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  • 特開-卵炒め及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150049
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】卵炒め及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20220929BHJP
【FI】
A23L15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052461
(22)【出願日】2021-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老原 脩
(72)【発明者】
【氏名】寺田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC09
4B042AC10
4B042AD30
4B042AD40
4B042AE04
4B042AG06
4B042AG07
4B042AH09
4B042AK06
4B042AK09
4B042AK20
4B042AP04
(57)【要約】
【課題】ふんわりとした自然な外観に優れた卵炒めを提供すること。
【解決手段】本発明の卵炒めは、複数の凝固卵片を有し、体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計の質量に対して30%~80%である。体積が15cm未満である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~60%であり、かつ体積が50cm以上である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~20%であることも好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凝固卵片を有し、
体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計の質量に対して30%以上80%以下である、卵炒め。
【請求項2】
体積が15cm未満である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%以上60%以下であり、かつ
体積が50cm以上である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%以上20%以下である、請求項1に記載の卵炒め。
【請求項3】
調理器具における加熱面を180℃以上250℃以下に熱して液卵含有原料を投入し、液卵含有原料が調理器具の加熱面に接してから5秒以上20秒未満の間、放置した後に該加熱面から卵を剥がす第1工程、及び
剥がした卵が前記加熱面に接してから5秒以上20秒未満の間、放置した後に該加熱面から卵を剥がす第2工程、を有し、第2工程を1回行うか、複数回繰り返し行う、卵炒めの製造方法。
【請求項4】
第1工程及び第2工程において、卵が前記加熱面に接してから5秒以上12秒以下の間、放置した後に該加熱面から卵を剥がす、請求項3に記載の卵炒めの製造方法。
【請求項5】
第1工程において調理器具における加熱面を200℃以上250℃以下に熱して液卵含有原料を投入する、請求項3又は4に記載の卵炒めの製造方法。
【請求項6】
凝固卵の塊の中心部が85℃以上になるまで、且つ、得られる歩留が88%以上となるように加熱を行う、請求項3から5のいずれか1項に記載の卵炒めの製造方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵炒め及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、卵炒めは、カニ玉のほか、野菜や肉類、魚介類等の具材と卵の炒め物などとして、そのふんわりした外観が好まれ、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの惣菜等に用いられている。
【0003】
卵を炒め調理する技術について、これまでに複数報告されている。特許文献1には、玉子を攪拌しつつ過熱蒸気を直接吹き付けてスクランブルエッグ又は炒り玉子を得る玉子の加熱調理方法が記載されている。特許文献2には、所定量の油脂を鍋に入れ所定温度で加温した後に油脂と液卵が混ざり合うように撹拌する冷凍食品用炒り卵の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-58453号公報
【特許文献2】特開2016-192956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、消費者のニーズの多様化により、カニ玉のほか各種具材と卵との炒め物等の卵炒めについて、より一層ふんわり自然な外観が求められている。
これに対し、従来の特許文献1及び2に記載された技術は、ふんわりした自然な外観を得るための構成について、一切考慮したものではない。
【0006】
本発明の課題は、従来よりも更にふんわりした自然な外観を呈する卵炒め、及び、当該卵炒めを首尾よく製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は卵炒めの外観について、鋭意検討した結果、所定の体積を有する凝固卵片の割合を制御することで、求める卵炒めの外観を得られることを見出した。
これに対し、特許文献1及び2では、前記のふんわりした自然な外観を得る点について何ら検討されていない。
【0008】
本発明は、複数の凝固卵片を有し、
体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計の質量に対して30%以上80%以下である、卵炒めを提供するものである。
【0009】
また本発明は、調理器具における加熱面を180℃以上250℃以下に熱し、液卵を含有する原料を投入し、前記液卵含有原料が調理器具の加熱面に接してから5秒以上20秒未満の間、放置した後に該加熱面から卵を剥がす第1工程、及び
剥がした卵が前記加熱面に接してから5秒以上20秒未満の間、放置した後に該加熱面から卵を剥がす第2工程、を有し、第2工程を1回行うか、複数回繰り返し行う、卵炒めの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ふんわりとした自然な外観に優れた卵炒めが提供される。本発明の卵炒めは、その外観を生かし、カニ玉のほか、トマトやレタス、エビ、キクラゲ、畜肉等の具材と卵の炒め物等として有用である。また本発明では、ふんわりした自然な外観に優れた卵炒めを首尾よく提供可能な製造方法を提供できる。本発明の卵炒めの製造方法は、卵炒めの大量生産が可能な点で産業上有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、比較例1で得られた卵炒めの外観写真である。
図2図2は、実施例2で得られた卵炒めの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の卵炒めは、複数の凝固卵片を有し、体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計の質量に対して30%以上80%以下である。
【0013】
凝固卵片は、液卵に、必要に応じて他の原料を混合させて炒め調理により加熱して凝固させたものである。凝固卵片は、卵の炒め調理により得られる形状であれば、粒状、板状、塊状、不定形状等のいずれであってもよい。色味の点から、凝固卵片は、卵白及び卵黄が混合した状態で凝固したものであることが好ましい。
【0014】
凝固卵片は、定形を有しない液状又は流動状の卵とは異なり、一定の形状を有している。
凝固卵片と、液状又は流動状の卵との区別は、水平面から30cm上方に離間した位置に、水平に保持したステンレス製の篩(網目の孔が0.2cm×0.2cm)を設置し、その上に一つの凝固卵を置いて、その状態で30分間静置し、残った部分を凝固卵片とする。凝固卵は、網目の上に戴置した状態で上方から下方に投影した面積が最大となるように網目上に戴置する。残った部分は30分間静置した後に持ち上げた瞬間の部分とする。持ち上げた凝固卵片は、具材を含有しない場合は直ちに秤に載せたメスシリンダーに入れ体積及び質量を測定するものとする。また、後述する通り、凝固卵片が具材を含有する場合、凝固卵片をステンレス製のバットなどに移して具材を除去した後に、秤に載せたメスシリンダーに入れ体積及び質量を測定するものとする。
また前記の残った部分の重さが0.1g以上のものを凝固卵片とし、重さが0.1g未満の場合には、凝固卵片に含めないものとする。
また、凝固卵片か否かの判定や、その質量及び体積の測定は、卵炒めが出来上がってから品温10℃まで真空冷却後、室温に静置し、品温が室温となってから測定するものとする。冷凍状態の卵炒めを測定に供する場合は、電子レンジにて出力600W、重量1gにつき1秒の加熱時間にて解凍し、完全に解凍した後に上記と同様の測定に供するものとする。
【0015】
凝固卵片は、他の凝固卵片と互いに隣接した状態となっており、卵炒めが卵以外の具材を有する場合には、当該具材を含有するか又は隣接した状態となっている。なお、凝固卵片が具材を含有するとは、例えば具材と卵が結着した状態となっている例が挙げられる。
【0016】
凝固卵片が具材を含有する場合、凝固卵片の重さ及び体積は、凝固卵片の表面に密着した具材及び凝固卵片内部の具材をピンセット等で取り外し、測定するものとする。具材を取り外す際に凝固卵片が分離した際は分離分も含め、分離前の凝固卵片を1つとして体積を測定するものとする。
このような具材の処理方法を行う対象例としては、例えばカニ玉、中華風卵炒め等の、具材と液卵とを混合した状態で加熱処理を行う料理が挙げられる。また、例えば卵を単独で炒めた後に加熱した卵を取りだし、ついで、別の具材を卵と別に炒めて、次いで炒めた具材に炒めた卵を投入して混合して調理した場合等においても、必要に応じ、凝固卵片と具材の分離操作を行う。
【0017】
なお、卵炒め中、体積が15cm以上50cm未満の凝固卵片の数は液卵含有原料500gあたり、5~20個であることが、上記の外観が一層良好となりやすいため好ましく7~16個であることがより好ましい。
【0018】
上述した通り、本発明の卵炒めは、複数の凝固卵片を含有し、体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計の質量に対して30%~80%である。本発明者は、卵炒めの外観について鋭意検討した。その結果、卵炒めの外観には、一つ一つの凝固卵片の大きさと、その大きさのそろい方が重要であることを知見した。特に体積15cm以上50cm未満である凝固卵片の割合が重要である。凝固卵片の体積が15cm以上であることは、スクランブルエッグとは異なる、中華料理における卵炒めの印象を与えやすい点やそぼろ状の炒り卵とも異なる点から重要である。凝固卵片の体積50cm未満であることは、焦げの発生を抑制できる点、効率よく内部まで加熱する点から重要である。また体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計の30%以上であることで、大きな粒子が多いことによるふんわりした外観が得られる利点がある。体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計質量の80%以下であることで、焦げ付きを抑制しやすく、外観を良好にしやすいほか、効率的に加熱できる利点がある。この観点から、体積が15cm以上50cm未満である凝固卵片の合計質量が、全凝固卵片の合計質量の30%以上80%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。
【0019】
上述した通り、凝固卵片の体積はメスシリンダーにて測定でき、例えば後述する実施例の記載の方法にて測定できる。凝固卵片は、箸やピンセット等で持ち上げて、秤の上に乗せたメスシリンダーに収容した状態で体積及び質量を測定する。凝固卵片を前記の網目上からメスシリンダー内に移動させる間に、凝固卵片の一部が欠けた場合には、分離分も含めて体積を測定する。
【0020】
本発明では、更に、体積が15cm未満である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~60%であり、且つ、体積が50cm以上である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~20%であることが、一層ふんわりした望ましい外観が得やすく、効率的な加熱を行う点で好ましい。体積が15cm未満である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して60%以下であることは、卵炒め全体を大きな凝固卵片で構成しやすく、ふんわりとした外観を良好にできる点で好ましい。また、体積が50cm以上である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して20%以下であることは、焦げ付かずに卵炒めが得やすいことから外観を良好にでき、効率よく加熱が行える点で好ましい。これらの観点から、体積が15cm未満である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~60%であり、且つ、体積が50cm以上である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~20%であることが好ましく、体積が15cm未満である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~30%であり、且つ、体積が50cm以上である凝固卵片の合計質量が全凝固卵片の合計の質量に対して0%~15%であることが特に好ましい。
【0021】
卵炒めの原料としては、例えば上述した通り、上述した液卵及びその他の原料を用いて製造することができる。液卵とは、卵を割卵して中身を集めたものであり、全卵液のほか、卵黄液、卵白液、これらを任意の比率で混合した混合液を含む。また液状であって加熱により凝固するものであれば、酵素処理、加糖、加塩、冷蔵、冷凍等の各種工程を経て得られたものであってもよい。また卵は鶏卵のほか、ウズラ卵、アヒル卵、ダチョウ卵等も挙げられるが、鶏卵が好ましい。
【0022】
液卵以外の卵炒めの原料としては、穀粉類;調味料;糖類;油脂類;野菜や肉、キノコ類などの卵以外の具材、水等が挙げられる。
【0023】
卵炒めは穀粉類を含有していると、ふわふわした食感が得やすい点やふんわりした外観、食感が冷蔵・冷凍後も維持可能である点から好ましい。穀粉類としては、穀粉及び澱粉が挙げられる。穀粉としては、例えば、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、ワキシーコーン、馬鈴薯粉、タピオカ粉、甘藷粉等が挙げられる。澱粉としては、前記の穀粉を由来とする澱粉及びその加工澱粉が挙げられ、該加工澱粉としては、未加工澱粉にエーテル化、エステル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化にはヒドロキシプロピル化が含まれ、エステル化にはアセチル化が含まれる。ここでいう「澱粉」は、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を意味し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。澱粉は食感の好ましさから、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉若しくは馬鈴薯澱粉又はこれらの加工澱粉が好ましく、また冷凍耐性から、加工澱粉が好ましく、架橋澱粉がより好ましく、特に、アセチル化リン酸架橋澱粉が特に好ましい。
【0024】
上記の穀粉類を含有することの利点を得る点や食感・食味の点から、卵炒めは、穀粉類を0.5~6質量%含有することが好ましく、1~4質量%含有することがより好ましい。
【0025】
卵炒めは炒めものであることから、卵に由来しない油脂を含有する。卵炒めが油脂を含有することで、焦げやすさが抑制され、上記所定体積の凝固卵片が上記割合範囲内である卵炒めが一層得やすくなる。油脂としては、菜種油、オリーブ油、米油、ゴマ油、ヤシ油、コーン油、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、ヒマワリ油、紅花(サフラワー)油、パーム分別油(パームオレイン等)、バターオイル、中鎖脂肪酸油、魚油等の各種動植物性油脂が挙げられる。油脂は常温(25℃)で液状であることが卵炒めの品温が室温程度でもふんわりした食感を維持できる点から好ましい。卵炒めを構成する凝固卵片は、油脂を1~40質量%含有することが好ましく、3~30質量%含有することがより好ましい。
【0026】
卵炒めは、野菜やキノコ類、豆腐、豚肉、牛肉、鶏肉などの肉類、エビやカニ、魚等の魚介、天かす、薬味等の卵以外の具材を含有していてもよい。上述した通り、卵炒めにおけるこれらの具材の含有の形態としては、凝固卵片とは別に具材が含まれる形態、及び、凝固卵片中に具材が含まれる形態が挙げられる。
【0027】
次いで、本発明の卵炒めの製造方法について説明する。
本製造方法は、調理器具における加熱面を180℃以上250℃以下に熱して、液卵を投入し、液卵が前記加熱面に接してから5秒以上20秒未満の間、放置した後に該加熱面から卵を剥がす第1工程、及び
剥がした卵が前記加熱面に接してから5秒以上20秒未満の間、放置した後に該加熱面から卵を剥がす第2工程、を有し、第2工程を1回行うか、複数回繰り返し行う。
【0028】
調理器具としては、鍋、ホットプレート、フライパン、蒸気釜、IH釜、炒め機等が挙げられる。
【0029】
第1工程及び第2工程において、卵が前記加熱面に接してから剥がすまでの時間及び加熱面の温度は同じであっても異なっていてもよい。
【0030】
上記の通り、第1工程において、調理器具の加熱面が180℃以上250℃以下の温度である状態で液卵含有原料を調理器具に投入する。調理器具の加熱面の上には、液卵含有原料を投入する前に油を予め投入していてもよく、調理器具の表面性状によっては油を用いなくてよい。第1工程及び第2工程において、調理器具の加熱面が卵と接するとは、油を介して卵と加熱面が接する状態を含む。第1工程及び第2工程において、液卵含有原料中の卵は、調理器具の180℃以上250℃以下である加熱面に接してから5秒以上20秒未満の間、放置された後に前記加熱面から剥がされる。第1工程及び第2工程において、卵が当該加熱面に接してから、5秒以上20秒未満の間、放置された後に加熱面から剥がされることで、上記体積範囲の凝固卵片を上記質量割合で含有する卵炒めが得られる。第1工程の加熱面の温度が180℃未満である、或いは第1工程及び第2工程で液卵含有原料が加熱面に接してから剥がすまでの時間が5秒未満であると、15cm以上50cm未満の体積の凝固卵片が30%以上となりがたく、スクランブルエッグのような細かい粒子状となってしまう。また加熱面の温度が250℃超、又は第1工程及び第2工程で液卵が加熱面に接してから剥がすまでの時間が20秒以上であると、求める大きさの凝固卵片が得られず焦げも生じやすい。これらの点から第1工程及び第2工程では、卵が前記加熱面に接してから5秒以上12秒以下の間、放置後に該加熱面から剥がすことが更に好ましい。また加熱の際の加熱面の温度は200℃~250℃であることも好ましい。
【0031】
第2工程の繰り返しは、凝固卵の塊の中心部の温度が85℃以上となるまで行うことが好ましい。凝固卵の塊の中心部の温度は芯温ともいう。凝固卵の塊の中心部の位置とは外部に露出しない位置であって、食品分野における技術常識の範囲内で定められ、目視により判断される。凝固卵の塊の中心部の温度は、前述した中心部の位置に針状プローブ温度計を差し込むことで測定できる。凝固卵の塊は、1つの凝固卵片であってもよく、複数の凝固卵片の凝集塊であってもよい。好ましくは、温度測定対象となる凝固卵の塊は、平面視における長さ、幅および高さがいずれも1cm以上であることが好ましい。平面視における長さとは、塊の平面視像を横断する最長線分の長さをいい、幅とは、前記平面視像における当該最長線分と直交する方向の長さを指す。塊の中心部とは、高さ方向における塊の略中心部であり、且つ、当該高さ位置における水平面と平行な断面における位置も、略中心であることが好ましい。卵炒めにおける温度測定対象となる凝固卵の塊の位置に限定はないが、ランダムに選択した3つ以上の塊の中心部の温度の最低温度とする。中心部の温度は、攪拌を停止した状態で測定する。
更に本製造方法では、得られる歩留が88%以上となることがふんわりした外観を実現する点から好ましい。歩留の上限としては95%以下であることが製造容易性の点で好ましい。歩留は、液卵含有原料の質量に対する得られた卵炒めの質量の比率として計算でき、上述した卵炒めの中心温度が85℃以上に到達したタイミングで測定できる。
【0032】
液卵含有原料を調理器具に投入する前に油を予め投入する場合、当該油を180℃以上250℃以下に熱して、当該油に対して液卵含有原料を投入することが好ましい。油としては、上述した油脂と同様の油脂を用いることができる。油は、調理器具の加熱面における液卵と接する部位の少なくとも一部に存在すればよいが、例えば当該部位の面積における40%以上に存在することが好ましい。液卵を投入する前に調理器具の加熱面上に存在させる油の量としては、例えば液卵100質量部に対して2~8質量部が焦げ付き防止や効率的な加熱の点で好ましく挙げられる。
【0033】
上記製造方法においては、第1工程で鍋に投入された液卵含有原料は、調理器具の加熱面上で熱せられる。鍋に投入する液卵の量は、加熱面1cm当たり液卵含有原料が0.1g~20gであることが、上記範囲の体積の凝固卵片が上記質量割合である卵炒めを首尾よく得られる点から好ましく、0.2g~15gであることがより好ましい。
【0034】
第1工程及び第2工程において卵を加熱面から剥がす作業には、加熱面に沿って且つ加熱面に対して相対的に移動するスクレイパーを用いることが好ましい。ここでいう相対的に移動するとは、スクレイパーが移動せずに加熱面をスクレイパーに対して移動させる場合を含む意図である。なお、スクレイパーは手動のヘラであってもよく、例えば手動等で卵の剥がし工程を行っても構わない。
【0035】
大量生産の場合には、例えば、調理器具として鍋を用い、鍋を縦方向に延びる軸周りに回転させると共に、鍋内に当該縦方向の軸と交差する軸(以下横向きの軸とも言う)周りに回転する撹拌体を設け当該撹拌体が鍋底と対向する位置にスクレイパーを有している加熱装置を用いてもよい。この場合、例えば、鍋を平面視すると半径に対応する位置に撹拌体が存在するようにしてもよい。
上記加熱装置を用いる場合、第1工程及び第2工程において、加熱面上で所定時間放置された卵は、当該時間経過後に鍋底から剥がされる、この剥がし工程の際には、鍋の加熱面が縦方向の回転軸周りに回転するとともに、撹拌体が横向きの軸周りに回転する。2つの軸の回転はスクレイパー(撹拌体)によって掻き上げられる卵が加熱面におけるスクレイパー(撹拌体)と近接する側から、離間する側に送り出されるようになされることが好ましい。スクレイパーの形状としては、例えば横向きの軸周りに回転するらせん状のものが挙げられる。このような加熱装置は、たとえば再表2020/084815号公報等に記載されている。剥がし作業がなされた卵は加熱面で上記時間、更に放置されることが繰り返される。
【0036】
卵炒め原料となる液卵含有原料には、液卵に加えて、加熱前に他の原料を添加、混合させていてもよく、それらの好ましい種類及び量は上記で挙げた通りである。更に詳細に言えば、穀粉類を用いる場合、その使用量は、食感などから、液卵100質量部に対し、0.5~8質量部が好ましく挙げられ、1~6質量部がより好ましい。
【0037】
液卵含有原料に予め水を含有させる場合、液卵100質量部に対し、外観、食感、食味の点から、その量は5~60質量部が好ましく挙げられ、10~50質量部が卵の風味を維持しつつ、ふんわりとした食感を実現する点からより好ましい。
【0038】
液卵含有原料に加熱前に油脂を予め含有させる場合、その量は液卵100質量部に対し、外観、食感、食味の点から、1~40質量部が好ましく挙げられ、5~30質量部が分離を防ぎつつ、ふんわりとした食感を実現する点でより好ましい。
【0039】
また、液卵含有原料に他の具材を含有する場合、当該他の具材を前もって加熱しておいてもよく、未加熱状態であってもよい。液卵含有原料中、液卵の割合は、例えば40質量%以上であると、卵の風味および凝固性に優れるため好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0040】
本製造方法では、一度に調理器具に投入する液卵含有原料が例えば、50g以上であると、製造効率の点で好ましく、100g以上がより好ましい。
【0041】
本発明で得られる卵炒めはそのふんわりした自然な外観を生かして、例えばカニ玉のほか、トマトやその他の野菜、魚介類や肉類等との卵の炒め物、丼もの等に用いることができる。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1~5、比較例1及び2〕
実施例1~4、比較例1及び2では、下記表1記載の配合を用い、表1の成分のうち、全卵、水及び加工澱粉(アセチル化リン酸架橋ワキシー澱粉)を混合して液卵含有原料を得た。また、実施例5では、下記表2の配合を用い、表2のうち、全卵、水、加工澱粉(アセチル化リン酸架橋ワキシー澱粉)及びカニかまぼこを混合して液卵含有原料を得た。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
各実施例及び各比較例のそれぞれの液卵含有原料から以下のようにして卵炒めを得た。
フライパン(加熱面の半径18.5cm)内にごま油23.8gを入れて、フライパン及びごま油を表3記載の温度に熱した後、液卵含有原料を投入し、当該温度でフライパンを加熱しながら下記表3の時間が経過した時点で、ヘラを用いて前記フライパンの内表面から卵を剥がした。それを繰り返し行って、卵炒めを得た。凝固卵の塊の芯温が85℃まで上昇した時点で加熱を終了させた。芯温は上記好ましい大きさの塊の中心部の温度として測定した。加熱時間を表3に示す。得られた卵炒めの歩留及び卵炒めを構成する各凝固卵片の体積及び質量を上記の手順にて測定した。なお、凝固卵片の体積は、秤に載せたメスシリンダー(容量500ml、内径50mm)に水200mlを入れて凝固卵片をメスシリンダーに投入し、体積増加分を測定することで行った。
得られた卵炒めは10名の訓練されたパネラーにて下記評価基準にて評価させ、その平均点を下記表3に示した。得られた結果を表3に示す。
【0047】
<外観評価基準>
5点: 凝固卵片が適度に大きく、中華料理の卵炒めに適したふんわり感を感じさせる外観である。
4点: 凝固卵片が適度に大きく、中華料理の卵炒めに適したふんわり感をやや感じさせる。
3点: 凝固卵片の大きさがやや細かいが許容範囲。
2点: 凝固卵片が中華料理の卵炒めに適したふんわり感を感じさせる大きさでない、もしくは焦げ付いている。
1点: 凝固卵片が中華料理の卵炒めに適したふんわり感を感じさせる大きさでない、かつ焦げ付いている。
【0048】
【表3】
図1
図2