(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150425
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】環境によって制御される生存能を有する細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220929BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220929BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220929BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220929BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053016
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】森 浩禎
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA86X
4B065AA86Y
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AB01
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】 生物学的封じ込め等に利用し得る、環境によって制御される生存能を有し、当該制御に関与する回路の遺伝的安定性が高い細胞を提供すること。
【解決手段】 細胞の形質転換体であって、当該細胞の生存に必須な遺伝子を誘導的に発現し得る系を含み、前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制され、かつ前記生存必須遺伝子は、前記発現誘導系のみから発現する、形質転換体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子を誘導的に発現し得る系を含み、
前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、
前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制され、かつ
前記生存必須遺伝子は、前記発現誘導系のみから発現する、
形質転換体。
【請求項2】
前記生存必須遺伝子が、下記遺伝子群から選択される少なくとも1の遺伝子である、請求項1に記載の形質転換体、
遺伝子群:
tyrS、dnaX、ftsK、mrdA、mrdB、mukB、rpsD、lexA、pheT、prfA、lepB、polA、leuS、ftsI、yaeL、secA、parC、ftsQ、rplP、dnaC、mviN、lolE、yejM、dnaA、rplD、rpoD、ftsH、secY、hemH、rpoH、lgt、ftsL、rplS、ribF、rpsB、rpsC、ftsX、yhbN、ygjE、ileS、rplB、rpsA、lpxB、pgsA、tilS、msbA、ftsW、rpsS、degS、infB、mreC、trmU、yfiO、dnaB、lpxC、zipA、yjgP、yrbK、lspA、murG、yrfF、proS、lolA、mreD、plsB、dxs、ssb、frr、mraY、rho、accB、argS、ftsE、secD、yidC、grpE、psd、ftsY、groL、lnt、rplQ、secE、hemA、rpsM、accC、plsC、fmt、ubiA、ftsB、nusG、secF、rlpB、rpoC、rpsG、glyS、rpsH、rplN、dnaE、holB、rpsR、rne、hemG、kdtA、rplJ、及びmreB。
【請求項3】
所望の遺伝子を発現させるためのDNA構築物を更に含む、請求項1又は2に記載の形質転換体。
【請求項4】
前記細胞が微生物である、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境によって制御される生存能を有する細胞に関する。本発明は、例えば、特定の培養条件下では生存能が維持されるが、その条件以外(自然環境等)では生存能が抑制される、生物学的に封じ込めが可能な微生物等の形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝的に改変された微生物の用途は多岐に亘り、またそれらの重要性は年々増している。例えば、このような微生物は、様々な生理活性物質(インスリン、インターフェロン等)や抗原(ワクチン)の合成の場として用いられ、バイオ医薬品の分野等において多大な貢献をもたらしている。
【0003】
その一方で、遺伝的に改変された微生物が自然環境中に拡散した場合には、当該環境への悪影響等が懸念される。そのため、かかる微生物を利用する上では、いくつかの条件があり、その条件の1つとして、特定の培養条件下では生存可能であるが、当該条件以外(自然環境等)では生存できないようにしておくこと(生物学的封じ込め)が要求される。
【0004】
このような生物学的に封じ込める方法として、古典的には、自然環境中には豊富でない必須栄養素の合成を担う遺伝子を破壊し、前記微生物を栄養要求性とする方法があり、人の管理下では、その栄養素を人為的に与えられるので生存できるが、自然環境下では不足して死滅することになる(非特許文献1)。しかしながら、これまで試みられた殆どの例において、そのような栄養素が得られる環境のニッチが存在し、生き残りが生じるので、不完全な方法であると考えられている。
【0005】
他には、人工的な遺伝回路を導入し、自然環境中では死滅するように遺伝的にプログラムする方法がある(非特許文献1)。例えば、毒素を恒常的に発現する遺伝回路を導入し、人の管理下では誘導物質を与えて人為的に毒素を中和する抗毒素を発現させるので生存できるが、自然環境中では抗毒素の発現が止み毒性を発揮して死滅する方法が、挙げられる。しかしながら、人工遺伝回路は遺伝的に不安定である。すなわち、遺伝的変異等により回路が破損し、継代により無効化し易い。昨今、低温誘導型プロモーター制御下で毒素を発現する遺伝回路と、その抗毒素を恒常的に発現する遺伝回路とを導入することにより、これら生物学的封じ込め回路の遺伝的不安定性を低減させる方法が報告されたが(非特許文献2)、当該回路の破損や除去が抑制できるものではなく、未だ十分なものでなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ramos,H.J.O.ら、Soil Biol.Biochem.、2011年、43巻、8号、1626~1638ページ
【非特許文献2】Stirling,F.ら、Mol.Cell、2017年、68巻、4号、686~697ページ
【非特許文献3】Kitagawa,M.ら、DNA Res.、2005年、12巻、291~299ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の有する課題を鑑みてなされたものであり、生物学的封じ込め等に利用し得る、環境によって制御される生存能を有し、当該制御に関与する回路の遺伝的安定性が高い細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、従前網羅的に同定していた細胞(大腸菌)の生存に必須な遺伝子(非特許文献3)を生物学的封じ込め回路に利用することを構想した。
【0009】
具体的には、これら遺伝子は、通常生存に必須であるものの(
図1A)、過剰発現させた際に逆に毒性を発揮するのであれば、かかる生存能に関する相反する性質を環境依存的に発現させることによって、生物学的封じ込めに利用できるのではと考えた(
図1C)。
【0010】
一方、内在性の前記遺伝子を欠損させることによって、細胞の生存能は喪失するが、
図1Bに示すとおり、生物学的封じ込め回路から、外来性の生存必須遺伝子が漏洩発現すれば、それによって生存能は補完されるとも考えた。そして、かかる構成を採ることによって、遺伝学的変異等により前記回路が破損したとしても、その破損に伴い細胞は生存できなくなるので、遺伝的に安定に維持される封じ込め回路の構築が可能となることが想定される。
【0011】
そこで、本発明者らは先ず、網羅的に同定していた生存必須遺伝子の各々を大腸菌において過剰発現させ、それらのコロニー形成能を評価した。その結果、tyrS等の105の遺伝子が、通常レベルの発現では生存に必須であるものの、過剰発現させた際には毒性を発揮するものとして選抜することができた。
【0012】
さらに、大腸菌に、誘導型プロモーターの制御下にて発現し得る外来性tyrSを含むプラスミドを導入し、希釈培養を繰り返した結果、6回の希釈培養で前記プラスミドは完全に脱落した。一方、前記プラスミドを、内在性のtyrSを欠損させた大腸菌に導入し、希釈培養を繰り返した場合には、12回の希釈培養を経ても前記プラスミドは完全に保持されていた。すなわち、過剰発現にて毒性を発揮する生存必須遺伝子を誘導的に発現し得る生物学的封じ込め回路は、内在性の当該遺伝子が欠損された細胞において、遺伝的に強固に安定であることを実証し、本発明を完成するに至った。
【0013】
よって、本発明は以下を提供するものである。
<1> 細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子を誘導的に発現し得る系を含み、
前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、
前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制され、かつ
前記生存必須遺伝子は、前記発現誘導系のみから発現する、形質転換体。
<2> 前記生存必須遺伝子が、下記遺伝子群から選択される少なくとも1の遺伝子である、<1>に記載の形質転換体、
遺伝子群:
tyrS、dnaX、ftsK、mrdA、mrdB、mukB、rpsD、lexA、pheT、prfA、lepB、polA、leuS、ftsI、yaeL、secA、parC、ftsQ、rplP、dnaC、mviN、lolE、yejM、dnaA、rplD、rpoD、ftsH、secY、hemH、rpoH、lgt、ftsL、rplS、ribF、rpsB、rpsC、ftsX、yhbN、ygjE、ileS、rplB、rpsA、lpxB、pgsA、tilS、msbA、ftsW、rpsS、degS、infB、mreC、trmU、yfiO、dnaB、lpxC、zipA、yjgP、yrbK、lspA、murG、yrfF、proS、lolA、mreD、plsB、dxs、ssb、frr、mraY、rho、accB、argS、ftsE、secD、yidC、grpE、psd、ftsY、groL、lnt、rplQ、secE、hemA、rpsM、accC、plsC、fmt、ubiA、ftsB、nusG、secF、rlpB、rpoC、rpsG、glyS、rpsH、rplN、dnaE、holB、rpsR、rne、hemG、kdtA、rplJ、及びmreB。
<3> 所望の遺伝子を発現させるためのDNA構築物を更に含む、<1>又は<2>に記載の形質転換体。
<4> 前記細胞が微生物である、<1>~<3>のうちのいずれか一項に記載の形質転換体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強固な遺伝的安定性を有する遺伝回路を備えた細胞を提供することが可能となる。例えば、強固な遺伝的安定性を有する生物学的封じ込め回路を備えた細胞、及び当該細胞を用いた生物学的封じ込め方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本発明の一実施形態の概要を説明するための図である。当該図において、細胞(野生型)においては、生存に必須な内在性の遺伝子(例えば、tyrS)が発現していることにより、生存能が維持されていることを示す。
【
図1B】本発明の一実施形態の概要を示すための図である。当該図に示すとおり、本発明の細胞(形質転換体)は、そのゲノム上の(内在性の)生存必須遺伝子の機能が抑制されているものの、誘導型プロモーター(例えば、T5プロモーター/lacオペレーター(lacI)システム)の非誘導条件下では、導入されたDNA構築物(例えば、プラスミド)中の(外来性の)生存必須遺伝子が漏洩発現することにより、その生存能は維持される。
【
図1C】本発明の一実施形態の概要を示すための図である。当該図に示すとおり、前記プロモーターの誘導条件下(例えば、IPTGの存在下)では、前記外来性の生存必須遺伝子が過剰発現することにより、毒性が発揮され、本発明の細胞の生存能が抑制される。
【
図2】誘導型プロモーターの制御下にて過剰発現し得る生存必須遺伝子(tyrS)を用いた生物学的封じ込め回路(ASKA-tyrS)の有効性を示す写真である。当該プロモーターの非誘導条件下(IPTG非存在下)では、前記回路を保持する一方で、内在性のtyrSが欠損している大腸菌(ΔtyrS)の生存能は維持され、正常に増殖し、コロニーが形成される(図中、左側)。一方、前記プロモーターの誘導条件下(IPTG存在下)では、前記生存必須遺伝子が過剰に発現し、毒性が発揮され、コロニー形成は検出されない(図中、右側)。
【
図3】前記生物学的封じ込め回路(ASKA-tyrS)を保持し、かつ内在性のtyrSが欠損している大腸菌(図中「ΔtyrS」と表記)と、前記回路を保持しているが、内在性のtyrSが欠損していない大腸菌(図中「wt」と表記)とを各々、繰り返し希釈培養し、前記回路(プラスミド)の維持率を分析した結果を示す、グラフである。すなわち、過剰発現にて毒性を発揮する生存必須遺伝子を誘導的に発現し得る生物学的封じ込め回路は、内在性の当該遺伝子が欠損された微生物においては、遺伝的に強固に安定であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
後述の実施例にて示すとおり、本発明者らは、通常レベルでの発現では細胞の生存に必須である遺伝子の中から、過剰に発現させるとその生存能を抑制する遺伝子を選抜した。そして、かかる遺伝子の発現を環境に応じて制御することによって、生物学的封じ込めが可能であることを見出した。さらに、本発明者らは、内在性の前記遺伝子の機能を抑制することによって、細胞の生存能は喪失するが、前記生物学的封じ込めの回路から、外来性の生存必須遺伝子が漏洩発現することにより、生存能は補完されることも明らかにした。すなわち、当該生物学的封じ込め回路は、遺伝学的に強固に安定であることを実証した。
【0017】
よって、本発明は、
細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子を誘導的に発現し得る系を含み、
前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、
前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制され、かつ
前記生存必須遺伝子は、前記発現誘導系のみから発現する、形質転換体を、提供するものである。
【0018】
<細胞>
本発明の対象となる「細胞」は、原核細胞であってもよく、真核細胞であってもよく、例えば、微生物、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞が挙げられる。本発明の対象となる「微生物」は、例えば、原核生物(真正細菌、古細菌)であってもよく、真核生物(藻類、原生生物、菌類、粘菌)であってもよい。より具体的に、原核生物としては、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌等が挙げられる。また、真核生物としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母が挙げられる。
【0019】
<生存必須遺伝子>
本発明において「生存に必須な遺伝子(生存必須遺伝子)」とは、当該遺伝子の機能を抑制した場合のみならず、当該遺伝子を過剰に発現させた場合においても、細胞の生存能が抑制される遺伝子を意味する。
【0020】
ここで、「生存能の抑制」とは、細胞を死滅させること及び/又は細胞の増殖を抑制することを意味する。例えば、細胞の増殖速度が、通常(例えば、生存必須遺伝子を抑制する前の微生物、当該遺伝子を過剰に発現させる前の細胞、形質転換前の細胞(親株))のそれと比較して、10分の1以下、好ましくは100分の1以下、より好ましくは1000分の1以下となることが挙げられる。また、細胞の死滅速度が、通常のそれと比較して、10倍以上、好ましくは100倍以上、より好ましくは1000倍以上となることが挙げられる。
【0021】
一方、「生存能の維持」とは、例えば、細胞の増殖速度又は生存率が、通常のそれと比較して、0.2倍以上、好ましくは0.5倍以上、より好ましくは0.8倍以上となることが挙げられる。また、細胞の死滅速度が、通常のそれと同等となること(例えば、通常の死滅速度と比較して0.8~1.2倍となること)が挙げられる。
【0022】
本発明にかかる「生存必須遺伝子」のより具体的な例としては、後述の実施例にて選抜された下記表1~5に示す遺伝子が挙げられる。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
表1~5において、大腸菌(野生型)由来のこれら遺伝子及びそれらがコードするタンパク質は、特定の配列(UniProtのIDによって規定される配列)をもって特定されるが、本発明にかかる生存必須遺伝子は、これら典型的な配列をもって特定されるものに限定されるものではない。
【0029】
また、自然界においてヌクレオチド配列が変異することは起こり得ることである。そして、それに伴いコードするアミノ酸も変化し得る。したがって、本発明にかかる生存必須遺伝子には、前記大腸菌由来の典型的な野生型アミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質(改変体)をコードする遺伝子も含まれる。
【0030】
本発明にかかる生存必須遺伝子に関し、「複数」とは、特に制限はないが、例えば、300アミノ酸以内(250アミノ酸以内、200アミノ酸以内等)、150アミノ酸以内(140アミノ酸以内、130アミノ酸以内、120アミノ酸以内、110アミノ酸以内等)、100アミノ酸以内(90アミノ酸以内、80アミノ酸以内、70アミノ酸以内、60アミノ酸以内等)、50アミノ酸以内(40アミノ酸以内、30アミノ酸以内、20アミノ酸以内等)、10アミノ酸以内(9アミノ酸以内、8アミノ酸以内、7アミノ酸以内、6アミノ酸以内等)、数個のアミノ酸以内(5アミノ酸以内、4アミノ酸以内、3アミノ酸以内、2アミノ酸以内)である。
【0031】
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、その遺伝子情報(ヌクレオチド配列等)を利用して、同種又は他の細胞等から、その相同遺伝子を同定することが可能である。相同遺伝子を同定するための方法としては、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern,E.M.,J.Mol.Biol.,98:503,1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki,R.K.,et al.Science,230:1350-1354,1985、Saiki,R.K.et al.Science,239:487-491,1988)が挙げられる。相同遺伝子を同定するためには、通常、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、6M 尿素、0.4% SDS、0.5xSSCの条件又はこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4% SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高い遺伝子の単離を期待することができる。
【0032】
したがって、本発明にかかる生存必須遺伝子には、前記大腸菌由来の典型的な野生型ヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAがコードするタンパク質も含まれる。
【0033】
また、同定された相同遺伝子がコードするタンパク質は、通常、前記細菌由来のそれと高い相同性(高い類似性)、好ましくは高い同一性を有する。ここで「高い」とは、少なくとも30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上(例えば、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)のことである。
【0034】
したがって、本発明にかかる生存必須遺伝子には、前記大腸菌由来の典型的な野生型アミノ酸配列配列と少なくとも30%以上の相同性(類似性)又は同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。
【0035】
なお、配列の相同性は、BLASTのプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.,215:403-410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:2264-2268,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873-5877,1993)に基づいている。例えば、BLASTによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0036】
また、本発明が対象とする生存必須遺伝子は、1種類であっても良いが、生物学的封じ込め等をより精度高く行い、また当該封じ込め等に用いられる遺伝回路(後述の本発明にかかる発現誘導系、DNA構築物等)の遺伝的安定性をより高めるという観点から、複数種を対象としてもよい。ここで複数種とは特に制限はないが、2種以上(例えば、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種)、10種以上が挙げられる。
【0037】
<発現誘導系>
本発明において、「生存必須遺伝子を誘導的に発現し得る系(発現誘導系)」とは、所定の条件下にて、生存必須遺伝子の発現を誘導し得る系を意味する。ここで制御される「遺伝子の発現」としては、転写レベルであってもよく、転写後レベル(翻訳レベル等)であってもよく、またその両方であってもよい。
【0038】
なお、後述の実施例に示すとおり、内在性の生存必須遺伝子の発現を抑制することによって、細胞の生存能は喪失するが、本発明にかかる発現誘導系から、生存必須遺伝子が漏洩発現することにより、生存能は補完される。そのため、当該発現誘導系は遺伝学的に強固に安定となる。すなわち、このような高い遺伝的安定性を得るためには、本発明の形質転換体において、生存必須遺伝子は、前記発現誘導系のみから発現する必要がある。
【0039】
また、本発明にかかる発現誘導系としては、生存必須遺伝子の発現を誘導し得る限り、特に制限はないが、例えば、[1]誘導型プロモーターの制御下において生存必須遺伝子が誘導的に発現し得る系、[2]リボスイッチの制御下において生存必須遺伝子が誘導的に発現し得る系、[3]誘導型プロモーターの制御下において生存必須遺伝子の機能を抑制する分子が誘導的に発現し得る系と生存必須遺伝子を構成的に発現させ得る系との組み合わせが挙げられる。
【0040】
[1]誘導型プロモーターの制御下において生存必須遺伝子が誘導的に発現し得る系
本発明において、誘導型プロモーターの制御下において生存必須遺伝子が誘導的に発現し得る系を用いる態様として、より具体的には、
細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子が誘導型プロモーターに作動可能的に連結しているDNA構築物を含み、
内在性の前記生存必須遺伝子の機能が抑制されており、
前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、かつ
前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制される、形質転換体
が挙げられる。
【0041】
また、別の態様として、細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子の内在性のプロモーターが誘導型プロモーターに置換され、当該誘導型プロモーターと前記生存必須遺伝子とが作動可能的に連結しており、
前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、かつ
前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制される、形質転換体
も挙げられる。
【0042】
<誘導型プロモーター>
本発明にかかる「誘導型プロモーター」としては、所定の条件下にて、その下流に作動可能的に連結された遺伝子の発現(転写)を誘導する制御領域を意味する。ここで、「所定の条件」とは、化合物(糖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、抗生物質、栄養素、代謝産物等)の存在下又は非存在下、金属の存在下又は非存在下、光照射の有無、高温下又は低温下、気体(酸素等)の有無が挙げられる。
【0043】
かかる条件に応じて発現を誘導し得る「誘導型プロモーター」としては、特に制限はないが、例えば、IPTG、ラクトース、アロラクトース等で誘導するlacプロモーター、テトラサイクリン又はその誘導体(ドキシサイクリン等)の存在下又は非存在下で誘導するTet-onシステム/Tet-offシステムのプロモーター、トリプトファンの非存在下で誘導するTrpプロモーター、lacプロモーターとTrpプロモーターとの組み合わせからなるTacプロモーター、ガラクトース等によって誘導するGAL1プロモーター及びGAL10プロモーター、アラビノースで誘導araBADプロモーター、銅イオンで誘導するCUP1プロモーター、高温下において誘導するHSP10、HSP60、HSP90等の熱ショックタンパク質(HSP)をコードする遺伝子のプロモーター、低温下で誘導するcspAプロモーター、温度感受性プロモーターであるPRプロモーター及びPLプロモーター、光誘導型プロモーターであるリブロース2リン酸カルボキシラーゼ小サブユニット(rbcS)遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0044】
また、このような誘導型プロモーターにおいては、lacプロモーター、Tet-onシステム/Tet-offシステムのプロモーターのように、オペレーター配列を有するものもある。そして、非誘導条件下においてはこのオペレーター配列にリプレッサーが結合していることにより前記発現が抑制されているが、誘導条件下においては、リプレッサーがオペレーター配列より解離することにより、前記発現が可能となる。よって、本発明にかかる「誘導型プロモーター」には、オペレーター配列を備えた構成的プロモーターも含まれる。かかるオペレーター配列としては特に制限はないが、例えば、lacオペレーター、Tetオペレーターが挙げられる。なお「構成的プロモーター」については後述を参照のほど。
【0045】
そして、かかる「誘導型プロモーター」を用いることにより、本系においては、その誘導条件下では、前記生存必須遺伝子を過剰発現させ、細胞の生存能を抑制する一方で、非誘導条件下では、細胞の生存能を維持できる程度に前記生存必須遺伝子を漏洩発現(漏洩転写)させるものである。
【0046】
[2]リボスイッチの制御下において生存必須遺伝子が誘導的に発現し得る系
次に、発現誘導系として、リボスイッチの制御下において生存必須遺伝子が誘導的に発現し得る系を用いる本発明の態様を説明する。かかる態様として、より具体的には、
細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子が、構成的プロモーターに作動可能的に連結し、リボスイッチの制御下において誘導的に発現し得るDNA構築物を含み、
内在性の前記生存必須遺伝子の機能が抑制されており、
前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、かつ
前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制される、形質転換体
が挙げられる。
【0047】
また、別の態様として、
細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子の内在性のプロモーターが構成的プロモーターに置換され、かつ当該生存必須遺伝子はリボスイッチの制御下において誘導的に発現し得、
前記遺伝子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、かつ
前記遺伝子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制される、形質転換体
も挙げられる。
【0048】
<リボスイッチ>
本発明にかかる「リボスイッチ」とは、特定の化合物に選択的に結合するRNAを意味する。当該化合物の非存在下ではRNA塩基対による二次構造を形成し、リボスイッチの下流にリボソーム結合部位を含む場合には、リボソームの当該部位への結合を抑制することで、さらに下流に位置する遺伝子(本発明においては、生存必須遺伝子)のmRNAの翻訳を妨げる。一方、前記化合物の存在下では、当該化合物の結合に伴う二次構造が解消され、リボソームがリボソーム結合部位に結合できる。そのため、前記化合物存在下において、前記遺伝子のmRNAが翻訳され、当該遺伝子の発現誘導を行なうことができる。
【0049】
また、リボスイッチには、このような特定の化合物が結合することによって翻訳を促進するもの(翻訳促進型、ONスイッチ)があれば、逆に、リボスイッチに特定の化合物が結合することによって、その下流のリボソーム結合部位とリボソームとの結合が抑制され、さらに下流に位置する遺伝子のmRNAの翻訳を妨げられるもの(翻訳抑制型、OFFスイッチ)もある。本発明においては、翻訳促進型のリボスイッチであっても、翻訳抑制型のリボスイッチであっても好適に用いられる。
【0050】
また、本発明のリボスイッチに結合する又はしないことによって、下流の遺伝子の翻訳を誘導する「化合物」としては特に制限はなく、例えば、糖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、抗生物質、栄養素等が挙げられる。さらに、本発明にかかる「リボスイッチ」は、前述の化合物の結合の有無に伴い二次構造変化が生じるRNAであればよく、特に制限されるものではないが、例えば、テオフィリン応答性リボスイッチ、アデノシルコバラミン応答性リボスイッチ、サイクリックdi-GMP応答性リボスイッチ、フラビンモノヌクレオチド応答性リボスイッチ、グルコサミン-6-リン酸応答性リボスイッチ、グルタミン応答性リボスイッチ、グリシン応答性リボスイッチ、リジン応答性リボスイッチ、preQ1応答性リボスイッチ、プリン応答性リボスイッチ、S-アデノシルホモシステイン応答性リボスイッチ、S-アデノシルメチオニン応答性リボスイッチ、S-アデノシルホモシステイン&S-アデノシルメチオニン応答性リボスイッチ、テトラヒドロ葉酸応答性リボスイッチ、チアミンピロリン酸応答性リボスイッチ、モリブデン応答性リボスイッチ、アデニン応答性リボスイッチが挙げられる。
【0051】
そして、本系においては、かかる「リボスイッチ」によって、後述の構成的プロモーターによって過剰に転写される生存必須遺伝子のmRNAの翻訳が抑制される条件(前記遺伝子発現の非誘導条件)下では、漏洩発現した(漏洩翻訳された)生存必須遺伝子がコードするタンパク質によって細胞の生存能が維持される。一方、リボスイッチによって翻訳が促進される条件(前記遺伝子発現の誘導条件)下では、後述の構成的プロモーターによって過剰に転写された生存必須遺伝子のmRNAが、抑制されることなく翻訳されることによって、細胞の生存能が抑制されることになる。
【0052】
[3]誘導型プロモーターの制御下において生存必須遺伝子の機能を抑制する分子が誘導的に発現し得る系と生存必須遺伝子を構成的に発現させ得る系との組み合わせ
次に、発現誘導系として、誘導型プロモーターの制御下において生存必須遺伝子の機能を抑制する分子が誘導的に発現し得る系と生存必須遺伝子を構成的に発現させ得る系との組み合わせを用いる本発明の態様を説明する。かかる態様としては、より具体的に以下が挙げられる。
【0053】
細胞の形質転換体であって、
当該細胞の生存に必須な遺伝子の機能を抑制する分子を、誘導的に発現し得る系と、前記生存必須遺伝子を構成的に発現させ得る系とを含み、
前記分子発現の誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の漏洩発現により、生存能が維持され、かつ
前記分子発現の非誘導条件下では、前記生存必須遺伝子の過剰発現により、生存能が抑制される、形質転換体
も挙げられる。
【0054】
本発明において、「生存必須遺伝子の機能を抑制する分子」としては、後述のとおり、当該遺伝子を標的とし、その機能(転写、翻訳)等を抑制する活性を有する分子であればよく、例えば、後述の、sRNA(small RNA)、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(small hairpin RNA)、アンチセンスRNA、リボザイム活性を有するRNAが挙げられる。さらに、後述の、部位特異的なヌクレアーゼ及び/又はガイドRNAを含むゲノム編集系も挙げられる。
【0055】
また、「生存必須遺伝子を構成的に発現させ得る系」としては、特に制限はなく、例えば、後述の構成的プロモーターに作動可能的に連結した生存必須遺伝子を含むDNA構築物が挙げられる。また、内在性の生存必須遺伝子において、その内在性のプロモーターを後述の構成的プロモーターに置換したものであってもよい。
【0056】
なお、前記DNA構築物を有する場合には、上述の[1]及び[2]の系とは異なり、生存必須遺伝子を本発明にかかる発現誘導系のみから発現させるために、必ずしも内在性の生存必須遺伝子の機能を抑制することは要さないが、遺伝的安定性をより高めるという観点から、当該機能を抑制することが望ましい。
【0057】
そして、本系においては、「生存必須遺伝子の機能を抑制する分子」が、上述の誘導型プロモーターによって発現が誘導されることにより、生存必須遺伝子の発現等が抑制される条件(前記遺伝子発現の非誘導条件)下では、漏洩発現した生存必須遺伝子によって細胞の生存能が維持される。一方、前記分子の発現が誘導されず、生存必須遺伝子が過剰に発現する条件(前記遺伝子発現の誘導条件)下では、細胞の生存能が抑制されることになる。
【0058】
<過剰発現及び漏洩発現>
本発明において、「過剰発現」は、本発明にかかる生存必須遺伝子がその内在性プロモーターによって誘導される発現量(mRNA量及び/又はタンパク質量)よりも、上述の本発明にかかる発現誘導系によるそれが多く、かつ本発明の細胞の形質転換体の生存能を抑制し得る程の発現を意味する。かかる発現の程度としては、誘導する生存必須遺伝子の種類等によるが、本発明にかかる生存必須遺伝子がその内在性プロモーターによって誘導される発現量と比較して、通常5倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは20倍以上、より好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上、より好ましくは200倍以上、さらに好ましくは500倍以上、より好ましくは1000倍以上である。
【0059】
また「漏洩発現」は、本発明にかかる生存必須遺伝子がその内在性プロモーターによって誘導される発現量と同等であり、かつ本発明の細胞の形質転換体の生存能を維持し得る程の発現を意味する。かかる発現の程度としては、誘導する生存必須遺伝子の種類等によるが、本発明にかかる生存必須遺伝子がその内在性プロモーターによって誘導される発現量と比較して、通常0.2~3倍、好ましくは0.5~2倍、より好ましくは0.8~1.5倍である。なお、このようなプロモーター等による発現強度は、当業者であれば、公知の手法(例えば、Prokaryotic promoters in biotechnology.Biotechnol.Annu.Rev.,1995年、1巻、105~128ページに記載の方法)を用いて評価することができる。
【0060】
<構成的プロモーター>
このような過剰発現を可能とする、本発明の「構成的プロモーター」としては、作動可能的に連結された生存必須遺伝子の発現(転写)を恒常的かつ強力に誘導する制御領域であればよく、特に制限はないが、大腸菌等の原核細胞にて利用可能なプロモーターとしては、例えば、T5プロモーター、T3プロモーター、T7プロモーターが挙げられる。酵母等の真核細胞にて利用可能な構成的プロモーターとしては、例えば、ADH1プロモーター、PGK1プロモーター、ENOプロモーター、PYK1プロモーターが挙げられる。
【0061】
<DNA構築物>
本発明において、生物学的封じ込め回路等として細胞に導入される「DNA構築物」は、当該細胞において、生存必須遺伝子等を発現誘導し得るものである限り特に制限はないが、例えば、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、プラスミドを基本に構築することができる。また、ベクターは、細胞に導入されたとき、その細胞のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。
【0062】
このようなベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージDNAが挙げられる。また、プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pCA24N等)、酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、YCp50等)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)が挙げられる。ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。かかるベクター構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。例えば、本発明にかかる生存必須遺伝子をベクターに挿入するには、まず、精製されたDNA(生存必須遺伝子)を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が採用される。
【0063】
本発明にかかる「DNA構築物」は、必要に応じて、導入しようとする細胞において利用可能なターミネーター配列、エンハンサー配列、スプライシングシグナル配列、ポリA付加シグナル配列、リボゾーム結合配列(SD配列)等の、誘導型プロモーター以外の発現を制御する配列を含むものであってもよい。
【0064】
また、本発明にかかる「DNA構築物」は、必要に応じて、選択マーカー遺伝子を含んでいても良い。選択マーカー遺伝子は、形質転換された細胞の選択の方法に応じて適宜選択されてよく、例えば、カナマシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、アミノ酸や核酸等の栄養素の細胞内生合成に関与する遺伝子(栄養要求性を相補する遺伝子)、ルシフェラーゼ等の化学発光に関する遺伝子、GFP等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0065】
DNA構築物に含まれる「生存必須遺伝子」には、それがコードするタンパク質に他のタンパク質が融合されて発現するように、当該タンパク質をコードするDNAが付加されていてもよい。付加される部位についても特に制限はなく、生存必須遺伝子の5’末端(生存必須遺伝子がコードするタンパク質のN末端)及び3’末端(生存必須遺伝子がコードするタンパク質のC末端)のいずれかであってもよく、その両方であってもよいが、生存必須遺伝子と他のタンパク質をコードするDNAは、読み枠を合わせて付加させる必要がある。また、このようにして融合される「他のタンパク質」としては特に制限はなく、ポリヒスチジン(His-)タグ(tag)タンパク質、FLAG-タグタンパク質(登録商標、Sigma-Aldrich社)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)等の精製用タグタンパク質;GFP等の蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化学発光タンパク質等の検出用タグタンパク質が挙げられる。
【0066】
本発明が複数の生存必須遺伝子を対象とする場合、DNA構築物には、生存必須遺伝子が1種ずつ挿入されていてもよく、また複数種の生存必須遺伝子を1のベクターに挿入してもよい。1のベクターに複数種の生存必須遺伝子を挿入する場合において、これらの生存必須遺伝子はオペロンを形成することが好ましい。ここで「オペロン」とは、同一のプロモーターの制御下に転写される1又は複数の遺伝子から構成される核酸配列単位である。
【0067】
本発明にかかるDNA構築物は、公知の手法を用い、細胞に導入される。かかる導入方法は、当業者であれば細胞の種類等に合わせて適宜選択することができるが、例えば、塩化カルシウム法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、接合伝達法、カルシウムイオンを用いる方法が挙げられる。
【0068】
<生存必須遺伝子の機能抑制>
後述の実施例に示すとおり、遺伝的安定性の高い生物学的封じ込め等を可能にするという観点から、本発明の細胞の形質転換体は、上述のDNA構築物を含む一方で、内在性の生存必須遺伝子の機能を抑制することが望ましい。
【0069】
本発明において「生存必須遺伝子の機能抑制」には、該機能の完全な抑制(阻害)及び部分的な抑制の双方が含まれる。また、生存必須遺伝子の発現の抑制の他、当該遺伝子がコードするタンパク質の活性の抑制が含まれる。そして、かかる抑制は、例えば、生存必須遺伝子のコード領域、非コード領域、発現制御領域(内在性のプロモーター領域)等に変異を導入することによって行なうことができる。
【0070】
本発明において、生存必須遺伝子に導入される変異としては、該遺伝子の機能を抑制する限り特に制限はなく、例えば、ヌクレオチドの置換、欠失、付加、及び/又は挿入が挙げられるが、ナンセンス変異、フレームシフト変異、ヌル変異が好ましい。また、生存必須遺伝子に導入される変異の個数としても、該遺伝子の機能を抑制する限り特に制限はなく、1個でもよく、また複数個(例えば、2個、3個以下、5個以下、10個以下、20個以下、30個以下、40個以下、50個以下)でもよい。
【0071】
このような変異としては、生存必須遺伝子がコードするアミノ酸配列全部を失わせる必要はなく、その一部が失われるか変化するように当該遺伝子内に導入されればよく、例えば、生存必須遺伝子がコードするアミノ酸配列の少なくとも10%(好ましくは20%以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは100%)の変更又は欠失を伴うヌクレオチド変異が導入されればよい。
【0072】
このようにアミノ酸配列が変更又は欠失する領域としては、前記機能が抑制される限り特に制限はないが、例えば、当業者であれば、Uniprot等の情報に基づき、生存必須遺伝子がコードするアミノ酸配列において機能的ドメインを把握することができるため、当該ドメインをコードするヌクレオチド配列を標的として変異を導入することができる。
【0073】
生存必須遺伝子への変異の導入は、当業者であれば公知の変異導入方法により達成することができる。かかる公知の方法としては、ゲノム編集法、物理的変異導入法、化学的変異剤を用いる方法、トランスポゾン等をゲノムDNAに導入する方法、sRNA、siRNA、shRNA、アンチセンスRNA及びリボザイム活性を有するRNA等を用いた、転写産物を標的とする方法が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0074】
ゲノム編集法は、部位特異的なヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR-Cas9等のDNA二本鎖切断酵素)を利用して、標的遺伝子を改変する方法である。例えば、ZFNs(米国特許6265196号、8524500号、7888121号、欧州特許1720995号)、TALENs(米国特許8470973号、米国特許8586363号)、ヌクレアーゼドメインが融合されたPPR(pentatricopeptiderepeat)(Nakamura et al.,Plant Cell Physiol 53:1171-1179(2012))等の融合タンパク質や、CRISPR-Cas9(米国特許8697359号、国際公開2013/176772号)、CRISPR-Cpf1(Zetsche B.et al.,Cell,163(3):759-71,(2015))やTarget-AID(K.Nishida et al.,Targeted nucleotide editing using hybrid prokaryotic and vertebrate adaptive immune systems, Science,DOI:10.1126/science.aaf8729,(2016))等のガイドRNAとタンパク質の複合体を用いる方法が挙げられる。
【0075】
物理的変異導入法としては、例えば、重イオンビーム(HIB)照射、速中性子線照射、ガンマ線照射、紫外線照射が挙げられる(Hayashiら、Cyclotrons and Their Applications、2007年、第18回国際会議、237~239ページ、及び、Kazamaら、Plant Biotechnology、2008年、25巻、113~117ページ参照のこと)。
【0076】
化学的変異剤を用いる方法としては、例えば、化学変異剤によって処理する方法(Zwar及びChandler、Planta、1995年、197巻、39~48ページ等 参照)が挙げられる。化学変異剤としては特に制限はないが、エチルメタンスルホート(EMS)、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)、N-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)、アジ化ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ヒドリキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトログアニジン(MNNG)、N-メチル-N’-ニトロソグアニジン(NTG)、O-メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、蟻酸及びヌクレオチド類似体が挙げられる。
【0077】
トランスポゾン等をゲノムDNAに導入する方法としては、例えば、H.Moriら、Research in Microbiology、2000年、151巻、2号、121~128ページに記載の方法、S.Y.Gerdesら、J Bacteriol.2003年、185巻、19号、5673~5684ページに記載の方法が挙げられる。
【0078】
以上の方法により変異が導入された細胞については、公知の方法により、生存必須遺伝子に変異が導入されていることを確認することができる。かかる公知の方法としては、例えば、DNAシークエンス法(次世代シークエンシング法等)、PCR法、マイクロアレイを用いた解析法、サザンブロット法、ノーザンブロット法が挙げられる。かかる方法によれば、生存必須遺伝子に変異が導入されているか否かを、変異導入前後の当該遺伝子の配列又は長さを比較することによって判断することができる。また、ノーザンブロット法、RT-PCR法、ウェスタンブロット法、ELISA法、マイクロアレイによる解析法等を利用することにより、生存必須遺伝子に変異が導入された細胞において、生存必須遺伝子の転写産物又は翻訳産物の発現量の低下が認められれば、該細胞は生存必須遺伝子に変異が導入された細胞であると確認することもできる。
【0079】
また、生存必須遺伝子に変異が導入されていることを確認する他の方法として、TILLING(標的誘導型ゲノム特定位傷害、Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)が挙げられる(Sladeら、Transgenic Res.、2005年、14巻、109~115ページ、及び、Comaiら、Plant J.、2004年、37巻、778~786ページ 参照)。特に、前述の重イオンビーム照射や化学的変異剤等を用いてゲノム中に非選択的変異を導入した場合には、生存必須遺伝子又はその一部をPCRで増幅した後に、該増幅産物に変異を有する個体を、前記TILLING等により選抜することができる。
【0080】
さらに、後述の実施例に示すとおり、相同組換えによって、生存必須遺伝子の機能を抑制することもできる。かかる相同組換えは、例えば、ラムダレッド組換えシステム(T.Babaら、Mol.Syst.Biol.、2006年、2,20060008)、Cre/Lox、attB/attP、他のインテグラーゼシステムを用いて行なうことができる。
【0081】
なお、本発明において、機能抑制の対象となる遺伝子は、生存に必須なものとなるため、所定の条件に応じて前記機能が抑制されることが好ましい。かかる条件に応じた抑制は、例えば、上述の誘導型プロモーターの利用が挙げられる。
【0082】
また、本発明の細胞の形質転換体は、遺伝的安定性の高く生物学的封じ込め等を行なうことができるため、有用な様々な物質の合成の場として利用することができる。すなわち、本発明の形質転換体は、所望の遺伝子を発現させるためのDNA構築物を更に含むものであってもよい。
【0083】
本発明において、「所望の遺伝子」としては特に制限はなく、例えば、本発明の細胞の形質転換体において発現させ、製造させたいタンパク質又はRNAをコードする遺伝子であればよく、例えば、インスリン、インターフェロン等の生理活性物質、ワクチンに利用し得る抗原(タンパク質、RNA等)等をコードする遺伝子が挙げられる。また、本発明の形質転換体において、所望の遺伝子は1種のみ含まれていてもよく、複数種含まれていてもよい。
【0084】
所望の遺伝子を発現させるための「DNA構築物」は、上述の生存必須遺伝子を発現させるためのそれ同様に、当業者であれば、適宜公知のものを選択し調製することができる。なお、当該DNA構築物においてプロモーターは、誘導型プロモーターであってもよいが、構成的プロモーターであってもよい。
【0085】
所望の遺伝子を発現させるための「DNA構築物」には、所望の遺伝子が1種ずつ挿入されていてもよく、また複数種の遺伝子を1のDNA構築物に挿入してもよい。ベクターに複数種の所望の遺伝子を挿入する場合において、一つのDNA構築物に複数種の遺伝子が挿入される場合、これらの遺伝子はオペロンを形成することが好ましい。さらに、所望の遺伝子と、上述の生存必須遺伝子又は当該遺伝子の機能を抑制する分子をコードするDNAとは同一のDNA構築物に含まれていてもよく、またこれらはオペロンを形成していてもよい。
【実施例0086】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1) 過剰発現により毒性を発揮する必須遺伝子の同定
大腸菌W3110株に由来する全必須遺伝子(300遺伝子)のopen reading frame(ORF)を対象とし(非特許文献3)、それらの中から過剰に発現すると毒性を発揮する遺伝子の同定を試みた。
【0088】
具体的には先ず、前記各ORFがコードするタンパク質のN末端に連続した6つのヒスチジン残基からなるエピトープタグ(6xHis)が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド(6xHis融合ORF)を調製した。
【0089】
次に、これら6xHis融合ORFを、強力なT5プロモーターの支配下において発現させるべく、プラスミドpCA24Nに各々クローニングした。なお、当該プラスミドにおいて、T5プロモーターと6xHis融合ORFとの中間にはlacO配列が挿入されている。そのため、前記プラスミドに座乗し、恒常的に発現しているlacIq遺伝子の産物 LacIにより、6xHis融合ORFの発現は低く抑えられる。しかしながら、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside、IPTG)の存在下では、LacI/lacOによる抑制を脱して、6xHis融合ORFの過剰発現が期待される。
【0090】
次に、前記にて調製したプラスミドを大腸菌AG1に導入し、個々のORFに対応するプラスミドを保持する形質転換体を樹立した。そして、プラスミドの選択マーカーであるクロラムフェニコール(50μg/ml)を含むLB液体培地で、各形質転換体を一夜培養した。
【0091】
次いで、培養液を103倍に希釈し、その250μLをIPTG(3mM)及びクロラムフェニコール(50μg/ml)を含むLB寒天培地に播種し、形成されるコロニーを検出した。また、前記培養液を106倍に希釈して、クロラムフェニコールのみを含む寒天培地に播種し、形成されるコロニーを検出した。
【0092】
そして、前者のコロニー数より前記ORFが過剰発現してもコロニーを形成する菌の個体数を求め、後者のコロニー数より播種した菌の総数を求め、これら両者の結果から、前記ORFが過剰発現してもコロニーを形成する菌個体(エスケーパー)の発生率を算出した。
【0093】
その結果、図には示さないが、エスケーパーの発生率が<2%となるORFを、大腸菌の生存に必須ではあるが、過剰発現により毒性を発揮する遺伝子として、下記105の遺伝子を選抜した。
tyrS、dnaX、ftsK、mrdA、mrdB、mukB、rpsD、lexA、pheT、prfA、lepB、polA、leuS、ftsI、yaeL、secA、parC、ftsQ、rplP、dnaC、mviN、lolE、yejM、dnaA、rplD、rpoD、ftsH、secY、hemH、rpoH、lgt、ftsL、rplS、ribF、rpsB、rpsC、ftsX、yhbN、ygjE、ileS、rplB、rpsA、lpxB、pgsA、tilS、msbA、ftsW、rpsS、degS、infB、mreC、trmU、yfiO、dnaB、lpxC、zipA、yjgP、yrbK、lspA、murG、yrfF、proS、lolA、mreD、plsB、dxs、ssb、frr、mraY、rho、accB、argS、ftsE、secD、yidC、grpE、psd、ftsY、groL、lnt、rplQ、secE、hemA、rpsM、accC、plsC、fmt、ubiA、ftsB、nusG、secF、rlpB、rpoC、rpsG、glyS、rpsH、rplN、dnaE、holB、rpsR、rne、hemG、kdtA、rplJ、mreB。
【0094】
(実施例2) 強固な遺伝的安定性をもつ生物学的封じ込め法
実施例1により同定された過剰発現により毒性を発揮する遺伝子のうち、tyrSを選択して、遺伝的に安定な生物学的封じ込め法の実証を行った。
【0095】
具体的には先ず、6xHis融合tyrS ORFを発現する前述のプラスミド(pCA24N-6xHis融合tyrS)を大腸菌BL21-AI株に導入し、形質転換体を調製した。そして、その形質転換体について、ゲノム上に存在する内在性のtyrSを、λred recombinaseを用いた方法によって、カナマイシン耐性遺伝子に置換した。これにより、生存に必須なTyrSは、前記プラスミドから漏洩発現される外来性のtyrSのみから供給されることが期待される。
【0096】
実際、このようにして調製したpCA24N-6xHis融合tyrS及びカナマイシン耐性遺伝子を有する形質転換体を、IPTG存在下で培養した結果、
図2に示すとおり、外来性のtyrSの発現が誘導され、当該大腸菌は死滅した(図中、右側)。一方、IPTG非存在下では、内在性のtyrSが欠損してており、更に外来性のtyrSの発現が誘導されていないにも関わらず、当該tyrSが漏洩発現することにより、その生存能は維持され、コロニーが形成された(図中、左側)。
【0097】
次に、このようにして調製したpCA24N-6xHis融合tyrS及びカナマイシン耐性遺伝子を有する形質転換体を、カナマイシン(25μg/mL)及びクロラムフェニコール(50μg/mL)を含むLB液体培地で、一夜培養した。次いで、新鮮なLB液体培地で2回洗浄した後、カナマイシンのみを含む培地で103倍に希釈し、更に24時間培養した。その培養後、106倍に希釈し、その250μLをカナマイシン(25μg/mL)を含むLB固形培地に播種した。一夜培養して生じたコロニーを、それぞれクロラムフェニコール(50μg/mL)を含むLB固形培地に播種した。そして、クロラムフェニコール耐性を指標にして、プラスミドが維持されているか調べた。また、一部を分取して再度103倍に希釈し、培養した。このような希釈培養及びプラスミド維持の検定を12回繰り返した。なお、1回の希釈培養は、約10世代に相当する。
【0098】
また、ゲノム上にtyrSを維持する親株について、同様の実験を行った。ただし、繰り返し行う希釈培養には、BL21-AIの選択マーカーであるテトラサイクリン(テトラサイクリン塩酸塩として1.25μg/mL)を含むLB液体培地を用いた。
【0099】
その結果、
図3に示すとおり、親株では、6回の希釈培養により、pCA24N-6xHis融合tyrSがほぼ完全に脱落した。しかし、ゲノム上のtyrSを欠損させた試験株では、12回の希釈培養を経ても当該プラスミドは完全に保持されていた。
以上説明したように、本発明によれば、生物学的封じ込め等に利用し得る、環境によって制御される生存能を有し、当該制御に用いられる回路(生物学的封じ込め回路等)の遺伝的安定性が高い細胞を提供することが可能となる。
したがって、本発明によれば、バイオセーフティーレベル(BSL)等で定められた物理的封じ込めを施さない環境下であったとしても、細胞の形質転換体を完全に封じ込めすることができるため、バイオ医薬品の製造等において有用である。