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特開2022-149831アクリル樹脂エマルジョン及びその製造方法並びに塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149831
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】アクリル樹脂エマルジョン及びその製造方法並びに塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 230/08 20060101AFI20220929BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 157/06 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 201/10 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 133/08 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 133/10 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220929BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08F230/08
C09D5/02
C09D157/06
C09D201/10
C09D133/08
C09D133/10
C09D7/65
C08F2/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052151
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】知場 舜介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】殿村 洋一
(72)【発明者】
【氏名】清森 歩
【テーマコード(参考)】
4J011
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011KA15
4J011KA29
4J011KB08
4J011KB14
4J011KB29
4J038CG141
4J038DL001
4J038KA09
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA07
4J038PB02
4J038PB05
4J038PB07
4J038PB08
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC06
4J038PC08
4J038PC10
4J100AJ02R
4J100AL03Q
4J100AL04Q
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100AL09R
4J100AL16P
4J100AL39P
4J100AL75R
4J100AM15R
4J100BA05R
4J100BA72P
4J100BC04Q
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA00
4J100DA28
4J100DA36
4J100EA07
4J100EA09
4J100FA20
4J100JA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】透明性、耐水性、耐塩水性、及び撥水性を有する塗膜を与えるアクリル樹脂エマルジョン、及びその製造方法、並びに塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体20~80質量部、(B)官能基を有さない、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体20~80質量部、及び(C)(A)成分及び(B)成分以外の、重合性基及び官能基含有単量体0~60質量部(但し、(A)~(C)の合計は100質量部である)の重合物であるアクリル樹脂、(D)数平均分子量1,000以上を有する高分子乳化剤5~70質量部(但し、前記(A)~(C)の合計は100質量部である)及び水を含む、アクリル樹脂エマルジョン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体 20~80質量部、
(B)官能基を有さない、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体 20~80質量部、及び
(C)(A)成分及び(B)成分以外の、重合性基及び官能基含有単量体 0~60質量部(但し、(A)~(C)の合計は100質量部である)
の重合物であるアクリル樹脂、
(D)数平均分子量1,000以上を有する高分子乳化剤 前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し5~70質量部
及び水を含む、アクリル樹脂エマルジョン。
【請求項2】
(A)成分が下記一般式(I)で表される、請求項1記載のアクリル樹脂エマルジョン
【化1】
(Rは、重合性の不飽和二重結合を有する、炭素数2~24の、ヘテロ原子を有していてよい一価有機基であり、R~Rは、互いに独立に、炭素数3~10の、1価の直鎖又は分岐状炭化水素基、又は炭素数3~10の1価の環状炭化水素基である)。
【請求項3】
前記(D)成分が数平均分子量3,000以上200,000以下を有する、請求項1または2記載のアクリル樹脂エマルジョン。
【請求項4】
前記(D)成分が、カルボキシル基含有(共)重合体又はその塩、カルボン酸エステル含有(共)重合体、及びウレタン樹脂から選ばれる1以上の高分子乳化剤である、請求項1~3のいずれか1項記載のアクリル樹脂エマルジョン。
【請求項5】
前記(D)成分が、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸塩共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上の高分子乳化剤である、請求項4記載のアクリル樹脂エマルジョン。
【請求項6】
最低造膜温度(MFT)0~50℃を有する、請求項1~5のいずれか1項記載のアクリル樹脂エマルジョン。
【請求項7】
前記(B)成分が、炭素数1~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、請求項1~6のいずれか1項記載のアクリル樹脂エマルジョン。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載のアクリル樹脂エマルジョンを含む塗料組成物。
【請求項9】
(A)重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体、(B)官能基を有さない、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、及び(C)上記(A)成分及び(B)成分以外の、任意の重合性基及び官能基含有単量体を、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分100質量部に対し5~70質量部となる量の(D)数平均分子量1000以上を有する高分子乳化剤の存在下で乳化し、重合させてアクリル樹脂のエマルジョンを得ることを特徴とする、アクリル樹脂エマルジョンの製造方法。
【請求項10】
前記(D)成分が数平均分子量3,000以上200,000以下を有する、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記(D)成分が、カルボキシル基含有(共)重合体又はその塩、カルボン酸エステル含有(共)重合体、及びウレタン樹脂から選ばれる1以上の高分子乳化剤である、請求項9~10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
前記(D)成分が、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸塩共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及びポリウレタンから選ばれる1種以上の高分子乳化剤である、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
(A)成分が下記一般式(I)で表される、請求項9~12のいずれか1項記載の製造方法。
【化2】
(Rは、重合性の不飽和二重結合を有する、炭素数2~24の、ヘテロ原子を有していてよい一価有機基であり、R~Rは、互いに独立に、炭素数3~10の、1価の直鎖又は分岐状炭化水素基、又は炭素数3~10の1価の環状炭化水素基である)。
【請求項14】
前記アクリル樹脂エマルジョンが最低造膜温度(MFT)0~50℃を有する、請求項9~13のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項15】
(B)成分が、炭素数1~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、請求項9~14のいずれか1項記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂エマルジョンに関するものであり、より詳しくは透明性、耐水性、耐塩水性、撥水性に優れた皮膜を形成する事ができるアクリル樹脂エマルジョン及びその製造方法に関する。さらに本発明は、該エマルジョンを含む塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中及び海水中で使用される物品の、塗料のバインダーとしては油性系樹脂、ロジン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ゴム系樹脂等が多く用いられてきたが、これらはいずれも溶剤希釈型であった。
【0003】
しかし、近年、環境問題の点で有機溶剤系から水系へと分散媒の移行が進んでいる。アクリル系樹脂エマルジョンは多種のモノマーがあり、その設計のしやすさから一般的によく使われている。しかし界面活性剤を使用したアクリル樹脂エマルジョンは透明性が高いものの耐水性に大きく劣る場合が多い。
【0004】
その点を解決するために耐水性を高めたアクリル系樹脂エマルジョンの開発が進められている。特開平7-268022号公報では、変性スチレン‐(メタ)アクリル酸エステル‐不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩を保護コロイドとして乳化重合したアクリル樹脂エマルジョンを開示している。また、特開2008-280469号公報においては、PVAを分散剤として使用したアクリル系の水性エマルジョン組成物の耐水性が高いことを開示している。
【0005】
しかしながらこれらの方法では、耐水性は得られているが、皮膜の透明性を損なう場合がある。塗料として使用する場合には、透明性が損なわれると塗料の色が鮮やかでなくなるため、透明性と耐水性を備えたアクリル樹脂エマルジョンの開発が望まれている。
【0006】
一方、トリオルガノシリル基含有単量体は従来より、耐水性を有するモノマーとして知られている。例えば、特開2005-82725号公報やWO2017/164283では、トリイソプロピルシリルメタクリレートとアクリルモノマーとの共重合体を含有した塗料組成物を開示している。ただ、いずれも有機溶剤系の組成物であるため、VOC規制の観点や塗装作業者への有機溶剤の暴露による健康被害の恐れがあり、水系の環境に配慮したエマルジョンの開発が望まれている。
【0007】
特開2006-052284号公報ではトリイソプロピルシリルメタクリレートとその他の重合性不飽和モノマーを含む混合物を乳化重合した水分散体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-268022号公報
【特許文献2】特開2008-280469号公報
【特許文献3】特開2005-82725号公報
【特許文献4】WO2017/164283
【特許文献5】特開2006-052284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし上記特許文献5記載の水分散体は、透明性及び耐塩水性の面で改良の余地があった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、透明性、耐水性、耐塩水性、及び撥水性を有する塗膜を与えるアクリル樹脂エマルジョン、及びその製造方法、並びに塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(A)重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体、(B)(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、及び(C)任意の他の重合性基含有単量体を、(D)特定の高分子乳化剤の存在下で乳化し重合して得られるアクリル樹脂エマルジョンが、透明性、耐水性、耐塩水性、及び撥水性を有する塗膜を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記のアクリル樹脂エマルジョン及びその製造方法、並びに塗料組成物を提供する。
(A)重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体 20~80質量部、
(B)官能基を有さない、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体 20~80質量部、及び
(C)(A)成分及び(B)成分以外の、重合性基及び官能基含有単量体 0~60質量部(但し、(A)~(C)の合計は100質量部である)
の重合物であるアクリル樹脂、
(D)数平均分子量1,000以上を有する高分子乳化剤 前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し5~70質量部
及び水を含む、アクリル樹脂エマルジョン。
尚、本発明において「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体」は、アクリル酸アルキルエステル単量体及びメタクリル酸アルキルエステル単量体の少なくとも一つを意味する。また「高分子乳化剤」は高分子量を有する乳化剤を意味する。より詳細には乳化剤能を有する高分子化合物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンは、透明性、耐水性、耐塩水性、及び撥水性を有する塗膜を与えることができる。該エマルジョンを含有する塗料組成物から得られる塗膜は、優れた耐水性及び発色性を有する。また、本発明のエマルジョンは水系であるため、作業面及び環境面で利点が大きい。さらに本発明のエマルジョンは長期間の保存安定性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンは(A)重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体、(B)アクリル酸アルキルエステル単量体及び/又はメタクリル酸アルキルエステル単量体、(C)必要により、(A)成分及び(B)成分と共重合可能なその他の官能基含有単量体を、(D)特定の高分子乳化剤の存在下で乳化重合して製造することができる。
以下、各成分について詳述する。
【0014】
(A)重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体
重合性基含有トリオルガノシリルエステル単量体は、トリオルガノシリル基と重合性基を有する単量体である。重合性基は、例えば、重合性の不飽和二重結合を有する、炭素数2~24の、ヘテロ原子を有していてよい一価炭化水素基であり、例えば、(メタ)アクリル酸由来、4-ペンテン酸由来、マレイン酸由来、及びフマル酸由来の基が挙げられる。
【0015】
(A)成分は、好ましくは下記一般式(I)で表される。
【化1】
は、重合性の不飽和二重結合を有する、炭素数2~24の、ヘテロ原子を有していてよい一価有機基であり、R~Rは、互いに独立に、炭素数3~10の、1価の直鎖又は分岐状炭化水素基、又は炭素数3~10の1価の環状炭化水素基である。
【0016】
上記式(I)において、Rは重合性の不飽和二重結合を有する、炭素数2~24、好ましくは炭素数2~15、より好ましくは炭素数2~10の、ヘテロ原子を有していてよい一価有機基である。例えば、重合性の不飽和二重結合を有する炭素数2~10、好ましくは炭素数2~6の一価炭化水素基であり、より好ましくは下記に示す基が挙げられる。
【化2】
【0017】
また、ヘテロ原子を有してよい一価有機基において、ヘテロ原子とは酸素原子、窒素原子、ケイ素原子等である。より詳細には、重合性の不飽和二重結合を有し、ヘテロ原子を有する、炭素数2~24の、好ましくは炭素数2~10の一価炭化水素基であり、好ましくは下記式で表される基である。
【化3】
【0018】
上記において、Rとしては、炭素数1~8の、直鎖状、分枝鎖状、又は環状のアルキル基、不飽和アルキル基、及びアラルキル基等が挙げられる。炭素数が1~8の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、2-メチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ペンチル基、3-メチルペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。不飽和アルキル基としては、2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。なお、前記アルキル基、シクロアルキル基、不飽和アルキル基、アラルキル基等は置換基を有していてもよい。置換基としては、アルコキシ基、アシル基等が挙げられる。置換基の数及び置換位置等については、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されるものではない。好ましくは、炭素数1~8の、直鎖状、分枝鎖状、又は環状のアルキル基である。
【0019】
~Rは、互いに独立に、炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニルを示す。炭素数3~8の分岐アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、2-メチルブチル基、イソペンチル基、2-エチルブチル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。特に、R~Rとしては、イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基、及びフェニル基が好ましく、イソプロピル基がより好ましい。
【0020】
(A)成分は、より好ましくは、下記一般式(I’)又は(II)で表される。
【化4】
【化5】
上記式(I’)において、R1’は重合性の不飽和二重結合を有する、炭素数2~10の一価炭化水素基である。R1’は好ましくは炭素数2~6の一価炭化水素基であり、より好ましくは下記に示す基である。
【化6】
特に好ましくは、R1’はCH=C(CH)-又はCH=CH-である。
上記式(II)において、Rは、上記Rで示される基又は、上記RSi-で表されるトリオルガノシリル基である。すなわち、炭素数1~8の、直鎖状、分枝鎖状、又は環状のアルキル基、不飽和アルキル基、アラルキル基、又はRSi-で表される基であり、R~Rは、互いに独立に、炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニルである。
【0021】
上記(I)、(I’)および(II)において、R~Rは、互いに独立に、炭素数3~10の、好ましくは炭素数3~8の、直鎖又は分岐状の一価炭化水素基、又は炭素数3~10の、好ましくは炭素数3~8の、一価環状炭化水素基である。直鎖状の一価炭化水素基としては、例えば、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。分岐状の一価炭化水素基としては、好ましくは、α位又はβ位の炭素原子に1価炭化水素基を有する、第2級又は第3級アルキル基である。ここで、α位の炭素原子とは上記式においてケイ素原子に結合する炭素原子であり、β位の炭素原子とは該α位の炭素原子の隣に位置する炭素原子である。α位又はβ位の炭素原子に結合する1価炭化水素基は、メチル基、エチル基等であればよい。分岐状の一価炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、2-メチルブチル基、イソペンチル基、2-エチルブチル基、及び3-メチルペンチル基等が挙げられる。炭素数3~10の1価の環状炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。特に、R~Rとしては、イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基、及びフェニル基が好ましく、イソプロピル基がより好ましい。
【0022】
例えば、トリイソプロピルシリル基含有単量体、トリイソブチルシリル基含有単量体、トリs-ブチルシリル基含有単量体、トリイソペンチルシリル基含有単量体、トリフェニルシリル基含有単量体、ジイソプロピルイソブチルシリル基含有単量体、ジイソプロピルs-ブチルシリル基含有単量体、ジイソプロピルイソペンチルシリル基含有単量体、ジイソプロピルフェニルシリル基含有単量体、イソプロピルジイソブチルシリル基含有単量体、イソプロピルジs-ブチルシリル基含有単量体、t-ブチルジイソブチルシリル基含有単量体、t-ブチルジイソペンチルシリル基含有単量体、及び、t-ブチルジフェニルシリル基含有単量体などのトリオルガノシリル基含有単量体が挙げられる。これらのトリオルガノシリル基含有単量体は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。この中でも特に、トリイソプロピルシリル基含有単量体、トリs-ブチルシリル基含有単量体及びt-ブチルジフェニルシリル基含有単量体が好ましく、トリイソプロピルシリル基含有単量体がより好ましい。特に、製造工程、製造コスト、原料入手容易性及び環境安全性の観点から、トリオルガノシリル基含有単量体としては、R~R全てがイソプロピル基であるトリイソプロピルシリル基含有単量体が好ましい。
【0023】
(A)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル、4-ペンテン酸トリイソプロピルシリル、マレイン酸ビス(トリイソプロピルシリル)、マレイン酸メチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸エチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸n-ブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸イソブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸t-ブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸n-ペンチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸イソペンチルトリプロピルシリル、マレイン酸2-エチルヘキシルトリイソプロピルシリル、マレイン酸シクロヘキシルトリイソプロピルシリル、フマル酸ビス(トリイソプロピルシリル)、フマル酸メチルトリイソプロピルシリル、フマル酸エチルトリイソプロピルシリル、フマル酸n-ブチルトリイソプロピルシリル、フマル酸イソブチルトリイソプロピルシリル、フマル酸n-ペンチルトリイソプロピルシリル、フマル酸イソペンチルトリイソプロピルシリル、フマル酸2-エチルヘキシルトリイソプロピルシリル、フマル酸シクロヘキシルトリイソプロピルシリル等が挙げられる。これらは単独又は二種以上で使用できる。特に、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリルが好ましい。なお(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリルとは、アクリル酸トリイソプロピルシリル又はメタクリル酸トリイソプロピルシリルを意味する。
【0024】
(A)成分の量は(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、20~80質量部であり、好ましくは40~75質量部である。20質量部未満であると、得られる皮膜は十分な耐水性及び耐塩水性を有さない恐れがあり、80質量部を超えるとアクリル樹脂エマルジョンのMFTが50℃を越える恐れがある。
【0025】
(B)官能基を有さない(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体
(B)成分は、アクリル酸アルキルエステル単量体及び/又はメタクリル酸アルキルエステル単量体(以下、アクリル成分ということがある)である。ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミド基、カルボキシ基等の官能基を持たないアクリル酸アルキルエステル単量体又はメタクリル酸アルキルエステル単量体である。好ましくはエステルの末端に炭素数1~10のアルキル基を有する。好ましくは、アクリル成分のポリマーのガラス転移温度(以下、Tgということがある)が40℃以上、好ましくは60℃以上である単量体が好ましい。かかる単量体としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸ブチル等が挙げられる。なお、Tgの上限は、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。当該ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0026】
(B)成分の量は、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、20~80質量部であり、好ましくは25~75質量部である。20質量部未満であると乳化重合反応が進まないおそれがあり、80質量部を超えると得られる皮膜が耐水性を有さないおそれがある。
【0027】
また、上記(A)成分及び(B)成分と共重合可能な、官能基を含有するその他の単量体(C)を共重合させることができる。該(C)成分は、カルボキシ基、アミド基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ビニル基又はアリル基等の官能基を有してよい、不飽和結合を有する単量体であればよい。例えば、メタクリル酸、アクリル酸、アクリルアマイド、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、アクリル酸2-メトキシエチル(メトキシエチルアクリレート)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが挙げられる。これらを共重合することで、コアシェル樹脂と熱可塑性樹脂との相容性を向上させることが可能となる。好ましくは、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸2-メトキシエチル、及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルである。
【0028】
(C)成分の量は、上記(A)~(C)の合計100質量部に対し、0~60質量部であり、好ましくは0.5~30質量部、または1~25質量部、さらには5~20質量部である。60質量部を超えるとエマルジョンが不安定になり重合が出来ないという不具合がある。
【0029】
(D)高分子乳化剤
(D)成分は公知の高分子乳化剤であればよい。高分子乳化剤とは、上記の通り高分子量を有する乳化剤であり、より詳細には乳化剤能を有する高分子化合物である。高分子量とは数(または重量)平均分子量1,000以上であり、好ましくは1,000~200,000である。該数平均分子量の下限値は、より好ましくは3,000以上であり、更に好ましくは5,000以上であるのがよい。上限値は好ましくは100,000以下であり、更に好ましくは80,000以下であり、更に好ましくは50,000以下であるのがよい。乳化剤の分子量が上記下限値未満であると凝集物が発生するといった不都合が生じる恐れがあり、上記上限値を超えると凝集物が多量に発生し、最悪の場合はゲル化といった不都合が生じる恐れがある。数平均分子量は、GPCで測定されたポリスチレン換算値である。また、本発明においては分子量50,000以下を有する化合物をオリゴマーとよぶ。
【0030】
高分子乳化剤としては、例えば、カルボキシル基含有(共)重合体又はその塩、カルボン酸エステル含有(共)重合体、及びウレタン樹脂から選ばれる1以上の高分子乳化剤が挙げられる。より好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸塩共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上の高分子化合物が挙げられる。
【0031】
ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸塩共重合体、及びスチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む乳化剤としては、JONCRYL JDX-6500(不揮発分30%)、JONCRYL JDX-6102B(不揮発分24.5%)、JONCRYL HPD-96J(不揮発分34%)、及びJONCRYL 52J(不揮発分60%)(いずれもBASF社製)、E-1048、及びHE-1335(不揮発分45.5%)(星光PMC社等)が挙げられる。
【0032】
ポリ(メタ)アクリル酸としては、アロン(東亜合成社製、ポリアクリル酸系)ポリアクリレートが挙げられる。
【0033】
ポリウレタン樹脂としてはハイドランWLS-213(DIC社製、不揮発分34%~36%)などが挙げられる。
【0034】
該(D)高分子乳化剤の量は上記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し5~70質量部であり、好ましくは20~60質量部である。上記市販品のように、高分子乳化剤と溶剤とを含む場合には、上記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、固形分量で5~70質量部であり、好ましくは20~60質量部である。5質量部未満であるとアクリルモノマーが反応しないで多く残ってしまうという不具合がある。
【0035】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンは、上記(A)成分及び(B)成分と、必要に応じて(C)成分とを(D)高分子乳化剤の存在下で乳化し、重合させる方法により得られる。詳細には、(A)及び(B)成分と必要に応じて(C)成分との混合物を、ラジカル開始剤存在下で、(D)高分子乳化剤に50~90℃の条件にて、所定時間内(3時間~)に2~10回の追加、または連続的に滴下しながら反応させる。
【0036】
ラジカル開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、及びAIBNなどが挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、及びアミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。
【0037】
更にポリマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0038】
重合温度は50~90℃が好ましく、50~70℃が更に好ましい。
【0039】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンは、平均粒子径300nm以下を有し、好ましくは50~250nm、更に好ましくは50~200nmを有する。平均粒径が大きすぎる場合には、透明なコーティング材が得られず、小さすぎる場合には、分散性が低下する問題がある。スターバースト、高圧ホモジナイザー、連続式乳化機、コロイダルミル、及び、二―ダーなど公知の方法で微粒化する事も可能である。エマルジョンの平均粒子径は、例えば大塚電子社製FPAR-1000を用い、動的光散乱法にて測定できる。
【0040】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンは、最低造膜温度(MFT)50℃以下を有することが好ましい。好ましくは0~50℃、より好ましくは0~20℃、さらに好ましくは0~15℃である。これにより、室温、気温の低い環境下でも、良好に皮膜を形成することができる。MFTが上記上限値を超えると、室温で乾燥を行った場合に塗膜にひび割れが発生してしまう恐れがある。前記最低造膜温度は塗膜組成物を乾燥させた際に亀裂のない均一な皮膜が形成される最低温度であり、JIS K 6828-2:2003に記載の方法により測定することができる。
【0041】
アクリル樹脂エマルジョンの固形分は25~50質量%が好ましい。また、粘度(25℃)は、500mPa・s以下が好ましく、20~300mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。なお、エマルジョンの残部は水であり、必要により有機溶剤を含有してもよい。水の量は特に制限されず、好ましくはエマルジョンの固形分が25~50質量%となる量である。
【0042】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンは、長期の保存安定性が良好であり、且つ、透明性、耐水性、耐塩水性、及び撥水性に優れた塗膜を形成する事ができるため、塗料組成物として好適に用いられる。
【0043】
本発明の塗料組成物には、前記アクリル樹脂エマルジョンに加えて、その他の有機樹脂、防汚剤、顔料、可塑剤、その他の添加物などを使用することができる。
【0044】
前記その他の有機樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、塩化ゴム、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合物、塩化ビニル-イソブチルビニルエーテル共重合物などの合成樹脂やロジン、ロジン金属塩または変性ロジンなどの天然樹脂があげられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0045】
前記防汚剤としては、たとえば、亜酸化銅、ロダン銅、銅粉、2-メルカプトピリジン-N- オキシド銅などの銅化合物、2-メルカプトピリジン-N-オキシド亜鉛、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメートなどの亜鉛化合物、2,4,5 ,6-テトラクロロイソフタロニトリル、3 ,4-ジクロロフェニルジメチル尿素、4 ,5-ジクロロ-2-N-オクチル-3-(2H)-イソチアゾリン、N,N-ジメチル-N ′-フェニル( N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート、ピリジントリフェニルボラン、2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾールなどの金属を含まない化合物などがあげられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0046】
前記顔料としては、特に限定されるものではないが、たとえば、ベンガラ、タルク、酸
化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛などがあげられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0047】
前記可塑剤、その他の添加物としては、特に限定されるものではないが、たとえば、ト
リクレジルフォスフェート、ジオクチルフタレート、塩素化パラフィン、流動パラフィン、ポリブテンなどの可塑剤、ベントナイト、酸化ポリエチレン、各種のアミド化合物などの揺変剤、染料、消泡剤、水結合剤、有機溶剤などがあげられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
本発明の塗料組成物を基材、例えば、プラスチック(PET、PI、合成皮革等)、硝子(汎用ガラス、SiO2等)、金属(Si、Cu、Fe、Ni、Co、Au、Ag、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、それらの合金等)、木材、紙、セラミック(酸化物、炭化物、窒化物等の焼成物など)などの基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温~150℃)すると、基材の長所を維持しながら、本樹脂の耐水性の利点を、長期に亘って付与することができる。
【0049】
ここで金属素材としては、SUSやSPHCなどが挙げられる。金属素材のコーティング用途として船底、船体、車装、車体、建築資材などが挙げられる。
【0050】
プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。プラスチック加工品としては、自動車内装材や有機ガラス、電材や建材、建築物の外装材、液晶ディスプレイ等に使用する光学フィルム、光拡散フィルム、携帯電話、家電製品等がある。
【0051】
ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用される。ガラス加工品としては、建築用板ガラス、自動車等車両用ガラス、レンズ用ガラス、鏡用ガラス、ディスプレイパネル用ガラス、太陽電池モジュール用ガラス等がある。
【0052】
木材基材としては、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科等の木材が使用される。木材加工品としては、木そのものを原料とする加工及び成形品、合板及び集成材及びそれらの加工及び成形品、及びそれらの組み合わせから選択されるものであってよく、例えば、建物の外装及び内装用資材を包含する住建築用資材、机などの家具類、木のおもちゃ、楽器等がある。
【0053】
本発明の塗料組成物を基材へコーティングする方法は、特に限定しないが、例えば、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、スクリーンコーター、カーテンコーター、刷毛塗りなどの各種コーターによる塗布方法、スプレー塗布、浸漬等が挙げられる。
【0054】
本発明の塗料組成物の基材への塗布量は、特に限定しない。通常は、施工作業性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは5~100g/m2の範囲または厚さ1~500μm、好ましくは5~100μmで形成する。成膜は室温乾燥でもよく、また、100~200℃に加熱乾燥して成膜させてもよい。
【0055】
本発明の塗料組成物は特に、水中及び海水中で使用される物品の塗料として好適に用いられ、水中塗料及び海中塗料として好適である。特には、本発明の塗料組成物から得られる塗膜は耐塩水性が良好であり、船舶の船底、海中構築物、発電所導水管、養殖用または定置用の漁網もしくはこれらに使用される浮き子、ロープなどの漁網付属具などの海中物品類の表面に塗布する、海中防汚塗料として好適である。
【実施例0056】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0057】
[アクリル樹脂エマルジョン]
[実施例1]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、JDX-6500(ポリアクリル酸オリゴマー、数平均分子量10000、不揮発分30%)630gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)70g、メトキシエチルアクリレート(MEA)87.5g、及びトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)192.5gの混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下して、上記混合物を乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)31%を有する、乳白色のアクリル樹脂エマルジョンを得た。
【0058】
[実施例2]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、JDX-6500(ポリアクリル酸オリゴマー、数平均分子量10000、不揮発分30%)291.5gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、アクリル酸メチルブチル(BA)87.5g、メトキシエチルアクリレート(MEA)70g、及びトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)192.5gの混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下して、上記混合物を乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)29%を有する、乳白色のアクリル樹脂エマルジョンを得た。
【0059】
[実施例3]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、JDX-6500(ポリアクリル酸オリゴマー、数平均分子量10000、不揮発分30%)630gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)87.5g、及びトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)262.5gの混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下して、上記混合物を乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)30%を有する乳白色のアクリル樹脂エマルジョンを得た。
【0060】
[実施例4]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、JDX-6500(ポリアクリル酸オリゴマー、数平均分子量10000、不揮発分30%)630gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)262.5g、及びトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)87.5gの混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下して、上記混合物を乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)30%を有する乳白色のエマルジョンを得た。
【0061】
[実施例5]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、WLS-213(ウレタン樹脂、数平均分子量25000、不揮発分30%)630gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)70g、メトキシエチルアクリレート(MEA)87.5g、及びトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)192.5gの混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下して、上記混合物を乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)30%を有する乳白色のエマルジョンを得た。
【0062】
[比較例1]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、JDX-6500(ポリアクリル酸オリゴマー、数平均分子量10000、不揮発分30%)630gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、メタクリル酸メチル350gを、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下して、上記混合物を乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)30%を有する乳白色のエマルジョンを得た。
【0063】
[比較例2]
撹拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた3L重合容器に、イオン交換水500gを仕込み、15分間窒素ガス置換したのち、70℃に昇温した。次に、別の容器にて、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)70g、メトキシエチルアクリレート(MEA)87.5g、トリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)192.5g、サンモリンOT-70(花王(株)製)3g、ノイゲンXL-41(第一工業製薬社製)16g、ノイゲンXL-400(第一工業製薬社製)28g、及びイオン交換水400gをホモジナイザーで混合乳化させて乳化液を得た。該乳化液と、過硫酸カリウム3g及びイオン交換水100gの混合物とを、別々に、上記重合容器へ撹拌しながら4時間を要して均一に滴下させた。更に、70℃で2時間反応させて重合を完結させた。冷却後、25%アンモニア水を添加してpHを7に調整した。得られた合成樹脂エマルジョンの固形分は40.4%であった。
【0064】
[比較例3]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、JDX-6500(ポリアクリル酸オリゴマー、数平均分子量10000、不揮発分30%)630gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、メタクリル酸メチル192.5g、メトキシエチルアクリレート(MEA)140g、及びトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)17.5gの混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下して、上記混合物を乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)29%を有する乳白色のエマルジョンを得た。
【0065】
[比較例4]
攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水770g、炭酸ナトリウム2g、JDX-6500(ポリアクリル酸オリゴマー、数平均分子量10000、不揮発分30%)933gを入れた容器を窒素置換し、撹拌機で攪拌しながら、内溶液の温度が60℃になるまで加熱した。内溶液の温度を60℃±1℃に維持しながら、窒素気流下、トリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)350gを、滴下ロートを用いて3時間かけて滴下しながら、イオン交換水45gに溶解した過硫酸アンモニウム(APS)1gを4時間かけて滴下し、トリイソプロピルシリルメタクリレートを乳化重合した。反応終了後、40℃以下に冷却し、105℃で1時間乾燥後の不揮発分(固形分)29%を有する乳白色のエマルジョンを得た。
【0066】
<固形分の測定方法>
各例の樹脂エマルジョン(試料)約1gをアルミ箔製の皿に正確に量り取り、約105℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R:蒸発残分(%)
W:乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L:アルミ箔皿の質量(g)
T:乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0067】
<pHの測定方法>
各エマルジョンのpHをJIS Z8802(pH測定方法)によりpHメーターを用いて25℃で測定した。
【0068】
<最低造膜温度(MFT)の測定方法>
エマルジョンの最低造膜温度(MFT)をJIS K-6828-2に準拠する方法にて測定した。詳細には、加熱源と冷却源とが一定の距離をおいて設置された簡易造膜温度測定装置(井元製作所製)を使用した。アルミホイルにエマルジョンを1mil塗布し、2h後の塗膜状態を、該装置を使用して観察した。エマルジョンを温度こう配のもとで乾燥させ、造膜して透明な部分と、造膜していない部分との境界温度を測定して、最低造膜温度(MFT、℃)とした。
【0069】
<エマルジョン粒子の平均粒子径の測定方法>
上記得たエマルジョンをさらにイオン交換水で希釈して固形分:0.5~2%の溶液とし、大塚電子社製FPAR-1000を用い動的光散乱法にてエマルジョン粒子径を測定した。
【0070】
<経時安定性の評価>
エマルジョンを室温(25℃)で3カ月保管した。保管後のエマルジョンの平均粒子径を上述した方法にて測定した。製造直後のエマルジョンに対し粒径が20%を超える範囲で増大しないものを〇と評価する。
【0071】
<成膜方法>
鋼板(日本テストパネル社製、SPHC両面サンドブラスト処理)にエポキシ樹脂系さび止め塗料(バンノー500S、中国塗料製)を乾燥膜厚100μmになるように刷毛塗りした。乾燥後、該膜上にエマルジョンを乾燥膜厚100μmになるように刷毛塗りし、室温で乾燥させ塗膜サンプルを作成した。
【0072】
<ヘーズ値の測定>
スライドガラス(ヘーズ値0.70%)へエマルジョンを乾燥膜厚約7μmになるように塗布し、バーコーターNo.10で、室温で乾燥させて塗膜を形成した。製品名「ヘーズメーター NDH7000」(日本電色工業社製)にて上記塗膜を有するスライドガラスのヘーズ値を測定した。
【0073】
<水接触角の測定>
上記塗膜サンプルに0.2μLの水滴を滴下してから30秒後の接触角を協和界面化学社製自動接触角計DCA-VZにて測定した。
【0074】
<耐塩水性>
塩化ナトリウムをイオン交換水に3.5%溶解したものを海水と想定し、上記塗膜サンプルを数日間浸漬して、塗膜の状態を目視により観察した。白化、はがれ、及びひび割れがなければ問題なしとして、経過観察を行った。白化、はがれ、またはひび割れという皮膜異常を確認した段階で観察を停止して終点とした。終点までの日数を表1に示す。
【0075】
【表1】
TIPSMA:トリイソプロピルシリルメタクリレート(信越化学工業社製)
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸ブチル
2-EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
MEA:メトキシエチルアクリレート
JDX-6500:BASF社製 ポリアクリル酸塩系オリゴマー(数平均分子量10000)
WLS-213:DIC社製ハイドランWLS-213 水性ポリウレタン樹脂(数平均分子量25000)
【0076】
[実施例6]
イオン交換水25部、BYK-190(湿潤分散剤、Byk-Chemie社製)2部、酸化チタン(タイペークCR-95(石原産業社製)平均粒子径0.28μm、ルチル型酸化チタン)20部、タルクMS(日本タルク社製)およびガラスビーズ(直径:1mm)100部をホモディスパーで回転速度3000rpmにて60分間分散させた後、100メッシュの金網で濾過することにより、白色ペーストを調製した。その中に実施例1で得たエマルジョンを371部添加し、塗料組成物を得た。
[実施例7~10、比較例6~9]
エマルジョンを下記表2の配合に変更した他は上記実施例6を繰り返して塗料組成物を得た。
【0077】
<成膜方法>
鋼板(日本テストパネル社製、SPHC両面サンドブラスト処理)にエポキシ樹脂系さび止め塗料(バンノー500S、中国塗料製)を乾燥膜厚100μmになるように刷毛塗りした。乾燥後、該塗膜上に上記塗料組成物を乾燥膜厚100μmになるように刷毛塗りし、室温で乾燥させて塗膜サンプルを得た。
【0078】
各塗膜サンプルの水接触角及び耐塩水性を上述した方法にて評価した。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表1及び2に示す通り、本発明のアクリル樹脂エマルジョンは、透明性、耐水性、耐塩水性、及び撥水性を有する塗膜を与えることができ、さらに長期間の保存安定性にも優れる。また、本発明のアクリル樹脂エマルジョンは、最低造膜温度(MFT)50℃以下を有するため、室温でも良好に皮膜を形成することができる。