(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149150
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ペースト調味料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20220929BHJP
A23L 27/12 20160101ALI20220929BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20220929BHJP
A23L 27/24 20160101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L27/12
A23L27/20 G
A23L27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051169
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】大野 直土
(72)【発明者】
【氏名】花田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】石川 碧
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG05
4B047LG38
4B047LG56
4B047LG59
4B047LG60
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、フルーティーな香りを有すると共に、果実が適度に溶解したペースト調味料を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmである、ペースト調味料などにより解決される。また、前記果実が、マンゴー、あんず、パイナップル、オレンジ及びトマトからなる群から選ばれる少なくとも1種の果実とすることができ、前記ペースト調味料は、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物とすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmである、ペースト調味料。
【請求項2】
前記果実が、マンゴー、あんず、パイナップル、オレンジ及びトマトからなる群から選ばれる少なくとも1種の果実である、請求項1に記載のペースト調味料。
【請求項3】
前記ペースト調味料は、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物である、請求項1又は2に記載のペースト調味料。
【請求項4】
前記醤油諸味液汁が、醤油諸味液汁の酵母発酵物である、請求項3に記載のペースト調味料。
【請求項5】
醤油麹と食塩水とを混合処理に供して得られた醤油諸味を、固液分離処理及び除菌処理に供することにより、醤油諸味液汁を得る工程と、
前記醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵処理に供することにより、醤油諸味液汁の酵母発酵物を得る工程と、
前記醤油諸味液汁の酵母発酵物と果実との混合物を、酵母発酵処理に供することにより、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmであるペースト調味料を得る工程と
を含む、ペースト調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香りの優れた新規なペースト調味料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フルーティーな香りなどの華やかな香りの飲食品が好まれている。例えば、醤油に果実を漬け込むことにより、フルーティーな香りを有する醤油を得る方法が知られている。
【0003】
一方、マンゴーなどの果実を使用したチャツネ(ペースト調味料)も知られている。一般的に、果実を使用したチャツネは、果実と共に香辛料などを加熱せずにすり潰すか、果実と共に香辛料などを煮込むことにより製造される。
例えば、特許文献1には、柿を使用したペースト調味料(柿チャツネ)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、醤油に果実を漬け込む方法では、当然ながら醤油と果実とは分離された状態のものとなり、食材への塗布性や付着性に欠ける。そのうえ、フルーティーな香りの強さとしても十分なものとはいえない。
また、従来の果実を使用したチャツネや特許文献1に記載の柿チャツネは、果実由来の風味や香りは有するものの、フルーティーな香りの強さ又は塩味やうま味の強さという点で十分なものではない。また、原料を加熱せずにすり潰して製造する場合においては、食感としても十分なものではない。
【0006】
そこで、本発明は、フルーティーな香りを有すると共に、果実が適度に溶解したペースト調味料を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、醤油の成分や製造方法などを見直し、さらに300種以上あるとされている香気成分について鋭意検討し、フルーティーな香りを有すると共に、果実が適度に溶解した調味料を得るべく試行錯誤を繰り返した。そして、遂に、醤油諸味液汁の酵母発酵物と果実との混合物を、酵母発酵処理に供することにより、フルーティーな香りを有すると共に、果実が適度に溶解した新規なペースト調味料を得ることに成功した。
【0008】
本発明はこのような成功例や知見に基づいて完成するに至った発明である。
【0009】
したがって、本発明の各一態様によれば、以下のものが提供される:
[1]果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmである、ペースト調味料。
[2]前記果実が、マンゴー、あんず、パイナップル、オレンジ及びトマトからなる群から選ばれる少なくとも1種の果実である、[1]に記載のペースト調味料。
[3]前記ペースト調味料は、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物である、[1]又は[2]に記載のペースト調味料。
[4]前記醤油諸味液汁が、醤油諸味液汁の酵母発酵物である、[3]に記載のペースト調味料。
[5]醤油麹と食塩水とを混合処理に供して得られた醤油諸味を、固液分離処理及び除菌処理に供することにより、醤油諸味液汁を得る工程と、
前記醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵処理に供することにより、醤油諸味液汁の酵母発酵物を得る工程と、
前記醤油諸味液汁の酵母発酵物と果実との混合物を、酵母発酵処理に供することにより、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmであるペースト調味料を得る工程と
を含む、ペースト調味料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様であるペースト調味料によれば、甘いフルーティーな香りを有すると共に、果実が適度に溶解した調味料を提供することができる。
また、本発明の一態様であるペースト調味料が、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物である場合においては、醤油原料を用いていることから、塩味及びうま味が付与されるので、調味料としての高い汎用性が得られる。
【0011】
本発明の一態様であるペースト調味料の製造方法によれば、甘いフルーティーな香りを有すると共に、果実が適度に溶解した調味料を容易に製造することができる。
しかも、本発明の一態様であるペースト調味料の製造方法によれば、従前の醤油の製造方法のように原料の仕込みから連続して製造せずとも、醤油諸味液汁を用いた酵母発酵により得られ得るものであることから、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例において調製したサンプル調味料の1日目、1週目、2週目、3週目及び4週目の状態を示す実際の写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一態様であるペースト調味料の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0014】
本発明の一態様のペースト調味料は、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmである。
【0015】
本発明の一態様のペースト調味料は、果実を含み、γ-ノナラクトンを所定の量で含有することにより、フルーティーな香りを有すると共に、果実が適度に溶解した調味料として、飲食品や他の調味料の味を調える用に供され得る。
【0016】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
【0017】
「含有量」との用語は、本明細書において、濃度と同義であり、調味料の全体量(例えば、体積)に対する成分の量(例えば、質量)の割合(例えば、ppm)を意味する。
「ペースト」との用語は、本明細書において、果実などの固形分がほぼ残っておらず、残っていたとしても柔らかい状態のものであって、食材などに塗布することが可能な適度な粘度及び流動性を有する性状のものである。
「果実」との用語は、通常知られている意味であり、具体的には食用に供し得る草本性の植物であり、2年以上栽培する草本植物及び木本植物であって、果実を食用とする果樹をいう。なお、本発明においては、苗を植えて1年で収穫する草本植物であって、果実を食用とする野菜(例えば、トマトなど)も含むものとする。
「ppm」との用語は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppmは1mg/L(w/v)である。
「フルーティーな香り」との用語は、本明細書において、飲食せずに鼻だけで感じる、フルーツ様の甘い香りを意味する。
「果実感の味」との用語は、本明細書において、飲食時に口腔内で感じる果実らしい風味の甘味や酸味を意味する。
「うま味」との用語は、通常知られているとおりの甘味、酸味、塩味及び苦味とともに基本味として知られているものを意味する。うま味は、例えば、舌に広がるような、舌全体が包み込まれるような味、酸味や塩味と違って持続性があり後味に影響を及ぼす味、粘性がありつつも、口中を潤す唾液の分泌を促す味などの少なくともいずれかの味であり得る。
「発酵」及び「熟成」との用語は、本明細書において、厳密に区別されるものではなく、これらを合わせて発酵という場合がある。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
【0018】
本発明の一態様のペースト調味料は、食材などに塗布することが可能な適度な粘度及び流動性を有する状態のものであり、果実由来、醤油由来及び/又はその他の固形分を含んでもよいものとするが、柔らかい状態のものである。
【0019】
果実は、食用に供しうるものであれば特に限定されないが、特に甘いフルーティーな香りとの調和及びペースト性状のものを得るという観点からマンゴー、あんず、パイナップル、オレンジ及びトマトからなる群から選ばれる少なくとも1種の果実であることが好ましい。これらの果実は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有されていてもよい。
【0020】
果実の含有量は特に限定されず、所望の風味や香りに合わせて適宜設定できるが、例えば、本発明の一態様のペースト調味料の全体量に対して、果実として乾燥果実を用いる場合においては、好ましくは20質量%~70質量%であり、より好ましくは25質量%~60質量%であり、更に好ましくは25質量%~50質量%である。
【0021】
γ-ノナラクトンの含有量は、0.04ppm~2.5ppmであり、より甘いフルーティーな香りがするという観点から0.5ppm~2.0ppmであることがより好ましく、1.0ppm~1.5ppmであることがさらに好ましい。γ-ノナラクトンの含有量が2.5ppmを超過する場合においては、ココナッツ様の香りが強くなり、果実様のフルーティーな香りとは異なる香りとなるため好ましくない。
【0022】
ペースト調味料におけるγ-ノナラクトンの含有量が上記した所定の量よりも過少である場合には、ペースト調味料にγ-ノナラクトンを添加して所定の量に調整できる。γ-ノナラクトンは、後述する実施例に記載の方法によってγ-ノナラクトンが測定され得るγ-ノナラクトン含有物であれば特に限定されない。
【0023】
ペースト調味料におけるγ-ノナラクトンの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。したがって、γ-ノナラクトンの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定して得られる値である。
【0024】
本発明の一態様のペースト調味料は、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmであるものであれば、特に限定されないが、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物であることが好ましい。ここで、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物とは、醤油諸味液汁と果実との混合物が醤油酵母又は野生酵母によって発酵及び熟成されたものをいう。また、上記醤油諸味液汁は、醤油諸味液汁の酵母発酵物、すなわち醤油酵母などによって発酵及び熟成されたものであることがより好ましい。本発明の一態様であるペースト調味料が、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物である場合においては、フルーティーな香りを有することに加え、醤油原料を用いていることから、ペースト調味料に塩味やうま味が付与されるため、調味料として汎用性が高いものとなる。また、本発明の一態様であるペースト調味料が、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物である場合においては、増粘剤やゲル化剤などの添加物が添加されていなくても、果実が適度に溶解したペースト状のものとなるため、調味料としてより商品価値が高いものとなる。
【0025】
本発明の一態様のペースト調味料の塩分濃度は、特に限定されないが、例えば7.0%(w/v)~15.0%(w/v)であることが好ましく、より好ましくは9.0%(w/v)~10.0%(w/v)である。塩分濃度は、公知の電位差滴定法で測定することができる。また、グルタミン酸濃度は、特に限定されないが、例えば0.5%(w/v)以上であることが好ましく、より好ましくは0.7%(w/v)~1.0%(w/v)である。グルタミン酸濃度は、公知の酵素電極法で測定することができる。
【0026】
以下、本発明の一態様のペースト調味料の製造方法について、詳述する。
【0027】
本発明の一態様のペースト調味料の製造方法は、下記工程を含む:
醤油麹と食塩水とを混合処理に供することにより醤油諸味を得る工程;
得られた醤油諸味を固液分離処理及び除菌処理に供することにより、醤油諸味液汁を得る工程;
得られた醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵処理に供することにより、醤油諸味液汁の酵母発酵物を得る工程;
得られた醤油諸味液汁の酵母発酵物と、果実との混合物を、酵母発酵処理に供することにより、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmであるペースト調味料を得る工程。
以上のような製造方法においては、通常の醤油の製造方法と違って、乳酸発酵後の醤油諸味を連続的に酵母発酵に供するのではなく、酵母発酵に供する前に醤油諸味を不溶性固形部分(醤油諸味濃縮物)と液体部分(醤油諸味液汁)とに分けて、次いで醤油諸味液汁について酵母発酵を実施することを含む。したがって、該方法では、醤油諸味を得る工程と、醤油諸味液汁を得る工程と、醤油諸味液汁の酵母発酵を実施する工程と、醤油諸味液汁の酵母発酵物及び果実の混合物を用いた酵母発酵を実施する工程とを少なくとも含む。このようにして得られるペースト調味料は、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmであるペースト調味料であり得る。
【0028】
醤油諸味を得る工程は、通常知られているとおりの醤油の製造方法のうち醤油諸味を得るまでの工程であれば特に限定されない。なお、醤油は、本醸造方式の場合、加熱変性した大豆などのタンパク質原料及び加熱によりα化した小麦などのデンプン質原料の混合物に、麹菌を含む種麹を接種及び培養して製麹して醤油麹を得て、次いで得られた醤油麹を食塩水に仕込んで乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得て、次いで得られた醤油諸味を酵母発酵及び熟成することにより熟成諸味を得て、次いで得られた熟成諸味を圧搾処理やろ過処理に供することにより生醤油を得て、次いで得られた生醤油を火入れすることなどによって製造される。
【0029】
醤油諸味を得る工程の一態様としては、例えば、蒸煮変性した大豆、炒熬割砕した麦などの混合物である醤油原料に種麹を接種し、20~40℃で、2~4日間程度で通風製麹して醤油麹を得て、次いで醤油麹を食塩濃度が20~30%(w/v)である食塩水に仕込み、さらに任意に醤油乳酸菌を加えたものを、15~40℃で適宜撹拌しながら10~200日間、好ましくは15~40日間、乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得る工程などが挙げられる。
【0030】
醤油原料は特に限定されないが、例えば、丸大豆や脱脂加工大豆などの大豆、小麦、大麦、裸麦、はと麦などの麦、麦グルテン、米、トウモロコシなどが挙げられる。
【0031】
種麹としては、通常醤油の製造の際に利用される麹菌であれば、特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)などのアスペルギルス属微生物などが挙げられる。醤油乳酸菌は、通常醤油の製造の際に利用される醤油乳酸菌であれば特に限定されないが、例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)などの耐塩性乳酸菌などが挙げられる。
【0032】
醤油諸味を得る工程において、醤油原料のうち、小麦や米などのデンプン質原料の量が少ないと、還元糖の含有量が少なくなり、酵母発酵を適切に実施し得る醤油諸味を得ることができない可能性がある。そこで、醤油原料のうち、小麦や米などのデンプン質原料の量は、還元糖の含有量が多い醤油諸味を得ることができる程度の量であることが好ましい。ただし、醤油諸味に還元糖成分、例えば、グルコース、フルクトース、マルトースなどを添加することにより還元糖の含有量が多い醤油諸味を得る場合は、この限りではない。
【0033】
醤油諸味液汁を得る工程では、大豆や小麦などの醤油原料由来の不溶性固形分を含む醤油諸味(乳酸発酵物)から不溶性固形分を除いて醤油諸味の液汁を得る。醤油諸味から不溶性固形分を除いて醤油諸味液汁を得る方法は特に限定されないが、例えば、通常知られている固液分離方法などが挙げられ、具体的には醤油の製造方法で通常使用される圧搾処理やろ過処理などが挙げられ、より具体的にはろ布を用いたプレス機を用いた圧搾ろ過処理やUF膜やMF膜などの各種透過膜を用いた膜ろ過処理などが挙げられる。このとき、醤油諸味の液汁に醤油乳酸菌が多く残っていると、酵母発酵が適切に行われない可能性がある。そこで、醤油諸味液汁を得る際には、不溶性固形分とともに、醤油乳酸菌の大部分を除去できるような方法を採用することが好ましい。醤油諸味の液汁における乳酸菌の含有量は特に限定されないが、例えば、1.0×108 個/ml以下であることが好ましく、1.0×107 個/ml以下であることがより好ましく、1.0×106 個/ml以下であることがさらに好ましい。
【0034】
醤油諸味液汁の酵母発酵物を得る工程は、醤油諸味液汁について、通常知られているとおりの醤油を製造する際に使用する醤油酵母を用いて、醤油酵母の種類や菌数などに応じた条件によって常法の酵母発酵を実施する。醤油酵母は、通常醤油の製造の際に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailli)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)などの耐塩性酵母などが挙げられる。
【0035】
酵母発酵の期間は、特に限定されないが、例えば、醤油酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを用いる場合は、15~30℃で、3~28日間程度、好ましくは5~14日間程度、より好ましくは7日間程度である。さらに、酵母発酵の期間は、次工程のペースト調味料を得る工程において、果実添加後にエタノールの生成量が最大となる期間が好ましい。つまり、果実添加前の酵母発酵の期間は、酵母活性が高く、エタノール生成量が1.0%未満となる期間が好ましい。
【0036】
ペースト調味料を得る工程は、醤油諸味液汁の酵母発酵物と、果実との混合物を酵母発酵及び熟成する。この工程において、醤油諸味液汁の酵母発酵物と、果実とが、醤油諸味液汁の酵母発酵物中の酵母の作用によって発酵及び熟成が実施されることにより、γ-ノナラクトンが生成される。すなわち、この工程において、酵母が存在しないと、γ-ノナラクトンが生成されない。なお、マンゴー、あんず、パイナップル、オレンジ及びトマトといった果実自体には、γ-ノナラクトンは本来的に含有されていない。
また、この工程において、醤油諸味液汁の酵母発酵物と、果実とが、麹菌の酵素や醤油諸味液汁の酵母発酵物中の酵母の作用によって発酵及び熟成が実施されることにより、果実の果肉は、柔らかくなって、醤油諸味液汁に程よく溶解して混然一体となり、ペースト状になる。一方、この工程において、醤油諸味液汁に換えて、大豆や小麦などの醤油原料由来の不溶性固形分を含む醤油諸味を使用した場合においては、所望のペースト状態とならないおそれがある。
【0037】
果実は、食用に供しうる果実であれば特に限定されないが、よりフルーツ様の甘い香りがするという観点からマンゴー、あんず、パイナップル、オレンジ及びトマトからなる群から選ばれる少なくとも1種の果実であることが好ましい。これらの果実は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、果実は、乾燥果実であることが好ましい。果実を乾燥する方法としては、通常知られているとおりの方法であれば特に限定されない。また、市販の乾燥果実を使用することもできる。
【0038】
酵母発酵及び熟成期間は、発酵液中のγ-ノナラクトンが生成する期間、より好ましくはγ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmの量になる期間であれば特に限定されないが、例えば、15~30℃で、14~60日間程度、好ましくは21~35日間程度、より好ましくは28日間程度である。
【0039】
醤油諸味液汁の酵母発酵物と、果実との混合割合は、質量比で30:70~80:20であることが好ましい。
【0040】
なお、ペースト調味料を得る工程は、例えば、酵母発酵に適しており、さらに酵母発酵後に直ちに発酵液を使用し得るような醤油瓶に、醤油諸味液汁及び乾燥果実を入れて、室温で週に1回程度撹拌して酵母発酵することなどにより簡便に実施できる。
【0041】
ペースト調味料を得る工程では、予め不溶性固形分が除かれた醤油諸味液汁を用いていることから、発酵及び熟成後に得られるものは固形分が少ないものであり、それ自体をペースト調味料とすることができる。また、ペースト調味料中にある酵母や残渣を除くなどの目的のために、ペースト調味料について、圧搾、ろ過、火入れなどの通常の醤油の製造方法で用いられる酵母発酵の後段の処理などに供してもよい。
【0042】
本発明の一態様のペースト調味料は、果実を含み、γ-ノナラクトンの含有量が0.04ppm~2.5ppmであればよく、本発明の課題解決を妨げない限りは、様々なその他の成分を含有することができる。その他の成分は特に限定されないが、例えば、調味料成分や食材であり、具体的には野菜成分(大根、ニンジン、玉ネギ、にんにくなど)、酵母エキス、肉エキス(チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス、魚肉エキスなど)、果汁(りんご果汁など)、香辛料(生姜、唐辛子、こしょう、バジル、オレガノなど)、化学調味料(グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ソーダなど)、フレーバーなどが挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の成分の含有量は、本発明の課題を解決し得る限り、適宜設定することができる。
【0043】
本発明の一態様のペースト調味料は、容器に詰めて密封した容器詰ペースト調味料とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、ガラスなどを素材とする、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。容器詰ペースト調味料は、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものである。
【0044】
本発明の一態様のペースト調味料は、通常のペースト調味料と同様に使用することができる。すなわち、本発明の一態様のペースト調味料は、単独で、又は上記した野菜成分、酵母エキス、肉エキス、果汁、香辛料、化学調味料、フレーバーに加えて、だし、酸味料、アミノ酸、核酸、有機酸、タンパク質加水分解物、糖、酒、みりん、アルコール、増粘剤、乳化剤、無機塩類などのその他の調味成分を混合して、若しくは組み合わせて、様々な食材の調理や加工法に用いることができる。例えば、本発明の一態様のペースト調味料は、日本食、欧米食、中華食、エスニック食などの各種の料理に使用することができ、具体的には揚げ物、焼肉、うどん、そば、ラーメン、ハンバーグ、ミートボール、筑前煮、照り焼き、カレー、シチュー、ハヤシ、和え物、生春巻きなどに用いることができるが、これらに限定されない。特に、本発明の一態様のペースト調味料は、ペーストという性状の観点から、食材への塗布性及び付着性に優れ、例えば肉、魚、野菜、パンなどの食材表面にペースト調味料を塗布して調理や加工することや、食材自体をペースト調味料に潜らせ(ディップし)て食するのに好適である。
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0046】
[1.γ-ノナラクトンの測定方法]
ペースト調味料中のγ-ノナラクトン及び内部標準物質として用いた2-オクタノンの含有量は、下記の酢酸エチルを用いた抽出処理に供して得た抽出液について、GC-MSにより測定した。
【0047】
<酢酸エチルを用いた抽出処理>
食塩2.0g及び2-オクタノン溶液(20ppm)100μLを添加したサンプル5.0gに対し、酢酸エチル1.0mLを添加し、5分間激しく撹拌した後、有機溶媒層を抽出した。この操作を3回繰り返し、得られた有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、500μLまで濃縮し香気濃縮物を得た。得られた香気濃縮物は下記の条件でGC-MSにて分析を行った。
【0048】
<GC-MS条件>
測定装置:7890B-5977 MSD(AgilentTechnologies社製)
測定モード:SCAN
カラム:DB-WAX(長さ60m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(AgilentTechnologies社製)
注入口温度:250℃
温度条件:40℃(3分間)保持 → 250℃まで6℃/分昇温 → 15分間保持
キャリアガス:高純度ヘリウム、圧力一定モード229kPa
スキャン質量範囲:30m/z~250m/z
イオン化方式:EI
【0049】
上記のとおりにGC-MSにて、ペースト調味料中のγ-ノナラクトンのピーク面積及び内部標準物質のピーク面積を測定した。ピーク面積は、γ-ノナラクトン及び内部標準物質である2-オクタノンについて、以下のm/zを用いて求めた。
γ-ノナラクトン:m/z85
2-オクタノン:m/z58
【0050】
[2.ペースト調味料の調製]
2-1.ペースト調味料1-1の調製
蒸煮した大豆と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合した混合物に、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)の種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
【0051】
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、15~25℃で、適宜撹拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った。乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、液汁を珪藻土ろ過で処理後、73℃で3分間加熱して醤油諸味液汁を得た。
【0052】
得られた醤油諸味液汁に対して、耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を添加し、撹拌を行わずに25℃で7日間、酵母発酵を行い、醤油諸味液汁の酵母発酵物を得た。この酵母発酵物68質量部に、乾燥マンゴー(龍屋物産社製)32質量部を添加し、25℃で28日間、週に1度10回程度撹拌し、酵母発酵及び熟成を行い、ペースト調味料1-1を得た。
【0053】
2-2.ペースト調味料2-1の調製
ペースト調味料1-1の調製と同様にして、醤油諸味液汁を得、この醤油諸味液汁を73~75℃で、3分間加熱した後、醤油諸味液汁68質量部に対して、乾燥マンゴー(龍屋物産社製)32質量部を添加し、25℃で28日間、週に1度10回程度撹拌し、熟成を行い、ペースト調味料2-1を得た。
【0054】
2-3.ペースト調味料3-1の調製
ペースト調味料1-1の調製と同様にして、醤油諸味液汁を得、この醤油諸味液汁68質量部に対して、乾燥マンゴー(龍屋物産社製)32質量部を添加し、25℃で28日間、週に1度10回程度撹拌し、野生酵母のみで酵母発酵及び熟成を行い、ペースト調味料3-1を得た。
【0055】
2-4.ペースト調味料4-1の調製
濃口醤油「こいくちしょうゆ」(キッコーマン社製)68質量部に乾燥マンゴー(龍屋物産社製)32質量部を添加し、25℃で28日間、週に1度10回程度撹拌し、熟成を行い、ペースト調味料4-1を得た。
【0056】
2-5.ペースト調味料5-1の調製
ペースト調味料4-1の調製において、濃口醤油のかわりに生醤油「しぼりたて生しょうゆ」(キッコーマン社製)を用いたことの他は同様にして、ペースト調味料5-1を得た。
【0057】
2-6.ペースト調味料6-1の調製
食塩濃度15質量%の食塩水68質量部に乾燥マンゴー(龍屋物産社製)32質量部を添加し、25℃で28日間、週に1度10回程度撹拌し、熟成を行い、ペースト調味料6-1を得た。
【0058】
[3.γ-ノナラクトン含有量、塩分濃度及びグルタミン酸濃度の測定結果]
上記1の測定方法に従って、ペースト調味料1-1~6-1について、γ-ノナラクトンの含有量を測定した。また、ペースト調味料1-1~6-1について、塩分濃度を電位差滴定法により、グルタミン酸濃度を酵素電極法により測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1の結果が示す通り、ペースト調味料1-1及び3-1については、γ-ノナラクトンが検出された。このペースト調味料1-1及び3-1については、乾燥マンゴー添加後の発酵及び熟成において、酵母発酵の作用に伴って、γ-ノナラクトンが生成されたものと考えられる。一方、ペースト調味料2-1については、醤油諸味液汁を加熱したことにより、酵母が死滅して、酵母発酵の作用が得られず、γ-ノナラクトンが生成されなかったものと考えられる。
また、γ-ノナラクトンが検出されたペースト調味料1-1及び3-1については、塩味及びうま味が十分に感じられることに加え、甘いフルーティーな香りが付与されていることがわかった。
【0061】
[4.外部添加したγ-ノナラクトンの香り及び味の向上作用の評価]
4-1.外部添加したγ-ノナラクトンの香りの向上作用の評価
γ-ノナラクトンが含有されていないペースト調味料2-1に対して、γ-ノナラクトンを添加することによる「甘いフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
【0062】
ペースト調味料2-1に、γ-ノナラクトンを最終濃度がそれぞれ、0.10ppm、0.25ppm、0.50ppm、1.00ppm、1.50ppm、2.00ppm、2.50ppm及び3.00ppmとなるように、添加し、ペースト調味料2-2~2-9を調製した。
【0063】
官能評価は、識別能力を有するパネル10名により、飲食せずに鼻だけで感じる「甘いフルーティーな香り」について、ペースト調味料2-1をコントロールとして以下の基準にて5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。結果を表2に示す。
1:かなり弱い
2:弱い
3:どちらでもない
4:強い
5:かなり強い
【0064】
【0065】
表2の結果の通り、γ-ノナラクトンが含有されていないペースト調味料2-1に、最終濃度が0.10ppm以上3.00ppm以下となるγ-ノナラクトンを添加することにより、濃度依存的に「甘いフルーティーな香り」が付与されることがわかった。
【0066】
4-2.外部添加したγ-ノナラクトンの味の向上作用の評価
γ-ノナラクトンが含有されていないペースト調味料2-1に対して、γ-ノナラクトンを添加することによる「果実感の味」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
【0067】
官能評価は、識別能力を有するパネル10名により、飲食時に口腔内で感じる「果実感の味」について、ペースト調味料2-1をコントロールとして以下の基準にて5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。結果を表3に示す。
1:かなり弱い
2:弱い
3:どちらでもない
4:強い
5:かなり強い
【0068】
【0069】
表3の結果の通り、γ-ノナラクトンが含有されていないペースト調味料2-1に、最終濃度が0.10ppm以上2.50ppm以下となるγ-ノナラクトンを添加することにより、「果実感の味」が付与されることがわかった。
また、表2及び表3の結果によれば、γ-ノナラクトンが含有されていないペースト調味料2-1に、最終濃度が0.10ppm以上2.50ppm以下となるγ-ノナラクトンを添加することにより、「甘いフルーティーな香り」と共に「果実感の味」が付与されることがわかった。
【0070】
[5.ペースト調味料の混合による香りの向上作用の評価]
γ-ノナラクトンが含有されているペースト調味料1-1に対して、γ-ノナラクトンが含有されていないペースト調味料2-1を添加することによる「甘いフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
【0071】
ペースト調味料1-1に、ペースト調味料2-1を下記表4に示す混合割合となるように添加し、ペースト調味料1-2~1-4を調製した。
【0072】
官能評価は、識別能力を有するパネル10名により、飲食せずに鼻だけで感じる「甘いフルーティーな香り」について、ペースト調味料1-1をコントロールとして以下の基準にて5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。結果を表4に示す。
1:かなり弱い
2:弱い
3:どちらでもない
4:強い
5:かなり強い
【0073】
【0074】
表4の結果の通り、γ-ノナラクトが含有されているペースト調味料1-1と、γ-ノナラクトンが含有されていないペースト調味料2-1とを混合すると、混合割合が50:50のペースト調味料1-2及び混合割合が25:75のペースト調味料1-3は、「甘いフルーティーな香り」がペースト調味料1-1と同程度となることがわかった。より具体的には、混合割合が50:50のペースト調味料1-2においては、γ-ノナラクトンの含有量が0.275ppmとなり、ペースト調味料1-1単独の場合のγ-ノナラクトンの含有量が0.55ppmに比べ、濃度が1/2程度に減少しているにもかかわらず、「甘いフルーティーな香り」の程度は、ペースト調味料1-1単独の場合と同等となった。また、同様に、混合割合が25:75のペースト調味料1-3においては、γ-ノナラクトンの含有量が0.138ppmとなり、ペースト調味料1-1単独の場合のγ-ノナラクトンの含有量が0.55ppmに比べ、濃度が1/4程度に減少しているにもかかわらず、「甘いフルーティーな香り」の程度は、ペースト調味料1-1単独の場合と同等程度となった。
【0075】
[6.マンゴーペーストの香り及び固さの評価]
上記2-1~2-6のペースト調味料1-1~6-1の調製において、乾燥マンゴーを添加する前までは同様にそれぞれ調製して各調製物を得、各調製物68質量部に、乾燥マンゴー32質量部を添加し、4週間静置し、サンプル調味料1~6を調製した。サンプル調味料1~6は、それぞれ、1週間に1回、10回撹拌した。サンプル調味料1~6について、「甘いフルーティーな香り」及び「固さ」について、以下の基準にて5段階で評価した。「甘いフルーティーな香り」についての結果を表5に、「固さ」についての結果を表6に示す。また、各サンプル調味料の1日目、1週目、2週目、3週目及び4週目の状態の写真画像を
図1に示す。
[甘く好ましい香り]
1:非常に好ましくない
2:好ましくない
3:普通
4:好ましい
5:非常に好ましい
[固さ]
1:軽く押してもつぶれず、果肉は角が残っている
2:軽く押すとつぶれ、果肉は角が残っている
3:軽く押すとつぶれ、果肉の角は丸い
4:押さずとも角はなく、果肉はつぶれている
5:押さずとも角はなく、果肉はペースト状である
【0076】
【0077】
表5の結果の通り、サンプル調味料1については、1週目から、「甘いフルーティーな香り」が付与されることがわかった。サンプル調味料1については、醤油諸味液汁の酵母発酵物と乾燥マンゴーとが混合されることにより、酵母発酵物中の酵母の作用によって、γ-ノナラクトンが生成されたことに起因するものと考えられる。また、サンプル調味料3については、3週目以降において、「甘いフルーティーな香り」が付与されることがわかった。サンプル調味料3については、酵母の添加はしていないが、野生酵母の作用によって、γ-ノナラクトンが生成されたことに起因するものと考えられる。サンプル調味料3(4週目)のγ―ノナラクトン濃度は0.04ppmであった。このことから、γ―ノナラクトンを0.04ppm以上含ませることにより、調味料に「甘いフルーティーな香り」を付与できることがわかった。
【0078】
【0079】
表6及び
図1の結果の通り、サンプル調味料1については、2週目以降において、乾燥マンゴーの果肉が柔らかくなることがわかった。サンプル調味料1については、醤油諸味液汁の酵母発酵物と乾燥マンゴーとが混合されることにより、麹菌の酵素や酵母発酵物中の酵母の作用によって、乾燥マンゴーの果肉が柔らかくなったものと考えられる。また、サンプル調味料3については、2週目以降において、乾燥マンゴーの果肉が柔らかくなることがわかった。サンプル調味料3については、酵母の添加はしていないが、麹菌の酵素や野生酵母の作用によって、乾燥マンゴーの果肉が柔らかくなったものと考えられる。
【0080】
[7.マンゴー以外の果実のγ-ノナラクトン含有量の測定結果]
7-1.ペースト調味料7~10の調製
酵母発酵物68質量部に対して、乾燥マンゴー32質量部に替えて表7に示す果実を用いることの他は、上記2-1.ペースト調味料1-1の調製と同様にして、ペースト調味料7-1~10-1を調製した。
【0081】
上記1の測定方法に従って、ペースト調味料7-1~10-1について、γ-ノナラクトンの含有量を測定した。結果を表7に示す。
【0082】
【0083】
表7の結果の通り、乾燥マンゴー以外にも、乾燥あんず、乾燥パイナップル及び乾燥オレンジ、トマトペーストを用いることにより、γ-ノナラクトンが検出されることが分かった。そして、これらのペースト調味料7-1~10-1については、「甘いフルーティーな香り」が感じられた。
本発明の一態様のペースト調味料は、フルーティーな香りを有するものであることにより、フルーティーな香りを付与するための新規な調味料として種々の飲食品や他の調味料に供することができ、また、果実が適度に溶解したペースト状のものであることにより、食材への塗布性及び付着性に優れるため、フルーティーな香りをより確実に感じられる新規な調味料として有用である。特に、本発明の一態様のペースト調味料が、醤油諸味液汁と果実との混合物の酵母発酵物である場合においては、醤油原料を用いていることから、フルーティーな香りに加えて、塩味及びうま味が付与され、高い汎用性を有する調味料として有用である。