(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150360
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】プリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20220929BHJP
C08G 59/04 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052933
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市野 正洋
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA07
4F072AB10
4F072AD28
4F072AD37
4F072AE01
4F072AE04
4F072AF15
4F072AF30
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH13
4F072AH24
4F072AH42
4F072AH49
4F072AJ04
4F072AJ21
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL02
4J036AA04
4J036AD08
4J036AD09
4J036AD10
4J036AD12
4J036AD15
4J036AD21
4J036DC31
4J036DC41
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】強化繊維基材にマトリクス樹脂組成物をボイドなく含浸でき、成形などの取り扱い作業時にはタック性およびドレープ性に優れるプリプレグの製造方法を提供する。
【解決手段】
下記[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂と強化繊維基材とからなるプリプレグの製造方法であって、下記[B]成分を添加する添加工程を含む、プリプレグの製造方法。
[A]式(1)で表される構造を含むエポキシ樹脂
[B][A]における式(1)で表される構造と同一の構造を有する結晶
[C]硬化剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂と強化繊維基材とからなるプリプレグの製造方法であって、下記[B]成分を添加する添加工程を含む、プリプレグの製造方法。
[A]下記式(1)で表される構造を含むエポキシ樹脂
[B][A]における式(1)で表される構造と同一の構造を有する結晶
[C]硬化剤
【化1】
…(1)
(式(1)中、XはC(CH
3)
2、C(CH
3)(CH
2CH
3)、(C=CCl
2)、CHCH
3、CH
2、SO
2、S、C
6H
5、またはOを表す。)
【請求項2】
前記添加工程が、前記[A]~[C]成分を混合してマトリクス樹脂組成物を得る工程である、請求項1に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項3】
[B]成分の融点以下の温度でマトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸する、請求項2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項4】
50℃以下で含浸する、請求項3に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項5】
[A]成分として前記式(1)で表される構造を含む25℃で液状であるエポキシ樹脂を混合する、請求項2~4のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項6】
前記添加工程が、前記[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸したプリプレグ表面に[B]成分を付着させる工程である、請求項1に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項7】
[A]成分として前記式(1)で表される構造式を有する25℃で液状であるエポキシ樹脂を混合して樹脂組成物を得る、請求項6に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項8】
前記式(1)中、XがC(CH3)2である、請求項1~7のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項9】
前記[A]成分中、エポキシ樹脂全体に対して、前記式(1)で表される構造を70質量%以上含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料は、その優れた機械特性等から、航空機、自動車、産業用途に幅広く用いられている。近年、その使用実績を積むにしたがって炭素繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がってきている。炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂には、高温環境にあっても高度の機械特性を発現することが必要とされる。また、炭素繊維強化複合材料の製造に用いられるシートモールディングコンパウンド(以下、SMCとも称する)やUDプリプレグなどのプリプレグのマトリックス樹脂には、成形性に優れることが必要とされる。マトリックス樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられている。このうち、エポキシ樹脂組成物は、成形性および硬化後の耐熱性に優れており、エポキシ樹脂組成物を用いた炭素繊維強化複合材料が高度の機械特性を発揮できることが知られている。
【0003】
プリプレグを成形して炭素繊維強化複合材料を製造する方法としては、オートクレーブ成形法、フィラメントワインド成形法、樹脂注入成形法、真空樹脂注入成形法、プレス成形法等がある。このうち、プレス成形法は、生産性が高く、優れた意匠面を有する炭素繊維強化複合材料が得られやすいことから需要が高まっている。プレス成形時のプリプレグの取り扱い作業を容易にするため、例えば、特許文献1では、SMCのマトリックス樹脂を適度に増粘することによって、タック性(粘着性)およびドレープ性(柔軟性)を調整する技術が開示されている。特許文献2では、エポキシ樹脂、潜在性硬化剤、重合性不飽和基を有する樹脂、重合開始剤を含有する含浸用樹脂組成物がプリプレグの表面のタック調整を可能にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-88011号公報
【特許文献2】特開平2-286722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維目付が大きく厚い強化繊維基材に対しても、常温ないし僅かに加温する程度の低粘度化により速やかにボイドなくマトリクス樹脂組成物を含浸でき、成形などの取り扱い作業時にはタック性およびドレープ性に優れるプリプレグの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の形態を有する。
[1]下記[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂と強化繊維基材とからなるプリプレグの製造方法であって、下記[B]成分を添加する添加工程を含む、プリプレグの製造方法。
[A]下記式(1)で表される構造を含むエポキシ樹脂
[B][A]における式(1)で表される構造と同一の構造を有する結晶
[C]硬化剤
【0007】
【化1】
…(1)
(式(1)中、XはC(CH
3)
2、C(CH
3)(CH
2CH
3)、(C=CCl
2)、CHCH
3、CH
2、SO
2、S、C
6H
5、またはOを表す。)
[2]前記添加工程が、前記[A]~[C]成分を混合してマトリクス樹脂組成物を得る工程である、[1]に記載のプリプレグの製造方法。
[3][B]成分の融点以下の温度でマトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸する、[2]に記載のプリプレグの製造方法。
[4]50℃以下で含浸する、[3]に記載のプリプレグの製造方法。
[5][A]成分として前記式(1)で表される構造を含む25℃で液状であるエポキシ樹脂を混合する、[2]~[4]のいずれかに記載のプリプレグの製造方法。
[6]前記添加工程が、前記[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸したプリプレグ表面に[B]成分を付着させる工程である、[1]に記載のプリプレグの製造方法。
[7][A]成分として前記式(1)で表される構造式を有する25℃で液状であるエポキシ樹脂を混合して樹脂組成物を得る、[6]に記載のプリプレグの製造方法。
[8]前記式(1)中、XがC(CH
3)
2である、[1]~[7]のいずれかに記載のプリプレグの製造方法。
[9]前記[A]成分中、エポキシ樹脂全体に対して、前記式(1)で表される構造を70質量%以上含む、[1]~[8]のいずれかに記載のプリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強化繊維基材にマトリクス樹脂組成物を含浸する製造時には含浸に適する樹脂粘度まで低下させることができ、成形などの取り扱い作業時には室温においてタック性およびドレープ性に優れるように樹脂粘度を高くすることができる。また、化学反応を用いない(Bステージ化しない)で粘度を高くできることで、反応性の高い硬化剤を用いた場合であっても硬化剤を不活性の状態で保持することができ、貯蔵安定性に優れるプリプレグドを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[プリプレグの製造方法]
プリプレグは、下記[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂と強化繊維基材とからなる。プリプレグの製造方法の一形態は、下記[B]成分を添加する添加工程を含む。
[A]下記式(1)で表される構造を含むエポキシ樹脂
[B][A]における式(1)で表される構造と同一の構造を有する結晶
[C]硬化剤
【0011】
【化2】
…(1)
(式(1)中、XはC(CH
3)
2、C(CH
3)(CH
2CH
3)、(C=CCl
2)、CHCH
3、CH
2、SO
2、S、C
6H
5、またはOを表す。)
【0012】
プリプレグとしては、SMC、UDプリプレグ、クロスプリプレグなどが挙げられる。プリプレグは、マトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる含浸工程を経ることで得られる。SMCは、例えば次の方法で作製できる。マトリクス樹脂組成物を塗布したフィルムを2枚用意し、一方のフィルムのマトリクス樹脂組成物の塗布面にチョップド強化繊維束をランダムに撒き、シートにする。他方のフィルムのマトリクス樹脂組成物の塗布面をシートの上に貼り合わせ、マトリクス樹脂組成物をシートに圧着含浸させる。その後、マトリクス樹脂組成物を増粘させることでタック調整できる。UDプリプレグ、クロスプリプレグを得るための作製方法としては、ウェット法及びホットメルト法(ドライ法)が挙げられる。ウェット法は、マトリクス樹脂組成物をメチルエチルケトン又はメタノールなどの溶媒中に溶解することによってマトリクス樹脂組成物の溶液中に、強化繊維基材を浸漬させる。続いてオーブンなどを使用して溶媒を蒸発させることによって溶媒が除去されたプリプレグを得る方法である。ホットメルト法としては、予め加熱され流体となったマトリクス樹脂組成物で強化繊維基材を直接含浸する方法、又は離型紙などをマトリクス樹脂組成物でコーティングして樹脂フィルムとし、強化繊維基材シートの片面若しくは両面の上に樹脂フィルムを配置し、加熱加圧することによりマトリクス樹脂組成物で強化繊維基材を含浸する方法が挙げられる。ホットメルト法では、実質的に残留溶媒を中に含まないプリプレグが得られる。
【0013】
添加工程は、[A]~[C]成分を混合してマトリクス樹脂組成物を得る工程(工程A)とすることができる。また、[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸したプリプレグ表面に[B]成分を付着させる工程(工程B)としてもよい。工程Aと工程Bは両工程を経てもよい。添加工程は、プリプレグのタック調整方法として使用できる。
【0014】
工程Aでは、[A]~[C]成分を混合してマトリクス樹脂組成物を得る。[B]成分と[C]成分の混合の順番は限定されるものではなく、[B]成分と[C]成分を実質的に同時に混合してもよい。[B]成分を[A]成分に分散させたのち、[C]成分を配合することが好ましい。[B]成分が[A]成分に溶解すること抑制して粒子として存在させる観点から、[B]成分を混合するときの混錬中の混合物の温度が[B]成分の結晶の融点よりも低いことが好ましく、5℃以上低いことがより好ましく、10℃以上低いことがさらに好ましい。[B]成分よりも後に配合する成分がある場合は、[B]成分の融点よりも5℃以上低い温度で配合することが好ましい。なお、混錬中の混合物の温度とは、混錬中に粘弾性に伴って発生する剪断熱をも含めた温度である。工程Aを経る場合には、[B]成分を結晶核として存在させるため、[B]成分の融点以下の温度でマトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸することが好ましい。含浸時のマトリクス樹脂組成物の温度は60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。[A]成分の粘度は、25℃において0.1Pa・s~100Pa・sが好ましい。粘度は、レオメータを用い、測定モード:応力一定、応力値:300Pa、周波数:1.59Hz、プレート径:25mm、プレートタイプ:パラレルプレート、プレートギャップ:0.5mmの条件で測定することができる。
【0015】
工程Bでは、[A]成分及び[C]成分を含むマトリクス樹脂組成物を強化繊維基材に含浸したプリプレグ表面に[B]成分を付着させる。プリプレグの片面であってもよいし両面で合ってもよい。[A]成分と[C]成分の混合の順番は限定されるものではない。[B]成分を散布することでプリプレグ表面に付着させることができる。プリプレグ表面に堆積した[B]成分が[A]成分の結晶核として作用し、プリプレグ中の[A]成分を結晶固化せしめることでプリプレグのタックが変化する。[B]成分を付着させる前のプリプレグ中のマトリクス樹脂組成物の粘度は、前述の方法により測定でき、25℃において0.1Pa・s~100Pa・sが好ましい。
【0016】
[マトリクス樹脂組成物の製造方法]
マトリクス樹脂組成物は、各成分を同時に混合して調製してもよく、あらかじめ[A]成分に対して、[B]成分、[C]成分を各々分散させたマスターバッチを調製し、これを用いて調製してもよい。また、混練による剪断発熱等で、系内の温度が上がる場合には、混練速度を調節することや、調製釜や混練釜を水冷することで、混練中に温度を上げないようにすることができる。混練装置としては、擂潰機、アトライタ、プラネタリミキサー、ディゾルバー、三本ロール、ニーダー、万能撹拌機、ホモジナイザー、ホモディスペンサー、ボールミル、ビーズミルが挙げられる。混練装置は、2種以上を併用してもよい。
【0017】
<[A]成分>
[A]成分は、下記(1)で表される構造を含むエポキシ樹脂である。[A]成分のエポキシ樹脂の状態は結晶ではなく、粘度は前述の方法により測定でき、25℃において、0.1Pa・s~100Pa・sであることが好ましい。[B]成分によって結晶化を進める観点から、[A]成分中、エポキシ樹脂全体に対して、式(1)で表される構造を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。式(1)で表される構造の含有率は、液体クロマトグラフィーにより測定できる。具体的には、エポキシ樹脂中の式(1)で表される単量体の含有率を測定する。
【0018】
【化3】
…(1)
(式(1)中、XはC(CH
3)
2、C(CH
3)(CH
2CH
3)、(C=CCl
2)、CHCH
3、CH
2、SO
2、S、C
6H
5、又はOを表す。)
【0019】
式(1)中、タック制御の観点から、XはC(CH3)2またはCH2が好ましい。[A]成分の一成分として、式(1)で表される構造を含む25℃で液状であるエポキシ樹脂を含むことが好ましい。[A]成分としては、式(1)で表される構造を含むエポキシ樹脂の他にビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、テレフタル酸型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂などを含有してもよい。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールB型、ビスフェノールC型、ビスフェノールE型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールT型、ビスフェノールZ型、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルもしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等を用いることができる。
【0020】
式(1)中、XがC(CH3)2である構造を有するエポキシ樹脂を含む市販品としては、jER(登録商標)825、jER827、jER828、jER828EL、jER828US、jER828XA、jER834、(以上、三菱ケミカル社製)、エピクロン(登録商標)840、840-S、850、850-S、(DIC株式会社製)、エポトート(登録商標)YD-128(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、DER-331、DER-332(ダウケミカル社製)などが挙げられる。式(1)中、XがCH2である構造を有するエポキシ樹脂を含む市販品としてはjER(登録商標)806、jER806H、jER807(以上、三菱ケミカル社製)、エピクロン(登録商標)830 (DIC株式会社製)、エポトート(登録商標)YD -170、YD-175 (以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)などが挙げられる。式(1)中、XがSO2である構造を有するエポキシ樹脂としては、エピクロン(登録商標)EXA-1514(DIC株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
<[B]成分>
[A]成分における式(1)で表される構造と同一の構造を有する結晶である。[A]成分の結晶核剤として作用する。例えば、[A]成分が式(1)中、XがC(CH3)2である構造を含むエポキシ樹脂である場合には、[B]成分は式(1)中、XがC(CH3)2である構造を有する結晶とする。[B]成分はマトリクス樹脂組成物中に粒子の状態で添加されることが好ましい。エポキシ樹脂に結晶核を添加することでエポキシ樹脂の結晶化を起こしてエポキシ樹脂を固化させる。エポキシ樹脂に結晶核剤を添加した樹脂組成物は、調製直後には強化繊維基材に良好に含浸する程度に低粘度にできる。さらに、強化繊維基材にマトリクス樹脂組成物を含浸せしめたプリプレグでは、経時的に樹脂組成物の結晶固化が進行し、好適なタック、ドレープを発現する。結晶固化の工程は加熱、加圧、粉砕、圧縮等を要しないことから、これらの設備を要せず、さらに常温、常圧下で取り扱いに優れる。さらに、常温での保存安定に優れ、かつ加熱による流動性にも優れている。また、成形時の形状も必要に応じて容易に変更することができる。
【0022】
[B]成分の結晶の融点は、成形温度でプリプレグを変形できるようにする観点から、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。常温で固体として樹脂組成物中に存在できることから35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。エポキシ樹脂を効率よく結晶固化させることができること、およびプリプレグに用いるマトリクス樹脂フィルムを製造しやすい観点から、[B]成分のレーザー回折・散乱法による体積平均粒径は、50μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。0.1μm以上とすることができる。コーターを用いて樹脂フィルムを製造するとき、フィルムへの引掻きスジを抑制できる。体積平均粒径は、粒度計(日機装株式会社製、製品名:AEROTRACK SPR Model:7340、または、マイクロトラック・ベル株式会社製、製品名:エアロトラックLDSA-3500A、「エアロトラック」は、マイクロトラック・ベル株式会社の登録商標)にて測定することができ、測定した粒度分布のD50の値とする。
【0023】
[B]成分の含有量は、[A]成分の結晶固化を速やかに進行する観点から、[A]成分全体100質量部に対して15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。樹脂の流動性や含浸性の観点から、[A]成分全体100質量部に対して60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。式(1)中、XがC(CH3)2である構造を有する結晶の市販品としてはjER(登録商標)6810(三菱ケミカル社製)、エピクロン(登録商標)EXA-850CRPが挙げられる。式(1)中、XがCH2である構造を有する結晶の市販品としてはエピクロン(登録商標)EXA-830CRP、EXA-830LVP、EXA-835LV(DIC株式会社製)が挙げられる。
【0024】
<[C]成分>
[C]成分は、硬化剤である。硬化剤としては、エポキシ樹脂を硬化させ得るものである限り限定されるものではないが、例えば、アミン類、グアニジン類、酸無水物類(カルボン酸無水物等)、フェノール類(ノボラック樹脂等)、メルカプタン類、ルイス酸アミン錯体類、オニウム塩類、イミダゾール類、ウレア類が挙げられる。また、その形態は、マイクロカプセル型、アダクト等の様々な形態を採用し得る。硬化剤は単独でも複数種を混合してもよい。
【0025】
[C]成分全体の含有量は、硬化促進の観点から、マトリクス樹脂組成物100質量部に対して1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。難燃性、耐熱性、機械的特性により優れた樹脂硬化物が得られることから、マトリクス樹脂組成物100質量部に対して30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
【0026】
アミン類としては、例えばジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン、脂肪族アミン、チオ尿素付加アミン、及びこれらの誘導体、異性体、変成体が挙げられる。保存安定性を高める観点から、アミン類は、室温(25℃)で結晶性固体であることが好ましい。
【0027】
エポキシ樹脂を効率よく硬化させる観点から、アミン類は粒子の形態で存在し、体積平均粒径は、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。体積平均粒径が20μm以下であれば、前記樹脂組成物中に良好に分散して、硬化反応を促進することができるため好ましい。体積平均粒径は、前述の方法で測定することができる。
【0028】
グアニジン類としては、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物の保存安定性に優れる観点から、ジシアンジアミドまたはジシアンジアミドの誘導体が好ましい。ジシアンジアミドの誘導体としては、例えばジシアンジアミドと、エポキシ樹脂、ビニル化合物、アクリル化合物、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド等の各種化合物とを結合させた化合物などが挙げられる。ジシアンジアミドの誘導体は、一種でもよく、それ以上でもよく、ジシアンジアミドと併用してもよい。ジシアンジアミドまたはジシアンジアミドの誘導体の中でも、エポキシ樹脂との反応性の点からジシアンジアミドが好ましい。ジシアンジアミドの市販品としては、例えば、DICY7、DICY15(以上、三菱ケミカル株式会社製)Dicyanex 1400F(以上、エボニック社製)等が挙げられる。
【0029】
ジシアンジアミドまたはジシアンジアミド誘導体の含有量は、硬化促進の観点から、エポキシ樹脂組成物100質量部に対して1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。硬化物の靱性の観点から、エポキシ樹脂組成物100質量部に対して15質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましい。
【0030】
イミダゾール類は、分子内にイミダゾール環を有する。イミダゾール類は、分子内にイミダゾール環を有する化合物、イミダゾール環に置換基を持つ化合物(イミダゾール誘導体)、エポキシ樹脂のエポキシ基にイミダゾールもしくはイミダゾール誘導体が開環付加した構造を有する化合物(イミダゾールアダクト)、イミダゾールを異分子で包接した化合物(包接イミダゾール)、マイクロカプセル化したイミダゾールまたはイミダゾール誘導体(マイクロカプセル型イミダゾール)、及び安定化剤等を配位させたイミダゾールまたはイミダゾール誘導体(イミダゾール付加物)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。イミダゾール類としては、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。これらイミダゾール誘導体の中でも、樹脂組成物中での室温における保存安定性が高く、硬化速度が速いことから、トリアジン環を分子内に有するイミダゾール化合物が好ましく、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンが挙げられる。イミダゾール類は、25℃で結晶性固体であることが好ましい。一方で、エポキシ樹脂を効率よく硬化させる観点から、イミダゾール類の体積平均粒径は、20μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。体積平均粒径は、前述の方法で測定することができる。
【0031】
イミダゾール類は、エポキシ樹脂の硬化剤として作用し、ジシアンジアミドまたはその誘導体と組み合わせて樹脂組成物に配合できる。その結果、両硬化剤が互いに硬化促進効果を発揮し、樹脂組成物を短時間で硬化させることができる。ジシアンジアミドに対するイミダゾール類の質量比は、硬化速度を速める観点からジシアンジアミド:イミダゾール類で1:0.3から1:3.5であることが好ましい。すなわち、イミダゾール類の含有量は、ジシアンジアミドの含有量の0.3~3.5倍であることが好ましい。より好ましくは、1:1~1:3.2であり、さらに好ましくは、1:1.2~1:3である。
【0032】
<任意成分>
任意成分としては、熱可塑性樹脂、添加剤などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体(ASA樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリビニルホルマール、フェノキシ樹脂、ブロックポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。これら熱可塑性樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。熱可塑性樹脂の中でも、樹脂フロー制御性等に優れる観点から、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリビニルホルマール、ブロックポリマーが好ましい。特に、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドを用いれば、樹脂硬化物の耐熱性や難燃性がより高まる。
【0033】
添加剤としては、例えば、エポキシ樹脂の硬化促進剤、無機質充填材、内部離型剤、有機顔料、無機顔料が挙げられる。添加剤としては、リン系難燃剤(リン含有エポキシ樹脂や赤燐、ホスファゼン化合物、リン酸塩類、リン酸エステル類等)、無機系難燃化剤として水和金属化合物系(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)、無機酸化物その他助剤系(アンチモン化合物、硼酸亜鉛,錫酸亜鉛,Mo化合物,ZrO,硫化亜鉛,ゼオライト,酸化チタンナノフィラー系等)、シリコーンオイル、湿潤分散剤、消泡剤、脱泡剤、天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド、エステル類、パラフィン類等の離型剤、結晶質シリカ、溶融シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム等の粉体やガラス繊維、炭素繊維等の無機充填剤、カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤、シランカップリング剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
<強化繊維基材>
プリプレグに用いる強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、タングステンカーバイド繊維、ガラス繊維等が挙げられ、繊維強化複合材料の機械特性の点から、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく、炭素繊維が特に好ましい。強化繊維は、長繊維(連続繊維)であってもよく、例えば0.01~30cmの短繊維であってもよい。強化繊維基材としては、複数の長繊維を一方向に揃えたUDシート(一方向シート)、長繊維を製織したクロス(織物)、チョップド強化繊維束のシート、および短繊維からなる不織布等が挙げられる。クロスの織り方としては、例えば、平織、綾織、朱子織、三軸織が挙げられる。強化繊維基材の目付は、10g/m2以上4000g/m2以下とすることができる。特に400g/m2以上3000g/m2以下の場合には、マトリクス樹脂組成物の粘度を下げて含浸できるため前述のプリプレグの製造方法が有効である。SMCにおける強化繊維としては、短繊維からなるチョップド強化繊維束が好ましく、チョップド強化繊維束が二次元ランダムに積み重なったシートであることが好ましい。SMCの短繊維の長さは、0.3~10cmが好ましく、1~5cmがより好ましい。
【0035】
強化繊維は、1000本以上60000本以下の範囲の単繊維からなる強化繊維束として使用できる。プリプレグ中では強化繊維束の形状を保ったまま存在している場合もあれば、より少ない繊維からなる束に分かれて存在する場合もある。SMC中では、より少ない束に分かれて存在する。
【0036】
[成形品]
成形品は、プリプレグの硬化物であり、2枚以上のプリプレグが積層された積層体の硬化物であることが好ましい。成形品は、プリプレグに含まれるマトリクス樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含む。成形品は、例えば、前述のプリプレグを2枚以上積層した後、得られた積層体に圧力を付与しながら、マトリクス樹脂組成物を加熱硬化させる方法等により成形して得られる。
【0037】
成形方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法、シートラップ成形法や、強化繊維のフィラメントやプリフォームにエポキシ樹脂組成物を含浸させて硬化し成形品を得るRTM(Resin Transfer Molding)、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding:真空樹脂含浸製造法)、フィラメントワインディング、RFI(Resin Film Infusion)などが挙げられるが、これらの成形方法に限られるものではない。これらの中でも、生産性が高く、良質な成形品が得られやすいという観点から、プレス成形法が好ましい。
【0038】
プレス成形法で成形品を製造する場合、プリプレグ、またはプリプレグを積層して作製したプリフォームを、予め硬化温度に調製した金型に挟んで 加熱加圧して、プリプレグまたはプリフォームを硬化することが好ましい。プレス成形時の金型内の温度は、100~160℃が好ましい。また、1~15MPaの条件下で1~20分間、プリプレグまたはプリフォームを硬化させることが好ましい。
【0039】
SMCを用いた繊維強化複合材料の製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。1枚のSMCまたは複数枚のSMCを重ねたものを、1対の金型の間にセットする。SMCを120~230℃で2~60分間加熱圧縮して、エポキシ樹脂組成物を硬化させ、成形品である繊維強化複合材料を得る。ハニカム構造体や発泡材を芯材とし、その両面または片面にSMCを配してもよい。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例、及び比較例で使用した原料を以下に示す。
【0041】
「原料」
<[A]成分:式(1)の構造を含むエポキシ樹脂>
jER828:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量189g/eq、三菱ケミカル株式会社製、品名「jER828」)
jER807:液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量168g/eq、三菱ケミカル株式会社製、品名「jER807」)
jER1001:固体ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量g/eq、三菱ケミカル株式会社製、品名「jER828」)
<[A]成分:その他のエポキシ樹脂>
jER152:液状フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量177g/eq、三菱ケミカル株式会社製、品名「jER152」)
HP-820:液状アルキルフェノール型エポキシ樹脂(エポキシ当量225g/eq、DIC株式会社製、品名「HP-820」)
<[B]成分>
YL6810:結晶性ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量173g/eq、三菱ケミカル株式会社製、品名「YL6810」、融点45℃)
<[C]成分>
Dicyanex 1400F:ジシアンジアミド(EVONIC製、品名「Dicyanex 1400F」、体積平均粒子径D50が4.5μm、累積分布径D90が7.6μmであった。)
2MZA-PW:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、微粉末(四国化成工業株式会社製、品名「キュアゾール2MZA-PW」)
<その他の結晶>
YX4000H:結晶性ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量192g/eq、三菱ケミカル株式会社製、品名「YX4000H」)
<熱可塑性樹脂>
SP-156:結晶性ポリエステル樹脂(三菱ケミカル株式会社製、品名「SP-156」、結晶融点110℃、Tg-20℃、結晶融解熱21J/g)
<炭素繊維>
炭素繊維束;PAN系炭素繊維(三菱ケミカル株式会社製 品名「パイロフィル TR50S 15L」、平均単繊維繊度:0.7dtex、真円度:0.95、フィラメント数:15000本、ストランド強度:500kgf/mm2(4900MPa)、ストランド弾性率:24.5tonf/mm2(240GPa)、最大フェレ径:7.5μm)
【0042】
(実施例1)
[B]成分としてYL6810を用い、これを粉砕機(ハイスピードミルHS-20:ラボネクト株式会社製)により1分間の粉砕処理をし、パウダー状のYL6810を得た。[A]成分としてjER828を50質量部、[C]成分として2MZA-PWを6質量部、粉砕した[B]成分であるYL6810を50質量部フラスコに計量し、オイルバスを用いて35℃に加温して均一になるまで撹拌した。これを、温度が35℃以上にならないようにしながら三本ロールミルにて混錬し、[B]成分を固体として含む樹脂組成物1を得た。
樹脂組成物1を気温23℃、湿度50%の室内に1週間静置したところ、樹脂組成物の一部の結晶化が進み、樹脂組成物1は半固形の状態になった。
【0043】
(実施例2~4)
表1に示す配合組成の様に組成を変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物2~4を得た。樹脂組成物2~4を気温23℃、湿度50%の室内に2週間静置したところ、樹脂組成物の一部の結晶化が進み、樹脂組成物2~4は半固形の状態になった。
【0044】
(実施例5)
[A]成分としてjER828を50質量部、熱可塑性樹脂としてSP156を20質量部フラスコに計量し、オイルバスを用いて180℃で3時間加熱攪拌することで熱可塑溶解エポキシ樹脂を得た。得られた熱可塑性溶解エポキシ樹脂を室温で除熱し、熱可塑性樹脂が結晶化して完全に析出した液状の樹脂混合物を得た。次いで、前記液状の樹脂混合物に2MZA-PWを6質量部、Dicyanex1400Fを3質量部加え、35℃に加温して撹拌した。熱可塑性樹脂を約15wt%含有する樹脂組成物5を得た。
樹脂組成物5を気温23℃、湿度50%の室内に2週間静置したところ、樹脂組成物の一部の結晶化が進み、樹脂組成物5は半固形の状態になった。
【0045】
(実施例6)
[A]成分としてjER828を90質量部フラスコに計量し、オイルバスを用いて35℃で攪拌することで熱可塑樹脂を粉体として含む液状の樹脂混合物を得た。前記液状の樹脂混合物に2MZA-PWを6質量部、Dicyanex1400Fを3質量部加え、35℃に加温して撹拌した。熱可塑性樹脂を約7.5wt%含有する樹脂組成物6を得た。
樹脂組成物6を気温23℃、湿度50%の室内に4週間静置したところ、樹脂組成物の一部の結晶化が進み、樹脂組成物6は半固形の状態になった。
【0046】
【0047】
(比較例1)
表2に示す配合組成の様に組成を変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物1aを得た。樹脂組成物1aを気温23℃、湿度50%の室内に4週間静置したが、樹脂組成物に変化は見られなかった。
【0048】
(比較例2~4)
[A]成分を表2に示すその他の液状エポキシ樹脂に置換した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物2a~4aを得た。樹脂組成物2a~4aを気温23℃、湿度50%の室内に4週間静置したが、樹脂組成物に変化は見られなかった。
【0049】
(比較例5)
[B]成分としてYL6810を用い、実施例1に記載の方法で粉砕してYL6810のパウダーを得た。jER828を60質量部、jER1001を15質量部フラスコに計量し、オイルバスを用いて100℃で撹拌し、均一となった液状樹脂を得た。前記液状樹脂を35℃に冷却し、[C]成分として2MZA-PWを6質量部、前記の粉砕した[B]成分であるYL6810を25質量部フラスコに計量し、オイルバスを用いて35℃で撹拌して混合した。[C]成分を含む樹脂組成物5aを得た。
樹脂組成物aを気温23℃、湿度50%の室内に4週間静置したが、樹脂組成物に変化は見られなかった。
【0050】
(比較例6)
[B]成分の代わりに結晶性樹脂としてYX4000Hを用い、実施例1に記載のハイスピードミルで粉砕してYX4000Hのパウダーを得た。[B]成分を粉砕したYX4000Hに置換した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物6aを得た。樹脂組成物6aを気温23℃、湿度50%の室内に4週間静置したところ、僅かに粘度が上がっていたものの、十分に結晶化は進行していなかった。
【0051】
【0052】
(製造例1)
実施例6で得られた樹脂組成物6を用いて、以下の方法によりSMCを製造した。樹脂組成物6を、マルチコーター(ヒラノテクシード社製、M-500型)を用いて離型紙上に25℃で塗布して、樹脂目付が235g/m2の樹脂フィルム6-1を得た。前記樹脂フィルムを200mm×300mmの長方形に切り出し、これを2枚重ねた樹脂目付470g/m2の樹脂フィルム6-2を作成した。更に、該フィルムをポリエチレン製のキャリアフィルムに転写した。2枚のキャリアフィルムで、エポキシ樹脂組成物側が内側となるように繊維目付2000g/m2となるようにチョップド炭素繊維束を挟み込んだ。これをメッシュベルトを備えたロールの間に通して押圧して、エポキシ樹脂組成物をチョップド炭素繊維束に含浸させ、繊維目付2000g/m2、樹脂含有量53wt%のSMC前駆体を得た。
SMC前駆体を室温(23℃)にて21日間静置することによって、SMC前駆体中のエポキシ樹脂組成物を結晶固化により十分に増粘させてSMCを得た。SMCを以下の様に評価したところすべてAであった。
【0053】
(含浸性)
SMC前駆体を約30cm切断し、含浸状態を目視で確認し、下記基準にて評価した。
A:切断面にドライ炭素繊維等がなく、含浸性が良好である。
B:切断面にドライ炭素繊維が確認され、含浸性が良くない。
【0054】
(タック性)
SMCのタック性について下記基準にて評価した。
A:SMCを手で触ったところ、適度なタックを有しており、SMCの積層作業が簡便であった
B:SMCを手で触ったところ、べたつきが強い、または、べたつきが弱く積層作業が
困難であった。
【0055】
(ドレープ性)
SMCのドレープ性について下記基準にて評価した。
A:SMCを手で触ったところ、適度な柔軟性を有しており、カット作業、持ち運びが
容易であった。
B:SMCを手で触ったところ、柔軟性に乏しく、カット作業、持ち運びが困難であっ
た。
【0056】
(取り扱い作業性)
SMCの取り扱い作業性について下記基準にて評価した。
A:タック性およびドレープ性の評価がいずれもAである。
B:タック性およびドレープ性のいずれか一方または両方の評価がBである。
【0057】
表1および2に示す結果となった。この結果から、実施例の樹脂組成物を用いてプリプレグを製造したときに結晶化が進行してタック性やドレープ性に優れるプリプレグを得られると考えられる。
本発明のプリプレグの製造方法は、強化繊維基材にマトリクス樹脂を含浸する製造時には含浸に適する低い樹脂粘度を有し、取り扱い作業時には室温においてタック性およびドレープ性に優れた高い樹脂粘度となって含浸性と取り扱い性を両立させることができる上、室温での粘度を上げる為に化学反応を用いない(いわゆるBステージ化しない)方法を用いることで、速硬化性の硬化剤を不活性の状態で保持することができ、貯蔵安定性に優れる。