(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150707
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】アミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法、一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する方法、組成物、及びキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20220929BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220929BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20220929BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6869
C12Q1/6876
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053424
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】510060844
【氏名又は名称】学校法人電子開発学園
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】山本 万里
(72)【発明者】
【氏名】西平 順
(72)【発明者】
【氏名】勝山 豊代
(72)【発明者】
【氏名】上島 希実
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩二
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS10
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】ApoE4遺伝子のみに主眼が置かれた方法以外に、アルツハイマー型認知症の発症前の初期段階においても、アルツハイマー型認知症を発症しやすいというリスクを判定する方法を提供すること。
【解決手段】被験者由来の核酸におけるヒト染色体領域8q24.3上の一塩基多型(SNP)rs4907405の存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来の核酸におけるヒト染色体領域8q24.3上の一塩基多型(SNP)rs4907405の存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法。
【請求項2】
前記一塩基多型(SNP)は、rs4907405におけるAアレルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者は、50歳未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
被験者由来の核酸における下記一塩基多型(SNP)(a)~(d)のうち少なくとも1つの存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法。
(a)ヒト染色体領域2p22.2上のrs17019641
(b)ヒト染色体領域3q27.1上のrs12493550
(c)ヒト染色体領域8q24.3上のrs4907405
(d)ヒト染色体領域20q13.31上のrs74792644
【請求項5】
前記一塩基多型(SNP)(a)のリスクアレルは、Gであり、
前記一塩基多型(SNP)(b)のリスクアレルは、Aであり、
前記一塩基多型(SNP)(c)のリスクアレルは、Aであり、
前記一塩基多型(SNP)(d)のリスクアレルは、Cであり、
前記リスクアレルは、SNPサイトにおいて、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団におけるアミロイドβと関連する疾患又は状態の発症と特に関係が深いAβ1-42及びAPP669-711の2つの値をスケーリングしてスコア化したComposite Biomarker値の平均値を求めて比較するとき、Composite Biomarker値の平均値との正の相関がもう一方のホモ接合型よりも高いことを示すホモ接合型を構成するアレルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記被験者は、50歳以上である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記被験者は、アポリポプロテインE遺伝子タイプ4(ApoE4遺伝子)を保有しない、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記一塩基多型(SNP)の存在を、前記一塩基多型(SNP)が非存在である場合と比較して前記被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが高いことの指標とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記一塩基多型(SNP)の非存在を、前記一塩基多型(SNP)が存在する場合と比較して前記被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが低いことの指標とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アミロイドβ蓄積リスクは、アミロイドβが蓄積していること又はアミロイドβが蓄積するリスクがあることである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アミロイドβ蓄積リスクは、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の発症前又は早期段階におけるアミロイドβ蓄積リスクである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記疾患が、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー型認知症(AD)、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型)、脳血管アミロイドアンギオパチー、及びグアムパーキンソン認知症複合からなる群から選択される神経障害又は進行性核上性麻痺、多発性硬化症、封入体筋炎(IBM)、クロイツフェルト-ヤコブ病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、封入体筋炎(IBM)、成人発症型糖尿病(2型糖尿病)、老人性心アミロイドーシス、内分泌腫瘍、緑内障、眼アミロイドーシス、原発性網膜変性、黄斑変性、視神経ドルーゼン、視神経症、視神経炎、又は格子状異栄養である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の発症についての前記被験者のリスクを測定ないし発見するためのもの、前記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を前記被験者において発見するためのもの、前記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を有する被験者を選択するためのもの、前記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を予防又は治療するための摂取物に対する前記被験者の反応を測定、評価ないしモニタリングするためのもの、あるいは、前記被験者における前記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の経過を測定、評価ないしモニタリングするためのものである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する検出工程を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法に用いるための、前記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する方法。
【請求項16】
前記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在は、走査型プローブ及びナノ細孔DNA配列決定、ピロシーケンシング、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、時間温度勾配電気泳動(TTGE)、Zn(II)-サイクレンポリアクリルアミドゲル電気泳動、均一蛍光PCR系単一ヌクレオチド多型分析、リン酸-アフィニティポリアクリルアミドゲル電気泳動、ハイスループットSNP遺伝子型判定プラットフォーム、分子ビーコン、5’ヌクレアーゼ反応、Taqmanアッセイ、MassArray(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析と組み合わせた単一塩基プライマー伸長)、トリチル質量タグ、遺伝子型判定プラットフォーム(Invader Assay(登録商標)など)、単一塩基プライマー伸長(SBE)アッセイ、PCR増幅(例えば、磁気ナノ粒子(MNP)上でのPCR増幅)、PCR産物の制限酵素分析(RFLP法)、アレル特異的PCR、マルチプライマー伸長(MPEX)、等温スマート増幅、PCR-SSCP(一本鎖DBA高次構造多型解析)法、シークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、及び、RNAseA切断法からなる群より選択される少なくとも1つを含む技術によって検出される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法に用いるための組成物であって、該組成物は、前記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、組成物。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであって、該キットは、前記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、キット。
【請求項19】
前記試薬が、オリゴヌクレオチド、DNAプローブ、RNAプローブ、及びリボザイムから選択される、請求項17に記載の組成物又は請求項18に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法、一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する方法、組成物、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は高齢化率が増えるのに従って発症リスクが高まる疾病である。世界の認知症患者は、2017年で4700万人いるとされ、2030年に7500万人、2050年に1億3100万人に増えると予想されている。また、認知症の増加で医療・介護給付費が2030年に2兆ドル(世界)、2025年に10.7兆円(日本)に達する可能性が指摘されている。日本は全人口における認知症有病率が2.33%であり、OECD加盟国(1.48%)のうちで最も高い割合となっている。
【0003】
日本の認知症の中では、アルツハイマー型(アルツハイマー病;AD)が50%、レビ-小体型が20%、血管性が15%、その他が15%であり、最多割合を占めるアルツハイマー型認知症の治療、予防が特に重要である。
【0004】
認知症の前段階に適切な予防/治療をすることで認知機能が回復する軽度認知障害(MCI)という状態があり、この段階で改善できれば認知症の発症タイミングを遅延させることができることがわかっている。MCIから認知症に進展する人の割合は年平均で10%、5年間で約40%と言われている。また、MCIで適切な処置をすれば16-41%の人が回復することが日本神経学会、認知症疾患診療ガイドライン2017に示されている。そのため、認知症を早期発見して、予防対策することが強く求められている。
【0005】
認知症の検査・診断としては、記憶や言語のテスト、血液検査、脳画像検査(CT、MRI)、脳血流SPECT(シンチグラフィ)検査、ドパミントランスポータシンチグラフィ(発現量の低下を検査)、MIBG心筋シンチグラフィ検査(心筋交感神経検査)などが実施されている。しかしながら、MCIの診断方法や、発症前や初期段階等のより早期の段階における検査・診断方法は限られている。
【0006】
一般的に、アルツハイマー型認知症の発症には先天的要因である遺伝要因と後天的要因である環境要因の両方が関与する。
【0007】
アルツハイマー型認知症の感受性遺伝子としては、最も広く知られているのはアポリポプロテインE遺伝子タイプ4(ApoE4遺伝子)であり、日本では、全集団の10%程度がApoE4遺伝子を保有する。ApoE4遺伝子を保有する群では、保有しない群と比較して60歳代以降においてアミロイドβ(Aβ)蓄積量に明確な差異が生じ、認知症発症リスクが高まることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jansen WJ et al. Prevalence of cerebral amyloid pathology in persons without dementia: a meta-analysis. JAMA 313, 1924-1938, (2015). [PubMed: 25988462]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アルツハイマー型認知症を発症しやすい健常者を判別して予防措置を行えば、認知症患者を大幅に減少させられるので、発症リスクの高い健常者の判別法や予防食品の開発が強く期待されている。
【0010】
アルツハイマー型認知症では、脳内でのアミロイドβ蓄積が顕著に認められる。アルツハイマー型認知症は脳にアミロイドβが蓄積し、神経原繊維が変化し、記憶を司る海馬が縮小して起こるという「アミロイドカスケード仮説」が支持されている。
【0011】
アミロイドβ蓄積は、臨床的な認知症が出現する約20年前から始まることが知られており、蓄積の初期段階での予防が望まれる。アルツハイマー型認知症が、徐々に脳内にアミロイドβが蓄積する発症前期間を経て発症に至ることを勘案すると、発症前初期段階に関与する遺伝要因を特定することが重要である。
【0012】
しかしながら、従来行われてきた遺伝要因からのアルツハイマー型認知症予防は、ApoE4遺伝子のみに主眼が置かれることが多く、ApoE4遺伝子以外の遺伝要因については、報告がなされてはいるが、検証が進んでいなかった。
【0013】
そこで、本発明は、ApoE4遺伝子のみに主眼が置かれた方法以外に、アルツハイマー型認知症の発症前の初期段階においても、アルツハイマー型認知症を発症しやすいというリスクを判定する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、アルツハイマー型認知症の発症前の段階から広く認められるアミロイドβ蓄積に着目し、アルツハイマー型認知症の発症前の初期段階においてアミロイドβ蓄積に差異をもたらす遺伝的素因を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0015】
[1] 被験者由来の核酸におけるヒト染色体領域8q24.3上の一塩基多型(SNP)rs4907405の存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法。
[2] 上記一塩基多型(SNP)は、rs4907405におけるAアレルである、上記[1]に記載の方法。
[3] 上記被験者は、50歳未満である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
【0016】
[4] 被験者由来の核酸における下記一塩基多型(SNP)(a)~(d)のうち少なくとも1つの存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法。
(a)ヒト染色体領域2p22.2上のrs17019641
(b)ヒト染色体領域3q27.1上のrs12493550
(c)ヒト染色体領域8q24.3上のrs4907405
(d)ヒト染色体領域20q13.31上のrs74792644
【0017】
[5] 上記一塩基多型(SNP)(a)のリスクアレルは、Gであり、
上記一塩基多型(SNP)(b)のリスクアレルは、Aであり、
上記一塩基多型(SNP)(c)のリスクアレルは、Aであり、
上記一塩基多型(SNP)(d)のリスクアレルは、Cであり、
前記リスクアレルは、SNPサイトにおいて、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団におけるComposite Biomarker(コンポジット・バイオマーカー)値の平均値を求めて比較するとき、Composite Biomarker値の平均値との正の相関がもう一方のホモ接合型よりも高いことを示すホモ接合型を構成するアレルである、上記[4]に記載の方法。なお、Composite Biomarker値とは、アミロイドβの中でもMCIやアルツハイマー型認知症その他の認知症等のアミロイドβと関連する疾患又は状態の発症と特に関係が深いAβ1-42及びAPP669-711の2つの値をスケーリングしてスコア化した値を表す。
【0018】
[6] 上記被験者は、50歳以上である、上記[4]又は[5]に記載の方法。
[7] 上記被験者は、アポリポプロテインE遺伝子タイプ4(ApoE4遺伝子)を保有しない、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
[8] 上記一塩基多型(SNP)の存在を、上記一塩基多型(SNP)が非存在である場合と比較して上記被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが高いことの指標とする、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9] 上記一塩基多型(SNP)の非存在を、上記一塩基多型(SNP)が存在する場合と比較して上記被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが低いことの指標とする、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
[10] 上記アミロイドβ蓄積リスクは、アミロイドβが蓄積していること又はアミロイドβが蓄積するリスクがあることである、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11] 上記アミロイドβ蓄積リスクは、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の発症前又は早期段階におけるアミロイドβ蓄積リスクである、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の方法。
【0021】
[12] 上記疾患が、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー型認知症(AD)、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型)、脳血管アミロイドアンギオパチー、及びグアムパーキンソン認知症複合からなる群から選択される神経障害又は進行性核上性麻痺、多発性硬化症、封入体筋炎(IBM)、クロイツフェルト-ヤコブ病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、封入体筋炎(IBM)、成人発症型糖尿病(2型糖尿病)、老人性心アミロイドーシス、内分泌腫瘍、緑内障、眼アミロイドーシス、原発性網膜変性、黄斑変性、視神経ドルーゼン、視神経症、視神経炎、又は格子状異栄養である、上記[11]に記載の方法。
【0022】
[13] 上記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の発症についての上記被験者のリスクを測定ないし発見するためのもの、上記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を上記被験者において発見するためのもの、上記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を有する被験者を選択するためのもの、上記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を予防又は治療するための摂取物に対する上記被験者の反応を測定、評価ないしモニタリングするためのもの、あるいは、上記被験者における上記アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の経過を測定、評価ないしモニタリングするためのものである、上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
[14] 上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する検出工程を含む、上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
[15] 上記[1]~[14]のいずれか一項に記載の方法に用いるための、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する方法。
[16] 上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在は、走査型プローブ及びナノ細孔DNA配列決定、ピロシーケンシング、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、時間温度勾配電気泳動(TTGE)、Zn(II)-サイクレンポリアクリルアミドゲル電気泳動、均一蛍光PCR系単一ヌクレオチド多型分析、リン酸-アフィニティポリアクリルアミドゲル電気泳動、ハイスループットSNP遺伝子型判定プラットフォーム、分子ビーコン、5’ヌクレアーゼ反応、Taqmanアッセイ、MassArray(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析と組み合わせた単一塩基プライマー伸長)、トリチル質量タグ、遺伝子型判定プラットフォーム(Invader Assay(登録商標)など)、単一塩基プライマー伸長(SBE)アッセイ、PCR増幅(例えば、磁気ナノ粒子(MNP)上でのPCR増幅)、PCR産物の制限酵素分析(RFLP法)、アレル特異的PCR、マルチプライマー伸長(MPEX)、等温スマート増幅、PCR-SSCP(一本鎖DBA高次構造多型解析)法、シークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、及び、RNAseA切断法からなる群より選択される少なくとも1つを含む技術によって検出される、上記[14]又は[15]に記載の方法。
【0025】
[17] 上記[1]~[14]のいずれか一項に記載の方法に用いるための組成物であって、該組成物は、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、組成物。
【0026】
[18] 上記[1]~[14]のいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであって、該キットは、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、キット。
[19] 上記試薬が、オリゴヌクレオチド、DNAプローブ、RNAプローブ、及びリボザイムから選択される、上記[17]に記載の組成物又は[18]に記載のキット。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ApoE4遺伝子による方法以外に、アルツハイマー型認知症の発症前の初期段階において、アルツハイマー型認知症を発症しやすいというリスクを判定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1の50歳未満かつApoE4遺伝子非保有集団の結果を示す図である。
【
図2】実施例1の50歳以上かつApoE4遺伝子非保有集団の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
<アミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法1>
本発明の第一の態様は、被験者由来の核酸におけるヒト染色体領域8q24.3上の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism;SNP)rs4907405の存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法である。
【0031】
本発明の第一の態様の方法は、アルツハイマー型認知症等の疾患又は状態の発症前の段階から広く認められるアミロイドβ蓄積に着目し、アルツハイマー型認知症等の疾患若しくは状態の発症前又は早期段階(初期段階や、MCIを含む。)においてアミロイドβ蓄積に差異をもたらす遺伝的素因ないし遺伝要因を判定する方法ともいえ、被験者におけるアミロイドβ蓄積に差異をもたらす遺伝的素因ないし遺伝要因の有無から、アミロイドβ蓄積リスクの有無を判定することができる。
【0032】
アミロイドβは、脳内で生成する前駆体タンパク質APPの部分断片であり、βセクレターゼ及びγセクレターゼによる連続した切断によって産生、分泌される。40個前後のアミノ酸で構成され、多数のペプチドが存在するが、その中でも、Aβ1-40、Aβ1-42及びそれらの前駆体であるAPP669-711がアルツハイマー病変を検出する良好な血液バイオマーカーであることが知られている。
【0033】
アミロイドβと関連する疾患又は状態は、アミロイドβの脳内蓄積量と相関する可能性が高いとされ、脳内のアミロイドβの蓄積は、例えば、血中アミロイドβの量の測定により推測することができる。血中アミロイドβの量は、例えば、Composite Biomarker(コンポジット・バイオマーカー)値により推測することができる。本発明の第一の態様の方法は、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を、アミロイドβ蓄積リスクの有無及び/又はComposite Biomarker値と相関させることを含むものであってもよい。
【0034】
本明細書において、上記アミロイドβ蓄積リスクは、アミロイドβが蓄積していること又はアミロイドβが蓄積するリスクがあることを意味する。
本発明の第一の態様の方法は、例えば、アミロイドβの蓄積が始まっているが、蓄積がまだ微量であること等により、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の発症前又は早期段階(初期段階や、MCIを含む。)にある被験者について、アミロイドβと関連する疾患又は状態の発症リスクの有無を発見することができる。また、本発明の第一の態様の方法は、遺伝要因(の有無)を判定することができることから、特に、アミロイドβの蓄積が無いか、又は、少なくともアミロイドβの蓄積をまだ示していない若しくはアミロイドβの蓄積が検出されない被験者についても、アミロイドβが蓄積するリスクの有無を判定することができる。従って、本発明の第一の態様の方法は、アミロイドβと関連する疾患又は状態の早期予防の点で大きな意義がある。その点で、上記アミロイドβ蓄積リスクとしては、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の発症前又は早期段階におけるアミロイドβ蓄積リスクをも判定することができる。
【0035】
本発明の第一の態様の方法は、具体的には、上記一塩基多型(SNP)が存在する被験者について、上記一塩基多型(SNP)が存在しない被験者と比較して、該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが高いことの指標とすることができ、即ち、アミロイドβ蓄積リスクが高いと判定することができる。
また、上記一塩基多型(SNP)が存在しない被験者について、上記一塩基多型(SNP)が存在する被験者と比較して、該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが低いことの指標とすることができ、即ち、アミロイドβ蓄積リスクが低いと判定することができる。
【0036】
上記ヒト染色体領域8q24.3上の一塩基多型(SNP)rs4907405について、詳細は後述の表1に示す。本明細書において、該rs4907405を、「ヒト染色体領域8q24.3上のSNP」と略記することがある。後述の実施例1に示すとおり、上記ヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)の対立遺伝子はG/Aである。
【0037】
本発明の第一の態様の方法は、具体的には、ヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)におけるAアレルの存在又は非存在を被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とすることができる。具体的には、上記ヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)におけるAアレルが存在する被験者について、該ヒト染色体領域8q24.3上のSNPにおけるAアレルが存在しない又は該SNPにおいてGアレルである被験者と比較して、該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが高いことの指標とすることができ、即ち、アミロイドβ蓄積リスクが高いと判定することができる。また、ヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)におけるAアレルが存在しない又は該SNPにおいてGアレルである被験者について、該ヒト染色体領域8q24.3上のSNPにおけるAアレルが存在する被験者と比較して、該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが低いことの指標とすることができ、即ち、アミロイドβ蓄積リスクが低いと判定することができる。
【0038】
本明細書において、ヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)におけるAアレルのように、そのSNPサイトにおいて他の対立遺伝子が存在する場合に比較して、被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが高いことの指標とすることができるアレルは、リスクアレルともいう。「リスクアレル」は、SNPサイトにおいて、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団におけるComposite Biomarker値の平均値を求めて比較するとき、Composite Biomarker値の平均値との正の相関がもう一方のホモ接合型よりも高いことを示すホモ接合型を構成するアレルである。例えば、ヒト染色体領域8q24.3上のSNPの場合、A/A、A/G、G/Gの3つの遺伝子型のうち、A/A型をもつ集団とG/G型をもつ集団を比較したときに、Composite Biomarker値との正の相関がA/A型をもつ集団の方が高く、A/A遺伝子型を構成するAアレルのことをリスクアレルという。
【0039】
ApoE4遺伝子保有の有無がアミロイドβ蓄積量に影響することが既知であるが、被験者がApoE4遺伝子非保有者であっても、ヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)は、被験者の年齢を問わず、該SNPの存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とすることができ、被験者は何歳であってもよく、例えば、40歳以上、45歳以上、50歳以上、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上等であってもよいし、40歳未満、45歳未満、50歳未満、55歳未満、60歳未満、65歳未満、70歳未満等であってもよいが、アミロイドβ蓄積リスクの早期発見の観点で、50歳未満である場合に特に有意義である。また、被験者は、性別ないし男女を問わず、男性であってもよいし、女性であってもよい。
【0040】
被験者由来の核酸としては、特に限定されず、例えば、被験者から採取した被験者由来の生物学的サンプルないし生体試料からの核酸抽出物であってよい。生物学的サンプルないし生体試料としては、核酸が取得可能であれば特に限定されず、例えば、血液、血清、唾液、痰、汗、涙、精液、脳脊髄液等の体液試料;口腔細胞、頬スワブ等の粘膜剥離物、涙腺分泌物、組織検体等の体組織試料等が挙げられる。
【0041】
本発明の第一の態様の方法は、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する検出工程を含むものであってもよく、該検出工程を含むものである場合、具体的には、該検出工程により得られる検出結果に基づき、ヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)の存在又は非存在を決定することができる。
【0042】
上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在は、走査型プローブ及びナノ細孔DNA配列決定、ピロシーケンシング、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、時間温度勾配電気泳動(TTGE)、Zn(II)-サイクレンポリアクリルアミドゲル電気泳動、均一蛍光PCR系単一ヌクレオチド多型分析、リン酸-アフィニティポリアクリルアミドゲル電気泳動、ハイスループットSNP遺伝子型判定プラットフォーム、分子ビーコン、5’ヌクレアーゼ反応、Taqmanアッセイ、MassArray(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析と組み合わせた単一塩基プライマー伸長)、トリチル質量タグ、遺伝子型判定プラットフォーム(Invader Assay(登録商標)など)、単一塩基プライマー伸長(SBE)アッセイ、PCR増幅(例えば、磁気ナノ粒子(MNP)上でのPCR増幅)、PCR産物の制限酵素分析(RFLP法)、アレル特異的PCR、マルチプライマー伸長(MPEX)、等温スマート増幅、PCR-SSCP(一本鎖DBA高次構造多型解析)法、シークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、及び、RNAseA切断法からなる群より選択される少なくとも1つを含む技術によって検出することができ、例えば、上記SNPを含む1個以上の一塩基多型(SNP)の遺伝子型のタイピング(ジェノタイピング)等であってもよい。
【0043】
アミロイドβと関連する疾患又は状態としては、認知症、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(オランダ型)、脳血管アミロイドアンギオパチー、及びグアムパーキンソン認知症複合からなる群から選択される神経障害又は進行性核上性麻痺、多発性硬化症、封入体筋炎(IBM)、クロイツフェルト-ヤコブ病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、封入体筋炎(IBM)、成人発症型糖尿病(2型糖尿病)、老人性心アミロイドーシス、内分泌腫瘍、緑内障、眼アミロイドーシス、原発性網膜変性、黄斑変性、視神経ドルーゼン、視神経症、視神経炎、又は格子状異栄養等が挙げられる。上記認知症としては、典型的には、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病;AD)等が挙げられる。なかでも、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病;AD)等の認知症が好適であり、軽度認知障害(MCI)が望ましい。
【0044】
即ち、本発明の第一の態様は、上述のとおり、上記一塩基多型(SNP)の有無を、アミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法であるが、具体的には、該一塩基多型(SNP)の有無を、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー型認知症(AD)等の認知症その他の上記疾患若しくは状態等の、アミロイドβと関連する疾患又は状態を被験者が発症している又は将来発症するリスクがあることの指標とすることができる方法である。
【0045】
本発明の第一の態様の方法は、例えば、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態の発症についての健常者等の被験者のリスクを測定、発見(早期発見を含む)、決定ないし判断するためのもの、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を被験者において決定、判断ないし発見(早期発見を含む)するためのもの、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を有する被験者を選択(ないしスクリーニング)するためのもの、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を予防又は治療するための摂取物(例えば、食品、サプリメント、医薬品)に対する被験者の反応(例えば、摂取物により該予防又は治療の効果があるかどうか)を測定、評価ないしモニタリングするためのもの、あるいは、被験者におけるアミロイドβと関連する疾患若しくは状態の経過(投薬等の治療開始後を含む。)を測定、評価ないしモニタリングするためのものとして、それぞれ好適である。
【0046】
本発明の第一の態様の方法は、後述の実施例1のように健常者ないし臨床的な認知症等が出現していない者を対象とすることができ、従って、被験者には、将来的にアルツハイマー型認知症を発症する者、つまり該方法を適用する時点でアルツハイマー型認知症発症前早期段階の者と、将来的にアルツハイマー型認知症発症に至らない者とを含めることができる。これらの被験者が混在するような集団であっても、本発明により統計学的にアミロイドβ蓄積リスクが高まると結論づけることができるSNPを検出できたことから、産業的にも、例えば集団検診や個々人の健診等において、アミロイドβ蓄積リスクの有無の判定に利用できるSNPであると言える。本発明を用いることにより、被験者が早期にアミロイドβを蓄積しやすいタイプであるか否かを判定することができ、また、アミロイドβ蓄積の予防のための対策を早期に講じる必要がある者を特定することができる。本発明の方法は、アミロイドβと関連する疾患若しくは状態を診断する方法、事前診断する方法、これら診断を支援ないし補助する方法等としても好適である。
【0047】
また、上記SNPは、これまで遺伝要因からの予防について見地が得られにくかったApoE遺伝子非保有集団において利用可能なSNPであることから、産業的利用価値も大きい。特にヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)は、ApoE遺伝子非保有集団や該集団に属する被験者について、本発明の第一の態様の方法を利用する際の被験者の年齢を限定することなく適用可能である。
【0048】
<アミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法2>
本発明の第二の態様は、被験者由来の核酸における下記一塩基多型(SNP)(a)~(d)のうち少なくとも1つの存在又は非存在を該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とする方法である。
(a)ヒト染色体領域2p22.2上のrs17019641
(b)ヒト染色体領域3q27.1上のrs12493550
(c)ヒト染色体領域8q24.3上のrs4907405
(d)ヒト染色体領域20q13.31上のrs74792644
【0049】
上記SNP(a)~(d)について、詳細は後述の表1に示す。本明細書において、上記SNP(a)~(d)をそれぞれ、「SNP(a)」又は「ヒト染色体領域2p22.2上のSNP」、「SNP(b)」又は「ヒト染色体領域3q27.1上のSNP」、「SNP(c)」又は「ヒト染色体領域8q24.3上のSNP」、「SNP(d)」又は「ヒト染色体領域20q13.31上のSNP」と略記することがある。上記SNP(c)は、上述の本発明の第一の態様の方法におけるヒト染色体領域8q24.3上のSNP(rs4907405)と同一である。
【0050】
後述の実施例1に示すとおり、上記各SNPについて以下のとおりである。
上記SNP(a)の対立遺伝子はC/Gであり、リスクアレルはGであり、非リスクアレルはCである。
上記SNP(b)の対立遺伝子はG/Aであり、リスクアレルはAであり、非リスクアレルはGである。
上記SNP(c)の対立遺伝子はG/Aであり、リスクアレルはAであり、非リスクアレルはGである。
上記SNP(d)の対立遺伝子はT/Cであり、リスクアレルはCであり、非リスクアレルはTである。
【0051】
本発明の第二の態様の方法は、具体的には、上記SNP(a)~(d)のうち少なくとも1つにおけるリスクアレルの存在又は非存在を被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクの有無の指標とすることができる。具体的には、上記SNP(a)~(d)のうち少なくとも1つにおけるリスクアレルが存在する被験者について、該上記SNP(a)~(d)のうち少なくとも1つにおけるリスクアレルが存在しない又は該SNPにおいて非リスクアレルである被験者と比較して、該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが高いことの指標とすることができ、即ち、アミロイドβ蓄積リスクが高いと判定することができる。また、上記SNP(a)~(d)のうち少なくとも1つにおけるリスクアレルが存在しない又は該SNPにおいて非リスクアレルである被験者について、該上記SNP(a)~(d)のうち少なくとも1つにおけるリスクアレルが存在する被験者と比較して、該被験者におけるアミロイドβ蓄積リスクが低いことの指標とすることができ、即ち、アミロイドβ蓄積リスクが低いと判定することができる。
【0052】
本発明の第二の態様の方法において、本発明の第一の態様の方法について上述した事項を適用することができる。
【0053】
本発明の第二の態様の方法は、被験者が50歳以上である場合、及び/又は、被験者がApoE4遺伝子を保有しないApoE4遺伝子非保有者である場合、特に有効であり、なかでも、被験者が50歳以上かつApoE4遺伝子非保有者である場合、とりわけ有効である。また、被験者は、性別ないし男女を問わず、男性であってもよいし、女性であってもよい。
【0054】
<SNPの存在又は非存在を検出する方法>
本発明の第一及び/又は第二の態様の方法に用いるための、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する方法もまた、本発明の一つであり、本発明の第三の態様である。
上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する方法としては、本発明の第一の態様の方法について上述した、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を検出する検出工程ないし、該工程における検出方法を適用することができる。
【0055】
<組成物>
本発明の第四の態様は、本発明の第一及び/又は第二の態様の方法に用いるための組成物であって、該組成物は、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、組成物である。
【0056】
上記試薬としては、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を直接又は間接的に検出することができるものであれば特に限定されず、例えば、公知の試薬を用いることができ、例えば、オリゴヌクレオチド、DNAプローブ、RNAプローブ、及びリボザイムから選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0057】
<キット>
本発明の第五の態様は、本発明の第一及び/又は第二の態様の方法に用いるためのキットであって、該キットは、上記一塩基多型(SNP)の存在又は非存在を直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、キットである。
上記試薬としては、本発明の第四の態様の組成物について上述したものを用いることができる。キットとしては、上記試薬を含むものであれば特に限定されず、例えば、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、遺伝子チップ等であってもよい。
【実施例0058】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1
474名の健常者(ヒト)を対象として、下記概要の手順に従って試験・解析した。対象者(被験者)のこれら健常者は、軽度認知障害(MCI)の患者を含み得るが、認知症とは診断されていない。
1)被験者より生体試料を収集する。
2)上記生体試料に存在するゲノム由来のDNAを抽出する。
3)上記DNAに含まれる一塩基多型(SNP)のアレルを検出する。
4)上記SNPアレルの組み合わせにより、早期アミロイドβ蓄積タイプを判定する。
【0060】
1.アミロイドβの量の測定
被験者の血漿に、抗アミロイドβモノクローナル抗体を結合した磁気ビーズを処理した後、免疫沈降(IP)を行い、アミロイドβを磁気ビーズから溶出した後、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)によりAβ1-40、Aβ1-42及びそれらの前駆体であるAPP669-711の3種のペプチドを測定し、APP669-711/Aβ1-42及びAβ1-40/Aβ1-422種のバイオマーカー値を算出した。それぞれの値をz-score化(データセットの値を平均値=0、標準偏差=1になるよう変換した値)して大きくスケールの異なる値をスケーリングした後、平均化した値をComposite Biomarker値として算出した。
【0061】
2.遺伝子型の測定
被験者から血液を採取して、常法に従い、DNAを抽出・増幅し、該DNAを「ジャポニカアレイ(登録商標)」(遺伝子多型解析用アレイ、東北大学 東北メディカル・メガバンク機構製)にかけて、各対象者の遺伝子多型を検出した。なお、この「ジャポニカアレイ(登録商標)」は、日本人の大規模ゲノム解析の成果に基づいて作製された、約66万個の一塩基多型(SNP)が搭載された遺伝子多型解析用アレイである。また、ApoE4遺伝子の多型は、プローブPCR法によって検出した。
【0062】
3.Composite Biomarker値と相関のある遺伝子の同定
上記「ジャポニカアレイ(登録商標)」を用いて検出した約66万個の一塩基多型(SNP)マーカーについて品質管理を実施し、クオリティコントロールとして、ジェノタイピングの成功率が0.99未満のSNPs、歪んだハーディー・ワインベルク平衡(Hardey-Weinberg equilibrium)のp値(HWE:p<1.0×106)を有するSNPs、および0.01未満のマイナーアレル頻度(MAF)の15308個のSNPsを除外後、関連解析に使用した。クオリティコントロールを通過した合計643,607個のSNPsとComposite Biomarker値との関連についてPLINK1.9(http://pngu.mgh.harvard.edu/purcell/plink/)を用いGWAS解析を行った。GWAS解析の結果、ヒト染色体領域2p22.2、ヒト染色体領域3q27.1、ヒト染色体領域8q24.3、ヒト染色体領域20q13.31に存在する計4個のSNPsが有意なゲノムワイド水準(p<1.0×10-5)を満たし、Composite Biomarker値との有意な関連を示した。
【0063】
ヒト染色体領域2p22.2上のSNPは、rs17019641 C/Gであり、アルツハイマー型認知症発症やアミロイドβ蓄積との関連については既知ではない。
ヒト染色体領域3q27.1上のSNPは、rs12493550 G/Aであり、アルツハイマー型認知症発症やアミロイドβ蓄積との関連については既知ではない。
ヒト染色体領域8q24.3上のSNPは、rs4907405 G/Aであり、アルツハイマー型認知症発症やアミロイドβ蓄積との関連については既知ではない。
ヒト染色体領域20q13.31上のSNPは、rs74792644 T/Cであり、アルツハイマー型認知症発症やアミロイドβ蓄積との関連については既知ではない。
これらの4つのSNPsの詳細を下記表1に示す。
【0064】
【0065】
4.早期アミロイドβ蓄積に関与する遺伝子の同定
4.1 50歳未満集団
GWAS解析に用いた上記474名について、50歳未満に該当する187名を選出した。ApoE4遺伝子保有の有無がアミロイドβ蓄積量に影響することが既知であるため、上記187名分を、上記プローブPCR法を用いて検出したApoE4遺伝子保有の有無によりさらに分割した。50歳未満かつApoE4遺伝子保有者は45名、50歳未満かつApoE遺伝子非保有者は142名となった。
【0066】
50歳未満かつApoE4遺伝子非保有集団に対し、ヒト染色体領域2p22.2、ヒト染色体領域3q27.1、ヒト染色体領域8q24.3、ヒト染色体領域20q13.31上の上記SNPサイトにおいて、Composite Biomarker値と遺伝子型分布についてのオッズ比(Odds ratio)を計算するとともに、Pearsonのカイ2乗検定を行った。なお、Composite Biomarker値については、Composite Biomarker値0以上(Case)、Composite Biomarker値0未満(Control)の2グループとして比較した。
【0067】
図1に、Composite Biomarker値に対し、統計学的に優に高い関連度を有するものとして抽出した各SNPについて、マイナー型に係るオッズ比の順に、p値と配列の情報を示す。表中の数は人数を表す。なお、メジャー型かマイナー型のうち、リスクが高い方のアレル型(リスクアレル)は表1においてそれぞれ右側であり、即ち、下記のとおりであった。
(a)ヒト染色体領域2p22.2上のrs17019641のリスクアレル:G
(b)ヒト染色体領域3q27.1上のrs12493550のリスクアレル:A
(c)ヒト染色体領域8q24.3上のrs4907405のリスクアレル:A
(d)ヒト染色体領域20q13.31上のrs74792644のリスクアレル:C
【0068】
図1に示すように、50歳未満かつApoE4遺伝子非保有集団においては、ヒト染色体領域8q24.3上の上記SNPについて、Composite Biomarker値0以上かつAAの対立遺伝子を持つ被験者では、オッズ比=9.62、95%CI(1.25、74.06)、Pearson Χ(カイ)2乗検定で算出されたp値=0.001であった。
【0069】
よって、p<0.05を示すSNPsサイトはヒト染色体領域8q24.3上の上記SNPサイトのみであり、ApoE4遺伝子非保有かつ50歳未満集団でアミロイドβ蓄積リスク判定に有効なSNPsサイトはヒト染色体領域8q24.3上の上記SNPサイト(rs4907405)であると結論付けた。
【0070】
4.2 50歳以上集団
GWAS解析に用いた上記474名について、50歳以上に該当する287名を選出し、上記50歳未満集団と同様に、ApoE4遺伝子保有の有無によりさらに分割した。50歳以上かつApoE4遺伝子保有者は65名、50歳以上かつApoE遺伝子非保有者は222名となった。
50歳以上かつApoE4遺伝子非保有集団について、上記50歳未満かつApoE4遺伝子非保有集団と同様に解析した結果を
図2に示す。
【0071】
図2に示すように、50歳以上かつApoE4遺伝子非保有集団については、以下のことがわかった。
ヒト染色体領域2q22.2上のSNPについて、Composite Biomarker値0以上かつGの対立遺伝子(リスクアレル)を持つ被験者では、オッズ比=2.73、95%CI(1.25、6.01)、Pearson Χ(カイ)2乗検定で算出されたp値=0.01であった。
ヒト染色体領域3q27.1上のSNPについて、Composite Biomarker値0以上かつAの対立遺伝子(リスクアレル)を持つ被験者では、オッズ比=3.39、95%CI(1.32、8.71)、Pearson Χ(カイ)2乗検定で算出されたp値=0.01であった。
ヒト染色体領域8q24.3上のSNPについて、Composite Biomarker値0以上かつAの対立遺伝子(リスクアレル)を持つ被験者では、オッズ比=2.83、95%CI(1.12、7.14)、Pearson Χ(カイ)2乗検定で算出されたp値=0.02であった。
ヒト染色体領域20q13.31上のSNPについて、Composite Biomarker値0以上かつCの対立遺伝子(リスクアレル)を持つ被験者では、オッズ比=6.64、95%CI(1.57、28.09)、Pearson Χ(カイ)2乗検定で算出されたp値<0.001であった。
【0072】
以上のとおり、上記4つのSNPsサイト全てがp<0.05を示したことから、いずれもアミロイドβ蓄積リスク判定に有効であると結論付けた。
【0073】
5.考察
アルツハイマー型認知症発症への強い影響を持つApoE4遺伝子を持たない健常者かつ50歳未満の集団において、ヒト染色体領域8q24.3上のSNPにより、アミロイドβ蓄積の起こりやすさを判定することができた。
また、ApoE4遺伝子を持たない健常者かつ50歳以上の集団において、ヒト染色体領域2q22.2上のSNP、ヒト染色体領域3q27.1上のSNP、ヒト染色体領域8q24.3上のSNP、及びヒト染色体領域20q13.31上のSNPにより、アミロイドβ蓄積の起こりやすさを判定することができた。