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特開2022-149441調光材料、調光フィルム、及び調光積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149441
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】調光材料、調光フィルム、及び調光積層体
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1516 20190101AFI20220929BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20220929BHJP
   C09K 9/02 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
G02F1/1516
C01B32/182
C09K9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051603
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘司
(72)【発明者】
【氏名】灰野 岳晴
(72)【発明者】
【氏名】関谷 亮
【テーマコード(参考)】
2K101
4G146
【Fターム(参考)】
2K101AA22
2K101DA01
2K101DB03
2K101DC03
2K101DC13
2K101EB41
2K101EJ11
2K101EK05
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD40
4G146BA02
4G146CB14
(57)【要約】
【課題】電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域での光線透過率を効果的に制御できる、調光材料を提供する。
【解決手段】表面が官能基によって修飾されている、グラフェンライク炭素材料を含み、紫外可視分光法により測定した前記グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、前記官能基由来のピークの高さaと前記グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bが、0.6以上である、調光材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が官能基によって修飾されている、グラフェンライク炭素材料を含み、
紫外可視分光法により測定した前記グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、前記官能基由来のピークの高さaと前記グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bが、0.6以上である、調光材料。
【請求項2】
グラフェンライク炭素材料を含み、
前記グラフェンライク炭素材料の表面が、下記式A又は下記式Bで表される官能基によって修飾されている、調光材料。
【化1】
(式A中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、mは有機官能基の数である。)
【化2】
(式B中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基又はアシルアミノ基であり、mは有機官能基の数である。)
【請求項3】
紫外可視分光法により測定した前記グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、波長250nm~600nmにおける前記官能基由来のピークの吸光度aと、波長400nmにおける前記グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの吸光度bとの比a/bが、0.6以上である、請求項1又は2に記載の調光材料。
【請求項4】
前記グラフェンライク炭素材料のアスペクト比が3以上、330以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項5】
前記グラフェンライク炭素材料の面方向寸法が、1nm以上、100nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項6】
前記官能基が、有機官能基である、請求項1及び3~5のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項7】
前記有機官能基が、アミン誘導体である、請求項6に記載の調光材料。
【請求項8】
前記有機官能基が、窒素を含む芳香環又は複素環を有する、請求項6または7に記載の調光材料。
【請求項9】
前記有機官能基が、環状イミド基を有する、請求項6~8のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項10】
前記有機官能基が、炭素-炭素二重結合(C=C)を2個以上含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項11】
前記有機官能基が、ベンゼン環を1個以上含む、請求項6~10のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項12】
前記有機官能基が、ベンジル基、ヘキサデシルオキシ基、シルセス基、及びポリアルコキシベンジル基からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項6~11のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項13】
前記有機官能基が、3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジル、3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジル及び3,5-ビス(3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルからなる群より選ばれる1種のデンドリマーを有する嵩高い基、3,4,5-トリ(ヘキサデシルオキシ)ベンジル並びにポリへドラルオリゴメリックシルセスキオキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項6~12のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項14】
下記式14で表される有機官能基を有する、請求項6~11のいずれか1項に記載の調光材料。
【化3】
(式14中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、R~Rは、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環の炭素であり、nは0又は1であり、mは有機官能基の数である。)
【請求項15】
前記有機官能基が、下記式15で表される官能基である、請求項14に記載の調光材料。
【化4】
(式15中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基,又はアシルアミノ基であり、mは有機官能基の数である。)
【請求項16】
前記有機官能基が、下記式18で表される官能基である、請求項14に記載の調光材料。
【化5】
(式18中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基又はアシルアミノ基であり、mは有機官能基の数である。)
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の調光材料を含む、調光フィルム。
【請求項18】
第1の支持体と、
前記第1の支持体上に設けられている、第1の導電膜と、
前記第1の導電膜上に設けられている、請求項17に記載の調光フィルムと、
前記調光フィルム上に設けられている第2の導電膜と、
前記第2の導電膜上に設けられている第2の支持体とを備える、調光積層体。
【請求項19】
前記調光フィルムと前記第2の導電膜との間に、電解質層が設けられている、請求項18に記載の調光積層体。
【請求項20】
前記第1,第2の支持体がガラス基板である、請求項18または19に記載の調光積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンライク炭素材料を含む、調光材料、並びに該調光材料を用いた調光フィルム及び調光積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の波長領域の光の透過率を制御し得るエレクトロクロミック調光材料は、特定の波長の光を遮断することにより透過率の調整を行うことや、色味の調整を行うことなどを目的として利用されている。このような調光材料は、室内部材、建築部材、電子部品等の様々な分野において広く用いられている。
【0003】
また、近年では、赤外線領域における透過率の制御を可能とする省エネ型調光材料も注目を集めており、種々の検討が行われている。例えば、自動車の車内の温度を制御するために、調光材料を含む調光フィルムを中間層として用いた合わせガラスが提案されている。また、対向する一対の透明電極基板の間に、調光フィルム及び電解質層が挟み込まれた合わせガラスが提案されている。これにより、合わせガラスの透過率が制御されるとされている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が、2枚の導電性基板間に挟み込まれた調光積層体が開示されている。また、下記の特許文献2には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック材料を含有するエレクトロクロミック層と電解質層とが挟み込まれた調光積層体が開示されている。
【0005】
下記の特許文献3には、このような有機エレクトロクロミック材料として、特定の構造を有するポリアセチレン化合物が記載されている。また、下記の特許文献4には、グラフェンライク炭素材料を含み、グラフェンライク炭素材料のアスペクト比が3以上、300以下である、調光材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-062030号公報
【特許文献2】特表2002-526801号公報
【特許文献3】特表2004-531770号公報
【特許文献4】国際公開第2018/016616号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3のようなポリアセチレン化合物を調光材料として用いた場合、可視光を遮断する際に、赤外光を透過させるため、夏場等の暑い時期には使用が難しいという問題がある。また、特許文献4のようなグラフェンライク炭素材料を調光材料として用いた場合においても、特に近赤外域などの長波長域においては、なお十分に光線透過率を制御することが難しいという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率を効果的に制御できる、調光材料、並びに該調光材料を用いた調光フィルム及び調光積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る調光材料の広い局面では、表面が官能基によって修飾されている、グラフェンライク炭素材料を含み、紫外可視分光法により測定した前記グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、前記官能基由来のピークの高さaと前記グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bが、0.6以上である。
【0010】
本発明に係る調光材料の他の広い局面では、グラフェンライク炭素材料を含み、前記グラフェンライク炭素材料の表面が、下記式A又は下記式Bで表される官能基によって修飾されている。
【0011】
【化1】
【0012】
(式A中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、mは有機官能基の数である。)
【0013】
【化2】
【0014】
(式B中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基又はアシルアミノ基であり、mは有機官能基の数である。)
【0015】
本発明に係る調光材料の他の特定の局面では、紫外可視分光法により測定した前記グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、波長250nm~600nmにおける前記官能基由来のピークの吸光度aと、波長400nmにおける前記グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの吸光度bとの比a/bが、0.6以上である。
【0016】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記グラフェンライク炭素材料のアスペクト比が3以上、330以下である。
【0017】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記グラフェンライク炭素材料の面方向寸法が、1nm以上、100nm以下である。
【0018】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記官能基が、有機官能基である。
【0019】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、アミン誘導体である。
【0020】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、窒素を含む芳香環又は複素環を有する。
【0021】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、環状イミド基を有する。
【0022】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、炭素-炭素二重結合(C=C)を2個以上含む。
【0023】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、ベンゼン環を1個以上含む。
【0024】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、ベンジル基、ヘキサデシルオキシ基、シルセス基、及びポリアルコキシベンジル基からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0025】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジル、3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジル及び3,5-ビス(3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルからなる群より選ばれる1種のデンドリマーを有する嵩高い基、3,4,5-トリ(ヘキサデシルオキシ)ベンジル並びにポリへドラルオリゴメリックシルセスキオキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0026】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、下記式14で表される有機官能基を有する。
【0027】
【化3】
【0028】
(式14中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、R~Rは、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環の炭素であり、nは0又は1であり、mは有機官能基の数である。)
【0029】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、下記式15で表される官能基である。
【0030】
【化4】
【0031】
(式15中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基,又はアシルアミノ基であり、mは有機官能基の数である。)
【0032】
本発明に係る調光材料のさらに他の特定の局面では、前記有機官能基が、下記式18で表される官能基である。
【0033】
【化5】
【0034】
(式18中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基又はアシルアミノ基であり、mは有機官能基の数である。)
【0035】
本発明に係る調光フィルムは、本発明に従って構成される調光材料を含む。
【0036】
本発明に係る調光積層体は、第1の支持体と、前記第1の支持体上に設けられている、第1の導電膜と、前記第1の導電膜上に設けられている、本発明の調光フィルムと、前記調光フィルム上に設けられている第2の導電膜と、前記第2の導電膜上に設けられている第2の支持体とを備える。
【0037】
本発明に係る調光積層体のある特定の局面では、前記調光フィルムと前記第2の導電膜との間に、電解質層が設けられている。
【0038】
本発明に係る調光積層体の他の特定の局面では、前記第1,第2の支持体がガラス基板である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率を効果的に制御できる、調光材料、並びに該調光材料を用いた調光フィルム及び調光積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る調光積層体を示す模式的正面断面図である。
図2図2は、式1及び式7で示すグラフェンライク炭素材料の製造方法の一例を説明するための反応スキームを示す図である
図3図3は、式14で示す官能基により修飾されたグラフェンライク炭素材料の製造方法の一例を説明するための反応スキームを示す図である。
図4図4は、実施例1~3及び比較例1で得られたグラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
図5図5は、実施例1の調光材料において、電圧0V~2.4Vの間で所定の電圧を印加したときの吸収スペクトルを示す図である。
図6図6は、実施例4の調光材料において、電圧0V~1.1Vの間で所定の電圧を0.1V間隔で印加したときの吸収スペクトルを示す図である。
図7図7は、実施例5の調光材料において、電圧0V~1.1Vの間で所定の電圧を0.1V間隔で印加したときの吸収スペクトルを示す図である。
図8】エレクトロクロミック特性の評価で用いた石英セルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0042】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る調光積層体を示す模式的正面断面図である。
【0043】
調光積層体1は、第1,第2の支持体2A,2Bを有する。調光積層体1は、第1,第2の支持体2A,2Bに、後述する調光フィルム5が挟み込まれた構成を有する。本実施形態において、第1,第2の支持体2A,2Bは、ガラス基板である。なお、第1,第2の支持体2A,2Bは、ガラス以外の透明性が高い適宜の材料からなっていてもよい。
【0044】
第1の支持体2A上には、第1の導電膜3Aが設けられている。第1の導電膜3Aとしては、例えば、ITO等の透明電極を用いることができる。第1の支持体2A及び第1の導電膜3Aにより、第1の導電膜付き基板4Aが構成されている。同様に、第2の支持体2B上にも、第2の導電膜3Bが設けられている。第2の支持体2B及び第2の導電膜3Bにより、第2の導電膜付き基板4Bが構成されている。なお、第2の導電膜3Bは、第1の導電膜3Aと同様の材料からなる。もっとも、第2の導電膜3Bは、第1の導電膜3Aと異なる材料からなっていてもよい。
【0045】
第1の導電膜3A上には、調光フィルム5が設けられている。調光フィルム5上には、電解質層6が設けられている。より具体的には、調光フィルム5上には、電解質層6を囲むように設けられた枠状の支持部材7が設けられている。支持部材7上には、電解質層6を封止するように、上記第2の導電膜付き基板4Bが設けられている。
【0046】
なお、第2の導電膜付き基板4Bにおいては、第2の導電膜3Bが支持部材7及び電解質層6側に位置する。第1,第2の導電膜3A,3Bは、調光積層体1の対向電極である。
【0047】
調光フィルム5、第2の導電膜3B及び支持部材7により囲まれた空間に、電解質溶液が封入されている。電解質溶液としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)やジメチルカーボネート(DMC)等を溶媒とし、LiPF等を含む電解質溶液を用いることができる。このようにして、電解質層6が構成されている。
【0048】
上記のように構成された調光積層体1に電圧を印加することにより、各波長における光線透過率が変化する。なお、電解質層6は必ずしも設けられていなくともよい。もっとも、本実施形態のように、電解質層6を設けることにより、光線透過率を効果的に変化させることができる。
【0049】
調光フィルム5における調光材料は、グラフェンライク炭素材料を含む。グラフェンライク炭素材料としては、例えば、グラフェンまたはグラフェン積層体を用いることができる。なお、グラフェン積層体とは、グラフェンシートの積層体である。グラフェン積層体は、薄片化黒鉛のように黒鉛を剥離処理して得られるものであることが好ましい。グラフェン積層体におけるグラフェンシートの積層数は、特に限定されないが、好ましくは2層以上、より好ましくは3層以上、好ましくは30層以下、より好ましくは20層以下である。なお、グラフェンライク炭素材料は、酸化グラフェンや酸化グラフェン積層体のように酸化されたものであってもよい。また、グラフェンライク炭素材料の形状は、例えば、シート形状または面方向において細長いリボン形状とすることができる。
【0050】
本実施形態における調光材料は、エレクトロクロミック調光材料である。グラフェンライク炭素材料の表面は、官能基により修飾されている。これにより、グラフェン構造体が構成されている。なお、グラフェンライク炭素材料に用いられるグラフェン等は優れた化学的安定性を有するため、調光材料及びこれを含む調光フィルム5は長期的安定性に優れる。なお、本実施形態では、調光材料を含む調光積層体1及び調光フィルム5について説明したが、本発明においては、調光材料を他の形態で用いてもよく、特に限定されない。
【0051】
本願の第1の発明に係る調光材料では、紫外可視分光法により測定したグラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、官能基由来のピークの高さaとグラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bが、0.6以上である。
【0052】
紫外可視分光法により測定したグラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルは、例えば、分光光度計(日本分光社製、品番「V-770, Serial No. A 045461801」)を用いて測定することができる。また、例えば、以下の測定条件により測定することができる。なお、グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークとしては、波長400nmの官能基由来のピークを用いることができる。
【0053】
測定条件;
グラフェンライク炭素材料2.0mgを、ヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム(東京化成社製)を1mol/Lになるように添加したクロロベンゼンとアセトニトリルの混合溶媒(体積比1:1)50mLに溶解し、25℃にて、分光光度計を用いて測定する。
【0054】
また、上記比a/bは、例えば、後述する製造方法で説明する官能基変性前のグラフェンライク炭素材料本体へのカルボキシル基導入量を多くすることにより、大きくすることができる。また、官能基変性前のグラフェンライク炭素材料本体中のカルボキシル基に対する反応基質の量を多くしたり、反応時間、反応温度、濃度を調整することで大きくすることができる。
【0055】
本願の第2の発明に係る調光材料では、グラフェンライク炭素材料の表面が、下記式A又は下記式Bで表される官能基によって修飾されている。
【0056】
【化6】
【0057】
(式A中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、mは有機官能基の数である。なお、R及びRは、官能基には含まれない。)
【0058】
上記式Aで表される官能基によって修飾されている、グラフェンライク炭素材料としては、例えば、下記式A1で表されるグラフェンライク炭素材料が挙げられる。
【0059】
【化7】
【0060】
また、下記式Bで表される官能基は、以下の通りである。
【0061】
【化8】
【0062】
(式B中、R及びRは、グラフェンライク炭素材料本体を構成している多環芳香族炭化水素の炭素であり、R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基又はアシルアミノ基であり、mは有機官能基の数である。なお、R及びRは、官能基には含まれない。)
【0063】
上記式Bで表される官能基によって修飾されている、グラフェンライク炭素材料としては、例えば、下記式B1で表されるグラフェンライク炭素材料が挙げられる。なお、下記式B1において、tBuは、ターシャリーブチル基を示している。
【0064】
【化9】
【0065】
本願の第1の発明及び第2の発明(以下、第1の発明及び第2の発明を総称して本願発明と称する場合があるものとする。)の調光材料によれば、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率を効果的に制御することができる。特に、電圧を印加することにより、近赤外域における光線透過率を効果的に制御することができる。
【0066】
従来、ポリアセチレン化合物を調光材料として用いた場合、可視光を遮断する際に、赤外光を透過させるため、夏場等の暑い時期には使用が難しいという問題があった。また、グラフェンライク炭素材料を調光材料として用いた場合においても、近赤外域などの長波長域において、なお十分に光線透過率を制御することが難しいという問題があった。
【0067】
これに対して、本発明者らは、第1の発明として、紫外可視分光法により測定したグラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、官能基由来のピークの高さaとグラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bに着目し、上記比a/bを0.6以上とすることで、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率を効果的に制御することができることを見出した。
【0068】
本発明において、グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおける比a/bは、好ましくは0.65以上、より好ましくは0.80以上である。この場合、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率をより一層効果的に制御することができる。また、グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおける比a/bの上限値は、例えば、3.0とすることができる。
【0069】
また、本発明者らは、第2の発明として、グラフェンライク炭素材料の構造に着目し、上記式A又は上記式Bで表される官能基によって表面が修飾されている、グラフェンライク炭素材料を用いることで、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率を効果的に制御することができることを見出した。上記式A及び上記式Bでは、スクシンイミド基の窒素原子に、芳香族トリアミンを構成する芳香環の炭素が、アルキル基などの他の基を介さずに直接結合しているため、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率を効果的に制御することができるものと考えられる。
【0070】
なお、本発明において、第1の発明及び第2の発明は、それぞれ単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。第1の発明及び第2の発明を組み合わせる場合、紫外可視分光法により測定したグラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、上記式A又は上記式Bで表される官能基由来のピークの高さaと、グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bが、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上、さらに好ましくは0.8以上である。この場合、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率をより一層効果的に制御することができる。また、グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルにおいて、上記式A又は上記式Bで表される官能基由来のピークの高さaと、グラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bの上限値は、例えば、2.0とすることができる。なお、上記式Aで表される官能基由来のピークとしては、例えば、波長259nm~382nmにおいて最も高いピークを用いることができる。上記式Bで表される官能基由来のピークとしては、例えば、波長276nm~310nmにおいて最も高いピークを用いることができる。また、基準ピークとしては、例えば、波長400nm~500mにおいて最も高いピークを用いることができる。
【0071】
本発明において、グラフェンライク炭素材料の表面を修飾している、上記式A又は上記式Bなどの官能基の数(m)は、好ましくは10個以上、より好ましくは20個以上である。この場合、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域における光線透過率をより一層効果的に制御することができる。また、上記式A又は上記式Bなどの官能基の数(m)の上限値は、例えば、80個とすることができる。なお、上記式A又は上記式Bなどの官能基は、グラフェンライク炭素材料本体の表面を修飾しているものとする。グラフェンライク炭素材料本体は、例えば、多環芳香族炭化水素により構成することができる。
【0072】
本発明において、グラフェンライク炭素材料の面方向の寸法(面方向寸法)は、好ましくは1nm以上、100nm以下であり、より好ましくは2nm以上、80nm以下であり、さらに好ましくは3nm以上、50nm以下である。面方向の寸法が上記下限値以上である場合には、バンドギャップが小さくなり、駆動電圧をより一層低めることができる。そのため、エネルギー効率をより一層高めることができる。また、面方向の寸法が上記上限値以下である場合には、電子密度の変化を大きくすることができる。なお、面方向とは、例えば、グラフェンライク炭素材料にグラフェンやグラフェン積層体が用いられる場合、グラフェンの主面に沿う方向である。
【0073】
ここで、グラフェンライク炭素材料のアスペクト比を、面方向の寸法/厚みとする。このとき、グラフェンライク炭素材料のアスペクト比は、好ましくは3以上、好ましくは330以下である。上記アスペクト比は、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、好ましくは300以下、より好ましくは270以下である。アスペクト比を上記範囲内とすることにより、面方向の寸法をより一層小さくし、電子密度の変化をより一層大きくすることができ、かつ駆動電圧をより一層低めることができる。なお、面方向の寸法(面方向寸法)とは、特に断りがない限りにおいて、面方向における最大寸法のことをいう。
【0074】
なお、アスペクト比を小さくする場合には、グラフェン積層体を用いることが好ましい。グラフェン積層体の層数は、2層以上、100層以下であることが好ましい。
【0075】
また、グラフェンライク炭素材料が面方向において細長いリボン形状を有していてもよい。この場合においては、グラフェンライク炭素材料のアスペクト比は、面方向の寸法をa、b(a>b)とし、厚みをcとしたときに、b/cとする。
【0076】
ここで、アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて、グラフェンライク炭素材料の面方向の寸法及び厚みを計測することにより得ることができる。
【0077】
第1の発明においては、上記式A及び上記式Bで表される官能基以外の官能基により、グラフェンライク炭素材料の表面が修飾されてもよい。
【0078】
上記官能基としては、特に限定されないが、ベンジル基、ヘキサデシルオキシ基、シルセス基、又はポリアルコキシベンジル基を含んでいることが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。このような官能基としては、例えば、3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジル、3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジル及び3,5-ビス(3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルからなる群より選ばれる1種のデンドリマーを有する嵩高い基、3,4,5-トリ(ヘキサデシルオキシ)ベンジル並びにポリへドラルオリゴメリックシルセスキオキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種である有機官能基を含む。調光材料におけるグラフェンライク炭素材料の例を、下記の式1に示す。なお、式1や、以下に示す化学式、図面において、グラフェンや多環芳香族炭化水素を構成する芳香環における二重結合は省略される場合があるものとする。
【0079】
【化10】
【0080】
式1中のRは、上記有機官能基を示す。上記に挙げた各デンドリマーを下記の式2~式4に示す。なお、式2は、3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルを示している。式3は、3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルを示している。式4は、3,5-ビス(3,5-ビス(3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルオキシ)ベンジルを示している。また、以下に示す式2~式4の官能基は、式1中のRに相当し、破線で示す位置において、式1で表すグラフェンライク炭素材料に結合されている。
【0081】
【化11】
【0082】
【化12】
【0083】
【化13】
【0084】
3,4,5-トリ(ヘキサデシルオキシ)ベンジルを下記の式5に示す。また、以下に示す式5の官能基は、式1中のRに相当し、破線で示す位置において、式1で表すグラフェンライク炭素材料に結合されている。
【0085】
【化14】
【0086】
ポリへドラルオリゴメリックシルセスキオキサンを下記の式6に示す。また、以下に示す式6の官能基は、式1中のRに相当し、破線で示す位置において、式1で表すグラフェンライク炭素材料に結合されている。
【0087】
【化15】
【0088】
あるいは、下記の式7に示すように、グラフェンライク炭素材料の官能基の末端はアルキンであってもよい。
【0089】
【化16】
【0090】
上記式1及び上記式7で示すグラフェンライク炭素材料は、例えば、特開2015-134702号公報に開示されている方法に従って製造することができる。
【0091】
具体的には、図2に示す反応スキームに従って得ることができる。式1及び式7で表されるグラフェンライク炭素材料を得るには、まず、図2に式8で例示するグラファイトを、濃硫酸と硝酸との混合溶液中に加え、グラファイトを酸化処理する。それによって、グラファイトの端面部に酸素含有官能基であるカルボキシル基を導入し、図2の式9に示す端面部が酸化されたグラフェンライク炭素材料を得る。
【0092】
次に、図2の式9に示すグラフェンライク炭素材料を塩化オキサイルに溶解し、この溶液に、N,N-ジメチルホルムアミドを添加することにより、カルボン酸塩化物を合成する。次に、塩化オキサリルを除去した後、残留物をN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、この溶液に、4-プロピニルオキシベンジルアミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、及びトリエチルアミンを加える。それによって、カルボン酸塩化物と4-プロピニルオキシベンジルアミンとを反応させることにより、式7に示すグラフェンライク炭素材料を得ることができる。
【0093】
なお、式7に示すグラフェンライク炭素材料の精製は、粒子充填型カラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒(極性溶媒)を移動相として使用することにより精製することができる。
【0094】
粒子充填型カラムとしては、例えば、高純度シリカゲル(金属不純物が極めて少ないシリカゲル)が充填されたカラム(例えば、富士シリシア化学社製、商品名「クロマトグラフィー用シリカゲルPSQ-100B」)を使用することができる。
【0095】
ここで、一般に、グラフェンライク炭素材料は、水等の極性溶媒にしか溶解しないが、式7で表されるグラフェンライク炭素材料は、酢酸エチル、アセトン、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、又はアセトニトリル等の一般的な有機溶媒に可溶である。
【0096】
図2の式9で表されるグラフェンライク炭素材料と4-プロピニルオキシベンジルアミンを反応させることにより、端面部の一部が、4-プロピニルオキシベンジル基により被覆される。この4-プロピニルオキシベンジル基の部分が、π-πスタッキング相互作用によって、自己凝集を防止し、SP2の炭素表面の立体保護を行うためであると考えられる。
【0097】
また、グラフェンライク炭素材料の端面部の形状は、「アームチェア型」と「ジグザグ型」の2種類の形状があるが、本発明のグラフェンライク炭素材料は、アームチェア型の端面部がメインであるため、端面部が、5員環フタルイミド構造を有している。
【0098】
次に、式7に示すグラフェンライク炭素材料と、上記式2~式6で表されるR基を有する窒素化合物である酸アジド(例えば、式2であれば、3,5-ビス(ベンジルオキシ)ベンジルアジド)をクロロホルムに溶解させた溶液を得る。この溶液に、触媒として作用する臭化トリフェニルホスフィン銅(CuBr(PPh)を添加し、ヒュスゲン環化付加反応(アルキンと窒素化合物による環化反応)を行う。それによって、上記式1で示すグラフェンライク炭素材料を得ることができる。
【0099】
なお、上記式1に示すグラフェンライク炭素材料の精製は、粒子充填型カラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、アセトンまたはヘキサンを移動相として使用することにより精製することができる。各グラフェンライク炭素材料の構造同定は、H-NMRとIRスペクトルなどを用いて、構造の近いモデル化合物との比較により行うことができる。
【0100】
上記官能基とグラフェンライク炭素材料との間において電子の授受を行うことにより、電子密度を大きく変化させることができる。従って、化学的な刺激や電気的な刺激、圧力や温度などの物理的な刺激に応答して、可視光から赤外光までの幅広い領域での光線透過率を制御できる。また、長期安定性にも優れている。このように、グラフェンライク炭素材料の表面が官能基により修飾されていることが好ましい。なお、上記官能基は有機官能基には限定されない。
【0101】
官能基は、アミン誘導体であることが好ましい。アミン誘導体とは、アミノ基(-NH)の水素原子が他の成分によって置換されたものをいい、その成分は脂肪族であってもよく、芳香族であってもよい。また、官能基は、炭素-炭素二重結合(C=C)を2個以上含むことが好ましい。さらに、官能基は、ベンゼン環を1個以上含むことが好ましい。それによって、電子の授受をより一層好適に行うことができる。
【0102】
また、官能基は、窒素を含む芳香環又は複素環を有していることが好ましい。官能基は、環状のイミド基を有していてもよい。
【0103】
環状のイミド基、すなわち環状イミド基を有する官能基が表面に修飾されたグラフェンライク炭素材料の例としては、例えば、下記式10で表されるグラフェンライク炭素材料が挙げられる。
【0104】
【化17】
【0105】
式10中、R’は、例えば、下記式11又は下記式12で表される基である。
【0106】
【化18】
【0107】
【化19】
【0108】
式12中、Xは、水素原子(H)、メトキシ基(CH)、又はトリフルオロメチル基(CF)である。
【0109】
上記式10で表されるグラフェンライク炭素材料の具体例としては、下記式13で表される化合物であってもよい。なお、式13中、OMeはメトキシ基である。
【0110】
【化20】
【0111】
なお、グラフェンライク炭素材料としての多環芳香族炭化水素の表面が下記式14で示す官能基により修飾されたグラフェンライク炭素材料であってもよい。
【0112】
【化21】
【0113】
上記式14中、R及びRは、多環芳香族炭化水素における芳香環由来の炭素である。従って、R及びRは、官能基に含まれず、R及びRを含む多環芳香族炭化水素が設けられていることを意味している。R~Rは、芳香環又は複素環を有する基における芳香環又は複素環由来の炭素である。すなわち、R~Rを含む芳香環又は複素環を有する基が設けられていることを意味している。nは0又は1である。従って、Rは設けられていなくともよい。なお、mは官能基の数を意味している。上記官能基の数mは、好ましくは20個以上、より好ましくは30個以上、好ましくは50個以下、より好ましくは40個以下である。上記官能基の数mが上記下限以上である場合、官能基と多環芳香族炭化水素との間において電子の授受を行うことにより、電子密度をより一層大きく変化させることができる。また、上記官能基の数mが上記上限以下である場合、電子の授受が起こりにくくなり,バンドギャップがより一層広くなる。
【0114】
n=0である場合の上記式14で表される官能基としては、例えば、下記式15で表される官能基が挙げられる。
【0115】
【化22】
【0116】
式15中、R及びRは、上記と同様に、多環芳香族炭化水素における芳香環由来の炭素である。Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、又はアシルアミノ基である。また、mは、上記と同様に、官能基の数である。
【0117】
具体的に、Rが水素原子である場合、官能基は、[d]9H-9-Oxo-benzo[4,5]imidazo[2,1-a]pyrro基である。具体的には、下記式16で表されるグラフェンライク炭素材料である。
【0118】
【化23】
【0119】
また、Rがメトキシ基(OCH)である場合、下記式17で表されるグラフェンライク炭素材料である。
【0120】
【化24】
【0121】
また、n=1である場合の上記式14で表される官能基としては、例えば、下記式18で表される官能基が挙げられる。
【0122】
【化25】
【0123】
式18中、R及びRは、上記と同様に、多環芳香族炭化水素における芳香環由来の炭素である。R及びRは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基(アルキル基の炭素数が1~20)、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、又はアシルアミノ基である。また、mは、上記と同様に、官能基の数である。
【0124】
具体的に、R及びRが水素原子である場合、官能基は、[d]11H-11-Oxo-Perimidino[2,1-a]pyrrolo基(8,9-dihydro-10H-pyrrolo[1,2-a]perimidin-10-one(ChemDrawのstructure to nameより))である。すなわち、下記式19で表されるグラフェンライク炭素材料である。
【0125】
【化26】
【0126】
また、R及びRがターシャリーブチル基(tBu)である場合、官能基は、2,5-di-tert-butyl-8,9-dihydro-10H-pyrrolo[1,2-a]perimidin-10-one(ChemDrawのstructure to nameより)基である。すなわち、下記式20で表されるグラフェンライク炭素材料である。
【0127】
【化27】
【0128】
上記多環芳香族炭化水素の芳香環の数は、好ましくは2個以上、より好ましくは50個以上、好ましくは10000個以下、より好ましくは100個以下である。
【0129】
上記多環芳香族炭化水素としては、例えば、ペンタセン、ペンタフェン、ベンゾピレン、ペリレン、ジベンゾフェナントレン、ピセン、コロネン、オバレン、アンタントレン、サーキュレン、ジコロニレン、ヘリセン、ケクレン、ゼトレン、トリナフチレン、ヘプタフェン、又はヘプタセンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0130】
上記多環芳香族炭化水素は、上述したグラフェン又は酸化グラフェンであってもよい。また、グラフェンシートの積層体である薄片化黒鉛又は酸化薄片化黒鉛であってもよい。
【0131】
上記多環芳香族炭化水素と、上記式14で表される官能基との間で電子の授受を行うことにより、電子密度を大きく変化させることができる。従って、化学的な刺激や電気的な刺激、圧力や温度などの物理的な刺激に応答して、可視光から赤外光までの幅広い領域での光線透過率を制御できる。また、長期安定性にも優れている。
【0132】
上記式14で示す官能基などにより修飾されたグラフェンライク炭素材料は、例えば、図3に示す反応スキームに従って得ることができる。ここでは、上記式17で表されるグラフェンライク炭素材料を例に挙げて説明する。図3に示すように、まず、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素を用意する。2つのカルボキシル基は、芳香環のオルト位に設けられていることが望ましい。このように2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素は、例えば、多環芳香族炭化水素の酸無水物を加水分解することにより得ることができる。また、酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛などを用いることができる。酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛は、酸化切断して用いてもよい。なお、酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛は、例えば、ハマーズ法などの従来公知の製造方法により製造することができる。このように、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素は、複数の芳香環が縮合した縮合多環芳香族炭化水素の酸無水物を加水分解したものであってもよい。あるいは、酸化グラフェンや酸化薄片化黒鉛、あるいはそれらを酸化切断したものであってもよい。
【0133】
一方で、少なくとも2つのアミノ基により置換された芳香環又は複素環を有する化合物を用意する。なお、芳香環又は複素環を複数有する場合は、1つの芳香環又は複素環において少なくとも2つのアミノ基が置換されていてもよいし、2以上の芳香環又は複素環において少なくとも2つのアミノ基が置換されていてもよい。
【0134】
このような化合物としては、例えば、1,2-ジアミノベンゼン、4-メトキシ-1,2-ジアミノベンゼン、4-シアノ-1,2-ジアミノベンゼン、4-ニトロ-1,2-ジアミノベンゼン、ナフタレン-1,8-ジアミン、フェナントレン-9,10-ジアミン、ピレン-4,5-ジアミンなどのジアミンや、2,4-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノチオフェンなどを用いることができる。
【0135】
次に、図3に示すように、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素と、少なくとも2つのアミノ基により置換された芳香環又は複素環を有する化合物とを反応させる。それによって、上記のグラフェンライク炭素材料を得ることができる。なお、上記の反応は、後述する実施例で示すように、例えば、塩化オキサリル、ジメチルスルホキシド、トリエチルアミンなどの存在下で行なうことができる。
【0136】
例えば、2つのカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素と塩化オキサリルを、60℃で4日間、加熱する。このとき、触媒量のN,N-ジメチルホルムアミドを加える。塩化オキサリルを除去後、酸塩化物化したカルボキシル基を有する芳香環を含む多環芳香族炭化水素を、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解させ、トリエチルアミンと触媒量のN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを加える。その後、少なくとも2つのアミノ基により置換された芳香環又は複素環を有する化合物を加える。この溶液を80℃で4日間撹拌する。溶媒除去後、テトラヒドロフランを展開溶媒に用い、バイオビーズにて精製することで、目的のグラフェンライク炭素材料を得ることができる。なお、上記式14以外の上記式Aや上記式Bなどの官能基を有するグラフェンライク炭素材料も同様の方法で製造することができる。また、グラフェンライク炭素材料の生成は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)や、核磁気共鳴(NMR)装置を用いて確認することができる。
【0137】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0138】
(実施例1)
300mLの三口フラスコ中に、混酸(濃硫酸:濃硝酸=3:1(体積比))240mLを入れ、さらにパウダー状のグラファイト(関東化学社製、Lot No. 304U1253)2.00gを投入した。続いて、三口フラスコの1つの口にジムロート冷却管を設け、残る口には閉じた状態で、三方コックを設けた。その状態で、冷却水を流しつつ、空気雰囲気下において、マグネティックスターラーにより撹拌しながら、オイルバスにて120℃に加熱し、24時間反応させた。得られた反応物は、1.5Lのイオン交換水で希釈した。処理液中の無機塩をろ別し、エバポレータにより濃縮した。しかる後、希釈液のpHが8に近くなるまで、炭酸ナトリウムで中和し、中和処理液を得た。透析バック(2kD)に中和処理液を入れ、2日間透析処理を行い、しかる後に1規定塩酸を用いpH=4になるまで水溶液のpHを調整した。この水溶液を透析バック(2kD)に入れ1日間透析処理を行った。処理液を乾燥させ、それによって酸化グラフェン400mgを得た。この粉末を50mLのイオン交換水に溶解させ、透析バック(50kD)に入れ1日間透析処理をし、透析バック内部の水溶液を乾燥させることで50mgのサイズ調整されたナノグラフェンを得た。
【0139】
上記のようにして調製したナノグラフェンを用いて、上記式20に示すグラフェンライク炭素材料を合成した。
【0140】
具体的には、三方コックを備える100mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に上記のようにして調製したナノグラフェン50mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)5mLを加えた。さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.01mLを添加した。次に、ナスフラスコ中におけるナノグラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(株式会社エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて3時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、4日間行った。このようにして反応させた後、塩化オキサリルを除去した。その後ナスフラスコに乾燥DMF5mL、トリエチルアミン5mL、4-ジメチルアミノピリジンを30mg加え、続いて3,6-ジ-tert-ブチルナフタレン-1,8-ジアミン(3,6-di-tert-butylnaphthalene-1,8-diamine)を431mg加えた。アルゴン雰囲気下、80℃の温水で4日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を、水に加え懸濁溶液とし、懸濁溶液を濾別した。濾過物を酢酸エチルに溶解させ、酢酸エチル/飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、酢酸エチル回収液を回収した。酢酸エチル回収液を芒硝にて1時間乾燥後、エバポレータにて酢酸エチルを除去した。テトラヒドロフランを展開溶媒に用い、バイオビーズ(BIORAD社製、Bio-BeadsTMS-X1)にて精製した。しかる後にゲル濾過クロマトグラフィー(島津製作所社製、「GPC-5003」と「GPC-5002.5」と「GPC-5004」を連結)することで、グラフェンライク炭素材料105mgを得た。
【0141】
得られたグラフェンライク炭素材料の面方向寸法は60~70nmであり、アスペクト比は150~175(ナノグラフェンの厚み:0.4nm)であった。グラフェンライク炭素材料の面方向寸法及びアスペクト比の測定は、原子間力顕微鏡(AFM、Agilent Technology社製、商品名「PicoPlus5100」)を用いて行なった。具体的には、得られたグラフェンライク炭素材料0.002gを10mlのジクロロメタン(溶媒)に分散させて得た分散液をマイカの表面に薄くコーティングし、乾燥させた。乾燥させたサンプルをAFMで観察し、そのAFM像から、面方向寸法を算出した。また、AFMによる高さプロファイルからその厚みを算出した。厚みは、AFMによる高さプロファイルにおける最も高い位置と、最も低い位置との差により求めた。面方向寸法及び厚みは、それぞれ、50個のサンプルの平均値とした。アスペクト比は、上記面方向寸法と厚みとの比で算出した。
【0142】
(実施例2)
ナノグラフェンの作製に際し、透析バック(50kD)から透析バック(15kD)に変更し、透析バック(15kD)から溶出した水溶液をエバポレータで濃縮することで得たナノグラフェンを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてグラフェンライク炭素材料35mgを得た。また、実施例1と同様にして面方向寸法及びアスペクト比を算出した。
【0143】
(実施例3)
ナノグラフェンの作製に際し、酸化グラフェンの原料を、粉砕鱗状黒鉛(丸豊鋳材製作所社製、品番「MT-4J」)に変更し、実施例2と同様の方法でナノグラフェンを得たこと以外は、実施例1と同様にしてグラフェンライク炭素材料30mgを得た。また、実施例1と同様にして面方向寸法及びアスペクト比を算出した。
【0144】
(実施例4)
実施例2と同様にして調製したナノグラフェンを用いて、上記式A1に示すグラフェンライク炭素材料を合成した。
【0145】
具体的には、三方コックを備える50mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に実施例1と同様にして調製したナノグラフェン50mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)5mLを加えた。さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.01mLを添加した。次に、ナスフラスコ中におけるナノグラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(株式会社エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて3時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、4日間行った。このようにして反応させた後、塩化オキサリルを除去した。その後ナスフラスコに乾燥DMF5mL、トリエチルアミン5mL、4-ジメチルアミノピリジンを30mg加え、続いて、N,N-ジフェニル-N-(4-アミノフェニル)アミン(N,N-diphenyl-N-(4-aminophenyl)amine)を427mg加えた。アルゴン雰囲気下、80℃の温水で4日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を、水に加え懸濁溶液とし、懸濁溶液を濾別した。濾過物を酢酸エチルに溶解させ、酢酸エチル/飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、酢酸エチル回収液を回収した。酢酸エチル回収液を芒硝にて1時間乾燥後、エバポレータにて酢酸エチルを除去した。テトラヒドロフランを展開溶媒に用い、バイオビーズ(BIORAD社製、Bio-BeadsTMS-X1)にて精製した。しかる後にゲル濾過クロマトグラフィー(島津製作所社製、「GPC-5003」と「GPC-5002.5」と「GPC-5004」を連結)することで、グラフェンライク炭素材料78mgを得た。また、実施例1と同様にして面方向寸法及びアスペクト比を算出した。
【0146】
(実施例5)
実施例2と同様にして調製したナノグラフェンを用いて、上記式B1に示すグラフェンライク炭素材料を合成した。
【0147】
具体的には、三方コックを備える50mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に実施例1と同様にして調製した酸化グラフェン50mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)5mLを加えた。さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.01mLを添加した。次に、ナスフラスコ中における酸化グラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(株式会社エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて3時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、4日間行った。このようにして反応させた後、塩化オキサリルを除去した。その後ナスフラスコに乾燥DMF5mL、トリエチルアミン5mL、4-ジメチルアミノピリジンを30mg加え、続いて3,6-ジ-tert-ブチル-9-(4-アミノフェニル)-9H-カルバゾール(3,6-di-tert-butyl-9-(4-aminophenyl)-9H-carbazole)を420mg加えた。アルゴン雰囲気下、80℃の温水で4日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を、水に加え懸濁溶液とし、懸濁溶液を濾別した。濾過物を酢酸エチルに溶解させ、酢酸エチル/飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、酢酸エチル回収液を回収した。酢酸エチル回収液を芒硝にて1時間乾燥後、エバポレータにて酢酸エチルを除去した。テトラヒドロフランを展開溶媒に用い、バイオビーズ(BIORAD社製、Bio-BeadsTMS-X1)にて精製した。しかる後にゲル濾過クロマトグラフィー(島津製作所社製、「GPC-5003」と「GPC-5002.5」と「GPC-5004」を連結)することで、グラフェンライク炭素材料69mgを得た。また、実施例1と同様にして面方向寸法及びアスペクト比を算出した。
【0148】
(比較例1)
ナノグラフェンの作製に際し、酸化グラフェンの精製法を変更したこと以外は、同様にして酸化グラフェンを得た。具体的には、酸化グラフェンの粉末を50mLのイオン交換水に溶解させ、透析バック(15kD)に入れ1日間透析処理をし、透析バックより溶出した水溶液をエバポレータで濃縮したのち、透析バック(8kD)に入れ1日間透析処理をした。透析バック内部の水溶液を乾燥させることで20mgのサイズ調整されたナノグラフェンを得た。
【0149】
グラフェンライク炭素材料は次の方法で合成した。三方コックを備える50mLのナスフラスコにスターラーチップを入れ、アルゴンガスを流しながらヒートガンでベークした。冷却後、ドライボックス内において、ナスフラスコ中に実施例1と同様にして調製したナノグラフェン50mgを秤取した。秤取後、ドライボックスよりナスフラスコを取り出し、アルゴン気流下、シリンジ操作にて、塩化オキサリル(Aldrich社製)5mLを加えた。さらに、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich社製)0.01mLを添加した。次に、ナスフラスコ中におけるナノグラフェン、塩化オキサリル、DMFの混合液を、超音波処理装置(株式会社エスエヌディ社製、品番「US-103」)を用いて3時間の超音波処理を行った。しかる後、スターラーで撹拌しながら60℃の温水で加熱する操作を、4日間行った。このようにして反応させた後、塩化オキサリルを除去した。その後ナスフラスコに乾燥DMF5mL、トリエチルアミン5mL、4-ジメチルアミノピリジンを30mg加え、続いて3,6-ジ-tert-ブチルナフタレン-1,8-ジアミン(3,6-di-tert-butylnaphthalene-1,8-diamine)を350mg加えた。アルゴン雰囲気下、80℃の温水で4日間、さらに反応を継続させた。得られた反応物を、塩化メチレンに溶解させた。塩化メチレン/飽和NaCl水溶液にて分液ロートにより分離させ、塩化メチレン回収液を回収した。塩化メチレン回収液を芒硝にて1時間乾燥後、エバポレータにて塩化メチレンを除去した。テトラヒドロフランを展開溶媒に用い、バイオビーズ(BIORAD社製、Bio-BeadsTMS-X1)にて精製することで、グラフェンライク炭素材料150mgを得た。
【0150】
<評価>
(比a/bの評価)
紫外可視分光法により、グラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルを測定した。なお、紫外可視吸収スペクトルは、分光光度計(日本分光社製、品番「V-770, Serial No. A 045461801」)を用いて、以下の条件で測定した。
【0151】
測定条件;
グラフェンライク炭素材料2.0mgを、ヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム(東京化成社製)を1mol/Lになるように添加したクロロベンゼンとアセトニトリルの混合溶媒(体積比1:1)50mLに溶解し、25℃にて、分光光度計を用いて測定した。
【0152】
図4は、実施例1~3及び比較例1で得られたグラフェンライク炭素材料の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。図4に示す紫外可視吸収スペクトルにおいて、波長500nmにおける官能基由来のピークの高さaと、波長400nmにおけるグラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bを測定した。同様にして、実施例4及び実施例5においても、波長500nmにおける官能基由来のピークの高さaと、波長400nmにおけるグラフェンライク炭素材料の炭素六角網面由来の基準ピークの高さbとの比a/bを測定した。結果を下記の表1に示す。
【0153】
(エレクトロクロミック特性の評価)
実施例1~5及び比較例1で得られた調光材料としてのグラフェンライク炭素材料を、0.01重量%の濃度でヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム(東京化成社製)のクロロベンゼン・アセトニトリルの混合溶媒(体積比1:1)1mol/L電解質に添加した。次に、超音波照射を30分間行うことにより電解質中にグラフェンライク炭素材料を分散させ、分散液を得た。
【0154】
ここで、図8に示す石英ガラス11(10mm□)中に上記分散液を入れ、所定の電圧を印可して、光線透過率の変化を評価した。光線透過率の変化は、分光光度計(日本分光社製、品番「V-770、 Serial No. A 045461801」)を用いて評価した。なお、図8において、12は対照極であり、13はAgNO参照極であり、14は作用極(Ptメッシュ)である。
【0155】
図5は、実施例1の調光材料において、電圧0V~2.4Vの間で所定の電圧を印加したときの吸収スペクトルを示す図である。図6は、実施例4の調光材料において、電圧0V~1.1Vの間で所定の電圧を0.1V間隔で印加したときの吸収スペクトルを示す図である。また、図7は、実施例5の調光材料において、電圧0V~1.1Vの間で所定の電圧を0.1V間隔で印加したときの吸収スペクトルを示す図である。
【0156】
図5図7に示すように、電圧印加後に可視光領域の全域及び赤外領域にわたり、吸光度が大きくなっていることがわかる。特に、近赤外領域においても、電圧の印加により吸光度が大きく変化していることがわかる。
【0157】
また、実施例1~5及び比較例1で得られた調光材料に適宜直流電圧を印加し、波長800nm及び波長1000nmにおける吸光度の変化を評価した。印加電圧は、調光材料に応じ与え、実施例1~3、比較例1の場合、2.0Vを印加、実施例4及び5の場合、1.0Vを印可した。吸光度の変化は、分光光度計(日本分光社製、品番「V-770, Serial No. A 045461801」)を用いて評価した。また、目視にて、変色の有無を確認した。結果を下記の表1に示す。
【0158】
【表1】
【0159】
表1に示すように、実施例1~5では、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域での光線透過率を効果的に制御できることが確認できた。一方、比較例1では、電圧を印加することにより、可視光から赤外光までの幅広い領域での光線透過率を十分に制御することができなかった。
【符号の説明】
【0160】
1…調光積層体
2A,2B…第1,第2の支持体
3A,3B…第1,第2の導電膜
4A,4B…第1,第2の導電膜付き基板
5…調光フィルム
6…電解質層
7…支持部材
11…石英セル
12…対照極
13…参照極
14…作用極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8