(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149269
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01N35/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051332
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小池 美紗都
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058GE10
(57)【要約】
【課題】運用コストを抑えつつ、分析部に給水する純水の質を常に一定以上に保つ自動分析装置を提供する。
【解決手段】給水タンク102と、給水タンクの水位を検出する水位センサ103と、検体の分析を行う分析部105と、給水タンクの給排水を制御する制御装置109とを有し、制御装置は、給水タンクが満水状態になってからの経過時間を計測し、経過時間があらかじめ定めた滞留制限時間に達したとき、水位センサより検出される給水タンクの水位が第1の水位Bに満たない場合には、給水タンクが満水状態になるまで純水を給水し、水位センサより検出される給水タンクの水位が第1の水位以上であり、かつ分析部が検体の分析を行っている場合には、分析部における当該検体の分析を継続させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水を貯える給水タンクと、
前記給水タンクの水位を検出する水位センサと、
前記給水タンクから純水が供給され、検体の分析を行う分析部と、
前記給水タンクの給排水を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、前記給水タンクが満水状態になってからの経過時間を計測し、前記経過時間があらかじめ定めた滞留制限時間に達したとき、前記水位センサより検出される前記給水タンクの水位が第1の水位に満たない場合には、前記給水タンクが満水状態になるまで純水を給水し、前記水位センサより検出される前記給水タンクの水位が第1の水位以上であり、かつ前記分析部が検体の分析を行っている場合には、前記分析部における当該検体の分析を継続させる自動分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御装置は、前記給水タンクが満水状態になってからの経過時間を計測し、前記経過時間が前記滞留制限時間に達したとき、前記水位センサより検出される前記給水タンクの水位が前記第1の水位以上であり、かつ前記分析部が検体の分析を行っていない場合には、メンテナンス処理を実行する自動分析装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御装置は、前記給水タンクが満水状態になってからの経過時間を計測し、前記経過時間が前記滞留制限時間に達したとき、前記水位センサより検出される前記給水タンクの水位が前記第1の水位以上であり、かつ前記分析部が検体の分析を行っておらず、メンテナンス処理を実行済みまたはメンテナンス処理を実行しない場合には、前記給水タンクの水位が前記第1の水位に満たなくなるまで前記給水タンクを排水する自動分析装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1の水位は、前記給水タンクの水位が前記第1の水位となった時点で分注が完了した検体に対し、前記分析部による分析が終了できる純水が残る水位として設定される自動分析装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記制御装置は、前記自動分析装置の処理履歴を記録しており、
前記制御装置は、前記自動分析装置のシャットダウン処理において、前記給水タンクが空状態になるまで前記給水タンクを排水し、前記シャットダウン処理が正常に行われたか否かを前記処理履歴に記録する自動分析装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記制御装置は、前記シャットダウン処理において、前記給水タンクの排水に先立つメンテナンス処理を実行し、当該メンテナンス処理が正常に終了しない場合であっても、一定時間経過後に前記給水タンクが空状態になるまで前記給水タンクを排水する自動分析装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記制御装置は、前記自動分析装置の前記シャットダウン処理の後の電源投入時に、前記処理履歴を確認し、前記シャットダウン処理が正常に行われていなかった場合には、前記給水タンクが空状態になるまで前記給水タンクを排水する自動分析装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記制御装置は、前記自動分析装置の前記電源投入時に、前記給水タンクへの給水を開始し、前記水位センサより検出される前記給水タンクの水位が前記第1の水位を超えたときに、メンテナンス処理を実行し、その後、前記給水タンクが満水状態になるまで給水する自動分析装置。
【請求項9】
請求項5において、
前記制御装置は、前記水位センサより検出される前記給水タンクの水位が第2の水位となったときに前記給水タンクが空状態になったと判定し、
前記第2の水位は、使用水量の変化による供給圧変化を抑制する効果が得られる限界の水位として設定される自動分析装置。
【請求項10】
請求項2、請求項6及び請求項8のいずれか1項において、
表示装置を有し、
前記制御装置は、ユーザがメンテナンス処理を実行するか否かを選択するGUI画面を前記表示装置に表示させる自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿などの多成分を含む生体試料中の目的成分の濃度または活性値または反応時間を測定する自動分析装置に係り、特に、純水を貯留し、分析部へ供給する給水タンクを備える自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、血液、尿、髄液等の生体試料を分析する装置である。自動分析装置は検体分注器、および試薬分注器などの分注機構を用いて、試料、試薬をそれぞれの保存容器から反応容器内へ分注し、試料試薬の混合液を攪拌した後、反応液の色調変化や反応時間を検出器で検出し、その定量データから、試料中の目的成分の濃度または活性値または反応時間を算出し、結果を出力する機能を有する。前述の分析動作、例えば反応中の温度調節や分注機構への圧力伝搬、分注機構洗浄、分析で用いる試薬の調製には、純水を用いるのが一般的である。自動分析装置で使用される純水は、外部給水設備、例えば純水製造装置から配管を通して装置の給水タンクに貯留される(以下、外部給水設備を、純水製造装置と表記する場合がある)。
【0003】
純水は不純物、例えばバクテリアといった微生物(以下、バクテリアといった微生物を、雑菌と表記する場合がある)が極めて少ない高純度で清潔な水ではあるが、純水自体に殺菌作用があるわけではないこと、給水タンク内は完全密閉ではなく不純物の混入を完全に防ぐことはできないこと、といった理由から、長期間使用しているうちに雑菌が繁殖し、給水タンク内面に水垢や汚れが生じる場合があり、分析に使用する純水の質が低下する。
【0004】
質の低下した純水が自動分析装置内で使用された場合、分析データにも影響を与える。質の低下した純水が、例えば反応槽の恒温水として使用された場合、装置内部を循環する間に雑菌繁殖を引き起こし、装置全体に水垢や汚れが生じる。また、例えば試薬希釈水として使用された場合、試薬が劣化して十分な性能が得られないことで、誤った臨床結果の報告に繋がる恐れがある。
【0005】
さらに、自動分析装置の使用状況によっては、分析に使用する純水の質が低下するリスクが上昇する。特に給水タンクに純水が長時間にわたって滞留した場合には、空気中の炭酸ガスやバクテリアが混入することで、電気導電率の上昇や雑菌の繁殖を招くことが知られている。給水タンクに純水が滞留する例として、処理数が少ない小型の自動分析装置の場合や、自動分析装置を数日間使用しない場合、一日の中でもオペレーション時間が短い場合などが挙げられる。
【0006】
以下の3つの特許文献は、いずれも純水の質を一定に保つ方法を開示する。特許文献1は、分析に使用する精製水の水質を判定する方法を開示する。特許文献2は、純水が試薬調製部に供給されなくなってからの時間を計時し、滞留時間が所定時間に到達すると、貯留部に貯留された純水を廃棄することを開示する。特許文献3はタンクのメンテナンスを容易にするため、タンク内の水量を減少させる減水処理について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-162622号公報
【特許文献2】特開2010-197292号公報
【特許文献3】特開2012-2589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近の臨床検査の動向として、例えばISO15189の認定といった、臨床検査の質を高める取り組みが進められている。前述の通り純水も測定時に使用されるため、純水の質を一定に保つことは臨床検査の質を高める上でも重要な因子になり得る。
【0009】
特許文献1の方法では、測定機器によって検知できる汚染が限られるため、給水タンク内で純水の質を低下させる複数の要因を継続的に監視するには限界がある。特許文献2の方法では、給水タンクが一時的に空になる。大型自動分析装置は単位時間あたりの処理数が多く、連続して稼働する時間が長いことから、給水タンク内の純水を全て排水すると装置自体が停止するおそれがある。一方、小型自動分析装置においては、外部給水設備からの純水供給や自動分析装置における給水タンクの設置個数、設置箇所が限られる。このため、純水を排水した後の迅速な純水の供給が困難である。また、そもそも純水の消費量が少ないため、一定時間経過後に給水タンクの純水を全て排出するプログラムは、自動分析装置の運用コストを上昇させるおそれがある。特許文献3の方法では、減水処理は給水タンクのメンテナンス時に行われるため、オペレーション中には実施できない。オペレーション中も給水タンク内に純水が滞留することで、純水の質は低下するため、オペレーション中も実施可能なメンテナンスが必要である。
【0010】
本発明の目的は、分析部に給水する純水の質を常に一定以上に保ちつつ、運用コストを抑える手段を備えた自動分析装置を提供することにある。
【0011】
なお、自動分析装置では、純水の管理基準として、例えば、導電率が1 μS/cm以下というように設定されているが、本出願において「純水の質が低下した」と表現する場合、必ずしもそのような管理基準を満たさない純水を意味するわけではない。外部給水設備から管理基準を満たす純水が供給され、導電率は管理基準内の値であっても、給水タンクで長期間滞留しているうちに不純物が混入してしまうおそれがある。このように、給水タンクに供給されてから一定時間経過した純水は、不純物が混入しているリスクのある純水であるから質の低下した純水として扱う。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る自動分析装置は、純水を貯える給水タンクと、給水タンクの水位を検出する水位センサと、給水タンクから純水が供給され、検体の分析を行う分析部と、給水タンクの給排水を制御する制御装置とを有し、制御装置は、給水タンクが満水状態になってからの経過時間を計測し、経過時間があらかじめ定めた滞留制限時間に達したとき、水位センサより検出される給水タンクの水位が第1の水位に満たない場合には、給水タンクが満水状態になるまで純水を給水し、水位センサより検出される給水タンクの水位が第1の水位以上であり、かつ分析部が検体の分析を行っている場合には、分析部における当該検体の分析を継続させる。
【発明の効果】
【0013】
運用コストを抑えつつ、分析部に給水する純水の質を常に一定以上に保つ自動分析装置を提供する。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】自動分析装置の給水ユニットの概要図である。
【
図3】自動分析装置の給水ユニットの変形例の概要図である。
【
図5】給水ユニットの制御に関する制御装置の機能ブロック図である。
【
図8】時間計測開始後の純水の給排水フローである。
【
図10】給水タンクのメンテナンス処理を指示するGUI画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、自動分析装置の概要図である。ここでは自動分析装置100で使用する純水の供給、排出に関する機構を中心に示している。自動分析装置100で使用する純水は、その外部に設けられた外部給水設備101から供給される。外部給水設備101からの純水は、自動分析装置100内部の給水タンク102に貯えられる。外部給水設備101から給水タンク102への純水の供給を制御するため、外部給水設備101と給水タンク102とを接続する配管には給水調整弁104が設けられている。給水タンク102には、貯水された純水の水位を検出する水位センサ103が設けられている。
【0017】
自動分析装置100は、給水タンク102に貯えられた純水を使用して検体の分析処理に関する各種動作を行う1つ以上の水使用箇所105(以下、水使用箇所を、分析部と表記する場合がある)を有している。給水タンク102に貯水された純水は、ポンプ106により水使用箇所105のそれぞれに供給され、各水使用箇所105への純水の供給状態はそれぞれ水使用調整弁107によって制御される。水使用箇所105からの排液は排液処理設備108に排出される。
【0018】
自動分析装置100全体の動作は、制御装置109によって制御される。自動分析装置100は、制御装置109からの各種情報を表示する表示装置110を備えている。これに加えて、ブザー音や音声などを出力してオペレータに報知するための報知部、例えばスピーカ111を備えていてもよい。
【0019】
外部給水設備101は、具体的には、純水として脱イオン水を生成するフィルタを備えた脱イオン水生成設備である。ここでは自動分析装置100の外部に備える例を示したが、装置内部に脱イオンフィルタを備えるよう、構成してもよい。自動分析装置が純水を使用するのは、水の成分が分析結果に影響を与えないようにするためである。なお、本出願では、自動分析装置内部で使用するために脱イオン等の処理がされた水を純水といい、特定の化学的基準等を満たすことを前提とするものではない。
【0020】
水位センサ103は給水タンク102の水位を検出するためのものであり、検出結果を制御装置109に送る。水位センサ103は、給水タンク102内の水面の上下変動を検出する。水使用箇所105は、給水タンク102からポンプ106により供給される純水を用いて自動分析装置100としての機能を実現する箇所であり、例えば、検体や試薬などの希釈を行う機構、検体分注器や試薬分注器、反応液攪拌器、反応容器の洗浄を行う機構、反応槽の恒温水を供給する機構が含まれる。
【0021】
制御装置109は、入力装置(図示せず)により入力される情報や指令に基づき、制御動作シーケンス(予め定められた制御動作の順序)に従って、自動分析装置100の各種駆動手段や調整弁104,107といった各機構を制御することにより、各種動作、例えば、検体の分析処理、装置のメンテナンス処理、給水タンク102の水量を調整する処理を行う。メンテナンス処理としては、例えば、検体分注器や試薬分注器、反応液攪拌器、反応容器のより高度な洗浄処理、反応槽などの恒温水の交換を行う処理がある。より高度な洗浄とは、例えば洗剤や超音波を使用した洗浄を指す。
【0022】
ポンプ106は、水使用箇所105への送水と給水タンク102への給水とを行う。外部給水設備101から純水を吸引可能な状態として(給水調整弁104を開とする)、ポンプ106を動作させることにより、外部給水設備101から吸引された純水が戻り流路を通って給水タンク102に戻ってくることにより、給水タンク102への給水がなされる。また、ポンプ106は給水タンク102から水が供給されないときに空運転を行うのを防止するため、排水時は下限水位C(
図2参照)を検知し、空運転が生じる前にポンプ動作を停止する。
【0023】
排液処理設備108は、例えば、排液を貯留する排液タンクや排液を処理するために接続される化学排液処理設備である。
【0024】
図2は、自動分析装置の給水ユニット200の概要図である。分析に使用する検体や試薬の希釈、検体分注器や試薬分注器、反応液攪拌器、反応容器の洗浄、セルブランクの測定、反応槽の恒温水供給に用いる純水を供給する機構を包括して給水ユニット200と称する。水位センサ103として、ここではフロート式水位センサ203、204を採用している。フロート式水位センサは、水に浮くフロートが、給水タンク102の水位に応じて軸201に沿って上下に移動することを利用する。軸201には上限リミットスイッチと下限リミットスイッチとが設けられ、フロートはその間を移動可能とされる。フロート式水位センサ203,204は、フロートがリミットスイッチに接触したことを検知することで、給水タンク102の水位を検知する。
【0025】
フロート式水位センサ203は、上限水位D、最高水位Aを検知するために設けられている。上限水位Dは給水タンク102がオーバーフロー状態であることを示し、最高水位Aは、給水タンク102の最大容量まで給水したときの水位を示す。なお、水位センサの設置のため、タンクの真の最大容量以下で使用する必要がある場合には、そのときの水位を示す。上限リミットスイッチ203bは上限水位Dに、下限リミットスイッチ203aは最高水位Aまたは最高水位Aよりもわずかに下に設置され、フロート203cがリミットスイッチのON/OFFを制御することにより、給水タンク102の水面がそれらの水位に達したことを検知できる。
【0026】
フロート式水位センサ204は、最低水位B、下限水位Cを検知するために設けられている。最低水位Bは一定時間分析を継続可能な水位として設定された水位を示し、下限水位Cは、使用水量の変化による供給圧変化を抑制する効果が得られる限界の水位を示す。上限リミットスイッチ204bは最低水位Bに、下限リミットスイッチ204aは下限水位Cに設置され、フロート204cがリミットスイッチのON/OFFを制御することにより、給水タンク102の水面がそれらの水位に達したことを検知できる。
【0027】
図2に示した給水ユニット200では給水ポンプ106に接続される配管206が給水タンク102の側面に接続されている。さらに、ポンプ106として空運転に耐性のないポンプを用いる場合には、給水タンク102内に水を一定量残す必要があるため、給水タンク102に長時間残留し、純水の質が低下することになっても、内部の水を全て排水してしまうことはできない。
【0028】
このため、給水タンク内に貯水した全ての水が排水できるよう給水タンク102の配管位置を変更し、さらに空運転に耐性のあるポンプを使用した場合の変形例が
図3である。変形例における給水ユニット200bでは、配管206が給水タンク102bの底面に接続され、給水タンク102bの底面は配管206との接続部に向かって傾斜している。なお、底面の傾斜は給水タンク102bの底面(タンク内壁の底面)形状そのものが傾斜していてもよいし、給水タンク102bを設置する場所が傾斜していてもよい。
【0029】
図2の給水ユニットと同様に、上限水位D、最高水位Aを検知するためにフロート式水位センサ203が、最低水位Bを検知するためにフロート式水位センサ204が設けられている。
【0030】
図4に給水タンクの水位を纏めて示す。水位A~Dは、給水タンクの容量や自動分析装置の単位時間あたりの処理数をもとに決定する。最高水位Aは給水タンク102の最大容量まで給水したときの水位を示す。水位センサの設置のため、タンクそのものの真の最大容量以下となる場合もある。使用水量の変化による供給圧変化を抑制する給水圧は最大であり、給水タンクが満水である状態と定義する。また、最低水位Bは、自動分析装置が一定時間オペレーション動作を継続できる水位、例えば、断水等で給水が停止された場合も、その時点で分注が完了した検体に対する測定が終了できる水位として設定する。下限水位Cは、供給圧変化を抑制する効果が得られる限界の水位である。
図2の給水ユニット200では、ポンプが稼働する際に給水タンク内の純水の一部を呼び水として使用するため、給水タンクの純水が少なく、呼び水が不足すると、ポンプが空運転してポンプの寿命を縮めてしまうおそれがある。このため、純水を排水するときにも、給水タンクの下限水位Cまでにする必要がある。また、上限水位Dはオーバーフロー位置である。通常、純水は上限水位Dまで供給されることはないが、例えば給水調整弁104やポンプ106の故障で純水の供給が停止されず、給水タンク102の蓋部205付近まで純水が到達したときにユーザに異常を知らせるため、上限水位Dが設定されている。
【0031】
図5に、制御装置109における、給水ユニットの給排水制御に関わる内容をブロック図として示す。制御装置109は、記憶部109bに記憶された制御データを用いて、演算部109aがプログラムを実行することで所定の機能を実現する。
図5ではプログラムにより実現される機能を「部」として機能の内容をあわせて示している。
【0032】
水位演算部507は処理履歴504等を用いて給水タンクに貯えられている水量を演算し、水位判定部508は、給水タンク102に取付けられた水位センサ103の検知情報に基づき、給水タンク102の水位を判定する。水位演算部507は記憶部109bに記憶された演算式501、処理履歴504、水位判定部508は記憶部109bに記憶された水位パターン条件テーブル502を用いて処理を実行する。
【0033】
水位判定部508で判定された給水タンク102の水位と記憶部109bに記憶された過去の処理履歴504とに基づいて、指示部510は各機構に対して動作指示を出す。指示部510は、給水調整弁104、水使用調整弁107の動作指示を行う電磁弁動作指示部510a、ポンプ106の動作指示を行うポンプ動作指示部510b、表示装置110への表示指示を行う表示指示部510cを含む。記憶部109bには、指示部510が使用する各機構の動作パターンが登録された機構動作パターン503、表示装置110に表示する動作・アラーム表示パターンが登録された動作・アラーム表示パターン505が記憶されている。
【0034】
図6に水位パターン条件テーブル502を示す。フロートは、リミットスイッチに挟まれた区間を水面の上下変動に合わせて移動し、リミットスイッチに接触することでON状態、リミットスイッチから離れることでOFF状態を検知する。本実施例では、2箇所に設置されたフロート式水位センサのON,OFF状態の組み合わせで、給水タンク102の水位を判定する。
【0035】
空状態は、下限リミットスイッチ204aがON状態となり、下限水位Cに到達したことで検出する。
図3の変形例では給水タンクから完全に水を排出できるので下限水位Cを定義していないため、同様に、下限リミットスイッチ204aのON状態を検出することにより、あるいは下限リミットスイッチ204aがON状態となった一定時間後に給水タンクが空状態であると判断してもよい。
【0036】
満水状態は、上限リミットスイッチ203b及び下限リミットスイッチ203aともにOFF状態であり、上限リミットスイッチ204bがON状態、下限リミットスイッチ204aがOFF状態であることで判断する。上限リミットスイッチ204b及び下限リミットスイッチ204aとは、その間に最高水位Aが位置するように設置されている。
【0037】
分析可能状態は、上限リミットスイッチ203bがOFF状態、下限リミットスイッチ203aがON状態であり、かつ上限リミットスイッチ204bがON状態、下限リミットスイッチ204aがOFF状態であることで判断する。この状態では、給水タンク102の水位は、最低水位Bを超えており、安定的にオペレーション動作が実行可能である。後述するように、上限リミットスイッチ204bがOFF状態になると、給水タンク102に水を供給するよう制御される。
【0038】
オーバーフロー状態は、上限リミットスイッチ203bがON状態になったことで検出する。
【0039】
ここでは、給水タンク102の水位(給排水状態)をフロートスイッチで検知したが、検出方法はこれに限られない。例えば、センサとして水圧センサを設け、水圧センサが検知器する水圧変化から水位を検出してもよい。処理履歴504としてメンテナンスや分析項目ごとに純水使用量を記憶している場合、水位演算部507で給水量を計算して給水タイミングを決定したり、給水タンクの貯水量からユーザに推奨されるメンテナンスを提案したりしてもよい。さらに、例えば分析1回の消費水量が記憶部109bに記憶されている場合は、自動分析装置への依頼数から、水位演算部507で使用が予想される純水量を計算して、その計算結果をもとに、純水の消費計画やメンテナンススケジュールを組んでもよい。
【0040】
図7は、自動分析装置の電源投入時に制御装置109によって実行される純水供給フローである。装置電源投入時は、前回シャットダウン処理の終了状態によってタンク内の純水量が異なる。そのため、前回シャットダウン状況を確認した後、給水タンクへの給排水を実施する。
【0041】
電源投入(701)が行われると、処理履歴504(
図5参照)より前回シャットダウン状況を確認し、正常、または異常なシャットダウンが生じたかを判定する(702)。シャットダウンが正常に行われた場合には、給水タンクは一定水位まで排水されている。このため、前回シャットダウン処理において異常が生じている場合には、まず給水タンクに対して排水処理を行う。そこで、給水調整弁104を閉じ、水使用調整弁107を開き(703)、ポンプ106の運転を開始する(704)。制御装置109は、水位センサ103からの検出信号が示す水位が下限水位Cより高いか否かを判定し(705)、判定結果がYESの場合(下限水位Cより水位が高い)は排水を継続し、排水を開始して一定時間経過後(706)も水位が下限水位Cを下回らない場合は装置の異常と判定し、排水動作を停止してアラームを表出することでユーザに通知する(707)。一方、水位判定(705)の結果がNOの場合(下限水位Cより水位が低い)は、制御装置109は給水タンク102が空状態であると判定し(708)、ポンプを停止した後(709)、水使用調整弁107を閉じる(710)。なお、以上の説明は自動分析装置が、
図2に示した給水タンクを備える場合についてのものであるが、
図3に示した変形例の給水タンクの場合も、
図4において説明した給水タンクの空状態の判定方法を用いることで同様の判定が行える。後述する
図9のフローチャートにおいても同様である。
【0042】
前回シャットダウンが正常に行われた場合、または、一連の排水動作が成功した場合、給水調整弁104を開き(710)、ポンプ106の運転を開始する(711)。水位センサ103からの検出信号が示す水位が最低水位Bを超えた場合(712)、自動分析装置のメンテナンスを実行してもよい(714,715)。この段階でメンテナンスを開始することで、水使用箇所に給水される純水において質の低い純水(前回シャットダウン後に配管や給水タンク内に残留していた純水)が占める割合が多いうちに、メンテナンス水として使用・排水することができる。なお、一定時間経過後(713)も水位が最低水位Bを超えない場合は装置の異常と判定し、アラームを表出してユーザに通知する(707)。
【0043】
その後、水位センサ103からの検出信号が示す水位が最高水位Aを超えるまで給水が継続される(716,717)。一定時間経過、例えば最後に実施したメンテナンスの完了時間から一定時間経過後(717)も、給水タンク102の水位が最高水位Aを超過しない場合には、アラームを表出してユーザに通知する(707)。給水タンク102の水位が最高水位Aを超過した場合は、制御装置109は給水タンク102が満水になったと判定する(718)。そして、ポンプを停止し(719)、給水調整弁104を閉め(720)、満水状態からの経過時間の計測を開始する(721)。
【0044】
装置電源投入時に、処理履歴504における前回シャットダウン日時の記録から、前回シャットダウンから一定期間以上経過していると判断される場合は、例えば、表示装置110からユーザに対して給水タンクのメンテナンスを推奨したり、一度給水タンクを満水にしてから排水を行うといった自動メンテナンスルーチンを搭載したりしてもよい。
【0045】
図8は、時間計測開始後の給水タンクの給排水フローである。従来、自動分析装置はオペレーション中の一定のタイミングで、例えば給水タンクの水を一定量消費した場合や、最後に満水状態になったときから一定時間経過した場合に給水動作を行っていた。これにより、一般的には給水動作を行った時点で給水タンクの純水の質は改善するものの、純水消費量が少ない装置、例えば単位時間あたりの処理能力が低い小型自動分析装置では、給水が行われるタイミングにおいても、前回のタイミングで給水された純水がまだ大量に残っている場合がある。このような状態で給水を行っても質の高い純水が少量しか供給されないため、給水タンク内には質の低い純水が滞留したままである。結果として、例えば雑菌の繁殖といったリスクが増加する。しかしながら、装置オペレーション中は分析部(水使用箇所)に純水を供給し続ける必要であるため、給水タンクの純水を全て排水することも困難であった。
【0046】
そのため、本実施例では純水の質が装置オペレーション、およびメンテナンスに使用できないほど低下する前に、給水タンク内の純水を効率よく消費することで、給水タンク内に質の低下した純水が滞留し、例えば雑菌の繁殖を引き起こすといったリスクを回避する。このため、本実施例では給水タンク内に純水が滞留する時間を制限する滞留制限時間を設定する。最後に満水まで給水した時点からの経過時間計測を開始し(801)、滞留制限時間を経過するまで(802)、経過時間計測を継続する(803)。経過時間計測開始から滞留制限時間を経過した場合、給水調整弁104が閉じられているのを確認し(804)、続いて、給水タンク102の水位が最低水位Bより低いか判定を行う(805)。水位が最低水位Bより低い場合には給水調整弁104を開き(806)、ポンプ106の運転を行い(807)、水位が最高水位Aに到達すれば(808)、制御装置109は給水タンク102が満水であると判定する(809)。そしてポンプ106を停止し(810)、給水調整弁104を閉じ(811)、処理履歴504に記録している前回満水時からの計測時間のリセットを行った後、今回満水時からの経過時間の計測を開始する(812)。
【0047】
これに対して、前回計測開始時から滞留制限時間経過後(802)においても、水位が最低水位Bよりも高い場合(805)、装置のオペレーション状態を考慮して給水タンクから純水を消費させる。装置が分析中の場合(813)、給水調整弁104を閉じた状態で、給水タンク102の水位が最低水位Bに低下するまで分析を継続する(814)。分析中ではない場合(813)、メンテナンス処理を実行する(816)ことで純水を消費する。メンテナンス処理は、例えば予めユーザ側で指定しておいてもよいし、制御装置109が給水タンク内の水量から推奨のメンテナンスを提案したり、自動で実行したりしてもよい。分析やメンテナンス処理が指定されていない場合、または分析とメンテナンス処理を実行後も給水タンク102の水位がなお最低水位Bより高い場合(815でNO)は、水使用調整弁107を開き(817)、ポンプ106の運転を行い(818)、給水タンク102から排水を行う。給水タンク102の純水が、最低水位Bになるまで排水を行ったら(805でYES)、給水タンク102が満水になる(最高水位Aに到達する)まで一度に給水を行う。これにより、オペレーションを停止させずに純水の質を改善することができる。
【0048】
図9は、自動分析装置のシャットダウン時の純水排水フローである。シャットダウン時は、給水タンク内の排水処理を実施する。ユーザがシャットダウン処理を指示すると(901)、制御装置109はメンテナンスの有無を確認する(902)。メンテナンスがある場合にはメンテナンスを実行する(903)することで、給水タンク内の純水を消費する。メンテナンスに成功した場合(904でYES)、または、メンテナンス指定がない場合(902でNO)、給水タンク102に残った純水の排水処理に入る。メンテナンスに失敗した場合(904でNO)、メンテナンス失敗をユーザに知らせるため、アラームを表出する(905)。しかし、シャットダウン処理を開始した後は、ユーザが自動分析装置から離れてしまい、アラームを表出してもタイムリーに対応できない可能性がある。このため、
図9のフローチャートにおいては、アラーム表出から一定時間経過すれば(906)、自動的に給水タンクに残った純水の排水処理に入るようにしている。
【0049】
給水タンク102からの排水処理のため、制御装置109は、初めに給水調整弁104を閉じ、水使用調整弁107を開き(907)、ポンプ106を運転させる(908)。そして、給水タンク102の水位が下限水位Cになるまで排水を行う(909)。排水に成功した場合(909でYES)、制御装置109は給水タンクが空である判定を行い(910)、正常にシャットダウン処理が完了したことを処理履歴504に登録して装置電源をOFFにする(911)。
【0050】
一方、給水タンク102の水位が下限水位Cより下になるまでに十分な時間、例えば給水タンクが満水状態(最高水位A)から空状態(下限水位C)まで水位が減少するのに要する時間が経過しても、水位が下限水位Cまで達しない場合は(912でYES)、制御装置109は、給水タンク102の排水に失敗したと判定し(913)、ユーザに異常を知らせるためにアラームを表出する(914)。この場合も、アラーム表出から一定時間経過すれば(915)、シャットダウン処理が異常終了したことを処理履歴504に登録して装置電源をOFFにする(911)。
【0051】
図10は、給水タンクのメンテナンス処理を実行するGUI画面の一例である。ユーザは各施設の自動分析装置の使用状況に合わせて、GUI画面1000上で、純水を滞留制限時間経過後に排水する処理(GUI画面1000では「定期排水処理」と表記)の実施有無1001、実施タイミング1002、給水タンクの純水消費方法1003、純水消費メンテナンス1004を選択できる。選択部1001で「実施」を選択すると、選択部1002、1003が選択可能になり、選択部1003で「メンテナンスに使用」を選択すると、選択部1004が選択可能になる。選択部1004は複数のメンテナンスを選択可能であるが、消費する純水の残量に合わせてユーザまたは装置側で優先順位をつけてもよい。メンテナンスに使用する水量が給水タンクの満水量を超過した場合は、メンテナンス水量が給水タンク水量を超過したことを示すアラーム1005を表出する。
【0052】
以上の実施例により説明したように、本発明によれば、給水タンクを備える自動分析装置において、給水タンクへの給排水に装置の稼働状態を反映させることによって、オペレーション中には質の高い純水を供給し、純水の質が落ちる前に給水タンク内の純水を効率よく使用することが可能になる。
【符号の説明】
【0053】
100:自動分析装置、101:外部給水設備、102:給水タンク、103:水位センサ、104:給水調整弁、105:水使用箇所、106:ポンプ、107:水使用調整弁、108:排液処理設備、109:制御装置、109a:演算部、109b:記憶部、110:表示装置、111:スピーカ、200:給水ユニット、201:軸、203,204:フロート式水位センサ、203a,204a:下限リミットスイッチ、203b,204b:上限リミットスイッチ、203c,204c:フロート、205:蓋部、206:配管、501:演算式、502:水位パターン条件テーブル、503:機構動作パターン、504:処理履歴、505:動作・アラーム表示パターン、507:水位演算部、508:水位判定部、510:指示部、510a:電磁弁動作指示部、510b:ポンプ動作指示部、510c:表示指示部、1000:GUI画面、1001,1002,1003,1004:選択部、1005:アラーム。