(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148903
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】スピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
C01G 45/12 20060101AFI20220929BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220929BHJP
【FI】
C01G45/12
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050758
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 諄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA05
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA09
5H050CB08
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5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】 高温下における充放電特性に優れるスピネル型マンガン酸リチウム並びに高温下における充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】 ケイ酸リチウムを含有し、化学式Li1+XMn2-X-YMgYO4(式中、0.05≦X≦0、25、0.01≦Y≦0.10を満たす)で表されることを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法、並びにその用途。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸リチウムを含有し、化学式Li1+XMn2-X-YMgYO4(式中、0.05≦X≦0、25、0.01≦Y≦0.10を満たす)で表されることを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項2】
ケイ酸リチウムがLi2SiO3であり、かつ、ケイ素/マンガンモル比が0.008以上0.03以下であることを特徴とする請求項1に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項3】
BET比表面積が0.1m2/g以上1.2m2/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項4】
二次粒子の平均粒子径が4μm以上12μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項5】
SO4の含有量が0.3wt%以上1.0wt%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項6】
Naの含有量が500wtppm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項7】
マンガン原料、リチウム原料、ケイ酸リチウム原料を混合し、大気中又は高濃度酸素雰囲気中(純粋酸素雰囲気を含む)において850℃以上930℃以下で焼成し、解砕することを特徴とする請求項1~6のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウムを含むことを特徴とする電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極をリチウムイオン二次電池の正極に使用したことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法並びにその用途に関するものである。より詳しくは、ケイ酸リチウムを表面に担持させたスピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法、並びにこれを電極に用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は他の蓄電池に比べてエネルギー密度が高いことから、携帯端末用の蓄電池として幅広く使用されている。また、最近では、定置用や車載用といった大型で大容量と高出力が必要とされる用途への適用等、更なる高性能化を目指した研究が進められている。
【0003】
現在使用されているリチウムイオン二次電池の正極材料には、携帯電話等の民生用小型電池には主にコバルト系材料(LiCoO2)、また定置用や車載用にはニッケル系材料(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)やニッケル-コバルト-マンガン三元系材料(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2等)がある。しかし、コバルト系材料やニッケル系材料は資源が豊富であるわけでなく高価であり、また、出力特性が高くはない。
【0004】
一方、マンガン系材料の一つであるスピネル型マンガン酸リチウムは、原料のマンガンが資源的に豊富で安価であり、また、出力特性と安全性に優れることから、大型電池や高出力を必要とする用途に適した材料の一つである。
【0005】
しかしながら、スピネル型マンガン酸リチウムは高温安定性、すなわち、高温における充放電特性、特にカーボン対極充放電特性や保存特性に問題があり、この課題の解決が望まれていた。例えば、非特許文献1では、表面修飾剤にケイ酸リチウムなどのリチウム系酸化物を含有したニッケル-コバルト-マンガン三元系材料が提案されている。スピネル型マンガン酸リチウムにおいてケイ酸リチウムを添加することによるカーボン対極充放電特性が改善する余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 343 (2017) 345-353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高温下での負荷状態における充放電特性に優れるもの、特に負極にカーボンを用いた充放電特性に優れるスピネル型マンガン酸リチウムを提供するものであり、加えて、スピネル型マンガン酸リチウムを正極に用いるリチウムイオン二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、スピネル型マンガン酸リチウムについて検討を重ねた結果、下記を要旨とする本発明が、上記課題を達成しうることを見出した。すなわち、本発明は、ケイ酸リチウムを含有し、化学式Li1+XMn2-X-YMgYO4(式中、0.05≦X≦0.25、0.01≦Y≦0.10を満たす)で表されることを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法、並びにその用途である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、この材料をリチウムイオン二次電池正極材料に使用する場合、従前材と比較して高温下における充放電特性が優れる。特にカーボン対極における充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られたケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウム粒子のSEM-EDX像である。
【
図2】実施例2で得られたケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウム粒子のSEM-EDX像である。
【
図3】実施例3で得られたケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウム粒子のSEM-EDX像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、ケイ酸リチウムを含有する。ケイ酸リチウムを含有することで、本発明のスピネル型マンガン酸リチウムをリチウムイオン二次電池の正極活物質として使用する際に、高温下において優れた充放電特性を得ることが可能となる。ケイ酸リチウムは、例えば、Li2SiO3、Li4SiO4、Li2Si2O5、Li2Si3O7などのリチウムのケイ酸塩が例示されるが、合成が容易であるため、Li2SiO3が好ましい。ここに、スピネル型マンガン酸リチウムがケイ酸リチウムを含有するとは、例えば、ケイ酸リチウムがスピネル型マンガン酸リチウムの表面に、微粒子として存在している、膜として存在している等があげられる。ケイ酸リチウムの性状には特に制限はなく、結晶質性のもの、結晶質性で多孔性のもの、結晶質性で緻密な状態のもの、非晶質性のもの、非晶質性で多孔性のもの、非晶質性で緻密な状態のもの等が例示されるが、これらに制限されない。
【0013】
ケイ素/マンガンモル比は0.008以上0.03以下であることが好ましい。ケイ素/マンガンモル比が0.008以上0.03以下であることにより、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用する際に、リチウムイオン二次電池の電解液中に僅かに含まれるフッ化水素による反応をケイ酸リチウムで阻害する反応が発生する。その結果、フッ化水素とスピネル型マンガン酸リチウムの反応に起因するマンガン溶出が抑制され、高温下における充放電での容量低下を抑制することが可能となる。ケイ素/マンガンモル比は、0.009以上0.03以下がより好ましい。
【0014】
本発明に含有されているケイ酸リチウムはスピネル型マンガン酸リチウム表面にのみ粒子上に存在している。ケイ酸リチウムの平均粒子径は0.3μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、化学式Li1+XMn2-X-YMgYO4(式中、0.05≦X≦0.25、0.01≦Y≦0.10を満たす)で表される。Xの値が0.05未満であると高温における充放電での容量低下が起きやすくなり、0.25を超えると十分な充放電容量が得られない。また、Yの値が0.01未満であると高温における充放電での容量低下が起きやすくなり、0.10を超えると十分な充放電容量が得られない。スピネル型マンガン酸リチウムのX、Yは組成分析から求めることができる。その方法としては、例えば、誘導結合プラズマ発光分析、原子吸光分析等が例示される。
【0016】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、BET比表面積が0.1m2/g以上1.2m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が0.1m2/g以上1.2m2/g以下であることにより、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用する際に、高温において優れた充放電特性を得ることが可能になるとともに、優れた出力特性を得ることが可能となる。BET比表面積は、0.2m2/g以上1.0m2/g以下が好ましく、0.3m2/g以上0.8m2/g以下がより好ましい。
【0017】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、二次粒子の平均粒子径が4μm以上12μm以下であることが好ましい。二次粒子の平均粒子径が4μm以上12μm以下であることにより、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用する際に、優れた出力特性を得ることが可能になるとともに、正極合剤の充填性を高くすることが可能となる。二次粒子の平均粒子径は5μm以上10μm以下が好ましい。
【0018】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、不純物による容量低下防止のため、SO4の含有量が0.3wt%以上1.0wt%以下であることが好ましく、0.4wt%以上0.8wt%未満であることがより好ましい。
【0019】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、上記同様、容量低下防止のため、Naの含有量が500wtppm以下であることが好ましく、300wtppm以下であることがより好ましい。
【0020】
次に、本発明のスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法について説明する。
【0021】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、マンガン原料、リチウム原料及びケイ酸原料を所定の量混合し、大気中又は高濃度酸素雰囲気中(純粋酸素雰囲気中含む)にて850℃以上930℃以下で焼成し、解砕することによって得られる。
【0022】
マンガン原料に特に制限はないが、スピネル型マンガン酸リチウムの重点性を高くすることができることから、晶析法Mn3O4、電解法MnO2、又は晶析法Mn3O4若しくは電解法MnO2を焼成して得られるMn2O3が好ましい。
【0023】
リチウム原料に特に制限はなく、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、ヨウ化リチウム、シュウ酸リチウム等が例示されるが、これらに制限されない。
【0024】
ケイ酸リチウム原料に特に制限はなく、例えば、シリカ粒子SiO2や、SiO2粒子前駆体であるテトラエトキシシランSi(OC2H5)4、テトラメトキシシランSi(OCH3)4などのケイ素の金属アルコキシド、ケイ酸リチウム等が例示される。ケイ酸リチウムには、Li2SiO3、Li4SiO4等が例示される。
【0025】
混合するマンガン原料、リチウム原料の量は、化学式Li1+XMn2-X-YMgYO4(式中、0.05≦X≦0、25、0.01≦Y≦0.10を満たす)のスピネル型マンガン酸リチウムを得るための量である。ケイ酸原料の量は、Si/Mnモル比、0.008以上0.03以下を得るための量である。
【0026】
マンガン原料、リチウム原料とケイ酸リチウム原料の混合方法としては、例えば、乾式混合、湿式混合等が例示される。湿式混合の場合、溶媒に水を用い、ケイ酸リチウム原料を分散又は溶解させ、マンガン原料、リチウム原料に添加する方法が例示される。
【0027】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムを得るための焼成は、大気中又は高濃度酸素雰囲気中(純粋酸素雰囲気中含む)、即ち、酸素含有量が18vol%以上100vol%以下の酸素雰囲気中で、850℃以上930℃以下で行う。850℃より低温ではスピネル型マンガン酸リチウムのBET比表面積が大きくなり易くなり、930℃を超えるとスピネル型マンガン酸リチウムの酸素欠損が増加し、その結果、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に充放電サイクル特性が低下し易くなる。焼成は900℃以上930℃以下で行うことが好ましい。
【0028】
スピネル型マンガン酸リチウムは、焼成時に二次粒子同士が固結し易いため、目的の粒子径を得るために解砕を行う。解砕方法は、微粉生成、及び、BET比表面積増加を抑制するため、せん断力による解砕が好ましい。
【0029】
スピネル型マンガン酸リチウムを解砕した後、正極の厚みを超える粗大粒子を除去するため、篩を通過させることが好ましい。篩の目開きは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明のケイ酸リチウムを含有したスピネル型マンガン酸リチウムをリチウムイオン二次電池の正極に使用することで、従来では得ることができなかった、高温における充放電サイクル特性に優れ、かつ、出力特性に優れるリチウムイオン二次電池を構成することが可能になる。
【0031】
正極以外のリチウムイオン二次電池の構成としては、特に制限はないが、負極にはLiを吸蔵放出する材料、例えば、炭素系材料、酸化錫系材料、Li4Ti5O12、SiO、Liと合金を形成する材料等が例示される。Liと合金を形成する材料としては、例えば、シリコン系材料やアルミニウム系材料等が例示される。電解質には、例えば、有機溶媒にLi塩や各種添加剤を溶解した有機電解液や、Liイオン伝導性の固体電解質、これらを組み合わせたもの等が例示される。
【実施例0032】
本発明の具体的な実施例にて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0033】
<電池性能試験>
各実施例で得られたスピネル型マンガン酸リチウム25mgと導電性バインダー(商品名:TAB-2、宝泉製)12.5mgをメノウ乳鉢を用いて混合した。この混合物を直径16mmφのSUSメッシュ(SUS316)に2ton/cm2で一軸プレスを実施し、形状をディスク上にしたペレットを作成した後に、150℃、2時間、減圧乾燥をしてこれを正極とした。
【0034】
負極として球晶黒鉛シート(宝泉製TSG-A1、公称容量1.6mAh/cm2)を直径16.156mmφに打ち抜く。その後、3ton/cm2で一軸プレスしたものを使用した。
【0035】
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:2の溶媒にLiPF6を1mol/dm3溶解したものを電解液に使用し、ポリエチレンシート(商品名:セルガード、ポリポア製)をセパレータに使用し、セルにCR2032型コインセルを使用した電池を作製した。
【0036】
作製した電池を用いて、24℃で、セル電圧が4.25Vと3.0Vの間で、電流密度0.14mA/cm2において定電流定電圧充電-定電流放電を1サイクル行った。次いで、24℃で、セル電圧が4.25Vと3.0Vの間で、電流密度0.28mA/cm2において定電流定電圧充電-定電流放電を1サイクル行い、放電容量を電池容量とした。次に、60℃で、セル電圧が4.25Vと3.0Vの間で、電池容量に対し1時間放電率の電流密度において定電流定電圧充電-定電流放電を50サイクル行い、50サイクル目と1サイクル目の放電容量の比からカーボン対極充放電サイクル特性を求めた。なお、定電圧充電の終了条件は、充電電流が定電圧充電時の1/10まで減衰した時点とした。
【0037】
<組成分析、SO4含有量、Na含有量、Si含有量の測定>
実施例および比較例で得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成、SO4含有量、Na含有量は、スピネル型マンガン酸リチウムを塩酸-過酸化水素混合水溶液に溶解した後、誘電結合プラズマ発光分析装置(商品名:ICP-AES、パーキンエルマージャパン製)で分析した。また、Si含有量は塩酸-過酸化水素-フッ酸混合水溶液に溶解させたものを上記装置によって分析した。
【0038】
<BET比表面積の測定>
試料0.5gをBET比表面積測定用のガラスセルに入れ、窒素気流下で150℃、最低20分間脱水処理を行い、粉体粒子に付着した水分の除去を行った。
【0039】
処理後の試料を、BET測定装置(商品名:MICROMETRITICS DeSorbIII、島津製作所製)で、吸着ガスに窒素30%-ヘリウム70%の混合ガスを使用し、1点法でBET比表面積の測定を行った。
【0040】
<スピネル型マンガン酸リチウムの二次粒子の平均粒子径>
粒度分布測定装置(商品名:MT3000IIシリーズ、MicrotracBEL製)を使用してスピネル型マンガン酸リチウムの二次粒子に平均粒子径(D50)を測定した。
【0041】
<XRD測定>
実施例及び比較例にて得られたスピネル型マンガン酸リチウムについて、XRDによる半値幅の測定を粉末XRD測定装置(商品名:Ultima IV、Rigaku製)で行った。測定条件は以下の通りとした。
【0042】
・ターゲット:Cu
・出力:1.6kW(40mA-40kV)
・フィルター:Kβフィルター
・発散スリット:1
・発散縦制限スリット:10mm
・散乱スリット:解放
・受光スリット:解放
・走査モード:連続
・スキャンスピード:4.000°/分
・サンプリング幅:0.04°(2θ/θ)
・積算回数:1回
・測定範囲:10-90°(2θ/θ)
得られたスピネル型マンガン酸リチウムのXRDデータを、粉末X線回折測定装置に付属の解析ソフト(PDXL2)を用いて解析した。
【0043】
<粒子表面SEM-EDX像の測定>
走査電子顕微鏡(SEM、商品名:JSM-IT500、日本電子製)/エネルギー分散型スペクトロメーター(EDS、商品名:EX-74600U4L2Q、日本電子製)を用い、Mn、Siの分布を、加速電圧15kVで測定した。
【0044】
<ICPによる組成分析>
実施例で得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成、SO4含有量、Na含有量は、スピネル型マンガン酸リチウムを塩酸-過酸化水素混合水溶液に加熱溶解した後、誘電結合プラズマ発光分析装置(商品名:ICP-AES、パーキンエルマージャパン製)で分析した。
【0045】
またSiはスピネル型マンガン酸リチウムを塩酸―過酸化水素混合水溶液にて加熱溶解後、フッ酸を加え、ICP-AESにて分析した。
【0046】
実施例1
60℃の純水に空気を吹き込みながらこれを撹拌した。当該純粋の酸化還元電位が水素電極基準で100mVと一定になるようにしながら、2mol/Lの硫酸マンガン水溶液、及び20wt%の水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ当該純粋中に連続的に添加した後、得られたスラリーを濾過、洗浄、乾燥することにより平均粒子径3.8μmのMn3O4を得た。
【0047】
得られたMn
3O
410gにコロイダルシリカ(商品名:LUDOX TM-50)10.0gを10wt%に希釈した溶液を0.57mL添加し、120℃で6時間乾燥させたものの内5gと、炭酸リチウムLi
2CO
31.4g、水酸化マグネシウムMg(OH)
2(和光純薬工業製、平均粒子径0.07μm)0.11gを混合した。この混合物を箱型焼成炉にて空気を5L/minの速度で流通させながら900℃で6時間焼成を行った後、室温まで冷却した。昇温速度は100℃/hrとし、降温速度は900℃から600℃までは20℃/hr、600℃から室温までは100℃/hrとした。得られたケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウムを超高速粉砕機(ロータリークラッシャー、三庄インダストリー製)で解砕した後、目開き32μmの篩を通過させてケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成は、Li
1.12Mn
1.85Mg
0.03O
4であった。またXRD測定よりケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn
2O
4)とNo.70-0330(Li
2SiO
3)の混合相であった。ケイ素/マンガンモル比、BET比表面積、平均粒子径、Na含有量、SO
4含有量の測定結果(以下、測定結果とする)を表1に示す。また電池性能評価は表2に示す。粒子表面のSEM-EDX像を
図1に示す。
【0048】
【0049】
【表2】
実施例2
コロイダルシリカの添加量を1.14gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0050】
得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成は、Li
1.13Mn
1.84Mg
0.03O
4であった。またXRD測定よりJCPDSのNo.35-782(LiMn
2O
4)とNo.70-0330(Li
2SiO
3)の混合相であった。測定結果を表1に示し、電池性能評価を表2に示す。粒子表面のSEM-EDX像を
図2に示す。
【0051】
実施例3
コロイダルシリカの添加量を2.27gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0052】
得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成は、Li
1.20Mn
1.85Mg
0.03O
4であった。また、XRD測定よりJCPDSのNo.35-782(LiMn
2O
4)とNo.70-0330(Li
2SiO
3)の混合相であった。測定結果を表1に示し、電池性能評価を表2に示す。粒子表面のSEM-EDX像を
図3に示す。
【0053】
比較例1
Mn3O43gとLi2CO30.83g、Mg(OH)2(和光純薬工業製、平均粒子径0.07μm)0.068gを乾式で混合の後、実施例1と同様の方法にて焼成・解砕・分級を行った。合成されたスピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn2O4)の単相であった。物性の測定結果を表1に示す。また電池性能を表2に示す。表2より、比較例1は、実施例に対して高温下での充放電特性が劣ることが明らかとなった。
【0054】
比較例2
炭酸リチウムLi2CO3の添加量を1.08gとしたこと以外は実施例2と同様の方法でケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi0.85Mn2.12Mg0.03O4であった。電池性能評価を表2に示す。表2より、Li組成が不足しているため、比較例2は実施例に対して高温下での充放電特性が劣ることが明らかとなった。
【0055】
比較例3
炭酸リチウムLi2CO3の添加量を1.79gとしたこと以外は実施例2と同様の方法でケイ酸リチウム含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi1.41Mn1.56Mg0.03O4であった。電池性能評価を表2に示す。表2より、Li組成が過剰であるため、比較例3は実施例に対して充電容量が十分に得られていないことが明らかとなった。
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、ケイ酸リチウムがスピネル型マンガン酸リチウムの表面に含有され、特異的なBET比表面積及び二次粒子径を有している。そのため、高温下における充放電特性、特にカーボン対極の充放電特性に優れる。また、充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池の正極活物質として使用することができる。