(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150114
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】融雪装置およびその融雪装置を用いたハウス
(51)【国際特許分類】
A01G 9/14 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
A01G9/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052566
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】谷川 洋文
(72)【発明者】
【氏名】安達 聖
【テーマコード(参考)】
2B029
【Fターム(参考)】
2B029AA07
2B029BB00
2B029EA01
2B029EA02
2B029EB01
(57)【要約】
【課題】豪雪地帯や降雪時期などにおいて、積もった雪の重さによりハウスが倒壊することを防ぎ、また、既存のハウスにも利用することができるなど、利便性の高い融雪装置およびその融雪装置を用いたハウスの提供。
【解決手段】本発明の融雪装置20は、複数の構造部材で構成され、側面部分および、傾斜を有する屋根部分を含むハウス1の、構造部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材21と、融雪用部材21を加熱する加熱手段22と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造部材で構成され、側面部分および、傾斜を有する屋根部分を含むハウスの、前記構造部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、
前記融雪用部材を加熱する加熱手段と、
を含む融雪装置。
【請求項2】
前記側面部分を形成する第一部材および、前記第一部材と接合され、前記屋根部分を形成する第二部材を含む前記構造部材で構成されるハウスの、前記第一部材および前記第二部材、または前記第二部材を跨いで横断する方向に設けられる前記融雪用部材を含む請求項1に記載の融雪装置。
【請求項3】
前記融雪用部材は、前記屋根部分の天頂部分に設けられる請求項1または2に記載の融雪装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、前記融雪用部材に液体、ガスまたは電気のうちいずれか1以上を供給することにより、前記融雪用部材を加熱する請求項1~3のいずれか1項に記載の融雪装置。
【請求項5】
複数の構造部材で構成される、側面部分および、傾斜を有する屋根部分と、
前記構造部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、
前記融雪用部材を加熱する加熱手段と、
を含むハウス。
【請求項6】
前記側面部分を形成する第一部材および、前記第一部材と接合され、前記屋根部分を形成する第二部材を含む前記構造部材と、
前記第一部材および前記第二部材、または前記第二部材を跨いで横断する方向に設けられる前記融雪用部材と、
を含むハウス。
【請求項7】
前記融雪用部材が、前記屋根部分の天頂部分に設けられる請求項5または6に記載のハウス。
【請求項8】
前記加熱手段は、前記融雪用部材に液体、ガスまたは電気のうちいずれか1以上を供給することにより、前記融雪用部材を加熱する請求項5~7のいずれか1項に記載のハウス。
【請求項9】
前記屋根部分を構成する構造部材は、金属製のものである請求項5~8のいずれか1項に記載のハウス。
【請求項10】
前記ハウス内を覆うフィルムを含む請求項5~9のいずれか1項に記載のハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウスの屋根部分に積もった雪を溶かすことにより、ハウスの屋根部分に積もった雪が一定量(例えば、ハウスの積雪耐荷重)を超えることで発生するハウスの倒壊や損傷を防ぐことができる融雪装置、およびその融雪装置を用いたハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、雪によるハウス(特に、パイプハウス)への被害が問題となっている。例えば、非特許文献1に示すように、東北地方や北陸地方では12月の降雪時期に厳しい寒波が到来し、雪の重さでパイプハウスが潰れたなど、農業施設の損傷、損壊の被害が多数報告されている。そして、このような積雪による被害は、農業施設自体への被害や農業施設で栽培している農産物への被害だけでなく、作業者などの人命に関わることもある。
【0003】
このようなハウスの倒壊を防ぐため、ハウス自身を補強する技術がある。例えば、特許文献1には、複数のパイプハウスが併設された連棟型パイプハウスにおいて、降雪による連棟型パイプハウスの倒壊を低減する補強器具が記載されている。
【0004】
また、ハウスの倒壊を防ぐため、連棟ハウスの谷部に溜まった雪を融雪する技術がある。例えば、特許文献2には、連棟ハウスの谷部に溜った雪を温風暖房機で融雪して雪の重みによる倒壊を防止して、降雪地帯においても耕地面積を有効に利用できる連棟ハウスの設置を可能にした連棟ハウスの融雪装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-195813号公報
【特許文献2】特開2000-139237号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“農業施設被害5000棟超 大雪で東北・北陸など”,[online],日本農業新聞,[令和3年2月12日検索],インターネット,<URL:https://web.archive.org/web/20210114010853/https://www.agrinews.co.jp/p52908.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている技術のように、ハウス自身を補強する場合、想定以上に長期間雪が降り続けてしまうと、想定以上に雪がハウスに積もってしまう。そして、湿った雪は重く、想定以上の荷重がかかるため、ハウスが倒壊してしまう恐れがある。
【0008】
また、空から降ってくる雪は、パイプハウスなどを含むハウス(建築物)の最も高い部分である屋根部分に積もりやすいため、特許文献2に記載されている技術では、積雪量が最も多い部分を融雪できない。
【0009】
そして、ハウスは、滑り落ちて怪我をするなどの危険性や、そもそも作業者が容易に昇り降りすることができる構造・耐久性とはなっていないため、作業者が雪下ろし作業により屋根部分に積もった雪を除雪することはできない。
【0010】
よって、本発明は、想定以上に長期間雪が降り続けてしまうような場合でも、積もった雪の重さによりハウスが倒壊することを防ぎ、また、既存のハウスにも利用することができるなど、利便性の高い融雪装置およびその融雪装置を用いたハウスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の融雪装置は、複数の構造部材で構成され、側面部分および、傾斜を有する屋根部分を含むハウスの、構造部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、融雪用部材を加熱する加熱手段と、を含む。
これにより、融雪用部材と複数の構造部材とで区切られた複数の区画が形成され、かつ、加熱手段により融雪用部材が加熱され、構造部材も融雪用部材を介して加熱される。
【0012】
また、融雪装置は、側面部分を形成する第一部材および、第一部材と接合され、屋根部分を形成する第二部材を含む構造部材で構成されるハウスの、第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられる融雪用部材を含むことが望ましい。
これにより、融雪用部材と第二部材等とで区切られた複数の区間が形成され、かつ、加熱手段により融雪用部材が加熱され、融雪用部材は第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられるため、第一部材や第二部材も融雪用部材を介して加熱される。
【0013】
また、融雪用部材は、屋根部分の天頂部分に設けられることが望ましい。これにより、雪が最も積もりやすい、ハウスの屋根部分の天頂部分に設けられた融雪用部材が加熱される。
【0014】
本発明のハウスは、複数の構造部材で構成される、側面部分および、傾斜を有する屋根部分と、構造部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、融雪用部材を加熱する加熱手段と、を含む。
これにより、ハウスの屋根部分等には、融雪用部材と複数の構造部材とで区切られた区画が形成され、かつ、加熱手段により融雪用部材が加熱され、構造部材も融雪用部材を介して加熱される。
【0015】
また、ハウスは、側面部分を形成する第一部材と、第一部材と接合され、屋根部分を形成する第二部材を含む構造部材と、第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、融雪用部材を加熱する加熱手段と、を含む。
これにより、ハウスの屋根部分には、融雪用部材と第二部材等とで区切られた複数の区間が形成され、かつ、加熱手段により融雪用部材が加熱され、融雪用部材は第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられるため、第一部材や第二部材も融雪用部材を介して加熱される。
【0016】
また、融雪用部材が、屋根部分の天頂部分に設けられることが望ましい。これにより、雪が最も積もりやすいハウスの屋根部分の天頂部分に設けられた融雪用部材が加熱される。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明の融雪装置によれば、複数の構造部材で構成され、側面部分および、傾斜を有する屋根部分を含むハウスの、構造部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、融雪用部材を加熱する加熱手段と、を含む構成や、望ましくは、その構造部材が、側面部分を形成する第一部材および、第一部材と接合され、傾斜を有する屋根部分を形成する第二部材を含む構造部材で構成されるハウスの、第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、融雪用部材を加熱する加熱手段と、を含む構成により、融雪用部材と第一部材および第二部材、または第二部材とで区切られた区間が形成され、かつ、加熱手段により融雪用部材が加熱され、融雪用部材は第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられるため、第一部材や第二部材も融雪用部材を介して加熱され、融雪用部材や第一部材、第二部材周辺の雪が溶けて水になり、融雪用部材と第一部材および第二部材、または第二部材とで区切られた区間毎にブロック状の雪塊が形成される。そして、その雪塊は溶けた水により滑って崩落するため、ハウスの屋根部分に雪が積もらず、雪の重さによる倒壊を防ぐことができる。また、融雪用部材は着脱可能であるため、雪が降らない時期は取り外すことができ、既存のハウスにも利用することができる。
【0018】
(2)また、融雪用部材は、屋根部分の天頂部分に設けられる構造により、雪が最も積もりやすい、ハウスの屋根部分の天頂部分に設けられた融雪用部材が加熱されるため、より効率的にハウスの屋根部分に雪が積もらないようにすることができる。
【0019】
(3)本発明のハウスによれば、複数の構造部材で構成される、側面部分および、傾斜を有する屋根部分と、構造部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、融雪用部材を加熱する加熱手段と、を含む構造や、望ましくは、その構造部材が、側面部分を形成する第一部材と、第一部材と接合され、傾斜を有する屋根部分を形成する第二部材を含む構造部材と、第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材と、融雪用部材を加熱する加熱手段と、を含む構成により、ハウスの屋根部分には、融雪用部材と第一部材および第二部材、または第二部材とで区切られた区間が形成され、かつ、加熱手段により融雪用部材が加熱され、融雪用部材は第一部材および第二部材、または第二部材を跨いで横断する方向に設けられるため、第一部材および第二部材、または第二部材も融雪用部材を介して加熱され、融雪用部材や第一部材および第二部材、または第二部材周辺の雪が溶けて水になり、融雪用部材と第一部材および第二部材、または第二部材とで区切られた区間毎にブロック状の雪塊が形成される。そして、その雪塊は溶けた水により滑って崩落するため、ハウスの屋根部分に雪が積もらず、雪の重さによる倒壊を防ぐことができるハウスを提供することができる。
【0020】
(4)また、融雪用部材が、屋根部分の天頂部分に設けられる構成により、雪が最も積もりやすいハウスの屋根部分の天頂部分に設けられた融雪用部材が加熱されるため、より屋根部分に雪が積もらないハウスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態に係るハウスの図であり、(A)はパイプハウスの概略斜視図、(B)はパイプハウスの概略分解図である。
【
図2】
図1の融雪装置の拡大図であり、(A)は融雪装置の概略正面平面図、(B)は融雪装置の概略正面側面図である。
【
図3】本発明の別の実施の形態に係るハウスの図であり、(A)はパイプハウスの概略斜視図、(B)はパイプハウスの概略分解図である。
【
図4】
図3の融雪装置の拡大図であり、(A)は融雪装置の概略正面平面図、(B)は融雪装置の概略正面側面図である。
【
図5】本発明の別の実施の形態に係るハウスを説明するための図である。
【
図7】積雪による形成されるブリッジを説明するための図である。
【
図8】融雪装置によるパイプハウスに積もった雪塊の崩落を説明するための図である。
【
図9】融雪装置の実験結果を説明するための図である。
【
図10】温度分布の解析結果を説明するための図である。
【
図11】温度分布の解析結果を説明するための図である。
【
図12】断熱効果の実験結果を説明するための図である。
【
図13】断熱効果の実験結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0023】
[ハウス]
図1は、本発明の実施の形態に係るハウスの図であり、(A)はパイプハウスの概略斜視図、(B)はパイプハウスの概略分解図である。
ここで、本発明に係る融雪装置が設けられる「ハウス」や、本発明に係る「ハウス」は、構造部材で構成され、側面部分と傾斜を有する屋根部分を含み、農作物や園芸用植物等の栽培用の温室や、器材等の収容用の保管庫など、手軽に分解、搬送、組み立てが可能な建物を含むものである。以後、本実施の形態において、ハウス1は、構造部材に関し、側面部分を第一部分11、屋根部分を第二部分12、補強等、その他の部分を第三部分13として、各々の部分に「パイプ(中空パイプ)」を用いて組み立てられる「パイプハウス」を例として説明する。但し、この内容に限定されるものでなく、ハウス1は、丸棒材や角材、その他のハウス用の建築部材で組み立てられたもの、または本例のように第一部分11と第二部分12に別々の部材を用い、これらを接続用具等で繋ぎ合わせることで組み立てられたものだけではなく、例えば、これらの部分が1つの部材で形成されたものなど、各種、様々な形態の構造部材で組み立てられたものも含む。
また、本実施の形態において、融雪用部材21も「パイプ(中空パイプ)」を用いた「融雪パイプ」を例として説明するが、こちらも、丸棒材や角材、またはその他の部材を用いることができる。
【0024】
図1(A)に示すように、ハウス(パイプハウス)1(1a)は、例えば、地面に対して略垂直に設けられ、側面部分を形成する第一部分11と、傾斜を有するハウス(パイプハウス)1の屋根部分を形成する第二部分12と、を含む。
また、ハウス(パイプハウス)1(1a)は、ハウス(パイプハウス)1(1a)が安定して建つように、第一部分11を跨いで横断する方向に設けられる、補強部分の第三部分13を含む。
なお、構造部材に関し、特に第一部分11のみに使用される構造部材を、第一部材11とも言う。同様に、第二部分12のみに使用される構造部材を第二部材12、第三部分13のみに用いられる構造部材を第三部材13とも言う。
以降、本実施の形態の説明に合わせて、ハウス1をパイプハウス1と、第一部分11のみ、第二部分12のみおよび第三部分13のみに使用される部材、つまり第一部材11、第二部材12および第三部材13を各々、第一パイプ11、第二パイプ12、第三パイプ13と言う。
【0025】
パイプハウス1は、以降の別の実施の形態で説明するが、パイプハウス1内を覆い、断熱性を有する、例えば、透明かつ、樹脂製のフィルム30(
図5参照)、または樹脂製の硬質または軟質のシート材(図示せず)、または透明なガラス(図示せず)等を含む。
【0026】
図5は、本発明の別の実施の形態に係るハウスを説明するための図である。
図1や後述する
図3に示すパイプハウス1(1a,1b)は、第二パイプ12に円弧状の折り曲げ加工が施されてパイプハウス1(1a,1b)の屋根部分が形成されているが、
図5に示すパイプハウス1(1c)は、三角屋根型のパイプハウスである。つまり、天頂部が鋭角となるように第二パイプ12が設けられていて、パイプハウス1(1c)の屋根部分が形成されている。
【0027】
パイプハウス1(1c)は、第一パイプ11と第二パイプ12との間に張られる、パイプハウス1(1c)内を覆う透明かつ樹脂性のフィルム30を含む。もちろん、フィルム30の代わりに上記シート材やガラス等であってもよい。
【0028】
なお、第三パイプ13に関して、
図1には第一パイプ11を跨いで横断する方向に1本のみ設けられる形態や、後述の
図3には第二パイプ12および第一パイプ11にそれぞれ1本ずつ設けられる形態、また、
図5には第三パイプ13を有していない形態を示しているが、これら形態に限定されるものでない。
パイプハウス1が強度(補強)を必要とする場合は、その補強の程度に応じて、例えば、複数本の第三パイプ13を配置したり、第三パイプ13を長手方向に分割したものを準備し、補強の必要な箇所に設ける等、適宜、必要に応じて第三パイプ13を設ける箇所や数を変えることが可能である。
【0029】
また、フィルム30、またはシート材、またはガラスに関しても、上述した説明に限定されるものではなく、パイプハウスの強度を確保するために、例えば、フィルム30、またはシート材、またはガラスを複数枚積層したものや、繊維状の粒子などを含有したものを用いることが可能である。
一方、断熱性に関しても、例えば、複数枚のフィルム30、またはシート材、またはガラスにより、フィルム30、またはシート材またはガラス同士の間に空隙を設けて形成することも可能である。この場合、複数枚のフィルム30、またはシート材、またはガラスで形成されることから、より高い強度を確保できると共に、当該空隙により外部の熱の影響を小さくすることができ、断熱性をより高めることができる。
【0030】
上述した第一パイプ11、第二パイプ12、および第三パイプ13に関しては、パイプハウスの大きさや形状、用途(何を育てるか)に応じて、一般的に市販されている、アーチ状のものやストレート状のもの等、様々な種類を適宜採用することができることは言うまでもない。
【0031】
[融雪装置]
また、パイプハウス1(1a)は、融雪装置20を含む。融雪装置20は、複数の第二パイプ12を跨いで横断する方向に設けられ、着脱可能な融雪用部材(融雪パイプ)21(21a)と、融雪用部材(融雪パイプ)21(21a)を加熱する加熱手段22とを含んで構成される。
【0032】
加熱手段22は、伝送器具221を介して融雪パイプ21(21a)に液体、ガス(気体)または電気などの熱媒体を供給することにより、融雪パイプ21(21a)を加熱するものである。また、加熱手段22は、例えば、給湯装置や電気ヒーターを用いることができる。加熱手段22として給湯装置を用いた場合、伝送器具221には、湯を送るためのホース(管)が用いられ、融雪パイプ21(21a)は、湯が流れる(通過する)ように空洞が設けられる。電気ヒーターを用いる場合は、例えば、シート状または線状のヒーターを融雪パイプ21に貼り付ける形態や、巻き付ける形態等、各種形態を採用することができる。
【0033】
加熱のために液体を用いる場合、融雪に必要な熱量を供給しうる温度の液体であることが望ましい。例えば、後述する実験例(融雪実験環境(マイナス2度)下)においては、加熱手段22として電気ヒーターを用いたが、当該電気ヒーターの消費電力(熱量)が37.8[W]の場合に電気ヒーターの温度が約15℃となり、融雪による落雪が確認できた。つまり、温度が約15℃以上であれば、融雪を実現することができると考えられる。
【0034】
もちろん、融雪に必要な最低の熱量は、降雪条件(雪の密度、降雪量、融雪面積)やハウスの大きさ、ハウスを構成する構造部材の材質などによって異なるため、このような諸条件に合わせて、適宜融雪に必要な熱量を供給しうる程度に液体の温度を調整することが望ましい。ガスや電気等についても、同様である。
【0035】
融雪のための熱量Qm[W]は、以下の式1で求められる。
・ρ:雪の密度[kg/m3]
・σ:氷の融解熱[kJ/kg](=333.5[kJ/kg])
・s:降雪量[m/h]
・A:融雪面積[m2]
【0036】
【0037】
上記式(1)等の参考文献は、以下である。
・ユニカーボン株式会社、技術資料[熱量計算]
https://web.archive.org/web/20200920135513/http://unicarbon.co.jp/data/doc_calc.pdf
【0038】
また、融雪パイプ21は、熱伝導率が高い金属製のものであることが望ましい。熱伝導率が高いため、加熱手段22により加熱される融雪パイプ21の温度分布むらを低減することができるためである。なお、融雪パイプ21は、利便性の観点から、錆びにくいものであることが望ましく、さらに安価であることが望ましい。
具体的には、融雪パイプ21には、銅パイプやアルミパイプを用いることができる。銅パイプを用いる場合、表面に腐食防止加工を施すことで、錆(緑青)の発生を防ぐことができる。アルミパイプを用いる場合、後述する
図9の説明のように、加熱手段22を調整することで、融雪によってアルミパイプにかかる荷重(積雪重量)を一定値以下に抑えることができるため、錆びにくく、低温に強い等の利便性を備えた融雪パイプ21を実現することができる。
【0039】
このように、融雪パイプ21には、パイプハウス1の大きさや形状、用途などに応じて各種様々な材料のパイプを用いることができ、また、これらのパイプに対して腐食防止や強度向上など、様々な加工を施すことができる。
【0040】
ここで、融雪パイプ21は、例えば、複数の第二パイプ12により形成されたパイプハウス1(1a)の屋根部分の天頂部分に設けられる。
天頂部分とは、屋根部分の最も高い部分である天頂部および、当該天頂部の近傍を含む領域を言う。なお、天頂部の近傍に関しては、融雪パイプ21により、積雪した雪を落雪させる位置として適宜調整により設定可能である。
【0041】
また、
図1(B)に示すように、パイプハウス1(1a)は、分解することができる。具体的には、第一パイプ11と第二パイプ12(12a,12b)は、着脱可能である。また、第二パイプ12(12a,12b)と融雪パイプ21(21a)は、着脱可能である。
そして、パイプハウス1は、複数の第二パイプ12aと複数の第二パイプ12bがそれぞれ接続され、融雪パイプ21(21a)を含んでいない構成とすることができる。つまり、雪が降らない時期等は、融雪パイプ21(21a)を取り外すことができる。
【0042】
図2は、
図1の融雪装置の拡大図であり、(A)は融雪装置の概略正面平面図、(B)は融雪装置の概略正面側面図である。
図2(A),(B)に示す例において、第二パイプ12(12a,12b)は空洞となっており、そこに融雪パイプ21に設けられた左右の突起がはめ込まれ、第二パイプ12(12a,12b)と融雪パイプ21が接続される。
【0043】
図3は、本発明の別の実施の形態に係るハウスの図であり、(A)はパイプハウスの概略斜視図、(B)はパイプハウスの概略分解図である。
図3に示す実施の形態においては、パイプハウス1(1b)の屋根部分を形成する複数の第二パイプ12cは、
図1に示す第二パイプ12a,12bとは異なり、一体的に形成されたものである。そのため、融雪パイプ21bは、複数の第二パイプ12cを跨いで横断する方向に、固定具等を用いて設けられる。固定具等を用いて設けられているため、融雪パイプ21bは、容易に取り外すことができる。なお、融雪パイプ21bも、雪が降らない時期等は取り外すことができる。
【0044】
図4は、
図3の融雪装置の拡大図であり、(A)は融雪装置の概略正面平面図、(B)は融雪装置の概略正面側面図である。
図4(B)に示すように、融雪パイプ21bは、一部が第二パイプ12cの形状(円筒状)に合わせて凹んでいる。その凹みに第二パイプ12cが係合し、固定具211やネジなどの留め具212で固定される。
このように、融雪パイプ21bは、複数の一体的に形成された第二パイプ12cを跨いで横断する方向に、固定具等を用いて設けられる。
【0045】
このように、第一パイプ11や第二パイプ12との融雪パイプ21の取り付け形態に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能である。例えば、
図2に示す例において、融雪パイプ21(21a)に孔(開口部分)が設けられ、そこに第二パイプ12(12a,12b)が差し込まれることで第二パイプ12(12a,12b)と融雪パイプ21(21a)が接続される構成としてもよい。
【0046】
[融雪装置の動作]
ここで、各図面を参照して、本実施の形態における融雪装置の原理や動作について説明する。前提として、融雪装置20を含むパイプハウス1の屋根部分には、雪が積もっていることとする。また、一例として、加熱手段22には給湯装置が用いられ、伝送器具221には加熱手段22(給湯装置)から供給される湯を送るためのホース(管)が用いられることとする。この場合、融雪パイプ21は、湯が流れる(通過する)ように空洞が設けられる(
図1(A)参照)。
【0047】
加熱手段22(給湯装置)は、伝送器具221(ホース)を介して、一定時間間隔で自動的に湯(熱湯)を融雪パイプ21へと送る。すると、融雪パイプ21には湯が流れる(通過する)ため、融雪パイプ21の温度は上昇し、当該融雪パイプ21に積もった雪や、融雪パイプ21周辺の雪が融解する(溶けて水となる)。
【0048】
また、融雪パイプ21は、複数の第二パイプ12を跨いで横断する方向に設けられるため、パイプハウス1には、融雪パイプ21と第二パイプ12とで区切られる区画が複数存在する。
【0049】
ここで、
図6に示す例においては、上記で述べたように、融雪パイプ21と、複数の第二パイプ12とで区切られる区画Dが12ヵ所(区画D1~D12)存在する(
図6左参照)。
パイプハウスへの積雪が進むにつれて、屋根部分の、複数の第二パイプ12で区切られた各区画間を跨ぐ領域(例えば、区画D1と区画D7との間や、区画D2と区画D8との間、または区画D1と区画D2との間等)に、融雪パイプ21と第二パイプ12が交差する部分を中心に、積もった雪が固まって雪の橋(以下、「ブリッジ」と言う。)が形成され、時間が経つにつれて成長していく。
【0050】
図7は、積雪によって形成されるブリッジを説明するための図である。
図7に示すように、積雪が進むにつれて、パイプハウス1の屋根部分を形成する第二パイプ12の上にも雪が積もり始める(
図7左上~左中参照)。そして、積雪により、第二パイプ12で区切られていた区間の間に、ブリッジが形成される(
図7左下参照)。
さらに積雪が進むにつれて、このブリッジの幅は成長、拡大していき(
図7右上~右中参照)、最終的に、第二パイプ12は雪ですっぽりと覆われてしまう(
図7右下参照)。
【0051】
上記の点に関し、積雪によるハウスの倒壊や損傷に対して本発明者が鋭意研究を重ねたところ、上記ブリッジの成長、拡大が、ハウスの倒壊や損傷に大きく影響している可能性があることが判明した。つまり、当該ブリッジの成長、拡大と共に、ハウス上の積雪(雪塊)が各区画同士で接合して大きく成長し、質量として大きなものとなり動きにくくなるため、積雪が増長されてしまい、ハウスの倒壊や損傷につながるものと推定された。
【0052】
そこで、本発明では、融雪用部材21(融雪パイプ21)を、第二部分12を形成する構造部材を跨いで横断する方向に設けることにより、上記ブリッジの成長、拡大を抑えることで、ハウス1の倒壊や損傷を防ぐことができる融雪装置20を実現するに至った。
【0053】
つまり、本発明の融雪装置20によれば、上述したように、融雪用部材21や第二部分12の構造部材が熱せられ、融雪用部材21や当該構造部材の上に積もった雪や周辺の雪が優先的に融解するため、このようなブリッジは形成されない。
【0054】
さらに、上記構造部材は融雪用部材21と繋がっているため、融雪用部材21の熱が第二部分12にも伝わり(伝熱し)、第二部分12の構造部材に積もった雪や、その部材の周辺の雪が融解する(溶けて水となる)。
【0055】
その結果、融雪用部材21と第二部分12の構造部材形成される複数の区切り周辺の雪が部分的に融解し、その区切られた区画内で、ブロック状の雪塊が形成される。
【0056】
そして、上述したように、融雪用部材21や第二部分12の構造部材周辺の雪は溶けて水となるため、この水がハウス1に張られたフィルム30、またはシート、またはガラスと、雪塊との間に侵入する(
図6中央参照)。雪が積もっているハウス1の屋根部分は傾斜しており、かつ、雪塊は侵入した水により滑りやすくなるため、自重による雪塊の崩落が発生する(
図6右参照)。
【0057】
このように、雪が降り続いた場合でも、ハウス1の屋根部分に積もった雪の重さ(雪塊の自重)が一定以上になると、融解・崩落が繰り返して発生するため、ハウス1に雪が積もることはない。つまり、一定間隔でハウス1の屋根部分の雪は融解・崩落するため、ハウス1の屋根部分に雪は積もらず、想定以上に長期間雪が降り続けてしまうような場合でも、積もった雪の重さによりハウス1が倒壊することや、ハウス1の一部が損傷することを防ぐことができる。
【0058】
なお、融雪用部材21の設置位置に関して、屋根部分の天頂部に設けられる形態を示しているが、その形態に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能である。例えば、後述する各種形態と組合せて、融雪用部材21を配置することができる。
【0059】
また、ハウス1全体の耐荷性を考慮し、強度が不足する領域に積雪による荷重集中を抑制するために、例えば、屋根部分(第二部分12)のある特定の位置に、融雪装置20を、当該屋根部分を形成する構造部材を跨いで横断する方向で設けることで、積雪を抑制しようとする領域において一定量以上の積雪が発生しないようにすることも可能である。
この場合、融雪用部材21を長手方向に分割したものを配置する形態も含む。具体的には、第二部分12を形成する複数の構造部材の、少なくとも1本の構造部材を跨ぐ長さの融雪用部材21を、ハウス1の屋根部分の、1つまたは複数のある特定の位置に、当該構造部材を跨いで横断する方向に設けることも可能である。
【0060】
別の観点では、ハウス1の屋根部分の積雪を落雪させる方向を設定するために、例えば、屋根部分の左右のどちらか一方や、または左右のある特定の位置に融雪用部材21を設け、意図的に特定の方向へ落雪を生じさせることも可能である。
この点に関しては、落雪によるハウス周辺における人の安全確保や、設置される収納用倉庫や機器等へのアクセスや保全・管理にも有効である。なお、この場合においても、上記で例示した、分割した融雪用部材21による配置の形態を利用できることは言うまでもない。
【0061】
また、本発明では、上記で述べた通り、融雪用部材21は着脱自在に取り付け可能である。特に、ハウスを園芸、鑑賞用植物や、野菜、果物等の農作物の栽培、育成等に用いる場合、日射を遮ることなく必要量の日照量を確保するため、特に屋根部分に配置される構造材を少なくしたハウスが多く見受けられ、またそのニーズも高い。
この点において、本発明では、融雪用部材21を着脱自在に取り付け可能であるため、冬季においては融雪用部材21を構造材料、つまり強度部材の1つとしても用いる一方で、積雪のない春季や夏期においては必要に応じて取り外すことも可能となり、利用者にとって非常に利便性が高いものとなる。
【0062】
[実験例]
続いて、本実施の形態におけるパイプハウスを用いた、融雪実験について説明する。ここでは、融雪実験において用いたパイプハウスを、前述した
図6,7のパイプハウス1に加えさらに、
図5に示す三角屋根型のパイプハウス1(1c)として実施した例を示す。また、融雪装置20として、加熱手段22は電気ヒーター、伝送器具221はヒーティングテープ221aを用いた(
図5参照)。
【0063】
本融雪実験では、人工的に雪を降らせて、パイプハウス1(1c)に積もった雪を融雪装置20により溶かした。
図8は、本発明の融雪装置によるパイプハウスに積もった雪の崩落を説明するための図である。
図8(A)は電気ヒーターの消費電力をやや弱(67.2[W])とした場合、
図8(B)は強(268.9[W])とした場合である。
【0064】
図8に示すように、融雪パイプ21と第二パイプ12とで形成される区画毎に、ブロック状の雪塊が形成され、かつ融解・崩落が発生していることが分かる。また、電気ヒーターの消費電力が強い方が、融雪パイプ21や第二パイプ12の温度の上昇も大きいため、雪塊の融解度合も大きいことが分かる(
図8(B)に示す雪塊の方が、
図8(A)に示す雪塊よりも溶けて液状化していることが分かる)。
【0065】
なお、
図9は、融雪装置の実験結果を説明するための図である。具体的には、電気ヒーターの消費電力を、「(b)弱(37.8[W])」、「(c)やや弱(67.2[W])」、「(d)中(105[W])」、「(e)やや強(151.3[W])」、「(f)強(268.9[W])」の5段階で実験した結果をグラフでまとめたものである。また、「(a)加熱なし」とした場合の結果も合せてまとめた。
【0066】
それぞれのグラフは、横軸が時間[h:m]、縦軸が測定対象区画の積雪重量[kg]である。まず、
図9(a)に示す「加熱なし」を例に説明すると、時間が経過するにつれて、積雪が進み、積雪重量も大きくなっていることが分かる。具体的には、測定開始時点(10:00)では全く積雪がなかった状態(0kg)から、測定終了時点(16:00)では、積雪重量は4kgを超えている。つまり、パイプハウス1の屋根部分に大量の雪が積もっていることが分かる。
【0067】
一方、電気ヒーターの消費電力が「(b)弱(37.8[W])」の場合、
図9(b)に示すように、積雪重量が3kgを超えた後に一気に積雪重量が下がっている。そのため、14:00頃に一度だけ崩落が発生していることが分かる。同様に、消費電力が「(c)やや弱(67.2[W])」の場合は、積雪重量が1kgを超えた12:00前頃、13:30頃、15:00頃の3回、崩落が発生していることが分かる。
【0068】
また、消費電力が「(d)中(105[W])」や「(e)やや強(151.3[W])」の場合は、積雪重量が1kgに満たない時点で、10:00~16:00の間で6回の崩落が発生していることが分かる。
なお、消費電力が「(f)強(268.9[W])」の場合は、
図9(f)に示すように、明確に積雪重量が一気に下がっている箇所がないため、積もる前に雪がどんどん溶けていっていることが分かる。
【0069】
[温度分布]
図10,11は、温度分布の解析結果を説明するための図である。具体的に、
図10は、融雪装置20の作用により上昇する、融雪パイプ21(21b)および第二パイプ12(12c)の温度の分布を解析した結果を説明するための図である。
【0070】
図10に示すように、パイプハウス1のある区画D(D20)を解析対象とする。区画D20は、融雪パイプ21(21b)と、2本の第二パイプ12(12c)と、第三パイプ13とで囲まれている。
【0071】
ここで、加熱手段22により融雪パイプ21bを加熱し、区画D20内の温度上昇の分布を解析した。なお、第二パイプ12cおよび第三パイプ13は、ポリ塩化ビニル製、炭素鋼製、および銅製のものとして温度上昇の分布の比較実験を行った。
【0072】
図11は、その温度上昇の分布の解析結果(温度分布図)である。
図11(A)がポリ塩化ビニル製とした場合の温度分布、
図11(B)が炭素鋼製とした場合の温度分布、
図11(C)が銅製とした場合の温度分布である。また、それぞれ、図示しているように、左側が天頂部分側(融雪パイプ21b側)である。
【0073】
図11(A)に示すように、ポリ塩化ビニル製の場合、左端(加熱手段22により加熱される融雪パイプ21b)は温度が上昇しているが、それ以外の部分は全く上昇していないことが分かる。つまり、第二パイプ12cや第三パイプ13は、全く温度が上昇していないことが分かる。
これは、ポリ塩化ビニルは、熱伝導率が0.13~0.29[W/m・k]と低いため、融雪パイプ21bから第二パイプ12cへ熱が伝わらなかったためと考えられる。
【0074】
一方、
図11(B)に示すように、炭素鋼製の場合、2本の第二パイプ12cに沿って、第二パイプ12cの中間地点ぐらいまで温度が上昇していることが分かる。これは、炭素鋼の熱伝導率は36~53[W/m・k]と比較的高く、融雪パイプ21bから第二パイプ12cへ熱が伝わったためと考えられる。
【0075】
さらに、
図11(C)に示すように、銅製の場合は、2本の第二パイプ12cおよび第三パイプ13に沿って万遍なく温度が上昇していることが分かる。これは、炭素鋼の熱伝導率は398[W/m・k]と非常に高く、融雪パイプ21bから第二パイプ12cや第三パイプ13まで熱が十分に伝わったためと考えられる。
【0076】
以上の温度分布の解析結果より、第二部分12や第三部分13を形成する構造部材(第二パイプ12、第三パイプ13)は、熱伝導率が高い金属製のものである方が、融雪用部材21(融雪パイプ21)からの熱が十分に伝わり、より効率的に雪を溶かすことができると言える。
【0077】
[適用製品]
以上のように、本発明に係るハウス1や融雪装置20について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらは様々な製品に適用することができる。
例えば、加熱手段22は、地熱や温泉を利用することができる。具体的には、地熱や温泉から湧き出る湯(熱湯)を利用し、融雪用部材21を加熱することができる。
【0078】
また、自重により崩落した雪塊は、ハウス1のサイド(側面)に溜まる場合があり、本発明はこのような場合においても有効利用することが可能である。具体的には、ハウス1の側面部分(第一部分11)に設けられる構造部材に、当該構造部材を跨ぎ横断する方向に融雪用部材21を、1本または複数本設け、側面部分の構造部材と共に加熱し、融雪により落下して側面に溜まった雪塊に熱を加える。
そうすることで、ハウス1と、この雪塊との接触を回避することができ、積雪によりハウス1の側面に溜まる雪塊の増加により、側面からの当該雪塊による押圧による荷重負荷を軽減することが可能となり、結果として、ハウス1の倒壊防止に繋げることができる。
【0079】
さらに、その溜まった雪をかまくらのように、ハウス1のサイドに積み上げていくことで、雪塊と、ハウス1との間に形成される空隙により、ハウス1内の温度が外に逃げないようにすることも可能である。つまり、溶けずに残った雪が積もり積もって、いわば断熱材の効果を得ることもでき、ハウス1全体の保温性が高まり省電力化も期待できる。
【0080】
図12,13は、このような断熱効果の実験結果を説明するための図である。雪塊がパイプハウスを覆っている場合(
図12(A)参照)と、雪塊がパイプハウスを覆っていない場合(
図12(B)参照)とでそれぞれ、経時変化するパイプハウス内の温度を計測し、比較した。
【0081】
図12(A)は、雪塊がパイプハウスを覆っている場合の、一定時間(約7時間)経過後の積雪状況を示す図である。
図12(A)に示すパイプハウスは、自重により崩落した雪塊がサイドに溜まっており、パイプハウス全体が雪塊で覆われていることが分かる。
一方、
図12(B)は、雪塊がパイプハウスを覆っていない場合の、一定時間(約7時間)経過後の積雪状況を示す図である。
図12(B)に示すパイプハウスは、雪塊がサイドに溜まっておらず、パイプハウスは雪塊で覆われていないことが分かる。
【0082】
また、
図13(A)は、雪塊がパイプハウスを覆っている場合の、パイプハウス内の温度の変化を示すグラフである。一方、
図13(B)は、雪塊がパイプハウスを覆っていない場合の、パイプハウス内の温度の変化を示すグラフである。パイプハウス内の温度は、株式会社KNラボラトリーズのハイグロクロンを使用して計測した。
【0083】
これらのグラフからも分かるように、雪塊がパイプハウスを覆っている場合は、覆われた雪塊がいわば断熱材として作用し、約7時間後にはパイプハウス内の温度が2℃程度上昇していることが分かる(
図13(A)参照)。一方、雪塊がパイプハウスを覆っていない場合は、パイプハウス内の温度に変化は見られなかった(
図13(B)参照)。この状況を比較しても、ハウスのサイドに溜まった雪塊が断熱材として十分に作用していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、着脱可能であるため既存のハウスに対しても取り付けることができる融雪装置や、その融雪装置を用いたハウスとして提供することができ、積雪によるハウスの倒壊や損傷を防ぐことができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0085】
1,1a,1b,1c ハウス(パイプハウス)
11 第一部分(第一部材/第一パイプ)
12,12a,12b,12c 第二部分(第二部材/第二パイプ)
13 第三部分(第三部材/第三パイプ)
20 融雪装置
21,21a,21b 融雪用部材(融雪パイプ)
211 固定具
212 留め具
22 加熱手段
221,221a 伝送器具
30 フィルム
D,D1~D12,D20 区画