(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150164
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】成形材料用樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220929BHJP
C08K 3/014 20180101ALI20220929BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20220929BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/014
C08K5/524
C08L33/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052642
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】澤田 忠義
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BG001
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG061
4J002EW066
4J002EW086
4J002FD076
4J002GL00
4J002GN00
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】成形時の流動性に優れ、溶融成形時の加熱着色が抑制された、成形材料用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】炭素数4以上のアルキル基を有するリン系酸化防止剤(A)を含有する成形材料用樹脂組成物であって、ゲル含有率が5質量%以下であり、温度230℃、荷重37.4Nの条件で測定されるメルトフローレートが1.5(g/10min)以上である成形材料用樹脂組成物。前記成形材料用樹脂組成物を含む、樹脂成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4以上のアルキル基を有するリン系酸化防止剤(A)を含有する成形材料用樹脂組成物であって、
ゲル含有率が5質量%以下であり、
温度230℃、荷重37.4Nの条件で測定されるメルトフローレートが1.5(g/10min)以上である成形材料用樹脂組成物。
【請求項2】
前記リン系酸化防止剤(A)が、亜リン酸エステル化合物である、請求項1に記載の成形材料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン系酸化防止剤(A)が下記式(1)で表される化合物又はその誘導体である、請求項1又は2に記載の成形材料用樹脂組成物。
(式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、互いに独立に、炭素数4~18の直鎖又は分岐のアルキル基を示す。)
【請求項4】
前記リン系酸化防止剤(A)の融点が25℃以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の成形材料用樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン系酸化防止剤(A)の分子量が600以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の成形材料用樹脂組成物。
【請求項6】
前記成形材料用樹脂組成物が、(メタ)アクリル系樹脂組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の成形材料用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の成形材料用樹脂組成物を含む、樹脂成形体。
【請求項8】
樹脂成形体が、ペレット又はフィルムである、請求項7に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料用樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系樹脂は、優れた透明性や寸法安定性から、光学材料、自動車等の車両用部品、照明用材料、建築用材料等、様々な分野で幅広く用いられている。
【0003】
上記の用途では、(メタ)アクリル系樹脂の製品に、意匠性の観点から、無色透明で存在感の低いことが要求されている。(メタ)アクリル樹脂を滞留時間の長い大型の押出機を用いて溶融成形することが増々増えており、従来よりも高温で成形加工する必要があるため、(メタ)アクリル樹脂の熱分解により、成形後の製品外観が損なわれないことが要求されている。すなわち、溶融成形時の加熱着色が抑制された(メタ)アクリル樹脂が求められている。
【0004】
また、近年、(メタ)アクリル系樹脂の製品の大型化や細密化に伴い、(メタ)アクリル系樹脂には、より優れた成形性(流動性)が求められている。すなわち、成形時の流動性に優れた(メタ)アクリル系樹脂が求められている。
【0005】
成形時の流動性及び熱安定性を向上する方法として、例えば、特許文献1には、ゲル含有率が40質量%以上であり、炭素数8以上のアルキル基を有するリン系酸化防止剤を含有するアクリル系樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、多官能(メタ)アクリレートと、亜リン酸トリエステルを含む原料を注型重合して、メタクリル系樹脂板を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2019/003531号公報
【特許文献2】特開2008-260880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のアクリル系樹脂組成物は、ゲル含有率が40質量%以上であるため、溶融成形時の流動性と加熱着色抑制が十分とはいえなかった。
特許文献2のメタクリル系樹脂板は、注型重合法を用いて製造するため、成形時の流動性が不十分であった。また、実施例に開示されている亜リン酸トリエステルを用いた場合、溶融成形時の加熱着色抑制が十分とはいえなかった。
【0008】
発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明の目的は、成形時の流動性に優れ、溶融成形時の加熱着色が抑制された、成形材料用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の本発明によって解決される。
本発明の第1の要旨は、炭素数4以上のアルキル基を有するリン系酸化防止剤(A)を含有する成形材料用樹脂組成物であって、ゲル含有率が5質量%以下であり、温度230℃、荷重37.4Nの条件で測定されるメルトフローレートが1.5(g/10min)以上である成形材料用樹脂組成物にある。
本発明の第2の要旨は、前記成形材料用樹脂組成物を含む、樹脂成形体にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形時の流動性に優れ、溶融成形時の加熱着色が抑制された、成形材料用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸アルキル」とは、「アクリル酸アルキル」及び「メタクリル酸アルキル」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
また、「アクリル酸アルキル」及び「メタクリル酸アルキル」とは、各々、アクリル酸のアルキルエステル及びメタクリル酸のアルキルエステルを意味する。
本明細書において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
本明細書において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
本明細書において、「得られた樹脂成形体」は、本発明の成形材料用樹脂組成物を成形してなる成形体を意味する。
【0012】
以下、本発明の態様について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0013】
<成形材料用樹脂組成物>
本発明の成形材料用樹脂組成物は、後述するリン系酸化防止剤(A)を含有する樹脂組成物である。
【0014】
本発明の成形材料用樹脂組成物のゲル含有率の上限は、5質量%以下である。ゲル含有率が5質量%以下であれば、溶融粘度を低く抑えることができ、成形時の流動性が良好となる。また、成形機内で成形材料用樹脂組成物の滞留を少なくできるので、樹脂の熱劣化を抑えられ、溶融成形時の加熱着色を抑制できる。3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
一方、成形材料用樹脂組成物のゲル含有率の下限は、特に限定されないが、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性及び熱安定性に優れることから、0質量%に近いほど好ましく、0質量%であってもよい。
なお、成形材料用樹脂組成物のゲル含有率の具体的な測定方法は後述する。
【0015】
本発明の成形材料用樹脂組成物の温度230℃、荷重37.4Nの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)(単位:g/10min)の下限は1.5(g/10min)以上である。メルトフローレートが1.5(g/10min)以上であれば、溶融粘度を低く抑えることができるので、成形時の流動性が良好となる。。また、成形機内で成形材料用樹脂組成物の滞留を少なくできるので、樹脂の熱劣化を抑えられ、溶融成形時の加熱着色を抑制できる。2.0(g/10min)以上が好ましく、4.0(g/10min)以上がさらに好ましい。
一方、前記メルトフローレートの下限は、特に限定されないが、溶融成形時の押し出し安定性に優れることから、20.0以下が好ましく、15.0以下がさらに好ましく、10.0以下がさらに好ましい。
上記の好ましい上限及び好ましい下限は任意に組み合わせることができる。例えば、本発明の成形材料用樹脂組成物のメルトフローレートは、1.5以上20.0以下が好ましく、2.0以上15.0以下がより好ましく、4.0以上10.0以下がさらに好ましい。
なお、成形材料用樹脂組成物のメルトフローレートの具体的な測定方法は後述する。
【0016】
本発明に用いることができる成形材料用樹脂組成物としては、(メタ)アクリル系樹脂組成物が挙げられる。
成形材料用樹脂組成物が(メタ)アクリル系樹脂組成物であれば、前記リン系酸化防止剤(A)と組み合わせることで、成形材料用樹脂組成物の熱劣化を抑えることができ、溶融成形時の加熱着色をより効果的に抑制できる。また、得られた樹脂成形体は透明性、耐候性、発色性、外観等に優れる。
(メタ)アクリル系樹脂組成物の好ましい態様としては、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)を含む樹脂組成物が挙げられる。
【0017】
本発明における成形材料用樹脂組成物には、必要に応じて、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含有することができる。
【0018】
<リン系酸化防止剤(A)>
リン系酸化防止剤(A)は、本発明の成形材料用樹脂組成物の構成成分の1つである。
本発明の成形材料用樹脂組成物がリン系酸化防止剤(A)を含むことで、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性に優れ、溶融成形時の加熱着色を抑制できる。
【0019】
本発明におけるリン系酸化防止剤(A)は、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性がより優れたものなることから、炭素数4以上のアルキル基を有する化合物である。
炭素数4以上のアルキル基を有するリン系酸化防止剤(A)としては、特に限定されないが、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性がより優れたものなることから、炭素数4以上のアルキル基を有する亜リン酸エステル化合物が好ましい。
【0020】
本発明におけるリン系酸化防止剤(A)としては、例えば、(株)ADEKA製の商品名:アデカスタブPEP-8、アデカスタブHP-10、アデカスタブ1178、アデカスタブ1500、アデカスタブC、アデカスタブ135A、アデカスタブ3010、城北化学工業(株)製の商品名:JP-351、JP-308E,JP-310、JP-312L、JP-333E、JP-318-O、JPM-308、JPM-311、JPM-313、JPP-613M、JA-805、JPP-88、JPE-10、JPE-13R、JP-318E、JPP-2000PTを挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0021】
また、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性により優れ、溶融成形時の加熱着色をより抑制できることから、リン系酸化防止剤(A)は、炭素数4以上のアルキル基を有し、芳香環構造を有しないことが好ましい。
【0022】
芳香環構造を有しないリン系酸化防止剤(A)としては、(株)ADEKA製の商品名:アデカスタブPEP-8、アデカスタブ3010、城北化学工業(株)製の商品名:JP-308E,JP-310、JP-312L、JP-333E、JP-318-O、JPE-10、JPE-13R、JP-318E、JPP-2000PTが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明におけるリン系酸化防止剤(A)としては、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性により優れ、溶融成形時の加熱着色をより抑制できることから、下記一般式(1)で表される炭素数4以上のアルキル基を有する化合物を好適に用いることができる。成形材料用樹脂組成物が(メタ)アクリル系樹脂組成物である場合に、より効率的に上述した効果を得ることができる。
【0024】
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、炭素数4~18のアルキル基を示す。)
【0025】
前記リン系酸化防止剤(A)として、例えば、(株)ADEKA製の商品名:アデカスタブ3010、城北化学工業(株)製の商品名:JP-308E,JP-310、JP-312L、JP-333E、JP-318-O、JP-318Eを挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0026】
R1、R2及びR3で表されるアルキル基の炭素数の下限は、熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上し、成形時にリン系酸化防止剤(A)の揮発を抑制でき、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性に優れ、溶融成形時の加熱着色を抑制できることから、4以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。一方、R1、R2及びR3で表されるアルキル基の炭素数の上限は、成形材料用樹脂組成物への溶解性が良好となり、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性に優れ、溶融成形時の加熱着色を抑制できることから、18以下が好ましく、16以下がより好ましい。成形材料用樹脂組成物が(メタ)アクリル系樹脂組成物である場合に、より効率的に上述した効果を得ることができる。
【0027】
本発明におけるリン系酸化防止剤(A)の融点の上限は、特に限定されないが、常温下において流動性を有し、成形材料用樹脂組成物へのリン系酸化防止剤(A)の溶解性・分散性がより良好となり、その結果、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性をより優れたものにでき、溶融成形時の加熱着色をより効率的に抑制できることから、25℃以下が好ましい。20℃以下がより好ましく、15℃以下がさらに好ましい。
【0028】
さらに、本発明におけるリン系酸化防止剤(A)の分子量の上限は、特に限定されないが、成形材料用樹脂組成物へのリン系酸化防止剤(A)の溶解性・分散性がより良好となり、その結果、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性をより優れたものにでき、溶融成形時の加熱着色をより効率的に抑制できることから、600以下が好ましい。550以下がより好ましく、500以下がさらに好ましい。一方、前記分子量の上限は、特に限定されないが、溶融成形中にリン系酸化防止剤(A)の揮発を抑制できることから、200以上が好ましく、300以上がより好ましく、400以上がさらに好ましい。
上記の好ましい上限及び好ましい下限は任意に組み合わせることができる。
【0029】
成形材料用樹脂組成物中のリン系酸化防止剤(A)の含有割合の上限は、特に限定されないが、成形時の流動性をより高くして、溶融粘度をより低く抑えることができ、成形機内での滞留をより少なくでき樹脂の熱劣化を抑えられることから、成形材料用樹脂組成物の総質量100%に対して、0.1質量%以上が好ましい。0.3質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が更に好ましい。
上記の好ましい上限及び好ましい下限は任意に組み合わせることができる。
【0030】
一方、成形材料用樹脂組成物中のリン系酸化防止剤(A)の含有割合の下限は、特に限定されないが、成形時の熱安定性をより高くし、樹脂の熱劣化による溶融粘度の上昇をより低く抑えることができ、成形機内での滞留をより少なくでき樹脂の熱劣化を抑えられることから、成形材料用樹脂組成物の総質量100%に対して、5.0質量%以下が好ましい。3.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下が更に好ましい。
上記の好ましい上限及び好ましい下限は任意に組み合わせることができる。
【0031】
<(メタ)アクリル系重合体(P)>
本発明の成形材料用樹脂組成物が(メタ)アクリル系樹脂組成物である場合、(メタ)アクリル系重合体(P)は、前記(メタ)アクリル系樹脂組成物の構成成分の一つして用いることができる。
成形材料用樹脂組成物が、(メタ)アクリル系重合体(P)を含むことにより、得られた樹脂成形体の透明性、耐候性、発色性、外観が良好となる。
また、(メタ)アクリル系重合体(P)を、前記リン系酸化防止剤(A)と併用して用いることで、成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性をより優れたものにでき、溶融成形時の加熱着色をより効率的に抑制できる。
【0032】
(メタ)アクリル系重合体(P)としては、メタクリル酸エステルの単独重合体、又は、メタクリル酸エステル由来の繰り返し単位(以下、「メタクリル酸エステル単位」という。)とアクリル酸エステル由来の繰り返し単位(以下、「アクリル酸エステル単位」という。)を含む共重合体を用いることができる。
【0033】
(メタ)アクリル系重合体(P)が前記共重合体である場合、(メタ)アクリル系重合体(P)中のメタクリル酸エステル単位及びアクリル酸エステル単位の含有割合は、得られた樹脂成形体の耐候性、発色性、外観などが良好となることから、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100%に対して、メタクリル酸エステル単位70.0~99.9質量%及びアクリル酸エステル単位0.1~30.0質量%が好ましい。メタクリル酸エステル単位80.0~99.5質量%及びアクリル酸エステル単位0.5~20.0質量%がより好ましく、メタクリル酸エステル単位90.0~99.0質量%及びアクリル酸エステル単位1.0~10.0質量%がさらに好ましく、メタクリル酸エステル単位93.0~98.0質量%及びアクリル酸エステル単位2.0~7.0質量%が特に好ましい。
【0034】
前記メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。中でも、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0035】
前記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル等が挙げられる。中でも、アクリル酸メチル又はアクリル酸エチルが好ましく、アクリル酸メチルがより好ましい。
【0036】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、必要に応じて、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステル以外の他の単量体由来の繰り返し単位を含むこともできる。
前記他の単量体としては、スチレン・アルファメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル・メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、無水マレイン酸・N置換マレイミド等の環状ビニル系単量体等が挙げられる。
これらの他の成分を用いることにより、得られた樹脂成形体の成形性・外観・発色性・衝撃強度・耐熱性などの所望の性能を向上させることができる。
【0037】
成形材料用樹脂組成物中の(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合は、前記成形材料用樹脂組成物の総質量100%に対して、80質量%以上であること好ましい。(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合が80質量%以上であれば、得られた樹脂成形体の耐候性、発色性、外観などが良好となる。(メタ)アクリル系重合体(P)の含有割合は90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル系重合体(P)としては、具体的には、三菱ケミカル(株)製のアクリペット(登録商標)VH、アクリペット(登録商標)MD、アクリペット(登録商標)MFが挙げられる。
【0039】
<成形材料用樹脂組成物の製造方法>
本発明の成形材料用樹脂組成物は、例えば、前記(メタ)アクリル系重合体(P)及び前記リン系酸化防止剤(A)を所定の配合割合で混合し、公知の溶融混練手段を用いて、該混合物を溶融混練した後、得られた溶融混練物をペレタイザー等の公知の切断・粉砕装置を用いて、例えばペレットの形態で取得することができる。公知の溶融混練手段としては、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ロール等の混練機等を用いることができる。或いは又、前記混合物を直接成形品の製造原料として用いることもできる。
【0040】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、本発明の成形材料用樹脂組成物を含む。
或いは又。本発明の樹脂成形体は、本発明の成形材料用樹脂組成物を成形して得られる成形品である。
本発明の樹脂成形体の形態は、特に限定されないが、例えば、ペレット、フィルム、シート、又は本発明の成形材料用樹脂組成物からなる層を有する積層フィルム等のような、公知の樹脂成形体を挙げることができる。
樹脂成形体を得るための方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、加圧成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法等の公知の成形方法が挙げられる。また、得られた樹脂成形体を、更に圧空成形法や真空成形法等の公知の成形方法を用いて二次成形してもよい。成形温度、成形圧力等の成形条件は、適宜設定すればよい。
【0041】
<ペレット>
本発明によって得られた樹脂成形体がペレットである場合、押出機を用いた一軸混練法、同方向二軸混練法、異方向二軸混練法等の公知の方法によって製造することができるが、二軸混練法等の混練効果の大きい方法が好ましい。
好ましい二軸押出機としては、東芝機械(株)製のTEMシリーズ等が挙げられる。また、スクリュー構成としては、成形材料用樹脂組成物を搬送する搬送部とニーディングゾーンや溶融物の送り方向が逆のスクリューセグメント(螺旋の巻き方向が逆のスクリューセグメント)等、成形材料用樹脂組成物を混練するための混練部を有するスクリュー構成が挙げられる。
【0042】
また、押出機は原料である成形材料用樹脂組成物中の水分や溶融混練された溶融物から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましい。ベントには真空ポンプの如き減圧用ポンプが好ましく設置される。かかる設置により発生水分や揮発ガスは効率よく押出機外部へ排出される。また押出原料中に混入した異物等を除去するためのスクリーンを押出機のダイ部前のゾーンに設置し、異物を成形材料用樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網メッシュ、焼結金属不織布等を用いた、フィルターパック、スクリーンチェンジャー、リーフディスクタイプ及びプリーツタイプのポリマーフィルターが例示される。
また、混練効果を大きくする方法としては、スクリューの回転数をできるだけ高くし、成形材料用樹脂組成物の供給量を少なくすることも挙げられ、このようにして溶融押出しされた成形材料用樹脂組成物は剪断発熱しやすくなりヘッド部での温度が高くなる傾向にある。押出機内で溶融混練された溶融物は、ヘッド部に設置された直径3~5mm程度のノズルを有するダイからストランドとして押出され、コールドカット法やホットカット法等でカットされて、ペレット化される。
【0043】
<フィルム>
本発明成形材料用樹脂組成物は、成形時の流動性に優れている。その結果、成形機内で成形材料用樹脂組成物の滞留を少なくできるので、樹脂の熱劣化を抑えられ、得られた樹脂成形体がフィルムの場合は、熱劣化物に起因するフィッシュアイと呼ばれる欠陥が経時的に増加する等の不具合が生じにくく、長時間に亘ってフィルム成形等の溶融押出をすることが可能である。
【0044】
本発明によって得られた樹脂成形体がフィルムである場合、溶融流延法、Tダイ法、インフレーション法等の公知の方法によって製造することができるが、経済性の点からTダイ法が好ましい。
Tダイ法によりフィルムを成形する場合、金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる複数のロール又はベルトに狭持して製膜する方法を用いれば、得られるフィルムの表面平滑性を向上させ、フィルムに印刷処理した際の印刷抜けを抑制することができる。尚、金属ロールとしては、特許第2808251号公報に記載の金属製の鏡面タッチロール、又はWO97/28950号公報に記載の金属スリーブ(金属製薄膜パイプ)と成形用ロールからなるスリーブタッチ方式で使用されるロールを例示することができる。
また、非金属ロールとしては、シリコンゴム性等のタッチロールを例示することができる。更に、金属ベルトとしては、金属製のエンドレスベルトを例示することができる。尚、これらの金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトを複数組み合わせて使用することもできる。
【0045】
以上に述べた、金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる複数のロール又はベルトに狭持して製膜する方法では、溶融押出後の成形材料用樹脂組成物を、実質的にバンク(樹脂溜まり)が無い状態で狭持し、実質的に圧延されることなく面転写させて製膜することが好ましい。バンク(樹脂溜まり)を形成することなく製膜した場合は、冷却過程にある成形材料用樹脂組成物が圧延されることなく面転写されるため、この方法で製膜したフィルムの加熱収縮率を低減することもできる。
尚、Tダイ法等で溶融押出しをする場合は、押出原料中に混入した異物等を除去するためのスクリーンを押出機のTダイ部前のゾーンに設置し、異物を成形材料用樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網メッシュ、焼結金属不織布等を用いた、フィルターパック、スクリーンチェンジャー、リーフディスクタイプ及びプリーツタイプのポリマーフィルターが例示される。
【0046】
本発明によって得られた樹脂成形体がフィルムである場合、フィルムの厚さは300μm以下が好ましい。積層成形品に用いる場合は、その厚さは50~300μmが好ましい。この厚さが50μm以上であると、成形品外観において十分な深みが得られるため好ましい。また特に、複雑な形状に成形する場合、延伸によって十分な厚さが得られる。一方、厚さが300μm以下であると、適度な剛性を有することになるので、ラミネート性、二次加工性等が向上する傾向にあり好ましい。また、単位面積あたりの質量の点で、経済的に有利になる。さらには、製膜性が安定してフィルムの製造が容易になる。また、Tダイ多層法等によって、前記フィルムにさらに他の樹脂を積層した樹脂積層フィルムとすることができる。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
<測定方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0048】
(成形材料用樹脂組成物のゲル含有率)
抽出前質量Mとして、実施例・比較例で得られた成形材料用樹脂組成物0.5gをアセトン50mLに溶解したアセトン溶液を、65℃で4時間還流させた。得られた抽出液に対し、高速冷却遠心機(日立工機(株)製、商品名:CR21G)を用いて、4℃において、14000rpm、30分間遠心分離を行なった。溶液をデカンテーションで取り除き、残存した固体を得た。この固体に対し、還流、遠心分離、デカンテーションを再度繰り返し、得られた固体を50℃で24時間乾燥して得られたアセトン不溶分の質量を、抽出後質量mとして測定する。抽出前質量M及び抽出後質量mから下記式により成形材料用樹脂組成物のゲル含有率G(%)を算出した。
G=(m/M)×100
式中、G(%)は成形材料用樹脂組成物のゲル含有率を示し、Mは所定量(抽出前質量ともいう。)の成形材料用樹脂組成物を示し、mは該所定量の成形材料用樹脂組成物のアセトン不溶分の質量(抽出後質量ともいう。)を示す。mは、成形材料用樹脂組成物1g/100mLの濃度でアセトンに溶解し、65℃で4時間還流し、遠心分離を行ない、残存した固体について還流、遠心分離、デカンテーションを再度行ない、得られた固体を50℃で24時間乾燥して得たものである。
【0049】
(メルトフローレート)
成形材料用樹脂組成物の成形時の流動性の指標として、下記の方法でメルトフローレートを測定した。
メルトインデクサー(装置名:MELT INDEXER G-02、(株)東洋精機製作所製)を用い、JIS K7210(A法)に従い、実施例・比較例で得られた成形材料用樹脂組成物 約5gを、温度250℃、荷重3.8kgf(37.3N)の条件で測定されるメルトフローレートを測定した。試料切り取り時間の間隔は、試料のメルトフローレートに応じ5~120秒とすることで単位時間当たりの吐出量を測定し、g/10minのメルトフローレートを算出した。
【0050】
(イエローインデックス:YI)
成形材料用樹脂組成物の溶融成形時の加熱着色の指標として、下記の方法でイエローインデックス(YI)を測定した。
実施例及び比較例で得られた成形材料用樹脂組成物を射出成形機(機種名:EC20PN2、東芝機械(株)製)を用い、成形温度280℃で溶融し、成形時間360秒の条件で射出成形し、長さ50mm×幅50mm×厚み3mmの成形体を得た。
分光式色差計(機種名:SE-7700、日本電色工業(株)製)を用い、ISO17223に準拠して、成形直後の前記成形体のイエローインデックス(YI)を測定した。
【0051】
(原材料)
(メタ)アクリル系重合体(P-1):アクリペット(登録商標)VH 001(商品名、三菱ケミカル(株)製、メチルメタクリレート由来の繰り返し単位95質量%以上含むアクリル樹脂)
リン系酸化防止剤(B-1):トリデシルホスファイト(商品名:アデカスタブ(登録商標)3010、ADEKA(株)製、融点-20℃以下、分子量503)
リン系酸化防止剤(B-2):トリス(2,4-ジ‐t-ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブ(登録商標)2112、ADEKA社製、融点185℃、分子量647)
リン系酸化防止剤(B-3):ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ(登録商標)PEP-36、ADEKA社製、融点237℃、分子量633)
架橋ゴム重合体(G-1):IR441(商品名、三菱ケミカル(株)製、多層構造粒子の形状を有するアクリル系架橋ゴム重合体)
【0052】
[実施例1]
(メタ)アクリル系重合体(P-1)100質量部、リン系酸化防止剤(B-1)0.1質量部を二軸押出機(機種名「PCM30」、(株)池貝製)に供給し、250℃で混練し、ペレット状の成形材料用樹脂組成物を得た。得られた成形材料用樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0053】
[実施例2]
リン系酸化防止剤(B-1)の配合量を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、ペレット状の成形材料用樹脂組成物を得た。得られた成形材料用樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0054】
[実施例3]
リン系酸化防止剤(B)の種類を変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、ペレット状の成形材料用樹脂組成物を得た。得られた成形材料用樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0055】
[比較例1]
リン系酸化防止剤(B-1)を不使用とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、ペレット状の成形材料用樹脂組成物を得た。得られた成形材料用樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0056】
[比較例2]
(メタ)アクリル系重合体(P-1)、架橋ゴム重合体(G-1)及びリン系酸化防止剤(B-2)の配合量を表1に示すとおりに配合した以外は、実施例1と同様に操作を行い、ペレット状の成形材料用樹脂組成物を得た。得られた成形材料用樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0057】
[参考例1]
リン系酸化防止剤(B-2)を不使用とした以外は、比較例2と同様に操作を行い、ペレット状の成形材料用樹脂組成物を得た。得られた成形材料用樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0058】
【0059】
実施例1~3で得られた成形材料用樹脂組成物は、成形時の流動性に優れ、溶融成形時の加熱着色が抑制されていた。特に、実施例1及び2で得られた形材料用樹脂組成物は、溶融成形時の加熱着色が抑制されていた。
【0060】
比較例1で得られた成形材料用樹脂組成物は、リン系酸化防止剤(B)を含まないため、溶融成形時に加熱着色が観察された。
【0061】
比較例2で得られた成形材料用樹脂組成物は、ゲル含有率が高いため、成形時の流動性が不十分であり、溶融成形時に加熱着色が観察された。また、リン系酸化防止剤(B)含まない参考例1と比較すると、リン系酸化防止剤(B)を添加しても、ゲル含有率が高いため、成形時の流動性の向上や、溶融成形時の加熱着色の抑制に改善は観察されなかった。