(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150862
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
H01C7/00 322
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053651
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 貴広
【テーマコード(参考)】
5E033
【Fターム(参考)】
5E033AA12
5E033AA23
5E033BA03
(57)【要約】
【課題】厚膜抵抗体とした場合に、所望の抵抗温度係数とすることができる厚膜抵抗体用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】銀粉末とパラジウム粉末とガラス粉末を含み、
前記銀粉末の純分が96.5質量%以上、パラジウム粉末の純分が97.0質量%以上であり、
前記銀粉末と前記パラジウム粉末は不純物として酸素を含み、
前記銀粉末の不純物の酸素の質量含有率と、前記パラジウム粉末の不純物の酸素の質量含有率の差の絶対値が2.2質量%以下である厚膜抵抗体用組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉末とパラジウム粉末とガラス粉末を含み、
前記銀粉末の純分が96.5質量%以上、パラジウム粉末の純分が97.0質量%以上であり、
前記銀粉末と前記パラジウム粉末は不純物として酸素を含み、
前記銀粉末の不純物の酸素の質量含有率と、前記パラジウム粉末の不純物の酸素の質量含有率の差の絶対値が2.2質量%以下である厚膜抵抗体用組成物。
【請求項2】
前記銀粉末の不純物の酸素の質量含有率が3.5質量%以下である請求項1に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項3】
前記パラジウム粉末の不純物の酸素の質量含有率が3.0質量%以下である請求項1または請求項2に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の厚膜抵抗体用組成物と、溶剤と、樹脂とを含有する厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の厚膜抵抗体用組成物を含有する厚膜抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にチップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等の厚膜抵抗体は、例えばセラミック基板に印刷した厚膜抵抗体用ペーストを焼成することにより形成されている。
【0003】
厚膜抵抗体用ペーストに用いる厚膜抵抗体用組成物は、抵抗値領域に合わせて酸化ルテニウムを代表とするルテニウム系酸化物や、銀、パラジウム、銅金属粒子、またはこれらを含む合金粉末といった導電性粉末とガラス粉末とを主成分として含むことが一般的である。厚膜抵抗体用組成物にはさらに、抵抗値やその他の特性の微調整のための金属酸化物を添加剤として添加することもなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では絶縁基板上に印刷し焼成して該基板上に印刷抵抗体を形成するための厚膜抵抗組成物に関する発明が開示されている。特許文献1は、シート抵抗値が0.1~30Ω/□/10μmの範囲であり、かつTCRが±50ppmを有する印刷抵抗体を形成するための厚膜抵抗組成物を提供することを目的としている。そして、貴金属粉末が所定の割合の銀とパラジウムとを含有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された割合で銀とパラジウムとを含有する貴金属粉末を用いた厚膜抵抗体用組成物とした場合でも、抵抗温度係数(TCR)が所定の範囲内とすることができない場合があった。
【0007】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、厚膜抵抗体とした場合に、所望の抵抗温度係数とすることができる厚膜抵抗体用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、
銀粉末とパラジウム粉末とガラス粉末を含み、
前記銀粉末の純分が96.5質量%以上、パラジウム粉末の純分が97.0質量%以上であり、
前記銀粉末と前記パラジウム粉末は不純物として酸素を含み、
前記銀粉末の不純物の酸素の質量含有率と、前記パラジウム粉末の不純物の酸素の質量含有率の差の絶対値が2.2質量%以下である厚膜抵抗体用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、厚膜抵抗体とした場合に、所望の抵抗温度係数とすることができる厚膜抵抗体用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、および厚膜抵抗体の一実施形態について説明する。
[厚膜抵抗体用組成物]
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粉末と、ガラス粉末とを含む。以下、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する成分について説明する。
【0011】
(1)導電性粉末
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粉末として、銀粉末とパラジウム粉末とを含むことができる。
【0012】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、例えば抵抗値が30Ω以下の厚膜抵抗体を目的とすることができる。このため、導電性粉末として、比抵抗が小さい銀粉末、およびパラジウム粉末を用いることが好ましい。
【0013】
(1-1)パラジウム粉末
導電性粉末が有するパラジウム粉末は、平均粒径が同じ1種類のパラジウム粉末から構成することもできるが、平均粒径が異なる2種類以上のパラジウム粉末を含むこともできる。
【0014】
厚膜抵抗体用組成物を用いて厚膜抵抗体を製造する場合、例えば基板上に形成された銀を含む電極上に、厚膜抵抗体用組成物を含むペースト等を塗布し、係るペースト等を乾燥し、焼成することで製造される。焼成を行う際、銀はパラジウムより融点が低いため、銀粉末とパラジウム粉末とでは溶融時間の差が大きくなる。また、銀はパラジウムより拡散速度が大きい。このため、加熱時間等によっては、電極中の銀が厚膜抵抗体側へ拡散し、電極が痩せる場合や、電極等の内部に空隙を生じる場合がある。また、加熱が十分ではない場合、導電性粉末の一部が十分に溶解せず、得られる厚膜抵抗体が脆くなる等の問題が生じる場合もあった。
【0015】
そこで、銀粉末とパラジウム粉末との溶融時間差を制御し、上述の電極が痩せる現象や、電極に空隙が生じる現象等の発生を抑制する観点から、パラジウム粉末は、平均粒径の異なる第1パラジウム粉末と、第2パラジウム粉末とを含むことが好ましい。パラジウム粉末は、第1パラジウム粉末と、第2パラジウム粉末とのみから構成することもできる。
【0016】
第1パラジウム粉末は、平均粒径を0.05μm以上0.15μm以下とすることが好ましい。また、第2パラジウム粉末は、平均粒径が0.25μm以上0.55μm以下とすることが好ましい。このようにパラジウム粉末が、平均粒径が異なる第1パラジウム粉末と第2パラジウム粉末とを含むことで、電極と厚膜抵抗体との間に空隙が生じる等の現象を抑制できる。
【0017】
本明細書において平均粒径は体積平均粒径を意味する。体積平均粒径は、粒子体積で重み付けした平均粒径であり、粒子の集合において、個々の粒子の直径にその粒子の体積を乗じたものの総和を粒子の総体積で割ったものである。体積平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布計を用いたレーザー回折散乱法によって測定することが可能である。
【0018】
パラジウム粉末における、第1パラジウム粉末の含有割合は特に限定されないが、パラジウム粉末は第1パラジウム粉末を5質量%以上60質量%以下の割合で含有することが好ましく、10質量%以上20質量%以下の割合で含有することがより好ましい。なお、ここでのパラジウム粉末における第1パラジウム粉末の含有割合は、パラジウム粉末を100質量%とした場合の第1パラジウム粉末の含有割合を意味する。
【0019】
(1-2)銀粉末
銀粉末の粒径等は特に限定されないが、平均粒径が0.5μm以上7.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。銀粉末の平均粒径を上記範囲とすることで、既述のパラジウム粉末と組み合わせて用いた場合、該導電性粉末を含む厚膜抵抗体用組成物を用いて電極上に厚膜抵抗体を作製した際に空隙の発生等を特に抑制できる。
【0020】
(1-3)混合割合
導電性粉末が含有するパラジウム粉末と、銀粉末との混合割合は特に限定されないが、例えば銀粉末とパラジウム粉末との含有量の合計を100質量%とした場合に、銀粉末を44質量%以上48質量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0021】
なお、この場合、導電性粉末におけるパラジウム粉末の含有割合は残部、すなわち52質量%以上56質量%以下とすることができる。
【0022】
銀粉末の含有割合を上記範囲とすることで、後述する導電性粉末の不純物を考慮すれば、該導電性粉末を含む厚膜抵抗体用組成物を用いて作製した厚膜抵抗体の抵抗温度係数を特に抑制できるからである。
(導電性粉末の不純物量)
本発明の発明者は、所定の割合で銀とパラジウムとを含有する貴金属粉末を用いた厚膜抵抗体用組成物とした場合でも、抵抗温度係数(TCR)が所望の範囲内にならない場合が生じる原因について検討を行った。その結果、導電性粉末が含有する不純物量が、抵抗温度係数のばらつきに影響を及ぼしていることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
具体的には、厚膜抵抗体とした場合に、抵抗温度係数(TCR)を所望の範囲とし、例えば抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体用組成物とするためには、導電性粉末の不純物量を所定の範囲に制御することが好ましい。
【0024】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物を用いて製造される厚膜抵抗体は、銀粉末とパラジウム粉末とを含む導電性粉末、およびガラス粉末により形成されるガラスマトリックスを含み、ガラスマトリックスが導電物を保持する構造を有する。導電性粉末の導電性は、銀粉末やパラジウム粉末に含まれる不純物を除いた純分で定まる。
【0025】
このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する銀粉末およびパラジウム粉末は純度が高いことが好ましく、例えば、銀粉末の純分が96.5質量%以上、パラジウム粉末の純分が97.0質量%以上であることが好ましい。
【0026】
本実施形態の銀粉末と、パラジウム粉末は、不純物として酸素を含むことができる。また、不純物として炭素を含む場合もある。そして、上記純分は、銀粉末、パラジウム粉末が含有する不純物である酸素、および炭素を除いた残部の割合を意味する。
【0027】
なお、例えばパラジウム粉末として既述の第1パラジウム粉末、第2パラジウム粉末を用いる場合、両粉末を厚膜抵抗体用組成物が含有する割合に応じて混合した混合粉について、純分が上記範囲を充足することが好ましい。
【0028】
しかし、純分が96.5質量%以上である高純度の銀粉末や、純分が97.0質量%以上である高純度のパラジウム粉末であっても、大気中の酸素による粉末表面の酸化膜の形成、大気中の二酸化炭素の粉末表面の吸着等により、酸素や炭素の不純物を含む。これらの不純物をさらに調査すると、酸素と炭素以外の不純物は数十ppm以下であるのに対して、炭素はその十倍程度の質量%、酸素は炭素の数十倍程度の質量%であり、最も不純物として影響が多いのは酸素であることが判明した。酸素が多い理由としては、大気中で安定するために大気中の酸素と結合して表面の酸化膜を形成するためと推定される。このような、銀粉末やパラジウム粉末の酸素や炭素の不純物含有量の分析には公知の燃焼・赤外線吸収法を用いることができ、LECO社836シリーズやLECO社844シリーズ等の市販の分析装置を用いることができる。
【0029】
そのため、同一の銀粉末やパラジウム粉末であっても、保管条件や、ロットの違いで不純物量が異なる。銀粉末とパラジウム粉末の両者の不純物量を一定に保つことは困難である。
【0030】
そこで、本発明の発明者はさらに検討を行った。そして、厚膜抵抗体用組成物が含有する銀粉末の不純物の酸素の質量含有率と、パラジウム粉末の不純物の酸素の質量含有率の差を抑制することで、厚膜抵抗体とした場合に、所望の範囲内の抵抗温度係数を実現できることを見出した。
【0031】
具体的には、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する、銀粉末の不純物の酸素の質量含有率と、パラジウム粉末の不純物の酸素の質量含有率の差の絶対値(以下、「酸素含有率差の絶対値」とも記載する)は2.2質量%以下であることが好ましい。上記不純物の酸素の質量含有率の差の絶対値を2.2質量%以下とすることで、厚膜抵抗体に含まれる、不純物を除いた、導電性等に寄与する銀とパラジウムとの混合割合と、厚膜抵抗体用組成物での銀粉末とパラジウム粉末の混合割合との差を小さくできる。
【0032】
厚膜抵抗体に含まれる、不純物を除いた、導電性等に寄与する銀とパラジウムとの混合割合と、厚膜抵抗体用組成物での銀粉末とパラジウム粉末の混合割合の差を小さくすることで、厚膜抵抗体用組成物の銀粉末とパラジウム粉末の混合割合と、抵抗温度係数の予測値との差を抑制できる。すなわち厚膜抵抗体用組成物に含まれる銀粉末とパラジウム粉末の混合割合を制御することで、厚膜抵抗体とした際の抵抗温度係数も容易に制御できることになる。
【0033】
そして、上記酸素含有率差の絶対値を2.2質量%以下とすることで、厚膜抵抗体に含まれる、不純物を除いた銀とパラジウムとの混合割合と、厚膜抵抗体用組成物における銀粉末とパラジウム粉末の混合割合とは、0.5質量%を超える差とはならない。すなわち、厚膜抵抗体の導電性粉末に由来する成分中の不純物を除いた銀の含有割合と、厚膜抵抗体用組成物における導電性粉末中の銀粉末の含有割合との差の絶対値を0.5質量%以下にできる。パラジウムについても同様である。
【0034】
このため、上記酸素含有率差の絶対値を2.2質量%以下とすることで、厚膜抵抗体とした場合に、高温抵抗温度係数であるHOT-TCRや、低温抵抗温度係数であるCOLD-TCRを容易に所望の範囲にできる。例えば、高温抵抗温度係数のHOT-TCRを10ppm/℃以上40ppm/℃以下とし、低温抵抗温度係数のCOLD-CTRを、50ppm/℃以上75ppm/℃以下とすることができる。従って、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物を用いることで、容易に抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体とすることができる。
【0035】
HOT-TCR、COLD-TCRは、それぞれ以下の式(A)、式(B)により求められる。
COLD-TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×106・・・(A)
HOT-TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×106・・・(B)
ここで、R-55は、温度-55℃での抵抗値、R25は、温度25℃の抵抗値、R125は、温度125℃での抵抗値である。
【0036】
なお、銀粉末、パラジウム粉末はいずれも不純物である酸素の質量含有率が低いことが好ましく、例えば銀粉末の不純物の酸素の質量含有率が3.5質量%以下であることが好ましい。また、パラジウム粉末の不純物の酸素の質量含有率が3.0質量%以下であることが好ましい。
【0037】
さらに、銀粉末、パラジウム粉末はいずれも不純物である炭素についても質量含有率が低いことが好ましく、例えば銀粉末の不純物の炭素の質量含有率が0.1質量%以下であることが好ましい。パラジウム粉末の不純物の炭素の質量含有率が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0038】
(2)ガラス粉末
ガラス粉末の組成等は特に限定されないが、ガラスの軟化点が750℃以上900℃以下であることが好ましく、800℃以上860℃以下であることがより好ましい。
【0039】
ガラスとしては、例えば、CaO、MgO、BaOから選択された1種類以上を含むアルミノホウケイ酸ガラスを好適に用いることができる。
【0040】
ガラスとしては、例えばCaO、MgOを含んだアルミノホウケイ酸ガラスであって、SiO2を55質量%以上65質量%以下、Al2O3を10質量%以上15質量%以下、B2O3を3質量%以上7質量%以下、MgOを0.5質量%以上1.5質量%以下、CaOを15質量%以上25質量%以下、軟化点が800℃以上860℃以下であるガラスを特に好適に用いることができる。なお、軟化点は、ガラス粉末の示差熱分析法(TG-DTA)の示差熱曲線から知ることができる。
【0041】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末の平均粒径は特に限定されないが、0.1μm以上3.0μm以下であることが好ましく、0.8μm以上3.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上1.8μm以下がさらに好ましい。厚膜抵抗体用組成物に含まれるガラス粉末の平均粒径を3.0μm以下とすることで、厚膜抵抗体とした場合のノイズ特性を特に高めることができる。一方、ガラス粉末の平均粒径を過度に小さくすると、生産性が低くなり、不純物等の混入も増える恐れがある。このため、ガラス粉末の平均粒径は0.1μm以上であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒径についても、レーザー回折式粒度分布計を用いたレーザー回折散乱法によって測定、算出することができる。
【0042】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粉末、ガラス粉末以外に任意の成分を含有することもできる、例えば以下に説明する添加剤を含有することもできる。
(添加剤)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、抵抗体の抵抗値や抵抗温度係数や負荷特性、トリミング性の改善、調整を目的として一般に使用される添加剤を含有することもできる。添加剤としては、Al2O3、SiO2、TiO2、Nb2O5、Mn3O4、CuOといった酸化物を挙げることができる。添加剤の平均粒径は特に限定されないが、添加剤の平均粒径は0.5μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。これは添加剤の平均粒径が0.5μm以下の場合に特に添加剤の添加効果が得られやすく、特に平均粒径が0.1μm以下だと少量で顕著な効果が得られやすいからである。
【0043】
添加する添加剤の種類は特に限定されず、改善したい特性等に応じて選択できる。例えば、静電気負荷(ESD)に関しては、添加剤としてAl2O3とTiO2を添加した場合、負荷をかけた前後での抵抗値変化を小さくでき、特にAl2O3とTiO2を複合して添加するとさらに抵抗値変化が小さくできる。
【0044】
添加剤を添加する量は、添加剤の種類や、添加する目的等によって調整されるが、導電性粉末とガラス粉末との含有量の合計を100質量部とした場合に、添加剤の添加量は合計で0以上20質量部以下とすることが好ましい。
[厚膜抵抗体用組成物の製造方法]
厚膜抵抗体用組成物は、銀粉末、パラジウム粉末およびガラス粉末を混合すれば、得ることができる。
【0045】
厚膜抵抗体用組成物を製造する混合工程において、後述する厚膜抵抗体用ペーストに用いる有機ビヒクルをあわせて添加し、厚膜抵抗体用ペーストを製造する際に、厚膜抵抗体用組成物をあわせて製造することもできる。
[厚膜抵抗体用ペースト]
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストの一構成例について説明する。
【0046】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物と、有機ビヒクルとを含むことができる。そして、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散した構成を有することができる。
【0047】
有機ビヒクルについては特に制限はなく、溶剤に樹脂を溶解した溶液を用いることができる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、厚膜抵抗体用組成物と、溶剤と、樹脂とを含有するともいえる。溶剤としては、ターピネオール等のテルペン系溶剤や、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等から選択された1種類以上が挙げられる。また、樹脂としては、エチルセルロース、マレイン酸樹脂、ロジン等、アクリル系樹脂等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0048】
また、厚膜抵抗体用ペーストには、必要に応じて分散剤や可塑剤など加えることもできる。
【0049】
既述の厚膜抵抗体用組成物や、添加剤等を有機ビヒクルに分散させる際の分散方法も特に制限されないが、微細な粒子を分散させる3本ロールミルやビーズミル、遊星ミル等から選択された1種類以上の方法を用いることができる。厚膜抵抗体用ペーストは、製造される際の分散によりガラス粉末、および導電性粉末である銀粉末、パラジウム粉末の分散状態を維持する。
【0050】
有機ビヒクルの配合比率は印刷方法や塗布方法によって適宣調整されるが、厚膜抵抗体用組成物を100質量部とした場合に、有機ビヒクルが20質量部以上200質量部以下となるように混練、調製することが好ましい。
[厚膜抵抗体]
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物を含有することができる。
【0051】
本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は特に限定されないが、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上に配置し、焼成して形成することができる。また、既述の厚膜抵抗体用ペーストを、アルミナ等のセラミック基板に塗布した後、80℃以上200℃以下の温度の下での乾燥により厚膜抵抗体用ペーストに含まれる溶剤を除去し、ピーク温度800℃以上900℃以下、保持時間1分以上30分以下の大気雰囲気下で焼成して形成することもできる。
【0052】
焼成の熱により、ガラス粉末が軟化し、融着し、ガラスマトリックスを形成し、銀粉末とパラジウム粉末は、融着し、一部は合金化して導電物を形成、前記ガラスマトリックスの周囲に導電物が存在する分散状態を維持して厚膜抵抗体が形成される。
【0053】
セラミック基板には、一対の電極を公知の厚膜銀ペーストや厚膜銀・パラジウムペースト等の厚膜技術で形成しておき、該一対の電極の間に本実施形態の厚膜抵抗体を形成すれば、該電極を端子とする抵抗器を形成することもできる。
【実施例0054】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)銀粉末、パラジウム粉末に含まれる不純物と、純分の定量測定
銀粉末、パラジウム粉末が含有する酸素は、酸素・窒素分析装置(LECO社製ON836)を用いて測定した。
【0055】
銀粉末、パラジウム粉末が含有する炭素は、炭素・硫黄分析装置(LECO社製CS844)を用いて測定した。
【0056】
銀粉末、パラジウム粉末の純分は、不純物量のうち大半を占める酸素と炭素量を差分することで算出した。
(2)銀粉末、パラジウム粉末、ガラス粉末の平均粒径
平均粒径は既述のように体積平均粒径であり、レーザー光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)による測定結果から算出した。
(3)抵抗値測定
抵抗値は、各実施例、比較例で同じ条件で作製した5個の厚膜抵抗体について、デジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)により抵抗値を測定し、得られた抵抗値を、厚膜抵抗体の厚さが7μmの場合に換算した。
【0057】
換算する際に用いる、各厚膜抵抗体の膜厚は、触針の厚さ粗さ計(東京精密社製 型番:サーフコム480B)により測定した。
【0058】
そして、換算後の5個の厚膜抵抗体の抵抗値の平均を該厚膜抵抗体の抵抗値とした。
(4)抵抗温度係数
抵抗温度係数は次の手順で算出した。
【0059】
以下の各実施例、比較例で同じ条件で1mm幅の50mm配線の厚膜抵抗体を5個作製し、各厚膜抵抗体を-55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してから抵抗値を測定した。各厚膜抵抗体の各温度での抵抗値はR-55、R25、R125とする。例えばR-55は、-55℃での抵抗値を意味する。
【0060】
次に各厚膜抵抗体について以下の式(A)、式(B)によって低温抵抗温度係数COLD-TCRと、高温抵抗温度係数HOT-TCRとを算出し、5個の厚膜抵抗体の平均を各実施例、比較例の厚膜抵抗体の抵抗温度係数(COLD-TCR、HOT-TCR)とした。
COLD-TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×106・・・(A)
HOT-TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×106・・・(B)
[実施例1]
エチルセルロースをターピネオールと1:9の割合で溶解した有機ビヒクル20質量%と、アルミノホウケイ酸ガラス4質量%と、銀粉末34.2質量%と、第1パラジウム粉末2.09質量%と、第2パラジウム粉末39.71質量%とを混合(混合工程)して三本ロールにてペースト化し、実施例1に係る厚膜抵抗体用ペーストを得た。
【0061】
なお、アルミノホウケイ酸ガラスとしては、組成がSiO2:57.0質量%、Al2O3:14.5質量%、B2O3:6.0質量%、CaO:22.0質量%、MgO:0.5質量%であって、平均粒径が1.5μmであり軟化点が850℃であるものを用いた。また、銀粉末は平均粒径が3μmであった。
【0062】
第1パラジウム粉末は平均粒径が0.1μm、第2パラジウム粉末は平均粒径が0.3μmであった。第1パラジウム粉末と第2パラジウム粉末とを質量比で第1パラジウム粉末:第2パラジウム粉末=5:95の割合で含有している。
【0063】
実施例1で用いた銀粉末およびパラジウム粉末の純分、および酸素、炭素の不純物量を表1に示す。なお、パラジウム粉末の不純物量は、第1パラジウム粉末の不純物量と第2パラジウム粉末を上記混合割合(5:95)で合わせたパラジウム粉末全体での不純物量である。
【0064】
厚膜銀ペーストにより銀を含む電極が形成されたアルミナ基板に、実施例1に係る厚膜抵抗体用ペーストを焼成後の膜厚が7μmになるように印刷した。そして、150℃、5分間で乾燥し、大気中ピーク温度850℃で保持時間9分のベルト型焼成炉にて焼成して実施例1に係る厚膜抵抗体を得た。実施例1に係る厚膜抵抗体について、抵抗値、抵抗温度係数を測定した。結果を表1に示す。
[実施例2~実施例5、比較例1]
表1に示される構成成分の銀粉末とパラジウム粉末を用いた点以外は実施例1と同様に厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
表1より実施例1から実施例5に係る厚膜抵抗体用組成物に用いた銀粉末とパラジウム粉末の酸素含有率の差は絶対値で2.2質量%以下の範囲内である。このため、これらの実施例では作製した厚膜抵抗体の抵抗温度係数がいずれも所望の範囲であった。具体的には高温抵抗温度係数のHOT-TCRが10ppm/℃以上40ppm/℃以下であり、低温抵抗温度係数のCOLD-CTRが、50ppm/℃以上75ppm/℃以下であった。
【0066】
一方、比較例1は、厚膜抵抗体用組成物に用いた銀粉末とパラジウム粉末の酸素含有率の差の絶対値が2.3質量%であった。このため、得られた厚膜抵抗体は、例えばCOLD-TCRが80ppm/℃を超え、抵抗温度係数を所望の範囲にできないことが確認された。