(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151110
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20220929BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20220929BHJP
B29C 41/18 20060101ALI20220929BHJP
B29C 41/36 20060101ALI20220929BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220929BHJP
B29C 44/06 20060101ALI20220929BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20220929BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20220929BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220929BHJP
B32B 27/22 20060101ALI20220929BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220929BHJP
B29K 27/06 20060101ALN20220929BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20220929BHJP
B29L 31/58 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/13
B29C41/18
B29C41/36
B29C44/00 A
B29C44/06
B29C44/36
B32B5/18 101
B32B27/30 101
B32B27/22
B32B27/18 Z
B29K27:06
B29L9:00
B29L31:58
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054028
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 智
【テーマコード(参考)】
4F100
4F205
4F214
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AH02A
4F100AK15A
4F100AK51B
4F100BA02
4F100CA04A
4F100DJ01B
4F100GB31
4F100GB33
4F100JB16A
4F100JJ04
4F100JK08
4F205AA15
4F205AB07
4F205AC04
4F205AG03
4F205AH25
4F205GA13
4F205GB01
4F205GC04
4F205GF02
4F205GN01
4F205GN29
4F214AA42
4F214AB02
4F214AC05
4F214AD05
4F214AD08
4F214AG03
4F214AH25
4F214UA01
4F214UB01
4F214UB13
4F214UB22
4F214UD17
4F214UF05
4F214UF27
4J002BD041
4J002BD051
4J002CD162
4J002EH146
4J002EJ037
4J002EJ047
4J002EJ067
4J002FD022
4J002FD026
4J002FD207
4J002GF00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体を形成可能な塩化ビニル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ポリフェノールとを含む塩化ビニル樹脂組成物。なお、塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ポリフェノールとを含む塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェノールがカテキンおよびテアフラビンの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェノールの含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.001質量部以上1質量部以下である、請求項1または2に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上である、請求項1~3のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
粉体成形に用いられる、請求項1~4のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
パウダースラッシュ成形に用いられる、請求項1~5のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる、塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項8】
自動車インスツルメントパネル表皮用である、請求項7に記載の塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項9】
発泡ポリウレタン成形体と、請求項7または8に記載の塩化ビニル樹脂成形体とを有する、積層体。
【請求項10】
自動車インスツルメントパネル用である、請求項9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、一般に、耐寒性、耐熱性、耐油性などの特性に優れているため、種々の用途に用いられている。
具体的には、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の形成には、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮や塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体などの自動車内装材が用いられている。
【0003】
そして、自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の表皮を構成する塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、顔料等の添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形などの既知の成形方法を用いて粉体成形することにより製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、例えば特許文献1では、塩化ビニル樹脂粒子と、トリメリット酸エステル系可塑剤と、フタロシアニンブルー、酸化チタンおよびカーボンの混合品よりなる顔料等の添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形することにより、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、塩化ビニル樹脂成形体を自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として使用した場合、当該塩化ビニル樹脂成形体から臭気が発生し、自動車の乗員に不快感を与え得ることが問題となっている。そのため、塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を抑制することが求められる。
【0007】
そこで、本発明は、臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体を形成可能な塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、当該塩化ビニル樹脂成形体を有し、臭気の発生が抑制された積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ポリフェノールとを含む塩化ビニル樹脂組成物を成形すれば、臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ポリフェノールとを含むことを特徴とする。このように、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ポリフェノールとを含む塩化ビニル樹脂組成物を用いれば、臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体を形成することができる。
【0010】
ここで、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記ポリフェノールがカテキンおよびテアフラビンの少なくとも一方を含むことが好ましい。ポリフェノールとしてカテキンおよびテアフラビンの少なくとも一方を用いれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制することができる。
【0011】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記ポリフェノールの含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.001質量部以上1質量部以下であることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中のポリフェノールの含有量が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制しつつ、当該塩化ビニル樹脂成形体の低温下での引張伸び(以下、「低温引張伸び」と称することがある。)を十分に高く確保することができる。
【0012】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記可塑剤の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上であることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中の可塑剤の含有量が上記所定値以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を十分に抑制しつつ、当該塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを向上させることができる。
【0013】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体が容易に得られる。
【0014】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、パウダースラッシュ成形に用いられることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体がより容易に得られる。
【0015】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなることを特徴とする。このように、上述した塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体は、臭気の発生が抑制されている。
【0016】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車インスツルメントパネル表皮用であることが好ましい。本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、臭気の発生が抑制された自動車インスツルメントパネルの表皮として好適に用いることができる。
【0017】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂成形体とを有することを特徴とする。発泡ポリウレタン成形体および上述した塩化ビニル樹脂成形体を有する積層体は、臭気の発生が抑制されている。
【0018】
そして、本発明の積層体は、自動車インスツルメントパネル用であることが好ましい。このように、本発明の積層体を自動車インスツルメントパネルに用いれば、表皮からの臭気の発生が抑制された自動車インスツルメントパネルを製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体を形成可能な塩化ビニル樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂成形体を有し、臭気の発生が抑制された積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品が備える表皮などの、自動車内装材として好適に用いることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、本発明の積層体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を用いて形成した積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を製造する際に用いる自動車内装材として好適に用いることができる。
【0021】
(塩化ビニル樹脂組成物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ポリフェノールとを含むことを特徴とする。
なお、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、任意に、上記(a)塩化ビニル樹脂、(b)可塑剤、および(c)ポリフェノール以外の添加剤を更に含んでいてもよい。
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、少なくとも、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ポリフェノールとを含んでいるため、臭気の発生が抑制された塩化ビニル樹脂成形体を形成可能である。
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を使用すれば、例えば、臭気の発生が抑制された自動車インスツルメントパネル用表皮およびドアトリム用表皮などの、自動車内装材として好適な塩化ビニル樹脂成形体を得ることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、少なくとも、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ポリフェノールとを含んでいるため、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体は低温引張伸びにも優れている。
なお、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて、自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体を容易に得る観点からは、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましく、パウダースラッシュ成形に用いられることがより好ましい。
【0022】
<(a)塩化ビニル樹脂>
(a)塩化ビニル樹脂としては、通常、粒子状の塩化ビニル樹脂を用いる。そして、(a)塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、(a)塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。
そして、(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造し得る。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0023】
また、(a)塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。そして、塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
<<塩化ビニル樹脂粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0025】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800以上であることが好ましく、900以上であることがより好ましく、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2800以下であることが更に好ましい。塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ、例えば、引張特性、特には引張伸びを良好にできるからである。そして、引張伸びが良好な塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、エアバッグが膨張、展開した際に、破片が飛散することなく設計通りに割れる、延性に優れた自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。また、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させることができるからである。
なお、本発明において「平均重合度」は、JIS K6720-2に準拠して測定することができる。
【0026】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、通常30μm以上であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が向上するからである。また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性が向上すると共に、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上できるからである。
なお、本発明において、「平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折法により体積平均粒子径として測定することができる。
【0027】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%とすることができ、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ引張伸びを良好にできるからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が向上するからである。
【0028】
<<塩化ビニル樹脂微粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0029】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、500以上が好ましく、700以上がより好ましく、2600以下が好ましく、2400以下がより好ましい。ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が良好になると共に、当該組成物を用いて得られる成形体の引張伸びが良好になるからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性が向上し、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性が向上するからである。
【0030】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径は、通常30μm未満であり、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、例えばダスティング剤としてのサイズを過度に小さくすることなく、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を良好にすることができるからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性が高まり、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上させることができるからである。
【0031】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合は、0質量%であってもよいが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が向上するからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を高めることができるからである。
【0032】
<(b)可塑剤>
(b)可塑剤は、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体に十分な柔軟性を付与し得る成分である。例えば、塩化ビニル樹脂組成物に(b)可塑剤を用いることにより、形成される塩化ビニル樹脂成形体は優れた低温引張伸びを発揮することができる。
なお、(b)可塑剤は、塩化ビニル樹脂成形体から発生する臭気の原因の1つになり得ると推察されるが、塩化ビニル樹脂組成物に(b)可塑剤と後述の(c)ポリフェノールとを併用することにより、形成される塩化ビニル樹脂成形体に優れた低温引張伸びを発揮させつつ、臭気の発生も抑制することができると考えられる。
【0033】
<<含有量>>
塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることが更に好ましく、80質量部以上であることが一層好ましく、200質量部以下であることが好ましく、180質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることが更に好ましく、120質量部以下であることが一層好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物中の(b)可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を十分に抑制しつつ、当該塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを更に向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中の(b)可塑剤の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを十分に高く確保しつつ、当該塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制することができる。
【0034】
<<種類>>
(b)可塑剤としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載の一次可塑剤および二次可塑剤などを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
上述した可塑剤の中でも、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを更に向上させる観点から、(b)可塑剤として、少なくとも一次可塑剤を用いることが好ましく、一次可塑剤および二次可塑剤を併用することがより好ましい。具体的には、(b)可塑剤としては、少なくともトリメリット酸エステルを用いることが好ましく、トリメリット酸エステルとエポキシ化植物油とを併用することが好ましい。
【0035】
<<(b1)トリメリット酸エステル>>
(b)可塑剤中に含まれ得る(b1)トリメリット酸エステルは、好ましくは、トリメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物である。
【0036】
上記一価アルコールの具体例としては、特に限定されることなく、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール等の脂肪族アルコールが挙げられる。中でも、一価アルコールとしては、炭素数6~18の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数6~18の直鎖脂肪族アルコールがより好ましい。
【0037】
中でも、上記(b1)トリメリット酸エステルとしては、上述した一価アルコールによりトリメリット酸のカルボキシ基を実質的に全てエステル化したトリエステル化物が好ましい。トリエステル化物におけるアルコール残基部分は、同一のアルコール由来のものであってもよく、それぞれ異なるアルコール由来のものであってもよい。
上記(b1)トリメリット酸エステルは、単一の化合物からなるものであってもよいし、異なる化合物の混合物であってもよい。
【0038】
好適な(b1)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリ-n-ウンデシル、トリメリット酸トリ-n-ドデシル、トリメリット酸トリアルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、及びこれらの混合物等である。
より好ましい(b1)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、及びこれらの混合物等である。
【0039】
(b)可塑剤中における(b1)トリメリット酸エステルの含有割合は、特に限定されないが、75質量%以上であることが好ましく、88質量%以上であることがより好ましく、94質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、97質量%以下であることが更に好ましい。(b)可塑剤中における(b1)トリメリット酸エステルの含有割合が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを一層高めることができる。
【0040】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)トリメリット酸エステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、40質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、65質量部以上であることが更に好ましく、75質量部以上であることが一層好ましく、199質量部以下であることが好ましく、179質量部以下であることがより好ましく、148質量部以下であることが更に好ましく、118質量部以下であることが一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)トリメリット酸エステルの含有量が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを一層高めることができる。
【0041】
<<(b2)エポキシ化植物油>>
(b)可塑剤中に含まれ得る(b2)エポキシ化植物油としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が挙げられる。中でも、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを一層向上させる観点から、エポキシ化大豆油を用いることが好ましい。
【0042】
(b)可塑剤中における上記(b2)エポキシ化植物油の含有割合は、特に限定されないが、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、25質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることが更に好ましい。(b)可塑剤中における(b2)エポキシ化植物油の含有割合が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを一層高めることができる。
【0043】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(b2)エポキシ化植物油の含有量は、特に限定されないが、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(b2)エポキシ化植物油の含有量が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを一層高めることができる。
【0044】
<(c)ポリフェノール>
塩化ビニル樹脂組成物中の(c)ポリフェノールは、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を抑制し得る成分である。なお、臭気の発生の原因は、塩化ビニル樹脂成形体の形成に用いる塩化ビニル樹脂組成物に含まれる成分(例えば、上述の(a)塩化ビニル樹脂、(b)可塑剤、および後述の添加剤など)であると推察される。
【0045】
ここで、(c)ポリフェノールは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環およびナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を有する化合物の総称である。なお、(c)ポリフェノールは、糖以外の有機化合物(非糖部)のみからなるアグリコンの形態であってもよいし、糖と糖以外の有機化合物(非糖部)とがグリコシド結合等により結合されてなる配糖体の形態であってもよい。また、(c)ポリフェノールは、特に限定されることはなく、植物由来のものであってもよいし、微生物によって産生されたものであってもよいし、化学合成されたものであってもよい。
【0046】
そして、(c)ポリフェノールとしては、特に限定されず、フラボノイド系ポリフェノールおよび非フラボノイド系ポリフェノールのいずれを用いることもできる。
【0047】
フラボノイド系ポリフェノールとしては、例えば、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、フラバノール類、フラバノノール類、イソフラボン類、アントシアニジン類、カルコン類等が挙げられる。
【0048】
フラボン類の具体例としては、アピゲニン、ルテオニン、バイカレイン等が挙げられる。
【0049】
フラボノール類の具体例としては、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチン等が挙げられる。
【0050】
フラバノン類の具体例としては、ナリンゲニン、ナリンギン、ヘスペレチン、ヘスペリジン等が挙げられる。
【0051】
フラバノール類の具体例としては、カテキン(エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等を含む)、テアフラビン等が挙げられる。
【0052】
フラバノノール類の具体例としては、タキシフォリン、アロマデンドリン等が挙げられる。
【0053】
イソフラボン類の具体例としては、ゲニステイン、ダイゼイン、ダイジン、グリシテイン、ビオカニンA、ホルモノネチン等が挙げられる。
【0054】
アントシアニジン類の具体例としては、ペラルゴニジン、シアニジン、ペオニジン、ペチュニジン、デルフィニジン、マルビジン等が挙げられる。
【0055】
カルコン類の具体例としては、キサントアンゲロール等が挙げられる。
【0056】
また、非フラボノイド系ポリフェノールの具体例としては、例えば、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸、没食子酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、レスベラトロール等が挙げられる。
【0057】
これらの(c)ポリフェノールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0058】
そして、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制する観点から、(c)ポリフェノールとしては、フラボノイド系ポリフェノールを用いることが好ましく、フラボノール類を用いることがより好ましく、カテキン、テアフラビンを用いることが更に好ましく、カテキンを用いることが特に好ましい。
【0059】
なお、(c)ポリフェノールとしては、例えば、茶(チャ)、コーヒー豆、ブルーベリー等の植物の抽出物などの混合物中に含まれた状態のものを使用することもできる。そして、(c)ポリフェノールを含む混合物としては、市販品を用いることもでき、例えば、「サンカテキン油性E」、「ポリフェノンG」(いずれも三井農林社製)、「サンカトールNo.1」(太陽化学社製)、「テアフラビン TF25」(焼津水産化学工業社製)等を用いることができる。
【0060】
塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ポリフェノールの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上であり、更に好ましくは0.01質量部以上であり、一層好ましくは0.015質量部以上であり、より一層好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは1質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以下であり、更に好ましくは0.1質量部以下であり、一層好ましくは0.05質量部以下であり、より一層好ましくは0.04質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ポリフェノールの含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ポリフェノールの含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを十分に高く確保することができる。
【0061】
塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ポリフェノールの含有量は、上記(b)可塑剤100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上であり、更に好ましくは0.012質量部以上であり、一層好ましくは0.015質量部以上であり、より一層好ましくは0.024質量部以上であり、好ましくは1質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以下であり、更に好ましくは0.1質量部以下であり、一層好ましくは0.06質量部以下であり、より一層好ましくは0.045質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ポリフェノールの含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ポリフェノールの含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを十分に高く確保することができる。
【0062】
<添加剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、滑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β-ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のその他のダスティング剤;耐衝撃性改良剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等);酸化防止剤;防カビ剤;難燃剤;帯電防止剤;充填剤;光安定剤;発泡剤;顔料;などが挙げられる。
【0063】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物が含み得る上述した添加剤としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができ、その好適含有量も国際公開第2016/098344号の記載と同様とすることができる。
【0064】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上記以外の添加剤として、ビタミンE類を更に含んでいることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物が添加剤としてビタミンE類を更に含んでいれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制することができる。
【0065】
ビタミンE類としては、特に限定されないが、トコフェロールおよびトコトリエノール、並びに、これらの誘導体を用いることができる。
【0066】
ここで、トコフェロールとしては、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、および、これらの混合物(「ミックストコフェロール」と称することがある。)などが挙げられる。
トコフェロール誘導体としては、酢酸トコフェロール(トコフェロールと酢酸とのエステル化合物)、ニコチン酸トコフェロール(トコフェロールとニコチン酸とのエステル化合物)、リノール酸トコフェロール(トコフェロールとリノール酸とのエステル化合物)、コハク酸トコフェロール(トコフェロールとコハク酸とのエステル化合物)、およびこれらの塩などが挙げられる。
また、トコトリエノールとしては、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノール、および、これらの混合物などが挙げられる。
トコトリエノール誘導体としては、酢酸トコトリエノール(トコトリエノールと酢酸とのエステル化合物)、ニコチン酸トコトリエノール(トコトリエノールとニコチン酸とのエステル化合物)、リノール酸トコトリエノール(トコトリエノールとリノール酸とのエステル化合物)、コハク酸トコトリエノール(トコトリエノールとコハク酸とのエステル化合物)、およびこれらの塩などが挙げられる。
なお、上述したトコフェロールおよびトコトリエノール、並びに、これらの誘導体は、d-体であってもよいし、l-体であってもよいし、dl-体であってもよいものとする。
また、上述したトコフェロールおよびトコトリエノール、並びに、これらの誘導体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
そして、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を一層抑制する観点から、ビタミンE類としては、トコフェロールを用いることが好ましい。
【0067】
塩化ビニル樹脂組成物中におけるビタミンE類の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上であり、更に好ましくは0.01質量部以上であり、一層好ましくは0.015質量部以上であり、より一層好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは1質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以下であり、更に好ましくは0.1質量部以下であり、一層好ましくは0.045質量部以下であり、より一層好ましくは0.04質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中におけるビタミンE類の含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中におけるビタミンE類の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを十分に高く確保することができる。
【0068】
塩化ビニル樹脂組成物中におけるビタミンE類の含有量は、上記(b)可塑剤100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上であり、更に好ましくは0.012質量部以上であり、一層好ましくは0.015質量部以上であり、より一層好ましくは0.024質量部以上であり、好ましくは1質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以下であり、更に好ましくは0.1質量部以下であり、一層好ましくは0.055質量部以下であり、より一層好ましくは0.045質量部以下である。塩化ビニル樹脂組成物中におけるビタミンE類の含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体からの臭気の発生を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中におけるビタミンE類の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを十分に高く確保することができる。
【0069】
<塩化ビニル樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ポリフェノールと、必要に応じて更に配合される各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、ダスティング剤(塩化ビニル樹脂微粒子を含む)を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0070】
<塩化ビニル樹脂組成物の用途>
そして、得られた塩化ビニル樹脂組成物は、特に限定されないが、粉体成形に好適に用いることができ、パウダースラッシュ成形に更に好適に用いることができる。
【0071】
(塩化ビニル樹脂成形体)
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を、任意の方法で成形することにより得られることを特徴とする。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成されているため、通常、少なくとも、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ポリフェノールとを含んでおり、臭気の発生が抑制されている。また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成されているため、低温引張伸びにも優れている。
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂成形体に発泡ポリウレタン成形体を裏打ちして形成された積層体は、臭気の発生が抑制されているため、自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。
【0072】
<塩化ビニル樹脂成形体の形成方法>
ここで、パウダースラッシュ成形により塩化ビニル樹脂成形体を形成する場合、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0073】
そして、塩化ビニル樹脂成形体を製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型する。そして、金型の形状をかたどったシート状の成形体を得る。
【0074】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体とを有する。なお、塩化ビニル樹脂成形体は、通常、積層体の一方の表面を構成する。
そして、本発明の積層体は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体を有しているため、臭気の発生が抑制されている。したがって、本発明の積層体は、自動車内装部品、特に、自動車インスツルメントパネルを形成する自動車内装材として好適に用いられる。
【0075】
ここで、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形体との積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後に、熱融着、熱接着、または、公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;(2)塩化ビニル樹脂成形体上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂成形体上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においても塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)が好適である。
【実施例0076】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、塩化ビニル樹脂成形シートの低温引張伸びおよび臭気強度は、下記の方法で測定および評価した。
【0077】
<低温引張伸び>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートを、JIS K6251に記載の1号ダンベルで打ち抜き、JIS K7113に準拠して、引張速度200mm/分で、-20℃の低温下における引張破断伸び(%)を測定した。引張破断伸びの値が大きいほど、塩化ビニル樹脂成形シートは低温下での引張伸び(低温引張伸び)に優れている。
【0078】
<臭気強度>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートを1Lのガラス瓶に入れ、蓋で密閉して、80℃のオーブン内に2時間静置して加熱した。
加熱後ガラス瓶を取り出し、蓋をあけて、7人のパネラーでビン内部の空気のにおいを嗅ぎ、下記の通り、臭気が強いほど高い級数を示す0級から5級までの基準にて0.5級刻みで判定した。
0級:無臭
1級:やっと感知できる臭い
2級:何のにおいであるかわかる弱い臭い
3級:楽に感知できる臭い
4級:強い臭い
5級:強烈な臭い
7人の判定結果の級数のうち、最大値と最小値とを除いて平均値をとり、得られた値を臭気強度とした。
【0079】
(実施例1)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合成分のうち、可塑剤と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度70℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
<塩化ビニル樹脂成形体の形成>
以下のようにして、寸法が150mm×200mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを調製した。
具体的には、上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体としての塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
そして、得られた塩化ビニル樹脂成形シート(寸法:150mm×200mm×1mm)について、上述の方法に従って、臭気強度、および低温引張伸びを測定、評価した。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例2~6、8~10)
ポリフェノールの種類および使用量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例7)
ポリフェノールの種類および使用量、並びに可塑剤の使用量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例1)
ポリフェノールを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形体を作製した。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
1)新第一塩ビ(株)製、製品名「ZEST 1000Z」(懸濁重合で得られた塩化ビ
ニル樹脂粒子、平均重合度1000、平均粒子径145μm)
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法で調製、平均重合度:800、平均粒子径:1.8μm)
3)花王社製、製品名「トリメックスN-08」(トリメリット酸トリノルマルアルキル(C8,C10))
4)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O-130S」
5)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
6)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
7)昭和電工社製、製品名「カレンズDK-1」
8)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
9)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ SC-131」
10)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS-12」
11)太陽化学社製、製品名「サンカトールNo.1」(カテキン製剤、カテキン10質量%、トコフェロール9質量%含有)
12)三井農林社製、製品名「サンカテキン油性E」(チャ抽出物製剤、カテキン含有)
13)三井農林社製、製品名「ポリフェノンG」(チャ抽出物、茶由来のポリフェノール30質量%以上含有)
14)焼津水産化学工業社製、製品名「テアフラビン TF25」(チャ抽出物、テアフラビン25質量%以上含有)
15)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
【0085】
表1より、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ポリフェノールとを含む実施例1~10の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形シートでは、ポリフェノールを含まない比較例1の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形シートと比較して、臭気の発生を抑制できていることが分かる。