(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148843
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】有機薄膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220929BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220929BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H05B33/14 A
H01L27/32
G09F9/30 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050669
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
【テーマコード(参考)】
3K107
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC12
3K107CC21
3K107DD72
3K107DD73
3K107DD78
3K107FF00
3K107FF18
5C094AA24
5C094AA37
5C094BA27
5C094DA13
5C094FA02
5C094FB01
5C094JA20
(57)【要約】
【課題】有機EL素子の駆動電圧を低減でき、駆動安定性を向上可能な有機薄膜を提供する。
【解決手段】pKaの値が0以上9以下で且つ分子量1,000以下の低分子有機材料である第1材料と、正孔を輸送可能な第2材料と、を含む単一の膜であることを特徴とする、有機薄膜である。前記第1材料は、pKaの値が0.7以上6.4以下で且つ分子量1,000以下の低分子有機材料であることが好ましく、前記第2材料は、トリアリールアミン構造又はカルバゾール構造を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pKaの値が0以上9以下でかつ分子量1,000以下の低分子有機材料である第1材料と、正孔を輸送可能な第2材料と、を含む単一の膜であることを特徴とする、有機薄膜。
【請求項2】
前記第1材料は、pKaの値が0.7以上6.4以下でかつ分子量1,000以下の低分子有機材料である、請求項1に記載の有機薄膜。
【請求項3】
前記第1材料が、カルボキシル基を有する、請求項1又は2に記載の有機薄膜。
【請求項4】
前記第2材料が、トリアリールアミン構造又はカルバゾール構造を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機薄膜。
【請求項5】
陰極と陽極との間に、発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記発光層との間に、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機薄膜を有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記陽極と前記発光層との間に、前記第1材料と前記第2材料とを含む膜を有し、
前記発光層と、前記第1材料と第2材料とを含む膜と、の間に、前記第2材料を含む膜を有する、請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子、表示装置及び照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄く、柔軟でフレキシブルである。また、有機EL素子を用いた表示装置は、現在主流となっている液晶表示装置及びプラズマ表示装置と比べて、高輝度、高精細な表示が可能である。また、有機EL素子を用いた表示装置は、液晶表示装置に比べて視野角が広い。このため、有機EL素子を用いた表示装置は、現在、テレビや携帯電話のディスプレイ等としての利用の拡大が進んでいる。また、有機EL素子は、照明装置としての利用も期待されている。
【0003】
有機EL素子の一般的な正孔注入材料としては、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)や酸化モリブデンのように、ホスト-ドーパント間で電荷移動錯体を形成し、ホスト材料のHOMO(価電子帯の最高エネルギー)準位からドーパント材料(正孔注入材料)の深いLUMO(伝導帯の最低エネルギー)準位へ電荷を移動させて、ホスト材料の正孔注入障壁を下げる材料がある。一方で、強酸性の正孔注入材料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)(PEDOT:PSS)のように、スルホン酸等の強酸を含む強酸性ドーパントを電子不足のポリマーに追加した材料の他、最近では、BCF等のルイス酸は溶媒中の僅かな水と反応して強いブレンステッド酸となり、直接ホスト材料をプロトン化、ラジカルカチオンを発生させて正孔注入障壁を低減する強酸性ドーパントであったことも報告されている(非特許文献1)。これらの中でも、強酸性のドーパントを使用することにより、ホスト材料となる正孔を輸送可能な材料のHOMO(価電子帯の最高エネルギー)準位が深い材料であっても、p型のドーピングが可能であるため、使用できる材料の選択肢が広くなる利点がある。
【0004】
しかしながら、スルホン酸含有材料やその他の強酸は、その高い酸性度により下部電極であるITO陽極を溶解し、溶出したインジウムイオンが発光層近傍まで移動して、素子の駆動寿命を損なうことが確認されている(非特許文献2)。そのため、インジウムイオンの溶出を防ぐために、SAM表面処理を行うことや、スルホン酸のHをナトリウムイオンに置換することにより、PEDOT:PSSの中性化等が試みられている。(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Brett Yurash他,Nature Materials,volume 18,1327(2019)
【非特許文献2】Sung Jin Jo他,J.Appl.Phys.,103,114502(2008)
【非特許文献3】Joseph Cameron他,Mater.Horiz.,Advance Article(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献3に開示の技術には、処理時間の長いSAM表面処理工程の増加によるコスト増や、Naイオンの拡散によるデバイス駆動寿命への悪影響や中性化によるHOMOの深い材料への正孔注入性能の低下等、課題が残されている。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、有機EL素子の駆動電圧を低減でき、駆動安定性を向上可能な有機薄膜を提供することを課題とする。
また、本発明は、前記有機薄膜を用いた有機EL素子、並びに、該有機EL素子を具えた表示装置及び照明装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、有機半導体への酸性ドーパント材料の開発では、カルボン酸等の酸性度の弱いドーパント材料では、ホスト材料へのプロトン付与の効果が小さ過ぎ、正孔注入促進の効果が得られないと考えられていた。これに対して、電子注入層材料の開発では、近年、塩基性材料を用いてホスト-ドーパント間に水素結合による分極を形成し、ホスト材料から完全にプロトンを引き抜かない弱い分極でも、電子注入障壁を大幅に低減できることが報告されている(Hirohiko Fukagawa他,Adv.Mater.,1904201(2019))。
そこで、本発明者らは、スルホン酸等の強酸を含む材料ではなく、酸性度の弱い材料でも、分極により十分正孔注入性能を向上できるものと考え、鋭意検討を行った。その結果、特に弱酸である安息香酸やフェノールの誘導体等のpKaの値が0以上かつ低分子(分子量1,000以下)の有機材料でも、ホスト材料との間に分極を発生させて正孔注入障壁を低減して、有機EL素子の駆動電圧を低減できるだけでなく、該pKaの値が0以上の有機材料を、ドーパントとして添加することにより、ホスト材料の耐久性が向上して、素子の駆動安定性が劇的に向上することを発見し、本発明に到達したものである。
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
本発明の有機薄膜は、pKaの値が0以上9以下で且つ分子量1,000以下の低分子有機材料である第1材料と、正孔を輸送可能な第2材料と、を含む単一の膜であることを特徴とする。
かかる本発明の有機薄膜は、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を低減でき、駆動安定性を向上させることができる。
【0010】
なお、本明細書において、「pKa」は、通常「25℃の水中における酸解離定数」、特に電気化学的に中性の分子からのH+の乖離し易さを示す「pKa1」の値とする。水中で測定できないものは、「25℃のジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数」を意味し、DMSO中でも測定できないものは、「25℃のアセトニトリル中の酸解離定数」を意味する。「pKa」は、好ましくは「25℃の水中における酸解離定数」を意味する。
【0011】
本発明の有機薄膜の好適例においては、前記第1材料は、pKaの値が0.7以上6.4以下で且つ分子量1,000以下の低分子有機材料である。この場合、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を更に低減でき、駆動安定性を更に向上させることができる。
【0012】
本発明の有機薄膜の他の好適例においては、前記第1材料が、カルボキシル基を有する。この場合も、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を更に低減でき、駆動安定性を更に向上させることができる。
【0013】
本発明の有機薄膜の他の好適例においては、前記第2材料が、トリアリールアミン構造又はカルバゾール構造を含む。この場合も、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を更に低減でき、駆動安定性を更に向上させることができる。
【0014】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極と陽極との間に、発光層を有し、
前記陽極と前記発光層との間に、上記の有機薄膜を有することを特徴とする。
かかる本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、駆動電圧が低く、駆動安定性に優れる。
【0015】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の他の好適例においては、前記陽極と前記発光層との間に、前記第1材料と前記第2材料とを含む膜を有し、
前記発光層と、前記第1材料と第2材料とを含む膜と、の間に、前記第2材料を含む膜を有する。この場合も、駆動電圧が更に低くなり、駆動安定性が更に向上する。
【0016】
また、本発明の表示装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の表示装置は、駆動電圧が低く、駆動安定性に優れる。
【0017】
また、本発明の照明装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の照明装置は、駆動電圧が低く、駆動安定性に優れる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機EL素子の駆動電圧を低減でき、駆動安定性を向上可能な有機薄膜を提供することができる。
また、本発明によれば、前記有機薄膜を用いた、駆動電圧が低く、駆動安定性に優れた有機EL素子、並びに、該有機EL素子を具えた表示装置及び照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の有機薄膜、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0021】
[有機薄膜]
本実施形態の有機薄膜は、pKaの値が0以上9以下で且つ分子量1,000以下の低分子有機材料である第1材料と、正孔を輸送可能な第2材料と、を含む単一の膜であることを特徴とする。
【0022】
前記第1材料は、pKaの値が0以上9以下の有機材料であり、第2材料にプロトン(H+)を供与する能力を有する。ここで、第1材料としての、有機材料は、酸として働き、そのpKaの値は、有機材料自体の酸解離定数であって、共役酸の酸解離定数ではない。
前記第1材料は、pKaの値が0以上であり、上述したスルホン酸等の強酸性ドーパントに比べて、酸性度が低く、下部電極であるITO等からなる陽極を溶解し難い。そのため、前記第1材料を含む有機薄膜を、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動安定性を向上させることができる。
また、本実施形態の有機薄膜は、前記第2材料を含み、該第2材料が正孔を輸送可能なため、例えば、有機EL素子の、発光層と陽極との間に配置することで、正孔注入性能が向上し、有機EL素子の駆動電圧を低減できる。
従って、本実施形態の有機薄膜は、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を低減でき、駆動安定性を向上させることができる。
【0023】
また、前記第1材料は、前記第2材料との間に分極を発生させて正孔注入障壁を低減するため、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を低減できる。
更には、前記第1材料を、ドーパントとして前記第2材料に添加することにより、第2材料の耐久性が向上するため、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を、有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動安定性が大幅に向上する。
【0024】
前記第1材料に用いられる有機材料は、pKaの値が0~9の間であればよく、0.7~6.4であることがより好ましい。pKaの値が0~9の範囲の弱酸性有機材料を用いることにより、強酸性材料による電極材料の溶解・拡散によるデバイスの悪影響を防ぎつつ、正孔注入性能及び安定性を向上させることができる。また、pKaの値が0.7~6.4の範囲の有機材料を用いることで、有機EL素子の駆動電圧を更に低減でき、駆動安定性を更に向上させることができる。
【0025】
前記第1材料に用いられる有機材料としては、上記のpKaの範囲であれば特に限定されるものではないが、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、ヒドロキシ基のいずれか、もしくはその複数の酸性官能基を含んだものであることが好ましい。官能基が結合する対象は、鎖状や環状等の炭化水素基であっても良く、環状である場合には、複素環式の化合物であっても良く、置換基を有してもよい。
酸性度及び材料の安定性の面から、第1材料としては、カルボキシ基を含む有機材料が特に好ましい。第1材料が、カルボキシル基を有する場合、有機薄膜を有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を更に低減でき、駆動安定性を更に向上させることができる。
【0026】
前記酸性官能基を含む材料としては、下記構造式:
【化1】
で表されるフタル酸(PA)、イソフタル酸(IPA)、テレフタル酸(TPA)、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(TMA)、ピロメリット酸(PMA)、メリット酸(MA)、4,4’-ビフェニルジカルボン酸(BPBA)、9,10-アントラセンジカルボン酸(ADCA)、トリス(4-カルボキシフェニル)アミン(TNBA)、4-ホスホノ安息香酸(PBA)、2,5-ピリジンジカルボン酸(PDBA)等のように、1分子中に複数の酸性官能基を含む化合物が好ましい。
【0027】
また、酸性官能基が結合する炭化水素基には、フッ素原子やトリフルオロメチル基、シアノ基等の電子吸引性の置換基を有するものが好ましい。特には、酸性度の点から、第1材料としては、フルオロ安息香酸誘導体及びフルオロフェノール誘導体が好ましく、フルオロ安息香酸誘導体がより好ましい。ここで、フルオロ安息香酸誘導体及びフルオロフェノール誘導体としては、フルオロ安息香酸又はフルオロフェノール類の水素原子もしくはフッ素原子の1又は2以上が、置換基で置換された構造の化合物も含まれる。
【0028】
フルオロ安息香酸誘導体又はフルオロフェノール誘導体の例としては、下記構造式:
【化2】
で表されるペンタフルオロ安息香酸(PFBA)、テトラフロオロヒドロキノン(F4-HQ)、2,3,5,6-テトラフロオロ-4-ヒドロキシ安息香酸(F4-HBA)、テトラフロオロベンゼン-1,2-ジオール(F4-BDO)、テトラフルオロテレフタル酸(F4-TPA)、テトラフルオロフタル酸(F4-PA)、テトラフルオロイソフタル酸(F4-IPA)等が挙げられる。
これらの中でも、テトラフルオロテレフタル酸(F4-TPA)やテトラフルオロフタル酸(F4-PA)はpKaが小さく、有機EL素子の正孔注入層として用いた際に、長い寿命が得られるため特に好ましい。
【0029】
前記第2材料は、正孔を輸送可能な材料であればよく、有機材料であることが好ましい。第2材料として、より好ましくは、最高占有軌道(HOMO)準位が4.0eV~7.0eVの有機材料であり、その中でも、HOMO準位が4.5eV~6.0eVのp型有機半導体材料が特に好ましい。例えば、有機EL素子の正孔輸送層の材料として、下記に示す従来公知のいずれの材料を用いてもよいが、これらの中でも、上記HOMO準位の要件を満たす材料が好ましい。また、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独又は組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、ポリトリアリールアミン(PTAA)、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂又はそれらの誘導体等が挙げられる。また、これらの高分子材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0031】
前記p型の低分子材料としては、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサン等のアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’-ビス[N-フェニル-N-[4’-ジフェニルアミノ-1,1’-ビフェニル-4-イル]アミノ]-1,1’-ビフェニル(TPTE)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス[4’-(ジフェニルアミノ)ビフェニル-4-イル]ベンジジン(TPT1)等のアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)等のフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾール、4,4’,4”-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン(TcTa)等のカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベン等のスチルベン系化合物、OxZ等のオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等のトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾール等のトリアゾール系化合物、イミダゾール等のイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノン等のフルオレノン系化合物、ポリアニリン等のアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロール等のピロール系化合物、フルオレン等のフルオレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン等のポルフィリン系化合物、キナクリドン等のキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニン等の金属又は無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニン等の金属又は無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジン等のベンジジン系化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、TPTE等のアリールアミン系化合物が特に好ましい。
【0032】
前記第2材料は、トリアリールアミン構造又はカルバゾール構造を含むことが特に好ましい。第2材料がトリアリールアミン構造又はカルバゾール構造を含む場合、有機薄膜を有機EL素子に適用することで、有機EL素子の駆動電圧を更に低減でき、駆動安定性を更に向上させることができる。
ここで、トリアリールアミン構造を含む有機材料とは、窒素原子にアリール基が3つ結合した構造を含む有機材料であり、該トリアリールアミン構造を含む有機材料としては、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’-ビス[N-フェニル-N-[4’-ジフェニルアミノ-1,1’-ビフェニル-4-イル]アミノ]-1,1’-ビフェニル(TPTE)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス[4’-(ジフェニルアミノ)ビフェニル-4-イル]ベンジジン(TPT1)、ポリトリアリールアミン(PTAA)等が挙げられる。
また、カルバゾール構造を含む有機材料としては、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾール、4,4’,4”-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン(TcTa)、ポリ(N-ビニルカルバゾール)等が挙げられる。
【0033】
本実施形態の有機薄膜に含まれる第1材料と第2材料との比率は、特に限定されるものではなく、第1材料及び第2材料のそれぞれに使用する化合物の種類に応じて適宜決定できる。第1材料と第2材料との比率は、質量比(第1材料:第2材料)で0.1:99.9~1:1であることが好ましく、0.5:99.5~1:2であることが更に好ましく、1:99~1:3であることがより一層好ましい。上記比率である場合、有機薄膜に第1材料と第2材料とが含まれていることによる正孔輸送性及び正孔注入性の向上効果が顕著となる。
【0034】
本実施形態の有機薄膜は、第1材料と、第2材料と、を含むものである。本実施形態の有機薄膜は、塗布によって形成しても、蒸着によっても形成してもよいが、塗布によって形成することが好ましい。
【0035】
前記有機薄膜を、塗布により製造する場合、第1材料と、第2材料と、を含む塗料組成物を作製して、該塗料組成物を塗布することで有機薄膜を製造することができる。また、第2材料のみを含む塗料組成物を塗布した後に、これら両方の材料を含む塗料組成物を塗布してもよく、これら両方の材料を含む塗料組成物を塗布した後に、いずれか一方の材料のみを含む塗料組成物を塗布してもよい。このような、第1材料と、第2材料と、を含む塗料組成物を有機薄膜の被形成面上に塗布する工程を含む有機薄膜の製造方法は、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
また、第2材料のみを含む塗料組成物を先に有機薄膜の被形成面上に塗布する工程と、該工程によって形成された塗膜の上に両方の材料を含む塗料組成物を塗布する工程と、を含む有機薄膜の製造方法、又は、第1材料と第2材料の両方の材料を含む塗料組成物を塗布する工程と、該工程によって形成された塗膜の上に第1材料又は第2材料のいずれか一方のみを含む塗料組成物を塗布する工程と、を含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
【0036】
塗料組成物は、例えば、容器に入れた溶媒中に第1材料と第2材料をそれぞれ所定量供給、又は容器に入れた第1材料と第2材料に溶媒を供給して撹拌し、溶解させる方法により得られる。第1材料及び第2材料を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、無機溶媒や有機溶媒、又はこれらを含む混合溶媒等を用いることができる。
無機溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、リン酸、塩酸等が挙げられる。
有機溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系、トリエチルアミン、ピリジン等の有機アミン系、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒のような各種有機溶媒等が挙げられ、これらの中でもメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン等のケトン系溶媒が好ましい。
【0037】
第1材料及び第2材料を含む塗料組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。
【0038】
このようにして塗料組成物を塗布した後、アニール処理を施すことが好ましい。アニール処理の条件は、70~200℃で0.1~5時間、窒素雰囲気又は大気下で行うことが好ましい。このようなアニール処理を施すことにより、溶媒を気化させて有機薄膜を成膜できる。
【0039】
[有機EL素子]
本実施液体の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極と陽極との間に、発光層を有し、前記陽極と前記発光層との間に、上記の有機薄膜を有することを特徴とする。
本実施形態の有機EL素子は、上述した、比較的酸性度が低い(pKaの値が0以上の)前記第1材料を用いているため、駆動安定性に優れる。また、本実施形態の有機EL素子においては、陽極と発光層との間に、pKaの値が0以上の第1材料を含む層(例えば、正孔注入層)を形成することにより、有機EL素子の駆動電圧が低くなり、駆動安定性が向上する。
【0040】
本実施形態の有機EL素子は、前記陽極と前記発光層との間に、前記第1材料と前記第2材料とを含む膜を有し、前記発光層と、前記第1材料と第2材料とを含む膜と、の間に、前記第2材料を含む膜を有することが好ましい。この場合も、駆動電圧が更に低くなり、駆動安定性が更に向上する。
【0041】
次に、本発明の有機EL素子について、例を挙げて詳細に説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図1に示す本実施形態の有機EL素子1は、陽極3と陰極9との間に発光層6を有する。
図1に示す有機EL素子1では、陽極3と発光層6との間に、本発明の有機薄膜を含む正孔注入層4を有している。
本実施形態の有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、正孔注入層4と、正孔輸送層5と、発光層6と、電子輸送層7と、電子注入層8と、陰極9と、がこの順に形成された積層構造を有する。
【0042】
図1に示す有機EL素子1は、基板2と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板2側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0043】
(基板)
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。基板2の材料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
一方、基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0044】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
一方、有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0045】
前記基板2の平均厚さは、基板2の材料等に応じて決定でき、0.1~30mmであることが好ましく、0.1~10mmであることがより好ましい。なお、基板2の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0046】
(電極)
本実施形態の有機EL素子1において、陽極3及び陰極9としては、公知の導電性材料を適宜用いることができるが、光取り出しのために少なくともいずれか一方は透明であることが好ましい。公知の透明導電性材料の例としては、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)等が挙げられる。
一方、不透明な導電性材料の例としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、錫、インジウム、銅、銀、イッテルビウムやこれらの合金等が挙げられる。
陽極3としては、これらの中でも、ITO、IZO、FTOが好ましい。
一方、陰極9としては、これらの中でも、Al、AgMg合金が好ましい。
【0047】
前記陽極3の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、70~200nmであることが更に好ましい。なお、陽極3の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0048】
前記陰極9の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、30~150nmであることが更に好ましい。また、不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型及び透明型の陰極9として使用することができる。なお、陰極9の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0049】
(正孔注入層)
正孔注入層4は、上記有機薄膜と同じ構成をとることができ、この構成により正孔注入性と安定性を向上させた正孔注入層4が形成可能である。
また、上述した有機薄膜の一部を正孔注入層4とし、有機薄膜の他の一部を後述する正孔輸送層5としてもよい。例えば、第1材料と第2材料の混合膜を正孔注入層4とし、第2材料からなる膜を正孔輸送層5とする構成であってもよく、第1材料と第2材料との混合膜を正孔注入層4兼正孔輸送層5としてもよい。
なお、正孔注入層4が第1材料(ドーパント)と第2材料(ホスト材料)とを含む場合は、第1材料と第2材料との比率は、質量比(第1材料:第2材料)で0.1:99.9~1:1であることが好ましく、0.5:99.5~1:2であることが更に好ましく、1:99~1:3であることがより一層好ましい。
【0050】
正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。
正孔注入層4の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0051】
(正孔輸送層)
正孔輸送層5の材料としては、正孔輸送層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いることができ、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。例えば、上述した有機薄膜の第2材料として例示した各種材料を適用することができる。
【0052】
前記p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂又はそれらの誘導体等が挙げられる。また、これらの高分子材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0053】
前記p型の低分子材料としては、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサン等のアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’-ビス[N-フェニル-N-[4’-ジフェニルアミノ-1,1’-ビフェニル-4-イル]アミノ]-1,1’-ビフェニル(TPTE)等のアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)等のフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベン等のスチルベン系化合物、OxZ等のオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等のトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾール等のトリアゾール系化合物、イミダゾール等のイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノン等のフルオレノン系化合物、ポリアニリン等のアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロール等のピロール系化合物、フルオレン等のフルオレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン等のポルフィリン系化合物、キナクリドン等のキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニン等の金属又は無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニン等の金属又は無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジン等のベンジジン系化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、TPTE等のアリールアミン系化合物が特に好ましい。
【0054】
正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
正孔輸送層5の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0055】
(発光層)
本実施形態の有機EL素子1において、発光層6を形成する材料としては、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよく、これらを混合して用いてもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0056】
発光層6を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)等のポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)等のポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)等のポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)等のポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)等のポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)等のポリシラン系化合物;更には特開2011-184430号公報、特開2012-151148号公報に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0057】
発光層6を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、トリス(4-メチル-8-キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq3)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq2)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナム(II)等の各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)等のベンゼン系化合物、ナフタレン、ナイルレッド等のナフタレン系化合物、フェナントレン等のフェナントレン系化合物、クリセン、6-ニトロクリセン等のクリセン系化合物、ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)等のペリレン系化合物、コロネン等のコロネン系化合物、アントラセン、ビススチリルアントラセン等のアントラセン系化合物、ピレン等のピレン系化合物、4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)等のピラン系化合物、アクリジン等のアクリジン系化合物、スチルベン等のスチルベン系化合物、4,4’-ビス[9-ジカルバゾリル]-2,2’-ビフェニル(CBP)、4、4’-ビス(9-エチル-3-カルバゾビニレン)-1,1’-ビフェニル(BCzVBi)等のカルバゾール系化合物、2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェン等のチオフェン系化合物、ベンゾオキサゾール等のベンゾオキサゾール系化合物、ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系化合物、2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系化合物、ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエン等のブタジエン系化合物、ナフタルイミド等のナフタルイミド系化合物、クマリン等のクマリン系化合物、ペリノン等のペリノン系化合物、オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)等のシクロペンタジエン系化合物、キナクリドン、キナクリドンレッド等のキナクリドン系化合物、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン等のピリジン系化合物、2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物、フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニン等の金属又は無金属のフタロシアニン系化合物、更には特開2009-155325号公報及び特許第5660371号公報に記載のホウ素化合物材料等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、量子ドットやペロブスカイト材料も発光層として用いることができる。
【0058】
発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
発光層6の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層6の成膜時に測定してもよい。
【0059】
(電子輸送層)
電子輸送層7の材料としては、電子を輸送可能な公知の材料を広く用いることができ、具体的には、フェニル-ジピレニルホスフィンオキサイド(POPy2)等のホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)等のピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))等のキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)等のピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)等のフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)、2,4,6-トリス(m-ピリジン-3-イル-フェニル)トリアジン(TmPPyTz)等のトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)等のオキサジアゾール誘導体、2,2’,2”-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)等のイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)等に代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、特開2013-239691号公報、国際公開第2014/133141号、特開2016-172728号公報、特開2016-199507号公報及び特開2016-199508号公報に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0060】
電子輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることが、より好ましい。
電子輸送層7の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0061】
(電子注入層)
電子注入層8に用いられる材料は、陰極9の仕事関数と電子輸送層7のLUMOレベル等の観点から選ばれる。電子輸送層7を設けない場合には、発光層6に用いる材料のLUMOレベルを考慮して選ばれる。電子注入層8の材料は、有機化合物でも無機化合物でもよい。電子注入層8が、無機化合物からなるものである場合には、例えば、アルカリ金属や、アルカリ土類金属の他、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、炭酸セシウム等を用いることができる。また、電子注入層8が、有機化合物からなるものである場合には、例えば、8-キノリノラトリチウム(Liq)等を用いることができる。
【0062】
電子注入層8の平均厚さは、1nmから数μm程度まで許容できるが、低電圧で駆動できる有機EL素子とする点から、1~1000nmであることが好ましく、2~100nmであることが更に好ましい。電子注入層8の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0063】
(形成方法)
図1に示す有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、正孔注入層4と、正孔輸送層5と、発光層6と、電子輸送層7と、電子注入層8と、陰極9をこの順に形成することにより製造できる。陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9の各層の形成方法は、特に限定されず、各層に用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いて形成できる。各層を形成する方法としては、気相成膜法であるプラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法、そして液相成膜法である電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法、スプレー熱分解法、微粒子分散液を用いたドクターブレード法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法等の印刷技術等を用いることができる。これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
【0064】
本実施形態の有機EL素子1は、発光層6の材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。このため、本発明の有機EL素子は、表示装置や照明装置に好適に用いることができる。
【0065】
(他の例)
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
具体的には、上述した実施形態においては、基板2と発光層6との間に陽極3が配置された順構造の有機EL素子1を例に挙げて説明したが、本発明の有機EL素子は、基板と発光層との間に陰極が配置された逆構造のものであってもよい。
【0066】
また、本発明の有機EL素子においては、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
また、本発明の有機EL素子は、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極の各層の間に、他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて、電子阻止層等を有していてもよい。
【0067】
[表示装置]
本発明の表示装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、上述した駆動電圧が低く、駆動安定性に優れた有機EL素子を具えるため、駆動電圧が低く、駆動安定性に優れる。本発明の表示装置は、上述した有機エレクトロルミネッセンス素子の他に、表示装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【0068】
[照明装置]
本発明の照明装置は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする。本発明の照明装置は、上述した駆動電圧が低く、駆動安定性に優れた有機EL素子を具えるため、駆動電圧が低く、駆動安定性に優れる。本発明の照明装置は、上述した有機エレクトロルミネッセンス素子の他に、照明装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【実施例0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
(第1材料:ドーパント材料)
以下の実施例及び比較例においては、第1材料(ドーパント材料)として、下記構造式(A-1)~(A-15)の化合物を用いた。
【化3】
【0071】
(第2材料:ホスト材料)
以下の実施例及び比較例においては、第2材料(ホスト材料)として、下記構造式(B-1)~(B-3)の化合物を用いた。
【化4】
【0072】
(実施例1)
<有機電界発光素子の製造>
以下に示す方法により、有機EL素子1を製造した。
【0073】
[工程1]
基板2として、ITOからなる厚み150nmのパターニングされた電極(陽極3)が形成されている平均厚さ0.7mmの市販されている透明ガラス基板を用意した。そして、陽極3を有する基板2を、弱アルカリ洗浄剤中、アセトン中、イソプロパノール中で超音波洗浄し、その後、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0074】
[工程2]
シクロペンタノン溶媒に、第2材料(ホスト材料)として構造式(B-1)の化合物(N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス[4’-(ジフェニルアミノ)ビフェニル-4-イル]ベンジジン:TPT1)を0.9質量%加え、攪拌して溶解させた溶液と、別途シクロペンタノンに、第1材料(ドーパント材料)として構造式(A-1)の化合物(テトラフルオロテレフタル酸)を0.9質量%加えて加熱・攪拌して溶解させた溶液と、を9:1の比率[質量、第2材料(ホスト材料)の溶液:第1材料(ドーパント材料)の溶液]で混ぜ合わせ、大気中でスピンコート(3000rpm、45秒)し、N2グローブボックスにおいて100℃、20分加熱して膜厚約12nmの正孔注入層4を得た。
【0075】
[工程3]
次に、正孔注入層4までを形成した基板2を真空蒸着装置のチャンバー内の基板ホルダーに固定し、真空蒸着装置のチャンバー内を2×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9を連続して形成した。
【0076】
まず、下記構造式(1)で表される化合物(α-NPD)からなる厚み40nmの正孔輸送層5を形成した。
続いて、下記構造式(2)で表される化合物(Zn(BTZ)
2)をホスト、下記構造式(3)で表される化合物(Ir(piq)
3)をドーパントとして30nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(piq)
3が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。
次に、発光層6まで形成した基板上に、下記構造式(4)で表される化合物(TmPPyTz)を50nm、下記構造式(5)で表される化合物(Liq)を1.2nm成膜し、それぞれ電子輸送層7、電子注入層8を形成した。
【化5】
【0077】
次に、電子注入層8まで形成した基板上に、アルミニウムからなる膜厚100nmの陰極9を成膜した。
なお、陰極9は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mm2とした。
【0078】
最後に、UV硬化樹脂を用いて封止ガラスを接着して封止を行い、実施例1の有機EL素子1を得た。
【0079】
(実施例2)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-2)の化合物(テトラフルオロフタル酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の有機EL素子1を得た。
【0080】
(実施例3)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-3)の化合物(ペンタフルオロ安息香酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の有機EL素子1を得た。
【0081】
(実施例4)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-4)の化合物(メリット酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の有機EL素子1を得た。
【0082】
(実施例5)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-5)の化合物(ピロメリット酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の有機EL素子1を得た。
【0083】
(実施例6)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-6)の化合物(フタル酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の有機EL素子1を得た。
【0084】
(実施例7)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-7)の化合物(テレフタル酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の有機EL素子1を得た。
【0085】
(実施例8)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-8)の化合物(テトラフルオロヒドロキノン)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例8の有機EL素子1を得た。
【0086】
(実施例9)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-9)の化合物(4-ホスホノ安息香酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例9の有機EL素子1を得た。
【0087】
(実施例10)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-10)の化合物(テトラフルオロベンゼン-1,2-ジオール)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例10の有機EL素子1を得た。
【0088】
(実施例11)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-11)の化合物(テトラフルオロイソフタル酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例11の有機EL素子1を得た。
【0089】
(実施例12)
工程2において、正孔注入層4の第2材料(ホスト材料)を構造式(B-2)の化合物(4,4’,4”-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン:TcTa)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例12の有機EL素子1を得た。
【0090】
(実施例13)
工程2において、正孔注入層4の第2材料(ホスト材料)を構造式(B-3)の化合物(ポリトリアリールアミン:PTAA)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例13の有機EL素子1を得た。
【0091】
(比較例1)
工程2において、第1材料(ドーパント材料)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例の有機EL素子1を得た。
【0092】
(比較例2)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-12)の化合物(ピロガロール)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の有機EL素子1を得た。
【0093】
(比較例3)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-13)の化合物(トリフルオロ酢酸:TFA)に変更し、混合比(質量)を第2材料(ホスト材料):第1材料(ドーパント材料)=95:5にした以外は、実施例1と同様にして、比較例3の有機EL素子1を得た。
【0094】
(比較例4)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-14)の化合物(p-トルエンスルホン酸:TSA)に変更し、混合比(質量)を第2材料(ホスト材料):第1材料(ドーパント材料)=95:5にした以外は、実施例1と同様にして、比較例4の有機EL素子1を得た。
【0095】
(比較例5)
工程2において、正孔注入層4の第1材料(ドーパント材料)を構造式(A-15)の化合物(4,4-ビフェニルジスルホン酸)に変更し、混合比(質量)を第2材料(ホスト材料):第1材料(ドーパント材料)=95:5にした以外は、実施例1と同様にして、比較例5の有機EL素子1を得た。
【0096】
(比較例6)
工程2において、正孔注入層4の第2材料(ホスト材料)を構造式(B-2)の化合物(4,4’,4”-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン:TcTa)に変更した以外は、比較例1と同様にして、比較例6の有機EL素子1を得た。
【0097】
(比較例7)
工程2において、正孔注入層4の第2材料(ホスト材料)を構造式(B-3)の化合物(ポリトリアリールアミン:PTAA)に変更した以外は、比較例1と同様にして、比較例7の有機EL素子1を得た。
【0098】
<有機EL素子の発光特性測定>
実施例1~13、比較例1~7で作製した有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、輝度1000cd/m2を得るために必要な印加電圧、及び電流密度一定における輝度が初期輝度1000cd/m2から8割に低下するまでの時間(LT80)を調べた。その結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
<結果>
実施例の総てにおいて、ドーパントを添加していない比較例に対し、駆動寿命が2倍以上に向上した高い安定性を持つ有機EL素子が得られた。特に、実施例1、2、4、5、11については、比較例3、4、5に示す従来の強酸性ドーパントよりも大幅に酸性度が低いにも関わらず、従来の強酸性ドーパントと同等の駆動電圧に加え、駆動寿命は劇的に向上しており、弱いホスト-ドーパント相互作用である分極により、正孔注入障壁の低下及び材料の安定性の向上が起きたものと考えられる。
これにより、従来の強酸性材料より弱い酸性材料でも、強酸性のドーパントに対して同等な低電圧化と、従来のドーパントに対して飛躍的な長寿命化が実現可能であることが証明された。