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特開2022-149900粉末積層造形法用粉末、粉末積層造形法、造形品、および、粉末積層造形法用粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022149900
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】粉末積層造形法用粉末、粉末積層造形法、造形品、および、粉末積層造形法用粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/153 20170101AFI20220929BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220929BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220929BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052243
(22)【出願日】2021-03-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TSK Gel
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】谷山 香
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA11
4F213AA19
4F213AB16
4F213AC04B
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL25
4F213WL26
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】樹脂が本来持つ特性を損なうことなく、粉末の積層形成性(散布性)が良好であり、造形精度(造形物の表面粗度等)も良好、つまり、造形時に厚みが均一で欠損のない粉末層を形成することができ、目的とする造形品を精度よく製造することができる粉末積層造形法用粉末を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含み、所定の測定条件で測定されるX線光電子分光分析法により同定される、粉末表面に含まれる下記元素成分Xの含有率が7atm%以上35atm%以下である粉末積層造形法用粉末。
元素成分X:Si、Al、Fe、Ca、Mgからなる群から選ばれる1つ以上
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含み、下記の測定条件[1]で測定されるX線光電子分光分析法により同定される、粉末表面に含まれる下記元素成分Xの含有率が7atm%以上35atm%以下である粉末積層造形法用粉末。
測定条件[1]:
測定機器:X線光電子分光分析K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
測定モード:ナロウモード
励起X線:monochromatic Al Kα(50μm)
X線照射エリアサイズ:400×200μm
元素成分X:Si、Al、Fe、Ca、Mgからなる群から選ばれる1つ以上
【請求項2】
CWるつぼに入れ、小型ボックス炉(光洋サーモシステム社、KBF894N1)を用いて空気雰囲気下、650℃で2時間加温し、残渣を計量することによって測定される粉末中の灰分が0.01%以上7%以下である、請求項1に記載の粉末積層造形法用粉末。
【請求項3】
粒度分布としてD50が5μm以上110μm以下である、請求項1または2に記載の粉末積層造形法用粉末。
【請求項4】
円形度の最頻値が0.6以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂のDSCチャートにおける融解熱量が50J/g以上120J/g以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂の融点が90℃以上230℃以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が60,000以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末を用いる粉末積層造形法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末を用いた造形品。
【請求項10】
溶融可能なマトリックス成分に、該マトリックス成分とは相溶しない樹脂を分散させた後に、マトリックス成分を除去して樹脂粒子を製造する方法であって、
前記マトリックス成分を除去する際に助剤を添加する、粉末積層造形法用粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末積層造形法用粉末、粉末積層造形法、造形品、および、粉末積層造形法用粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元造形法の一つである粉末積層造形法は、樹脂などの粉末材料の薄層を、加熱手段を用いて該樹脂粉末の融点近傍の温度に加熱、焼結して造形し、それを繰り返して積層体を形成することにより3次元造形品を得る方法である。
粉末材料の薄層を形成するには、造形テーブル(造形ステージとも言う)上に粉末材料を散布し、これをリコータ(ブレード又はローラ)でならして(以下、この操作を「塗布」または「充填」と称す場合がある)均一厚みの粉末層とする。
【0003】
粉末層の造形エリアに、加熱手段によりレーザ等の加熱媒体を照射して、粉末を溶融焼結させた後、同様の操作を繰り返して積層造形を行う。この際、加熱手段としては、レーザあるいは赤外線ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプなどが用いられる。粉末を塗布して粉末層を形成した後、加熱媒体の吸収効率を向上させるため、粉末層の造形エリアに所定の媒体を塗布する手法もある。
粉末積層造形法は金型を使用する必要がなく、ある程度耐熱性を有するものであれば多様な樹脂粉末を原料として使用することができ、得られる造形品の信頼性も高いことから、近年注目されている技術である。
【0004】
このような粉末積層造形法において、特許文献1のように粉末に良好な滑り性あるいは流動性を付与し、粉末を薄層に展開する薄層形成を可能にしたり、微小粉末とすることで、かさ密度あるいは充填率を高め、造形物に高密度で高い機械的強度を付与しようという試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-321711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、本発明者の検討により、特許文献1のように滑り性や流動性を付与しているのみでは、粉末の積層形成性(散布性)が不良となったり、造形精度(造形物の表面粗度等)も不良となることが明らかになった。
より具体的には、例えば、粉末積層造形法は粉末を造形する際、粉末粒子の平均粒子径が小さいため、粒子と粒子の接触面積が増加し、静電気的に粒子と粒子が引かれあうことにより粉末同士が凝集するという問題がある。粉末が凝集し塊状になると、造形テーブル上に均一な厚みの粉末層を円滑に形成することができず、厚みムラがあったり、粉末の存在しない箇所(ボイドまたは欠損箇所)が形成されたりする。このような不均一な粉末層に加熱媒体を照射しても、均一な溶融状態を得ることはできない。また、造形精度も損なわれ、多くの場合、目的とする造形品を得ることができない。
【0007】
上記のような粉末の凝集を避ける方法として、助剤の添加、特にシリカ、アルミナ等の分散剤の添加が挙げられる。しかしながら、本発明者の検討の結果、樹脂粉末に分散剤を乾燥状態で混合し(以下、「ドライブレンド」という場合がある。)、粉末を分散剤で被覆しようとすると、ドライブレンドによって樹脂粉末に混合された分散剤のうち、いくつかの分散剤は粉末表面に凝集した状態で付着してしまうため、添加量に対して分散剤の効果を得づらく、また、樹脂粉末に未付着の分散性向上に寄与しない余剰の分散剤が存在し、これが造形物の特性に悪影響を及ぼし、耐熱性や機械特性といった樹脂が本来持つ特性が損なわれてしまうことが明らかになった。
【0008】
そこで、本発明は、樹脂が本来持つ特性を損なうことなく、粉末の積層形成性(散布性)が良好であり、造形精度(造形物の表面粗度等)も良好、つまり、造形時に厚みが均一で欠損のない粉末層を形成することができ、目的とする造形品を精度よく製造することができる粉末積層造形法用粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、樹脂粉末表面に薄く均一に分散剤が付加されている粉末積層造形用粉末を用いて粉末積層造形を行うことにより、上記課題が解決可能であることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記<1>~<10>に関するものである。
<1>
熱可塑性樹脂を含み、下記の測定条件[1]で測定されるX線光電子分光分析法により同定される、粉末表面に含まれる下記元素成分Xの含有率が7atm%以上35atm%以下である粉末積層造形法用粉末。
測定条件[1]:
測定機器:X線光電子分光分析K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
測定モード:ナロウモード
励起X線:monochromatic Al Kα(50μm)
X線照射エリアサイズ:400×200μm
元素成分X:Si、Al、Fe、Ca、Mgからなる群から選ばれる1つ以上
<2>
CWるつぼに入れ、小型ボックス炉(光洋サーモシステム社、KBF894N1)を用いて空気雰囲気下、650℃で2時間加温し、残渣を計量することによって測定される粉末中の灰分が0.01%以上7%以下である、<1>に記載の粉末積層造形法用粉末。
<3>
粒度分布としてD50が5μm以上110μm以下である、<1>または<2>に記載の粉末積層造形法用粉末。
<4>
円形度の最頻値が0.6以上である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
<5>
前記熱可塑性樹脂のDSCチャートにおける融解熱量が50J/g以上120J/g以下である<1>~<4>のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
<6>
前記熱可塑性樹脂の融点が90℃以上230℃以下である<1>~<5>のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
<7>
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が60,000以上である<1>~<6>のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末。
<8>
<1>~<7>のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末を用いる粉末積層造形法。
<9>
<1>~<7>のいずれか1項に記載の粉末積層造形法用粉末を用いた造形品。
<10>
溶融可能なマトリックス成分に、該マトリックス成分とは相溶しない樹脂を分散させた後に、マトリックス成分を除去して樹脂粒子を製造する方法であって、
前記マトリックス成分を除去する際に助剤を添加する、粉末積層造形法用粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂が本来持つ特性を損なうことなく、粉末の積層形成性(散布性)が良好であり、造形精度(造形物の表面粗度等)も良好、つまり、造形時に厚みが均一で欠損のない粉末層を形成することができ、目的とする造形品を精度よく製造することができる粉末積層造形法用粉末を提供することができる。
また、本発明の粉末積層造形法用粉末の製造方法によれば、このような粉末積層造形法用粉末を、簡便に効率良く製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0013】
[粉末積層造形法用粉末]
本発明の粉末積層造形法用粉末は、熱可塑性樹脂を含み、下記の測定条件[1]で測定されるX線光電子分光分析法により同定される、粉末表面に含まれる下記元素成分Xの含有率が7atm%以上35atm%以下であることを特徴とする。
測定条件[1]:
測定機器:X線光電子分光分析K-Alpha
(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
測定モード:ナロウモード
励起X線:monochromatic Al Kα(50μm)
X線照射エリアサイズ:400×200μm
元素成分X:Si、Al、Fe、Ca、Mgからなる群から選ばれる1つ以上
【0014】
<本発明が効果を奏する理由>
本発明が効果を奏する理由は、未だ明らかでないが、以下のように推察される。つまり、本発明の粉末積層造形法用粉末は、その製造過程において水溶性樹脂介在させることにより、粉末表面の水溶性樹脂が助剤を吸着し、従来品より助剤を効率よく付着させることができる。また、助剤を効率よく付着させることにより、粉末に含まれる熱可塑性樹脂の特性を損ねることなく、造形時の散布性を向上させることができるものと推察される。さらに、散布性よく散布された本発明の粉末積層造形法用粉末は、粉末同士が密に積層されているのみならず、助剤等が造形性に悪影響を与えることがないため、造形精度(造形物の表面粗度等)も良好となるものと推察される。
【0015】
<熱可塑性樹脂の組成>
本発明の粉末積層造形法用粉末に用いる熱可塑性樹脂は、造形する成形体に付与する機能に応じて適宜選択することができる。
例えば、非晶性樹脂、結晶性樹脂、熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの中でも、粉末積層造形性が良好である点から、非晶性樹脂、結晶性樹脂が好ましい。これらの具体例は、以下のとおりである。
【0016】
非晶性樹脂:アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミドなどが挙げられ、これらの中でも、粉末積層造形性が良好である点から、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートが好ましく、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートがより好ましく、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートがさらに好ましく、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートが特に好ましく、ポリカーボネートが最も好ましい。
【0017】
結晶性樹脂:ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンなどが挙げられ、これらの中でも、粉末積層造形性が良好である点から、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンが好ましく、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンがより好ましく、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテルケトンがさらに好ましく、ポリオレフィン、ポリエステルが最も好ましい。
【0018】
熱可塑性エラストマー:オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びそれらの混合物が挙げられる。
本発明の粉末積層造形法用粉末に用いる熱可塑性樹脂は、これらの樹脂に限定されるものではなく、さらに1種、もしくは2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
【0019】
<熱可塑性樹脂の物性>
(融解熱量)
本発明の粉末積層造形法用粉末に用いる熱可塑性樹脂のDSCチャートにおける融解熱量は、耐熱性と造形時に必要なエネルギー量の観点から、好ましくは50J/g以上、より好ましくは55J/g以上、さらに好ましくは60J/g以上、特に好ましくは70J/g以上、最も好ましくは80J/g以上で、好ましくは120J/g以下、より好ましくは110J/g以下、さらに好ましくは100J/g以下、特に好ましくは90J/g以下、最も好ましくは80J/g以下である。
【0020】
(融点)
本発明の粉末積層造形法用粉末に用いる熱可塑性樹脂の融点の下限は特に限定されないが、得られる造形品の耐熱性の観点から、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましく、115℃以上であることが特に好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。本発明の粉末積層造形法用粉末に用いる熱可塑性樹脂の融点の上限は特に限定されないが、造形時の材料融解に必要なエネルギー所要量の観点から、230℃以下であることが好ましく、215℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましく、185℃以下であることが特に好ましく、170℃以下であることが最も好ましい。
【0021】
(分子量)
本発明の粉末積層造形法用粉末に用いる熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)の下限は、結晶性の観点から60,000を以上であることが好ましく、70,000以上であることがより好ましく、80,000以上であることがさらに好ましく、90,000以上であることが特に好ましく、100,000以上であることが最も好ましい。上限については特に制限されないが、造形性の観点から、350,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、280,000以下がさらに好ましく、260,000以下が特に好ましく、250,000以下が最も好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂の融解熱量、融点、重量平均分子量(Mw)は、例えば、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
本発明の粉末積層造形用粉末中の熱可塑性樹脂の含有量の下限値は、特に限定されないが、造形性の観点から、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、92質量%以上であることがさらに好ましく、94質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以上であることが最も好ましい。本発明の粉末積層造形用粉末中の熱可塑性樹脂の含有量の上限値は、特に限定されないが、通常好ましくは99.9質量%以下である。
【0023】
<水溶性樹脂>
本発明の粉末積層造形法用粉末は、その製造過程において水溶性樹脂介在させるものであり、水溶性樹脂を含んでいても良い。
【0024】
本発明の粉末積層造形法用粉末に用いられる水溶性樹脂中の水酸基量の下限値、30質量%以上であることが好ましく、多成分同士の界面を安定させる観点から32質量%以上がより好ましく、34質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、36質量%以上が特に好ましく、37質量%以上が最も好ましい。また、本発明の粉末積層造形法用粉末に用いられる水溶性樹脂に含まれる水酸基量の上限値は特に限定されないが、精製の容易性を担保する観点から、50質量%以下が好ましく、48質量%以下がより好ましく、46質量%以下がさらに好ましく、44質量%以下が特に好ましく、42質量%以下が最も好ましい。
【0025】
なお、水溶性樹脂の水酸基量については、H-NMR法(核磁気共鳴法)により算出することができる。
水溶性樹脂としては、前記条件を満たしていれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール類が挙げられる。また、ポリビニルアルコール類の具体例としては、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体等の二重結合を有するジオールとビニルアルコールの共重合体、スルホン酸基含有ビニルアルコール共重合体、オキシアルキレン基含有ビニルアルコール共重合体、カルボン酸基含有ビニルアルコール共重合体、アセトアセチル基含有ビニルアルコール共重合体が挙げられ、これらの中でも、親水性が高いことから、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体等の二重結合を有するジオールとビニルアルコールの共重合体、スルホン酸基含有ビニルアルコール共重合体がより好ましく、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体等の二重結合を有するジオールとビニルアルコールの共重合体がさらに好ましく、中でも、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体が最も好ましい。
【0026】
本発明の粉末積層造形法用粉末に用いられる水溶性樹脂に含まれる酸素原子をX線光電子分光分析で測定することにより算出される粒子表面の含有量の下限は、0.01atm%以上であることが好ましく、助剤の付加率の観点から、0.05atm%以上であることがより好ましく、0.1atm%以上がより好ましく、0.2atm%以上であることがさらに好ましく、0.5atm%以上であることが特に好ましく、0.8atm%以上であることが最も好ましい。また、上限は30atm%以下であることが好ましく、造形性の観点から、20atm%以下であることがより好ましく、17atm%以下がより好ましく、15atm%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
<助剤>
本発明の粉末積層造形法用粉末は、助剤を含んでいることが好ましく、助剤としては、分散剤、安定剤、以下に記載する「他の成分」等が挙げられる。これらのなかでも、本発明の作用機序に大きく影響することから、分散剤、安定剤を用いることが好ましい。
【0028】
(分散剤)
本発明の粉末積層造形法用粉末は分散剤を含有することが好ましい。
分散剤としては、シリカ、アルミナ、珪酸アルミニウム、コロイダルシリカゲル、パーライト、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、セメント、チョーク粉末、クレー、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム/炭酸マグネシウム混合物、珪藻土、無水ケイ酸などが挙げられる。中でも本発明においては、化学的、物理的な安定性から、シリカ、アルミナが好ましく、シリカがより好ましい。
【0029】
(安定剤)
本発明の粉末積層造形法用粉末は安定剤を含有することが好ましい。
安定剤としては、フェノール系安定剤、アミン系安定剤、リン系安定剤、チオエーテル系安定剤などが挙げられる。中でも本発明においては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましく、フェノール系安定剤がより好ましい。
【0030】
フェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましく、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(β-ラウリルチオプロピオネート)、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0031】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(β-ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
このようなフェノール系安定剤としては、具体的には、BASF社製(商品名、以下同じ)「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」、「アデカスタブAO-412S」等が挙げられる。
【0032】
本発明の粉末積層造形法用粉末の粉末表面の元素成分Xの含有率の下限は、助剤の効果を効率的に発現させる観点から、7atm%以上が好ましく、8.5atm%以上がより好ましく、10atm%以上がさらに好ましく、15atm%以上が特に好ましく、20atm%以上が最も好ましい。また、本発明の粉末積層造形法用粉末の粉末表面の助剤の含有率の上限は、樹脂の特性を損なわせない観点から、35atm%以下が好ましく、33atm%以下がより好ましく、30atm%以下がさらに好ましく、28atm%以下が特に好ましく、26atm%以下が最も好ましい。
またこの際、元素成分Xは、Si、Al、Fe、Ca、Mgからなる群をから選ばれる1つ以上を表す。
【0033】
本発明の粉末積層造形法用粉末は、粉末全体の助剤の含有率の下限は、助剤の効果を効率的に発現させる観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.3%質量以上がさらに好ましく、0.8質量%以上が特に好ましく、1質量%以上が最も好ましい。また、本発明の粉末積層造形法用粉末の粉末表面の助剤の含有率の上限は、樹脂の特性を損なわせない観点から、7質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、4質量%以下が特に好ましく、3質量%以下が最も好ましい。
【0034】
本発明の粉末積層造形法用粉末をCWるつぼに入れ、小型ボックス炉(光洋サーモシステム社、KBF894N1)を用いて空気雰囲気下、650℃で2時間加温し、残渣を計量することによって測定される粉末中の灰分が0.01%以上であることが好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましく、0.5%以上が特に好ましく、1%以上が最も好ましい。また、7%以下であることが好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3%以下が特に好ましく、2%以下が最も好ましい。粉末中の灰分は、粉末積層造形法用粉末中の助剤の含有量を測る指標であり、助剤の効果を効率的に発現させる観点上記下限以上であることが好ましく、樹脂の特性を損なわせない観点から上記上限以下であることが好ましい。
【0035】
<他の成分>
本発明の粉末積層造形法用粉末は、上述した成分以外の樹脂成分や添加剤を含んだ粉末積層造形法用粉末としてもよい。
他の添加剤としては、結晶核剤、酸化防止剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、無機繊維、有機繊維、無機粒子および有機粒子が例示される。
難燃剤としては、例えば、特開2015-025127号公報の段落0033~0040に記載の化合物を挙げることができ、本明細書に組み込まれる。
【0036】
<粉末積層造形法用粉末の製造方法>
(前駆体である樹脂組成物およびその製造)
本発明の粉末積層造形法用粉末の前駆体である樹脂組成物の製造方法は、各成分を含有するものとなれば特に限定されない。本発明の樹脂組成物は、各成分を混合し溶融混練して製造することができる。例えば、上記の熱可塑性樹脂、水溶性樹脂、安定剤、および、さらに必要により配合する他の成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどで溶融混練することによって樹脂組成物を製造することができる。
【0037】
樹脂組成物における、熱可塑性樹脂と、水溶性樹脂の配合割合は、樹脂組成物全体を100質量%として、20~60質量%:40~80質量%(熱可塑性樹脂:水溶性樹脂)が好ましく、30~50質量%:50~70質量%がより好ましい。
【0038】
また、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、樹脂組成物を製造することもできる。
さらに、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合して溶融混練することによって、樹脂組成物を製造することもできる。
溶融混練に際しての加熱温度は、通常150~300℃の範囲から適宜選ぶことができる。この加熱温度が高すぎると樹脂の劣化が進んだり、分解ガスが発生しやすくなる恐れがあるそのため、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練時や、後工程の成形時の分解を抑制するため、安定剤や酸化防止剤の使用が望ましい。
【0039】
(粉末化)
本発明の粉末積層造形法用粉末を製造するための粉末化手段としては、融点付近で溶融させた樹脂組成物を繊維状にした後切断する溶融造粒や、樹脂組成物よりなる樹脂材料に衝撃やせん断を加えることにより切断または破壊する粉砕や、溶融可能なマトリックス成分に、マトリックス成分とは相溶しない樹脂を分散させた後に、マトリックス成分を除去して樹脂粒子を製造方法(溶融混錬)がある。3次元造形における粉末の塗布性向上のため、粉末の形状は丸みを帯びていること、即ち円形度が大きいことが好ましいことから、このような好適形状の粉末が得られるように、本発明の粉末積層造形法用粉末に含まれる熱可塑性樹脂に対して好適な粉末方式を選択することが好ましい。
粉砕による粉末化を行った場合には、粉砕された粉末の中から延伸された粉末を除去して円形度を拡大する観点から、粉砕後に分級工程を行うことが好ましい。
この場合、分級方法としては、風力分級、篩分級等が挙げられる。
【0040】
(助剤の添加方法)
本発明の粉末積層造形法用粉末に添加する助剤の添加方法は、特に限定されないが、マスターバッチ法、ドライブレンド法、溶融混錬でマトリックス成分を除去する際に助剤を添加する方法(ブレンドインスラリー)などが挙げられる。中でも、粉末に薄く均一に助剤を添加する観点からブレンドインスラリーが好ましい。
【0041】
<粉末積層造形法用粉末の物性>
本発明の粉末積層造形法用粉末の融点は、特に限定されないが、得られる造形品の耐熱性の観点から、下限は90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、105℃以上であることが特に好ましい。また、上限は、230℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましく、215℃以下であることがさらに好ましく、210℃以下であることが特に好ましく、205℃以下であることが最も好ましい。
【0042】
本発明の粉末積層造形法用粉末の粒度分布のうち、体積比率が10%を占めるD10は、特に限定されないが、粉末層形成時の均一な散布性、散布率(ここで、散布率は、後述の実施例の項に記載の方法で求められるものであり、塗布性の指標となる。)の観点から、通常、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは6μm以上、特に好ましくは7μm以上、最も好ましくは8μm以上である。D10の上限は、特に限定されないが、造形テーブル上での粉末塗布時、粉末同士の空隙への充填性の観点から、通常、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
【0043】
本発明の粉末積層造形法用粉末の粒度分布のうち、体積比率が50%を占めるD50は、特に限定されないが、造形時において粉末を所定範囲内の厚さで塗布する観点から、通常、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは12μm以上、特に好ましくは15μm以上、最も好ましくは17μm以上であり、通常、好ましくは110μm以下、より好ましくは95μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは70μm以下、特に好ましくは60μm以下、最も好ましくは50μm以下である。
【0044】
本発明の粉末積層造形法用粉末の粒度分布のうち、体積比率が90%を占めるD90は、特に限定されないが、造形時における解像度の観点から、通常、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、より好ましくは120μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは80μm以下、最も好ましくは50μm以下である。D90の下限については特に制限はないが、造形テーブル上での粉末塗布時における塗布の効率性の観点から、通常、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、より好ましくは22μm以上、さらに好ましくは25μm以上、特に好ましくは28μm以上、最も好ましくは30μm以上である。
【0045】
粉末積層造形法用粉末の粒度分布は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
本発明の粉末積層造形法用粉末の円形度(算術平均値)は、造形時における粉末の散布率の観点から、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.65以上、さらに好ましくは0.66以上、特に好ましくは0.67以上、最も好ましくは0.68以上である。円形度(算術平均値)の上限は通常好ましくは1.0以下である。
【0046】
本発明の粉末積層造形法用粉末の円形度の最頻値は、造形時における粉末の散布率の観点から、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.60以上、さらに好ましくは0.70以上、特に好ましくは0.75以上、最も好ましくは0.8以上である。円形度の上限は通常好ましくは1.0であり、より好ましくは0.99以下、より好ましくは0.98以下、さらに好ましくは0.97以下、特に好ましくは0.96以下、最も好ましくは0.95以下である。
粉末の円形度とは該当粒子の投影面積と同じ面積を有する円の周長を、該当粒子の粒子投影図の輪郭の長さで割った数値であり、円形度測定装置により測定される。
【0047】
[粉末積層造形法]
本発明の粉末積層造形法は、上記の本発明の粉末積層造形法用粉末(以下、本発明の粉末という場合がある。)を用いて本発明の造形品を製造する方法である。
本発明の粉末積層造形法は、通常の粉末積層造形装置を用いて常法に従って行うことができる。
【0048】
粉末積層造形装置としては、例えば、造形ステージ(造形テーブル)と、本発明の粉末の薄層をこの造形ステージ上に形成する薄層形成手段と、形成された薄層にレーザを照射するなどして加熱することで、本発明の粉末の粒子を溶融結合させて造形物層を形成する加熱手段と、造形ステージを積層方向(上下方向)に移動させる移動手段と、これらを制御して薄層形成、加熱、ステージの移動を繰り返し行うことで、造形物層を積層させる制御手段とを有する粉末積層造形装置を用いることができる。
【0049】
例えば、レーザ加熱の場合、この粉末積層造形装置を用いて、以下の工程(1)~(4)を経て造形を行うことができる。
【0050】
(1)本発明の粉末の薄層を形成する工程
(2)予備加熱された薄層にレーザ光を選択的に照射して、本発明の粉末が溶融結合してなる造形物層を形成する工程
あるいは、予備加熱された薄層に選択的に溶融促進剤(樹脂の溶融を促進する成分)、表面装飾剤(層のアウトラインを形成させる成分)を噴霧し、その後に赤外線ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプを全体に照射して、本発明の粉末が溶融結合してなる造形物層を形成する工程
(3)造形ステージを形成された造形物層の厚み分だけ下降させる工程
(4)工程(1)~工程(3)をこの順に複数回繰り返し、造形物層を積層する工程
【0051】
工程(1)では、本発明の粉末の薄層を形成する。例えば、粉末供給部から供給された本発明の粉末を、リコータ(ブレード又はロール)によって造形ステージ上に平らに敷き詰める。薄層は、造形ステージ上に直接形成されるか、既に敷き詰められている本発明の粉末又は既に形成されている造形物層の上に接するように形成される。
【0052】
薄層の厚さは、造形物層の厚さに準じて設定できる。薄層の厚さは、製造しようとする3次元造形物の精度に応じて任意に設定することができる。薄層の厚さは、通常0.01~0.3mm程度である。
工程(2)では、形成された薄層のうち、造形物層を形成すべき位置にレーザを選択的に照射し、照射された位置の本発明の粉末を溶融結合させる。これにより、隣接する本発明の粉末が溶融し合って溶融結合体を形成し、造形物層となる。このとき、レーザのエネルギーを受け取った本発明の粉末は、すでに形成された層とも溶融結合するため、隣接する層間の接着も生じる。レーザが照射されなかった本発明の粉末は余剰粉末として回収され、回収粉末として再利用される。
【0053】
あるいは、レーザを選択的に照射する代わりに、選択的に溶融促進剤(樹脂の溶融を促進する成分)、表面装飾剤(層のアウトラインを形成させる成分)を噴霧し、その後に赤外線ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプを全体に照射して、本発明の粉末を溶融結合させる。レーザの場合と同様に溶融結合されなかった本発明の粉末は余剰粉末として回収され、回収粉末として再利用される。
【0054】
工程(3)では、工程(2)で形成された造形物層の厚さ分だけ造形ステージを下降させて次の工程(1)にそなえる。
粉末積層造形時の造形エリアの温度は、用いる樹脂組成物の融点より5~20℃程度低い温度であることが好ましい。造形時間は、造形品の大きさによって様々である。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[熱可塑性樹脂の物性測定方法]
<融点・融解熱量>
熱可塑性樹脂5~7mgを計量し、サンプルパンに詰め、測定用パンを作製した。示差走査熱量計(パーキンエルマー社、DiamondDSC、入力補償方式)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で20℃から250℃まで昇温した。1回目の昇温測定で得られたDSC曲線の解析を行い、吸熱ピーク立ち上がりの開始点および立ち下りの終了点を結ぶ直線をベースラインとすることで、吸熱ピークの頂点の温度を融点として算出した。また、吸熱ピークからベースラインに引いた縦軸方向の線分の中点における吸熱ピークの幅を半値幅とし、吸熱ピークとベースラインの延長で囲まれた面積を融解熱量として算出した。
【0057】
<重量平均分子量(Mw)>
熱可塑性樹脂を1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールとクロロホルムの1/1質量比の溶液に0.1質量%の濃度に溶解させる。さらにクロロホルムで0.02質量%に希釈する。得られた溶液を0.45μmのPTFEフィルターで濾過し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析用の試料とした。
【0058】
分子量の校正は、分子量既知の12種類のポリスチレンをクロロホルムに溶解して行った。SEC測定は、試料と同じ方法で行った。
分子量の校正曲線は、分子量既知の12種類のポリスチレンの溶出時間とLog分子量でプロットして作成した。
測定条件は以下の通りである。
【0059】
カラム:TSK Gel G5000HHR+G3000HHR
(7.8mm diameter×300mm length×2)
温度:40℃
移動相:0.5%酢酸クロロホルム溶液
流量:1.0mL/min
試料濃度:0.02重量%
注入量:50μL
検出器:UV
検出波長:254nm
分子量校正標準試料:単分散ポリスチレン
【0060】
[粉末積層造形法用粉末の物性測定方法]
<灰分>
粉末積層造形法用粉末をCWるつぼに入れ、小型ボックス炉(光洋サーモシステム社、KBF894N1)を用いて空気雰囲気下、650℃で2時間加温し、残渣を計量することで粉末積層造形法用粉末の灰分とした。
【0061】
<X線光電子分光(ESCA)>
粉末積層造形法用粉末のX線光電子分光測定は、X線光電子分光分析K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて実施した。励起X線は、monochromatic Al Kαであり、X線照射エリアサイズは400×200μmである。粉末積層造形法用粉末のX線光電子分光測定で測定される全元素のピーク面積から、粉末積層造形法用粉末に含まれる以下の特定の元素成分Xの比率を算出し、粉末表面に含まれる元素成分Xの含有率(atom%)を求めた。
元素成分X:Si、Al、Fe、Ca、Mgからなる群から選ばれる1つ以上
【0062】
[粉末積層造形法用粉末の評価方法]
<粒度分布>
粉末積層造形法用粉末5gを計量し、粒度分布測定装置(マイクロテック社、MT3300)にて粉末の粒度分布を測定した。検出された粒度分布のうち粉末の度数分布10%、50%、90%に位置する粒径D10、D50、D90をそれぞれ求めた。
【0063】
<円形度の最頻値>
粉末積層造形法用粉末の円形度についてはLA-960(堀場製作所社)を用いて測定した。粉末3~5gを計量し、円形度測定装置(Sysmex社、FPIA-3000S)を用いて、粒子の投影図から投影面積と輪郭の長さ(周長)を測定し、次式により円形度を算出した。80個の粒子についてこれを算出し、その値の最頻値を当該粉末の円形度とした。
円形度=(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の周長)/(粒子投影図の輪郭の長さ)
円形度の最頻値については、円形度を算出する際に測定した全粒子の中で最も割合が大きい値を当該粉末の円形度の最頻値とした。
【0064】
<散布率>
大きさ20mm×20mm、深さ0.2mmの凹部を有するテーブルの該凹部内に粉末積層造形法用粉末1gを置いた後、該テーブル上でローラーを3mm/秒の速度で転がすことにより該凹部内の粉末をならしたときに、該凹部に充填された粉末の重量と比重から、該凹部に充填された粉末の体積を算出し、該凹部容積に対する充填粉末が占める体積割合を求め、これを当該粉末の散布率とした。
散布率が高いほど、粉末の積層形成性(散布性)が良好であることを意味し、高温では散布性は悪い傾向を示す。室温では、散布率は95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、熱可塑性樹脂の融点-40℃の条件では、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、熱可塑性樹脂の融点-30℃の条件では、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、熱可塑性樹脂の融点-20℃の条件では、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。なお、表中の「融点-40℃」等の「融点」とは、熱可塑性樹脂の融点を意味する。
【0065】
[造形性の評価方法]
<造形物の作製>
粉末床溶融結合方式のプリンターLisa Pro(Sinterit社)を用いて、造形テーブル温度150℃、ピッチ0.1mmの条件でJIS K7161に準拠した1BA形引張試験片を作製し、高度差・外観測定用の試験片とした。
【0066】
<高度差>
得られた焼結サンプル試験片の高度差を、マイクロスコープ(HiROX社、DIGITAL MICROSCOPE KH-8700)を用いて測定した。高度差とは、作製した試験片全体における最大高度と最低高度との差を意味する。高度差は、小さいほど造形性が良好であることを意味し、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0067】
<外観>
得られた試験片の外観として、
〇:設定した造形データの形状を再現しているサンプル
△:造形データの形状から外れているサンプル
とした。
【0068】
<算術平均粗さ>
得られた焼結サンプル試験片の算術平均粗さを、マイクロスコープ(HiROX社、DIGITAL MICROSCOPE KH-8700)を用いて測定した。
算術平均粗さは小さいほど造形性が良好であることを意味し、1.0μm以下が好ましく、0.9μm以下がより好ましい。
【0069】
<最大引張強度>
得られた焼結サンプル試験片の引張強度を、万能引張圧縮試験機(Intesco社 Model2050)を用いて測定した。初期のチャック間距離45mm、速度50mm/minで引張試験を行い、検出された最大の引張強度を最大引張強度とした。引張方向は、特に限定されないが、長手方向とした。
最大引張強度は、大きいほど造形物の特性が良好であることを意味し、15MPa以上が好ましく、17MPa以上がより好ましい。
【0070】
<破断点の強度>
得られた焼結サンプル試験片の破断点の強度は、引張強度の測定方法に準拠して測定した。
破断点の強度は、大きいほど造形物の特性が良好であることを意味し、10MPa以上が好ましく、13MPa以上がより好ましい。
【0071】
[実施例1]
水溶性樹脂として、BVOH(ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体、メタノール、酢酸メチルから合成される水溶性樹脂、水酸基量:37.8%)ペレットと、熱可塑性樹脂として、PP(メタロセン触媒で重合したプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(ポリプロピレン):日本ポリプロ株式会社 製商品名ウィンテック WFX4M)(融解熱量:65J/g、融点:124℃、重量平均分子量(Mw):2.30×10)ペレットを事前に6:4の割合でブレンドさせた後、二軸混練押出機(ラボテック社)のメインホッパーに投入した。
【0072】
混合樹脂を吐出量3kg/hに設定し、シリンダー温度210℃、スクリュー回転数100rpmの条件下で溶融混練した。
押出機により押出し、得られた溶融混練物をペレタイザー等でカットしてペレット化した。
得られたストランドを20wt%となるよう水(または50℃の温水)に投入し、200rpm/30minの条件で攪拌させながらBVOHを溶かした。
【0073】
得られた溶液を吸引ろ過によりろ過し、固形分(PP)を採取した。採取した固形分を再度水(または温水)に投入し、固形分に付着しているBVOHを洗浄するよう攪拌した。この時、分散剤(ナノシリカ)を固形分の0.5%となるように混合させた。この溶液を再度吸引ろ過によりろ過し固形分を得た。この工程を数回繰り返し、できた固形分を80℃/ovn.で乾燥させ、ナノシリカが付着したPP粉末を得た。このようにして粉末積層造形法用粉末を得た。
得られた粉末について上記方法に従い測定し、結果を表1に示した。
【0074】
[実施例2]
実施例1において、分散剤(ナノシリカ)を固形分の2%となるように混合させた以外は実施例1と同様の手法で粉末積層造形法用粉末を得た。
【0075】
[実施例3]
実施例1において、分散剤(ナノシリカ)を固形分の5%となるように混合させた以外は実施例1と同様の手法で粉末積層造形法用粉末を得た。
【0076】
[比較例1]
実施例1において、固形分に付着しているBVOHの洗浄の際に、分散剤を混合せずに、固形分を80℃/ovn.で乾燥させ、PP粉末を得た後に分散剤(ナノシリカ)を添加させた以外は実施例1と同様の手法で粉末積層造形法用粉末を得た。
この粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行い、結果を表1に示した。
【0077】
【表1】
【0078】
以上の結果から明らかなように、本発明の粉末積層造形法用粉末は、粉末表面が特定の割合で助剤成分に覆われていることにより、造形エリア内での粉末塗布時における粉末層の厚みの精度、および造形テーブルの凹部への粉末の散布率が向上する。このため、粉末積層造形法において、レーザあるいは赤外線ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプなどで溶融する際の造形品の造形均一性が向上する。この結果、目的の3次元造形品を、良好な造形性(外観、高度差、粗さ)かつ機械特性(引張強度、破断強度)で精度よく製造することができる。