(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149512
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】超音波探傷装置および超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20220929BHJP
G01N 29/26 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051714
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴博
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB01
2G047BB01
2G047BB02
2G047BB06
2G047BC03
2G047BC07
2G047DB02
2G047DB17
2G047EA09
2G047GA14
2G047GB02
2G047GE02
2G047GF17
2G047GG20
2G047GG33
2G047GG46
(57)【要約】
【課題】単位時間あたりの走査線数が多い超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することを課題とする。
【解決手段】超音波探傷装置1は、複数の振動子40を有するアレイ探触子4と、複数の振動子40を複数の振動子群G1~G6に区分けし、振動子群G1~G6毎に超音波の走査線を生成し検査対象物9に射出する制御部5と、を備える。制御部5は、走査線として複数の斜角走査線+La1~+La6、+Lb1~+Lb6、-La1~-La6、-Lb1~-Lb6を、互いに異なる振動子群G1~G6から、並行して射出する斜角探傷モードを実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動子を有するアレイ探触子と、
複数の前記振動子を複数の振動子群に区分けし、前記振動子群毎に超音波の走査線を生成し検査対象物に射出する制御部と、
を備える超音波探傷装置であって、
前記制御部は、前記走査線として複数の斜角走査線を、互いに異なる前記振動子群から、並行して射出する斜角探傷モードを実行することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記斜角探傷モードにおいて、前記斜角走査線を射出する複数の前記振動子群を、互いに隣接しないように設定する請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記斜角探傷モードにおいて、前記検査対象物の表面への垂線に対して互いに反対方向に屈折する複数の前記斜角走査線を射出する請求項1または請求項2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記アレイ探触子に対して、前記斜角探傷モードと切り換えて、前記走査線として垂直走査線を射出する垂直探傷モードを実行する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
前記垂直走査線は超音波の縦波であり、
前記制御部は、前記アレイ探触子に対して、前記垂直探傷モードを連続して実行しない請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記検査対象物は、軸方向に延在する長尺状を呈し、
前記アレイ探触子は、前記検査対象物の軸方向から見て、前記検査対象物の径方向外側に、周方向に複数並んで配置され、
前記周方向に隣り合う任意の2つの前記アレイ探触子は、前記軸方向にずれて配置され、
複数の前記アレイ探触子に対して、前記検査対象物は、相対的に移動可能である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の超音波探傷装置を用いる超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイ探触子を備える超音波探傷装置および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、長尺状の検査対象物の検査を行う超音波探傷装置が開示されている。超音波探傷装置は、検査対象物の搬送ラインに配置されている。超音波探傷装置は、複数のアレイ探触子を備えている。検査(探傷検査)においては、時系列的に連続する複数のステップが、繰り返し実行される。各ステップにおいては、アレイ探触子毎に、1本の走査線を用いて探傷が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-119848号公報
【特許文献2】特開2020-41951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アレイ探触子毎に1本の走査線を用いて探傷を行う場合、単位時間あたりの走査線数(超音波の送信数)が少なくなる。このため、全ステップが一巡する時間、つまりサイクルタイムが長くなる。当該サイクルタイムに検査対象物の搬送速度を対応させると、搬送速度が遅くなってしまう。一方、サイクルタイムを短縮しようとすると、前後する2つのステップ間の間隔が短くなってしまう。このため、前のステップの残響の影響を、後のステップが受けやすくなる。そこで、本発明は、単位時間あたりの走査線数が多い超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の超音波探傷装置は、複数の振動子を有するアレイ探触子と、複数の前記振動子を複数の振動子群に区分けし、前記振動子群毎に超音波の走査線を生成し検査対象物に射出する制御部と、を備える超音波探傷装置であって、前記制御部は、前記走査線として複数の斜角走査線を、互いに異なる前記振動子群から、並行して射出する斜角探傷モードを実行することを特徴とする。
【0006】
また、上記課題を解決するため、本発明の超音波探傷方法は、上記超音波探傷装置を用いることを特徴とする。すなわち、本発明の超音波探傷方法は、アレイ探触子の複数の振動子を、複数の振動子群に区分けし、前記振動子群毎に超音波の斜角走査線を生成し、複数の前記斜角走査線を、互いに異なる前記振動子群から、並行して射出する斜角探傷モードを実行することを特徴とする。
【0007】
上述の超音波探傷装置および超音波探傷方法において、「並行して」とは、時系列的に並行していることをいう。すなわち、複数の斜角走査線の射出タイミング(超音波の送信タイミング)の少なくとも一部が、互いに重複していることをいう。
【発明の効果】
【0008】
本発明の超音波探傷装置および超音波探傷方法によると、斜角探傷モードにおいて、アレイ探触子が、複数の斜角走査線を、互いに異なる振動子群から、並行して射出するができる。このため、アレイ探触子が、複数の斜角走査線を、時系列的に前後して射出する場合と比較して、単位時間あたりの走査線数(超音波の送信数)を多くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第一実施形態の超音波探傷装置の斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角+φa)の模式図である。
図4(B)は、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角+φb)の模式図である。
図4(C)は、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角-φa)の模式図である。
図4(D)は、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角-φb)の模式図である。
【
図5】
図5は、第一実施形態の超音波探傷方法における検査条件入力時の表示部の部分模式図である。
【
図6】
図6は、同超音波探傷方法のサイクルの模式図である。
【
図7】
図7は、従来の超音波探傷方法のサイクルの模式図である。
【
図8】
図8は、垂直探傷モードにおいて使用される垂直走査線の模式図である。
【
図9】
図9は、第二実施形態の超音波探傷方法のサイクルの模式図である。
【
図10】
図10(A)は、その他の実施形態(その1)の超音波探傷方法のサイクルの模式図である。
図10(B)は、その他の実施形態(その2)の超音波探傷方法のサイクルの模式図である。
図10(C)は、その他の実施形態(その3)の超音波探傷方法のサイクルの模式図である。
【
図11】
図11は、
図6に示す1回のサイクルでチャンネルCH1、CH2から射出される全走査線の合成図である。
【
図12】
図12は、チャンネル群Fが振動子群G1、G3、G5を、チャンネル群Rが振動子群G2、G4、G6を、各々用いた場合に1回のサイクルでチャンネルCH1、CH2から射出される全走査線の合成図である。
【
図13】
図13(A)は、屈折角が+方向の斜角走査線のエコー信号の軸方向分布を示すグラフである。
図13(B)は、屈折角が-方向の斜角走査線のエコー信号の軸方向分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の超音波探傷装置および超音波探傷方法の実施の形態について説明する。
【0011】
<第一実施形態>
本実施形態の超音波探傷装置は、斜角探傷モードを実行可能である。本実施形態における検査対象物は、パイプ(中空材)である。
【0012】
[超音波探傷装置]
まず、本実施形態の超音波探傷装置について説明する。
図1に、本実施形態の超音波探傷装置の斜視図を示す。説明の便宜上、水槽は透過して示す。
図2に、
図1のII-II方向断面図を示す。
図1、
図2に示すように、超音波探傷装置1は、水槽2と、12個のブラケット3と、12個のアレイ探触子4と、制御部5と、を備えている。
【0013】
水槽2には、水(接触媒質)が貯留されている。水槽2の前後両壁には、孔20が開設されている。12個のブラケット3は、水槽2の水中に浸漬されている。12個のブラケット3は、所定間隔ずつ離間して、前後方向(後述するパイプ9の長手方向、軸方向、搬送方向)に並置されている。ブラケット3は環状を呈している。ブラケット3の径方向中心には、前後方向に貫通する孔30が開設されている。12個の孔30は、前後方向に並んでいる。12個の孔30の径方向内側には、検査区間Aが設定されている。検査区間Aの前後両側には、孔20が配置されている。検査区間Aの前側(上流側)には、パイプ9の生産ラインが連なっている。パイプ9は、前後方向に延在する長尺状を呈している。パイプ9は、本発明の「検査対象物」の概念に含まれる。
【0014】
12個のアレイ探触子(詳しくはフェーズドアレイ探触子)4は、12個のブラケット3に配置されている。すなわち、1個のブラケット3には、1個のアレイ探触子4が割り当てられている。アレイ探触子4は、ブラケット3に埋設されている。
【0015】
1個のアレイ探触子4は、120個の振動子40と、ウェッジ(図略。超音波伝播部材)と、を備えている。120個の振動子40は、孔30の内周面に沿って、周方向に連なっている。120個の振動子40は、6個の振動子群G1~G6に分かれている。振動子群G1~G6は、各々、周方向に連なる20個の振動子40を備えている。同一の振動子群G1~G6に属する20個の振動子40の励磁タイミングは共通している。振動子群G1~G6は、開口幅に対応する。
【0016】
図3に、アレイ探触子の配置図を示す。12個のアレイ探触子4は、12個のチャンネルCH1~CH12に対応して配置されている。12個のアレイ探触子4は、前後2つのチャンネル群F、Rに分けて、配置されている。前側のチャンネル群Fは、前側から後側に向かって、チャンネルCH1、CH3、CH5、CH7、CH9、CH11を備えている。後側のチャンネル群Rは、前側から後側に向かって、チャンネルCH2、CH4、CH6、CH8、CH10、CH12を備えている。以下、「チャンネルCH○(○は1~12の整数)のアレイ探触子4」を、適宜、「チャンネルCH○」と略称する。前述の検査区間Aは、チャンネルCH1からチャンネルCH12までの間に設定されている。
【0017】
図2に示すように、前側から見て、検査区間Aの中心軸(パイプ9の中心軸)Bに対する角度(中心角θ)が時計回りに進む場合、中心軸Bに対して真上を中心角θ=0°位置として、チャンネルCH1、CH2は中心角θ=90°位置に、チャンネルCH3、CH4は中心角θ=210°位置に、チャンネルCH5、CH6は中心角θ=330°位置に、チャンネルCH7、CH8は中心角θ=270°位置に、チャンネルCH9、CH10は中心角θ=30°位置に、チャンネルCH11、CH12は中心角θ=150°位置に、各々配置されている。前側から見て、周方向に隣り合う任意の2個のチャンネル(例えば、
図2に示すチャンネルCH1、CH11)は、
図3に示すように、前後方向にずれて配置されている。また、周方向位置(中心角θ)が同じ複数のチャンネルは、軸方向に離間して配置されている。例えば、中心角θ=90°位置の2個のチャンネルCH1、CH2は、5個のCH3、CH5、CH7、CH9、CH11を挟んで、離間して配置されている。また、前側のチャンネル群FのチャンネルCH1、CH3、CH5、CH7、CH9、CH11は、周方向に等間隔に配置されている。同様に、後側のチャンネル群RのチャンネルCH2、CH4、CH6、CH8、CH10、CH12は、周方向に等間隔に配置されている。
【0018】
図2に示す制御部5は、120個の振動子40の励振タイミングを、振動子群G1~G6単位で制御する。制御部5が並行して励振可能な振動子40の数は、最大40個である。また、制御部5が、1本の走査線を生成するのに必要な振動子40の数は、20個(任意の1個の振動子群G1~G6の振動子40の数に対応)である。このため、制御部5は、並行して2個の振動子群G1~G6を制御することができる。すなわち、制御部5は、並行して2本の走査線を生成することができる。また、制御部5は、任意の1個の振動子群G1~G6の20個の振動子40の励振タイミングをディレイ制御する。当該ディレイ制御により、制御部5は、走査線の伝播方向(斜角方向(4方向))を切り換えることができる。
【0019】
制御部5は、コンピュータ50と、送受信装置51と、A/D(アナログ/デジタル)変換装置52と、警報装置53と、を備えている。送受信装置51は、12個の送受信部510を備えている。12個の送受信部510は、前述の12個のチャンネルCH1~CH12に対応している。12個の送受信部510は、各々、送信部510aと受信部510bとを備えている。送信部510aは、自身が対応するチャンネル(例えばチャンネルCH1)に、パルス信号を送信する。詳しくは、斜角探傷モードの場合、送信部510aは、2つの振動子群(例えば、振動子群G1、G3)各々の全振動子40に、振動子群毎(例えば、振動子群G1、G3毎)に異なるパルス信号を送信し、互いに屈折角が異なる2本の斜角走査線(超音波の横波)を生成する。受信部510bは、自身が対応するチャンネル(例えばチャンネルCH1)に返ってきた走査線の反射波信号(以下、「エコー信号」と称す)を受信する。A/D変換装置52は、フィルタ520と、増幅器521と、A/D変換器522と、を備えている。フィルタ520は、エコー信号から、検査に不要なノイズを除去する。増幅器521は、フィルタ520通過後のエコー信号を増幅し、A/D変換器522に送信する。A/D変換器522は、アナログ信号をデジタル信号に変換し、コンピュータ50に送信する。
【0020】
コンピュータ50は、演算部500と、記憶部501と、入力部502と、表示部503と、を備えている。記憶部501には、超音波探傷プログラム、超音波探傷プログラム用のデータ(例えば、検査しきい値)などが格納されている。また、記憶部501には、A/D変換器522から送信されたエコー信号が格納される。演算部500は、超音波探傷プログラムを実行する。すなわち、演算部500は、後述する超音波探傷方法を実行する。入力部502からは、オペレータにより、超音波探傷方法における検査条件(後述する斜角探傷モードにおける屈折角など)が入力される。表示部503は、検査条件や検査結果を表示する。警報装置53は、検査結果が不合格の場合、警報を出す。
【0021】
[超音波探傷方法において使用する走査線の種類]
次に、本実施形態の超音波探傷方法において使用する走査線の種類について説明する。
図4(A)に、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角+φa)の模式図を示す。
図4(B)に、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角+φb)の模式図を示す。
図4(C)に、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角-φa)の模式図を示す。
図4(D)に、斜角探傷モードにおいて使用される斜角走査線(屈折角-φb)の模式図を示す。
【0022】
なお、
図4(A)~
図4(D)には、一例としてチャンネルCH1を示す。残りのチャンネルCH2~CH12も同様である。
図4(A)~
図4(D)において、各走査線の符号中、「1」~「6」は振動子群G1~G6を、「La」は屈折角(絶対値)φaの斜角走査線を、「Lb」は屈折角φb(絶対値)の斜角走査線を、各々示す。また、「+」は、パイプ9の表面に垂直であって中心軸Bを通過する垂線Cに対して、斜角走査線が中心角θ(
図2参照)の進行方向(
図4(A)~
図4(D)における時計回り方向)に屈折することを意味する。反対に、「-」は、垂線Cに対して、斜角走査線が中心角θの退行方向(
図4(A)~
図4(D)における反時計回り方向)に屈折することを意味する。例えば、斜角走査線「+La1」は、振動子群G1から射出され(符号中の「1」)、屈折角(絶対値)φaの斜角走査線であって(符号中の「La」)、垂線Cに対して中心角θの進行方向に屈折する(符号中の「+」)、ことを意味する。
【0023】
図4(A)~
図4(D)に示すように、アレイ探触子4は、斜角走査線+La1~+La6、+Lb1~+Lb6、-La1~-La6、-Lb1~-Lb6を射出可能である。すなわち、アレイ探触子4は、4方向(屈折角+φa、+φb、-φa、-φbの斜角方向)に走査線を伝播可能である。
【0024】
パイプ9の表面に対して、斜角走査線+La1~+La6は屈折角+φaで、斜角走査線+Lb1~+Lb6は屈折角+φbで、斜角走査線-La1~-La6は屈折角-φaで、斜角走査線-Lb1~-Lb6は屈折角-φbで、各々入射する。後述する超音波探傷方法の任意の1つのステップにおいて、アレイ探触子4は、斜角走査線+La1~+La6、+Lb1~+Lb6、-La1~-La6、-Lb1~-Lb6を、選択的に2本だけ送受信可能である。また、任意の1つのステップにおいて、斜角走査線+La1~+La6、+Lb1~+Lb6、-La1~-La6、-Lb1~-Lb6の屈折角+φa、+φb、-φa、-φbは、所定角度に固定されている。
【0025】
[超音波探傷方法]
次に、本実施形態の超音波探傷方法について説明する。まず、オペレータは、
図2に示す入力部502を介して、コンピュータ50に検査条件を入力する。
図5に、検査条件入力時の表示部の部分模式図を示す。演算部500は、
図5に示す表示部503に、検査条件入力欄として、開始エレメント欄503a、開口幅欄503b、屈折角欄503cを表示させる。オペレータが入力した開始エレメント、開口幅、屈折角は、これらの欄に反映される。なお、開始エレメントとは、任意の1つのアレイ探触子4において、振動子群G1~G6の始点となる振動子40の番号をいう。また、開口幅とは、1本の走査線を生成する振動子の数、つまり任意の1つの振動子群G1~G6を構成する振動子40の数をいう。また、屈折角とは、2本の斜角走査線の屈折角(絶対値)をいう。
【0026】
次に、オペレータは、
図2に示す入力部502を介して、超音波探傷装置1に検査開始指示を出す。当該検査開始時を受け、超音波探傷装置1は、生産ラインを搬送されるパイプ9に対して、超音波探傷検査を開始する。
図6に、本実施形態の超音波探傷方法のサイクルの模式図を示す。なお、当該サイクルは、記憶部501の超音波探傷プログラムに基づいて、演算部500が繰り返し実行する。
【0027】
1回のサイクルは、6個のステップS1~S6により構成されている。ステップS1~S6においては、斜角探傷モードが実行される。
図3に示すように、1回のサイクルにおいて、パイプ9は、検査区間Aを、前側(上流側)から後側(下流側)に向かって、チャンネルCH1→CH3→CH5→CH7→CH9→CH11→CH2→CH4→CH6→CH8→CH10→CH12の順に通過する。
【0028】
図6に示すように、ステップS1においては、演算部500が、全チャンネルCH1~CH12に対して、斜角探傷モードを実行する。具体的には、
図2に示す演算部500が、送信部510aにより、チャンネルCH1~CH6の振動子群G1を励振し、斜角走査線+La1を送信する。また、演算部500が、送信部510aにより、チャンネルCH1~CH6の振動子群G3を励振し、斜角走査線-La3を送信する。また、演算部500が、送信部510aにより、チャンネルCH7~CH12の振動子群G2を励振し、斜角走査線+La2を射出する。また、演算部500が、送信部510aにより、チャンネルCH7~CH12の振動子群G4を励振し、斜角走査線-La4を射出する。斜角走査線+La1、-La3、+La2、-La4は、パイプ9の外周面に対して斜めに入射し、屈折する。すなわち、
図4(A)、
図4(C)に示すように、斜角走査線+La1、+La2は屈折角+φaで、斜角走査線-La3、-La4は屈折角-φaで、各々パイプ9に入射する。斜角走査線+La1、-La3、+La2、-La4は、パイプ9の表面付近を伝播し、欠陥等により反射される。斜角走査線+La1、-La3、+La2、-La4のエコー信号は、チャンネルCH1~CH6の振動子群G1、G3、チャンネルCH7~CH12の振動子群G2、G4により受信される。当該エコー信号は、フィルタ520でノイズ除去され、増幅器521で増幅され、A/D変換器522でデジタル信号に変換され、コンピュータ50に送信され、記憶部501に格納される。
【0029】
ステップS2~S6においては、ステップS1同様に、演算部500が、全チャンネルCH1~CH12に対して、斜角探傷モードを実行する。このようにして、ステップS1~S6が一巡し、1回のサイクルが完了する。
【0030】
図2に示す記憶部501には、1回のサイクル分の斜角走査線+La1~+La6、+Lb1~+Lb6、-La1~-La6、-Lb1~-Lb6のエコー信号が格納される。これらのエコー信号は、例えばAスコープなどの形式で、表示部503に表示することができる。サイクル中に、記憶部501の検査しきい値(振幅しきい値)をエコー信号の振幅が超過した場合、つまり検査結果が不合格の場合、演算部500は、警報装置53に警報を出させる。
【0031】
[作用効果]
次に、本実施形態の超音波探傷装置および超音波探傷方法の作用効果について説明する。
図7に、従来の超音波探傷方法のサイクルの模式図を示す。なお、
図6と対応する部位については、同じ符号で示す。また、1回のサイクルにおける走査線数は
図6と同数である。
【0032】
図7に示すように、従来の超音波探傷方法を用いてパイプ9を探傷する場合、1回のサイクルは、12個のステップS1~S12により構成されている。各ステップS1~S12においては、アレイ探触子4毎に1本の走査線を用いて探傷を行っている。例えば、ステップS1においては、
図3に示すチャンネルCH1~CH6の6個のアレイ探触子4が、各々、1本の斜角走査線+La1を送受信している。並びに、チャンネルCH7~CH12の6個のアレイ探触子4が、各々、1本の斜角走査線+La2を送受信している。このため、サイクルタイムが長くなってしまう。
【0033】
当該サイクルタイムにパイプ9の搬送速度を対応させると、搬送速度つまりパイプ9の生産速度が遅くなってしまう。一方、サイクルタイムを短縮しようとすると、前後する2つのステップ(例えば、ステップS1、S2)間の間隔が短くなってしまう。このため、前のステップS1の残響の影響を、後のステップS2が受けやすくなる。例えば、ステップS1の残響が、ステップS2で「欠陥に起因するエコーである」と誤認されてしまう。
【0034】
これに対して、
図6に示す本実施形態の超音波探傷方法の場合、制御部5は、斜角探傷モードを実行することができる。斜角探傷モードにおいては、複数の斜角走査線を、任意の1つのアレイ探触子4の互いに異なる振動子群(例えば、振動子群G1、G3)から、並行して射出することができる。このため、1回のサイクルにおける走査線数が
図7と同じであるにもかかわらず、ステップの数を、
図7に示す12個(ステップS1~S12)から
図6に示す6個(ステップS1~S6)に、削減することができる。つまり、サイクルタイムを短縮することができる。言い換えると、単位時間あたりの走査線数(詳しくは斜角走査線数)を多くすることができる。このため、パイプ9の生産ラインの高速化に簡単に対応することができる。また、サイクルタイムが所定時間に固定されている場合は、前後する2つのステップ(例えば、ステップS1、S2)間の間隔を充分に空けることができる。このため、前のステップS1の残響の影響を、後のステップS2が受けにくくなる。
【0035】
また、制御部5は、斜角探傷モードにおいて、斜角走査線を射出する複数の振動子群G1~G6を、互いに隣接しないように設定している。例えば、
図6に示すステップS1(斜角探傷モード)のチャンネルCH1においては、振動子群G2を挟んで、振動子群G1から斜角走査線+La1が、振動子群G3から斜角走査線-La3が、各々射出される。このため、双方の振動子群G1、G3からの斜角走査線+La1、-La3同士が互いに干渉するのを、抑制することができる。
【0036】
また、
図2、
図3に示すように、アレイ探触子4は、中心軸B方向から見て、パイプ9の径方向外側に、周方向に複数並んで配置されている。また、周方向に隣り合う任意の2つのアレイ探触子4は、前後方向(中心軸Bの軸方向)にずれて配置されている。また、アレイ探触子4に対して、パイプ9は、相対的に移動可能である。このため、当該相対的な移動を利用して、長尺状のパイプ9を軸方向かつ周方向に連続的に検査することができる。また、
図1、
図2に示す検査区間Aは、パイプ9の生産ラインに繋がっている。このため、加工直後のパイプ9を、連続的に検査することができる。
【0037】
ところで、複数の斜角走査線は、複数のアレイ探触子4を用いれば並行して射出することができる。例えば、
図3において、チャンネルCH1のアレイ探触子4と、チャンネルCH11のアレイ探触子4と、の軸方向位置を一致させ、これら2つのアレイ探触子4から2本の斜角走査線を並行して射出すればよい。しかしながら、この場合、周方向に隣り合う斜角走査線間の間隔が広くなる。このため、パイプ9の周方向における検査密度(検査対象物の外周面の周方向単位距離あたりの、走査線入射箇所の数)が低くなってしまう。また、超音波探傷装置1が大型化してしまう。
【0038】
この点、本実施形態の超音波探傷装置1および超音波探傷方法によると、斜角探傷モードにおいて、複数の斜角走査線を、任意の1つのアレイ探触子4の周方向に並ぶ複数の振動子群G1~G6から、並行して射出することができる。このため、周方向に隣り合う斜角走査線間の間隔を狭くすることができる。したがって、パイプ9の周方向における検査密度を高くすることができる。また、超音波探傷装置1を小型化することができる。
【0039】
<第二実施形態>
本実施形態の超音波探傷装置および超音波探傷方法と、第一実施形態の超音波探傷装置および超音波探傷方法とは、超音波探傷装置が斜角探傷モードと垂直探傷モードとを実行する点、および検査対象物が丸棒(中実材)である点において相違している。ここでは、主に相違点についてのみ説明する。なお、説明においては、第一実施形態に関する
図1~
図6を適宜援用する。
【0040】
図8に、垂直探傷モードにおいて使用される垂直走査線の模式図を示す。なお、
図4(A)~
図4(D)と対応する部位については同じ符号で示す。また、
図8には、一例としてチャンネルCH1を示す。残りのチャンネルCH2~CH12も同様である。
図8において、走査線の符号中、「1」~「6」は振動子群G1~G6を、「I」は垂直走査線を、各々示す。
【0041】
本実施形態の超音波探傷装置は、
図4(A)~
図4(D)に示す斜角走査線(屈折角+φa、+φb、-φa、-φb)に加えて、
図8に示す垂直走査線を射出可能である。すなわち、本実施形態の超音波探傷装置は、斜角探傷モードに加えて、垂直探傷モードを実行可能である。
【0042】
第一実施形態と同様に、オペレータは、
図2に示す入力部502を介して、コンピュータ50に検査条件を入力すると共に、超音波探傷装置1に検査開始指示を出す。
図9に、本実施形態の超音波探傷方法のサイクルの模式図を示す。なお、当該サイクルは、記憶部501の超音波探傷プログラムに基づいて、演算部500が繰り返し実行する。また、
図9のS2は
図6のS1に、
図9のS3は
図6のS2に、
図9のS5は
図6のS3に、
図9のS6は
図6のS4に、
図9のS8は
図6のS5に、
図9のS9は
図6のS6に、各々対応している。
【0043】
1回のサイクルは、9個のステップS1~S9により構成されている。
図3に示すように、1回のサイクルにおいて、丸棒9は、検査区間Aを、前側(上流側)から後側(下流側)に向かって、チャンネルCH1→CH3→CH5→CH7→CH9→CH11→CH2→CH4→CH6→CH8→CH10→CH12の順に通過する。丸棒9は、本発明の「検査対象物」の概念に含まれる。
【0044】
図9に示すように、ステップS1においては、演算部500が、全チャンネルCH1~CH12に対して、垂直探傷モードを実行する。具体的には、
図2に示す演算部500が、送信部510aにより、チャンネルCH1~CH6の振動子群G1を励振し、垂直走査線I1を射出する。並びに、演算部500が、送信部510aにより、チャンネルCH7~CH12の振動子群G2を励振し、垂直走査線I2を射出する。垂直走査線I1、I2は、丸棒9の外周面に対して垂直に入射する。垂直走査線I1、I2は、丸棒9の内部を伝播し、欠陥等により反射される。垂直走査線I1、I2のエコー信号は、振動子群G1、G2により受信される。当該エコー信号は、フィルタ520でノイズ除去され、増幅器521で増幅され、A/D変換器522でデジタル信号に変換され、コンピュータ50に送信され、記憶部501に格納される。当該垂直走査線I1、I2により、丸棒9の中心部を探傷することができる。
【0045】
ステップS2においては、演算部500が、全チャンネルCH1~CH12に対して、斜角探傷モードを実行する。斜角探傷モードの具体的な実行方法は、第一実施形態と同様である。斜角走査線+La1、-La3、+La2、-La4により、丸棒9の表面付近を探傷することができる。
【0046】
ステップS4、S7においては、ステップS1同様に、演算部500が、全チャンネルCH1~CH12に対して、垂直探傷モードを実行する。また、ステップS3、S5、S6、S8、S9においては、ステップS2同様に、演算部500が、全チャンネルCH1~CH12に対して、斜角探傷モードを実行する。このようにして、ステップS1~S9が一巡し、1回のサイクルが完了する。
【0047】
図2に示す記憶部501には、1回のサイクル分の垂直走査線I1~I6、斜角走査線+La1~+La6、+Lb1~+Lb6、-La1~-La6、-Lb1~-Lb6のエコー信号が格納される。これらのエコー信号は、例えばAスコープなどの形式で、表示部503に表示することができる。サイクル中に、記憶部501の検査しきい値(振幅しきい値)をエコー信号の振幅が超過した場合、つまり検査結果が不合格の場合、演算部500は、警報装置53に警報を出させる。
【0048】
本実施形態の超音波探傷装置および超音波探傷方法と、第一実施形態の超音波探傷装置および超音波探傷方法とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。
【0049】
図9に示すように、本実施形態の超音波探傷装置および超音波探傷方法によると、制御部5は、アレイ探触子4に対して、斜角探傷モード(ステップS2、S3、S5、S6、S8、S9)と切り換えて、垂直探傷モード(ステップS1、S4、S7)を実行することができる。このため、丸棒9の表面付近の検査(斜角探傷モード)と、丸棒9の内部の検査(垂直探傷モード)と、を切り換えて実行することができる。
【0050】
また、垂直走査線は、超音波の縦波である。このため、横波と比較して音速が速い。したがって、前後する2つのステップで垂直探傷モードを連続して実行すると、前のステップの残響の影響を、後のステップが受けやすくなる(勿論、この形態も本発明の権利範囲に含まれる)。
【0051】
この点、制御部5は、アレイ探触子4に対して、垂直探傷モードを連続して実行しない。例えば、
図9に示すステップS1、S4、S7(垂直探傷モード)は、所定のステップ数(
図9の場合は2個)だけ離間して、実行される。また、ステップS1は最初のステップである。また、ステップS4の前には、超音波の横波を用いるステップS3(斜角探傷モード)が、実行される。同様に、ステップS7の前には、超音波の横波を用いるステップS6(斜角探傷モード)が、実行される。このため、前のステップ(例えばステップS3)の残響の影響を、後のステップ(例えばステップS4)が受けにくい。
【0052】
<その他>
以上、本発明の超音波探傷装置および超音波探傷方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。以下、第一実施形態のパイプ9、第二実施形態の丸棒9を、適宜、検査対象物9と総称する。
【0053】
図10(A)に、その他の実施形態(その1)の超音波探傷方法のサイクルの模式図を示す。
図10(B)に、その他の実施形態(その2)の超音波探傷方法のサイクルの模式図を示す。
図10(C)に、その他の実施形態(その3)の超音波探傷方法のサイクルの模式図を示す。なお、
図6、
図9と対応する部位については同じ符号で示す。
【0054】
図10(A)に示すように、斜角探傷モードの任意のステップにおいて、パイプ9の表面への垂線Cに対して互いに反対方向に屈折する複数の斜角走査線を射出してもよい。並びに、2本の斜角走査線間の間隔が互いに拡がるように、2本の斜角走査線を生成してもよい。例えば、
図10(A)に示すステップS1のチャンネルCH1においては、振動子群G1から屈折角-φa(
図4(C)参照)の斜角走査線-La1が、振動子群G3から屈折角+φa(
図4(A)参照)の斜角走査線+La3が、各々射出される。斜角走査線-La1、+La3は、互いの間隔を拡げながら、検査対象物9の表面に入射する。また、検査対象物9の表面において、斜角走査線-La1、+La3は、互いに反対方向(離間する方向)に屈折する。このため、双方の振動子群G1、G3からの斜角走査線-La1、+La3同士が互いに干渉するのを、抑制することができる。
【0055】
図10(B)に示すように、斜角探傷モード(ステップS2、S3、S5、S6、S8、S9)において、任意の1つのチャンネルCH1~CH12で、異なる屈折角(絶対値)φa、φbの複数の斜角走査線を生成してもよい。例えば、ステップS2において、チャンネルCH1で、異なる屈折角(絶対値)φa、φbの2本の斜角走査線+La1、-Lb3を生成してもよい。
【0056】
図10(C)に示すように、斜角探傷モード(ステップS2、S3、S5、S6)において、任意の1つのチャンネルCH1~CH12で、互いに異なる振動子群G1~G6により、3本の斜角走査線を生成してもよい。例えば、ステップS2において、チャンネルCH1で、振動子群G1が斜角走査線+La1を、振動子群G3が斜角走査線-Lb3を、振動子群G5が斜角走査線+La5を、各々生成してもよい。
【0057】
このように、斜角探傷モードにおいて、1つのアレイ探触子4から射出する斜角走査線数は、3本以上であってもよい。すなわち、制御部5が、任意の1つのステップS1~S9かつ任意の1個のチャンネルCH1~CH12において、並行して射出可能な走査線数は特に限定しない。
【0058】
図6、
図9においては、斜角探傷モードにおける2本の斜角走査線を、共に検査対象物9の検査に用いた。しかしながら、いずれか1本の斜角走査線を調査用として用いてもよい。すなわち、斜角探傷モードにおける複数の斜角走査線は、検査対象物9の検査に用いる検査用走査線と、検査用走査線とは異なる検査用走査線を調査するための調査用走査線と、を含んでいてもよい。例えば、
図6に示す上下2段の斜角走査線のうち、上段の斜角走査線を検査用走査線として、下段の斜角走査線を調査用走査線として、各々用いてもよい。
【0059】
こうすると、検査対象物9の生産ラインを止めることなく実操業を行いながら(検査用走査線を用いて検査対象物9を検査しながら)、並行して所望の検査条件(例えば、S/N比(エコー信号の振幅/ノイズ信号の振幅)が向上する条件、虚報が低減する条件、過検出が低減する条件、欠陥の形態や形状の検出が容易になる条件など)に適した斜角走査線を、調査用走査線として試行することができる。
【0060】
図6においては、チャンネルCH1~CH6が、奇数の振動子群G1、G3、G5を用いて、走査線を射出する。並びに、チャンネルCH7~CH12が、偶数の振動子群G2、G4、G6を用いて、走査線を射出する。このため、周方向位置(中心角θ)が同じ複数のチャンネルにおいて、使用する振動子群、走査線が重複してしまう。そこで、奇数チャンネルCH1、CH3、CH5、CH7、CH9、CH11つまりチャンネル群Fが、振動子群G1、G3、G5を用いて、走査線を射出してもよい。並びに、偶数チャンネルCH2、CH4、CH6、CH8、CH10、CH12つまりチャンネル群Rが、振動子群G2、G4、G6を用いて、走査線を射出してもよい。こうすると、周方向位置が同じ複数のチャンネルにおいて、使用する振動子群、走査線が重複しない。このため、周方向位置が同じ複数のチャンネルにおいて、全ての振動子群G1~G6を重複することなく用いて、走査線を射出することができる。
【0061】
一例として、周方向位置が共に中心角θ=90°位置の2個のチャンネルCH1、CH2について説明する。残りのチャンネルCH2~CH12についても同様である。
図11に、
図6に示す1回のサイクル(ステップS1~S6)でチャンネルCH1、CH2から射出される全走査線の合成図を示す。
図12に、チャンネル群Fが振動子群G1、G3、G5を、チャンネル群Rが振動子群G2、G4、G6を、各々用いた場合に1回のサイクルでチャンネルCH1、CH2から射出される全走査線の合成図を示す。なお、
図11、
図12において、
図4(A)~
図4(D)と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0062】
図11に示すように、1回のサイクルにおいて、周方向位置が同じチャンネルCH1、CH2は、各々、振動子群G1、G3、G5を用いて、12本の斜角走査線(+La1、+La3、+La5、+Lb1、+Lb3、+Lb5、-La1、-La3、-La5、-Lb1、-Lb3、-Lb5)を射出する。すなわち、チャンネルCH1、CH2において、使用する振動子群(G1、G3、G5)、斜角走査線(+La1、+La3、+La5、+Lb1、+Lb3、+Lb5、-La1、-La3、-La5、-Lb1、-Lb3、-Lb5)は重複している。例えば、
図11に示す斜角走査線+La1は、チャンネルCH1からの斜角走査線+La1とチャンネルCH2からの斜角走査線+La1とが重複したものである。このため、検査対象物9の周方向における検査密度(検査対象物9の外周面の周方向単位距離あたりの、走査線入射箇所の数)が低くなってしまう。
【0063】
これに対して、
図12に示すように、チャンネル群F(奇数チャンネルCH1、CH3、CH5、CH7、CH9、CH11)が振動子群G1、G3、G5を、チャンネル群R(偶数チャンネルCH2、CH4、CH6、CH8、CH10、CH12)が振動子群G2、G4、G6を、各々用いた場合は以下のようになる。
【0064】
すなわち、1回のサイクルにおいて、チャンネルCH1は、振動子群G1、G3、G5を用いて、12本の斜角走査線(+La1、+La3、+La5、+Lb1、+Lb3、+Lb5、-La1、-La3、-La5、-Lb1、-Lb3、-Lb5)を射出する。並びに、1回のサイクルにおいて、チャンネルCH2は、振動子群G2、G4、G6を用いて、12本の斜角走査線(+La2、+La4、+La6、+Lb2、+Lb4、+Lb6、-La2、-La4、-La6、-Lb2、-Lb4、-Lb6)を射出する。このため、周方向位置が同じチャンネルCH1、CH2において、使用する振動子群(G1、G3、G5)、(G2、G4、G6)、斜角走査線(+La1、+La3、+La5、+Lb1、+Lb3、+Lb5、-La1、-La3、-La5、-Lb1、-Lb3、-Lb5)、(+La2、+La4、+La6、+Lb2、+Lb4、+Lb6、-La2、-La4、-La6、-Lb2、-Lb4、-Lb6)が重複しない。したがって、検査対象物9の周方向における検査密度を高くすることができる。
【0065】
図2に示すコンピュータ50の記憶部501には、例えば、揮発性メモリおよび不揮発性メモリのうち少なくとも一方が含まれる。入力部502には、例えば、キーボード、タッチパネルなどが含まれる。表示部503には、例えば、ディスプレイ、タッチパネル(表示部と入力部とを兼用)、プリンタなどが含まれる。A/D変換装置52のフィルタ520には、例えば、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタなどが含まれる。警報装置53には、例えば、ランプ(視覚用警報装置)、ブザー(聴覚用警報装置)などが含まれる。フィルタ520、増幅器521は、A/D変換装置52から独立して配置されていてもよい。
【0066】
斜角探傷モードにおける走査線(超音波)は、横波であっても、縦波であってもよい。
図4(A)~
図4(D)に示す斜角走査線の屈折角+φa、+φb、-φa、-φbは特に限定しない。0°以外であればよい。また、
図6に示す単一のステップS1~S6の間、屈折角+φa、+φb、-φa、-φbが所定角度に固定されていればよい。例えば、
図6に示すステップS1の間、チャンネルCH1において、斜角走査線+La1の屈折角+φa、斜角走査線-La3の屈折角-φaが変化しなければよい。複数の斜角走査線の屈折角+φa、+φb、-φa、-φbは、異なっていても、同一でもよい。例えば、屈折角が同一の複数の斜角走査線(例えば、屈折角+φaの複数の斜角走査線)を、異なる振動子群G1~G6から射出してもよい。また、屈折角(絶対値)が同一で、屈折方向±だけが異なる複数の斜角走査線(例えば、屈折角+φaの斜角走査線と屈折角-φaの斜角走査線)を、異なる振動子群G1~G6から射出してもよい。
【0067】
図6に示す任意の1個のステップS1~S6かつ任意の1個のチャンネルCH1~CH12における、複数の斜角走査線の検査対象物9に対する射出タイミングは、同時でなくてもよい。射出タイミングの少なくとも一部が、互いに重複していればよい。この場合であっても、1個のチャンネルCH1~CH12が、複数の斜角走査線を、時系列的に前後して射出する場合と比較して、単位時間あたりの走査線数を多くすることができる。
【0068】
図9に示す垂直探傷モード(ステップS1、S4、S7)、斜角探傷モード(ステップS2、S3、S5、S6、S8、S9)の実行タイミング、設定数は特に限定しない。例えば、「ステップS1(垂直探傷モード)→ステップS2(斜角探傷モード)→ステップS3(斜角探傷モード)」を繰り返し実行してもよい。また、「ステップS1(斜角探傷モード)→ステップS2(斜角探傷モード)→ステップS3(垂直探傷モード)」を繰り返し実行してもよい。また、「ステップS1(垂直探傷モード)→ステップS2(斜角探傷モード)→ステップS3(垂直探傷モード)→ステップS4(斜角探傷モード)」を繰り返し実行してもよい。
【0069】
アレイ探触子4の周方向配置数は特に限定しない。例えば、中心角θ=90°毎に4個、中心角θ=72°毎に5個、中心角θ=45°毎に8個など、アレイ探触子4を配置してもよい。また、アレイ探触子4を1個だけ配置してもよい。また、周方向に隣り合うアレイ探触子4の間に隙間があってもよい。また、周方向に等間隔に複数のアレイ探触子4を配置しなくてもよい。所望の検査精度を確保できるように、走査線が検査対象物9を網羅できればよい。周方向位置(中心角θ)が同じ複数のチャンネルを、軸方向に連続して配置してもよい。
【0070】
チャンネル群(検査対象物9を1周分(中心角θ=360°分)に亘って網羅可能な複数のチャンネル)F、Rの軸方向配置数は特に限定しない。1個でもよい。また、3個以上でもよい。チャンネル群F、Rの軸方向配置数が増えると、その分、周方向位置(中心角θ)が同じ複数のチャンネル(例えば、
図3に示す中心角θ=90°位置のチャンネルCH1、CH2)が多くなる。このため、検査精度が高くなる。
【0071】
水槽2は配置しなくてもよい。すなわち、水浸法ではなく、直接接触法を用いてもよい。また、接触媒質は、水以外に、油、グリセリンなどであってもよい。送信用(送波用)の振動子40と、受波用(受波用)の振動子40と、は同一でも異なっていてもよい。例えば、振動子40を送受信共用としてもよい。また、送信専用の振動子40と、受信専用の振動子40と、を各々独立して配置してもよい。また、送信用の振動子40の設定数と、受信用の振動子40の設定数と、は同一でも異なっていてもよい。
【0072】
超音波探傷装置1は移動可能であってもよい。すなわち、検査対象物9を固定し、超音波探傷装置1を移動させてもよい。また、検査対象物9および超音波探傷装置1を、互いに速度差を確保した状態で、共に同方向に移動させてもよい。また、検査対象物9および超音波探傷装置1を、互いに反対方向に移動させてもよい。超音波探傷装置1の配置方向(上下前後左右方向)は特に限定しない。超音波探傷装置1は、生産ライン以外の検査対象物9の搬送ラインに配置してもよい。また、超音波探傷装置1は、検査対象物9の搬送ラインから独立して配置してもよい。
【0073】
検査対象物9は特に限定しない。丸棒以外の中実材(角棒など)であってもよい。また、パイプ以外の中空材(角筒など)であってもよい。長尺物であればよい。また、検査対象物9は、探傷に影響を及ぼさない範囲で、軸が湾曲していてもよい。探傷対象である欠陥の種類は特に限定しない。例えば、きず、クラック、減肉、腐食などであってもよい。
【0074】
本発明の超音波探傷方法は、「アレイ探触子の複数の振動子を、複数の振動子群に区分けし、振動子群毎に超音波の斜角走査線を生成し、複数の斜角走査線を、互いに異なる振動子群から、並行して射出する斜角探傷モードを、制御部に実行させるための超音波探傷プログラム」を用いて実行することが可能である。
【実施例0075】
以下、上述の超音波探傷装置1および超音波探傷方法を用いて、過検出が低減する検査条件を調査した実験結果について説明する。
【0076】
検査対象物としては、軸受鋼製であって、直径40mm×軸長7000mmの丸棒9を用いた。丸棒9には、人工的に微小な表面きず(欠陥)を設けた。なお、この表面きずは、実操業において許容される程度のきずである。
【0077】
図9の斜角探傷モード(ステップS2、S3、S5、S6、S8、S9)に示す斜角走査線のうち、屈折角(絶対値)φaに関する斜角走査線+La1、-La3、+La2、-La4(ステップS2)、斜角走査線+La3、-La5、+La4、-La6(ステップS5)、斜角走査線+La5、-La1、+La6、-La2(ステップS8)が、実操業において丸棒9の検査に用いる検査用走査線である。
【0078】
他方、屈折角(絶対値)φbに関する斜角走査線+Lb1、-Lb3、+Lb2、-Lb4(ステップS3)、斜角走査線+Lb3、-Lb5、+Lb4、-Lb6(ステップS6)、斜角走査線+Lb5、-Lb1、+Lb6、-Lb2(ステップS9)が、過検出が低減する検査条件の調査に用いる調査用走査線である。
【0079】
図13(A)に、屈折角が+方向の斜角走査線のエコー信号の軸方向分布を示す。
図13(B)に、屈折角が-方向の斜角走査線のエコー信号の軸方向分布を示す。これらの図において、横軸は丸棒9の軸方向位置を、縦軸はエコー信号の振幅(強度)を、各々示す。
【0080】
図13(A)の実線の波形+aは、検査用走査線+La1~+La6のエコー信号を軸方向位置毎に積算して得られた、合成波形である。
図13(A)の点線の波形+bは、調査用走査線+Lb1~+Lb6のエコー信号を軸方向位置毎に積算して得られた、合成波形である。
図13(B)の実線の波形-aは、検査用走査線-La1~-La6のエコー信号を軸方向位置毎に積算して得られた、合成波形である。
図13(B)の点線の波形-bは、調査用走査線-Lb1~-Lb6のエコー信号を軸方向位置毎に積算して得られた、合成波形である。
【0081】
図13(A)に示すように、波形+a、+bは、共に検査しきい値を下回っている。これに対して、
図13(B)に示すように、波形-bは検査しきい値を下回っているものの、波形-aは、軸方向位置400mm付近の位置で、局所的に検査しきい値を上回っている。すなわち、波形-aは、丸棒9の表面きずを過検出している。この結果から、新たな検査用走査線として上述の調査用走査線を採用すれば(屈折角(絶対値)をφaからφbに切り換えれば)、表面きずの過検出を抑制できることが判る。
【0082】
このように、本発明の超音波探傷装置および超音波探傷方法によると、丸棒9の生産ラインを止めることなく実操業を行いながら(検査用走査線を用いて丸棒9を検査しながら)、並行して所望の検査条件に適した斜角走査線を、調査用走査線として試行することができる。なお、
図2に示す制御部5は、
図9(A)、
図9(B)のグラフを表示部503に表示することができる。
1:超音波探傷装置、2:水槽、20:孔、3:ブラケット、30:孔、4:アレイ探触子、40:振動子、5:制御部、50:コンピュータ、500:演算部、501:記憶部、502:入力部、503:表示部、503a:開始エレメント欄、503b:開口幅欄、503c:屈折角欄、51:送受信装置、510:送受信部、510a:送信部、510b:受信部、52:A/D変換装置、520:フィルタ、521:増幅器、522:変換器、53:警報装置、9:検査対象物(パイプ、丸棒)
A:検査区間、B:中心軸、C:垂線、CH1~CH12:チャンネル、F:チャンネル群、R:チャンネル群、G1~G6:振動子群、I1~I6:垂直走査線、+La1~+La6:斜角走査線、+Lb1~+Lb6:斜角走査線、-La1~-La6:斜角走査線、-Lb1~-Lb6:斜角走査線、S1~S15:ステップ