(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150851
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】混合粉体の偏析防止方法及び混合粉体の作製方法
(51)【国際特許分類】
B01F 23/60 20220101AFI20220929BHJP
G01N 33/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B01F3/18
G01N33/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053638
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 元彬
【テーマコード(参考)】
4G035
【Fターム(参考)】
4G035AB48
4G035AE01
(57)【要約】
【課題】複数種の粉体を混合した混合粉体における混合比の変動を抑制するための偏析防止方法及び混合粉体作製方法を提供する。
【解決手段】第1の粉体と第2の粉体を含む混合粉体における混合比の変動を抑制する偏析防止法であって、第1の粉体の粒径及び密度と、第1の粉体とは密度の異なる第2の粉体の粒径及び密度とを設定し、設定された第1粉体の粒径及び密度と第2粉体の粒径及び密度とから離散要素法を用いて第1粉体及び第2粉体の挙動解析を行い、第1粉体及び第2粉体の複数位置における第1粉体及び第2粉体の偏析度合いを算出し、偏析度合いから第1粉体の粒径または第2粉体の粒径の少なくとも一方を決定する。挙動解析シミュレーションにより、偏析の少ない混合粉体にするための粉体の粒径を決定することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の粉体を含む混合粉体における混合比の変動を抑制する偏析防止方法であって、
前記各粉体の粒径及び密度を設定し、
設定された前記粉体のいずれか一つの粒径及び密度とその他の粉体の粒径及び密度とから前記各粉体の挙動解析を行い、
前記各粉体の複数の位置における前記各粉体の偏析度合いを算出し、
前記偏析度合いから前記各粉体の粒径を決定する
ことを特徴とする混合粉体の偏析防止方法。
【請求項2】
前記粉体の粒径及び密度を設定するに際し、
第1の粉体の粒径及び密度と、該第1の粉体とは密度の異なる第2の粉体の粒径及び密度とを設定し、
設定された前記第1粉体の粒径及び密度と前記第2粉体の粒径及び密度とから前記第1粉体及び前記第2粉体の挙動解析を行い、
前記第1粉体及び前記第2粉体の複数の位置における当該第1粉体及び当該第2粉体の偏析度合いを算出し、
前記偏析度合いから前記第1粉体の粒径または前記第2粉体の粒径の少なくとも一方を決定する
ことを特徴とする請求項1記載の混合粉体の偏析防止方法。
【請求項3】
前記挙動解析に離散要素法を用いる
ことを特徴とする請求項1または2記載の混合粉体の偏析防止方法。
【請求項4】
前記混合粉体を供給槽に輸送する場合において、
前記混合粉体の偏析度合いは、前記供給槽の高さ方向における複数の位置での偏析度合いで算出する
ことを特徴とする請求項1,2または3記載の混合粉体の偏析防止方法。
【請求項5】
前記混合粉体を空気輸送する場合において、
前記混合粉体の偏析度合いは、前記空気輸送に用いる配管における長手方向の複数の位置での偏析度合いで算出する
ことを特徴とする請求項1,2または3記載の混合粉体の偏析防止方法。
【請求項6】
少なくとも密度の異なる2種以上の粉体からなる混合粉体の作製方法であって、
前記密度の異なる粉体の粒径は請求項1記載の方法を用いて決定する
ことを特徴とする混合粉体の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合粉体の偏析防止方法及び混合粉体の作製方法に関する。混合対象の粉体にはあらゆる産業分野で用いられる粉体が含まれ、複数種の粉体の混合比の変動を抑制する目的のためなら、どのような技術分野においても本発明の適用が可能である。
【背景技術】
【0002】
従前より種々の産業分野において、コンテナに複数種以上の粉体を混合した混合粉体を貯蔵させ、次工程に供給することがなされてきた。
複数種の粉体を一定比率で混合した混合粉体は、各粉体の比重や粒径が互いに異なるとき、移送やハンドリングの際に混合比の変動が生じやすい。混合比が変ってしまうと、その混合粉体を用いた最終物品の物性が変って、所望の性能、機能を果せないことがある。
【0003】
たとえば、特許文献1の接合構造体では、金属粒子と、その結晶成長を抑制する抑制粒子とを混合して得られるが、その混合比は、接合強度に影響する。
特許文献2の複合造滓材では、Mg含有物質とCa含有物質との混合比は1:1から4:1の間とされているが、この混合比が外れると複合造滓材の物性が変ってくる。
特許文献3のボンド磁石では、磁石材料のフェライト系磁性材料粉体と希土類系磁性材料粉体との混合比が重量比で95:5~40:60とされているが、この混合比を外れると、磁石性能が変ってくる。
【0004】
上記のように、複数種の粉体の混合比は、混合粉体の性能発揮上重要な因子である。しかるに混合時に適正な混合比を得ていたとしても、その後における製造工程や移送工程中に混合粉体の混合比が変動することがある。この混合比の変動を抑制することについては、前記特許文献1~3のいずれにも記載されていない。
【0005】
上記問題を解決しようとする従来技術として特許文献4がある。特許文献4には、機械的な偏析防止装置が開示されている。この装置は、貯槽の上部から内部において昇降自在に吊設され、内壁面にほぼ内接する板状の投入部材に、適宜間隔を置いて複数個の投入用貫通孔を設け、槽上部から連通する導管によって粉体を供給し、槽内の底面近くから満槽状態まで、常に堆積面に近接して粉体を投入するようにした粉体貯槽内の偏析防止投入装置である。
しかし、特許文献4の偏析防止投入装置の場合、粉体供給装置が高さ方向に移動する装置であるため非常に大がかりで精度も要求されるため既存の装置への適用性が劣るという問題がある。
【0006】
上記従来技術に類似する機械的な偏析防止装置では、分散板の導入や内部への混合装置の導入など様々なタイプがあるが、追加装置が必要であったり、場合によっては装置が巨大化したりすることから、とくに既存の施設へそのまま適用することが難しい。また設備の追加や大形化は設備費が増大する点に加えて、ランニングコストの増大も見込まれるため導入が難しい場合もある。
【0007】
一方で、混合粉体の偏析は混合される粉体の粒径や比重、粉体の混合比によって生じることが知られており、スケールアップした装置に実際に適用する前には、実機での試行が必要になってくる。しかし、スケールアップ後の装置の大きさや混合対象となる粉体の種類などハンドリングの良さなどに影響されて試行回数が制限されてしまう。ゆえに、偏析を生じない粒径や比重の選定を正確に行い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-162919号公報
【特許文献2】特開2005-82839号公報
【特許文献3】特開平10-223421号公報
【特許文献4】特開昭49-135363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、複数種の粉体を混合した混合粉体における混合比の変動を抑制するための混合粉体の偏析防止方法及び混合粉体の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の混合粉体の偏析防止方法は、複数種の粉体を含む混合粉体における混合比の変動を抑制する偏析防止方法であって、前記各粉体の粒径及び密度を設定し、設定された前記粉体のいずれか一つの粒径及び密度とその他の粉体の粒径及び密度とから前記各粉体の挙動解析を行い、前記各粉体の複数の位置における前記各粉体の偏析度合いを算出し、前記偏析度合いから前記各粉体の粒径を決定することを特徴とする。
第2発明の混合粉体の偏析防止方法は、第1発明において、前記粉体の粒径及び密度を設定するに際し、第1の粉体の粒径及び密度と、該第1の粉体とは密度の異なる第2の粉体の粒径及び密度とを設定し、設定された前記第1粉体の粒径及び密度と前記第2粉体の粒径及び密度とから前記第1粉体及び前記第2粉体の挙動解析を行い、前記第1粉体及び前記第2粉体の複数の位置における当該第1粉体及び当該第2粉体の偏析度合いを算出し、前記第1粉体の粒径または前記第2粉体の粒径の少なくとも一方を決定することを特徴とする。
第3発明の混合粉体の偏析防止方法は、第1発明または第2発明において、前記挙動解析に離散要素法を用いることを特徴とする。
第4発明の混合粉体の偏析防止方法は、第1発明,第2発明または第3発明において、前記混合粉体を供給槽に輸送する場合において、前記混合粉体の偏析度合いは、前記供給槽の高さ方向における複数の位置での偏析度合いで算出することを特徴とする。
第5発明の混合粉体の偏析防止方法は、第1発明,第2発明または第3発明において、前記混合粉体を空気輸送する場合において、前記混合粉体の偏析度合いは、前記空気輸送に用いる配管における長手方向の複数の位置での偏析度合いで算出することを特徴とする。
第6発明の混合粉体の作製方法は、少なくとも密度の異なる2種以上の粉体からなる混合粉体の作製方法であって、前記密度の異なる粉体の粒径は請求項1記載の方法を用いて決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、複数種の粉体の挙動解析シミュレーションにより、偏析の少ない混合粉体にするための粉体の粒径を決定することができる。また、実機による試行を行うことなく、偏析防止に効果的な粒径を決定することができる。
第2発明によれば、2種の粉体の挙動解析シミュレーションにより、偏析の少ない混合粉体にするための粉体の粒径を決定することができる。また、実機による試行を行うことなく、偏析防止に効果的な粒径を決定することができる。
第3発明によれば、実機による試行実験によることなく、離散要素法によるシミュレーションによって、偏析防止に有効な粒径を決定することができる。
第4発明によれば、供給槽の高さ方向の複数位置で偏析度合いが分るので、混合粉体を供給槽に供給する際の偏析を防止できる粒径を決定することができる。
第5発明によれば、空気輸送に用いる配管における長手方向複数位置で偏析度合いが分るので、混合粉体を空気輸送する際の偏析を防止できる粒径を決定することができる。
第6発明によれば、密度の異なる2以上の粉体に対しても、偏析の少ない粒径を決定することができるので、混合比に偏りの少ない混合粉体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係わる混合粉体の偏析防止方法における第1手法のフロー図である。
【
図2】本発明に係わる混合粉体の偏析防止方法における第2手法のフロー図である。
【
図3】
図2に示すステップ51の詳細フロー図である。
【
図4】実施例で使用した供給槽60を示す図である。
【
図5】比重の異なる粉体を混合した場合のシミュレーション結果を示す図(写真)である。
【
図6】
図5(a)に示す実施例の偏析度合を示す供給槽内の状態模式図である。
【
図7】比重の異なる粉体を混合した場合の偏析度合を示すグラフである。
【
図8】離散要素法または個別要素法(DEM)に係わる原理の説明図である。
【
図9】DEMによるシミュレーションを行う前の前処理の説明図である。
【
図10】DEMによるシミュレーションの処理手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪本発明の技術原理≫
本発明は、混合粉体の偏析は混合される粉体の粒径や比重の違いによって生じる現象を利用している。
粉体の粒径調整をする場合、粉体にかかる重力と抗力の比を考慮するとよい。粉体粒子にかかる流体からの抗力Dは、粉体の断面積Aに比例する。断面積Aは粉体粒径rの2乗に比例するので、以下のようになる。
D=α×A=α×π×r2・・・(式1)
一方、粉体にかかる重力Gは粒子密度dと粒径rの3乗に比例する。
G=β×d×r3・・・(式2)
抗力Dと重力Gについて、混合対象となる粉体同士で略等しい場合は、どちらの粉体の挙動も略等しくなるため、より偏析の少ない混合粉体となる。
ここで、抗力Dの重力Gに対する比は
G/D=(β×d×r3)/(α×π×r2)
=(β/απ)×(dr)・・・(式3)
である。
したがって各粉体の粒径または密度を適宜調整することによって、より偏析が少ない混合粉体が得られる。これが、本発明の技術原理である。
【0014】
本発明の偏析防止方法では、粉体の挙動解析が用いられる。
挙動解析には、どのようなシミュレーション手段を用いてもよい。シミュレーションすることにより実機による試行実験を行うことなく、簡便に偏析を生じにくい粉体の粒径を決定することができる。
挙動解析に用いるシミュレーション手段としては、粉体毎の挙動を解析する離散要素法(Discrete Elements Method; DEM)が好適である。なお、個別要素法(Distinct Elements Method; DEM)は離散要素法の別名であり、どちらも不連続体の運動を解く解析手法であるため、以下、単にDEMと称する。
【0015】
粉体の挙動は、供給槽(例えばホッパー)の形状や粉体の供給速度などによっても異なる。従って、混合対象となる複数の粉体について、粒径または密度の候補を設定して挙動解析した結果を比較することが好ましい。以下、粒径調整ができる粉体を前提に説明するが、変更可能な場合は密度を変更してもよい。例えば、比重が同じでも粒径が異なると、ミューズリー効果、ブラジルナッツ効果と呼ばれる影響によって偏析する場合がある。複数の候補を設定し、挙動解析結果を比較し、より適切な粒径、比重を決定する。
なお、DEMを用いたシミュレーションの詳細は後述する。
【0016】
≪偏析防止方法≫
本発明の偏析防止方法は、2種の粉体に限らず、2種以上を含む複数種の粉体の偏析防止に適用できる。
第1発明および第2発明とも、偏析防止方法としての第1手法と第2手法のいずれも用いることができる。第1手法は
図1に示されており、第2手法は
図2に示されている。
【0017】
(2種の粉体を対象とする偏析防止方法)
まず、2種の粉体を対象とする偏析防止方法を説明する。また、
図1に基づいて第1手法を用いる偏析防止のための粉体の粒径決定方法を説明する。
ここでは混合粉体を供給槽の上部から供給することを前提に説明をする。供給槽は円筒形状で、底部に粉体排出口を有するものを想定して説明するが、多角形でもよいし、例えば角形ホッパーなどに粉体を供給する場合でもよい。底部の排出口は開閉可能で、貯留槽としての役割を兼ねるものである。
【0018】
(1)
図1に基づき、第1手法に係る偏析防止方法を説明する。
以下の説明は、供給槽に供給される第1の粉体と第2の粉体とからなる2種の混合粉体における、混合比の変動を抑制する偏析防止法である。ここで、混合比とは、2種類以上の異なった性質の物質を混ぜ合わせる割合をさし、本実施形態では粒子数比を前提に記載するが、重量比(質量比)等を用いてもよい。重量比を用いる場合には、各粉体の密度等から換算すればよい。
【0019】
(ステップ1)
まず、混合対象となる粉体の物性値を仮設定する。物性値とは、例えば密度(真密度)、粒子数、粒径である。
密度は比重でもよい。混合する2つの粉体は異なる密度または比重をもつ。粉体の粒子の数は、たとえば供給槽等への供給量、混合される二つの粉体の比率、真密度、及び設定した粒径から粒子数を算出して用いてもよい。
【0020】
(ステップ2)
つぎに、供給槽の大きさまたは容量、粉体の供給量に関する情報、粉体と供給槽の壁面との摩擦係数または反発係数、及び粉体同士の反発係数を、粉体の物性値と共に利用してDEMによるシミュレーションを行う。
供給槽の大きさまたは容量、粉体の供給量は、量の変動可否を含めて予め用意しておいたものを利用してもよいし、粉体の物性値等を設定する際に同様に設定してもよい。
【0021】
(ステップ3)
DEMによるシミュレーションの結果から、粉体粒子の偏析度合いを算出する。
ここで偏析度合いとは、解析対象となる供給槽内における、2種の粉体の粒子数比率の変動をいう。具体的には、各粉体の粒子の位置をシミュレーション結果から得て、例えば供給槽の高さ方向における複数の高さ位置で粒子数比率を算出する。より具体的には、供給槽の中心軸に垂直に交わる面(円筒の横断面)を複数カ所設定し、各横断面位置での粒子数を算出して互いを比較する。その最大比率と最少比率を比較してもよいし、複数の粒子数比率から偏差平方和や分散を算出してもよい。
【0022】
また、DEMによるシミュレーションの結果は粒子の位置をプロットして表示することも可能なため、上述の偏析度合いとともに最終の位置情報を表示させてもよい。たとえば、対象とした粉体が、供給槽の壁面と中心軸付近とで偏析が多くみられるような場合には、偏析度合いを算出する際に、中心軸と供給槽とに平行する縦断面で複数断面を設定し算出するように変更してもよい。また、対象の供給槽内を格子状に分けてもよく、位置情報の結果をもとに所望の領域に分けなおし、偏析度合いを算出すればよい。
【0023】
(ステップ4)
つぎに、算出した偏析度合いを用いて混合粉体に適した粉体の粒径を決定する。
たとえば、供給槽の高さ方向における複数の高さ位置で粒子数比率を算出した場合、その分散を用いればよい。粒子数比率に正規化した比率を算出しておけば、分散値を例えば5%以下などと設定することも可能になる。分散値が所望の閾値以下になれば、ステップ1において設定した粉体の粒径が異なる2種の粉体を供給する場合に適した粒径を意味することになる。
【0024】
(第1手法の効果)
上記の挙動解析により、偏析の少ない混合粉体にするための2種の粉体の粒径を決定することができる。そして、実機による試行を行うことなく、偏析防止に効果的な粒径を決定することができる。
【0025】
(2)
図2に基づき第2手法に係る偏析防止方法を説明する。
実際に供給している異なる2種類の粉体の偏析があることがわかっている場合は、混合する粉体の粒径の候補を複数用意して粉体の粒径を選定してもよい。
図2は複数の粒径候補を用いた場合の処理手順フローを示した図である。
図1とは複数の粒子径候補を選定する(ステップ51)のみが異なる。
【0026】
まず、混合対象となる粉体の物性値、たとえば密度(真密度)、粒子数を設定する(ステップ1)。つぎに、粒径を変更したい粉体の粒径の候補を複数設定する(ステップ51)。粉体の粒径を設定する場合、必ずしも粒径の調整が容易ではない場合もある。このため、2種類ある粉体の粒径のどちらが変更可能かという情報(変更可否設定)を付したり、粒径の変更可能な最大値、最小値、変更可能な値の幅、等を設定したりしてもよい。
【0027】
図2に示すステップ51の詳細を
図3に基づき説明する。
ステップ51で変更可能な粉体の粒径を一つ設定した後(ステップ501)、予め決められた倍率で粒径の候補を少なくとも2つ以上作り(ステップ502)、混合粉体の挙動解析を行う。あらかじめ決められた倍率とは、たとえば現時点での粉体の粒径r1に対して、2倍の粒径(r2)と1/2の粒径(r3)を設定するようにする。仮に、粉体1は粒径を変更せず、粉体2の粒径(r1)の変更を検討する場合、現状の粒径r1を取得したのち、候補として2×r1と1/2r1の粒径をそれぞれ候補として設定した後、挙動解析する。ここではDEMによるシミュレーショを行う(ステップ503)。混合した粉体粒子の偏析度合いを算出し(ステップ504)、偏析度合いが所望の度合いとあっていない場合には粉体粒子r1を再設定する(ステップ505)。例えば、r1の半分の粒径r3を新たなr1として設定し、再計算させてもよい。偏析度合いが所望の値が範囲に含まれれば、再計算はしない。r2及びr3の結果からより偏析度合いの少ない粒径を選択する(ステップ506)。
【0028】
なお、上記はナビエ・ストークスのモデルを前提に、レイノルズ数1000以下での混合粉体を前提としているが、供給槽中の雰囲気は層流、乱流等の条件を加味してモデル等を入れかえてもよい。例えばGidaspowモデル、Wen-yuモデルなどを用いてもよい。
【0029】
(第2手法の効果)
上記の挙動解析により、偏析の少ない混合粉体にするための2種の粉体の粒径を決定することができる。そして、実機による試行を行うことなく、偏析防止に効果的な粒径を決定することができる。
【0030】
(複数種の粉体を対象とする偏析防止方法)
つぎに、複数種の粉体を対象とする偏析防止方法を説明する。以下の説明において「複数種」とは、3種以上の粉体を意味する。
この偏析防止方法は、複数種の粉体を含む混合粉体における混合比の変動を抑制する偏析防止方法であって、以下のステップからなる
(a)前記各粉体の粒径及び密度を設定し、
(b)設定されたいずれか一つの粉体の粒径及び密度とその他の粉体の粒径及び密度とから前記各粉体の挙動解析を行い、
(c)前記各粉体複数の位置における前記各粉体の偏析度合いを算出し、
(d)前記偏析度合いから前記各粉体の粒径を決定する。
【0031】
上記において、ステップ(b)の挙動解析は、どのようなシミュレーション手段を用いてもよいが、以下ではDEMを用いた例を説明する。
DEMによる解析は、複数種すべての粒子を含んだ同時計算でもよく、複数種の粒子のうち少なくとも2種の粒子を選び、それらの組み合わせを複数回に分けて順次計算してもよい。
【0032】
DEM計算時に粒子間の相互作用力に関する設定を増やす必要があるが、運動エネルギー等が等しいと仮定したときの計算は変わらないので、3種以上の粉体もDEM計算ができる。
2種の粉体を対象とする場合、相互作用に関する設定は1つを設定しているが、3種類では3つ必要となる。
これは、N種類(n個)の場合に、nから2つを選んでくる組み合わせで算出されるので、nC2=n×(n-1)/2分の設定を増やすことで対応できる。
【0033】
具体的には、以下のとおりである。
3種類の粉体の粒径、密度をそれぞれ(r1、d1)、(r2、d2)、(r3、d3)とした場合に、r1×d1≒r2×d2≒r3×d3を基準とするので、例えば(r1、d1)に合わせるように計算すると、
r2=(r1×d1)/d2
r3=(r1×d1)/d3
で候補とすべきそれぞれの粉体の粒径は設定が可能である。
一般的に、密度は変えられないことが多く、密度d1、d2、d3が一定なため、r2、r3を決めることができる。しかし、必ずしも前述のr2、r3といった粒径に調整とは限らない。従って、r2、r3を候補として挙動解析を行い、いくつか偏析度合いを確認する、という手順でシミュレーションする。
【0034】
一方、順次計算は、2種の粉体に適用される解析を順次に行うものである。その考え方は、第1の粉体および第2の粉体の粒径を上述の手順に従って仮設定した後、第3の粉体の粒径を第1発明の手法を適用すれば適切な粒径を求めることができる、というものである。第1の粉体および第2の粉体の粒径の仮設定は偏析度合が許容範囲内のものでなければならない。
【0035】
以上のように、シミュレーションを繰り返せば、粉体が3種であっても、4種以上であっても、適切な粒径を決定することができる。
上記の挙動解析により、偏析の少ない混合粉体にするための複数の粉体の粒径を決定することができる。また、実機による試行を行うことなく、偏析防止に効果的な粒径を決定することができる。
【0036】
(密度の異なる粉体への適用)
混合粉体が、密度の異なる2種以上の粉体からなる場合でも、本実施形態による偏析防止方法を適用することによって、偏析防止に好適な粉体粒径を決定することができる。なぜなら、技術原理で説明したように、各種粉体の抗力Dと重力Gの比を管理値としているが、この管理値は粒径rと密度dを共にパラメータとしている。従って、複数種あるうちの一種を基準粒子として選び、基準粒子の粒径および密度から得られるパラメータを基準値として算出し、基準値に合わせこむようにその他の粉体の粒径および密度をそれぞれ調整すればいいからである。
したがって、本発明に係わる混合粉体の偏析防止方法によれば、金属粒子、薬剤、トナー、調味料などの食品類の混合など、とくに比重差の異なる粉体であっても、それを混合した場合に偏析が少ない混合粉体として取り扱うことが可能になる。
≪DEM≫
本発明で用いられる粉体の挙動解析シミュレーション手段としてのDEMを以下に説明する。
DEMによる粉体挙動シミュレーション自体は公知の手法であり、たとえば、特開2011-81530号公報に開示されている。その概要を以下に示す。
DEMの原理は、球状粒子に見立てた2つのボール間に作用する法線方向(
図8(a)参照)、剪断方向(
図8(b)参照)のボール間接触力について、
図8に示すような、弾性的性質を表すバネ2,4と、非弾性的性質を表すダッシュポット3,5と、ボール1間の摩擦的性質を表すスライダ6(剪断方向)とで構成されるフォークトモデルによって説明できる。
【0037】
フォークトモデルにより、円筒型の容器の壁とボールの接触、ボール同士の接触を判定し、接触している場合のボールと壁、またはボール同士との法線、剪断方向の接触力と摩擦力を
図8(a)および
図8(b)のフォークトモデルに基づいて演算する。バネ2,4の弾性係数はヘルツの弾性接触理論より求められる。ダッシュポット3,5の粘性減衰係数(法線方向)、摩擦係数(剪断方向)は実験等によって求めてもよい。法線及び剪断方向の接触力に基づいて全ボールの加速度、速度、変位を各離散化時間で演算する。この演算を繰り返すことによって任意の時間のボール群全体の運動挙動のシミュレーションが可能になる。
【0038】
図9によりDEMによるシミュレーションを行う前の前処理を説明する。
まず、シミュレーション用の粉体粒子、すなわち仮想粒子を設定し、物性値を与える(ステップS1)。具体的には、バネ定数、粘性減衰係数、摩擦係数を仮想粒子に与える。バネ定数については、線形バネと非線形バネがある。非線形バネの場合、ヤング率などを入力する。なお、解析対象粒子および仮想粒子は、粉体ならばよく、とくに比重の異なる粉体を対象にする。
【0039】
つぎに、仮想粒子を生成するための処理を行う(ステップS2)。処理手順は、仮想粒子を配置する範囲などを入力し、仮想粒子平均径や仮想粒子平均間隔を設定する。
ついで、仮想粒子数を設定(ステップS3)し、各仮想粒子の直径(粒径)の設定、各仮想粒子を配置する座標位置の設定、並びに各仮想粒子の直径及び座標位置を出力(ステップS4)し、前処理を終了する。
【0040】
図10は、DEMによるシミュレーションの処理手順をフローチャートの形式で示している。
まず、解析対象となる各粒子に初期条件を与えて、初期化する(ステップS11)。ここで言う初期条件とは、前述の仮想粒子の処理で予め計算した物性値等のことである。つぎに、粒子同士の接触(衝突)を判定する(ステップS12)。
【0041】
つぎに、粒子同士の接触が検出(判定)された場合には、粒子間の距離を計算し(ステップS13)、接触による弾性反発力や粘性力などの作用力を計算する(ステップS14)。
さらに回転運動を計算し、粒子の角速度および粒子姿勢角度を計算する。そして、接触粒子における計算が終了するまで(ステップS15)、これらの計算処理(ステップS13~S15)を繰り返し行う。なお、ステップS12にて接触が判定されない場合は、後述するステップS16に進む。
【0042】
ついで、粒子に作用する外力の計算を行う(ステップS16)。ここで言う外力には、重力、ファンデルワールス力などが挙げられる。
【0043】
すべての粒子について、ステップS13~S17の処理を繰り返し実行する(ステップS17)。
ついで、解析対象である各粒子についての運動方程式を立てて、それぞれの加速度、速度、並びに変位の計算を行う(ステップS18)。
時間ステップが終了するまで、ステップS12~S18の処理を繰り返し実行する(ステップS19)。
【0044】
なお、DEMによる粉体粒子の挙動解析を実際に行う場合には計算コストが非常に大きく、大規模な演算処理装置を必要とする。そこで、
図10における仮想粒子の設定の際に、粒子を粗視化するモデルを導入すると、計算コストが削減できる。
たとえば、DEMによる粉体粒子の挙動解析は、主に粒子を粗視化するとともに、流体の支配方程式を解析対象となる計算空間を離散化して解くことで流体の密度や速度場を算出し、ニュートンの運動方程式を流体との相互作用を考慮して適用することによって、粒子の速度、変異、角速度、角度変位等について所定時間後の各粒子の位置等を算出する。
【0045】
ここでDEMの粗視化モデルは、仮想的に設定する粒子(粗視化粒子)とオリジナル粒子群の運動エネルギーが流体との相互作用を含めて両者で一致するとしてモデル化する。モデル化についてはいくつか知られているが、例えば、粗視化粒子内部のオリジナル粒子が2体衝突し、オリジナル粒子群の平均エネルギーが一致するとして接触力をモデル化することができる。オリジナル粒子よりもn倍大きな粒子(粗粒化粒子)を用いる場合を考えると、粗視化粒子にはn3個のオリジナル粒子が含まれるため、計算粒子数は1/n3となるため、大幅に計算粒子数を削減することができる。これにより計算コストが削減され、リソースも大幅に削減される。
【0046】
また、連続相である流体との相互作用については、流体の密度、粒子の平均速度、流体の粘性応力、重力加速度を考慮し、Ergunの式やWen and Yuの式を用いる。Ergunの式は粉体充填層の圧力損失を考慮しているので、対象計算領域における粒子濃度が高い場合によい。またWen and Yuの式の場合は、流体抵抗則に空隙率を考慮しているため、粒子濃度が低い場合に用いるとよい。
【0047】
さらに、解析対象となる計算空間について有限要素法を用いて計算すると、粒子‐流体間相互作用力、粒子間の接触力、外力に基づいて、粒子の速度、変位、角速度を算出できる。計算空間は複数の格子(メッシュ)によって区切られ、外力、移流、粘性、圧力の各ステップにおいて離散化した式を用いて算出する。有限要素法に類似する方法の一つで、対象領域を有限個のコントロールボリュームに分割する、有限体積法を適用すれば、離散化が簡便になるので計算時間の点でよい。粒子法を用いる場合は、各粒子の速度、位置、圧力について離散化して算出する。格子(メッシュ)を用いないため、計算上の格子に制約を受けない、というメリットがある。
【0048】
なお、粒子に対する流体の抗力は粒子の断面積に比例すると考えられるが、粒径のみを大きくした場合、粒径の3乗に比例する重力が過剰となり、流体抗力の効果が小さくなってしまうため、周囲の粒子の挙動に影響を与える。このため、粒子と流体との相互作用パラメータも調整するとよい。
【0049】
≪本発明の適用例≫
本発明の偏析防止方法の適用例を説明する。
【0050】
(空気輸送用パイプへの適用例)
本実施形態に係わる偏析防止方法は、空気輸送にも適用できる。
空気輸送では、輸送元と輸送先の間に配設した配管を用い、配管の入側に供給した混合粉体に空気圧を加えて、パイプの出側まで混合粉体を圧送する。このような空気輸送は様々な産業分野で利用されている。
【0051】
空気輸送用パイプに第1発明を適用するには、空気輸送用パイプ内の
の流体計算に加えて、第1発明と同様に重力と空気抵抗を考慮して混合粉体の挙動解析を行えばよい。もちろん、挙動解析にはDEM解析を利用できる。
挙動解析には、配管の長手方向における複数の位置を設定し、各設定位置での偏析度合いや配管出口での粉体組成変動を把握すればよい。
【0052】
上記のように、空気輸送配管においても、第1発明用いて挙動解析をすれば、偏析の少ない混合粉体にするための粉体の粒径を決定することができる。
本発明により決定された粉体の粒径は偏析を起こしにくいものであるので、空気輸送配管が直管部分はもとより曲管部分においても偏析は生じにくい。たとえば輸送空気量が小さく粉体が十分に輸送されないような状況では特に曲管部分に配管内に粉体が堆積することがある。この際に一部の粉体のみが輸送されると配管出口で組成の変動が発生する。一方で本発明により決定された粉体の粒径では、空気との相互作用を各粉体で合わせているため、堆積度合は各粉体で同等となり、配管出口での組成変動は生じにくい。曲管部分では、多くの粉体が空気流に乗って曲がっていく中、一部の粉体が曲管内壁に衝突するが、衝突による反発動作があっても、空気流送できるような粉体においては、粉体挙動の主な影響因子は空気との相互作用であるため、衝突による反発動作の影響は小さく、各粉体種で同じような挙動を示すので、やはり偏析は生じにくい。また、直管部分では混合粉体が空気流に乗って流れるだけではあるが、大きい粒子ほど空気によってゆっくりと輸送されるため、輸送初期で小粒径粒子のみが運ばれてしまい、配管出口で組成変動が発生することがある。一方で、本発明により粒径または密度が決定された粉体は空気との相互作用を合わせているため、小粒径粒子と大粒径粒子が同じ速度で輸送されることとなり組成変動が小さくなる。よって、実用的な空気輸送が行える。
【実施例0053】
以下、実施例を説明する。
(例1)
図4はDEMシミュレーションを行うための供給槽60の例を示している。
図4に示した供給槽60のモデルを用い、密度の異なる2種類の混合粉体を供給槽に供給し、排出口から排出させた場合に、粉体排出口から得られる混合粉体に含まれる粒子数比の変化をシミュレーションした。
【0054】
シミュレーションの条件として、供給槽60に適用する混合粉体の条件を以下のように規定した。
【表1】
なお、ヤング率は1×10^8Pa,ホッパー等との摩擦係数を粉体1:0.5、粉体2:0.8、反発係数をそれぞれ0.1とした。重力加速度は9.801m/s2とした。
また、対象とする供給槽60(
図4参照)は、直径D1が1200mmの円筒形状で、粉体排出口に向かって直径が減少するテーパーがついている。排出口の直径D2は250mmとした。高さHは、2.5mである。
偏析解析シミュレーションでは、各条件のもとにDEMによるシミュレーションを行い、供給槽60の高さ方向にそった複数個所(A-A´,B-B´・・・X-X´)における粒子数の比率を算出した。供給槽60の高さ方向とは、粉体の供給口からの排出口に至る方向(図では垂直な方向)である。
【0055】
ここで、例1と例2の場合の式1における「密度×粒径(d×r)」の値は、表2のようになる。
【表2】
例2では、粉体1の密度×粒径=0.75kg/m2であり、粉体2の密度×粒径=0.016kg/m2となり、差が大きい。一方で、例1では粉体2の粒径を変えて50μmとすると0.8kg/m2で同等となっており、後述するが例1では粉体が偏析しにくくなっている。
【0056】
例1および例2のシミュレーション結果(写真)を、
図5(a)および(b)に示す。粉体1(大粒子)は粉体2(小粒子)よりも密度が大きいため、
図5(b)に示す例2では粉体2(小粒子)だけが舞い上がってしまう。つまり、偏析が生じている。
一方、
図5(a)に示す例1では、粉体2の粒径を変更した結果、粉体1と粉体2とがともに飛散している。このことは、偏析が抑制されたことを意味している。
図6は
図5(a)に示す粉体の混合状態をイメージ的に示している。大きい丸印は粒径の大きい粉体を示し、小さい丸印は粒径の小さい粉体を示している。図示のように縦断面で見ても、横断面で見ても、大きな粉体と小さな粉体が程良く分散した状態を維持しており、大きな粉体と小さな粉体とが偏在することはない。
なお、符号A-A´,B-B´・・・X-X´は、供給槽60における任意の高さ位置を示している。偏析解析シミュレーションは、これらの符号で示す各断面で行い、その結果を互いに対比すると、どの高さ位置でどの程度の偏析が生じているのか、また偏析が許容範囲内か否かを判断することができる。
【0057】
図7は例1および例2それぞれの、供給口からの高さ方向距離における、各粉体の粒子比率を算出した結果である。例2(点線)では、高さ方向において粒子比率の偏析度合いが高く、正規化した粒子比の分散値は0.585となった。一方、例1(丸点付き実線)では粒子比率の偏析度合いは高さ方向でほぼ変化なく、正規化した粒子比の分散値は0.037であった。
以上のように、異なる比重(密度)をもつ複数の粉体を混合する場合に、偏析度合いが少なくなるように粒径を決定することが可能になる。また、偏析の少ない粒径を決定することができるので、混合比に偏りの少ない混合粉体を作製することが可能になる
本発明が適用される設備には特別な制限はない。実施形態の説明では、粉体を上部から下向きに供給する供給槽と、粉体を配管中で流動させる空気輸送を例にとって説明したが、これらに限られず、様々な設備に適用できる。