IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特開2022-149759植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗
<>
  • 特開-植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗 図1
  • 特開-植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗 図2
  • 特開-植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗 図3
  • 特開-植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗 図4
  • 特開-植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗 図5
  • 特開-植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149759
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】植物の苗の根の形態制御方法、制御剤、及び植物の苗
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20220929BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20220929BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G22/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052054
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】宇野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】北原 大輔
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
2B314MA14
2B314PC04
2B314PC09
(57)【要約】
【課題】育苗環境と本圃での定植後の環境が異なっても、定植後の環境に適応可能な植物
の苗を育成する。
【解決手段】マンノースを投与する、植物の苗の育成方法、及び植物の苗の根の形態制御
方法。抗酸化物質の含有量が、通常の栽培方法で得られた植物の苗の1.1倍以上である
植物の苗。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生重量当たりの抗酸化物質の含有量が通常栽培で育苗された植物の苗の抗酸化物質の含
有量と比較して1.1倍以上である、植物の苗。
【請求項2】
マンノースを有効成分とする植物の苗の根の形態制御剤。
【請求項3】
マンノースを投与する、植物の苗の育成方法。
【請求項4】
マンノースを投与する植物の苗の根の形態制御方法。
【請求項5】
主根長に対する側根長の比が0.20以上である、
請求項1に記載の植物の苗。
【請求項6】
前記植物が、アカザ科、アブラナ科、オミナエシ科、ヒガンバナ科、セリ科、シソ科、
ヒユ科、キク科である、
請求項1または5に記載の植物の苗。
【請求項7】
前記植物の苗にマンノースを含有する養液を供給して育成する、
請求項3に記載の植物の苗の育成方法。
【請求項8】
前記抗酸化物質の含有量が、マンノースを含有する養液を供給しないで育成した植物の
苗の1.1倍以上である、
請求項7に記載の植物の苗の育成方法。
【請求項9】
発芽前種子あるいは発芽から1日後以降かつ定植日より1日前までの期間に、マンノー
スを投与する、
請求項4、7または8に記載の植物の苗の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンノースを用いる植物の根の形態の制御方法、マンノースを有効成分とす
る植物の根の形態調節剤、および抗酸化能を有する植物の苗に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動(平均気温上昇、豪雨、日照不足など)により、農作物の栽培環境が変
化して植物の成長段階でストレスを受ける機会が増加している。これにより農作物の収穫
量低下を招き、将来的な食糧供給を脅かすことが懸念されている。この対策として、植物
のストレス耐性を高め、収穫量を増加させたり、機能性を向上させたりするバイオスティ
ミュラントが注目されている。
【0003】
機能野菜の育成方法としては、閉鎖系で育成した苗を定植した後、マンノースを添加し
てアスコルビン酸の含有量を増加させる方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、ブロッコリーの種子にマンノースを投与することでブロッコリーの発芽が強く抑
制されることが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/093415号
【特許文献2】特許第5528716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、育苗環境と本圃での定植後の環境が異なる場合、定植後の環境変化への
適応に時間がかかり、生育遅延を引き起こす。本圃に定植してからマンノース処理を行っ
た場合にも同様に環境適応に時間がかかる可能性が高いため、あらかじめストレス環境に
充分に適応できる植物の苗を育成する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、植物の苗にマンノースを投与することで、前記課題を解決できることを
見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の要旨は次の通りである。
【0008】
[1] 生重量当たりの抗酸化物質の含有量が通常栽培で育苗された植物の苗の抗酸化物
質の含有量と比較して1.1倍以上である、植物の苗。
[2] マンノースを有効成分とする植物の苗の根の形態制御剤。
[3] マンノースを投与する、植物の苗の育成方法。
[4] マンノースを投与する植物の苗の根の形態制御方法。
[5] 主根長に対する側根長の比が0.20以上である、[1]に記載の植物の苗。
[6] 前記植物が、アカザ科、アブラナ科、オミナエシ科、ヒガンバナ科、セリ科、シ
ソ科、ヒユ科、キク科である、[1]または[5]に記載の植物の苗。
[7] 前記植物の苗にマンノースを含有する養液を供給して育成する、[3]に記載の
植物の苗の育成方法。
[8] 前記抗酸化物質の含有量が、マンノースを含有する養液を供給しないで育成した
植物の苗の1.1倍以上である、[7]に記載の植物の苗の育成方法。
[9] 発芽前種子あるいは発芽から1日後以降かつ定植日より1日前までの期間に、マ
ンノースを投与する、
請求項[4]、[7]または[8]に記載の植物の苗の育成方法。
【発明の効果】
【0009】
育苗時にマンノースを添加することで、ストレス環境に充分に適応できる植物の苗を育
成することができる。また、得られる植物の苗の根の形態を制御し、定植時の取り扱い性
を高めたり、得られる植物の苗の抗酸化物質の含有量を高めたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1a,1bは、実施の形態に係る栽培装置の水平断面図であり、図1aは図2bのIa-Ia線断面図、図1bは図2bのIb-Ib線断面図である。
図2図2aは図1aのIIa-IIa線断面図、図2bは図1aのIIb-IIb線断面図である。
図3図3は実施の形態に係る多段棚式栽培装置の正面図である。
図4図4図3のIV-IV線断面図である。
図5図5は実施の形態に係る多段棚式栽培装置の潅水トレイの平面図である。
図6図6図5のトレイの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明するが、本発明は具体的な実施態様のみに限定され
るものではない。
【0012】
本発明は、生重量当たりの抗酸化物質の含有量が通常栽培で育苗された植物の苗の含有
量と比較して1.1倍以上である、植物の苗に関する。
【0013】
<植物の苗>
(植物)
本発明の植物は、植物の文言自体から認識され得るもの、野菜、果実、果樹、穀物、種
子、球根、草花 、香草(ハーブ)、分類学上の植物等を表すものとする。
本発明の植物としては、アカザ科、アブラナ科、オミナエシ科、ヒガンバナ科、セリ科
、シソ科、ヒユ科、キク科であることが好ましく、根に対する感受性が高いの観点から、
アカザ科、キク科であることが好ましい。
アカザ科のなかでも、ホウレンソウが、キク科のなかでも、レタスが好ましい。
【0014】
(苗)
苗とは、種子繁殖型の場合、発芽後にある程度成長させた、移植用の植物のことである
。栄養繁殖型の場合は発根した植物のことである。
通常栽培で育苗するとは、太陽光または人工光を用いて、適度な栄養成分以外の薬物を
与えず、あるいは物理的なストレスや高温、低温、乾燥などの環境ストレスを与えずに苗
を育成することである。
【0015】
(抗酸化物質)
本発明の植物の苗に含まれる抗酸化物質には、第1群の抗酸化物質として、アスコルビ
ン酸(ビタミンC)、ルテイン、尿酸、GSH、ビタミンE,CoQ10、カロテノイド
、第2群の抗酸化物質として、ベタシアニンやフラボノイドなどのポリフェノール化合物
、アルファ-リポ酸(ALA)、レスベラトロール、アスタキサンチンなどがある。
本発明の植物の苗に含まれる抗酸化物質の含有量は、苗の地上部をすりつぶし、得られ
た粗汁液の上清をBioQuoChem社製のe―BQC LAB(ポータブル抗酸化能
測定デバイス)にて測定する。本発明の植物の苗に含まれる抗酸化物質の含有量は、上記
デバイスで得られた値の総和とする。生重量とは、乾燥しない重量を意味し、収穫直後か
ら5分以内の重量をいう。
【0016】
本発明の植物の苗に含まれる抗酸化物質の含有量は、REDOX電位測定に基づいてお
り、マイクロクーロン(μC)単位で表示された電荷で表現した値である。通常の栽培方法
で得られる苗と比較して通常1.1倍以上であり、1.5倍以上が好ましく、1.8倍以
上がより好ましく、2.0倍以上がさらに好ましく、2.2倍以上が特に好ましく、2.
5倍以上が最も好ましい。前記下限値以上であることで、本圃に定植した際にストレス耐
性が高い苗になる。
【0017】
(主根長に対する側根長の比)
本発明の植物の苗は、主根長に対する側根長の比が0.20以上である。この場合、本
発明の植物は、双子葉植物または裸子植物である。0.01以上であることがより好まし
く、0.10以上であることがさらに好ましい。1.00以下であることが好ましく、0
.90以下であることがより好ましく、0.80以下であることがさらに好ましい。前記
下限値以上であることで、主根の長さの比率が高くなりすぎないため、苗を本圃に定植す
る際の取り扱い性が向上し、定植後の活着が良い苗となる。前記上限値以下であることで
、側根と主根のバランスが良くなることから、苗を本圃に定植する際の取り扱い性が向上
する。また、側根を充分に伸ばすことで、総根長が長くなるため、栄養成分や水分の吸収
が良好になる。
なお、総根長とは、主根と全ての側根の長さを足し合わせた長さである。
【0018】
根の形態制御は、植物の苗にマンノースを投与することで可能となる。特に、植物の苗
にマンノースを投与することで、主根長と側根長の比を前記範囲内にすることができる。
マンノースについては後述する。
【0019】
(主根長)
主根長は、植物の苗の主根を、略直線状に伸ばして、定規で測定する。
【0020】
(側根長)
側根長は、植物の苗の側根を、1本ずつ切り離して分離し、それぞれを定規で測定した
長さの合計値とする。
【0021】
<形態制御剤>
本発明の植物の根の形態制御剤は、マンノースを有効成分とする。植物の成長段階とし
ては、種子あるいは苗であってもよく、本圃に定植した後の植物であってもよいが、スト
レス耐性が高い苗を提供し、最終的に収穫される植物の育成状況を均一にできる可能性が
あることから、種子または苗であることが好ましい。
【0022】
(マンノース)
マンノースは、アルドヘキソースの1種であり、D-マンノースとL-マンノースの光
学異性体がある。D-マンノースは果実や果皮などに含まれ、天然に存在するが、L-マ
ンノースは合成品のみが知られている。本発明におけるマンノースは、D-マンノースと
L-マンノースのいずれを使用してもよい。入手が容易であることから、D-マンノース
を使用することが好ましい。マンノースは、市販品を使用することができる。たとえば、
和光純薬工業株式会社製「D(+)-マンノース」、ナカライテスク株式会社製「D-(
+)-マンノース」、シグマアルドリッチ社製「D-(+)-マンノース」などを使用す
ることができる。
【0023】
(形態制御剤の剤形)
本発明のマンノースを有効成分とする植物の根の形態制御剤の剤形は、液体、ペースト
、水和剤、粒剤、粉剤、錠剤、乳剤等、いずれの剤形でも良い。いずれの剤形においても
、マンノースが安定であることが好ましい。
【0024】
本発明の植物の根の形態制御剤は、有効成分であるマンノースの安定性が確保される限
りにおいて、上記の剤型に応じた、公知の担体成分や、製剤用補助剤等を適宜配合しても
よい。また、本発明の植物の根の形態制御剤は、硝酸態窒素、リン酸およびカリウムを含
有するものであってもよい。
【0025】
(担体成分)
本発明の植物の根の形態制御剤の担体成分としては、タルク、クレー、バーミキュライ
ト、珪藻土、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、白土、シリカゲル等の無機
質や、小麦粉、澱粉等の固体担体、水、キシレン等の芳香族炭化水素類、エタノール、エ
チレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロ
フラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル
等の液体担体を用いることができる。また、pHを一定に保つための、種々の緩衝液を用
いることもできる。
【0026】
(製剤用補助剤)
本発明の植物の根の形態制御剤の製剤用補助剤としては、例えばアルキル硫酸エステル
類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸
等の陰イオン性界面活性剤、高級脂肪族アミンの塩類等の陽イオン性界面活性剤、ポリオ
キシエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコールアシルエステ
ル、ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル、セルロース誘導体等
の非イオン性界面活性剤、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム等の増粘剤、増量剤、結合
剤等を適宜配合することができる。
【0027】
(投与方法)
本発明の植物の根の形態制御剤の、植物への投与方法としては、各種の方法を用いるこ
とができる。例えば、粉剤や粒剤を散布する方法、希釈された水溶液を葉面、茎、果実等
直接植物に散布する方法、土壌中に注入する方法や、水耕栽培において、根に供給される
養液や、供給水に混合して供給する方法が挙げられる。作業性の観点から、供給水に混合
して供給する方法が好ましい。
【0028】
(投与量)
本発明の植物の根の形態制御剤の、植物への投与量は、養液栽培の場合、後述するよう
に、植物が接する際の濃度が、0.01mM以上とするように調整することが好ましい。
0.05mM以上がより好ましく、0.1mM以上がさらに好ましい。10mM以下とす
ることが好ましく、5mM以下がより好ましく、3mM以下がさらに好ましい。前記下限
値以上であることで、根に対してマンノースが効果的に働く。前記上限値以下であること
で、根の伸長を過剰に抑制せず、より正常な生育を維持することが可能となる。
【0029】
(投与時期)
本発明の植物の根の形態制御剤の、植物への投与時期としては、発芽から1日以降であ
ることが好ましく、2日以降であることがより好ましく、発芽前の種子または3日以降で
あることがさらに好ましい。定植日の1日前であることが好ましく、2日前であることが
より好ましく、3日前であることがさらに好ましい。前記範囲内であることで、作業効率
が良く、また、苗に大きなダメージを与える可能性が低くなる。例えば、前記期間中、常
時、養液に形態制御剤を含有させてもよく、前記栽培期間のうち、所定の期間だけ養液に
形態制御剤を含有させ、それ以外の期間は形態制御剤を含有しない養液で栽培してもよい
。また、形態制御剤を含有する養液を供給する期間同士の間に形態制御剤を含有しない養
液を供給する期間を設けてもよい。
【0030】
<苗の育成方法>
本発明の植物の苗の育成方法(育苗方法)では、マンノースを投与する。マンノースと
は、前述の形態制御剤の項で有効成分として述べたものである。
【0031】
(投与方法)
本発明の植物の苗の育成方法における、マンノースの植物への投与方法としては、各種
の方法を用いることができる。例えば、粉剤や粒剤を散布したり、希釈された水溶液を葉
面、茎、果実等直接植物に散布したり、土壌中に注入する方法や、水耕栽培やロックウー
ルのように、根に接触する養液や供給水に希釈混合して供給したりする方法が挙げられる
。このとき、植物に供給される際のマンノースの濃度は、0.01mM以上であることが
好ましく、0.05mM以上がより好ましく、0.1mM以上がさらに好ましい。10m
M以下であることが好ましく、5mM以下がより好ましく、3mM以下がさらに好ましい
。上記下限値以上であることで、根に対してマンノースが効果的に働く。上記上限値以下
であることで、根の伸長を過剰に抑制せず、より正常な生育を維持することが可能となる
。マンノースの濃度は、高速液体クロマトグラフ法によって測定することができる。
【0032】
養液にマンノースを混合して投与する場合、マンノースを含有する養液の調製方法は、
特に限定されない。育成中の既存の、マンノースを含まない養液に規定量のマンノースを
添加しても良く、事前に液肥原液にマンノースを添加し、撹拌し混合して混合液を調製し
、この混合液を、育成に使用している既存の、マンノースを含まない養液に添加してもよ
い。
【0033】
粉末のマンノースを養液又は液肥原液に添加してもよく、マンノースを事前に栽培養液
又は水で溶かしてマンノース水溶液を調製し、このマンノース水溶液を養液又は液肥原液
に添加してもよい。養液中のマンノース分布をより均一化させる点では後者の添加方法が
好ましい。マンノースの濃度は、後述のように、植物に供給される際に、最適な濃度とな
るよう調整する。
上記のように、マンノースを含有する養液を使用することにより、育成した植物の苗の
抗酸化物質の含有量を高めることができる。
【0034】
(供給時期)
本発明の植物の根の形態制御剤の、植物への供給時期としては、発芽から1日以降であ
ることが好ましく、2日以降であることがより好ましく、発芽前の種子または3日以降で
あることがさらに好ましい。定植日の1日前であることが好ましく、2日前であることが
より好ましく、3日前であることがさらに好ましい。前記範囲内であることで、作業効率
が良く、また、苗に大きなダメージを与える可能性が低くなる。
【0035】
マンノースを養液に添加する場合、前記供給時期の間に、マンノースを養液に対し1回
だけ添加してもよく、間隔をあけて複数回添加してもよい。マンノースを複数回添加する
場合、各添加時におけるマンノースの添加量は上記に示す範囲で同じ添加量としても良く
、初期の添加時の添加量を少なくし、栽培期間の後期ほど添加量を多くしても良い。マン
ノースを複数回添加する場合、添加の間隔は1日以上20日以下、特に2日以上15日以
下の範囲が好ましい。なお、マンノースを養液に添加する効果を持続させる観点から、本
発明は、養液が循環している栽培装置に適用されることが好ましい。
【0036】
養液中のマンノースは植物に殆ど吸収されないので、養液が循環している苗の育成装置
において、マンノースを養液に添加した場合、添加されたマンノースの大部分はそのまま
養液中に残留すると考えられる。
【0037】
(養液成分)
本発明の苗の育成に使用する養液は、特に限定されることは無いが、少なくとも硝酸態
窒素、リン酸およびカリウムを含有することが好ましい。養液中の硝酸態窒素の含有量は
8.0me/L以上25.0me/L以下の範囲であることが好ましく、10.0me/
L以上20.0me/L以下の範囲であることがより好ましい。リン酸の含有量は3.0
me/L以上7.0me/L以下の範囲であることが好ましく、4.0me/L以上6.
5me/L以下の範囲であることがより好ましい。また、カリウムの含有量は3.0me
/L以上14.0me/L以下の範囲であることが好ましく、5.0me/L以上12.
0me/L以下の範囲であることがより好ましい。養液中の硝酸態窒素、リン酸およびカ
リウム含有量を上記の範囲とすることで、マンノースによる抗酸化物質の含有量をより高
めることができる。
【0038】
(育成方式)
本発明の植物の苗の育成においては、閉鎖系の人工光型育苗方法を用いても良く、ハウ
スなどの太陽光利用型の育苗施設を用いてもよい。より均一な苗を育成する観点で、閉鎖
系の人工光型育苗方法が好ましい。
また、培地を利用して苗を育成する方式が好ましく、培地としては、特に限定されず、
例えば、不織布、合成繊維培地、多孔質培地(セラミック、ゼオライトなど)、合成樹脂
発泡体(フェノール樹脂発泡体、ポリウレタン、エチレン系発泡体など)、ロックウール
などが使用できる。なかでも、入手が容易である観点から、合成樹脂発泡体からなる発泡
培地やロックウール培地が好ましい。また、本発明の植物苗の育成方法では、養液を循環
させて栽培する栽培装置で葉菜類を栽培することが好ましい。
【実施例0039】
以下に実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定される
ものではない。
【0040】
[基本条件]
<発芽>
植物として、ホウレンソウ(品種「三菱ケミカルアグリドリーム株式会社製NPL8号
」)を用いた。種子1個ずつを各サンプルとして、セルトレイ40(寸法:奥行60cm
、幅30cm)に、縦25列×横12列の300コマのウレタン培地(江松化成社製「製
品名EZQ-S」)を並べ、水中で絞りながら浸漬し、空気をすべて抜いて飽水させてか
ら播種し、上から1000mLのジョウロ潅水を行い、発芽室に3日間、置いた。発芽室
の温度は12時間22℃、12時間19℃、湿度は90~100%程度とした。
【0041】
<苗育成>
播種から3日目に、セルトレイ40ごと、閉鎖型構造物1に移動した。閉鎖型構造物1
は、内法寸法:奥行450cm、横幅315cm、高さ240cmとした。閉鎖型構造物
1の内部には、4段3棚の潅水トレイ31を有した多段棚式栽培装置3を2基設置して、
植物の苗を栽培した。この閉鎖型構造物内の明期の平均湿度は40-60%、暗期は70
-90%とした。また、この閉鎖型多段棚式栽培装置は、潅水装置を設けたものを使用し
た。また、空調装置は、冷房能力14kWの空調装置を1台設置した。照明の照射は一日
あたり12時間(明期12時間、暗期12時間)として、明期は温度22℃、暗期は19
℃で栽培を行った。各苗は、播種後12日目まで育成した。
【0042】
(植物の苗の抗酸化物質の含有量の測定方法)
ポータブル抗酸化能測定デバイス(BioQuoChem社製 e-BQC LAB)
を用いて評価を行った。
植物の苗の地上部をすりつぶし、得られた粗汁液の上清のQ1、Q2、及びその合算値
であるTQを測定した。なお、Q1、Q2は、ポータブル抗酸化能測定デバイス(Bio
QuoChem社製 e-BQC LAB)から得られる値であり、Q1とQ2の和であ
るTQを本願発明の抗酸化物質の含有量とする。
なお、Q1は、第1群の抗酸化物質とする、アスコルビン酸(ビタミンC)、ルテイン
、尿酸、GSH、ビタミンE,CoQ10、カロテノイドに由来する値で、Q2は、第2
群の抗酸化物質とする、ベタシアニンやフラボノイドなどのポリフェノール化合物、アル
ファ-リポ酸(ALA)、レスベラトロール、アスタキサンチンに由来する値である。
測定の際は、マンノース添加をしなかった比較例1をコントロールとして、得られた値
を、コントロールの値で除算して計算値(相対値)を結果として得た。
【0043】
(主根長と側根長の比の測定方法)
主根長は、植物の苗の主根を、略直線状に伸ばして、定規で長さを測定した。
側根長は、植物の苗の側根を、1本ずつ切り離して分離し、それぞれを定規で測定した
長さの合計値とした。
得られた主根長を側根長で除したものを、主根長に対する側根長の比とした。
【0044】
(実施例1)
苗の育成において、養液に含まれるマンノースの濃度を3mMとした。抗酸化物質の測
定結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
苗の育成において、養液にマンノース添加を行わなかったほかは、実施例1と同様に、
苗を育成した。抗酸化物質の測定結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
また、推測ではあるが、主根長に対する側根長の比と、植物の含有する抗酸化物質の含
有量に相関があったことから、主根長と側根長の比を制御することで、植物の含有する抗
酸化物質の含有量を向上させられると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、抗酸化物質を多く含有する植物を提供するものであって、遺伝子組み換えな
どの工業的手法を用いないため、消費者の健康や法的規制の観点から好ましく、作物とし
て市場へ流通させやすいという利点がある。
【符号の説明】
【0049】
1 閉鎖型構造物
3~8 多段棚式栽培装置
3a 側面パネル
3b 背面パネル
3c 台座
3e トップパネル
9 空調装置
9A 空調装置本体
9a 取込口
9b 吐出口
9f 吹出口
10 風向制御板
10a 開口
12 育苗棚
13 照明装置
15 空気ファン
16 炭酸ガスボンベ
30,30’ 潅水装置
31 潅水トレイ
31d 底板
32 排水溝
32a 排水口
33 給水管
33a 小孔
34 堰
34a 切欠部
35 リブ
40 セルトレイ
41 セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6