(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151061
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】粉末白湯スープの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/10 20160101AFI20220929BHJP
【FI】
A23L23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053958
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 翔平
(72)【発明者】
【氏名】山内 講平
【テーマコード(参考)】
4B036
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LE01
4B036LF01
4B036LH04
4B036LH11
4B036LH13
4B036LH18
4B036LH26
4B036LH49
4B036LK06
4B036LP01
4B036LP06
4B036LP10
4B036LP18
4B036LP24
(57)【要約】
【課題】殺菌時等における加熱を行っても沈殿しにくく、喫食終了まで白濁した状態を維持することができるヴィーガン用粉末白湯スープの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】動物性食品を含まない粉末白湯スープの製造方法であって、植物性タンパクをプロテアーゼ処理する酵素処理工程と、プロテアーゼ処理された植物性タンパクを用いて白湯スープを製造するスープ製造工程と、得られた白湯スープを加熱殺菌する殺菌工程と、加熱殺菌された白湯スープを噴霧乾燥して粉末化する乾燥工程と、からなる粉末白湯スープの製造方法。これにより、沈殿しづらいヴィーガン用の粉末白湯スープが得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物性食品を含まない粉末白湯スープの製造方法であって、
植物性タンパクをプロテアーゼ処理する酵素処理工程と、
プロテアーゼ処理された植物性タンパクを用いて白湯スープを製造するスープ製造工程と、
得られた白湯スープを加熱殺菌する殺菌工程と、
加熱殺菌された白湯スープを噴霧乾燥して粉末化する乾燥工程と、
からなる粉末白湯スープの製造方法。
【請求項2】
殺菌工程が直接加熱殺菌方法もしくは間接加熱殺菌方法を用いて行われる、請求項1記載の粉末白湯スープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末白湯スープの製造方法に関する。より詳しくは、ヴィーガン向けに提供される白湯スープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向や倫理の観点等から、菜食を中心とした食事を実践する人々が増えてきた。このような人々を総称してベジタリアンという。ベジタリアンはさらに細分化されており、例えば動物の肉(鳥肉・魚肉・その他の魚介類)と卵・乳製品を食べない人々、必要に応じて乳製品と卵を食べる人々、果物、トマト、ナッツ類等、木に実り植物の生命に関わらない食品のみを食べる人々など、多岐にわたっている。
【0003】
このうち、動物の肉(鳥肉・魚肉・その他の魚介類)、副生成物(ラード、ヘット、ゼラチン、肉エキス、鰹節・鰯・エビなどの出汁)、さらには卵・乳製品を一切食べない人々をヴィーガンという。
【0004】
世界人口におけるヴィーガンの割合は年々増加している。欧米などでは市民権を得ており、ヴィーガン専用の食材や料理を提供する店も多い。日本国内においても徐々にではあるがヴィーガンの割合は増えてはいる。しかし、いまだマイナーな存在であり、ヴィーガン専用の食材や料理を提供する店も少ない。また、ヴィーガンでは使える食材が限られてしまうため、料理のレパートリーも制限されてしまうという問題がある。そこで、植物由来タンパクを用いた代用肉などが開発されている(特許文献1,2参照)。現在提供されている代用肉の中には、肉の繊維質などが忠実に再現されているものもあり、喫食時に満足できる出来となっているものも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-130102号公報
【特許文献2】特表2021-500043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、代用肉以外の代替品の開発はいまだ十分とは言えない。例えば、ブイヨンを用いたスープの場合、本来ベースとなるはずの動物性の出汁を用いることができない。そのため、植物由来の物だけでブイヨンを再現しなければならないが、その再現は極めて困難である。また、白濁した白湯スープを再現しようとした場合、乳化が必要となる。特に即席食品用の白湯スープの場合、品質を安定させるためには強制乳化することが好ましく、乳化剤が必須となる。しかし、ヴィーガン用の白湯スープに用いることができる乳化剤は、植物性タンパクなど限られたものとなってしまう。そして、乳化を目的として植物性タンパクを使用すると、殺菌時等における加熱や、乾燥によって植物性タンパクが凝集・変性し、沈殿しやすくなるという問題が存在する。このように、ヴィーガン用の食品については、いまだ満足のいくものが開発されていないのが現状である。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、殺菌時等における加熱を行っても沈殿しにくく、喫食終了まで白濁した状態を維持することができるヴィーガン用粉末白湯スープの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、殺菌時等における加熱を行った場合であっても、植物性タンパクの凝集・変性による沈殿を防ぐ方法がないか検討を行った。そして、植物性タンパクを酵素分解することで、乳化能を保持しつつ、熱変性によって凝集しづらくなることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、動物性食品を含まない粉末白湯スープの製造方法であって、植物性タンパクをプロテアーゼ処理する酵素処理工程と、プロテアーゼ処理された植物性タンパクを用いて白湯スープを製造するスープ製造工程と、得られた白湯スープを加熱殺菌する殺菌工程と、加熱殺菌された白湯スープを噴霧乾燥して粉末化する乾燥工程と、からなることを特徴とする粉末白湯スープの製造方法である。
【0010】
当該構成によれば、植物性タンパクをプロテアーゼ処理することで、乳化能を保持しつつ、熱変性によって凝集しづらい大きさにすることができる。これにより、よりタンパクの変性・凝固による沈殿を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
当該発明によれば、ヴィーガン用の乳化した白湯スープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る『粉末白湯スープの製造方法』は、植物性タンパクを酵素処理する酵素処理工程と、酵素処理した植物性タンパクを使って白湯スープを作るスープ製造工程と、作った白湯スープを加熱殺菌する殺菌工程と、加熱殺菌した白湯スープを粉末化する乾燥工程とからなることを特徴とする。
【0013】
本発明で用いることができる植物性タンパクとしては、ヒトの飲食に供されるもの由来であれば何ら限定されるものではない。例えば、穀類、イモ類、豆類、種実類、野菜類及び果実類等が挙げられる。植物性タンパクとしては1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
穀類としては、粟、燕麦、大麦、黍、キヌア、小麦、米、サトウキビ、蕎麦、トウモロコシ等が挙げられる。イモ類としては、蒟蒻芋、馬鈴薯、里芋、さつま芋、自然薯、キャッサバ等が挙げられる。豆類としては、インゲン、大豆、エンドウ、小豆、そら豆、レンズ豆、落花生等が挙げられる。種実類としては、アーモンド、エゴマ、カシューナッツ、南瓜の種、銀杏、栗、胡桃、ケシ、ココナツ、ゴマ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ等が挙げられる。野菜類としては、アスパラガス、南瓜、牛蒡、玉ねぎ、人参、ブロッコリー、芽キャベツ、ヘチマ、ほうれん草等が挙げられる。果実類としては、アボカド、アンズ、イチゴ、イチジク、ウメ、柑橘類、オリーブ、柿、キウイ、バナナ、マンゴー等が挙げられる。このうち、本発明においては少なくとも豆類を含有することが好ましい。
【0015】
本発明に用いる植物性タンパクとしては市販されているものを用いてよく、形状も粉末状、繊維状、粒状、液体状のものなど、特に制限されない。なお、大豆タンパクであれば、脱脂大豆を水抽出した液をpH4.0~5.0で凝固(酸沈殿)させて分離したものを中和、乾燥させることで得ることができる。
【0016】
先ず、酵素処理工程について説明する。酵素処理工程とは、植物性タンパクが有している乳化能を保持しつつ、加熱等しても凝集・沈殿しないサイズにまでプロテアーゼを用いて分解する工程のことである。植物性タンパクの酵素処理方法としては、酵素反応用のタンクに水とともに植物性タンパクを加え、攪拌させながらプロテアーゼ酵素を添加する。そして、そのまま約50℃を維持するように加熱しながら15~30分間攪拌を続ける。本実施形態に用いるプロテアーゼ酵素としては、exo型プロテアーゼが好ましい。プロテアーゼ酵素は植物性タンパクの重量の0.05~1.0%に当たる量を添加することが好ましい。プロテアーゼの添加量1.0%より多いと、植物性タンパクが分解されすぎてしまい、乳化作用が失われてしまう恐れがある。一方、プロテアーゼの添加量が0.05%より少ないと、分解に時間がかかったり、分解が不十分となったりするため、後述する加熱殺菌時の加熱によって植物性タンパクが変性・凝集してしまう恐れがある。さらに、本発明においては酵素処理後に失活処理を行ってもよい。失活処理方法としては、水温が90℃に達するまで加熱すればよい。なお、乳化作用とは、下記の食用油脂を1000μm以下の粒子形状にて、均一に水に分散させる作用、すなわち油分と水分の界面を安定化させる作用のことをいう。
【0017】
つぎに、スープ製造工程について説明する。スープ製造工程とは、プロテアーゼにより分解した植物性タンパクを用いて、肉・魚・卵・乳製品などの動物性食品を一切用いずにスープを製造する工程のことである。本発明におけるスープとは白湯スープのことであり、白湯スープとは食用油脂を1000μm以下の粒子形状で均一に水に分散させた白濁スープのことである。本実施形態においては、酵素処理後の植物性タンパクと酵素処理に用いた水に対して油を添加し、ミキサー等を用いて強制乳化させることで得られる。白湯スープに用いることができる油としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、胡麻油、ココアバター、シア脂、サル脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の各種植物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。また、本実施形態においては、1種又は2種以上組み合せて使用することができる。
【0018】
本実施形態においては、さらに香辛料、野菜のペースト液、及び調味料を添加してもよい。香辛料としては、クミン、ごま、ホワイトペッパー、ピンクペッパー、ブラックペッパー、ターメリック、ナツメッグ、バジル、パセリ、パプリカパウダー、マスタード、チリパウダー、ローリエ等が挙げられる。野菜のペースト液としては、人参、たまねぎ、にんにく等が挙げられる。調味料としては、塩、味噌、糖類、酵母エキス等が挙げられる。また、必要に応じてセルロースなどを添加してもよい。
【0019】
次に、殺菌工程について説明する。殺菌工程は後述する乾燥工程前に白湯スープに対して行う工程である。殺菌工程の温度は特に限定されないが、例えば通常60~150℃、好ましくは60~140℃、より好ましくは60~100℃、さらにより好ましくは70~100℃である。なお、プロテアーゼ処理後に失活処理を行っていない場合には85℃以上で加熱することが望ましい。
【0020】
また加熱処理の時間は、通常0.01~120分間、好ましくは0.015~60分間、より好ましくは0.02~40分間、さらにより好ましくは0.03~30分間である。なお、本実施形態においては、乳化が加熱殺菌で壊れない限り特に制限されないが、好ましくは85℃以上で10~20分間行うことが好ましい。
【0021】
加熱処理方法は、特に限定されないが、例えば、プレート式殺菌機、チューブラー式殺菌機、ジャケット付きタンク等の間接加熱式殺菌や、直接加熱式殺菌用の装置を用いて、所定の条件で加熱することができる。
【0022】
最後に乾燥工程について説明する。乾燥工程は殺菌した白湯スープを粉末化するための工程である。乾燥方法は特に制限されず、凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、棚乾燥、気流乾燥、真空乾燥のいずれを使用してもよい。また、複数の乾燥方法を併用してもよい。噴霧乾燥する際の噴霧方法は、ディスク式、加圧ノズル、加圧二流体ノズル、加圧四流体ノズル等のいずれの噴霧方法でもよく、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【実施例0023】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本実施例においては大豆タンパクを例に説明するが、これに限られるものではない。まず、市販の粉末大豆タンパク69.0gに対して水230.7g加え、水温が50℃になるように加熱した。そこに、表1に記載のプロテアーゼ酵素を大豆タンパクの重量に対して0.5%となるように添加し、水温を保ったまま攪拌しながら30分間酵素処理を行った。その後、水温が90℃に達するまで加熱して酵素を失活させた。続いて、酵素処理した大豆タンパク及び酵素処理に用いた水の入った容器に、水を追加で1482.0g、パーム油345.6g、食塩96.8g、その他大豆レシチン、デキストリン及びキサンタンガムを加え、ホモミキサーを用いて12,000rpmで10分間攪拌し、強制乳化を行った。次に、ジャケット付きタンクを用いて得られた白湯スープを85℃で20分間加熱殺菌を行った。最後に、加熱殺菌した白湯スープを、いったん常温まで冷却した後、ノズルを用いたスプレードライヤーで乾燥温度170℃、ブロワー0.65m3/min、噴霧圧100kPaの条件下で噴霧乾燥を行い、粉末白湯スープを得た。なお、プロテアーゼ処理を行わないものを比較例とした。
【0024】
【0025】
<沈殿のしやすさについて>
噴霧乾燥した粉末白湯スープ2.0gを48.0gのお湯で溶き、時間経過とともにスープに沈殿が生じるかを確認した。ここで、スープに沈殿が生じているか否かは、スープ内で濃淡の差が生じ、境界線が視認できるか否かで判断を行った。結果を表3に示す。
【0026】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、殺菌時等における加熱や、乾燥を行っても沈殿しにくく、喫食終了まで白濁した状態を維持することができるヴィーガン用粉末白湯スープの製造方法を提供することができる。