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特開2022-150143スパッタリングターゲット材及びその製造方法
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  • 特開-スパッタリングターゲット材及びその製造方法 図1
  • 特開-スパッタリングターゲット材及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150143
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220929BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20220929BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20220929BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C38/00 303S
H01L43/08 Z
H01L43/08 M
H01L43/12
H01L27/105 447
B22F3/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052609
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
【テーマコード(参考)】
4K018
4K029
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018EA01
4K018EA11
4K018EA21
4K018EA31
4K018KA29
4K018KA43
4K029DC04
4K029DC09
4M119BB01
4M119CC05
4M119JJ03
5F092AA20
5F092AB02
5F092AB06
5F092AC11
5F092BE06
5F092BE24
5F092BE25
5F092CA02
(57)【要約】
【課題】耐割れ性に優れたスパッタリングターゲット材及びその製造方法の提供。
【解決手段】このスパッタリングターゲット材の材質は、B、希土類元素RE及び元素Mを含み、その残部がCo及び/又はFeと不可避的不純物とからなる合金である。Bの含有量xは15at.%以上30at.%以下である。希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される。希土類元素REの合計含有量yは0.1at.%以上11at.%以下である。元素Mは、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される。元素Mの合計含有量zは0.25at.%以上13.0at.%以下である。合計含有量zと合計含有量yとの比z/yは0.5以上2.5以下である。このスパッタリングターゲット材は、この組成の合金を材質とする原料粉末の焼結体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質が、Bと、希土類元素REと、元素Mと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物と、からなる合金であり、
上記合金におけるBの含有量xが15at.%以上30at.%以下であり、
上記希土類元素REが、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された希土類元素REの合計含有量yが0.1at.%以上11at.%以下であり、
上記元素Mが、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された元素Mの合計含有量zが0.25at.%以上13.0at.%以下であり、
上記元素Mの合計含有量zの、上記希土類元素REの合計含有量yに対する比z/yが、0.5以上2.5以下である、スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
上記合金に、上記希土類元素RE及び上記元素Mを含むRE-M金属間化合物相と、CoFe相と、を含む金属組織が形成されており、
上記RE-M金属間化合物相における、上記希土類元素RE及び上記元素Mの合計含有量が40at.%以上である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項3】
原料粉末の焼結体であって、
上記原料粉末の材質が、Bと、希土類元素REと、元素Mと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物と、からなる合金であり、
上記合金におけるBの含有量xが15at.%以上30at.%以下であり、
上記希土類元素REが、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された希土類元素REの合計含有量yが0.1at.%以上11at.%以下であり、
上記元素Mが、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された元素Mの合計含有量zが0.25at.%以上13.0at.%以下であり、
上記元素Mの合計含有量zの、上記希土類元素REの合計含有量yに対する比z/yが0.5以上2.5以下である、スパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット材に関する。詳細には、本発明は、希土類元素を含むスパッタリングターゲット材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)等の磁気デバイスには、トンネル磁気抵抗膜が採用されている。トンネル磁気抵抗膜は、高いトンネル磁気抵抗(TMR)信号、低いスイッチング電流密度(Jc)等の特徴を示す。
【0003】
トンネル磁気抵抗膜は、例えば、Co-Fe-B系合金からなる2枚の磁性層で、MgOからなる遮蔽層を挟んだ構造を有している。この磁性層をなす材料として、ホウ素(B)を含む磁性体が知られている。具体的には、Co-B、Fe-B、Co-Fe-B又はこれらにAl、Cu、Mn、Ni等を添加した組成の磁性体が例示される。
【0004】
トンネル磁気抵抗膜を構成する磁性層は、通常、その材質がCo-Fe-B系合金であるターゲット材を用いたスパッタリングにより得られる。特開2004-346423公報(特許文献1)には、断面ミクロ組織においてホウ化物相を微細分散化させたCo-Fe-B系合金ターゲット材が開示されている。国際公開WO2015-080009公報(特許文献2)では、Bの高濃度相とBの低濃度相とを含み、Bの高濃度相を細かく分散している磁性材スパッタリングターゲットが提案されている。
【0005】
特開2017-057477公報(特許文献3)では、(CoFe)B、CoB及びFeBの形成を低減したスパッタリングターゲット材が提案されている。国際公開WO2016-140113公報(特許文献4)には、酸素含有量が100wtppm以下の磁性材スパッタリングターゲットが開示されている。
【0006】
特開2017-82330号公報(特許文献5)及び特開2014-156639号公報(特許文献6)には、希土類(ランタノイド系)元素を添加した磁性スパッタリングターゲット材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-346423号公報
【特許文献2】国際公開第2015/080009号
【特許文献3】特開2017-057477号公報
【特許文献4】国際公開第2016/140113号
【特許文献5】特開2017-82330号公報
【特許文献6】特開2014-156639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、トンネル磁気抵抗膜の特性を向上させる目的で、希土類元素を添加したCo-Fe-B系合金からなるスパッタリングターゲット材が使用される場合がある。しかしながら、Co-Fe-B系合金に希土類元素を添加すると、その靭性を担うCoFe相をなすCo及び/又はFeと、希土類元素とが金属間化合物を生成するため、スパッタリングターゲット材が非常に脆くなり、その製造中や使用中に割れて生産性を阻害するという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、希土類元素を含む合金からなり、しかも、耐割れ性に優れたスパッタリングターゲット材及びその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意検討の結果、希土類元素を含む合金において、特定の元素Mを添加することにより、CoFe相をなすCo又はFeと希土類元素との金属間化合物の生成が抑制され、CoFe相を含む金属組織が形成されることに着目して、本発明を完成したものである。
【0011】
即ち、本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Bと、希土類元素REと、元素Mと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物と、からなる合金である。この合金におけるBの含有量xは15at.%以上30at.%以下である。この希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された希土類元素REの合計含有量yは0.1at.%以上11at.%以下である。この元素Mは、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された元素Mの合計含有量zは0.25at.%以上13.0at.%以下である。この元素Mの合計含有量zの希土類元素REの合計含有量yに対する比z/yは0.5以上2.5以下である。
【0012】
好ましくは、この合金には、希土類元素RE及び元素Mを含むRE-M金属間化合物相と、CoFe相と、を含む金属組織が形成されている。このRE-M金属間化合物相における、希土類元素RE及び元素Mの合計含有量は40at.%以上である。
【0013】
他の観点から、本発明に係るスパッタリングターゲット材は、原料粉末の焼結体である。この原料粉末の材質は、Bと、希土類元素REと、元素Mと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物と、からなる合金である。この合金におけるBの含有量xは15at.%以上30at.%以下である。この希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された希土類元素REの合計含有量yは0.1at.%以上11at.%以下である。この元素Mは、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された元素Mの合計含有量zは0.25at.%以上13.0at.%以下である。この元素Mの合計含有量zの希土類元素REの合計含有量yに対する比z/yは0.5以上2.5以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るスパッタリングターゲット材は、その材質が希土類元素を含む合金であるにも関わらず、耐割れ性に優れている。このターゲット材では、その製造中及びスパッタリング時の破損が回避される。このターゲット材の生産効率は、高い。しかも、このターゲット材を用いたスパッタリングにより得られるトンネル磁気抵抗膜は、磁気性能に優れている。
【0015】
他の観点から、本発明に係る製造方法によれば、磁気性能が向上したトンネル磁気抵抗膜が得られ、しかも、耐割れ性に優れたターゲット材を、効率よく簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材の金属組織を示す顕微鏡画像である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材のX線回折パターンの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0018】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Bと、希土類元素REと、元素Mと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物と、からなる合金である。換言すれば、この合金は、希土類元素RE及び元素Mを含むCo-Fe-B系合金、Co-B系合金又はFe-B系合金である。
【0019】
本発明において、希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上である。これら希土類元素REは、得られるトンネル磁気抵抗膜の性能向上に寄与しうる。また、元素Mは、Cu、Ge、Sn及びRu からなる群から選択される1種又は2種以上である。元素Mは、希土類元素REと反応する。元素Mと希土類元素REとの反応により、CoFe相をなすCo及び/又はFeと希土類元素との金属間化合物の生成が抑制される。希土類元素REとともに元素Mを含む合金では、靱性を担うCoFe相の形成が阻害されない。この合金を材質として得られるスパッタリングターゲット材は、耐割れ性に優れている。本発明の効果が阻害されない限り、この合金は、任意成分として他の元素を含みうる。不可避的不純物としては、O、S、C、N等が例示される。
【0020】
この合金におけるBの含有量xは、15at.%以上30at.%以下である。Bの含有量を15at.%以上とすることにより、得られるトンネル磁気抵抗膜に十分なアモルファス性が付与される。このトンネル磁気抵抗膜では、高い磁気性能が発揮されうる。Bの含有量が30at.%以下であれば、希土類元素RE及び元素Mを含む合金の金属組織中にCoFe相が存在しうる。
【0021】
この合金における希土類元素REの含有量yは、0.1at.%以上11at.%以下である。この合金が、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される2種以上を含む場合、その合計含有量が0.1at.%以上11at.%以下とされる。希土類元素REの合計含有量を0.1at.%以上とすることにより、得られるトンネル磁気抵抗膜における性能向上効果が十分に発揮される。希土類元素REの合計含有量を11at.%以下とすることにより、金属組織におけるCoFe相の形成が阻害されない。
【0022】
この合金における元素Mの含有量zは、0.25at.%以上13.0at.%以下である。この合金が、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される2種以上を含む場合、その合計含有量が0.25at.%以上13.0at.%以下とされる。元素Mの合計含有量を0.25at.%以上とすることにより、CoFe相をなすCo及び/又はFeと希土類元素REとの金属間化合物の生成を抑制する効果が得られる。元素Mの合計含有量を13at.%以下とすることにより、CoFe相をなすCo及び/又はFeと元素Mとの反応による膜特性の低下が回避される。
【0023】
さらに、この合金における元素Mの合計含有量zの、希土類元素REの合計含有量yに対する比z/yは0.5以上2.5以下である。この比z/yを0.5以上とすることにより、希土類元素REとの金属間化合物の生成が抑制され、CoFe相が形成される。この比z/yを2.5以下とすることにより、CoFe相をなすCo及び/又はFeと元素Mとの反応による膜特性の低下が回避され、かつ、希土類元素REによる磁気特性向上効果が得られうる。
【0024】
本発明に係るスパッタリングターゲット材は、その材質である合金における希土類元素REと元素Mとの含有量が適正である。この合金の金属組織では、CoFe相の形成が阻害されない。金属組織におけるCoFe相は、ターゲット材の靱性に寄与する。このターゲット材は、その材質が希土類元素を含む合金であるにも関わらず、耐割れ性に優れている。このターゲット材では、その製造中及びスパッタリング時の破損が回避される。このターゲット材の生産効率は、高い。さらに、希土類元素REを含む合金からなるターゲット材を用いたスパッタリングによれば、磁気特性に優れたトンネル磁気抵抗膜を製造することが可能である。
【0025】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材をなす合金は、下記組成式で示される。
(1-x-y-z)(Co-nFe)-xB-yRE-zM
【0026】
上記組成式において、nは、この合金におけるCoとFeとの合計に対するFeの比率(at.%)である。本発明の効果が得られる限り、nは、0at.%以上100at.%以下の範囲で適宜選択することができる。Coの前の(1-n)は省略されている。
【0027】
上記組成式において、REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される希土類元素の総称であり、Mは、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される元素の総称である。
【0028】
xは、Co、Fe、B、RE(即ち、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される希土類元素)及びM(即ち、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される元素)の合計に対する、Bの比率(at.%)であり、yは、この合計に対するREの比率(at.%)であり、zは、この合計に対するMの比率(at.%)である。
【0029】
本発明に係るターゲット材において、xは、15at.%以上30at.%以下である。磁気特性の観点から、好ましいxは18at.%以上である。
【0030】
本発明に係るターゲット材において、yは、0.1at.%以上11at.%以下である。磁気特性の観点から、好ましいyは3at.%以上である。耐割れ性の観点から、好ましいyは10at.%以下である。
【0031】
本発明に係るターゲット材において、zは、0.25at.%以上13at.%以下である。耐割れ性の観点から、好ましいzは3at.%以上であり、また、12.5%以下である。
【0032】
本発明に係るターゲット材において、比z/yは0.5以上2.5以下である。耐割れ性の観点から、好ましい比z/yは0.6以上である。磁気特性及び耐割れ性のバランスの観点から、好ましい比z/yは2.0以下である。
【0033】
前述の組成式で示される希土類元素RE及び元素Mを含む合金では、CoFe相と、希土類元素RE及び元素Mを含むRE-M金属間化合物相と、を含む金属組織が形成される。この合金がCoFe相を含む金属組織を有することにより、この合金からなるスパッタリングターゲット材の耐割れ性が顕著に向上する。ここで、本願明細書において、CoFe相とは、Fe及び/又はCoから形成される相を意味しており、Co又はFeが0at.%である相、つまりFe相又はCo相を含む概念である。また、この相がCo及びFeを含む場合、その比率によらず、CoFe相と称するものとする。金属組織におけるCoFe相の形成は、例えば、X線回折測定により得られる回折パターンにおいて、αFe相、γCo相、εCo相のピークの存在により確認できる。
【0034】
好ましくは、希土類元素REと元素Mとの反応によって形成されるRE-M金属間化合物相における、希土類元素RE及び元素Mの合計含有量は40at.%以上である。希土類元素RE及び元素Mを40at.%以上含むRE-M金属間化合物相が形成されることにより、靱性を担うCoFe相の形成が阻害されず、ターゲット材の高い耐割れ性が得られる。耐割れ性向上の観点から、RE-M金属間化合物相における希土類元素RE及び元素M合計含有量は、45at.%以上がより好ましい。本発明の効果が得られる限り、RE-M金属間化合物相における希土類元素REと元素Mとの比率は、特に限定されない。金属組織におけるRE-M金属間化合物相の形成は、例えば、ターゲット材から採取した試験片断面の、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により確認することができる。また、RE-M金属間化合物相中の希土類元素RE及び元素Mの含有量は、エネルギー分散型X線分析(EDX)により測定することができる。
【0035】
本発明の効果が得られる限り、この合金の金属組織が、CoFe相及び前述のRE-M金属間化合物相以外に他の相を有してもよい。この他の相として、(CoFe)B相、(CoFe)B相、CoFeBRE相、CoFeRE相等が例示される。
【0036】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の製造方法は、原料粉末を焼結する焼結工程を有している。詳細には、この製造方法は、原料である粉末を高圧下で加熱して固化成形する、いわゆる粉末冶金により焼結体を形成する工程を含む。この焼結体を、機械的手段等で適正な形状に加工することにより、ターゲット材が得られる。換言すれば、本発明に係るスパッタリングターゲット材は、原料粉末の焼結体である。
【0037】
原料粉末は、多数の粒子からなる。原料粉末をなす各粒子の材質は、Bと、希土類元素REと、元素Mと、を含み、その残部が、Co及び/又はFeと、不可避的不純物と、からなる合金である。この合金におけるBの含有量xは15at.%以上30at.%以下である。希土類元素REは、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoからなる群から選択される1種又は2種以上である。元素Mは、Cu、Ge、Sn及びRuからなる群から選択される1種又は2種以上である。この合金における、選択された希土類元素REの合計含有量yは0.1at.%以上11at.%以下である。この合金における、選択された元素Mの合計含有量zは0.25at.%以上13.0at.%以下である。この元素Mの合計含有量zの希土類元素REの合計含有量yに対する比z/yは0.5以上2.5以下である。
【0038】
この製造方法では、希土類元素REとともに、元素Mを適正な量で含む合金からなる原料粉末が用いられることにより、この原料粉末の焼結体であるターゲット材の金属組織に、靱性に寄与するCoFe相が形成される。この製造方法により得られるターゲット材は、耐割れ性に優れている。この製造方法によれば、ターゲット材の製造時の破損が回避されうる。
【0039】
この原料粉末は、アトマイズ法により製造されうる。アトマイズ法の種類は特に限定されず、ガスアトマイズ法であってもよく、水アトマイズ法であってもよく、遠心力アトマイズ法であってもよい。アトマイズ法の実施に際しては、既知のアトマイズ装置及び製造条件が適宜選択されて用いられる。
【0040】
好ましくは、原料粉末は、焼結工程前に篩分級される。この篩分級の目的は、焼結を阻害する粒子径500μm以上の粒子(粗粉)を除去することにある。この原料粉末によれば、粗粉除去以外の粒度調整をしない場合でも、本発明の効果が得られる。
【0041】
原料粉末を固化成形して焼結体を得る方法及び条件は、特に限定されない。例えば、熱間静水圧法(HIP法)、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間押出法等が適宜選択される。また、得られた焼結体を加工する方法も、特に限定されず、既知の機械的加工手段が用いられ得る。
【0042】
前述の原料粉末の焼結体であるターゲット材は、例えば、MTJ素子に使用される磁性薄膜を形成するためのスパッタリングに好適に使用される。このターゲット材によれば、希土類元素を含有するにもかかわらず、スパッタリング時のターゲット材の割れ等が抑制される。これにより、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに適した、高性能かつ高品質の磁性膜を効率良く得ることが可能になる。
【実施例0043】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0044】
表1-2に示される組成となるように、各原料を秤量して、減圧下、Arガス雰囲気又は真空雰囲気にした耐火物坩堝内で、誘導加熱により溶解した。その後、溶解した溶湯を、坩堝下部に設けられた小孔(直径8mm)から出湯し、ガスアトマイズすることにより、実施例及び比較例のスパッタリングターゲット材製造用の原料粉末を得た。
【0045】
得られた原料粉末を篩分級して、直径500μm以上の粗粉を除去した。この篩分級後の原料粉末を、炭素鋼で形成された缶(外径220mm、内径210mm、長さ200mm)に充填して真空脱気した後、HIP装置を用いて、温度900~1200℃、圧力100~150MPa、保持時間1~5時間の条件で焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工することにより、実施例及び比較例のスパッタリングターゲット材とした。
【0046】
[電子顕微鏡観察]
実施例No.1-13及び比較例No.1-5から、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)用の試験片を採取した。各試験片の断面を研磨した後、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて、縦45μm、横65μmの視野を観察した。得られたSEM画像を解析して、RE-M金属間化合物相の面積を測定し、全視野面積に対する比率を求めた。5視野測定して得られた平均値が、下表1-2にRE-M相面積率(%)として示されている。また、観察されたRE-M金属間化合物相について、エネルギー分散型X線分析(EDX)をおこなって、希土類元素RE及び元素Mを定量し、その合計含有量を求めた。得られた結果が、下表1-2にRE+M含有率(at.%)として示されている。
【0047】
実施例1について得られたSEM画像が、図1に示されている。図1中、希土類元素RE及び元素Mを含むRE-M金属間化合物相が、符号1として示されている。CoFe相が符号2として示されている
【0048】
[X線回折測定]
実施例No.1-13及び比較例No.1-5から、それぞれ試験片を採取してXRD測定をおこなって、CoFe相の有無を判定した。具体的には、CoFe相の存在を、αFe相、γCo相、εCo相又はαCoFe相のピークにより確認した。得られた結果が表1-2に示されている。表1-2中、存在する場合がY、存在しない場合がNで示されている。
【0049】
実施例1について得られた回折パターンが、図2に示されている。図2中、αCoFe相の存在を示す回折ピークが▼として示されている。
【0050】
[抗折強度測定]
実施例No.1-13及び比較例No.1-5の耐割れ性の指標として抗折強度を測定した。抗折強度は、実施例及び比較例の各ターゲット材から、ワイヤーカットにより試験片を切り出して、「JIS Z 2511」の規定に準拠した方法により測定した。測定条件は、以下の通りである。
試験片形状:厚さ2mm、幅2mm、長さ20mm
支点間距離:10mm
【0051】
試験片が破断した時の荷重(kN)を測定し、下記の数式により抗折強度BS(MPa)を算出した。5回の測定値の平均が、下表1-2に示されている。数値が大きいほど、耐割れ性に優れていることを示す。
BS = (3 / 2) × P × L / ( t × W )
t:試験片の厚さ(mm)
W:試験片の幅(mm)
L:支点間距離(mm)
P:破断時の荷重(kN)
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1-2に示されるように、実施例のターゲット材は、比較例のターゲット材に比べて大きな抗折強度を有しており、CoFe相に起因する靱性が維持されていることがわかる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明されたスパッタリングターゲット材は、種々の磁気部材の製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・RE-M金属間化合物相(RE-M相)
2・・・CoFe相
図1
図2