(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149584
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/215 20060101AFI20220929BHJP
B29C 48/285 20190101ALI20220929BHJP
B29C 48/40 20190101ALI20220929BHJP
【FI】
C08J3/215 CFD
B29C48/285
B29C48/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021051805
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳加
(72)【発明者】
【氏名】川口 高明
【テーマコード(参考)】
4F070
4F207
【Fターム(参考)】
4F070AA47
4F070AB24
4F070AC16
4F070AE09
4F070AE30
4F070FA03
4F070FA05
4F070FB05
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC06
4F207AA24
4F207AB28
4F207KA01
4F207KA17
4F207KF02
4F207KF12
4F207KK13
(57)【要約】
【課題】ポリエステル樹脂組成物中の無機粒子濃度が高く、二軸延伸フィルムにした場合その特性、すなわち粒子分散性、粒子凝集性の点で良好なポリエステル樹脂組成物を製造することができるポリエステル樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂供給口側から可塑化部、混練部及び脱気部をこの順に備えた二軸押出機にポリエステル樹脂を供給し、該混練部に設けられた添加部から二軸押出機内に粒子分散スラリーを添加することにより、ポリエステル樹脂組成物を製造する方法において、該添加部は、該混練部の二軸押出機長手方向中間又はそれよりも可塑化部側に位置することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂供給口側から可塑化部、混練部及び脱気部をこの順に備えた二軸押出機にポリエステル樹脂を供給し、該混練部に設けられた添加部から二軸押出機内に粒子分散スラリーを添加することにより、ポリエステル樹脂組成物を製造する方法において、該添加部は、該混練部の二軸押出機長手方向中間又はそれよりも可塑化部側に位置することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記可塑化部と混練部との境界から前記添加部までの距離は、前記混練部の長さの40%以内である請求項1のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記可塑化部と混練部との境界から前記添加部までの距離は、前記混練部の長さの30%以内である請求項1のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物の製造方法に関する。詳しくは、ポリエステル樹脂に粒子のスラリーを添加して混練する工程を有するポリエステル樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂の二軸配向フィルムは、優れた物理的および化学的特性を有し、磁気記録媒体のベースフィルムやコンデンサーの誘電体として用いられている。また、その優れた透明性からグラフィックアーツ、ディスプレーおよび包材等の分野に広く用いられている。ポリエステル樹脂フィルムは、その走行性を改良すべく、炭酸カルシウム等の粒子をフィルム中に存在させることによりフィルムの表面を適度に粗面化させる必要があるが、均一で粗大突起が無いことが望まれている。
【0003】
炭酸カルシウム粒子は、合成する場合、水溶媒中にて行われるため、水スラリーとして得られる(特許文献1)。しかしこの水スラリーはpHが高く合成不純物が含まれる。市販の粒子の場合、エチレングリコール(「EG」)スラリーが知られている。この粒子をポリエステル樹脂に添加する工程として、エステル化工程にEGスラリーを添加すると、分散性が悪い。重合工程の場合、粒子濃度を低濃度に調整しなければ分散性が悪くなるが、低濃度にするとEGが多すぎてバランスが悪くなるのでやはり分散不良になる。他の工程において添加する場合は、EGを排出できないため、解重合が起こる。
【0004】
特許文献2には、ポリエステル樹脂と無機粒子との組成物を製造するに際し、二軸混練機に粒子の水分散体を添加する方法が記載されているが、粒子の配合量は、該組成物に対し0.001~1.0重量%、該水分散体中の粒子濃度は0.01~10重量%と低い。
【0005】
特許文献3には、ポリエステル樹脂・無機粒子組成物(該組成物中の粒子の配合量:1~30重量%)を製造するに際し、水分散体中の粒子濃度が5~80重量%のスラリーを、混練機内部との圧力差を利用して噴霧注入する方法が記載されている。しかし、ポリエステル樹脂組成物を二軸延伸フィルムにした場合に、無機粒子の分散性と凝集性を良好にし、フィルム特性を良好なものにするには十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-269615号公報
【特許文献2】特開2019-112588号公報
【特許文献3】特開2020-146938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ポリエステル樹脂組成物中の無機粒子濃度が高く、二軸延伸フィルムにした場合その特性、すなわち粒子分散性、粒子凝集性の点で良好なポリエステル樹脂組成物を製造することができるポリエステル樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリエステル樹脂と、濃度の高い、無機粒子の水分散体(水スラリー)とを混練する際、該水スラリーを、混練機内の混練部の前半に圧入噴霧供給することにより、ポリエステル樹脂組成物を二軸延伸フィルムにした場合、無機粒子分散性が良好で、粒子凝集しないフィルムが得られることを見出し、この知見に基づいて発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の要旨は次の通りである。
【0010】
[1] 樹脂供給口側から可塑化部、混練部及び脱気部をこの順に備えた二軸押出機にポリエステル樹脂を供給し、該混練部に設けられた添加部から二軸押出機内に粒子分散スラリーを添加することにより、ポリエステル樹脂組成物を製造する方法において、該添加部は、該混練部の二軸押出機長手方向中間又はそれよりも可塑化部側に位置することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【0011】
[2] 前記可塑化部と混練部との境界から前記添加部までの距離は、前記混練部の長さの40%以内である[1]のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【0012】
[3] 前記可塑化部と混練部との境界から前記添加部までの距離は、前記混練部の長さの30%以内である[1]のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法によると、ポリエステル樹脂組成物中の無機粒子濃度が高く、二軸延伸フィルムにした場合その特性、すなわち粒子分散性、粒子凝集性の点で良好なポリエステル樹脂組成物を製造することができるポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、樹脂供給口側から可塑化部、混練部及び脱気部をこの順に備えた二軸押出機にポリエステル樹脂を供給し、該混練部に設けられた添加部から二軸押出機内に粒子分散スラリーを添加することにより、ポリエステル樹脂組成物を製造する。
【0016】
[ポリエステル樹脂]
本発明で用いるポリエステル樹脂は、特に限定されず、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのエステルと、エチレングリコールを主たる出発原料として得られるポリエステルを指すが、他の第三成分を含有していてもよい。
【0017】
ジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、およびセバシン酸等の一種以上を用いることができる。また、グリコール成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種以上を用いることができる。本発明のポリエステル樹脂は繰り返し構造単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位またはエチレン-2,6-ナフタレート単位を有する。
【0018】
このポリエステル樹脂を二軸押出機に供給し、その混練部にて粒子分散スラリーを注入してさらに混練して押し出し、ポリエステル樹脂組成物とする。
【0019】
[粒子分散スラリー]
<粒子>
本発明で用いるポリエステル添加用粒子は特に限定されないが、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、架橋有機高分子粒子、タルク、クレイ、カオリン等が挙げられ、なかでも合成法により製造され、粒度分布の狭い合成炭酸カルシウム、球状酸化ケイ素、架橋有機粒子などが好ましい。粒子の平均粒子径(d50)は、フィルム用途に用いる場合、0.05~3μmが好ましい。また、大粒子側から積算した場合に、粒子の積算重量が25%における粒径(d25)と粒子の積算重量が75%における粒径(d75)との比〔d25/d75〕の値は2.2以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましい。
【0020】
<粒子分散スラリーの濃度>
二軸押出機に添加される粒子分散スラリー中の粒子濃度は、10~60重量%、特に15~50重量%程度が好適である。
【0021】
<粒子分散スラリーの添加量>
二軸押出機に添加される粒子分散スラリーの添加量は、製造されたポリエステル樹脂組成物中の粒子含有量が0.1~10.0重量%、特に0.5~6.0重量%、とりわけ1.0~5.0重量%となる量であることが好ましい。なお、ポリエステル樹脂の加水分解を抑制するため、粒子分散スラリーの添加量はポリエステル樹脂に対して0.5~10重量%の範囲であることが好ましい
【0022】
<粒子分散スラリーの媒体>
媒体は水を主体とする。媒体中の水の割合は、40重量%以上が好ましい。
【0023】
水以外の媒体としては、スラリー原料に由来するエチレングリコールが例示される。
【0024】
水スラリーに含まれるエチレングリコール濃度の算出方法は、後述の水スラリー置換完了時の濾液を糖度計(アタゴ社製)にて測定し、Brix値を出す。濾液のエチレングリコール濃度(A)は、A=1.6153*Brix値-0.9458で算出し、水スラリーに含まれるエチレングリコール濃度(B)は、B=(100-粒子濃度(C))*(A/100)で算出する。水スラリーに含まれるエチレングリコール濃度は5重量%以下が好ましい。スラリー中のエチレングリコール濃度は低いほど好ましいが、2重量%以下にするには溶媒置換の時間が長くかかってしまう。5重量%をこえると、二軸押出機に添加した際、エチレングリコールによってポリエステル樹脂が解重合を起こす傾向があり、固有粘度が下がる傾向がある。
【0025】
<合成法により製造された粒子を含むスラリー(原料スラリー)の媒体の置換>
合成法により製造される粒子は、通常、粒子合成に使用した媒体(水及び/又は有機溶媒)に分散した粒子含有スラリー(以下、原料スラリーということがある。)として得られる。媒体が水の場合、pHが高く、望ましくない不純物が混入している。また、有機溶剤としては、メタノール等などが用いられることが多い。これらの有機溶剤は、ポリエステル樹脂製造工程では用いられない溶剤であることが多く、ポリエステル樹脂に添加されることは望ましくない。
【0026】
そこで、粒子含有スラリーの媒体が水又は有機溶媒である原料スラリーの場合、媒体をエチレングリコールに置換することが好ましい。原料スラリー中の水又は有機溶媒をエチレングリコールに置換してエチレングリコールスラリーとする方法としては、特に限定されず、例えば、溶媒液を濃縮、乾燥し、粉体を得たのち、エチレングリコールを投入する方法や、直接エチレングリコールを投入し、減圧濃縮して水または有機溶剤を除去する方法等もあるが、特開平6-269615号公報に記載の通り、濾材の細孔径(μm)が好ましくはd50×0.1以上、d50×12以下である濾材を用いて、濾過による濃縮及びエチレングリコールによる希釈を繰り返すことによりエチレングリコールスラリーとすることが好ましい。
【0027】
<エチレングリコールスラリー中のエチレングリコールの水への置換>
上記のようにして得られたエチレングリコールスラリー又は市販の粒子のエチレングリコールスラリーは、以下の方法で水スラリーに変換される。水スラリーにすることにより、重合時以外でも粒子のスラリーの添加ができるためである。
【0028】
エチレングリコールスラリーを水スラリーとするための媒体置換は、濾材の細孔径(μm)が好ましくはd50×0.1以上、d50×12以下である濾材を用いて、濾過による濃縮及び水による希釈を繰り返すことにより行うことが好ましい。
【0029】
<媒体置換に用いる濾過装置>
媒体置換に用いる濾過装置は、スラリーの貯槽、スラリーの循環ポンプ、濾材を有した濾過器、圧力計、熱交換器などで構成されており必要に応じて貯槽などを追加してもよい。濾材の材質は、耐食性、および耐溶剤性などからセラミック製が好ましい。
【0030】
濾過方法としては、濾過対象液を膜フィルター表面に流しながら濾過を行い、堆積ケーク層を平行流による剪断力により最小に保ち、濾過を行うクロスフロー濾過と呼ばれている方法、あるいは濾過対象液を膜フィルターで直接濾過を行う直濾過と呼ばれている方法があり、どちらを用いてもよい。
【0031】
スラリーを濾過処理することにより、濾液としての媒体と、濃縮されたスラリー(粒子+媒体)とに分離される。濃縮されたスラリーに水を加えて希釈し、再度濾過する。これを繰り返すことにより、媒体が徐々に水に置換される。例えば、粒子濃度40重量%の濃縮エチレングリコールスラリーに水を加え、粒子濃度20重量%程度まで希釈した後、濾過し、排出した濾液と同量の水を濃縮スラリーに加える。この濃縮、希釈の操作を繰り返すことにより、エチレングリコールを徐々に水に置換し、媒体が主として水よりなるスラリーを得ることができる。このようにして得たスラリーを濃縮することにより、目的濃度の、媒体が主として水よりなるスラリーを得ることが出来る。
【0032】
上記の濃縮に用いる濾材の細孔径がd50×0.1μm未満であると、濾過速度が小さいため、濃縮に時間を要して好ましくない。細孔径がd50×12を超えると、濾過による濃縮の際に濾過された分散媒とともに粒子も流出するので好ましくない。
【0033】
分散媒体を置換開始するときのスラリー濃度は、粒子の分散性を、良好に維持できる濃度が好ましく、粒子の種類、および粒子径によって異なる。合成炭酸カルシウム、球状酸化ケイ素、架橋有機高分子粒子の場合の置換開始時の濃度は、通常10~60重量%、好ましくは15~50重量%の範囲である。濃縮スラリー濃度が10重量%未満では効率が悪くなる傾向があり、スラリー濃度が60重量%を超えると濃縮スラリー中で粒子が凝集することがある。
【0034】
[二軸混練押出機]
混練には、二軸押出機(二軸混練押出機)を用いる。
【0035】
図1は、二軸混練押出機の側面図である。この二軸混練押出機は、周知のとおり、駆動装置Mによってバレル(シリンダ)1内のスクリュを回転させて混練及び押出を行うものである。
【0036】
ポリマー投入口2より供給されたポリエステル樹脂は、可塑化部Aにおいて溶融し、混練部Bへ移送される。そして、スラリー添加ノズル3より、溶融樹脂中に粒子分散スラリーが注入(好ましくは、圧入噴霧)され、溶融樹脂とスラリーとが混合・混練されたのち、脱気部Cへ移送される。ベント口4に接続された真空ポンプ(図示略)によってバレル1内を吸引することにより、分散媒である水が除去される。バレル1末端の押出口から樹脂組成物がストランドとして押し出され、その後、図示は省略するが、水中でカッティングしてペレット化される。
【0037】
二軸混練押出機のバレル内径は60~90mm特に65~85mm、可塑化部Aの長さは400~1000mm特に500~900mm、混練部Bの長さは400~1000mm特に500~900mm、脱気部Cの長さは400~1300mm特に500~1200mm程度が好適である。
【0038】
可塑化部、混練部、脱気部の境界位置は、バレル内のスクリュのブレードの違いによって規定される。可塑化部及び混練部のスクリュピースとしては通常、ニーディングディスクが用いられ、脱気部のスクリュピースとしては通常、フルフライトスクリューが用いられる。可塑化部Aと混練部Bとの境界位置は、ブレードがニーディングディスクからフルフライトスクリューに切り替わったことによって規定される。スクリュピースの組み合わせは適宜変更可能である。
【0039】
[水スラリーの添加ノズル3の位置]
スラリー添加ノズル3は、混練部Bのバレル長手方向の中央より可塑化部Aに近い側、すなわち混練部Bの上流端(可塑化部Aと混練部Bとの境界)から50%以内、好ましくは、40%以内、より好ましくは、30%以内に配置される。
【0040】
[混練条件]
混練時のシリンダ温度は200~300℃特に220~290℃、スクリュ回転数は80~270rpm、特に100~200rpm、吐出量は80~180kg/h特に100~150kg/h程度が好適である。
【0041】
[ポリエステル樹脂組成物の用途及び固有粘度]
このようにして製造されたポリエステル樹脂組成物より、種々の方法によりフィルムを製造することができる。成形法としては、公知のフィルム製造法を適用でき、例えば、ポリエステルの融点以上の温度で溶融した後、押出成形によりポリエステルシートを得ることができる。さらに、得られたポリエステルシートを二軸延伸してポリエステルフィルムを得ることができる。
【0042】
<ポリエステル樹脂組成物の固有粘度>
ポリエステル樹脂組成物の固有粘度は0.50dL/g以上が好ましく、0.52dL/g以上がより好ましい。この値が0.50dL/gを下回ると、ペレット化できない可能性がある。上限は特に限定されないが好ましくは0.70dL/g程度である。
【0043】
ポリエステル樹脂組成物の固有粘度の測定は、試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように溶解させた後、30℃まで冷却し、30℃において全自動溶液粘度計(センテック社製、「DT553」)にて、試料溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式により、固有粘度(IV)を算出する。
IV=((1+4KHηsp)0.5-1)/(2KHC)
ここで、 ηsp=η/η0-1 であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用する。なお試料の溶解条件は、110℃で30分間である。
【実施例0044】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。実施例における種々の物性および特性の測定方法、定義は下記のとおりである。実施例および比較例中「部」とあるは「重量部」を示す。
【0045】
[測定方法]
<スラリーに含まれる無機粒子の平均粒子径>
無機粒子のスラリー0.03~0.10gを純水200mlに混合し超音波分散装置内蔵試料供給装置(マイクロトラックベル社製、「MICROTRAC SDC」)で処理し、レーザー回折型粒度分布計(マイクロトラックベル社製、「MT-3000II」)を用いて平均粒径を測定した。この場合の平均粒径とは体積分率で50%に達するときの粒径である。
【0046】
<スラリーに含まれる無機粒子の粒子濃度>
無機粒子のスラリー3.0~5.0gをアルミ皿に秤量し、200℃のホットプレート乗せ、1時間分散溶媒のみ蒸発した。その後デシケータ内で3分間事前冷却させ、再度秤量することで粒子濃度を得る。
【0047】
<製造されたポリエステル樹脂組成物中の無機粒子(凝集粒子(2次粒子))の平均粒子径>
3.2gのポリエステル樹脂組成物に160mlのフェノール-テトラクロロエタン混合溶媒(重量比で2:3)を加えた後、130℃で加熱しながら30分攪拌してポリエステル樹脂組成物を溶解させスラリー液とする。該スラリー液を室温まで冷却した後、レーザー回折型粒度分布計(マイクロトラックベル社製、「MT-3000II」)を用いて平均粒子径を測定する。この場合の平均粒子径とは体積分率で50%に達するときの粒子径である。
【0048】
<ポリエステル樹脂組成物中の粒子分散性の評価>
前記ポリエステル樹脂組成物中の粒子の平均粒子径の測定結果で得られた粒度積算分布から粒子径10μm以上の粒子の割合(体積基準、%)を算出した。該割合が小さいほど粒子分散性が良好である。該割合が5.0%以下の場合に◎(優秀)、5.1%以上10.0%以下の場合に○(良好)、10.1%以上15.0以下の場合に△(可)、15.1%以上の場合に×(不可)と判定した。
【0049】
<フィルム特性(粗大突起数)>
ブルカー・エイエックスエス株式会社の「Contour GT-X」(登録商標)を用いて測定し、得られた表面のプロファイル曲線より、最大山高さSp値を求め、36画面中の400nm以上のSpの個数を数え、粗大突起数とした。この値は、少ないほど好ましい。5個以下の場合は良好(〇)、6個以上の場合は不可(×)とした。(異物は粗大突起としてカウントされる。)
【0050】
[スラリーの調製方法]
<炭酸カルシウムスラリー(I)の調製>
平均粒径d50が0.95μmのコロイド炭酸カルシウム粒子のエチレングリコールスラリー(丸尾カルシウム株式会社製「MG-10」。スラリー中の粒子濃度は40.0重量%)60kgに純水を60kg加え、スラリー中の粒子濃度が20重量%となるように希釈してスラリー原液とした。その後、このスラリー原液を濾過装置(細孔径0.2μmセラミック膜を装着したセラミック濃縮濾過装置(NGKフィルテック社製セフィルト濾過装置))にて濾過することにより濃縮した。該濾過装置から、濾液が10kg排出されるごとに濃縮スラリーに純水を10kg加えて希釈し、粒子濃度を20重量%に戻した。この濃縮及び希釈操作を15回繰り返した。次に、該濾過装置から濾液を60kg排出し、スラリー濃度が約40重量%になるように濃縮した。得られたスラリー中の粒子濃度は41.8重量%、スラリー中のエチレングリコール濃度は3.9重量%であった。得られたスラリー中の炭酸カルシウムの分散性は良好であった。このスラリーを炭酸カルシウムスラリー(I)とした。
【0051】
<炭酸カルシウムスラリー(II)の調製>
上記と同じ平均粒径d50が0.95μmのコロイド炭酸カルシウム粒子のエチレングリコールスラリー25kgに純水を25kg加え、スラリー中の粒子濃度が20重量%となるように希釈してスラリー原液とした。その後、上記と同一のセラミック濃縮濾過装置にて濾過することにより濃縮した。該濾過装置から、濾液が10kg排出されるごとにスラリー原液は純水を10kg加えて希釈し、粒子濃度を20重量%に戻した。この濃縮及び希釈操作を6回繰り返した。次に、該濾過装置から濾液を30kg排出し、スラリー濃度が約50重量%になるように濃縮した。得られたスラリー中の粒子濃度は52.8重量%、スラリー中のエチレングリコール濃度は2.8重量%であった。得られたスラリー中の炭酸カルシウムの分散性は良好であった。このスラリーを炭酸カルシウムスラリー(II)とした。
【0052】
<炭酸カルシウムスラリー(III)の調製>
平均粒径d50が0.68μmのコロイド炭酸カルシウム粒子のエチレングリコールスラリー(丸尾カルシウム株式会社製「MG-7」。スラリー中の粒子濃度は40.0重量%)を用いたこと以外は炭酸カルシウム(II)の場合と同様にして炭酸カルシウムスラリー(III)を調製した。得られたスラリー中の粒子濃度は50.5重量%、スラリー中のエチレングリコール濃度は3.5重量%であった。得られたスラリー中の炭酸カルシウムの分散性は良好であった。
【0053】
<ポリエステル樹脂の製造>
1個の原液調製槽、及びそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、及び2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続式重合装置を用いた。原液調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で100:45の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してリン原子としての含有量が7重量ppmとなる量で連続的に添加して、撹拌、混合することによりスラリー状の原液を調製した。このスラリー状の原液を、第1段目のエステル化反応槽、次いで第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送してエステル化反応を行った。
【0054】
次いでこのエステル化反応生成物に、酢酸マグネシウム4水和物のエチレングリコール溶液を、生成ポリエステル樹脂に対してマグネシウム原子としての含有量が9重量ppmとなる量添加し、さらにテトラ-n-ブチルチタネートのエチレングリコール溶液を生成ポリエステル樹脂に対してチタン原子としての含有量が4.5重量ppmとなる量添加して、第1段重縮合反応槽、次いで第2段重縮合反応層で溶融重縮合を行った。
【0055】
次いで、第2段重縮合反応槽、さらに第3段重縮合反応槽で277℃、絶対圧力0.2kPa、平均滞留時間1時間で重縮合反応を行った。
【0056】
第3段重縮合反応槽から取り出した溶融重縮合反応生成物を、ダイからストランド状に押出して冷却固化し、カッターで切断して1個の重さが平均24mgのポリエステル樹脂ペレットとした。このペレットの固有粘度は0.560dL/gであった。
【0057】
次いで、この溶融重縮合ポリエステル樹脂ペレットを、窒素雰囲気下で約160℃に保持された撹拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気下にて、210℃で18時間、固相重縮合を行った。
【0058】
得られたポリエステル樹脂の固有粘度は0.700dL/gであった。
【0059】
[実施例1]
図1に示す構成のベント式二軸押出機(AUTOMATIK社製「ZCM」、スクリュ同方向回転、バレル内径D:71mm、可塑化部Aの長さ800mm、混練部Bの長さ600mm、脱気部Cの長さ1000mm、スラリー添加用のノズル3の位置は、混練部Bの上流から162mm(混練部Bの長さ27%))を使用した。
【0060】
上記により製造したポリエステル樹脂をポリマー投入口2から投入し、シリンダ温度280℃、スクリュ回転数150rpm、吐出量120kg/hにて混練した。また、ノズル3から炭酸カルシウムスラリー(I)を注入した。スラリー添加量は、ポリエステル樹脂組成物中の粒子濃度が1.5重量%となるようにした。ベント口真空度を-0.098MPaに設定し、脱気した。押し出されたポリエステル樹脂組成物を水中でカッティングしてペレット化した。このペレットの固有粘度は0.534dL/gであった。得られたポリエステル樹脂組成物の炭酸カルシウム粒子分散性及びフィルム特性の評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例2]
炭酸カルシウムスラリー(I)の添加量を、ポリエステル樹脂組成物中の粒子濃度が2重量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を溶融混練してペレット化し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例3]
炭酸カルシウムスラリー(II)を用い、添加量を、ポリエステル樹脂組成物中の粒子濃度が3.6重量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を溶融混練してペレット化し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例4]
炭酸カルシウムスラリー(III)を用い、該炭酸カルシウムスラリーの添加量を、ポリエステル樹脂組成物中の粒子濃度が2重量%となるようにしたこと以外は、実施例3と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を溶融混練してペレット化し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例5]
炭酸カルシウムスラリー(III)を用い、その添加量を、ポリエステル樹脂組成物中の粒子濃度が4.7重量%となるようにするとともに、溶融混練に際して吐出量を100kg/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を溶融混練してペレット化し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[参考例1]
<シリカスラリーの調製>
平均粒径d50が0.44μmの球状シリカ粒子のエチレングリコールスラリー(日本触媒株式会社製「KE-E50」。スラリー中の粒子濃度は20.0重量%)25kgに純水を25kg加え、スラリー中の粒子濃度が10重量%となるように希釈してスラリー原液とした。その後、スラリーを細孔径0.1μmセラミック膜を装着したこと以外は上記と同一のセラミック濃縮濾過装置にて濾過することにより、濃縮した。濾過装置から濾液が10kg排出されるごとに純水を10kg加えて希釈し、粒子濃度10重量%に戻した。この濃縮及び希釈操作を6回繰り返した。次に、該濾過装置から濾液を37.5kg排出し、該スラリー濃度が約40重量%になるように濃縮した。得られたスラリー中の粒子濃度は38.9重量%、スラリー中のエチレングリコール濃度は3.7重量%であった。得られた水スラリー中のシリカの分散性は良好であった。
【0066】
このシリカスラリーを用い、添加量を、ポリエステル樹脂組成物中の粒子濃度が2重量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を溶融混練してペレット化し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
炭酸カルシウムスラリー(I)を、下記参考例2で調製した炭酸カルシウムエチレングリコールスラリーに変更した以外は、実施例1と同様に実施したが、固有粘度が下がり、ストランドを得ることが出来なかった。
【0068】
[参考例2]
<炭酸カルシウムのエチレングリコールスラリーの調製>
平均粒径d50が0.95μmのコロイド炭酸カルシウム粒子のエチレングリコールスラリー(丸尾カルシウム株式会社製「MG-10」。スラリー中粒子濃度は40.0重量%)60kgにエチレングリコールを60kg加え、スラリー中粒子濃度20重量%まで希釈した。
【0069】
ジメチルテレフタレート100質量部、エチレングリコール65質量部を、攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル交換反応槽に仕込み、150℃に加熱してジメチルテレフタレートを溶融させた。次いで、酢酸マグネシウムを、得られるポリエステル樹脂分に対し0.09質量部添加されるように酢酸マグネシウム四水塩のエチレングリコール溶液を添加した後、常圧下で3時間かけて225℃まで昇温させ、さらに225℃で1時間15分攪拌保持すると共にメタノールを留去しながらエステル交換反応を行ない、実質的にエステル交換反応を終了してポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
【0070】
次に、該ポリエステルオリゴマーを攪拌装置、昇温装置及び減圧装置を備えた重縮合反応槽へ移送した後、攪拌下、コロイド炭酸カルシウム粒子のエチレングリコールスラリーをポリエステル樹脂分に対し、粒子濃度2.0重量%含まれるように前記オリゴマーに添加した。
【0071】
次いで熱安定剤としてリン酸のエチレングリコール溶液を、得られるポリエステル樹脂分に対しリン酸添加量が0.03質量部となるように、また、重縮合触媒として三酸化アンチモンのエチレングリコール溶液を、得られるポリエステル樹脂分に対し三酸化アンチモン添加量が0.04質量部となるように、前記オリゴマーに添加した後、101.3kPaから0.4kPaまで85分間で減圧し0.4kPaに保持するとともに、225℃から280℃まで2時間かけて昇温させ280℃で1.5時間保持して重縮合反応を行い、固有粘度0.62dL/gのポリエステル樹脂組成物を得た。フィルム製膜の結果、粗大異物が発生した。
【0072】