランプ30は、リベットR(
図2(a)及び
図3(b)参照)を介して、Z軸方向に一体的に固定されている。このクランプ30は、X軸方向からみて、C字形状を有しており、表面部31と、窪み部32と、を備える。
【0025】
表面部31の上下の外側端部には、錘W(
図2(b)参照)が固定される錘取付部31aがそれぞれ形成される。なお、実際には、下方の錘取付部31aに、錘Wが固定されるものであり、上方の錘取付部31aは、クランプ30を180°回転させても利用できるように、つまり、左右のクランプ30を共通化するために設けられている。この錘Wは、金属から構成されるバランスウェイトであり、錘取付部31aに突起部を差し込んだ状態で、一方及び他方に回転させることにより、着脱可能なツイストロック型を採用するものであるが、これに限られるものではない。さらに、上下の錘取付部31aの中心軸c側には、脱落防止ロック70が取り付けられる支持部31bと、脱落防止ロック70が係合するキノコ形状の係合部31cが形成されている。
【0026】
窪み部32は、
図2(a)に示すように、上下に対向する一対の壁面(対向壁面)33と、一対の壁面33とを繋ぐ底面34と、から画定されている。この一対の壁面33は、平行でなく、中心から外側へと向かうに従い、Y軸方向の相対距離が小さくなるように漸近する。また、
図4に示すように、一対の壁面33は、蟻溝33aと、蟻溝33aのY軸方向端部をさらに窪ませた収容部33bと、を備える。この収容部33bには、弾性体からなる付勢部材(例えば、クッションゴムなど)50を介して、ラチェット部材40が収容されている。このラチェット部材40は、スライドシュー60に常時押圧されるために、付勢部材50の付勢力により、蟻溝33a内へと若干突出するように配置されている。このラチェット部材40の蟻溝33a内へと突出する端部には、垂直面部及び傾斜面部からなる爪部41が、長手方向に沿って複数連続的に形成されている。
【0027】
スライドシュー60は、導電性を有する金属から構成され、クランプ30の窪み部32に上下一対設けられる。このスライドシュー60は、Z軸方向に対向する前面61及び後面62と、架線軸lwに対向する面に形成される把持面63と、クランプ30の壁面33に対向する面に形成される摺動面64と、後面(絶縁板側)62に設けられ、Y軸と平行な方向に延在する複数の板形状のガイド部65(
図4参照)と、を備える。
【0028】
把持面63は、X軸方向からみて、心線4aの円筒面に対応する略半円形状となっているとともに、Z軸方向からみて、X軸方向に沿った波形形状となっている。この把持面63は、上下一対のスライドシュー60がY軸方向に沿って近接する際に、上下の把持面63の間隔が、X軸方向に沿って、均一となるように、互いの把持面63が対応する波形形状を有している。この上下の把持面63に挟まれるように、開口領域60s(
図4参照)が画定される。ここで、X軸方向からみた把持面63の半円形状の半径などを変更することにより、様々な太さの心線4aに対応させることや、Z軸方向からみた把持面63の形状を変更することにより、様々な材質の心線4aに対応させることができる。また、把持面63は、例えば、ショットブラスト、サンドブラスト、及び、放電加工などにより、サンドペーパーの#60から#80程度の粒度の表面状態を有している。
【0029】
摺動面64には、ほぞ64aが形成されるとともに、このほぞ64aの先端部には、垂直面部及び傾斜面部からなる爪部64bが、長手方向に沿って複数連続的に形成されている。詳細は後述するが、このほぞ64aがクランプ30の蟻溝33aに係合した上で、爪部64bがラチェット部材40の爪部41とラチェット係合することにより、壁面33に沿う方向A(
図4参照)のみに摺動可能となっている。これにより、把持力が低下する方向へのスライドシュー60の移動を抑制するため、心線4aへの挟持力を維持することができる。また、ほぞ64a及び蟻溝33aは、対応する形状を有し、それぞれ蟻溝構造を構成しており、ほぞ64a及び蟻溝33aが係合することにより、スライドシュー60がクランプ30から落下すること防ぐことができる。
【0030】
ガイド部65は、
図4に示すように、後面62のほぞ64aの基端部から、架線軸lwを跨ぐように、Y軸と平行な方向に延在する。ここで、上下一対のスライドシュー60がクランプ30の窪み部32に配置される際に、上側のスライドシュー60(図中の白抜き)のガイド部65及び下側のスライドシュー60(図中のドット模様)のガイド部65が、X軸方向に沿って、僅かな隙間を有して互い違いに係合されるとともに、窪み部32の底面34側に形成される摺動空間32gに収納される。その後、上下のスライドシュー60が、中心位置Oから離れるX軸方向へ移動する際に、ガイド部65により、X軸方向の相対位置を変えることなく移動するとともに、上下のスライドシュー60の摺動面64が、壁面33に沿う方向A(
図4参照)へと移動するため、Y軸方向の相対距離が近接することができる。
【0031】
なお、ガイド部65のY軸方向の長さL1が、摺動空間32gの外側端部におけるY軸方向の長さL2より大きく設定されている。この長さL1及び長さL2の関係を適宜選択することにより、上下のスライドシュー60が、中心位置Oから離れるX軸方向に移動する際に、ガイド部65の自由端をストッパとして壁面33に当接させ、上下のスライドシュー60のX軸方向における可動範囲を設定することができる。
【0032】
脱落防止ロック70は、剛性を有する金属から構成され、クランプ30の支持部31bに回動可能に支持される一端部と、クランプ30の係合部31cに係止可能なフック71を有する他端部と、を備えている。脱落防止ロック70を、X軸方向を向く位置(開状態)からY軸方向を向く位置(閉状態)へと回動させることにより、フック71が、非係合状態からクランプ30の係合部31cと係合する係合状態となる。この脱落防止ロック70は、上下のスライドシュー60が、心線4aを挟持した際に、クランプ30の一対の壁面33が相互に離間することを防ぐ、開き止めの機能を有している。
【0033】
接続板80は、導電性を有する金属から構成され、導電板20上に設けられる。この接続板80は、後面のX軸方向両側に、Z軸方向からみて、下底が上底より長い等脚台形形状を有するとともに、Y軸方向に延在する蟻溝81(
図3(b)参照)が形成されている。この蟻溝81は、導電板20のほぞ21と対応する形状からなる蟻溝構造を構成する。また、接続板80は、中央部に形成され、後面から突出する固定爪82と、固定爪82を挟んで上下に設けられた一対の挟持溝83と、を備える。
【0034】
接続板ロック90は、弾性変形可能な材料から構成され、接続板80上に設けられる。この接続板ロック90は、上下端の後面からZ軸方向に離間して延在する一対の挟持爪91を備える。
【0035】
<接続開閉器を接続する工事手順について>
図5から
図10を用いて、接続開閉器100を接続する工事手順を説明する。ここで、本実施形態における接続開閉器100を接続する工事は、活線(通電状態)接続工事であるため、最初の仮取付け工程の前工程として、
図1に示すように、工事用ケーブル6を用いて、設定された作業区間Waをバイパスし、同電位にする。さらに、開閉器設置場所5の架線4の被覆を、例えば、35~40cm程度、皮むき機などの専用工具を用いて剥く。ここで、従来技術における架線4の被覆を剥く作業は、架線4を切断した後に行っていたため、二回必要であったが、本実施形態における架線4の被覆を剥く作業は、架線4が繋がった状態で行い、一回で済むため、作業効率を向上させることができる。
【0036】
<接続開閉器の初期状態について>
接続工事に用いられる接続開閉器100の初期状態について説明する。まず、クランプ30に対する各スライドシュー60の取付け位置を、中心軸c寄りに設定し、上下の把持面63間のY軸方向の距離、つまり、開口領域60sを大きくする(
図2(a)の左側のスライドシュー60参照)。また、心線4aが把持面63へとアクセスできるように、脱落防止ロック70を、開状態とする。さらに、錘Wを左右一対のクランプ30の下方の錘取付部31aにそれぞれ固定する。
【0037】
<仮取付け工程について>
図5(a)及び
図5(b)を用いて、仮取付け工程について説明する。仮取付け工程として、錘Wが固定された接続開閉器100を、ヤットコを用いて、開口領域60sを介して、架線4の心線4aに引っ掛ける。この際、接続開閉器100と錘Wとのバランス状態により、接続開閉器100が心線4a上で自立するとともに、上方のスライドシュー60の把持面63が心線4aを支持する。これにより、ヤットコが、水平方向を向くクランプ30の表面部31などにアクセスすることを可能としている。その後、ヤットコを用いて、脱落防止ロック70を、開状態から閉状態となる方向B(
図5(b)の白抜き矢印参照)へと回動させる。これにより、仮に、心線4aが、上方のスライドシュー60の把持面63から外れたとしても、脱落防止ロック70が心線4aを保持するため、接続開閉器100が心線4aから脱落することを防止できる。
【0038】
<仮締め付け工程について>
次に、
図6(a)及び
図6(b)を用いて、仮締め付け工程について説明する。なお、
図6(a)では、説明の都合上、クランプ30及び心線4aを透過させるとともに、絶縁板10、導電板20、ラチェット部材40、付勢部材50、及び、スライドシュー60のみを示している。
【0039】
ここで、接続開閉器100は、心線4aを把持する手段と、心線4aの抜け止め手段と、を有する。まず、
図6(a)に示すように、心線4aを把持する手段は、上下のスライドシュー60を、中心位置Oから離れるX軸方向へと移動させる際に、上下の摺動面64が一対の壁面33に沿う方向Cに移動することにより、把持面63同士のY軸方向の相対距離が近接し、上下の把持面63の間に、心線4aを挟持することができる。この際、互い違いに係合される上下のガイド部65により、上下のスライドシュー60のX軸方向の相対位置を不変とすることができる。また、スライドシュー60の爪部64bとラチェット部材40の爪部41とをラチェット係合させることにより、上下の摺動面64が一対の壁面33に沿う方向Cのみ摺動可能にできるため、把持力が低下する方向へとスライドシュー60が移動することを抑制し、心線4aへの挟持力を維持することができる。この際、ラチェット部材40が、付勢部材50により、スライドシュー60の摺動面64に常時押圧されるため、ラチェット部材とスライドシューの摺動面との接触を確実にし、心線4aへの挟持力をさらに維持することができる。
【0040】
次に、心線4aの抜け止め手段は、上下の把持面63が粗い表面状態を有する構成や、上下の把持面63の間に形成される波形形状を有する構成を備える。この心線4aの抜け止め手段により、心線4aと上下の把持面63との接触面積を増加させ、心線4aの上下の把持面63に対する静止摩擦力を比較的大きくすることができる。また、心線4aの抜け止め手段は、心線4aの局所部分に集中応力が働かないように構成されているため、心線4aへの把持力により、心線4aが切断されることを抑制できる。
【0041】
仮締め付け工程として、ヤットコに取付けたハンマー(不図示)や締め付け機(不図示)などを用いて、上下のスライドシュー60を、中心位置Oから離れるX軸方向へと、予め設定された位置まで移動させる。この際、心線4aを把持する手段により、心線4aへの所望の挟持力を生じさせ、直線状に延在していた心線4aを、上下の把持面63の間に形成される波形形状へと確実に沿わせるとともに、心線4aの抜け止め手段により、心線4aの上下の把持面63に対する静止摩擦力を大きくし、心線4aを上下のスライドシュー60に対して一体的に固定することができる。
【0042】
本実施形態の接続開閉器100は、心線4aを把持する手段及び心線4aの抜け止め手段を有しているため、高所の活線(通電状態)接続工事において、圧縮接続工程を行わずに、架線4を接続することができ、従来の問題点(作業負担が大きい)を解消することができる。
【0043】
本実施形態の接続開閉器100において、上下のスライドシュー60は、ラチェット係合により、壁面33に沿う方向C(
図6(a)の白抜き矢印参照)のみに摺動可能とされているが、これに限らない。例えば、クランプ30の前面側や後面側のラチェット部材40に対応する位置に、貫通孔35を設けておき、上下の把持面63から心線4aを外す必要がある場合には、この貫通孔35に棒形状の部材(不図示)を挿入し、付勢部材50を縮ませながら、ラチェット部材40をスライドシュー60から離間させる方向へと移動させる。これにより、ラチェット部材40とスライドシュー60とのラチェット係合を解除させ、上下の把持面63から心線4aを外すことができる。
【0044】
<切断工程及び一時的な保護工程について>
さらに、
図7(a)を用いて、切断工程について説明する。まず、心線4aを、中心軸cを挟んだ2カ所で切断し、左右の心線4aの先端間に、例えば、30mm以上の長さを有する切断領域Caを確保する。この際、左右の心線4aは、それぞれ、導電性を有するスライドシュー60、クランプ30、及び、導電板20に一体となっており、部分的な電気的導通を確保しているが、左右の導電板20の間には、絶縁板10が介在しているため、左右の心線4aの間の電路は切断状態へと移行する。
【0045】
ここで、架線4の切断時においては、左右の架線4には、極めて大きな張力が一方向のみに生じるため、左右の心線4aは、瞬間的に、中心位置Oから離れるX軸方向へと引っ張られる。この際には、心線4aの上下の把持面63に対する静止摩擦力は、心線4aの抜け止め手段により、比較的大きくなっているため、心線4aを上下のスライドシュー60に対して一体的に移動させることができる。加えて、上下のスライドシュー60が中心位置Oから離れるX軸方向へと移動される時には、心線4aを把持する手段により、心線4aへの挟持力が増加されるため、心線4aと上下のスライドシュー60とをさらに強固に固定することができる。
【0046】
本実施形態の接続開閉器100は、心線4aを把持する手段及び心線4aの抜け止め手段を有しているため、架線4の張力を利用して、心線4aへの把持力を大きくでき、従来の問題点(架線の脱落)を解消することができる。
【0047】
次に、
図7(b)を用いて、一時的な保護工程について説明する。絶縁キャップIcは、非導電性を有する樹脂からから構成され、絶縁キャップ兼雨避けカバーとして用いられる。絶縁キャップIcは、下方側に開口部(不図示)を設ける有蓋形状を有するとともに、X軸方向へと延在する収容空間Ic1と、収容空間Ic1内の上蓋から垂設され、XY平面上に延在する縦壁Ic2を備える。この縦壁Ic2は、接続板80と略同じ形状(固定爪82及び一対の挟持溝83を除く)を有しており、一対の蟻溝Ic3が形成されている。この蟻溝Ic3は、導電板20のほぞ21と対応する形状からなる蟻溝構造を構成する。
【0048】
ここで、絶縁キャップIcを移動方向D(
図7(b)の白抜き矢印参照)へと移動させながら、絶縁キャップIcを導電板20に、蟻溝Ic3及びほぞ21を介して係合させる。これにより、接続開閉器100は、左右の心線4a同士にショートなどが生じないように、絶縁キャップIcにより、一時的な保護状態とされる。その後、
図1に示すように、作業区間Waを死線(非通電状態)とし、更新が必要な設備1に対して取り換え作業を行うことができる。この取り換え作業は、例えば、柱上変圧器などの交換であれば、半日から1日程度であり、その間、接続開閉器100は、絶縁キャップIcによって、一時的な保護状態で放置される。
【0049】
<接続工程について>
また、
図8(a)及び
図8(b)を用いて接続工程について説明する。まず、
図1に示すように、更新が必要な設備1に対しての取り換え作業が完了した後に、絶縁キャップIcを、上方に移動させて、接続開閉器100から外す。ここで、本実施形態の接続開閉器100は、接続板80を一対の導電板20に着脱させ通電状態を開閉する手段を有している。この通電状態を開閉する手段は、接続板80を移動方向E(
図8(a)の白抜き矢印参照)へと移動させながら、接続板80を一対の導電板20に、蟻溝81及びほぞ21を介して係合させる。これにより、
図8(b)に示すように、左右の心線4aの間に電路(導電性を有するスライドシュー60、クランプ30、導電板20、及び、接続板80)が形成され、電気的導通が確保される。この際に、蟻溝81及びほぞ21が、それぞれ対応する下底が上底より長い等脚台形形状を有しているため、接続板80の自重により固定される。また、これと同時に、接続板80の固定爪82が、絶縁板10の長穴11とスナップ係合されることにより、より強固に固定される。
【0050】
<接続板ロック工程について>
そして、
図9(a)及び
図9(b)を用いて接続板ロック工程について説明する。接続板ロック90を移動方向F(
図9(a)の白抜き矢印参照)へと移動させながら、接続板ロック90の一対の挟持爪91を弾性変形させて、接続板80の一対の挟持溝83及び絶縁板10に把持させる(
図9(b)参照)。これにより、仮に、接続板80に何らかの外力が加わった場合でも、接続板ロック90により、接続板80が導電板20から外れないように固定され、電気的導通が維持される。
【0051】
<防水カバー取付け工程について>
最後に、
図10(a)及び
図10(b)を用いて防水カバー取付け工程について説明する。防水カバーWpは、非導電性を有するPP(ポリプロピレン)からから構成される。
図10(a)に示すように、防水カバーWpは、対称形状からなる一対の半割部Wp1,Wp2を有しており、各半割部Wp1,Wp2は、下方側に開口部(不図示)を設ける有蓋形状を有するとともに、X軸方向へと延在する収容空間(不図示)を備える。
【0052】
ここで、仮取付け工程においては、接続開閉器100は、錘Wとのバランス状態により、心線4a上で自立していたが、切断工程において、接続開閉器100は、心線4aを把持する手段及び心線4aの抜け止め手段により、心線4aに堅固に固定されている。よって、防水カバー取付け工程においては、もはや錘Wがなくとも、接続開閉器100の自立状態を維持できるため、まず、接続開閉器100から錘Wを取り外す。その後、防水カバーWpを移動方向G(
図10(a)の白抜き矢印参照)へと移動させ、防水カバーWpの一方の半割部Wp1により、接続開閉器100を覆う。さらに、防水カバーWpの他方の半割部Wp2を回転方向H(
図10(b)の白抜き矢印参照)へと回転させ、各半割部Wp1,Wp2の開口部同士を係合させる。これにより、接続開閉器100及び架線4は、心線4aが露出しないように、防水カバーWpにより挟み込まれ、収容空間は密閉される。その後、
図1に示すように、作業区間Waをバイパスさせている工事用ケーブル6を架線4から取り外すことにより、開閉器設置場所5に設けられた接続開閉器100を介して、送電を行うことができる。
【0053】
なお、接続工事完了後において、同じ作業区間Waの再工事が必要になった場合には、まず、新たに架線4を切断せずに、接続開閉器100の通電状態を開閉する手段により、単独で、作業区間Waにおける通電状態の開閉操作することができる。具体的には、まず、工事用ケーブル6により、作業区間Waをバイパスする。その後、接続開閉器を接続する工事手順における防水カバー取付け工程、接続板ロック工程、及び、接続工程、一時的な保護工程のそれぞれを逆の手順で行うことにより、作業区間Waを死線(非通電状態)とし、取り換え等の作業を行うことができる。
【0054】
本実施形態の接続開閉器100は、心線4aを把持する手段を有しているため、高所の活線(通電状態)接続工事において、圧縮接続工程を行わずに、架線4を接続することができ、従来の問題点(作業負担が大きい)を解消することができる。また、本実施形態の接続開閉器100は、心線4aを把持する手段及び心線4aの抜け止め手段を有しているため、架線4の張力を利用して、心線4aへの把持力を大きくでき、従来の問題点(架線の脱落)を解消することができる。さらに、本実施形態の接続開閉器100は、通電状態を開閉する手段を有しているため、接続開閉器100が単独で、作業区間Waにおける通電状態の開閉操作することができるため、同じ作業区間の再工事の際に、新たに架線4を切断せずに対応することができる。
【符号の説明】
【0055】
100 接続開閉器
4 架線
4a 心線
10 絶縁板
11 長穴
20 導電板
21 ほぞ
30 クランプ
31 表面部
31a 錘取付部
31b 支持部
31c 係合部
32 窪み部
32g 摺動空間
33 一対の壁面(対向壁面)
33a 蟻溝
33b 収容部
40 ラチェット部材
41 爪部
50 付勢部材
60 スライドシュー
60s 開口領域
61 前面
62 後面(絶縁板側)
63 把持面
64 摺動面
64a ほぞ
64b 爪部
65 ガイド部
70 脱落防止ロック
71 フック
80 接続板
81 蟻溝
82 固定爪
83 挟持溝
90 接続板ロック
91 挟持爪
Ic 絶縁キャップ
Ic1 収容空間
Ic2 縦壁
Ic3 蟻溝
W 錘
Wp 防水カバー
Wp1,Wp2 半割部