(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149023
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】圧力変動吸着式ガス分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/047 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B01D53/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021050946
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 卓
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 達央
【テーマコード(参考)】
4D012
【Fターム(参考)】
4D012CA04
4D012CB16
4D012CB18
4D012CD07
4D012CE02
4D012CF10
4D012CJ10
(57)【要約】
【課題】吸着塔内部を開放することなく吸着剤の劣化を確認できるPSA式ガス分離装置の提供。
【解決手段】第1の成分及び第2の成分を含む原料ガスG1から前記第1の成分と前記第2の成分を分離する圧力変動吸着式ガス分離装置であって、原料ガスG1を圧縮する圧縮機2と、圧縮機2で圧縮した原料ガスG1の少なくとも一部が導入され、原料ガスG1中の前記第1の成分の少なくとも一部を吸着する吸着剤1bが充填された吸着塔1と、圧縮機2の原料ガス出口2aと吸着塔1の原料ガス入口1cとを接続し、圧縮機2で圧縮された原料ガスG1の少なくとも一部を吸着塔1に導入する供給配管3と、供給配管3に接続され、吸着塔1に充填された吸着剤1bと同一の吸着剤6bが充填された吸着剤充填手段6と、を備えるPSA式ガス分離装置101。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成分及び第2の成分を含む原料ガスから前記第1の成分と前記第2の成分を分離する圧力変動吸着式ガス分離装置であって、
前記原料ガスを圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮した前記原料ガスの少なくとも一部が導入され、前記原料ガス中の前記第1の成分の少なくとも一部を吸着する吸着剤が充填された吸着塔と、
前記圧縮機の原料ガス出口と前記吸着塔の原料ガス入口とを接続し、前記圧縮機で圧縮された前記原料ガスの少なくとも一部を前記吸着塔に導入する供給配管と、
前記供給配管に接続され、前記吸着塔に充填された吸着剤と同一の吸着剤が充填された吸着剤充填手段と、
を備える圧力変動吸着式ガス分離装置。
【請求項2】
前記吸着剤充填手段が、前記供給配管の前記圧縮機の原料ガス出口よりも前記吸着塔の原料ガス入口の近くに接続される、請求項1に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【請求項3】
前記吸着剤充填手段が、前記供給配管又は前記供給配管から分岐した分岐配管の少なくとも1つに接続される、請求項1又は2に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【請求項4】
前記吸着剤充填手段が、前記供給配管から分岐した分岐配管に接続され、前記分岐配管にはバルブが設置される、請求項3に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力変動吸着式ガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力変動吸着式(Pressure Swing Adsorption式、以下「PSA式」と略称する場合がある。)ガス分離装置は、吸着剤を用いて原料ガス中の成分を選択的に濃縮・分離する装置である(特許文献1)。
図5に示す従来のPSA式ガス分離装置105は、原料ガスG1を圧縮する圧縮機2と、吸着塔本体1aに吸着剤1bを充填した吸着塔1と、圧縮機2と吸着塔1とを接続する供給配管3と、を備える。従来のPSA式ガス分離装置105では、第1の成分と第2の成分を含む原料ガスG1を、圧縮機2で圧縮し、供給配管3を通じて、吸着塔1に導入する。吸着剤1bが原料ガスG1の第1の成分の吸着剤である場合、吸着塔1では、原料ガスG1中の第1の成分の少なくとも一部を吸着し、第2の成分を濃縮した分離ガスG2が生成する。
例えば、PSA式窒素ガス発生装置では、原料ガスとして空気(窒素約80体積%と酸素約20体積%の混合ガス)を使用し、吸着塔に充填された酸素吸着剤によって、空気中の酸素を吸着して窒素を濃縮する。また、例えば、PSA式酸素ガス発生装置では、原料ガスとして空気を使用し、吸着塔に充填された窒素吸着剤によって、空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮する。
【0003】
吸着塔に充填される吸着剤は、細孔径及び細孔容積等の細孔特性を調製することにより、気体の分離特性を向上させている。原料ガス中の有機溶剤成分又は圧縮機から原料ガスに混入するオイル等の阻害成分により吸着剤の性能が低下するため、通常、圧縮機と吸着塔との間に活性炭等の不純物除害剤を充填した除害塔を設置して、吸着剤の分離性能の低下を防ぐ対策をとっている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-226258号公報
【特許文献2】特開平7-275629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記対策では、阻害成分は吸着剤に吸着されると脱離しないため、微量の阻害成分でも時間の経過とともに絶対吸着量が増加し、次第に吸着剤の分離性能が低下するので、PSA式ガス分離装置の製品ガス純度は低下する。
PSA式ガス分離装置の製品ガス純度の低下等の異常現象が発生した場合、その原因として、バルブ、流量計、ガス濃度計又は圧縮機の故障等の機器の異常、及び吸着剤の劣化の有無を想定して原因調査が行われる。
吸着剤の劣化の有無の確認は、原料ガス中の有機溶剤成分等の阻害成分を測定したり、吸着塔から吸着剤を取り出して、阻害成分の吸着量を測定したりする必要がある。
圧縮機により圧縮された原料ガスは、PSA式ガス分離装置の吸着塔の原料ガス入口から導入され、原料ガス中の第1の成分を吸着し、第2の成分を分離して、吸着塔の分離ガス出口から濃縮された第2の成分を得る。
図5に示す従来のPSA式ガス分離装置は、吸着塔1の原料ガス入口1cが下部に、吸着塔の分離ガス出口1dが上部に位置し、吸着塔1の原料ガス入口1cから圧縮機2により圧送された原料ガスG1が直接導入される構造である。有機溶剤等の阻害成分は、吸着塔1の原料ガス入口1cに堆積するため、吸着塔1の内部を開放して、吸着塔1から吸着剤1bの全量を取り出し、吸着塔1の原料ガス入口1cの吸着剤を分析する必要がある。そのため、吸着剤の劣化の有無の確認に時間を要するうえに、費用が高くなる。
【0006】
本発明は、吸着塔内部を開放することなく吸着剤の劣化を確認できる圧力変動吸着式ガス分離装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 第1の成分及び第2の成分を含む原料ガスから前記第1の成分と前記第2の成分を分離する圧力変動吸着式ガス分離装置であって、
前記原料ガスを圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮した前記原料ガスの少なくとも一部が導入され、前記原料ガス中の前記第1の成分の少なくとも一部を吸着する吸着剤が充填された吸着塔と、
前記圧縮機の原料ガス出口と前記吸着塔の原料ガス入口とを接続し、前記圧縮機で圧縮された前記原料ガスの少なくとも一部を前記吸着塔に導入する供給配管と、
前記供給配管に接続され、前記吸着塔に充填された吸着剤と同一の吸着剤が充填された吸着剤充填手段と、
を備える圧力変動吸着式ガス分離装置。
[2] 前記吸着剤充填手段が、前記供給配管の前記圧縮機の原料ガス出口よりも前記吸着塔の原料ガス入口の近くに接続される、[1]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
[3] 前記吸着剤充填手段が、前記供給配管又は前記供給配管から分岐した分岐配管の少なくとも1つに接続される、[1]又は[2]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
[4] 前記吸着剤充填手段が、前記供給配管から分岐した分岐配管に接続され、前記分岐配管にはバルブが設置される、[3]に記載の圧力変動吸着式ガス分離装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吸着塔内部を開放することなく吸着剤の劣化を確認できる圧力変動吸着式ガス分離装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第一の実施形態のPSA式ガス分離装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第二の実施形態のPSA式ガス分離装置を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の第三の実施形態のPSA式ガス分離装置を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の第四の実施形態のPSA式ガス分離装置を示す模式図である。
【
図5】
図5は、従来のPSA式ガス分離装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の両側の数値をその数値範囲内に含む。
本発明において、上下は、重力の向きを基準とし、重力の向かう方(物体が落下する方)を下、その反対を上とする。
【0011】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態に係るPSA式ガス分離装置101を示す模式図である。以下では
図1を参照しながら、PSA式ガス分離装置101を説明する。
PSA式ガス分離装置101は、第1の成分及び第2の成分を含む原料ガスG1から、前記第1の成分と前記第2の成分を分離し、前記第2の成分を濃縮した分離ガスG2を製造する装置である。
PSA式ガス分離装置101は、原料ガスG1を圧縮する圧縮機2と、圧縮機2で圧縮した原料ガスG1の少なくとも一部が導入され、原料ガスG1中の第1の成分の少なくとも一部を吸着する吸着剤1bが吸着塔本体1aに充填された吸着塔1と、圧縮機2の原料ガス出口2aと吸着塔1の原料ガス入口1cとを接続し、圧縮機2で圧縮された原料ガスG2の少なくとも一部を吸着塔1に導入する供給配管3と、吸着剤充填手段本体6aに吸着剤1bと同一の吸着剤6bを充填した吸着剤充填手段6と、供給配管3から分岐して吸着剤充填手段6に接続するスタブ配管7と、を備える。スタブ配管7と供給配管3とは、接続点Aで接続している。
【0012】
吸着塔1は、従来のPSA式ガス分離装置105に用いられている吸着塔1と同様である。吸着剤1bは、原料ガスG1の種類及び分離ガスG2の種類によって、適宜選択できる。
図1では吸着塔1は1個であるが、これに限定されず、複数個の吸着塔1を並列に接続してもよい。
【0013】
圧縮機2は、従来のPSA式ガス分離装置105に用いられている圧縮機2と同様である。圧縮機2としては、例えば、ロータリー式圧縮機、レシプロ式圧縮機又はターボ式圧縮機を適宜選択できる。
図1では圧縮機2は1個であるが、これに限定されず、複数個の圧縮機2を並列に接続してもよい。
【0014】
吸着剤充填手段6は、吸着剤充填手段本体6aに充填された、吸着剤1bと同一の吸着剤6bと、圧縮機2で圧縮された原料ガスG1とを接触させる手段である。吸着剤充填手段6の吸着剤6bを充填する部分の体積は、吸着塔1の吸着剤1bを充填する部分の体積よりも小さいことが好ましい。具体的には、例えば、吸着剤充填手段6の吸着剤6bを充填する部分の体積は、吸着塔1の吸着剤1bを充填する部分の体積の、1/10が好ましく、1/100がより好ましい。また、吸着剤充填手段6は、吸着剤充填手段6に圧縮機2で圧縮された原料ガスG1を供給する配管と着脱自在に接続されることが好ましい。また、吸着剤充填手段6の形状は、特に限定されないが、吸着塔1と同程度の耐圧性を有することが好ましいことから、例えば、円筒形又はボンベ型であり得る。
図1では吸着剤充填手段6は1個であるが、これに限定されず、複数個の吸着剤充填手段6を並列に接続してもよい。
【0015】
PSA式ガス分離装置101では、吸着剤充填手段6から吸着剤6bを取り出して、吸着剤の劣化を確認できるので、吸着塔1から吸着剤1bの全量を取り出す必要がない。そのため、従来のPSA式ガス分離装置105に比べて、吸着剤1bの劣化を確認するための時間を短縮でき、費用も低減できる。
【0016】
PSA式ガス分離装置101では、吸着塔1の吸着性能を充分に発揮するため、吸着塔1を略鉛直方向に配置し、吸着塔1の原料ガス入口1cを下に、吸着塔の分離ガス出口1dを上に向けることが好ましい。
この場合において、供給配管3とスタブ配管7との接続点Aは、吸着塔1の原料ガス入口1cの近傍に位置することが好ましい。吸着剤1bの劣化は、吸着塔1の原料ガス入口1c付近が最も早く進行すると考えられることから、接続点Aを吸着塔1の原料ガス入口1cの近傍に設定することにより、吸着剤1bの劣化をよりよく吸着剤6bに反映させることができる。
【0017】
[第二の実施形態]
図2は、本発明の第二の実施形態に係るPSA式ガス分離装置102を示す模式図である。以下では
図2を参照しながら、PSA式ガス分離装置102を説明する。ただし、本発明の第一の実施形態に係るPSA式ガス分離装置101と共通する部分は、省略する。
図2に示すPSA式ガス分離装置102は、
図1に示すPSA式ガス分離装置101のスタブ配管7にバルブV1を設置したものである。スタブ配管7にバルブを設置したことで、PSA式ガス分離装置102が作動中でもバルブV1を閉止して、吸着剤充填手段6から吸着剤6bを取り出すことができる。そのため、吸着剤1bの劣化の有無を確認する際にも、PSA式ガス分離装置102を停止する必要がなく、原料ガスG1から分離ガスG2の製造を継続できる。
【0018】
[第三の実施形態]
図3は、本発明の第三の実施形態に係るPSA式ガス分離装置103を示す模式図である。以下では
図3を参照しながら、PSA式ガス分離装置103を説明する。ただし、本発明の第一の実施形態に係るPSA式ガス分離装置101と共通する部分は、省略する。
図3に示すPSA式ガス分離装置103は、
図1に示すPSA式ガス分離装置101と対比すると、吸着剤充填手段6がスタブ配管7の先ではなく供給配管3の途中に設置されている点が相違する。
吸着剤充填手段6及び吸着塔1を、図示するように直列に接続したことにより、吸着剤1bの劣化をより早期に発見できる。
【0019】
[第四の実施形態]
図4、本発明の第四の実施形態に係るPSA式ガス分離装置104を示す模式図である。以下では
図4を参照しながら、PSA式ガス分離装置104を説明する。ただし、本発明の第一の実施形態に係るPSA式ガス分離装置101と共通する部分は、省略する。
図4に示すPSA式ガス分離装置104は、
図1に示すPSA式ガス分離装置101と対比すると、吸着剤充填手段6がスタブ配管7の先ではなく供給配管3のバイパス配管の8途中に設置され、接続点Bと吸着剤充填手段6との間にバルブV2が設置され、吸着剤充填手段6と接続点Cとの間にバルブV3が設置されている点が相違する。
図3に示すPSA式ガス分離装置103では装置作動中に吸着剤充填手段6から吸着剤6bを取り出すことができなかったが、バイパス配管8を設置し、バイパス配管8にバルブV2及びバルブV3を設置したことで、装置作動中でもバルブV2及びバルブV3を閉止して、吸着剤充填手段6から吸着剤6bを取り出すことができる。そのため、吸着剤1bの劣化の有無を確認する際にも、PSA式ガス分離装置104を停止する必要がなく、原料ガスG1から分離ガスG2の製造を継続できる。
【0020】
[原料ガス]
本発明のPSA式ガス分離装置で用いる原料ガスとしては、例えば、空気が挙げられる。原料ガスとして空気を用いる場合、空気は窒素約80体積%及び酸素約20体積%を含む混合ガスであることから、本発明のPSA式ガス分離装置としては、PSA式窒素ガス発生装置又はPSA式酸素ガス発生装置が好ましい。PSA式窒素ガス発生装置では、吸着塔に充填する吸着剤として、酸素吸着剤を用い、PSA式酸素ガス発生装置では、吸着塔に充填する吸着剤として、窒素吸着剤を用いる。
【0021】
[作用効果]
本発明のPSA式ガス分離装置では、原料ガスの一部を吸着塔とは別の吸着剤充填手段に導入し、吸着塔から取り出した吸着剤ではなく吸着剤充填手段から取り出した吸着剤を分析することにより、吸着塔に充填した吸着剤の劣化の有無を確認できる。そのため、吸着塔内部を開放することなく吸着剤の劣化を確認でき、吸着剤の劣化の有無のための時間及び費用を低減できる。
【符号の説明】
【0022】
1…吸着塔、1a…吸着塔本体、1b…吸着剤、1c…吸着塔の原料ガス入口、1d…吸着塔の分離ガス出口、2…圧縮機、2a…圧縮機の原料ガス出口、2b…圧縮機の原料ガス入口、3…供給配管、4…原料ガス配管、5…分離ガス配管、6…吸着剤充填手段、6a…吸着剤充填手段本体、6b…吸着剤、7…スタブ配管、8…バイパス配管、101,102,103,104…PSA式ガス分離装置、105…従来のPSA式ガス分離装置、G1…原料ガス、G2…分離ガス、V1,V2,V3…バルブ、A,B,C…接続点