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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150406
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ポリエステルおよび、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/199 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C08G63/199
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052990
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA08
4J029BB04A
4J029BB10A
4J029BB13A
4J029BD04A
4J029BD07A
4J029BD10
4J029BF03
4J029BF09
4J029BF18
4J029BF25
4J029BF30
4J029BH02
4J029CA01
4J029CA02
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC05A
4J029CD03
4J029DB11
4J029EA01
4J029EA03
4J029EB03
4J029FC03
4J029FC05
4J029FC08
4J029FC35
4J029FC36
4J029HC05A
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC152
4J029JC712
4J029JF131
4J029JF321
4J029JF361
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J029KE12
(57)【要約】
【課題】本発明は、耐熱性、成形性に優れ、さらにバイオマス原料由来の構造単位を有する環境に配慮されたポリエステルを提供することを課題とする。
【解決手段】ジカルボン酸由来の構造単位とジオール由来の構造単位を有するポリエステルであって、ジオール由来の構造単位が水添ベチュリンに由来する構造単位を含む、ポリエステルを用いて解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸由来の構造単位とジオール由来の構造単位を有するポリエステルであって、ジオール由来の構造単位が水添ベチュリンに由来する構造単位を含む、ポリエステル。
【請求項2】
前記ジオール由来の構造単位が脂肪族ジオール由来の構造単位を含む、請求項1に記載のポリエステル。
【請求項3】
前記脂肪族ジオール由来の構造単位が、炭素数2~20の鎖状ジオール由来の構造単位である、請求項2に記載のポリエステル。
【請求項4】
前記ジカルボン酸由来の構造単位が脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル。
【請求項5】
前記脂肪族ジカルボン酸が、炭素数2~20の鎖状ジカルボン酸由来の構造単位である、請求項4に記載のポリエステル。
【請求項6】
水添ベチュリンに由来する構造単位を、ジオール由来の全構造単位に対し1~100モル%有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル。
【請求項7】
前記水添ベチュリンの水添率が30%以上、100%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリエステル。
【請求項8】
ジカルボン酸およびジカルボン酸誘導体の少なくとも何れかの化合物と、ジオールをエステル化反応およびエステル交換反応の少なくとも何れかの反応させるエステル反応工程、および前記エステル反応工程で得られた反応物を重縮合反応する工程を有するポリエステルの製造方法であって、前記ジオールが水添ベチュリンを含む、ポリエステルの製造方法。
【請求項9】
前記エステル反応工程の前にベチュリンに水素を添加する水添工程を有する、請求項8に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項10】
前記水添工程が不均一系触媒を用いて行われる、請求項9に記載のポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来の原料から製造可能な、耐熱性と成形性に優れたポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境配慮型または環境持続型材料として、バイオマス原料由来の構造単位を有する種々のポリエステルが開発されている。
【0003】
バイオマス原料由来の構造単位を有するポリエステルとしては、グルコース等から誘導される2,5-フランジカルボン酸を構造単位として有するポリエステル(特許文献1)、さとうきびから得られたエタノール等から誘導される1,2-エタンジオールを構造単位として有するポリエチレンテレフタレート等のポリエステル(特許文献2)、植物油などのバイオマス原料から微生物発効プロセスによって生産されるポリヒドロキシアルカノエート(特許文献3)、白樺の表皮から抽出されるベチュリンを構造単位として有するポリエステル等が挙げられる。これらの中で、ベチュリンを構造単位として有するポリエステルはガラス転移温度が高いという特徴があることから、ベチュリンはポリエステルの耐熱性を上げる構造単位として期待できる。
【0004】
ベチュリンを構造単位として有するポリエステルは、溶液重合や溶融重合を用いて重合することができる(特許文献4)。また、溶融重合を用いて重合することができることも報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-146153号公報
【特許文献2】特開2010-280750号公報
【特許文献3】国際公開第2005/085460号
【特許文献4】特開2019-167470号公報
【特許文献5】国際公開第2019/120934号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、ポリエステルにベチュリンを構造単位として含ませる際に、特許文献4及び5には、以下の課題があることを見出した。
特許文献4に記載のポリエステルは、溶液重合法によりポリエステルを製造するが、溶液重合法は溶媒を大量に使用することから、環境配慮型または環境持続型材料として適さない。
また、特許文献5に記載のポリエステルも溶液重合法によりポリエステルを製造している上に、十分に分子量が上っていなかった。
そこで、本発明者が検討した結果、溶融重合によって高分子量のベチュリンを有するポリエステルを得ようとすると、ベチュリン中に存在する二重結合による熱架橋が進行してしまい、それによってゲルが発生してしまうことが判明した。そして、ゲルが発生すると、得られたポリエステルを成形する際の歩留まりの低下や、製造効率の低下といった問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、耐熱性に優れ、重合時や成形時にゲルが発生しにくく、さらにバイオマス原料からでも製造可能なポリエステルを提供
することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた。この結果、特定のジオールを用いることにより、耐熱性に優れ、重合時や成形時にゲルが発生しにくく、さらにバイオマス原料からでも製造可能なポリエステルを得ることができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1]ジカルボン酸由来の構造単位とジオール由来の構造単位を有するポリエステルであって、ジオール由来の構造単位が水添ベチュリンに由来する構造単位を含む、ポリエステル。
[2]前記ジオール由来の構造単位が脂肪族ジオール由来の構造単位を含む、[1]に記載のポリエステル。
[3]前記脂肪族ジオール由来の構造単位が、炭素数2~20の鎖状ジオール由来の構造単位である、[2]に記載のポリエステル。
[4]前記ジカルボン酸由来の構造単位が脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル。
[5]前記脂肪族ジカルボン酸が、炭素数2~20の鎖状ジカルボン酸由来の構造単位である、[4]に記載のポリエステル。
[6]水添ベチュリンに由来する構造単位を、ジオール由来の全構造単位に対し1~100モル%有する、[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル。
[7]前記水添ベチュリンの水添率が30%以上、100%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル。
[8]ジカルボン酸およびジカルボン酸誘導体の少なくとも何れかの化合物と、ジオールをエステル化反応およびエステル交換反応の少なくとも何れかの反応させるエステル反応工程、および前記エステル反応工程で得られた反応物を重縮合反応する工程を有するポリエステルの製造方法であって、前記ジオールが水添ベチュリンを含む、ポリエステルの製造方法。
[9]前記エステル反応工程の前にベチュリンに水素を添加する水添工程を有する、[8]に記載のポリエステルの製造方法。
[10]前記水添工程が不均一系触媒を用いて行われる、[9]に記載のポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステルによれば、重合時や成形時におけるゲルの発生を抑えることが出来ることから、バイオマス原料由来の構造単位を有していても、耐熱性に優れたポリエステルを提供することが可能である。また、本発明のポリエステルは、ブロー成形容器、二軸延伸フィルムや繊維用ポリエステルとして好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の態様に限定されるものではない。
【0012】
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸由来の構造単位とジオール由来の構造単位を有し、ジオール由来の構造単位が水添ベチュリンに由来する構造単位を含むことを必須の要件とする(上記ポリエステルを以下、「本発明のポリエステル」と称す場合がある。)。
【0013】
本発明において、「・・・に由来する構造単位」とは、当該単量体(モノマー)に由来してポリマーであるポリエステルに取り込まれた構造単位をさす。以下、「に由来する構造単位」を単に「単位」と称し、例えば「ジオールに由来する構造単位」を「ジオール単
位」、「ジカルボン酸に由来する構造単位」を「ジカルボン酸単位」、「水添ベチュリンに由来する構造単位」を「水添ベチュリン単位」、「1,10-デカンジオールに由来する構造単位」を「1,10-デカンジオール単位」と称す場合がある。
【0014】
[ポリエステル]
本実施形態のポリエステルは、ジオール単位として、水添ベチュリン単位を有する。
【0015】
<水添ベチュリン>
本実施形態のポリエステルは、ジオール単位として水添ベチュリン由来の構造単位を含む。水添ベチュリン単位を含むことにより、ガラス転移温度が上がる。さらに水添ベチュリン単位を含むことで重合時や成形時のゲル化を防ぐことができる。ジオール由来の全構造単位に対する水添ベチュリン由来の構造単位は、通常1モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上含有するとよい。また、同上限は通常100モル%である。
【0016】
水添ベチュリンの製造方法は特に限定されず、市販のものが入手できればそれを使用してよいが、ベチュリンを水添して製造することが好ましい。
ベチュリンの水添の際に用いられる触媒としては、公知の各種触媒が挙げられ、特に限定されないが、ルテニウム、ロジウム等を中心金属とする均一系有機錯体触媒、およびパラジウム、白金、ルテニウム、コバルト、ニッケル等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ等の担体に担持した不均一系触媒などが挙げられるが、触媒活性の低下が少ないことから、不均一系触媒が好ましい。不均一系触媒の中でも好ましくは、パラジウムカーボン触媒である。
水添の条件としては、反応温度は20℃以上100℃以下が好ましく、水素の圧力としては0.1MPa以上4.0MPa以下が好ましい。
また、後述するエステル化反応の前に、ベチュリンの水添工程を行ってもよい。
【0017】
水添ベチュリンの水添率は、通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上である。水添率が高いことにより、重合時や成形時のゲル化を防ぐことができる。水添率は、水添反応時の条件を変更することにより、所望の値にすることができる。
水添ベチュリンの水添率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて求めることができる。具体的には、水添ベチュリンを重クロロホルムに溶解し、H-NMRで測定した結果から、下記の式を用いて算出する。
水添率(%)=(1-4.5~4.8ppmの積分値/3.0~3.5ppmの積分値)×100
【0018】
<ジオール構造単位>
ジオール構造単位として、水添ベチュリン以外のジオール構造単位を有していてもよい(以下、「他のジオール単位」と称す場合がある。)。他のジオール単位としては、脂肪族ジオール、芳香族ジオールなどに由来する構造単位などが挙げられる。原料となる脂肪族ジオールとしては、1,2-エタンジオール、2,2’-オキシジエタノール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタノール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、イソソルバイド等が挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えば、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等が挙げられる。これらのジオールのうち、柔軟性に優れることから、脂肪族ジオールに由来する構造単位が好
ましく、鎖状ジオールに由来する構造単位がより好ましい。脂肪族ジオールが、炭素数2~20の鎖状ジオールであることがさらに好ましい。
本実施形態のポリエステルが他のジオール構造単位を含む場合における他のジオール構造単位は、1種類のみでも、2種類以上が任意の組み合わせと比率で有していてもよい。
【0019】
<ジカルボン酸単位>
ジカルボン酸に由来する構造単位としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位が挙げられる。原料となる脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカン二酸などの鎖状脂肪族ジカルボン酸;1,6-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式族ジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸に由来する構造単位のうち、柔軟性に優れることと、反応性から、脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位が好ましく、鎖状脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位がより好ましい。また、脂肪族ジカルボン酸が、炭素数2~20の鎖状ジカルボンに由来する構造単位であることがさらに好ましい。
【0020】
ジカルボン酸構造単位は、1種類のみでも、2種類以上が任意の組み合わせと比率で有していてもよい。ジカルボン酸構造単位は、本実施形態のポリエステルの製造原料として、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸の低級アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~4)、ジカルボン酸の塩化物等)等のジカルボン酸成分を用いることにより、ポリエステルに導入することができる。
【0021】
<その他の共重合成分>
本実施形態のポリエステルは、ジカルボン酸とジオール以外の他の共重合成分に由来する構造単位を含んでもよい(以下、「他の共重合成分に由来する構造単位」と称す場合がある。)。他の共重合成分としては、3官能以上の官能基を含有する化合物に由来する構造単位が挙げられる。
【0022】
原料の3官能以上の官能基を有する化合物としては、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸(或いはその無水物、酸塩化物、又は低級アルキルエステル)、3官能以上のヒドロキシカルボン酸(或いはその無水物、酸塩化物、又は低級アルキルエステル)、3官能以上のアミン類などが挙げられる。
【0023】
3官能以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらは、1種類のみでも、2種類以上が任意の組み合わせと比率で有していてもよい。
【0024】
3官能以上の多価カルボン酸又はその無水物としては、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられる。これらは、1種類のみでも、2種類以上が任意の組み合わせと比率で有していてもよい。
【0025】
3官能以上のヒドロキシカルボン酸としては、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0026】
本実施形態のポリエステルが3官能以上の官能基を有する化合物由来の構造単位を有する場合における割合は、本実施形態のポリエステルの架橋が適度に進行し、安定にストラ
ンドを抜き出しやすく、成形性、機械物性等が良好となりやすい点では少ないことが好ましい。そこで、その割合は、ポリエステルを構成する全構造単位の合計100モル%に対して、通常5モル%以下、特に4モル%以下、とりわけ3モル%以下とすることが好ましく、他の共重合成分を有さない二元系のポリエステルが最も好ましい。
【0027】
<鎖延長剤>
本実施形態のポリエステルの製造に際し、カーボネート化合物、ジイソシアネート化合物、ジオキサゾリン、珪酸エステル等の鎖延長剤を使用してもよい。例えば、ジフェニルカーボネート等のカーボネート化合物を、ポリエステルの全構造単位100モル%に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下となるように用いることにより、ポリエステルカーボネートを得ることもできる。
【0028】
この場合に用いるカーボネート化合物としては、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジアミルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。その他、フェノール類、アルコール類のようなヒドロキシ化合物から誘導される、同種又は異種のヒドロキシ化合物からなるカーボネート化合物も使用可能である。
【0029】
また、ジイソシアネート化合物としては、具体的には、2,4-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知のジイソシアネートなどが挙げられる。
【0030】
珪酸エステルとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジヒドロキシラン等が挙げられる。
これらは、いずれも1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0031】
<末端封止剤>
また、本実施形態においては、ポリエステルの末端基をカルボジイミド、エポキシ化合物、単官能性のアルコール又はカルボン酸等の末端封止剤により封止してもよい。末端封止剤を用いる場合、その含有量は、ポリエステルの全構造単位100モル%に対して、20モル%以下とすることが好ましく、10モル%以下とすることがより好ましい。
【0032】
この場合、末端封止剤のカルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)などが挙げられる。具体的には、モノカルボジイミド化合物として、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
これらは、いずれも1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
なお、本実施形態のポリエステルの製造には、後述する本実施形態のポリエステル組成物と同様に、その特性が損なわれない範囲において、各種の添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤等を用いてもよい。
【0033】
本実施形態のポリエステルの製造に用いる原料は、石油由来原料を用いてもよく、バイオマス由来の原料を用いてもよい。環境保護の観点では、バイオマス由来の原料を用いることが好ましく、バイオマス由来の原料を主たる構造単位とすることがより好ましい。全ジカルボン酸由来の構造単位におけるバイオマス由来の原料由来の構造単位は、10モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましい。また、同上限は通常100モル%である。全ジオール由来の構造単位におけるバイオマス由来の原料由来の構造単位は、10モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましい。また、同上限は通常100モル%である。
バイオマス由来の原料としては、水添ベチュリン、ベチュリン、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-エタンジオールなどのジオール成分、および2,5-フランジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸成分などが挙げられる。
【0034】
<ポリエステルの製造方法>
本実施形態のポリエステルの製造方法は、ジカルボン酸およびジカルボン酸誘導体の少なくとも何れかの化合物と、ジオールをエステル化反応およびエステル交換反応の少なくとも何れかの反応させるエステル反応工程、およびこのエステル反応工程で得られた反応物を重縮合反応する工程を有し、ジオールが水添ベチュリンを含むことを特徴とする。ここで、エステル反応工程および重縮合反応は、ポリエステル樹脂の製造に関する公知の方法が採用できる。
また、この際の反応条件は、従来から採用されている適切な条件を設定することができ、特に制限されない。
【0035】
具体的には、水添ベチュリンを必須成分とするジオール成分と、ジカルボン酸成分と、必要に応じて用いられる他の共重合成分等とを用いて、エステル化反応又はエステル交換反応工程を行い、引き続いて重縮合反応工程を行うことにより、製造することができる。なお、エステル化反応又はエステル交換反応工程と、重縮合反応工程とを含めて、ポリエステル原料製造工程、と称す場合がある。反応に際しては、必要に応じて、前述の鎖延長剤や末端封止剤を用いてもよい。また、ポリエステル原料製造工程の重縮合反応工程を行った後に、更に固相重合工程を設けることにより、より高分子量化することもできる。
【0036】
<エステル化又はエステル交換反応工程>
エステル化又はエステル交換反応は、通常、ジカルボン酸成分及びジオール成分と、必要に応じて用いられるその他の共重合成分等を、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に仕込み、好ましくは触媒の存在下、不活性ガス雰囲気の減圧下に攪拌しつつ、反応により生じた水分等の副生成物を系外へ留去しながら反応を進行させることにより行われる。原料の使用比率、すなわち、ジカルボン酸成分の合計に対するジオール成分の合計のモル比は、通常1.0~3.0モル倍である。ジオール成分が多い方が、カルボキシル末端がヒドロキシル末端より少ないポリエステルが得られやすい点で好ましい。一方、脂肪族ジオール成分に由来する副反応によるエーテル構造の生成が起こり難い点と、ベチュリンは沸点が高く系外へ留去し難い点からはジオール成分は少ないことが好ましい。そこで、同モル比の下限は、1.00モル倍である。また、一方で、上限は、好ましくは2.5モル倍、さらに好ましくは2.0モル倍である。
【0037】
エステル化又はエステル交換反応の反応温度は、160℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましい。また、一方で、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましい。反応圧力は、通常、常圧から10kPaであるが、常圧が好ましい。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下
である。反応時間は、通常1時間以上であり、その上限は、通常10時間、好ましくは8時間である。
【0038】
<重縮合反応工程>
重縮合反応工程は、通常、エステル化又はエステル交換反応工程に続けて、減圧下において行う。
反応温度は、得られるポリエステルの融点以上、融点+100℃以下とすることが好ましい。反応温度と得られるポリエステルの融点との関係がこの好ましい範囲にする方法としては、得られるポリエステルの凡その融点を予測して反応させた後に、得られたポリエステルの融点を測定することにより確認し、調整することができる。反応温度は、具体的には、220℃以上が好ましく、240℃以上がより好ましい。また、一方で300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。反応温度がこれらの範囲であることにより、熱分解や副反応等による着色などが起こり難い状態で且つ十分に速い速度で反応を行うことができる。
【0039】
反応圧力は、任意の温度に到達した時点で減圧を開始する。最終的な圧力は、通常0.01×10Pa以上、好ましくは0.05×10Pa以上とすることがよい。また、一方で、通常1.4×10Pa以下、好ましくは0.6×10Pa以下、より好ましくは0.3×10Pa以下とすることがよい。反応時の圧力が低いと、短時間で重合が進み、ポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が起こり難く、実用上十分な特性を示すポリエステルを得やすい。また、一方で、高額な設備を用いる必要がない点では、反応圧力は高めであることが好ましい。
反応時間は、通常、1時間以上、15時間以下である。好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下である。反応時間が長いと、十分に反応が行われ、重合度が高く、機械物性に優れるポリエステルが得られやすい。また、一方で、反応時間が短いと、ポリエステルの熱分解による分子量低下が起こり難いために、機械物性に優れるポリエステルが得られやすい。
重縮合反応が終了したら、一般的に、ポリエステルを溶融状態でストランド状に抜き出し、冷却後、ペレット状にカッティングする。
【0040】
<触媒>
ポリエステル原料製造工程において、反応は、重縮合反応後により得られたポリエステルを更に固相重合することにより、ポリエステルの粘度を高めやすい点などから、チタン触媒の存在下で行うことが好ましい。チタン触媒を用いる場合、反応に供する単量体の量に対する触媒量は、チタン原子として、ポリエステル中に1~100ppmとすることが好ましく、1~50ppmとすることがより好ましい。また、原料ジカルボン酸成分1モルに対し、チタン原子量が0.000001モル以上とすることが好ましく、0.000002モル以上とすることがより好ましく、0.0000038モル以上とすることがさらに好ましく、また、一方で、同比が、0.00038以下とすることが好ましく、0.0003以下とすることがより好ましく、0.00025以下とすることがさらに好ましく、0.00019以下とすることが特に好ましい。
チタン触媒量をこれらの範囲とすることにより、着色が少なく、溶融熱安定性や加水分解性に優れたポリエステルを得ることができる。また、更に固相重合することにより、高粘度のポリエステルを得ることもできる。
【0041】
触媒を添加する時期は、特に限定されず、原料仕込み時でも、製造工程の途中で添加してもよい。また、原料仕込み時と製造工程中などに2回以上に分けて添加してもよい。
チタン触媒を用いる場合、触媒として使用されるチタン化合物としては、特に限定されるものではない。チタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましい。具体的には、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-
ブチルチタネート、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート、これらの混合チタネート等が挙げられる。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、テトラステアリルチタネート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も挙げられる。更には、酸化チタンや、チタンと珪素を含む複合酸化物等も挙げられる。
これらの中では、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、テトラステアリルチタネート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー又はチタニア/シリカ複合酸化物がより好ましい。
【0042】
また、チタン触媒に加えて、ゲルマニウム、ジルコニウム、ハフニウム、アンチモン、スズ、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、コバルト、鉛、セシウム、マンガン、リチウム、カリウム、ナトリウム、銅、バリウム等の金属化合物を併用してもよい。中でも、ゲルマニウム化合物、マグネシウム化合物、スズ化合物、亜鉛化合物が好適であり、特に好適には、マグネシウム化合物、ゲルマニウム化合物が挙げられる。
これらの触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組合せと比率で用いてもよい。なお、本発明の目的を損なわない限り、これら以外の触媒を用いてもよい。
【0043】
<水添工程>
エステル反応工程で用いる水添ベチュリンは、市販の水添ベチュリンを用いても、ベチュリンを水添させて用いてもよい。但し、バイオマス原料由来のベチュリンを用いる場合は、水添させてから用いることが好ましい。すなわち、本発明のポリエステルの製造法は、エステル反応工程の前にベチュリンに水素を添加する水添工程を有することが好ましい。
水添工程については、前述のとおりである。
【0044】
<固相重合工程>
重縮合反応により得られたポリエステルは、更に固相重合を行い、その分子量を高くして、還元粘度を高めることも可能である。すなわち、本発明のポリエステルの製造方法は、高分子量のポリエステルを得やすい点では、固相重合工程を有することが好ましい。固相重合の反応温度は、高温で行う方が、ポリエステルの分子量や還元粘度を高めやすい。具体的には、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。また、一方で、反応温度は、ポリエステルの熱分解や副反応が起こり難く、カルボキシル基末端濃度が低く、着色が少なく、高分子量のポリエステルを得やすいことから、重縮合反応の反応温度より低い温度であることが好ましい。
【0045】
固相重合の方法は、特に限定されないが、例えば、ペレット状又は粉末状の原料ポリエステルを不活性ガス雰囲気下又は減圧下において、加熱する方法等が挙げられる。反応は、ペレットや粉末を静置した状態でも行っても、撹拌状態で行ってもよい。撹拌する場合は、反応容器に設置した撹拌翼を用いても、反応容器を動かすことにより撹拌してもよい。
反応時間は、通常0.5時間以上であり、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。また、一方で、60時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましく、45時間以下が更に好ましい。反応時間が長いことにより、ポリエステルがより高分子量となり、機械物性に優れる傾向にある。また、反応時間が短いことにより、ポリエステルの着色
が起こり難い傾向にある。
【0046】
<添加剤>
ポリエステル原料製造工程においては、各種の添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、各種無機系又は有機系フィラーを用いてもよい。
また、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、アルカリ金属化合物、リン化合物等のポリエチレンテレフタレートの製造において、副反応によるエーテル成分の副生を抑制する物質を用いてもよい。
これらの添加剤を用いる場合は、原料仕込み時に添加してもよいし、ポリエステル製造の途中の工程や製造されたポリエステルの抜出段階で添加してもよい。また、抜出後の生成物に添加してもよい。
【0047】
結晶核剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタンウィスカー、マイカ、タルク、窒化ホウ素、CaCO、TiO、シリカ、層状ケイ酸塩、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられ、タルク、窒化ホウ素、シリカ、層状ケイ酸塩、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが好ましく、中でも、タルクが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
結晶核剤が無機材料の場合、核剤の添加効果の面から、その粒径は小さいことが好ましい。好ましい結晶核剤の平均粒径は5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.5μm以下である。なお、結晶核剤の平均粒径の下限は通常0.1μmである。
【0049】
結晶核剤を用いる場合、結晶核剤の好ましい添加量は、ポリエステルに対して、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上である。また、一方で、結晶核剤の添加量の上限はポリエステルに対して好ましくは30重量%、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは5重量%、最も好ましくは1重量%である。結晶核剤の添加量が上記下限以上であることで、結晶核剤を添加したことによる結晶化促進の効果を十分に得ることができる。また、上記上限以下であることで、ポリエステルの機械物性及びしなやかさ等が十分に得られる傾向にある。
【0050】
なお、核剤としての機能を目的として添加しない場合でも、他の効果の目的、例えば剛性改良のため添加する無機フィラー、熱安定剤として添加する有機安定剤等も核剤として作用する場合がある。また、樹脂の製造過程或いは成形加工過程で混入した無機物或いは有機物の異物等も結晶核剤となり得る。従って、本発明でいう結晶核剤とは常温で固体であるすべての無機物及び有機物が該当する。
【0051】
また、本発明のポリエステルは、上述した添加剤や、他の熱可塑性樹脂、各種無機系又は有機系フィラーと混合したポリエステル組成物としてもよい。
【0052】
その他の熱可塑性樹脂としては、本発明のポリエステル以外のポリエステル、ポリカーボネート、アクリルやウレタン等が挙げられる。
【0053】
無機系フィラーとしては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても
よく、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
有機系フィラーとしては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフや藁等の粉末等が挙げられる。また、パルプ等の繊維をナノレベルに解繊したナノファイバーセルロース等も挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
<ポリエステルの還元粘度>
本発明のポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は、0.5dL/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.6dL/g以上、さらに好ましくは0.8dL/g以上である。また、一方で、3dL/g以下であることが好ましく、より好ましくは2.5dL/g以下、さらに好ましくは2dL/g以下である。還元粘度が上記範囲であることで、機械物性と成形性を両立することができる。
【実施例0056】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
なお、以下の実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
【0058】
(1)水添ベチュリンの水添率の測定
Bruker社製の核磁気共鳴装置「Avance NEO(400MHz)」を用いて、水添ベチュリンの水添率を求めた。
【0059】
(2)ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させた溶液について、30℃で測定した。
【0060】
(3)ガラス転移温度の測定
示差走査熱量測定装置(DSC7000X 日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、JIS K7121-1987の方法により測定した。具体的には、窒素雰囲気中で、ポリエステルを-100℃から、210℃まで昇温した後、-100℃まで降温し、再び、210℃まで昇温した。ここで、昇温速度及び降温速度は10℃/分とした。この2回目の昇温における中間点ガラス転移温度をガラス転移温度とした。
【0061】
[実施例1]
<水添ベチュリンの製造>
オートクレーブに、ベチュリン5.5g、テトラヒドロフラン49.5g、Pd/C全重量に対し5重量%のパラジウムカーボン(Pd/C、Eタイプ)0.55gを入れ、窒素ガスで2MPaの気密試験をした後、水素ガスに置換した。最終的に水素ガス1MPaをオートクレーブに仕込んだ。
攪拌と昇温を開始し、目標温度60℃まで30分で昇温した。オートクレーブの内温が60℃に到達した時点から1MPaの水素をオートプレッシャーコントローラーから供給した。1時間後、電気炉をOFFとしてオートクレーブを冷却し、スラリー状の内容物を回収した。これにテトラヒドロフランを150g入れ、1μmのメンブレンフィルターを装着した窒素加圧ろ過器で固形分を濾別した。得られた溶液をエバポレーションした後、13Torr, 100℃の条件で3時間乾燥させて水添ベチュリン5.2gを得た。同様の水添操作を更に2回行うことで、10gの水添ベチュリンを得た。得られた水添ベチュリンの水添率は100%であった。
<ポリエステル(A)の製造>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、原料として、製造した水添ベチュリン7.01g、1,10-デカンジオール3.02g、セバシン酸6.38gを仕込み、反応容器内を窒素雰囲気にした。
次に、オイルバスに反応容器を投入し、撹拌を開始して220℃まで昇温し、反応系が均一になるまで撹拌した。その後、1時間30分間反応させて留出液を回収した後、テトラブチルチタネートの10重量%トルエン溶液を0.426g添加して、1時間30分間かけて130Pa程度になるように徐々に減圧を開始した。
続いて、減圧を開始してから30分後に1時間かけて270℃まで徐々に昇温した。減圧開始から7時間経過したところで撹拌を停止、復圧して重縮合反応を終了し、ポリエステル(A)を得た。得られたポリエステル(A)の還元粘度は0.902dL/g、ガラス転移温度は17.2℃であった。また、H-NMRにより測定したポリエステルの組成(モル比)は、水添ベチュリン/1,10-デカンジオール/セバシン酸=24/26.4/50.6であった。得られたポリエステルをクロロホルムに溶解させてもゲルは発生しなかった。
【0062】
[比較例1]
<ポリエステル(B)の製造>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、原料として、ベチュリン6.99g、1,10-デカンジオール3.03g、セバシン酸6.39gを仕込み、反応容器内を窒素雰囲気にした。
次に、オイルバスに反応容器を投入し、撹拌を開始して210℃まで昇温し、反応系が均一になるまで撹拌した。その後、1時間30分間反応させて留出液を回収した後、テトラブチルチタネートの10重量%トルエン溶液を0.426g添加して、1時間30分間かけて130Pa程度になるように徐々に減圧を開始した。
続いて、減圧を開始してから30分後に1時間かけて270℃まで徐々に昇温した。減圧開始から7時間経過したところで撹拌を停止、復圧して重縮合反応を終了し、ポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)の還元粘度は1.240dL/g、ガラス転移温度は18℃であった。また、H-NMRにより測定したポリエステルの組成(モル比)は、ベチュリン/1,10-デカンジオール/セバシン酸=25.7/24.9/49.4であった。得られたポリエステルをクロロホルムに溶解させると、ゲルが発生した。
【0063】
[参考例1]
<ポリエステル(C)の製造>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、原料として、1,10-デカンジオール8.06g、セバシン酸8.91gを仕込み、反応容器内を窒素雰囲気にした。
次に、オイルバスに反応容器を投入し、撹拌を開始して160℃まで昇温し、反応系が均一になるまで撹拌した。その後、1時間かけて230℃まで徐々に昇温した後、1時間30分間反応させて留出液を回収した。留出液を回収した後、テトラブチルチタネートの10重量%トルエン溶液を0.416g添加して、1時間30分かけて130Pa程度になるように徐々に減圧を開始した。
続いて、減圧を開始してから30分後に1時間かけて250℃まで徐々に昇温した。減圧開始から5時間経過したところで撹拌を停止、復圧して重縮合反応を終了し、ポリエステル(C)を得た。得られたポリエステル(C)の還元粘度は1.306dL/g、ガラス転移温度は-67.1℃であった。
【0064】
比較例1から、ベチュリンをそのまま用いると、重合中にベチュリン中の二重結合が熱架橋してしまいゲルが発生してしまうことが判明した。ゲルは、成形時の歩留まりを下げ
る要因となる。これに対し、水添ベチュリンを用いた実施例1では、熱架橋が起こらず、ゲルが発生せず、成形に適した樹脂が得られることが裏付けられた。
また、実施例1と参考例1の比較より、水添ベチュリン由来の単位を有することにより、ポリエステルのガラス転移温度を高くすることができたことから、水添ベチュリン由来の単位は、バイオマス原料からなる耐熱性を付与する構造として有用であることが裏付けられた。
【0065】
実施例1、比較例1と参考例1の結果を表1にまとめて示す。
【0066】
【表1】