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特開2022-149321硫黄含有組成物、セメント組成物及び地盤改良材の製造方法
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  • 特開-硫黄含有組成物、セメント組成物及び地盤改良材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149321
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】硫黄含有組成物、セメント組成物及び地盤改良材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/44 20060101AFI20220929BHJP
   C04B 7/13 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C01B17/44
C04B7/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051412
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】野田 謙二
(72)【発明者】
【氏名】高松 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(57)【要約】
【課題】品質のばらつきが低減された硫黄含有化合物を低い製造コストで製造することが可能な硫黄含有組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂含有廃棄物を第1加熱部で加熱して分解ガスを発生させるガス発生工程と、第2加熱部において、前記分解ガスと石膏含有廃棄物とを800~1100℃の温度範囲で反応させて硫黄含有組成物を得る反応工程と、を有する、硫黄含有組成物の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含有廃棄物を第1加熱部で加熱して分解ガスを発生させるガス発生工程と、
第2加熱部において、前記分解ガスと石膏含有廃棄物とを800~1100℃の温度範囲で反応させて硫黄含有組成物を得る反応工程と、を有する、硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱部において前記樹脂含有廃棄物を200~900℃の温度範囲で加熱する、請求項1に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1加熱部における酸素濃度が15体積%以下である、請求項1又は2に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1加熱部に供給される前記石膏含有廃棄物の平均粒径が30mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記硫黄含有組成物が硫化カルシウムを5質量%以上含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項6】
前記反応工程で互いに反応する前記石膏含有廃棄物に含まれる石膏(CaSO)のモル数と、前記分解ガスに含まれる炭素(C)のモル数とが、下記式(1)を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
C/CaSO≧3 (1)
【請求項7】
前記反応工程で生成する反応排ガスと、アルカリ源を含むアルカリ含有スラリーとを接触させてガス処理生成スラリーを得るガス処理工程と、
前記ガス処理生成スラリーから脱硫組成物を回収する回収工程と、を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ源がカルシウム塩を含み、前記脱硫組成物が亜硫酸カルシウム及び石膏の少なくとも一方を含む、請求項7に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項9】
前記反応工程で生成する反応排ガスに含まれる有機物を燃焼させる燃焼工程を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の硫黄含有組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法で得られる硫黄含有組成物と、セメントクリンカーと、石膏と、を用いてセメント組成物を得る混合工程を有する、セメント組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法で得られる硫黄含有組成物、及び、請求項10に記載の製造方法で得られるセメント組成物の一方又は双方を用いて地盤改良材を得る工程を有する、地盤改良材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫黄含有組成物、セメント組成物及び地盤改良材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカーは、石灰石、粘土、硅石、酸化鉄等を主原料として製造される。セメントクリンカーの製造では、これらの主原料の他に、各種産業副産物及び産業廃棄物等を原燃料として有効利用している。ところが、原材料の選択に応じて、セメントクリンカー中に、各種原燃料に由来するカドミウム、クロム、鉛等の重金属類が極少量混入することがある。
【0003】
重金属類のうち、六価クロムは、他の重金属類とは異なり、クロム酸イオン(CrO 2-)等の安定なオキソ陰イオンの状態で存在し、高pH条件下であっても難溶性の水酸化物を形成しない。このため、セメント系地盤改良材を用いて地盤の固化処理を行う場合には、土質、添加量、及び強度発現性等、その使用条件によっては、六価クロムが溶出することが懸念される。セメント系固化材を用いた固化処理土からの六価クロムの溶出抑制方法については、多くの検討がなされている。例えば、特許文献1では、セメントに還元材を添加することで固化処理土からの六価クロムの溶出を低減する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、特許文献2には石膏廃材を利用した硫化カルシウム系重金属固定化材の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-222795号公報
【特許文献2】特開2004-269822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のように石膏廃材と有機化合物等の炭素源とを加熱して硫化物を得る場合、炭素源に含有される不純物によって反応性が変化することが懸念される。また、有機化合物等の炭素源を用いると、タール、未燃炭素、及びその他残渣分等が生成物に混入して硫化物の純度が低下することが懸念される。一方で、このような不純物を除去する工程を別途行うと硫化物の製造コストが高くなる。また、特許文献1で用いられているような市販の還元材は一般的に高価であるため、市販品を用いるとセメント組成物及びセメント系地盤改良材の製造コストが上がってしまう。
【0006】
本開示では、品質のばらつきが低減された硫黄含有化合物を低い製造コストで製造することが可能な硫黄含有組成物の製造方法を提供する。また、品質のばらつきが低減されたセメント組成物を低い製造コストで製造することが可能なセメント組成物の製造方法を提供する。また、品質のばらつきが低減された地盤改良材を低い製造コストで製造することが可能な地盤改良材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る硫黄含有組成物の製造方法は、樹脂含有廃棄物を第1加熱部で加熱して分解ガスを発生させるガス発生工程と、第2加熱部において、分解ガスと石膏含有廃棄物とを800~1100℃の温度範囲で反応させて硫黄含有組成物を得る反応工程と、を有する。
【0008】
上記製造方法では、廃棄物を利用しているため、低い製造コストで硫黄含有組成物を製造することができる。また、樹脂含有廃棄物を加熱して発生する分解ガスと、石膏含有廃棄物とを反応させていることから、樹脂含有廃棄物と石膏含有廃棄物とをそのまま反応させる場合に比べて、樹脂含有廃棄物に由来する不純物が硫黄含有組成物に混入することを抑制できる。また、反応工程が、気相と固相との反応になるため、反応成分同士の接触状態が良好となって反応が円滑に進行する。このようにして、低い製造コストで品質のばらつきが低減された硫黄含有組成物を製造することができる。また、不純物を除去するための設備が不要となるため、或いは、設備の規模縮小が可能となるため、設備の簡素化にも貢献することができる。このようにして得られる硫黄含有組成物は、六価クロムの溶出抑制に有効である。
【0009】
上記第1加熱部において樹脂含有廃棄物を200~900℃の温度範囲で加熱することが好ましい。これによって、ガス発生工程における樹脂含有廃棄物の燃焼による炭素源の損失を抑制し、樹脂含有廃棄物に含まれる炭素を効率的に利用することができる。
【0010】
上記第1加熱部における酸素濃度が15体積%以下であることが好ましい。このような大気よりも低い酸素雰囲気下で分解ガスを発生させることによって、樹脂の燃焼を抑制することができる。したがって、炭素源の損失を抑制することが可能となり、また、安全性も向上することができる。
【0011】
第1加熱部に供給される石膏含有廃棄物の平均粒径が30mm以下であることが好ましい。これにより、反応を速やか且つ均一に進行させることができる。
【0012】
硫黄含有組成物が硫化カルシウムを5質量%以上含有することが好ましい。このような硫黄含有組成物は還元材として高い重金属溶出抑制効果を有する。
【0013】
反応工程で互いに反応する石膏含有廃棄物に含まれる石膏(CaSO)のモル数と、分解ガスに含まれる炭素(C)のモル数との比が、下記式(1)を満たすことが好ましい。これによって、石膏含有廃棄物に含まれる石膏と分解ガスに有機物として含まれる炭素との反応を進行し易くすることができる。
C/CaSO≧3 (1)
【0014】
反応工程で生成する反応排ガスと、アルカリ源を含むアルカリ含有スラリーとを接触させてガス処理生成スラリーを得るガス処理工程と、ガス処理生成スラリーから脱硫組成物を回収する回収工程と、を有することが好ましい。これらの工程を有することで、反応排ガスから、その含有成分である硫黄系酸化物などの酸性ガスを除去すると同時に、この酸性ガスから脱硫組成物を得ることができる。この脱硫組成物は、例えば、硫黄含有組成物の原料又は硫黄含有組成物への添加物として利用することができる。
【0015】
上記アルカリ源がカルシウム塩を含み、上記脱硫組成物が亜硫酸カルシウム及び石膏の少なくとも一方を含むことが好ましい。アルカリ源がカルシウム塩を含むことでアルカリ含有スラリーの反応性が向上し、脱硫組成物に含まれる亜硫酸カルシウム及び石膏等の有効成分を増やすことができる。亜硫酸カルシウム及び石膏の少なくとも一方を含む脱硫組成物は、例えば、還元材及びセメント原料等の配合成分として好適に用いることができる。
【0016】
上記反応工程で生成する反応排ガスに含まれる有機物を燃焼させる燃焼工程を有してもよい。このような燃焼工程で得られる燃焼ガスは大気放出をすることができる。なお、この燃焼工程は、ガス処理工程の後に行うことが好ましい。ガス処理工程では、反応排ガスの成分のうち、例えば硫黄系酸化物などの酸性ガスがアルカリ含有スラリーによって除去される。これによって、反応排ガスには主として有機物が残留することとなる。これによって、燃焼工程で酸性成分による変質成分の生成を抑制し、燃焼ガスを大気開放するための前処理を簡便化することができる。
【0017】
本開示の一側面に係るセメント組成物の製造方法は、上述のいずれかの硫黄含有組成物と、セメントクリンカーと、石膏と、を用いてセメント組成物を得る混合工程を有する。この製造方法では、低い製造コストで製造可能であり、品質のばらつきが低減された硫黄含有化合物を用いていることから、品質のばらつきが低減されたセメント組成物を低い製造コストで製造することができる。このセメント組成物は、硫黄含有組成物を含むことから、重金属の溶出を抑制することができる。
【0018】
本開示の一側面に係る地盤改良材の製造方法は、上述のいずれかの製造方法で得られる硫黄含有組成物、及び、上述の製造方法で得られるセメント組成物の一方又は双方を用いて地盤改良材を得る工程を有する。この製造方法では、低い製造コストで製造可能であり、品質のばらつきが低減された硫黄含有化合物、及びセメント組成物の一方又は双方を用いていることから、品質のばらつきが低減された地盤改良材を低い製造コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示では、品質のばらつきが低減された硫黄含有化合物を低い製造コストで製造することが可能な硫黄含有組成物の製造方法を提供することができる。また、品質のばらつきが低減されたセメント組成物を低い製造コストで製造することが可能なセメント組成物の製造方法を提供することができる。また、品質のばらつきが低減された地盤改良材を低い製造コストで製造することが可能な地盤改良材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係る硫黄含有組成物の製造方法を実施するための製造装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0022】
本実施形態に係る硫黄含有組成物の製造方法は、樹脂含有廃棄物を第1加熱部で加熱して分解ガスを発生させるガス発生工程と、第2加熱部において、分解ガスと石膏含有廃棄物とを800~1100℃の温度範囲で反応させて硫黄含有組成物を得る反応工程と、を有する。この製造方法は、例えば、図1に示すような製造装置を用いて行うことができる。
【0023】
ガス発生工程では、第1加熱部で樹脂含有廃棄物を加熱して分解ガスを発生させる。第1加熱部において樹脂含有廃棄物を、好ましくは200~900℃の温度範囲で加熱する。当該温度範囲は、より好ましくは350~900℃であり、さらに好ましくは500~900℃であり、特に好ましくは800~900℃である。これによって、樹脂の分解を十分に促進しつつ、炭素源の損失を抑制し、品質のばらつきが小さい硫黄含有組成物を高い収量で製造することができる。
【0024】
ガス発生工程では、後述する第2加熱部とは異なる第1加熱部で炭素源となる分解ガスを得る。このため、RPF及びRDF等の樹脂含有量が比較的多い樹脂のみならず、ASR及びCFRP等の多様な不純物を含む樹脂等も、樹脂含有廃棄物に含まれていても、品質のばらつきが低減された硫黄含有組成物を安定的に製造することができる。なお、RPFとは、Refuse Paper&Plastic Fuelの略語であり、古紙及びプラスチック類を原料として得られる固形燃料である。RDFとは、Refuse Derived Fuelの略語であり、家庭ゴミ等の一般廃棄物を主原料とするゴミ固形燃料である。ASRとは、Automobile Shredder Residueの略語であり、自動車破砕残渣である。CFRPとは、Carbon Fiber Reinforced Plasticの略語であり、炭素繊維強化プラスチックである。
【0025】
樹脂含有廃棄物は粒状であることが好ましい。樹脂含有廃棄物の粒径は、効率的に分解ガスを発生させる観点から、100mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、30mm以下が更に好ましく、15mm以下が特に好ましい。一方で、ハンドリング改善の観点から、樹脂含有廃棄物の粒径は、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、3mm以上が更に好ましい。樹脂含有廃棄物の粒径の一例は、1~100mmである。本明細書における樹脂含有廃棄物の粒径は、例えば、樹脂含有廃棄物の二次元の画像において、粒子の外縁に外接する外接円の直径として測定することができる。
【0026】
樹脂含有廃棄物の樹脂含有量は、石膏含有廃棄物の樹脂含有量よりも高くてよい。樹脂含有廃棄物の樹脂含有量は、樹脂含有廃棄物の全量に対して5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましく、80質量%以上が最も好ましい。樹脂は、廃棄物に含まれる樹脂であれば特に制限されず、熱硬化性樹脂であってよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0027】
樹脂含有廃棄物の炭素(C)の含有量は、石膏含有廃棄物の樹脂含有量よりも高くてよい。樹脂含有廃棄物の炭素の含有量は、樹脂含有廃棄物の全量に対して20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が特に好ましい。このような樹脂含有廃棄物を用いることで、安定的に高い効率で分解ガスを発生することができる。
【0028】
樹脂含有廃棄物の炭素含有量は、例えば、樹脂含有廃棄物を酸素気流中にて1350℃の高温で燃焼させたときに発生する二酸化炭素及び一酸化炭素の濃度を赤外線ガス分析計で測定することによって求めることができる。
【0029】
樹脂含有廃棄物の灰分は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が最も好ましい。樹脂含有廃棄物の灰分は、例えば、JIS Z 7302:1999「廃棄物固形化燃料-第4部:灰分試験方法」に規定される方法で測定した値を用いることができる。
【0030】
第1加熱部における酸素濃度は、樹脂の燃焼抑制と安全性向上の観点から、15体積%以下が好ましく、10体積%以下がより好ましく、5体積%以下がさらに好ましい。一方で、樹脂の分解反応を促進する観点から、第1加熱部における酸素濃度は、100ppm以上が好ましく、1000ppm以上がより好ましい。ガス発生工程における酸素濃度は、従来公知の方法で測定した値を用いることができる。第1加熱部における酸素濃度は、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素又は水蒸気等の気体を供給することによって調整してもよい。
【0031】
ガス発生工程で用いられる第1加熱部は、通常の熱処理装置であってよい。例えば、連続式の熱処理装置であってもよいし、回分式の熱処理装置であってもよい。第1加熱部で用いる熱源も特に限定されず、例えば、重油、微粉炭、及び電気加熱のいずれであってもよい。また、熱源の配置も特に限定されず、外熱式及び内熱式のどちらであってもよい。第1加熱部の例としては、ロータリーキルン、及び流動層炉等が挙げられる。分解ガスを効率よく発生させる観点から、第1加熱部の各部にはシール処理が施されていることが好ましい。
【0032】
上述のガス発生工程で発生した分解ガスは、上述のガス発生工程で用いられる第1加熱部とは別の設備である第2加熱部に供給される。反応工程では、この第2加熱部において、分解ガスと石膏含有廃棄物とを反応させて硫黄含有組成物を得る。反応工程で用いられる石膏含有廃棄物としては、例えば、廃石膏ボード、排煙脱硫石膏、硫黄含有汚泥、脱硫スラッジ、及び脱硫スラグが挙げられる。石膏含有廃棄物は、これらの例示物の少なくとも一つを含むことが好ましい。なお、廃石膏ボードは、石膏ボードの表面に付着している樹脂及び紙等の有機物、及び金属等の無機系の不純物を含んでいてもよい。硫黄含有組成物をより安定的に製造する観点から、石膏含有廃棄物は、廃石膏ボードを含むことが好ましい。
【0033】
石膏含有廃棄物の石膏の含有量は、SO換算で10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましく、55質量%以上が最も好ましい。石膏の含有量がこのような範囲であれば、優れた品位を有する硫黄含有組成物を得ることができる。
【0034】
石膏含有廃棄物中の石膏含有量は、例えばXRDリートベルト法によって求めることができる。
【0035】
第2加熱部に供給される石膏含有廃棄物は粒状であることが好ましい。石膏含有廃棄物の平均粒径は、30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましく、10mm以下が更に好ましく、8mm以下が特に好ましく、5mm以下が最も好ましい。本明細書における石膏含有廃棄物の粒径は、二次元の画像において、粒子の外縁に外接する外接円の直径として測定される。平均粒径は、任意に選択した100個の粒子の粒径を上述の方法で測定し、その算術平均値として求められる。
【0036】
石膏含有廃棄物に含まれる全粒子数のうち、80%以上の粒子が目開き30mmの篩を通過することが好ましく、80%以上の粒子が目開き20mmの篩を通過することがより好ましく、80%以上の粒子が目開き10mm以下の篩を通過することがさらに好ましく、80%以上の粒子が目開き8mmの篩を通過することが特に好ましく、80%以上の粒子が目開き5mmの篩を通過することが最も好ましい。
【0037】
第2加熱部における酸素濃度は、10体積%未満であることがより好ましく、5体積%未満であることがより好ましい。これによって、石膏含有廃棄物に含まれる炭素の燃焼が抑制され、石膏と反応する炭素を増やすことができる。
【0038】
反応工程で用いられる第2加熱部は、通常の熱処理装置であってよい。例えば、連続式の熱処理装置であってもよいし、回分式の熱処理装置であってもよい。第2加熱部で用いる熱源も特に限定されず、例えば、重油、微粉炭、及び電気加熱のいずれであってもよい。また、熱源の配置も特に限定されず、外熱式及び内熱式のどちらであってもよい。第2加熱部の例としては、ロータリーキルン、流動層炉等が挙げられる。分解ガスと石膏含有廃棄物とをより効率よく接触させる観点から、第2加熱部の各部にはシール処理が施されていることが好ましい。
【0039】
第1加熱部(ガス発生工程)で発生した分解ガスから第2加熱部(反応工程)に供給される分解ガスに含まれる炭素量は、分解ガスの成分を赤外線ガス分析計で測定した値から求めることができる。例えば、分解ガス中の各有機物の体積比率から求められる単位体積中の炭素モル濃度と、第2加熱部への分解ガスの供給速度から算出することができる。また、ガス発生工程で第1加熱部に供給される樹脂含有廃棄物の供給量と、第1加熱部でガス化せずに固形の残渣として排出される残渣量との差(供給量-残渣量)の質量を、分解ガスの構成単位として想定されるCH基の原子量を用いて、当該質量×(12/14)の計算で、第2加熱部に供給される分解ガスに含まれる炭素量を算出してもよい。
【0040】
反応工程では、例えば以下の反応式(1)で表される反応が進行する。また同時に以下の反応式(2)で表される反応も進行し、SOが発生してもよい。炭素源は、分解ガスに由来するものに限定されず、石膏含有廃棄物に由来してもよい。石膏含有廃棄物は、炭素源として、紙、廃プラスチック、炭素繊維、バイオマス、石炭及び石油からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。
CaSO+2C→ CaS+2CO (1)
CaSO+CaS→ 2CaO+2SO (2)
【0041】
反応工程において、第2加熱部に供給される石膏含有廃棄物に含まれる石膏(CaSO)のモル数と、第2加熱部に供給される分解ガスに含まれる炭素(C)のモル数とが、下記式(3)を満たすことが好ましく、下記式(4)を満たすことがより好ましく、下記式(5)を満たすことがさらに好ましい。これによって、石膏含有廃棄物に含まれる石膏と分解ガスに有機物として含まれる炭素との反応を、一層進行し易くすることができる。
C/CaSO≧3 (3)
C/CaSO>4 (4)
C/CaSO>5 (5)
【0042】
反応工程で得られる硫黄含有組成物は、硫化カルシウム及び多硫化カルシウム等の硫化物を含んでよい。硫黄含有組成物は、硫化物以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分として、酸化カルシウム、未反応の石膏、及び、原料である石膏含有廃棄物由来の不純物等が挙げられる。硫化物を含む硫黄含有組成物を、セメント組成物を製造するセメント製造工程の一つである粉砕工程に入れて、セメントクリンカー及び石膏とともに粉砕することで、六価クロム溶出量を低減することが可能なセメント組成物を製造することができる。硫黄含有組成物は、乾粉又はアルカリ性スラリーとして、粉砕工程で添加してもよい。
【0043】
硫黄含有組成物の硫化カルシウムの含有量は、粉末X線回折測定で得られる回析パターンをリートベルト法で解析して求めることができる。硫黄含有組成物の硫化カルシウムの含有量は、5質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。硫黄含有組成物の硫化カルシウムの含有量は、製造の容易性の観点から、95質量%以下であってよい。
【0044】
本実施形態の硫黄含有組成物の製造方法は、石膏含有廃棄物、又は樹脂含有廃棄物を粉砕する粉砕工程を有してもよい。粉砕工程は、通常の粉砕機を用いて行うことができる。なお、粉砕工程を行うことは必須ではない。石膏含有廃棄物、及び樹脂含有廃棄物の両方を粉砕する場合は、別々の粉砕機を用いて粉砕する。樹脂含有組成物の粉砕工程(第1粉砕工程)はガス発生工程の前に、石膏含有廃棄物を粉砕する粉砕工程(第2粉砕工程)は反応工程の前に、それぞれ行う。
【0045】
反応工程(第2加熱部)では、石膏が還元して分解することによって、反応排ガスが生成する。この反応排ガスは、例えば、上記式(2)の反応によって生成する亜硫酸ガスを含む。本実施形態の硫黄含有組成物の製造方法は、亜硫酸ガスを含む反応排ガスと、アルカリ源と水とを含むアルカリ含有スラリーと、を接触させるガス処理工程を有してもよい。ガス処理工程は、図1のガス処理部で行うことができる。
【0046】
アルカリ源としては、アルカリ金属の水酸化物及び炭酸塩、並びに、アルカリ土類金属の水酸化物及び炭酸塩が挙げられる。アルカリ源は、これらのうちの少なくとも一種を含んでいてよく、カルシウム塩を含むことが好ましい。
【0047】
アルカリ源は、セメントクリンカーの原料の粉砕時に発生する炭酸カルシウムを主成分とする微粒子粉末、塩素バイパス部から抽出されるカルシウム化合物のダスト粒子、当該ダスト粒子を水洗して得られる水洗ダスト粒子、セメント及びセメント水和物の少なくとも一方を含む汚泥等、セメントの製造工程における副産物を含んでよい。これによって、アルカリ含有スラリーによる反応排ガスの処理コストを低減することができる。
【0048】
ガス処理工程の前に、アルカリ源と水とを含むアルカリ含有スラリーを調製するスラリー調製工程を有してもよい。アルカリ含有スラリーに含まれる固形分の割合は、ハンドリング性を向上しつつ脱水及び乾粉化を円滑にする観点から、好ましくは0.1~50質量%であり、より好ましくは1~30質量%であり、さらに好ましくは3~28質量%であり、特に好ましくは10~25質量%である。
【0049】
ガス処理工程では、アルカリ含有スラリーに含まれるアルカリ源と、反応工程で生成する反応排ガスとを接触させることで、ガス処理生成スラリーを得る。ガス処理工程を行うガス処理部はバブリング槽であってもよい。ガス処理生成スラリーは、脱硫生成物を含んでよい。脱硫生成物は、亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩及び石膏の少なくとも一方を含むことが好ましい。このようなガス処理生成スラリーから、脱硫生成物を固形の脱硫組成物として回収部で回収する回収工程を行ってもよい。回収工程で回収された脱硫組成物は、硫黄含有組成物とともに、例えばセメント製造の際の還元材やセメント原料として好適に用いることができる。
【0050】
ガス処理生成スラリーは、亜硫酸塩以外の成分を含んでよい。例えば、反応工程で生成する反応排ガスに硫化水素が含まれる場合、ガス処理工程では、亜硫酸塩に加えて、硫化カルシウム、硫化ナトリウム、及び硫化マグネシウム等の塩が生成し得る。この場合、ガス処理生成スラリーは、脱硫生成物として、亜硫酸塩に加えて、硫化カルシウム、硫化ナトリウム、及び硫化マグネシウム等の塩を含んでよい。
【0051】
ガス処理生成スラリーのその他の含有成分として、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム及び硫酸カルシウム等が挙げられる。ガス処理生成スラリーは、これらの成分の少なくとも一種を含んでよい。硫酸カルシウムは、二水和物(二水石膏)、半水和物(半水石膏)、及び無水物(無水石膏)のいずれを含んでもよい。
【0052】
ガス処理工程で得られる生成物はスラリー状でなくてもよい。変形例では、ガス処理工程において、アルカリ含有スラリーを、亜硫酸ガス等を含む反応排ガス中に噴霧して乾燥するスプレードライを行うことによって、粉状の脱硫生成物を得てもよい。また、別の変形例では、アルカリ含有スラリーの代わりに、アルカリ含有スラリーに含まれる成分(アルカリ源)を固形(粉状)のまま、亜硫酸ガス等を含む反応排ガスと接触させて、ガス処理工程を行ってもよい。この場合、ガス処理工程は、例えば、アルカリ源、カルシウム化合物及び灰分等を固体粒子とする流動層を用いて行うことができる。この場合も、粉状の脱硫生成物を得ることができる。
【0053】
本実施形態の硫黄含有組成物の製造方法は、必要に応じて、反応工程で生成する反応排ガスに対して、追加の処理を行う工程を有していてもよい。例えば、反応排ガスが有機物を含む場合、二次燃焼炉により有機物を燃焼する燃焼工程を有していてもよい。燃焼工程とガス処理工程の双方を有する場合、燃焼工程はガス処理工程の前後のどちらであってもよい。例えば、第2加熱部とガス処理部との間に燃焼部を設けて、ガス処理工程前に燃焼工程を行うことで、ガス処理工程で得られるガス処理生成スラリー、及びガス処理生成スラリーから得られる脱硫組成物における石膏の割合を高くすることができる。
【0054】
一方、図1に示すように、燃焼部をガス処理部の下流側に設けて、燃焼工程前にガス処理工程を行うことで、ガス処理工程で得られるガス処理生成スラリー、及びガス処理生成スラリーから得られる脱硫組成物における亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩の割合を高くすることができる。その結果、相当量の石膏と亜硫酸塩の両方を含むガス処理生成スラリー及び脱硫組成物を得ることができる。また、燃焼部に導入される反応排ガスは、ガス処理工程で例えば硫黄系酸化物などの酸性ガスがアルカリ含有スラリーによって除去されている。このため、燃焼部に導入される反応排ガスには主として有機物が残留することとなる。したがって、燃焼工程において、酸性成分による変質成分の生成を抑制し、燃焼ガスを大気開放するための前処理を簡便化することができる。
【0055】
本実施形態の硫黄含有組成物の製造方法で得られる硫黄含有組成物は、樹脂含有廃棄物を加熱して発生する分解ガスを炭素源として石膏含有廃棄物と反応させている。このため、樹脂含有廃棄物と石膏含有廃棄物とをそのまま反応させる場合に比べて、硫黄含有組成物において樹脂含有廃棄物に由来する不純物の残存量を低減することができる。また、反応工程が、気相と固相との反応になるため、反応成分同士の接触状態が良好となって反応が円滑に進行する。このようにして、低い製造コストで品質のばらつきが低減された硫黄含有組成物を製造することができる。
【0056】
一実施形態に係るセメント組成物の製造方法は、上述の硫黄含有組成物と、セメントクリンカーと、石膏と、を用いてセメント組成物を得る混合工程を有する。
【0057】
混合工程では、セメントクリンカー、硫黄含有組成物、及び石膏の三種を、配合及び粉砕してセメント組成物を得る。粉砕及び配合の順番は特に制限されず、例えば、三種を順次又は同時に配合し、その後、必要に応じて再度粉砕を行ってセメント組成物を得てもよい。或いは、上記三種を配合する前に、三種の少なくとも一つを単独で粉砕してもよいし、三種のうちの二種を配合して粉砕、又は配合しながら粉砕してもよい。配合及び粉砕の順序は特に限定されず、粉砕及び配合を同時に行うことも可能である。このように、配合のパターン及び粉砕の回数も特に限定されない。混合工程は、例えば、ボールミル及び/又は竪型ミル等の設備を用いて行うことができる。
【0058】
このようにして製造されるセメント組成物の種類に制限はなく、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定のポルトランドセメントにすることができる。ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。これらのポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカ質混合材から選ばれる少なくとも1種を加えて混合セメントにしてもよい。
【0059】
セメント組成物は硫化物及び/又は亜硫酸塩を含むことが好ましい。セメント組成物の硫化物及び/又は亜硫酸塩の合計含有量は、例えば0.1~15質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~5質量%がさらに好ましい。
【0060】
セメント組成物は硫化カルシウムを含有することが好ましい。セメント組成物の硫化カルシウムの含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましく、4質量%以上であることが特に好ましく、8質量%以上であることが最も好ましい。このような範囲とすることで、強度発現性を維持しつつも重金属溶出を十分に抑制することが可能なセメント組成物を得ることができる。セメント組成物の硫化カルシウムの含有量は、強度発現性の観点から、50質量%以下であってよい。
【0061】
セメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2500~6000cm/gであり、より好ましくは3000~5000cm/gである。ブレーン比表面積が上記下限値以上であれば、優れた強度発現性を達成しやすくなる。他方、ブレーン比表面積が上記上限値以下であれば、コンクリート又は固化材スラリーとして使用したときの粘性を好適な範囲に制御しやすい。
【0062】
このセメント組成物の製造方法では、低い製造コストで製造され、品質のばらつきが低減された硫黄含有組成物を用いている。したがって、品質のばらつきが低減されたセメント組成物を低い製造コストで製造することができる。このようなセメント組成物は、硫黄含有組成物を含むことから、六価クロム等の重金属の溶出を抑制することができる。
【0063】
一実施形態に係る地盤改良材の製造方法は、上述いずれかの製造方法で得られる硫黄含有組成物、及び、上述の製造方法で得られるセメント組成物の一方又は双方を用いて地盤改良材を得る工程を有する。この工程では、硫黄含有組成物をそのまま地盤改良材としてもよいし、硫黄含有組成物と他の原材料と混合して地盤改良材を得てもよい。また、上述のセメント組成物の製造方法で得られるセメント組成物をそのまま地盤改良材としてもよいし、セメント組成物と他の原材料と混合して地盤改良材を得てもよい。
【0064】
この製造方法では、低い製造コストで製造され、品質のばらつきが低減された硫黄含有化合物又はこれを含むセメント組成物を用いていることから、品質のばらつきが低減された地盤改良材を低い製造コストで製造することができる。
【0065】
地盤改良材に含まれる硫黄含有組成物は硫化カルシウムを含有することが好ましい。地盤改良材の硫化カルシウムの含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましく、4質量%以上であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、土壌からの重金属の溶出を十分に抑制することができる。地盤改良材の硫化カルシウムの含有量の上限は、特に限定されず、例えば20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示では、品質のばらつきが低減された硫黄含有化合物を低い製造コストで製造することが可能な硫黄含有組成物の製造方法を提供することができる。また、品質のばらつきが低減されたセメント組成物を低い製造コストで製造することが可能なセメント組成物の製造方法を提供することができる。また、品質のばらつきが低減された地盤改良材を低い製造コストで製造することが可能な地盤改良材の製造方法を提供することができる。
図1