(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150524
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】動粘度や密度に対する表面張力を測定するシステム、および測定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 13/02 20060101AFI20220929BHJP
G01N 11/04 20060101ALI20220929BHJP
G01N 9/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N13/02
G01N11/04
G01N9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053162
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 憲児
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 伸光
(57)【要約】
【課題】微量の試料液でも測定可能な動粘度等の測定を行う方法等を提供する。
【解決手段】第一の開口部11および第二の開口部12を有し毛細管内部の半径rが特定された毛細管1と、水平方向と、毛細管1の角度が規定角度θ1となるように傾斜させて支持する載置台6と、毛細管1の内部を流動する液の流動距離Lnにおける、流動距離Lnの流動時間tnおよび/または流動距離Lnの通過速度vnを検出するためのセンサー51~55と、載置台6の第一の開口部11側に設けられ液を収容する液溜部3と、を有する測定器102と、
毛細管1内での、第一の試料液の第一の流動評価値セットPQ1を算出する第一の算出部81と、
第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する第二の算出部82を有する測定するシステム101。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の開口部および第二の開口部を有し毛細管内部の半径rが特定された毛細管と、
水平方向と、前記第一の開口部と前記第二の開口部との長さ方向の延長線とがなす角度が規定角度θ1となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Lnにおける、前記流動距離Lnの流動時間tnおよび/または前記流動距離Lnの通過速度vnを検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器と、
前記毛細管内での、前記規定角度θ1における、第一の試料液の、前記流動距離Lnと、前記流動時間tnおよび/または前記通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する第一の算出部と、
前記毛細管内部の半径rと、前記規定角度θ1と、前記第一の流動評価値セットPQ1と、重力加速度gとから、前記第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する第二の算出部と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定するシステム。
【請求項2】
第一の開口部および第二の開口部を有する毛細管と、
水平方向に対して、前記第一の開口部と前記第二の開口部との長さ方向の延長線がなす角度θ´となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Ln´における、前記流動距離Ln´の流動時間tn´および/または前記流動距離Ln´の通過速度vn´を検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器と、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、試験液の、流動距離Ln1´と、流動時間tn1´および/または通過速度vn1´から、試験液流動評価値セットPQ1´を算出する試験液算出部と、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、標準液の、流動距離Ln0´と、流動時間tn0´および/または通過速度vn0´から、標準液流動評価値セットPQ0´を算出する標準液算出部と、
前記試験液流動評価値セットPQ1´と、前記標準液流動評価値セットPQ0´との比から、前記試験液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する相対算出部と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定するシステム。
【請求項3】
前記規定角度θ1を調整する角度調整手段を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記角度θ´を調整する角度調整手段を有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記第二の開口部に接続された配管と、前記配管に接続された切替弁を有する請求項1~4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
第一の開口部および第二の開口部を有し毛細管内部の半径rが特定された毛細管と、
水平方向と、前記第一の開口部と前記第二の開口部との前記長さ方向の延長線とがなす角度が規定角度θ1となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Lnにおける、前記流動距離Lnの流動時間tnおよび/または前記流動距離Lnの通過速度vnを検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器を用いて、
前記毛細管内での、前記規定角度θ1における、第一の試料液の、前記流動距離Lnと、前記流動時間tnおよび/または前記通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する第一の算出工程と、
前記毛細管内部の半径rと、前記規定角度θ1と、前記第一の流動評価値セットPQ1と、重力加速度gとから、前記第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する第二の算出工程と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定する方法。
【請求項7】
第一の開口部および第二の開口部を有する毛細管と、
水平方向に対して、前記第一の開口部と前記第二の開口部との長さ方向の延長線がなす角度θ´となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Ln´における、前記流動距離Ln´の流動時間tn´および/または前記流動距離Ln´の通過速度vn´を検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器を用いて、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、試験液の、流動距離Ln1´と、流動時間tn1´および/または通過速度vn1´から、試験液流動評価値セットPQ1´を算出する試験液算出工程と、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、標準液の、流動距離Ln0´と、流動時間tn0´および/または通過速度vn0´から、標準液流動評価値セットPQ0´を算出する標準液算出工程と、
前記試験液流動評価値セットPQ1´と、前記標準液流動評価値セットPQ0´との比から、前記試験液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する相対算出工程と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の動粘度や、液体の密度に対する表面張力を測定するシステムに関する。また、本発明は、液体の動粘度や、液体の密度に対する表面張力を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少量のサンプルの粘度測定装置としては、EMS粘度計などが実用化されている。EMS粘度計は、最小サンプル量が300μL程度であるが、金属球とガラス容器底面の摩擦を無視できないため、比較的粘度が低い生体試料液には適さない可能性がある。
【0003】
特許文献1は、流路を流れる体液の電気伝導率および粘性を計測する体液粘性測定装置であって、前記流路に設けられ、外部の交流電源に接続される第1の導電部と、前記流路に設けられ、該流路内の前記体液を介して前記第1の導電部に電気的に接続される第2の導電部と、前記第2の導電部に接続された出力端子から出力される電気信号の大きさから前記体液の電気伝導率および粘性を算出する演算手段とを備える体液粘性測定装置を開示している。この体液粘性測定装置は、前記第1、第2の導電部が、合わせて少なくとも3つあって、それぞれ前記体液の流れに沿って前記流路の異なる位置で該体液に接触することを特徴としている。また、特許文献2も、導電部を有する粘性測定装置を開示している。
【0004】
特許文献3は、体液の粘性を計測する体液粘性測定装置において、毛細管現象による力の作用によって前記体液が流れる流路と、前記体液が前記流路に沿って移動した移動距離および該移動距離の移動に要した移動時間に基づいて回帰分析し、前記体液の粘性を導出する演算手段とを備えることを特徴とする体液粘性測定装置を開示している。また、特許文献4は、微細流路を用いた液体採取装置等を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-133918号公報
【特許文献2】特開2018-28451号公報
【特許文献3】特開2020-8342号公報
【特許文献4】特開2021-1762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血液などの粘度を測定する場合、非ニュートン流体であるため、速度依存性を測定する必要がある。また、100μL程度などの微量の測定をするものとなる。このような微量のサンプル等に対応できる技術は特許文献1~4の文献のように限られている。
【0007】
また、動粘度は、密度の影響も含む流動性の指標であるが、微量のサンプルで密度を算出することは難しい場合もある。よって、これらの生体由来の試料液などについて、動粘度の測定を行う手法は十分に提供されているとはいえない状況である。新たな動粘度を測定するための手法を提供することで、試料液に合わせた測定手法の選択の幅も広がる。
【0008】
係る状況下、本発明は、微量の試料液でも測定可能な動粘度等の測定を行うシステム等を新たに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0010】
<1> 第一の開口部および第二の開口部を有し毛細管内部の半径rが特定された毛細管と、
水平方向と、前記第一の開口部と前記第二の開口部との長さ方向の延長線とがなす角度が規定角度θ1となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Lnにおける、前記流動距離Lnの流動時間tnおよび/または前記流動距離Lnの通過速度vnを検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器と、
前記毛細管内での、前記規定角度θ1における、第一の試料液の、前記流動距離Lnと、前記流動時間tnおよび/または前記通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する第一の算出部と、
前記毛細管内部の半径rと、前記規定角度θ1と、前記第一の流動評価値セットPQ1と、重力加速度gとから、前記第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する第二の算出部と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定するシステム。
<2> 第一の開口部および第二の開口部を有する毛細管と、
水平方向に対して、前記第一の開口部と前記第二の開口部との長さ方向の延長線がなす角度θ´となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Ln´における、前記流動距離Ln´の流動時間tn´および/または前記流動距離Ln´の通過速度vn´を検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器と、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、試験液の、流動距離Ln1´と、流動時間tn1´および/または通過速度vn1´から、試験液流動評価値セットPQ1´を算出する試験液算出部と、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、標準液の、流動距離Ln0´と、流動時間tn0´および/または通過速度vn0´から、標準液流動評価値セットPQ0´を算出する標準液算出部と、
前記試験液流動評価値セットPQ1´と、前記標準液流動評価値セットPQ0´との比から、前記試験液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する相対算出部と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定するシステム。
<3> 前記規定角度θ1を調整する角度調整手段を有する、前記<1>に記載のシステム。
<4> 前記角度θ´を調整する角度調整手段を有する、前記<2>に記載のシステム。
<5> 前記第二の開口部に接続された配管と、前記配管に接続された切替弁を有する前記<1>~<4>のいずれかに記載のシステム。
<6> 第一の開口部および第二の開口部を有し毛細管内部の半径rが特定された毛細管と、
水平方向と、前記第一の開口部と前記第二の開口部との前記長さ方向の延長線とがなす角度が規定角度θ1となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Lnにおける、前記流動距離Lnの流動時間tnおよび/または前記流動距離Lnの通過速度vnを検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器を用いて、
前記毛細管内での、前記規定角度θ1における、第一の試料液の、前記流動距離Lnと、前記流動時間tnおよび/または前記通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する第一の算出工程と、
前記毛細管内部の半径rと、前記規定角度θ1と、前記第一の流動評価値セットPQ1と、重力加速度gとから、前記第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する第二の算出工程と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定する方法。
<7> 第一の開口部および第二の開口部を有する毛細管と、
水平方向に対して、前記第一の開口部と前記第二の開口部との長さ方向の延長線がなす角度θ´となるように傾斜させて前記毛細管を支持する載置台と、
前記毛細管の内部を流動する液の流動距離Ln´における、前記流動距離Ln´の流動時間tn´および/または前記流動距離Ln´の通過速度vn´を検出するためのセンサーと、
前記載置台の前記第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器を用いて、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、試験液の、流動距離Ln1´と、流動時間tn1´および/または通過速度vn1´から、試験液流動評価値セットPQ1´を算出する試験液算出工程と、
前記毛細管内での、前記角度θ´における、標準液の、流動距離Ln0´と、流動時間tn0´および/または通過速度vn0´から、標準液流動評価値セットPQ0´を算出する標準液算出工程と、
前記試験液流動評価値セットPQ1´と、前記標準液流動評価値セットPQ0´との比から、前記試験液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する相対算出工程と、を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微量の試料液でも動粘度および/または密度に対する表面張力の測定を行うことができるシステム等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の測定方法を行うための毛細管を有する流動性の第一の測定システムや第二の測定システムの概要図である。
【
図2】流動性の測定器における流動距離の逆数(1/l)と通過速度vのグラフの概念図である。
【
図3】流動性の測定器における流動距離の逆数(1/l)と通過速度vの測定例のグラフである。
【
図4】流動性の測定器における流動距離lとl・dl/dtのグラフの概念図である。
【
図5】流動時間tと流動距離の二乗(l
2)の測定例のグラフである。
【
図6】流動性の測定器における流動距離lとl・dl/dtの測定例のグラフである。
【
図7】本発明の第一の測定方法の一例を示すフロー図である。
【
図8】本発明の第二の測定方法の一例を示すフロー図である。
【
図9】本発明の実施例に用いたセンサーの構成例を示す像である。
【
図10】
図9に示すセンサーで検出される波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0014】
[本発明の第一の測定システム]
本発明の第一の測定するシステム(以下、「本発明の第一の測定システム」)は、第一の開口部および第二の開口部を有し毛細管内部の半径rが特定された毛細管と、水平方向と、第一の開口部と第二の開口部との長さ方向の延長線とがなす角度が規定角度θ1となるように傾斜させて毛細管を支持する載置台と、毛細管の内部を流動する液の流動距離Lnにおける、流動距離Lnの流動時間tnおよび/または流動距離Lnの通過速度vnを検出するためのセンサーと、載置台の第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器を有する。
【0015】
本発明の第一の測定システムは、毛細管内での、規定角度θ1における、第一の試料液の、流動距離Lnと、流動時間tnおよび/または通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する第一の算出部を有する。
【0016】
本発明の第一の測定システムは、毛細管内部の半径rと、規定角度θ1と、第一の流動評価値セットPQ1と、重力加速度gとから、第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する第二の算出部と、を有する。動粘度および/または密度に対する表面張力を測定するシステムである。
【0017】
[本発明の第二の測定システム]
本発明の第二の測定するシステム(以下、「本発明の第二の測定システム」)は、本発明の第一の測定システムと、一部共通する測定器を有する。
【0018】
本発明の第二の測定システムは、毛細管内での、角度θ´における、試験液の、流動距離Ln1´と、流動時間tn1´および/または通過速度vn1´から、試験液流動評価値セットPQ1´を算出する試験液算出部を有する。
【0019】
本発明の第二の測定システムは、毛細管内での、角度θ´における、標準液の、流動距離Ln0´と、流動時間tn0´および/または通過速度vn0´から、標準液流動評価値セットPQ0´を算出する標準液算出部を有する。
【0020】
本発明の第二の測定システムは、試験液流動評価値セットPQ1´と、標準液流動評価値セットPQ0´との比から、試験液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する相対算出部を有する。
【0021】
[本発明の第一の測定方法]
本発明の第一の測定する方法(以下、「本発明の第一の測定方法」)は、第一の開口部および第二の開口部を有し毛細管内部の半径rが特定された毛細管と、水平方向と、第一の開口部と第二の開口部との長さ方向の延長線とがなす角度が規定角度θ1となるように傾斜させて毛細管を支持する載置台と、毛細管の内部を流動する液の流動距離Lnにおける、流動距離Lnの流動時間tnおよび/または流動距離Lnの通過速度vnを検出するためのセンサーと、載置台の第一の開口部側に設けられ液を収容する液溜部と、を有する測定器を用いる。
【0022】
本発明の第一の測定方法は、毛細管内での、規定角度θ1における、第一の試料液の、流動距離Lnと、流動時間tnおよび/または通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する第一の算出工程を有する。
【0023】
本発明の第一の測定方法は、毛細管内部の半径rと、規定角度θ1と、第一の流動評価値セットPQ1と、重力加速度gとから、第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する第二の算出工程を有する。
【0024】
[本発明の第二の測定方法]
本発明の第二の測定する方法(以下、「本発明の第二の測定方法」)は、本発明の第一の測定方法と、一部共通する測定器を用いる。
【0025】
本発明の第二の測定方法は、毛細管内での、角度θ´における、試験液の、流動距離Ln1´と、流動時間tn1´および/または通過速度vn1´から、試験液流動評価値セットPQ1´を算出する試験液算出工程を有する。
【0026】
本発明の第二の測定方法は、毛細管内での、角度θ´における、標準液の、流動距離Ln0´と、流動時間tn0´および/または通過速度vn0´から、標準液流動評価値セットPQ0´を算出する標準液算出工程を有する。
【0027】
本発明の第二の測定方法は、試験液流動評価値セットPQ1´と、標準液流動評価値セットPQ0´との比から、試験液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する相対算出工程を有する動粘度および/または密度に対する表面張力を測定する方法である。
【0028】
本発明の第一の測定システムおよび発明の第二の測定システム、ならびに、本発明の第一の測定方法および発明の第二の測定方法は、いずれも、毛細管内での液の流動性を、毛細管を傾斜させた状態で測定し、その流動性に基づいて、動粘度や表面張力に係る指標を算出する。本願において、本発明の第一の測定システムおよび発明の第二の測定システムをまとめて、単に「本発明の測定システム」と記載し、本発明の第一の測定方法および本発明の第二の測定方法をまとめて、単に、「本発明の測定方法」と記載する場合がある。
【0029】
本発明の測定システムおよび本発明の測定方法によれば、微量の試料液でも動粘度や表面張力に係る指標の測定を行うことができる。なお、本願において、本発明の測定システムにより、本発明の測定方法を行うことができ、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。特に、本発明の第一の測定方法は本発明の第一の測定システムと対応し、本発明の第二の測定方法は本発明の第二の測定システムと対応する。
【0030】
[第一の実施形態]
図1~6等に基づいて、本発明の第一の測定システムや本発明の第一の測定方法に関する、第一の実施形態について説明する。
【0031】
[測定システム101]
図1は、本発明の測定方法に用いられる毛細管を有する流動性の第一の測定システムや第二の測定システムの概要図である。測定システム101は、測定器102と、第一の算出部81と、第二の算出部82と、記憶部80と、表示部91を有する。測定システム101は、測定器102を用いて測定された毛細管内での流動性に基づいて、第一の試料液の動粘度(η/ρ)や、密度に対する表面張力(σ/ρ)を算出する。
【0032】
[測定器102]
測定器102は、毛細管1と、切替弁2を有する。毛細管1は載置台6に載置される。載置台6は、毛細管の長さ方向の向きが、水平方向に対して傾斜している。載置台6は、液溜部3を有する。液溜部3には、第一の試料液が収容される。毛細管1内の流動距離における液面の通過は、基板50に配置されたセンサー51~55により検出され、その流動時間tや通過速度vは計時部59で検出される。
【0033】
[毛細管1]
毛細管1は、中空の毛細管状の微細流路を有し、微細流路の両端に、第一の開口部11と、第二の開口部12を有する。第二の開口部12は、配管21を介して切替弁2に接続されている。毛細管1は、例えば、クロマトグラフィーの試料点着用や電気生理学実験電極用などに市販されている毛細管などを用いることができる。毛細管は、親水性のマイクロ流路などの毛細管現象が生じるものを含む。
【0034】
毛細管1は、毛細管状の微細流路を有し、毛細管現象が生じる大きさの流路である。微細流路に入り込む液量やその流れは、表面張力、流路との接触角、流路の大きさなどによって決まる毛細管力や、微細流路空間内圧力、摩擦力、重力によって決まる。このような毛細管現象を利用した粘性の評価に適した微細流路の半径は、0.5mm以下程度である。
【0035】
また、本発明は、微量の液体への利用に適している。例えば、血液や唾液などの評価に適しており、これらは水を主たる媒質として含む。このような水を含むものを評価するときは、毛細管1は、親水性のものを用いて、毛細管現象が生じやすいものとすることが好ましい。また、油分を多く含むものでは、疎水性の毛細管などを用いてもよい。毛細管1は、例えば、ガラス製のものを用いることができる。
【0036】
[切替弁2]
切替弁2は、配管21を介して、第二の開口部12に接続される。また、切替弁2は、大気中への開閉を切り替える。毛細管現象は比較的速やかに進行することからも、切替弁2は、電気信号により測定開始や測定停止を瞬時に制御する事ができる電磁弁を用いることが好ましい。
【0037】
切替弁2は、液溜部に収容され、第一の開口部11から毛細管に浸入する液の流動を停止/開始を切り替えるセンサーと連動させて、流動のタイミングと測定のタイミングを連携させる。
【0038】
測定器102は、切替弁2が、電磁弁であることが好ましい。また、毛細管1の第二の開口部12の配管21より手前側に、液面の通過を検出する停止用センサーを有し、停止用センサーが液面を検出したとき、切替弁2を閉じる信号を送信し、切替弁2を閉じることで、毛細管1内で、液の流動を停止させることが好ましい。または、センサー55のように、計時用に取り付けているセンサーによる検出を、停止用のものとして併用してもよい。毛細管1は使い捨てとして、適宜取り換えながら使用できるが、配管21に液が入り込むと測定器102が汚染され、復旧作業が煩雑となる場合がある。
【0039】
また、停止用センサーが液面を検出したときに流動を停止させる信号を用いる以外にも流動開始後、一定時間経過時に流動停止させる信号を出すものとしてもよい。停止するまでの一定時間としては、毛細管の長さや液の流動速度などに応じて、適宜設定できる。例えば、10秒や、5秒、3秒、2秒のように停止する時間の上限を設定できる。
【0040】
[配管21]
毛細管1の第二の開口部12と切替弁2とは任意の手段で接続することができる。毛細管1は、使用のたびに取り換える場合があるため、この取り換えを行いやすいように、配管21として可撓性を有するチューブなどを用いて接続することが好ましい。この配管21は、疎水性のものを用いることが好ましい。一部前述したように、毛細管1は親水性のものを用いて、毛細管現象が生じやすいものとすることが好ましい。一方で、微細流路の第二の開口部12を超えて、切替弁2側まで過剰に液体が入り込まない方が好ましい。このため、配管21を疎水性チューブとすることで、配管21内で毛細管現象が生じにくくなり、第二の開口部12付近で液体が停止する。
【0041】
[液溜部3]
液溜部3は、第一の試料液を収容する。また、液溜部3に収容された第一の試料液に毛細管1の第一の開口部11が接する。
【0042】
液溜部3に収容する第一の試料液の液量は、第一の試料液の種類や粘性率や表面張力に影響する諸条件(毛細管の大きさ)等により適宜設定できるが、500μL以下や300μL以下、100μL以下、50μL以下のような範囲とすることができ、その下限も、1μL以上や、5μL以上、10μL以上のような微量の液量とすることができる。
【0043】
[樹脂チップ4]
毛細管11と液溜部3とは、樹脂チップ4に一体化させたものを用いることができる。このような樹脂チップ4とすることで、樹脂チップ4を切替えることで、毛細管11や液溜部3を容易に取り替えることができる。
【0044】
[第一の試料液]
第一の試料液は、毛細管現象が生じる任意の液体を用いることができる。この液体には、種々の成分が溶解や分散したものを用いてもよい。血液や唾液などの生体由来のサンプルを対象とすることもできる。また、乳液や、高分子溶液、粒子混濁液などを用いることもできる。
【0045】
測定器102によれば、毛細管1内の第一の試料液の流動性を測定することができる。また、毛細管1や必要に応じて配管21を取り外して容易に廃棄することができる。
【0046】
[載置台6]
載置台6は毛細管1を支持する。毛細管1や、液溜部3、センサー51~55が配列された基板50は、載置台6に設けられている。また、載置台6は、毛細管1の微細流路が所定の傾きを有するものとなるように構成されている。また、液溜部3に試料液を収容した状態で、毛細管1の第一の開口部11が試料液に接するように構成されている。
【0047】
載置台6の毛細管1の第一の開口部11側の下方には、角度調整部7が設けられている。この角度調整部7が所定の高さを有することで、毛細管1が傾くように載置台6は、毛細管1を支持している。
【0048】
[傾き]
流動性の測定システム101において、毛細管1の第一の開口部11と第二の開口部12との長さ方向の向きが、水平方向(水平面)に対して傾斜している。測定器102においては、第二の開口部12が第一の開口部11よりも鉛直方向の下側に配置される。よって、第一の開口部11から、第二の開口部12に向けて下り方向に、液は浸入する。
【0049】
なお、本発明に用いる測定器は、第二の開口部12が第一の開口部11よりも鉛直方向の上側に配置されるものとしてもよい。このとき第一の開口部11から、第二の開口部12に向けて上り方向に、液は浸入する。上り方向にする場合、角度調整部7を、第二の開口部12側に取り付けて調整したりすることができる。
【0050】
[規定角度θ1、角度θ´]
第一の測定システムおよび本発明の第一の測定方法における規定角度θ1と、発明の第二の測定システムおよび発明の第二の測定方法本発明における角度θ´を合わせて、以下、単に「角度θ」として説明する場合がある。角度θは、水平方向(水平面9)と、第一の開口部11と第二の開口部12との長さ方向の延長線とがなす角度である。角度θは、傾きの程度の指標とすることができる。角度θは、3°~45°とすることができる。特に記載がない場合、角度θは、絶対値としての値である。傾きが小さすぎる場合、重力加速度の影響が小さく、動粘度等が十分に測定できない場合がある。傾きが大きすぎる場合、流動時間が早すぎたり遅くなりすぎたり、流動できずに毛細管内で停止したしりして、測定や操作が難しい場合がある。
【0051】
角度θは、液の浸入が上り方向の場合も、下り方向の場合も、前述のような数値範囲とすることができる。なお、本願においては、上りの角度を負(マイナス)の値として、-3°~-45°のように記載する場合がある。また下りの角度を正(プラス)の値として、+3°~+45°のように記載する場合がある。角度θの絶対値は好ましくは、10°~30°や、15°~25°程度とすることができる。
【0052】
[センサー51~55、基板50]
センサー51~55は、毛細管1を流通する試料液の液面の通過を検出するセンサーである。毛細管1の内部を流動する液の流動距離における流動時間や通過速度を検出するためのものである。センサー51~55は、毛細管1の微細流路に並置して、所定の間隔で複数(
図1においては5つ)設けられている。センサー51~55が対応する位置で微細流路内の液面の通過を検出することができる。センサー51~55は基板50に配列されている。
【0053】
例えば、センサー51~55は、それぞれを光学センサーとして、微細流路内の液面の通過を検出するものとすることができる。液が微細流路内で変動するとき、その液面は液と空間中の気体との屈折率差および/または光散乱の差によって光学的手段により顕著に観察しやすい状態となる。この液面の通過の有無を、その位置に対応するそれぞれのセンサー51~55が検出することができる。
【0054】
本発明に係る測定器に用いられるセンサーには、反射式で液面の通過を検出するものや、透過式で検出するもの、ラインセンサーやエリアセンサーを用いて流動状態の情報を動画等で取得して、その動画等から流動時間や通過速度を検出するものも含まれる。
【0055】
測定器102は、センサー51~55を用いて、液の流動距離における流動時間や、流動距離における通過速度を検出する。このために、センサー51~55が液面の通過を検出した時間等を合わせて取得する計時部59を備えるものとする。
【0056】
[計時部59]
計時部59は、センサー51~55に対応する位置を液面が通過した時間(流動時間)や、その流動距離を通過したときの速度(通過速度)を測定する。計時部59は、切替弁2にも接続するものとし、切替弁2を、切り替えたことを契機として、センサー51~55での検出時間を計時する。
【0057】
センサー51~55と計時部59により、毛細管1の流動距離Ln(L1~L5)における、第一の試料液の液面が通過するまでの流動時間tn(t1~t5)や、通過速度vn(v1~v5)を測定する測定部が構成される。
【0058】
[温度]
流動性の測定にあたっては、温度を把握して行う。温度は、外部温度計や、一体化したシステムに内蔵した温度計などで測定した値を用いることができる。また、温度の管理にあたっては、測定器102を用いる室温を調整したり、測定器102を温度調整した庫内に配置したりして測定を行ってもよい。
【0059】
[第一の算出部81]
第一の算出部81は、毛細管1内での、規定角度θ1における、第一の試料液の、流動距離Lnと、流動時間tnおよび/または通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する部分である。
【0060】
[傾斜した毛細管内での液の流動性等]
傾斜した毛細管内には、毛細管力Fσ、重力Fg、および摩擦力Ffの力が働く。それぞれは、次の式で表される。
【0061】
【0062】
上記式や、本願において用いる各記号は以下である。
「η」:試料液の粘性率(mPa・s)。「σ」:試料液の表面張力(mN/m)。「α」:接触角(試料液と毛細管材料)(°)。「ρ」:試料液の密度(kg/m3)。「η/ρ」:動粘度(m2/s)。「l」:流動距離(mm)。「θ」:毛細管の角度(°)。「r」:毛細管内部の半径(mm)。「g」:重力加速度(m/s2)。「v」:通過速度(mm/s)。「t」:流動時間(s)。
【0063】
流動中のつり合いは、Fσ+Fg+Ff=0になる。そのため、鉛直方向上向きの傾斜でも、鉛直方向下向きの傾斜でも、流れがある範囲で流動性の測定ができる。
【0064】
この式から、前述の力について整理すると次の式で表される。
【0065】
【0066】
[流動距離lと通過速度vの関係]
動粘度等の算出を行うために、本発明者らは、流動距離lと通過速度vの関係について検討した。ここで、例えばガラス-水-大気の場合は接触角αが小さいためcosα≒1となり、一時的に省略できるものとして、処理すると、次の式が導出される。
【0067】
【0068】
すなわち、通過速度vは、流動距離の逆数(1/l)に傾き係数Pをかけ切片Qを加えた式で表される。
図2は、流動性の測定器における流動距離の逆数(1/l)と通過速度(v)のグラフの概念図である。なお、ここで、P、Qは、それぞれ、以下のものと合同と考えられる。
【0069】
【0070】
また、
図3は、流動性の測定器における流動距離の逆数(1/l)と通過速度vの測定例のグラフである。
図3は、
図1に示す測定器102のように、傾斜させた毛細管に、純水を流動させたときの、流動距離lと通過速度vの測定結果から、横軸は、毛細管の第一の開口部からの流動距離lの逆数である1/l、縦軸は通過速度vとした。実際に、純水の流動性を評価したとき、直線状のグラフが得られることが確認された。
【0071】
[流動距離lと流動時間tの関係]
動粘度等の算出を行うために、本発明者らは、流動距離lと流動時間tの関係について検討した。ここで、前述した力の釣り合いに関する式に基づいて、cosαを一時的に省略できるものとして、処理すると、次の式が導出される。なお、このP,Qは、前述の定義と同様に定義される。
【0072】
【0073】
すなわち、流動距離lに傾き係数Qをかけ切片Pを加えた式で表されるものは、流動距離lと流動時間tによる微分値の積(l・dl/dt)である。ここでは、傾き係数と切片のP、Qは、流動距離lと通過速度vの関係にかかる前述の式とは逆となる。
図4は、流動性の測定器における流動距離lと、l・dl/dtのグラフの概念図である。
【0074】
図5は、流動時間tと流動距離の二乗l
2の測定例のグラフである。
図1に示す測定器102のように、傾斜させた毛細管(角度:+30°)に、10%ショ糖水溶液を流動させたときの、流動距離lと流動時間tの測定結果から、横軸は流動距離lへの流動時間t、縦軸は毛細管の第一の開口部からの距離で示される流動距離lの2乗とした。この
図5のグラフは、次の回帰式で示すような二次関数となる。
【0075】
【0076】
この式の両辺をtで微分して整理すると、次の式が得られる。
【0077】
【0078】
すなわち、「l・dt/dl」は、時間tの関数として求められる。この式で、時間tをセンサー位置での流動時間とすると、lはセンサーに対応する流動距離である。
【0079】
図6は、流動性の測定器における流動距離lとl・dl/dtの測定例のグラフである。前述のtで微分して整理した式を用いて、算出し、プロットしたものである。このように、流動距離lnにおける流動時間tnを測定した値に基づいて、流動距離lと、l・dl/dtでプロットすると、傾き係数Q、切片Pの回帰式で表される。
【0080】
第一の算出部81は、このような原理や解析に基づくものである。第一の算出部81は、規定角度θ1における、第一の試料液の、流動距離Lnと、流動時間tnから、第一の試料液に係る第一の流動評価値セットPQ1を算出する。第一の流動評価値セットPQ1は、第一の試料液の傾き係数と切片の流動を評価する二つの値P、Qである。または、流動距離Lnと、通過速度vnから、第一の流動評価値セットPQ1を算出する。流動時間tnと、通過速度vnとは双方を検出できるセンサーを用いて、双方を算出対象としてもよいし、一方のみを算出するものとしてもよい。
【0081】
[第二の算出部82]
第二の算出部82は、毛細管内部の半径rと、規定角度θ1と、第一の流動評価値セットPQ1と、重力加速度gとから、第一の試料液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する部分である。
【0082】
[動粘度(η/ρ)の算出]
第一の算出部81の第一の流動評価値セットPQ1として得られた値から、動粘度(η/ρ)は次の式で表される。
【0083】
【0084】
すなわち第一の流動評価値セットPQ1における切片Qと、重力加速度gと、毛細管内部の半径r、角度θから、動粘度は算出される。このため本発明の第一の測定システムは、毛細管内部の半径rが特定された毛細管1を用いる。また、傾斜は、規定角度θ1として設定して測定する。
【0085】
[毛細管内部の半径r]
毛細管内部の半径rは、毛細管1の中空の毛細管状の微細流路の半径である。毛細管内部の半径rは、実測した値を用いてもよいし、毛細管の公称値を用いてもよい。
【0086】
[規定角度θ1]
規定角度θ1は、「水平方向」と、「第一の開口部と第二の開口部との長さ方向の延長線」とがなす角度である。この角度は、載置台6に毛細管1を配置したとき、規定角度θ1となるように傾斜させて毛細管を支持されるものとして設計して管理することができる。または、水平器や角度計を用いて実測した値を用いてもよい。
【0087】
[密度に対する表面張力(σ/ρ)]
第一の算出部81の第一の流動評価値セットPQ1として得られた値から、密度に対する表面張力(σ/ρ)には次の式が成り立つ。
【0088】
【0089】
この式から、密度に対する表面張力(σ/ρ)は、「4/r」*「P」*「η/ρ(動粘度)」で得ることができる。この値は、密度の影響を加味した表面張力の指標であり、表面張力や密度が未知の試験液を対象とするときも、微量の試料液を用いる簡易な操作で、動粘度と共に算出することができる。
【0090】
[記憶部80]
記憶部80は、本発明の測定を行う際に得られる、測定値や、各処理データを算出するための計算式、またその処理を行うためのプログラムなどを記憶した部分である。
【0091】
[表示部91]
表示部91は、測定された動粘度や密度に対する表面張力、各種条件や算出工程の回帰式などを表示するモニターである。
【0092】
測定システム101は、第一の算出部81や第二の算出部82として機能させるためのプログラムを、パーソナルコンピュータやタブレット端末、スマートフォンなどに適用することで実現することができる。また、第二の実施形態に係るものとして後述する、試験液算出部83、標準液算出部84、相対算出部85等も同様である。
【0093】
[測定フロー(1)]
図7は、本発明の第一の測定方法の一例を示すフロー図である。この測定フローは、第一の実施形態に係る測定器を用いて行うことができる。ステップS11は、規定角度θ1となるように載置台6に毛細管1を載置するものである。ステップS21は、液溜部3に第一の試料液を収容し、第一の開口部11に第一の試料液を接触させた状態で、切替弁2を大気圧に開放することで開始するものであり、規定角度θ1で第一の試料液を毛細管1内に流動させるものである。ステップS31は、毛細管1での第一の試料液の流動中に、流動距離Ln(L1~L5)に対応して配置したセンサー51~55で、流動時間tn(t1~t5)や、通過速度vn(v1~v5)を測定する。ステップS41は、ステップS31で測定した値に基づいて、第一の流動評価値セットPQ1を算出する。ステップS51は、このPQ1や、毛細管内部の半径r、規定角度θ1から、第一の試料液の動粘度η/ρや、密度に対する表面張力σ/ρを算出する。これにより、第一の試料液の動粘度等を得ることができる。ステップS61は、得られた動粘度等の結果を表示する。
【0094】
[第二の実施形態]
図1~
図6、
図8に基づいて、本発明の第二の測定システムや本発明の第二の測定方法に関する第二の実施形態について説明する。
【0095】
第二の実施形態は、第一の実施形態に用いる
図1の測定システム101を用いて、第一の実施形態と一部共通する操作等により行うことができる。第二の実施形態は、第一の実施形態の第一の算出部81および第二の算出部82に代えて、試験液算出部83、標準液算出部84、および相対算出部85を用いる構成である。
【0096】
第二の実施形態は、規定角度θ1の具体的な角度や毛細管内部の半径rが不明であっても、標準液を用いることで、試験液の動粘度等を得るものである。
【0097】
第一の実施形態において説明した第一の試料液の第一の流動評価値セットPQ1と同様に、試験液流動評価値セットPQ1´と、標準液流動評価値セットPQ0´が得られる。試験液のP、QをそれぞれQn、Pnとし、標準液についてはQm、Pmとする。また、試験液の動粘度をηn/ρn、密度に対する表面張力をσn/ρnとする。また、標準液の動粘度をηm/ρm、密度に対する表面張力をσm/ρmとする。これらを比較すると、以下のように整理できる。
【0098】
【0099】
【0100】
すなわち、試験液流動評価値セットPQ1´と標準液流動評価値セットPQ0´を求めて、その比および、既知である標準液の動粘度や、密度に対する表面張力を用いて、試験液の動粘度や、密度に対する表面張力を算出することができる。
【0101】
[試験液算出部83]
試験液算出部83は、毛細管内での、角度θ´における、試験液の、流動距離Ln1´と、流動時間tn1´および/または通過速度vn1´から、試験液流動評価値セットPQ1´を算出する。この算出は、第一の算出部81における第一の試料液に代えて、第二の実施形態の測定対象とする試験液を用いて、第一の算出部81に準じる処理により行うことができる。この試験液流動評価値セットPQ1´は、例えば、次の式のように得られる。
【0102】
【0103】
[試験液]
試験液は、第一の試料液と同様に毛細管現象が生じる任意の液体を用いることができる。この液体には、種々の成分が溶解や分散したものを用いてもよい。血液や唾液などの生体由来のサンプルを対象とすることもできる。また、乳液や、高分子溶液、粒子混濁液などを用いることもできる。
【0104】
[標準液算出部84]
標準液算出部84は、毛細管内での、角度θ´における、標準液の、流動距離Ln0´と、流動時間tn0´および/または通過速度vn0´から、標準液流動評価値セットPQ0´を算出する。この算出は、第一の算出部81における第一の試料液に代えて、第二の実施形態の標準液を用いて、第一の算出部81に準じる処理により行うことができる。この標準液算出を行うために、載置台6の液溜部3に、標準液を収容し、測定を行った結果を用いる。なお、標準液と試験液とは、いずれを先に測定を行ってもよい。また、一方を測定した後に、毛細管を洗浄して測定を行ってもよいし、同様の毛細管内部の半径rと角度θ´となる仕様の毛細管に差し替えて測定を行ってもよい。
【0105】
この標準液流動評価値セットPQ0´は、例えば、次の式のように得られる。
【0106】
【0107】
[標準液]
標準液は、動粘度や、密度、表面張力が既知のものを用いる。比較的動粘度が低い、生体試料液などの低粘度の試料液を測定対象の試験液とする場合、例えば、水などを標準液とすることができる。例えば、純水の20℃における表面張力は、72.8(mN/m)である。また、純水の20℃における動粘性率は、1.0×10-6(m2/s)である。また、σ/ρは、72.9×10-6(m3/s2)である。
【0108】
[相対算出部85]
試験液流動評価値セットPQ1´と、標準液流動評価値セットPQ0´から、試験液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出する。前述の式のように、試験液と、標準液との比を用いれば、標準液の動粘度および/または密度に対する表面張力から、試験液の標準液の動粘度および/または密度に対する表面張力を算出することができる。また、毛細管内部の半径rが試験液と標準液で異なる場合には、毛細管内部の半径rに応じて補正を行う。
【0109】
[測定フロー(2)]
図8は、本発明の第二の測定方法の一例を示すフロー図である。この測定フローは、第一の実施形態に係る測定器を用いて行うことができる。ステップS12は、角度θ´の載置台6に配置した毛細管1で、試験液を測定し、試験液流動評価値セットPQ1´を得るものである。ステップS22は、角度θ´の載置台6に配置した毛細管1で、標準液を測定し、標準液流動評価値セットPQ0´を得るものである。ステップS12とステップS22とは、その順序を逆にしてもよいし、測定器102を並置して同時に行ってもよい。ステップS32は、標準液流動評価値セットPQ0´と試験液流動評価値セットPQ1´を用いて、既知である標準液の動粘度等に基づいて、試験液の動粘度等を得るものである。ステップS42は、得られた試験液の動粘度等の結果を表示するものである。
【0110】
[本発明の経緯や応用例等]
本発明は、粘性等に係る指標の評価を行う際の測定方法と、それに合わせた新たな解析手法により、動粘度と、密度に対する表面張力の同時測定を実現するものである。本発明によれば、相対動粘度だけでなく、具体的に数値化した動粘度も測定可能になる。なお、前述の構成は各発明の実施形態の一例である。これらは、例えば、毛細管の断面は、円や楕円、半円、扇形、多角形、また、これらを組み合わせたものを用いることができるように、適宜、他の開示内容を援用して実施してもよい。
【実施例0111】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
本発明の第二の測定方法(測定システム)に係る測定として、次の測定を行った。
・標準液:純水を用いた。
・試験液:ショ糖濃度30質量%の純水との混合物(30%ショ糖水溶液)を用いた。
測定温度は21℃±0.5℃である。
【0113】
・毛細管内部の半径rが0.34mm(公称値)の毛細管を用いた。ただし第二の測定方法では毛細管内部の半径rは不要なため、この値は結果の算出には用いていない。
・傾斜:sinθが0.45となる、角度θ´が+26.7°となるように載置台の傾きを調整した。
【0114】
図9に示すように、各流動距離に対応させるペアのセンサーを配置し、それぞれのペア毎のセンサーの流動時間差(パルス時間差)とそれぞれのペア毎のセンサー間距離から、そのペア中央でのみなし通過速度をそれぞれ算出した。このペアのセンサーからは、
図10のような波形が得られるが、それぞれのペアの波形毎に中央に干渉波形が現れるため、上流側のピークと、下流側のピークから、通過時間を算出する。なお、
図9に示す矢印方向に沿って流動させているため、
図10に示す各ペアのセンサーの波形情報は、
図9の左側からそれぞれ1ペア目、2ペア目、3ペア目、4ペア目のセンサーの波形情報である。
【0115】
表1は、純水を測定したときの実測値である。また、
図3は、この測定結果に基づいて、流動評価値セットPQ0′を算出するためのプロットをしたグラフである。sinθが0.45、毛細管内部の半径rが0.34mmの条件で、純水については、次の式が得られた。
v=0.0036 * 1/l +0.1013
すなわち、Pは0.0036(m
2/s)であり、Qは0.1013(m/s)である。
【0116】
【0117】
同様に、30%ショ糖水溶液の測定も行った。純水と、30%ショ糖水溶液のP、Qを、表にまとめる。
【0118】
【0119】
表2に示す、P、Qを用いて、各試料液の動粘度(η/ρ)、密度に対する表面張力(σ/ρ)を、以下のように比較・検証を行った。
【0120】
動粘度の比:前述の結果に基づく純水の動粘度に対する、30%ショ糖水溶液の動粘度の比(30%ショ糖水溶液/純水)は、2.94だった。文献値に基づく21℃での比は、2.79のため、文献値に相当する比が得られた。
【0121】
密度に対する表面張力の比:前述の結果に基づく純水のσ/ρに対する、30%ショ糖水溶液のσ/ρの比(30%ショ糖水溶液/純水)は、0.873だった。文献値に基づく21℃での比は、0.88のため、文献値に相当する比が得られた。