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▶ 日清食品ホールディングス株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151026
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】乳化調味料
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220929BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053910
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 大河
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 翔平
(72)【発明者】
【氏名】山内 講平
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LE02
4B047LG01
4B047LG10
4B047LG36
4B047LP03
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、高濃度のカリウムを含有しつつも、カリウム特有のエグ味を抑制することにある。
【解決手段】
カリウム、食用油脂、及び特定の乳化剤を含むW/O型の乳化調味料によって、本発明を実現できることを見出した。本発明の完成により、ナトリウム摂取量の抑制とカリウム摂取量の増量を実現し、且つカリウム特有のエグ味を抑制することが可能となる。また、本発明に係る乳化調味料は、いったん冷凍しても、解凍すれば速やかに乳化状態に戻り、カリウムのエグ味を抑制する機能を持続することができるため、冷凍食品用途において極めて優れた効果を発揮する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム、食用油脂、及び乳化剤を含むW/O型の乳化調味料であって、
乳化剤が縮合リシノール酸エステルであり、
食用油脂含有量と水分含有量の質量比(食用油脂/水分)が、0.4~2.0であることを特徴とする乳化調味料。
【請求項2】
縮合リシノール酸エステルの含有量が、0.05~5.0質量%であることを特徴とする請求項2に記載の乳化調味料。
【請求項3】
カリウム、食用油脂、及び乳化剤を含むW/O型の乳化調味料であって、
乳化剤が大豆レシチンであり、
食用油脂含有量と水分含有量の質量比(食用油脂/水分)が、0.5~2.0であることを特徴とする乳化調味料。
【請求項4】
乳化剤が大豆レシチンであり、
大豆レシチンの含有量が、0.003~5.0質量%であることを特徴とする請求項3に記載の乳化調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化カリウムの苦味を抑制する乳化調味料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カリウムは、細胞内浸透圧の維持、水分保持など生体内で重要な役割を担っており、ナトリウムの排出効果もあるため、高血圧予防という面でも注目されている。
【0003】
日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、18歳以上の男性は2,500mg/日(目標3,000mg/日)、18歳以上の女性は2,000mg/日(目標2,600mg/日)となっており、栄養強化食品では1日に必要なカリウムの1/3(18歳以上の男性基準で833mg以上)を添加しているものが多い。
【0004】
しかしながら、カリウム化合物で最も安価で入手しやすい塩化カリウムは異味(エグ味)が強く、添加できる量には限界がある。そこで、アミノ酸やイノシン酸等のマスキング剤を加えて、エグ味を抑制する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、塩化カリウムにアミノ酸又はその塩を組み合わせる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来のカリウム含有食品の風味は、消費者を満足させるレベルには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-062778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高濃度のカリウムを含有しつつも、カリウム特有のエグ味を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カリウム、食用油脂、及び特定の乳化剤を含むW/O型の乳化調味料によって、本発明を実現できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の一実施形態は、カリウム、食用油脂、及び乳化剤を含むW/O型の乳化調味料であって、
乳化剤が縮合リシノール酸エステルであり、食用油脂含有量と水分含有量の質量比(食用油脂/水分)が、0.4~2.0であることを特徴とする乳化調味料に関するものである。
【0010】
一実施形態は、縮合リシノール酸エステルの含有量が、0.05~5.0質量%であることを特徴とする上記の乳化調味料に関するものである。
【0011】
一実施形態は、カリウム、食用油脂、及び乳化剤を含むW/O型の乳化調味料であって、乳化剤が大豆レシチンであり、食用油脂含有量と水分含有量の質量比(食用油脂/水分)が、0.5~2.0であることを特徴とする乳化調味料に関するものである。
【0012】
一実施形態は、乳化剤が大豆レシチンであり、大豆レシチンの含有量が、0.003~5.0質量%であることを特徴とする上記の乳化調味料に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の完成により、ナトリウム摂取量の抑制とカリウム摂取量の増量を実現し、且つカリウム特有のエグ味を抑制することが可能となる。また、本発明に係る乳化調味料は、いったん冷凍しても、解凍すれば速やかに乳化状態に戻り、カリウムのエグ味を抑制する機能を持続することができるため、冷凍食品用途において極めて優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る乳化調味料について具体的に説明する。
【0015】
乳化調味料
乳化調味料は、少なくともW/O型(油中水型)の乳化物である。エグ味の原因となるカリウム(カリウム水溶液)を食用油脂で包むことにより、カリウムが味蕾へ作用することを阻害し、カリウム特有のエグ味を抑制できる。
【0016】
乳化調味料は、カリウム、食用油脂、及び乳化剤からなる。
【0017】
カリウムの供給源となるカリウム化合物としては、食品用途に使用することのできる水溶性のカリウム化合物であればよく、具体的には、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、水酸化カリウムのような無機塩、グルタミン酸カリウム、グルコン酸カリウム、クエン酸三カリウム、乳酸カリウム等の有機酸塩が挙げられる。
【0018】
本発明では、カリウム化合物は水に溶解させ、水溶液として使用する。水溶液中のカリウム濃度には特に制限はないが、カリウム濃度の高い調味料を提供しようという本発明の課題を考慮すると、水溶液中のカリウム濃度は5%以上、20%以下であることが好ましい。
【0019】
食用油脂は、一般に食用として流通している油脂であれば特に制限はないが、乳化状態の安定性を高める観点から、常温(25℃)で液体の食用油脂が好ましい。具体的には、パームオレイン油、菜種油、ゴマ油、コーン油、ひまし油等が挙げられる。
【0020】
乳化剤は、縮合リシノール酸エステル又は大豆レシチンである。乳化剤として、縮合リシノール酸エステル又は大豆レシチンを用いることで、カリウム濃度の高い水溶液を用いたとしても、安定性の高い乳化物を作製することができる。
【0021】
(縮合リシノール酸エステルを用いた乳化調味料)
一実施形態において、乳化剤として乳化剤が縮合リシノール酸エステルを用いる場合には、乳化調味料中の食用油脂と水分の質量比(食用油脂/水分)を0.4~2.0とすることが必要であり、0.5~1.5とすることが好ましい。食用油脂と水分の質量比が0.4を下回る場合には、食用油脂が少なすぎてW/O型乳化の状態を維持できない。
【0022】
一方、食用油脂と水分の質量比が2.0を上回る場合には、乳化状態は安定している。しなしながら、乳化調味料に含まれる水分が少ないと、乳化調味料に添加できるカリウムも減少することになる。したがって、食用油脂と水分の質量比が2.0を上回る場合には、カリウム濃度の高い調味料を実現するという本発明の課題を解決し得ない。
【0023】
一実施形態において、乳化調味料中の縮合リシノール酸エステル(乳化剤)の含有量を0.05~1.0質量%とすることが好ましい。縮合リシノール酸エステルの含有量が0.05質量%を下回る場合には、乳化剤が少なすぎるためW/O型乳化の状態を維持しにくい。
【0024】
一方、縮合リシノール酸エステルの含有量が1.0質量%を上回る場合には、乳化状態は安定するが、乳化剤特有の異味が強くなり、乳化調味料の風味が低下するため好ましくない。
【0025】
縮合リシノール酸エステルとは、テトラグリセン縮合リシノール酸エステル、ヘキサグリセン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセン縮合リシノール酸エステルなどが挙げられ、乳化安定性の観点からポリグリセン縮合リシノール酸エステルが好ましい。
【0026】
(大豆レシチンを用いた乳化調味料)
一実施形態において、乳化剤として乳化剤が大豆レシチンを用いる場合には、乳化調味料中の食用油脂と水分の質量比(食用油脂/水分)を0.5~2.0とすることが必要であり、0.6~1.5とすることが好ましい。食用油脂と水分の質量比が0.5を下回る場合には、食用油脂が少なすぎてW/O型乳化の状態を維持できない。
【0027】
一方、食用油脂と水分の質量比が2.0を上回る場合には、乳化状態は安定している。しなしながら、乳化調味料に含まれる水分が少ないと、乳化調味料に添加できるカリウムも減少することになる。したがって、食用油脂と水分の質量比が2.0を上回る場合には、カリウム濃度の高い調味料を実現するという本発明の課題を解決し得ない。
【0028】
一実施形態において、乳化調味料中の大豆レシチン(乳化剤)の含有量を0.003~5.0質量%とすることが好ましい。大豆レシチンの含有量が0.003質量%を下回る場合には、乳化剤が少なすぎるためW/O型乳化の状態を維持しにくい。
【0029】
一方、大豆レシチンの含有量が5.0質量%を上回る場合には、乳化状態は安定しているが、乳化剤特有の異味が強くなり、乳化調味料の風味が低下するため好ましくない。なお、縮合リシノール酸エステルの方が、大豆レシチンよりも意味が弱い傾向がある。
【実施例0030】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載する「%」は、特段の注釈の無い限り、「質量%」を表す。
【0031】
(試作例1)
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(CRS-75、阪本薬品社製、表1中では「縮合利子ノール酸エステル」と記載)3.2gをパームオレイン(ユニバ―NS、不二製油社製)160gに混合させて油相を調整した。油相とは別に、塩化カリウム40gを水130gに溶解させて水相(塩化カリウム水溶液)を調整した。油相をホモミキサー(12,000rpm、プライミクス社製)で攪拌しながら、水相を10gずつ15秒間隔で添加し、添加完了してから更に5分間攪拌して乳化調味料(試作例1)を製造した。
【0032】
水相の量、又はポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの添加量を表1の通り変更した以外は試作例1と同様の条件で試作例2~8を製造した。なお、油相に水相を添加するペースは「10gずつ15秒間隔」なので、試作例1と、試作例2~4とでは、水相を添加し終わるまでの時間が異なる。
【0033】
(乳化安定性評価)
乳化調味料(試作例1~8)の乳化安定性を、製造直後の乳化状態と、20℃で12時間静置後の乳化状態を比較することにより評価した。詳細は以下の通りである。なお、試作例9~14につても同様の評価を行った。
良好(○):乳化状態に変化がない(安定している)
普通(△):一部相分離が見られる。
不良(×):完全に相分離している。
【0034】
【表1】
【0035】
(試作例9)
大豆レシチン(JレシチンCL、J-オイルミルズ)13gをパームオレイン(ユニバ―NS、不二製油社製)160gに混合させて油相を調整した。油相とは別に、塩化カリウム40gを水130gに溶解させて水相を調整した。油相をホモミキサー(12,000rpm、プライミクス社製)で攪拌しながら、水相を10gずつ15秒間隔で添加し、添加完了してから更に5分間攪拌して乳化調味料(試作例9)を製造した。
【0036】
水相の量、又は大豆レシチンの添加量を表2の通り変更した以外は試作例9と同様の条件で試作例10~14を製造した。なお、油相に水相を添加するペースは「10gずつ15秒間隔」なので、試作例9と、試作例10、11とでは、水相を添加し終わるまでの時間が異なる。
【0037】
【表2】
【0038】
また、縮合リシノール酸エステルと大豆レシチンを比較すると、大豆レシチンの方が異味が強い。具体的には、試作例5(縮合リシノール酸エステル3.79%)と試作例9(大豆レシチン3.79%)を比較すると、試作例9は異味が強く、喫食に向かない。なお、縮合リシノール酸エステルを用いた場合であっても、添加量が5%を超えると異味が強くなりすぎてしまい、喫食に向かなくなる。
【0039】
(凍結安定性評価)
乳化調味料について、凍結後の乳化安定性を確認した。具体的には、製造直後の乳化調味料(試作例1~14)を-40℃の冷凍庫に入れて凍結させて、常温で解凍した後の乳化状態を確認した。評価結果は、乳化安定性の評価結果と同様の傾向であり、乳化状態が安定しているサンプルについては解凍後も乳化状態を維持していた。