(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148877
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】磁気冷凍材料
(51)【国際特許分類】
C22C 5/02 20060101AFI20220929BHJP
C22F 1/14 20060101ALI20220929BHJP
H01F 1/01 20060101ALI20220929BHJP
F25B 21/00 20060101ALI20220929BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C22C5/02
C22F1/14
H01F1/01 150
F25B21/00 A
C22F1/00 621
C22F1/00 604
C22F1/00 660Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050725
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111707
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】菊川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】廣戸 孝信
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 明日香
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA20
5E040CA16
5E040NN01
5E040NN06
(57)【要約】
【課題】水素の液化温度近傍で、大きな磁気エントロピー変化が得られる磁気冷凍材料について、従来にない材料種を含んでいる系における磁気冷凍材料を提供すると共に、そのような磁気冷凍材料を使用する磁気冷凍装置を提供し、更には、従来にない材料種を含んでいる系からなる磁気冷凍材料の探索方法についても検討する。
【解決手段】Au
xAl
yR
zで表される金属合金を含み、Rは、Gd、Tb、及びDyの少なくとも1つであり、x、y、及びzは、64-9≦x≦64+7.5、22-7.5≦y≦22+9、及び 14-0.5≦z≦14+0.5、 を満足する、磁気冷凍材料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AuxAlyRzで表される金属合金を含み、
Rは、Gd、Tb、及びDyの少なくとも1つであり、
x、y、及びzは、
64-9≦x≦64+7.5、
22-7.5≦y≦22+9、及び
14-0.5≦z≦14+0.5、
を満足する、磁気冷凍材料。
【請求項2】
Rは、Dyを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項3】
Rは、Gdを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項4】
Rは、Tbを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項5】
前記金属合金は、準結晶又は近似結晶相を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項6】
強磁性転移温度が、2Kから50Kであり、かつ7テスラまでの磁場変化における磁気エントロピー変化量(-ΔSM)の最大値(-ΔSmax)が4J/molK以上を示すことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項7】
強磁性転移温度が2Kから50Kであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項8】
前記磁気冷凍材料は、球形近似で、200μmから500μmの径を有する粒子状を呈することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の磁気冷凍材料を製造する方法であって、
Au、Al、及び、Gd、Tb、及びDyから選択される少なくとも1つを混合して混合物を作るステップと、
前記混合物を加熱し溶融させるステップと、
を含む方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の磁気冷凍材料が充填された熱交換器と、
前記熱交換器内の前記磁気冷凍材料への磁界の印加又は除去を行う磁界発生手段と、
を含むことを特徴とする磁気冷凍装置。
【請求項11】
xモルのAu又はPtと、
yモルのAl又はGaと、
zモルの、希土類元素から選択される少なくとも1種からなるRと、を混合し、溶融して合金を形成するステップと、
前記合金が、準結晶又は近似結晶相を含むことを確認するステップと、
を含む、磁気冷凍材料を探索する方法。
【請求項12】
前記確認するステップにおいて、
前記合金が、希土類原子で正20面体クラスターを含むことを検出することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍材料及びその製造方法や使用方法並びにそれを使用した磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーキャリアの一つとして有望な水素の普及には,高密度で貯蔵・輸送が可能な「液体」の状態での活用が望ましい。その際、水素の液化温度は常圧で約20ケルビン(マイナス253度)とヘリウムに次いで低いため、その液化技術の発展・高効率化が不可欠である。従来の気体の圧縮・膨張を利用した液化方式では、液化効率の原理上の上限(約40%)という制限から水素液化のコストも高止まりしているのが現状である。一方、磁場を用いて磁性体を磁化(発熱)・消磁(吸熱)することで伴う磁気エントロピー変化を利用した、磁気熱量効果による磁気冷凍技術は、液化効率が理論上90%まで可能であり、水素普及に向けた貢献が期待されている。また、この技術を20ケルビンのみならず、1ケルビン以下の極低温領域や、液化天然ガス温度(110ケルビン)の領域など、様々な温度での用途でも期待がもたれている。このようにして、極低温領域で、次世代クリーンエネルギーの水素液化や、ヘリウム代替において、有効に使用できる磁気冷凍材料が求められている。
【0003】
磁気冷凍材料の開発には、目的とする温度(水素液化では20ケルビン)付近において磁性材料の磁場オン・オフ時における大きな磁気エントロピー変化をもたらすことが第一に重要であり、これまで室温磁気冷凍材料では(La(FeSi)13)を代表とした材料開発がおこなわれている。また、水素液化温度付近においても、(磁気冷凍材料を意識した報告ではないが)ラーベス相(ErCo2)といった材料で、大きな磁気エントロピー変化を有することが報告されている。これらの報告されている材料は、原子配置が周期的な従来型枠組みでの結晶物質である。
【0004】
近年、結晶、アモルファスに続く第3の固体状態として金属において準結晶(Quasicrystal)の存在が認識されてきた。その構造における特異性だけでなく、電気抵抗が大きい等の電気的な特異性が認められ、その応用が期待されている。このような金属において、準結晶構造をつくる組成を僅かに変えると、準結晶性を反映した局所構造を持ちながら、結晶のような周期性を併せ持つ結晶構造を作ることができ、近似結晶と呼ばれる。これら準結晶及び近似結晶においては、益々の研究が望まれる。
【0005】
上述するように、磁気冷凍材料においては、所定の温度での磁性材料の磁場オン・オフ時における磁気エントロピー変化が大きいことが望まれる。例えば、室温磁気冷凍材料(La(Fe,Si)13)においては、磁気熱量効果が認められているが、所望の磁気転移温度の制御の試みにおいて、磁化の履歴が課題となっている(例えば、非特許文献1)。また,ラーベス相(ErCo2)においては、磁気エントロピー変化が認められるものの、一次転移にともなう大きな磁気体積効果(磁場による磁気転移で結晶格子の急激な変化)による材料の破損のおそれがある(例えば、非特許文献2)。また、液体水素の沸点温度である20Kで最も大きな磁気熱量効果を示すEr5+xPd2(-0.5≦x≦0.5)で表される磁気冷凍材料が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Fujieda et al., Appl. Phys. Lett. 89, 062504 (2006)
【非特許文献2】H. Wada et al., Cryogenics 39, 915-919 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、種々の磁気冷凍材料が提案されてきているが、大きな磁気エントロピー変化が得られることが望まれるのはもちろんのこと、種々の適用条件や環境における応用を考慮すれば、異なる系における磁気冷凍材料が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる背景の下、鋭意研究を行った結果、AuxAlyRz系で表される金属合金を含む磁気冷凍材料を提供することに成功した。ここで、Rは、希土類元素の少なくとも1つであってよい。例えば、孤立電子対を有する希土類元素の少なくとも1つであってよい。例えば、Gd、Tb、及びDyの少なくとも1つであってよく、x=64±9、y=22±9、z=14±0.5であってよい。この金属合金は、準結晶又は近似結晶であってもよい。
【0010】
具体的には、以下のようなものを含んでよい。
AuxAlyRzで表される金属合金を含み、Rは、Gd、Tb、及びDyの少なくとも1つであり、x、y、及びzは、 64-9≦x≦64+7.5、 22-7.5≦y≦22+9、 及び 14-0.5≦z≦14+0.5、 を満足する、磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料において、Rは、Dyを含むことを特徴とする磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料において、Rは、Gdを含むことを特徴とする磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料において、Rは、Tbを含むことを特徴とする磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料において、前記金属合金は、準結晶又は近似結晶相を含むことを特徴とする磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料において、強磁性転移温度が、2Kから50Kであり、かつ7テスラまでの磁場変化における磁気エントロピー変化量(-ΔSM)の最大値(-ΔSmax)が4J/molK以上を示すことを特徴とする磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料において、強磁性転移温度が2Kから50Kであることを特徴とする磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料において、その形態は、球形近似で、200μmから500μmの径を有する粒子状を呈することを特徴とする磁気冷凍材料。
上述のいずれかの磁気冷凍材料を製造する方法であって、Au、Al、及び、Gd、Tb、及びDyから選択される少なくとも1つを混合して混合物を作るステップと、前記混合物を加熱し溶融させるステップと、を含む方法。
上述のいずれかの磁気冷凍材料が充填された熱交換器と、前記熱交換器内の前記磁気冷凍材料への磁界の印加又は除去を行う磁界発生手段と、を含むことを特徴とする磁気冷凍装置。
xモルのAu又はPt(白金)と、yモルのAl又はGa(ガリウム)と、zモルの、希土類元素から選択される少なくとも1種からなるRと、を混合し、溶融して合金を形成するステップと、前記合金が、準結晶又は近似結晶相を含むことを確認するステップと、を含む、磁気冷凍材料を探索する方法。
上述するいずれかの方法において、前記確認するステップは、前記合金が、希土類原子で正20面体クラスターを含むことを検出することを含む方法。
ここで、上述の希土類元素は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムを含んでもよい。
【0011】
一般に、準結晶(quasicrystal)は非周期性の結晶で、結晶では許されない回転対称性をもつとされている。又は、非結晶学的回転対称性を示し、かつ準周期的な規則構造を示す物質の総称ともされている。そして、自己相似性が、τ=(1+√5)/2のような無理数比となっている。また、準結晶の構造は、骨格としての準周期格子とそれを修飾する原子クラスターの組み合わせで記述される。一方、このτを有理数で近似した場合、物理空間における配列は周期性を持つようになり、近似結晶(approximant)と呼ばれる。近似結晶は、準結晶と同じ若しくは類似のクラスターを基本構造として持ち、それらが周期配列した構造を有する。
【0012】
ここで、Gd、Tb、及びDyは、磁性、この場合、大きな磁気エントロピー変化を期待できる強磁性を担うことができる。その大きなエントロピー変化を引き出すための量子力学的な多重度を有することが挙げられる。この多重度は、強磁性転移温度の制御にもつながると考えられている。従って、他の元素、例えば、希土類元素であっても、大きな磁気エントロピー変化を期待できる強磁性を担うことができるものであれば、これらを置換し得るかもしれない。従って、磁性を有する元素は、候補となり得る。また、磁気秩序形成において交換相互作用は重要な要素であり、近似結晶若しくは準結晶は、これとの関係性があるとも考えられる。Au及びAlでは、価数が異なり、比率を変えることによって、結晶内の総電子数を変化させることができる。それによって、強磁性転移温度の制御が可能になると考えられ、逆に所望の強磁性転移温度がある場合には、それに合わせてAu及びAlの比率を調整することもできる。但し、上述するx、y、zの範囲について、64-15≦xが好ましく、64-10≦xが好ましく、64-9≦xが好ましい。また、x≦64+11が好ましく、x≦64+10が好ましく、x≦64+7.5が好ましい。22-11≦yが好ましく、22-10≦yが好ましく、22-7.5≦yが好ましい。また、y≦22+15が好ましく、y≦22+10が好ましく、y≦22+9が好ましい。x及びyについては、上述する比率に合わせて調整することもできる。このような範囲では、近似結晶が構成され易い。また、強磁性的な相関を有し易い。そして、14-1≦zが好ましく、14-0.7≦zが好ましく、14-0.5≦zが好ましい。また、z≦14+1が好ましく、z≦14+0.7が好ましく、z≦14+0.5が好ましい。特に、z=14又はその近傍が近似結晶の安定性を考慮すると、好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の実施例において、Rが、Gd、Tb、及びDyの少なくとも1つであり、x、y、及びzが、64-9≦x≦64+7.5、22-7.5≦y≦22+9、及び 14-0.5≦z≦14+0.5、であるときに、AuxAlyRzで表される金属合金を含む磁気冷凍材料は、大きな磁気エントロピー変化を示す。特に、水素液化技術では、磁気冷凍材料として優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】Au
xAl
yR
z系合金の組成を表す図である。
【
図2】Au
64Al
22R
14の結晶構造を示す図である。
【
図3】Au
64Al
22R
14(R=Gd、Tb、Dy)のX線回折パターンを示す図である。
【
図4A】Au
64Al
22Gd
14の磁化の温度変化を示す図である。
【
図4B】Au
64Al
22Gd
14の磁気エントロピー変化を示す図である。
【
図5A】Au
64Al
22Tb
14の磁化の温度変化を示す図である。
【
図5B】Au
64Al
22Tb
14の磁気エントロピー変化を示す図である。
【
図6A】Au
64Al
22Dy
14の磁化の温度変化を示す図である。
【
図6B】Au
64Al
22Dy
14の磁気エントロピー変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施例において、Au
xAl
yR
z系合金の組成を表す図である。数値は、%で表した。ここで、Rは、Gd、Tb、又はDyである。それぞれの元素の割合は、モルで表示され、例えば、R組成濃度が0である底辺のAu-Al間の16.9、25.6、36.0は、それぞれモル比で、Au対Alが、83.1対16.9、74.4対25.6、64.0対36.0である点を意味する。Au-R間でも同様に、Au:Rが、83.6:16.4、82.1:17.9、79.7:20.3である。また、Al-R間で、Al:Rが、68.9:31.1、61.1:38.9、49.1:50.9である。そして、点u、v、wでは、組成式がそれぞれ、Au
71.5Al
14.5R
14、Au
64Al
22R
14、Au
55Al
31R
14、である。これらの点を結んだ線uvwにおけるAu
xAl
yR
z系合金の組成が、特に好ましい。組成式で表せば、Au
64-αAl
22+αR
14、であり、-7.5≦α≦9を満足する。また、R
14に幅(例えば、±0.5)を持たせると、Au
64-α+βAl
22+α+βR
14-2β (-7.5≦α≦9 及び -0.25≦β≦0.25)とすることもできる。
【0017】
より具体的には、Au64-αAl22+αGd14 (-7.5≦α≦9)であり、Au64-αAl22+αTb14 (-7.5≦α≦9)であり、又は、Au64-αAl22+αDy14 (-7.5≦α≦9)である。また、Au64-α+βAl22+α+βGd14-2β (-7.5≦α≦9 及び -0.5/2≦β≦0.5/2)であり、Au64-α+βAl22+α+βTb14-2β (-7.5≦α≦9 及び -0.5/2≦β≦0.5/2)であり、Au64-α+βAl22+α+βDy14-2β (-7.5≦α≦9 及び -0.5/2≦β≦0.5/2)である。これらの合金は、準結晶又は近似結晶相を含んでもよい。このように、Rとして、単一種の希土類元素を含んでもよいが、2種類以上の希土類元素を含んでもよい。例えば、p及びqをパラメータとして、Au64-αAl22+αGdpTbqDy14-p-q (-7.5≦α≦9、0≦p、0≦q、p+q≦14)であってもよい。また、Au64-α+βAl22+α+βGdpTbqDy14-2β-p-q (-7.5≦α≦9、 -0.25≦β≦0.25、 0≦p、 0≦q、 p+q≦14-2β)であってもよい。p=0及び0<q<14-2βの場合は、2種希土類元素複合のAu64-α+βAl22+α+βTbqDy14-2β-q であり、q=0及び0<p<14-2βの場合は、2種希土類元素複合のAu64-α+βAl22+α+βGdpDy14-2β-p であり、p+q=14-2β及びp>0及びq>0の場合は、2種希土類元素複合のAu64-α+βAl22+α+βGdpTbq であり、p+q<14-2β及びp>0及びq>0の場合は、3種希土類元素複合のAu64-α+βAl22+α+βGdpTbqDy14-2β-p-q である。近似結晶とは、準結晶と類似の局所構造(例として正20面体対称性)を持ちつつ、通常結晶と同様の並進対称性をもつ物質群を指す。これらの近似結晶は、Tsai型1/1近似結晶を含んでもよい。磁性を担う希土類原子が正20面体の頂点に配置した構造を有していてもよい。一方で、準結晶は、近似結晶と同様の局所構造と準周期性と呼ばれる高次元空間(ハイパースペース)における並進対称性にもとづく構造を有してもよい。このとき、近似結晶も準結晶と共通した、ハイパースペースの周期近似の実空間断面として記述できるこれら準結晶及び近似結晶を総称した「ハイパーマテリアル」の、従来結晶とは異なる、特異な結晶構造・磁気構造に起因した機能性が期待されている。ここで、ハイパーマテリアルの中の近似結晶であるAuxAlyRz系において、磁気秩序状態が見出された。1原子あたりの伝導電子数(e/a)が1.57から1.9に相当し,x+y=86、z=14を満たすAuxAlyRzにおいて、強磁性秩序を示すことが見出された。
【0018】
図2に、今回の近似結晶の結晶構造を模式的に示す。左から順に(a)第1殻(四面体)、(b)第2殻(十二面体)、(c)第3殻(二十面体)、(d)第4殻(十二面体・二十面体)、(e)第5殻(菱形三十面体)の構造を示している。(a)を(b)が囲い、(b)を(c)が囲い、(c)を(d)が囲い、(d)を(e)が囲む。(a)から(d)が入れ子状態になって、(e)第5殻(菱形三十面体)の中に入り込む(入れ子になった多層殻状クラスタ)。このような多層殻状クラスタが、体心立方格子上に配置されている(
図2(f))。そのうち、わかりやすいように(c)だけを取り出し、(c)が格子を組んで(f)の近似結晶を形成する。ここで、(c)を取り出したのは、これが特に重要な部分であるからである。この正20面体の各点上に、希土類原子が配置され、それが、本願の発明において、強磁性、並びに磁気熱量効果の原因となると考えられる。
【0019】
特に、Au64Al22Gd14の近似結晶は、表1に示すような結晶構造パラメータを有している。ここでは、R=Gdの場合であるが、R=Tb又はDyのときは、格子定数aが若干異なるだけで、他は同じである。
【0020】
【0021】
[実験例]
(AuxAlyGdz、AuxAlyTbz、AuxAlyDyzの合成)
金(Au)原料として田中貴金属工業社製のAu粒(形状:不定形粒,純度:99.99%)を、アルミ二ウム(Al)原料として高純度化学研究所社製のAl粒(形状:Grains 2-5mm,純度:99.99%)を、ガドリニウム(Gd)原料として日本イットリウム株式会社製のgrain(形状:5~10mmの不定形塊状,純度:99.9%,梱包形態:油浸漬)を、テルビウム(Tb)原料として日本イットリウム株式会社製のgrain(形状:5~10mmの不定形塊状,純度:99.9%,梱包形態:油浸漬)を、ジスプロシウム(Dy)原料として日本イットリウム株式会社製のgrain(形状:5~10mmの不定形塊状,純度:99.9%,梱包形態:油浸漬)を、それぞれ準備した。Gd、Tb、及びDy原料については油を除去するため株式会社ゴードー社製のアセトンを上記原料とともにビーカー(B-200 SCI, HARIO株式会社製)に入れ超音波洗浄機(Au-16C,アイワ医科工業株式会社製)を用いて15分洗浄した。Al、Gd、Tb、及びDy原料についてはニッパー(N-31,Hozan株式会社製)を用いて1~3mm×1~3mm×1~3mmの大きさに切り出して試料とした。また、Au原料は、直径1~3mm程度の粒子であるためそのままAu試料として用いた。Au試料、Al試料、Gd試料、Tb試料、Dy試料をAu64Al22R14 (R=Gd、Tb、又はDy)となるように合計1g秤量し、3つの混合試料を得た。
【0022】
次いで、超小型真空アーク溶解装置(NEV-AD 03型,日新技研社製)を用い、上記のように秤量した混合試料を、それぞれ水冷銅ハース上に置き、約2時間真空引きを行って圧力が3×10-3 Paに到達した後、アルゴン雰囲気下、電流値を50A~100A程度に調節して各混合試料をアーク溶解した。なお均質に試料を溶融させるため試料にアーク照射したのち試料を反転棒を用いて反転させ再びアークを照射という手順を3度実施した。これにより直径5mm~7mmのボタン状の3種の合金サンプルAu64Al22R14 (R=Gd、Tb、及びDy)を得た(表2参照)。
【0023】
【0024】
株式会社ニラコ製モリブデン(Mo)箔(形状:0.05mm×200mm×500mm,純度:99.95%)を用意し金属ばさみで30mm×20mmの大きさで3枚切り出し,Mo箔片を作製したのち上記合金サンプルをそれぞれMo箔片で包んだ。Mo箔で包んだサンプルを栄興株式会社製石英管(内径:15Φ,外径:13Φ)に入れ高真空排気装置(DS-A412Z,大亜真空株式会社製)を用いて石英管内を約1時間真空引きを行って圧力が3×10-3 Paに到達した後、内部にArを充填し、酸水素バーナー(KBSS-800,木下理化工業株式會社製)を用いて石英管を封じ切り、長さ80mmのサンプル入り石英管を得た。得られたサンプル入り石英管を電気炉(FO200,YAMATO科学株式会社製)に入れ1073ケルビンにて、50時間アニールした。アニール後の試料を冷却後、室温で取り出し、開封して、取り出した試料をアイソメット(Beuhler社製)にて切断した。
【0025】
(X線回折解析)
切断した材料の一部を乳鉢にて粉状にし,得られた粉末を0.2×5mmΦの無反射試料版に充填し、粉末X線回折装置(MiniFlex600,株式会社リガク製、線源:CuKα)にて材料を評価した。その結果を
図3に示す。RがDy、Tb、又はGdであっても、何れもほぼ同じX線回折パターンを示す。各ピークに付される数字は、対応する面指数である。「Cal」と記載される下の図は、表1の結晶構造パラメータを用いて行った計算結果である。実験データと良く合致していることが分かる。このパターンを解析することにより、
図2の結晶構造を得ることができる。そして、
図3のようなX線回折パターンが得られる場合は、
図2のような結晶構造を有しており、その構成元素を同時に調べることにより、本願の発明の実施例のようなものが形成されていることがわかる。例えば、
図3のX線回折パターンにおける、主要なピークと考えられる指数、503、532、631、604、及び、1031が一致又はほぼ一致する場合は、このような近似結晶であると判定可能である。このX線回折解析の結果、それぞれの試料は、立方晶構造を有し、それぞれの格子定数aは、1.472 nm (Gd)、 1.468 nm (Tb)、及び、 1.467 nm (Dy)であった。このように、X線回折パターンに起因する結晶構造の近似及び格子定数の近似からGd、Tb、及びDyは、互いに置換可能に複合結晶を構成し得る。このような状態は、上述する組成式で表すこともできる。
【0026】
(磁化の測定)
磁化測定装置(MPMS3, Quantum Design社製)にて磁化の温度依存性をDC法にて測定した。アニール後に切断した約15 mgの試料を石英ホルダーにセットし、測定プローブ取り付け後、装置内の温度可変部・磁場中心部にセットした。試料測定範囲は、温度: 2-120ケルビン,磁場: 0.01-7 テスラの間で行った。測定データを解析し,Maxwell の関係式∂M/∂T=∂S/∂Hの関係式を用いて磁気エントロピー変化ΔSを求めた。得られた結果を、
図4Aから
図6Bにおいて示す。
【0027】
Au
64Al
22Gd
14においては、約27Kで強磁性転移が起こり(
図4A)、約27KでΔSが最大となった(
図4B)。このとき、半値幅となる温度領域は,7Tで18Kから42Kであった。また、Au
64Al
22Tb
14においては、約15Kで強磁性転移が起こり(54A)、約15KでΔSが最大となった(
図5B)。このとき、半値幅となる温度領域は、7Tで10Kから42Kであった。そして、Au
64Al
22Dy
14においては、約9.5Kで強磁性転移が起こり(
図6A)、約9.5KでΔSが最大となった(
図6B)。このとき、半値幅となる温度領域は、7Tで5Kから38Kであった。
【0028】
(比熱測定)
上述する磁化測定で用いた同じ試料を用いて、比熱(Cp)の測定をPPMS比熱測定オプション(Quantum Design社製)により、緩和法にて行った。測定温度(T)範囲は2-120 ケルビンであった。磁化測定と合わせ、断熱温度変化ΔTをΔT=(T/Cp)×ΔSから求めた。得られた結果を表3にまとめる。ここで、ΔTは、実際の磁場変化(例えば、0から7T)で、どのくらいの温度変化が見込めるか、という指標として用いられてもよい。一般には、大きいと温度変化が大きくなり、高い磁気熱量効果を有する材料と言える。
【0029】
【0030】
この表から分かるように、何れも水素液化温度に近い温度で、強磁性転移温度Tcを示しており、エントロピー変化も極めて大きいことが分かる。更に、断熱温度変化ΔTも、全格子数に対する希土類元素の割合(14/100)から見れば大きな値が得られ、5テスラまでの磁場変化に伴う温度変化が見られることから磁気冷凍に好ましいことが分かった。
【0031】
ここで、平均価電子濃度:e/aについて考える。各試料における1原子あたりの伝導電子数は、e/a=1.72に相当する。AuxAlyRz(x=64、y=22、z=14、R=Gd、Tb、Dy)のうち、それぞれ、強磁性転移温度が27ケルビン(Au64Al22Gd14)、15ケルビン(Au64Al22Tb14)、9.5ケルビン(Au64Al22Dy14)を有する材料において、6.4 J/K mol-Gd、4.5 J/K mol-Tb、4.8 J/K mol-Dyもの磁気エントロピー変化があることを見出した。近似結晶における強磁性秩序は、1.57<e/a<1.9において得られるとされるが、組成比を変えることで1原子あたりの伝導電子数を制御でき、これによって磁気的性質を予想できる。ここで、例えば、1価のAuと3価のAlの比率を変えると、材料内の総電子数を制御できると考えられる。このようにして、強磁性転移温度を制御できると考えられる。このように、従来の結晶材料のみならず、近似結晶も視野に入れた更なる高効率な磁気エントロピー変化を有するハイパーマテリアルの開発を期待することができる。また、AuをPt、AlをGaへなど、元素置換も可能であることから、ハイパーマテリアルにおいて多様な材料の機能性発現が期待できる。
【0032】
AuxAlyRzにおいて、x+y=86、z=14を満たし、かつ、55<x<71.5、 14.5<y<31を満たす組成域では、1原子あたりの伝導電子数(e/a)が1.57から1.9に相当する範囲において強磁性秩序を示すとされている。今回のe/a=1.72の実施例(x=64、y=22、z=14)以外にも、x、y、zの多様な選択、及び、AuをPt等へ、また、AlをGa等への元素置換効果により、更に実用的な磁気冷凍材料を見出すことができる。そして、近似結晶、更には準結晶を含めた「ハイパーマテリアル」において、磁気冷凍材料として適正のある材料を探索できる指針が得られた。
【0033】
図7は、磁気冷凍装置の主要部を示す模式図である。上述する実施例の材料を含む磁気冷凍材料を用いることができる。この磁気冷凍材料の1つの形態としては、50μm以上1000μm以下の範囲の粒子径を有する粒子であってもよい。例えば、球形近似で、50μm以上、100μm以上、200μm以上としてもよく、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下の径を有する粒子状であってもよい。また、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて、所定の範囲としてもよい。粒子形態を採るとAMRベッドへの充填率を高めることができ、粒子径により熱輸送冷媒との熱交換断面積や圧力損失を変化させることができる。粒子径が小さくなるほど熱交換断面積は大きくなり、この観点では冷凍性能向上に有効であるが、一方で、粒子径が小さくなるほど圧力損失が上昇して冷凍性能を低下させる。実際の圧力損失の大きさは、粒子径のみならず熱輸送冷媒の種類や運転条件にも依存する。ここで、粒径は、体積基準のメディアン径(d50)とし、体積基準の平均粒径の測定は、例えば、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定できる。より具体的には、静的画像解析法及び動的画像解析法が採用され得る。前者は、多数の粒子画像(SEM像など)を撮影し、画像解析ソフトを用いて各粒子の面積から、円形に換算した粒子径を求めることができる。このような磁気冷凍材料を備えた磁気冷凍装置200は、超低温の生成、例えば水素の液化に用いることができる。磁気冷凍装置200は、磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220と、これに磁場を印加する磁場印加手段230と、冷温により被冷却物を冷却する冷却ステージ290と、AMRベッド220における磁気冷凍仕事により発生した温熱を排熱する熱交換器240とをさらに備える。
【0034】
磁場印加手段230は、AMRベッド220に磁場を印加する任意の手段を適用でき、例えば、1~10T(テスラ)程度の強度の磁場を用いることが現実的である。磁場印加手段230として、超伝導マグネット、永久磁石等を採用できる。また、図示しない駆動機構によって、磁場印加手段230とAMRベッド220との相対位置を変化させて、AMRベッド220に印加される磁場の大きさを変化させることができる。
【0035】
AMRベッド220の高温側には予冷段260が設けられ、予冷段260の低温側には80Kシールド270が、予冷段260の高温側には300Kシールド280がそれぞれ接続して具備されている。さらに、AMRベッド220の低温側には、冷却ステージ290が設けられ、液化容器250が冷却ステージ290と熱的に接続して具備されている。つまり、液化容器250には被冷却物となる気体が供給され液化される。また、AMRベッド220には熱輸送冷媒の流出入口が設けられ、磁気冷凍材料210の間隙を通って熱輸送冷媒がAMRベッド220の内部を往復流動できる構造となっている。
【0036】
液化容器250には、液化させるべき気体310(例えば、水素、ヘリウム(He)等)が、図示しないタンクより供給される。磁気冷凍装置200は、以下のようにして動作してもよい。磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220に、磁場印加手段230により磁場を印加し、磁気冷凍材料210の温度を上昇させる。次いで、AMRベッド220の低温端側から高温端側に向かう方向300Aに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒はAMRベッド220の内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して温熱を受け取りながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の高温端部より流出する。AMRベッド220の高温端部より流出した熱輸送冷媒は予冷段260を介して温熱を排熱する熱交換器240に流入し、余分な熱が外部へ排熱される。次いで、磁気冷凍材料210が充填された磁場を取り除き(減少させて)、磁気冷凍材料210の温度を降下させる。
【0037】
そして、AMRベッド220の高温端側から低温端側に向かう方向300Bに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒は予冷段260を介してAMRベッド220の高温端部に流入し、内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して冷却されながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の低温端部に到達する。尚、熱輸送冷媒の流動は図示しない冷媒駆動手段によって駆動される。冷媒駆動手段は熱輸送冷媒をAMRサイクルに同期して往復流動する振動流を駆動できれば特に限定されるものではなく、ピストン、ブロアとバルブを組み合わせる方式等が挙げられる。
【0038】
AMRベッド220の低温端部の温度が液体水素の沸点(大気圧にて20K)よりも低下すると、液化容器250に供給される水素ガスは、AMRベッド220の低温端側に設けられた冷却ステージ290との熱交換により冷却され、濃縮液化する。このような工程を繰り返し、液化容器250の内部ではガスを周期的に液化ないし冷却する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
このように、磁気冷凍材料は、磁気冷凍装置に用いられ、水素の液化等に効果的に機能する。これによって、エネルギーキャリアの一つとして有望な水素の普及に、貢献することができる。
【符号の説明】
【0040】
200 磁気冷凍装置
220 AMRベッド
230 磁場印加手段
240 熱交換器
250 液化容器
260 予冷段
270 80Kシールド
280 300Kシールド
290 冷却ステージ
300A 熱輸送冷媒の移動方向
300B 熱輸送冷媒の移動方向