(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151225
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】積層した吸着剤を用いた未分化度が異なる細胞の分離方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20220929BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220929BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C12N1/02 ZNA
C12N15/31
C07K14/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054196
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸山 高廣
(72)【発明者】
【氏名】林 政浩
(72)【発明者】
【氏名】栗原 桃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01Y
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD39
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA60
4H045CA11
4H045EA34
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】
細胞表面に存在する未分化マーカーの発現量が異なる細胞集団から、未分化マーカー発現量が異なる細胞を簡便に効率良く分離する技術を提供すること。
【解決手段】
フコース結合性タンパク質の水不溶性担体への固定化が異なる複数の吸着剤を調製し、
未分化糖鎖マーカー発現量が異なる細胞集団を、まず初めにフコース結合性タンパク質固定化量の低い吸着剤に接触させ、次に段階的にフコース結合性タンパク質の固定化量の高い吸着剤へと接触させ、細胞表面に存在する未分化糖鎖マーカーの発現量の異なる細胞を分離回収することで前記課題を解決する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコース結合性タンパク質が水に不溶性の担体に固定化されてなる吸着剤を用いる細胞の分離方法であって、未分化度の異なる細胞集団を、フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤に結合させる工程と、吸着剤に結合しなかった細胞を取得する工程とを含む、未分化度の異なる細胞の分離方法。
【請求項2】
未分化度の異なる細胞集団を、フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤に対し、フコース結合性タンパク質の固定化量が低い吸着剤からフコース結合性タンパク質の固定化量が高い吸着剤へと段階的に結合させる工程と、吸着剤に結合しなかった細胞を取得する工程とを含む、請求項1に記載の未分化度の異なる細胞の分離方法。
【請求項3】
フコース結合性タンパク質の固定化量が50mg/L-吸着剤から1000mg/L-吸着剤であって、フコース結合性タンパク質の固定化量が100mg/L-吸着剤以上異なる複数の吸着剤を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の未分化度の異なる細胞の分離方法。
【請求項4】
未分化度の異なる細胞集団が、細胞の表面に、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖が発現していることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の未分化度の異なる細胞の分離方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法を用いて、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現量が異なる細胞を分離する方法。
【請求項6】
フコース結合性タンパク質が以下の(a)から(d)のいずれかである、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、以下の(1)から(3)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(d)前記(c)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
【請求項7】
フコース結合性タンパク質が、以下の(e)から(h)のいずれかである、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
(e)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(f)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列が付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(g)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列において、以下の(4)から(6)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(6)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(h)前記(g)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
【請求項8】
フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤を充填してなるカラムを用いることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフコース結合性タンパク質を水に不溶性の担体に固定化した吸着剤を用いた細胞分離方法であり、担体へのフコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤を積層したカラムに段階的に細胞集団を接触させ、カラムより流出した細胞の分画を回収することで、未分化度の異なる細胞集団を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)が産生するBC2L-CレクチンのN末端ドメインに由来するBC2LCNは、フコース残基を含む糖鎖への結合親和性を有するタンパク質であり、例えば、非特許文献1、特許文献1および特許文献2に記載の未分化糖鎖マーカーとして知られているHタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)およびHタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)以外に、ルイスY型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)やルイスX型糖鎖(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)等のフコース残基を含む複数種の糖鎖に高い結合親和性を有することが知られている(非特許文献2)。
【0003】
また、BC2LCNは、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖が高発現している未分化状態のヒトiPS細胞やヒトES細胞には結合するが、ヒト体細胞には結合しないことが知られている(非特許文献3)。
【0004】
さらに、BC2LCNは前記未分化糖鎖マーカーに結合性を有することから、例えば、未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出や、ヒトiPS細胞やヒトES細胞等の未分化細胞の検出に使用されている(特許文献1および特許文献2)。また、Hタイプ1型糖鎖はSSEA-5として特定のがん細胞に高発現していることが知られている(非特許文献4)。
【0005】
BC2LCNは既知の未分化細胞検出用抗体である抗Nanog抗体等と同等の未分化幹細胞検出能をもっているものの(特許文献2)、BC2LCNと未分化細胞の糖鎖の結合は静電相互作用によるものであり、結合の強さは溶媒や塩濃度等の外環境の影響を受ける。このため、実験条件によっては前記未分化細胞および/または前記未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出において、当該糖鎖とBC2LCNの結合親和性が低くなる可能性が考えられることから、前記未分化糖鎖マーカーへの結合親和性が向上したBC2LCNが求められている。
【0006】
BC2LCNを水不溶性担体に固定化した吸着剤を利用した細胞分離方法としては、ヒトiPS細胞などの未分化細胞を除去する細胞分離方法が知られているほか(特許文献3)、さらに吸着剤に結合した未分化細胞を剥離回収する方法が知られている(特許文献4)。しかしながら、これらの特許文献に開示されている方法では、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖を発現している細胞と、発現していない細胞を分離することはできたが、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖の発現量の異なる異種細胞集団、または同一種細胞集団からHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖の発現量の異なる細胞を個別に分離することはできなかった。
【0007】
一般的に、細胞表面の未分化マーカーの発現量や、それぞれの細胞種を特徴づけるCD(cluster of differentiation)分類による細胞表面抗原などのマーカー発現量の違いを利用して細胞を分離する方法として、磁気ビーズによる細胞分離方法(非特許文献5)や、セルソーターによる細胞のソーティング(非特許文献5)、細胞ローリングカラムによる細胞分離方法(非特許文献6)が知られている。しかし、磁気ビーズによる細胞分離方法では、大量細胞の処理には適しているものの、未分化マーカー発現量やCD抗原発現量の差異が小さい細胞同士は分離できず、また、磁気ビーズが細胞へ接着することによる細胞ダメージや、異物混入といった品質管理上の問題があり、更には回収した細胞の増殖性・分化指向性への影響が懸念されていた。また、セルソーターによる細胞のソーティング、細胞ローリングカラムによる細胞分離方法では、高価な装置を必要とし、大量の細胞を処理するには多大な時間を要するなど、細胞分離効率の点で大きな問題点があった。
【0008】
しかるに現状では、再生医療用途に向け、細胞表面の未分化マーカー発現量やCD抗原発現量などの違いをもとに、大量の細胞を短時間で、精度良く分離精製する技術の開発が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2013/065302号
【特許文献2】WO2013/128914号
【特許文献3】特開2018-134073号公報
【特許文献4】特開2019-000063号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tateno,H等,Stem Cells Transl Med.2013,2(4):265-273.
【非特許文献2】Sulak,O等,Structure.2010,18(1):59-72.
【非特許文献3】Tateno,H等,J Biol Chem.2011,286(23):20345-20353.
【非特許文献4】Tang,C等,Nat Biotechnol.2011,29(9):829-835.
【非特許文献5】Fong CY等,Stem Cell Rev Rep.2009,5(1):72-80.
【非特許文献6】Mahara,A等,J Biomater Sci Polym Ed.2014,25(14-15):1590-601.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、再生医療用途の細胞の調製において、大量の細胞から短時間で、未分化度の異なる細胞集団を分離精製可能な技術、具体的には、細胞表面に存在する未分化マーカーの発現量の異なる細胞集団を分離する技術を提供することである。
より具体的には、担体へのフコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤を積層したカラムに、細胞集団を段階的に接触させたのち、吸着剤に結合しなかった細胞の分画を回収することにより、未分化度の異なる細胞集団を個別に、簡便かつ効率良く分離する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、細胞表面に存在する未分化マーカーであるFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現量の異なる細胞集団を、まずフコース結合性タンパク質の固定化量が低い吸着剤に接触させ、しかる後に、段階的にフコース結合性タンパク質の固定化量がより高い吸着剤に接触させていき、吸着剤に吸着しなかった細胞の分画を回収することにより、細胞表面に存在する未分化マーカーの発現量の異なる細胞集団を元の細胞集団から分離回収可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]から[8]に記載した発明を包含するものである。
[1]
フコース結合性タンパク質が水に不溶性の担体に固定化されてなる吸着剤を用いる細胞の分離方法であって、未分化度の異なる細胞集団を、フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤に結合させる工程と、吸着剤に結合しなかった細胞を取得する工程とを含む、未分化度の異なる細胞の分離方法。
[2]
未分化度の異なる細胞集団を、フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤に対し、フコース結合性タンパク質の固定化量が低い吸着剤からフコース結合性タンパク質の固定化量が高い吸着剤へと段階的に結合させる工程と、吸着剤に結合しなかった細胞を取得する工程とを含む、前記[1]に記載の未分化度の異なる細胞の分離方法。
[3]
フコース結合性タンパク質の固定化量が50mg/L-吸着剤から1000mg/L-吸着剤であって、フコース結合性タンパク質の固定化量が100mg/L-吸着剤以上異なる複数の吸着剤を用いることを特徴とする、前記[1]または[2]に記載の未分化度の異なる細胞の分離方法。
【0014】
[4]
未分化度の異なる細胞集団が、細胞の表面に、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖が発現していることを特徴とする、前記[1]から[3]のいずれかに記載の未分化度の異なる細胞の分離方法。
[5]
前記[1]から[4]のいずれかに記載の方法を用いて、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現量が異なる細胞を分離する方法。
[6]
フコース結合性タンパク質が以下の(a)から(d)のいずれかである、前記[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、以下の(1)から(3)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(d)前記(c)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
【0015】
[7]
フコース結合性タンパク質が、以下の(e)から(h)のいずれかである、前記[1]から前記[5]のいずれかに記載の方法。
(e)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(f)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列が付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(g)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列において、以下の(4)から(6)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(6)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(h)前記(g)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
【0016】
[8]
フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤を充填してなるカラムを用いることを特徴とする、前記[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の積層した吸着剤を用いた未分化度の異なる細胞を分離する方法(以降、本発明の細胞分離方法と略する場合もある)は、フコース結合性タンパク質が水に不溶性の担体に固定化されてなる吸着剤を用いた細胞の分離方法であって、担体へのフコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤を積層したカラムに対し、段階的に細胞集団を接触させたのち、吸着剤に結合しなかった細胞を分画として取得する工程を含むことを特徴とする、未分化度の異なる細胞の分離方法である。
【0019】
本発明の細胞分離方法において、未分化マーカーとは、細胞表面に存在する未分化度の指標となる分子のことであり、具体的には上記のフコース結合性タンパク質が結合し得る、フコース含有糖鎖として知られているHタイプ1型糖鎖構造、Hタイプ3型糖鎖構造、ルイスY型糖鎖構造、および/またはルイスb型糖鎖構造を含む糖鎖を有するFucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を例示することができる。また、本発明における未分化マーカーは、上記糖鎖構造のみに限定されず、一般的に細胞表面の未分化マーカーとして知られているTRA-1-60、TRA-1-81やSSEA-3、SSEA-4、SSEA-5などであっても良い。
【0020】
本発明の細胞分離方法において、未分化度の異なる細胞とは、前記未分化マーカーの細胞表面における発現性が異なるものを言う。未分化度の異なる細胞とは、まず第一に、上記未分化マーカーの発現量が明らかに異なる細胞を示唆している。この場合、未分化マーカーの発現量とは、細胞集団のうち未分化マーカー分子を細胞表面に発現している細胞の割合、または、ひとつの細胞あたりの表面に存在する未分化マーカー分子の個数や密度の強弱により決定される。未分化マーカーとして前記フコース結合性タンパク質が結合し得る糖鎖を例とした場合、未分化マーカー分子を有する細胞の割合については、例えばK562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病)やNHDF細胞(ヒト皮膚線維芽細胞)には前記フコース結合性タンパク質と結合する糖鎖を有する細胞が細胞集団に存在しないことが知られている。また2102Ep細胞(ヒト胚性腫瘍細胞)などは、細胞集団のうち5割から8割程度が前記フコース結合性タンパク質と結合する糖鎖を発現しており、またヒト多能性幹細胞であるヒトES細胞およびヒトiPS細胞では、ほぼ100%に近い細胞が前記フコース結合性タンパク質と結合する糖鎖を発現していることが知られている。
【0021】
このように種類の異なる細胞種(以下、異種細胞と略す)では未分化マーカー分子を有する細胞の割合は異なると考えられる。また、異種細胞の未分化度の比較において、仮にそれぞれの細胞種が、前記フコース結合性タンパクと結合する糖鎖を同じ割合の細胞数で発現しているとしても、異種細胞であれば細胞表面に存在する未分化マーカー分子の個数や密度は異なると考えられる。
【0022】
また第二に、単一の細胞種であっても未分化度の異なる細胞集団とは、個々の細胞ごとに細胞表面に存在する未分化マーカー分子の個数や密度が異なるものが混在する場合を指す。例えば未分化マーカーが前記フコース結合性タンパク質と結合し得る糖鎖である場合、2102Ep細胞ではこの糖鎖の発現量が少ない細胞から多い細胞まで多岐に存在することから、単一細胞種であっても未分化マーカー発現量の異なる細胞集団の混合体と考えられ、この場合も本発明における未分化度の異なる細胞に含まれる。
【0023】
また、ヒトiPS細胞の場合、前述のようにほぼ100%に近い細胞が前記フコース結合性タンパクと結合する糖鎖を発現していることが知られているものの、培養状態の如何によっては未分化度の低い未分化逸脱細胞が1%未満程度存在することが知られており、この場合も本発明においては、ヒトiPS細胞と未分化逸脱ヒトiPS細胞は単一の細胞種であっても未分化度の異なる細胞と考えることができる。さらに第三の形態として、前述の第一に示した未分化マーカーの発現量が異なる異種細胞の混合物であり、かつそこに含まれる一種類以上の前記フコース結合性タンパク質と結合する糖鎖を有する細胞が、第二に示した個々の細胞ごとに細胞表面に存在する未分化マーカー分子の個数や密度が異なる状態で混在した、全ての細胞集団のことを指す。
【0024】
本発明では、これら第一から第三までの全ての形態の細胞混合物を、分離対象とすることが可能である。
【0025】
本発明の細胞分離方法において分離対象となる細胞混合物は、このように未分化マーカー発現量の異なる異種細胞の混合物でも良く、また未分化マーカー発現量の異なる細胞集団の集合体である単一細胞種でも良く、またその両者が混在する細胞混合物であっても良い。本発明では、未分化マーカー発現量の異なる異種細胞、および単一細胞種のうちでも未分化マーカー発現量の異なる細胞集団であれば、それぞれ細胞種の違い、未分化マーカー発現量の違いによって、未分化度の異なる細胞の分離を行うことが可能である。また、この場合、未分化マーカー発現量の異なる異種細胞の種類の数、および単一細胞種のうちの未分化マーカー発現量の異なる細胞集団の種類の数は、2種類またはそれ以上であってもよい。
【0026】
なお、未分化マーカー発現量の違いの指標は、例えば具体的には、一定数・同量の細胞懸濁液を同濃度・同量の蛍光抗体液などで処理した場合の、セルソーターBD FACSAria(ベクトン・ディッキンソン製)などで検出可能な細胞集団の蛍光強度のシフトの度合いと考えて差し支えない。
【0027】
本発明の細胞分離方法は、前述した未分化度の異なる細胞集団を、まずフコース結合性タンパク質の固定化量が低い吸着剤に接触させたのち、よりフコース結合性タンパク質の固定化量が高い吸着剤へと段階的に接触させていき、吸着剤に結合しなかった細胞の分画を回収する工程を含む細胞分離方法である。
【0028】
この場合、異なるフコース結合性タンパク質固定化量で調製された吸着剤は、少なくとも2種以上を用いれば良く、細胞集団を吸着剤に接触させる順番が、フコース結合性タンパク質の固定化量が低い吸着剤から高い吸着剤へと移行する形態であれば、用いる吸着剤の種類数は限定されない。またこの場合、吸着剤に固定化するフコースタンパク質は、同一種のアミノ酸配列のもの、または、後述するようなアミノ酸置換を行って機能を向上させたものの、どちらを用いることも可能であり、さらに、アミノ酸配列の異なるフコース結合性タンパク質それぞれを、異なる固定化量で固定化した吸着剤を複数種調製し、その中より任意に2つ以上の吸着剤を選択して、組合わせて用いることも可能である。
【0029】
本発明の細胞分離方法では、まず未分化度の異なる細胞集団を、フコース結合性タンパク質の固定化量が低い吸着剤に接触させることで、細胞集団に含まれる未分化度の高い細胞集団を選択的に吸着剤に捕捉することができる。
【0030】
次に、残りの細胞集団を段階的にフコース結合性タンパク質の固定化量がより高い吸着剤へ接触させていくことで、細胞集団に含まれる、より未分化度の低い細胞集団を吸着剤に捕捉することができる。従って、例えば本発明の細胞分離方法を吸着剤に充填してなるカラムを用いて実施する場合、カラム内の上部にフコース結合性タンパク質の固定化量の低い吸着剤、カラム内の下部にフコース結合性タンパク質の固定化量の高い吸着剤を積層することで、未分化度の異なる細胞集団を接触させた場合に、カラム内の上部に充填されたフコース結合性タンパク質の固定化量の低い吸着剤には未分化度の高い細胞集団が、カラム内の下部に充填されたフコース結合性タンパク質の固定化量の高い吸着剤には未分化度の低い細胞集団が選択に吸着されることになる。
【0031】
この場合、個々の細胞表面の未分化糖鎖マーカーの発現量の違いをもとに、カラム内の上部からカラム下部への方向へ、未分化マーカー糖鎖発現量の高い細胞すなわち未分化度の高い細胞から、未分化糖鎖マーカー発現量の低い細胞すなわち未分化度の低い細胞というような、未分化糖鎖マーカー発現量の違いによる細胞分布が形成されていると考えられる。然るにカラム下端部よりまず流出する細胞は未分化度の低い細胞集団であり、また、後になり流出してくる細胞ほど未分化度が高い細胞集団と考えられることから、カラム下端部より流出する未分化度が異なる各細胞集団の分画を細かに回収することで、未分化度の異なる細胞集団をそれぞれ分離することが可能である。
【0032】
また、この場合、細胞表面の未分化糖鎖マーカーと吸着剤のフコース結合性タンパク質の結合は可逆的であり、なおかつ細胞自身の重力やカラム上端部から導入する溶液流の剪断力による影響を受けることから、細胞は吸着剤との結合と脱着を繰り返していると考えられ、本発明の細胞分離方法で用いるような、カラムに充填した形状の複数の吸着剤のうち、任意の単一のフコース結合性タンパク質固定化量の吸着剤には、カラム上端部に近いほど未分化度の高い細胞集団、上端部から遠いほど未分化度の低い細胞集団、といった細胞分布が形成されていると考えられる。
【0033】
この現象は、例えば抗CD34抗体固定化細胞ローリングカラムにおいて証明されているような、CD34抗原発現量の低い細胞ほど移動速度が速く流出が早い一方、CD34抗原発現量の高い細胞ほど移動速度が遅く流出が遅い、といった現象と同じ原理であると考えられる。
【0034】
本発明の細胞分離方法では、フコース結合性タンパク質の固定化量が50mg/L-吸着剤から1000mg/L-吸着剤を用いることが可能であり、互いの吸着剤のフコース結合性タンパク質固定化量が100mg/L-吸着剤以上異なるような複数の吸着剤を用いることが好適である。本発明の細胞分離方法の形態としては例えば、まずフコース結合性タンパク質の固定化量が100mg/L-吸着剤である吸着剤に細胞集団を接触させ、接触後の細胞集団を次いでフコース結合性タンパク質の固定化量が200mg/L-吸着剤である吸着剤に接触させ、さらにフコース結合性タンパク質の固定化量が300mg/L-吸着剤である吸着剤に接触させる、といった手順を例示することができる。使用する複数の吸着剤におけるフコース結合性タンパク質の種類、フコース結合性タンパク質の固定化量、吸着剤の組合せ、それぞれの吸着剤の使用量(吸着剤の比率)は、目的とする分離対象の未分化細胞の未分化度の高低、範囲(ばらつき)などに応じて適宜調整すれば良い。
【0035】
本発明の細胞分離方法の最良の実施形態としては、垂直に立てたカラムに、フコース結合性タンパク質の固定化量が低い吸着剤をカラム内の上部に、フコース結合性タンパク質の固定化量が高い吸着剤をカラム内の下部になるよう、複数の吸着剤を積層して充填したものが挙げられる。この場合、吸着剤の充填方法は特に限定されず、充填された吸着剤表面上へのフコース結合性タンパク質固定化量に濃度勾配が出来ていればよく、フコース結合性タンパク質固定化量の異なる吸着剤を複数積層して充填して用いる、または、吸着剤上へ固定化したフコース結合性タンパク質の濃度勾配が直線的になるように吸着剤を充填して用いてもよい。
【0036】
次に、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質について説明する。本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質とは、Hタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)、Hタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)、ルイスY型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)、ルイスb型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc)等のフコース含有糖鎖への結合性を有するタンパク質であり、前述した組換えBC2LCNレクチンも本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質に含まれる。本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質は、具体的には、(a):配列番号1で示される組換えBC2LCNレクチンのアミノ酸配列(GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から156番目までのアミノ酸配列と一致する。)のうち1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列を含むタンパク質であって、Xが120以上の整数であるタンパク質、または(b):配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、Hタイプ1型糖鎖および/またはHタイプ3型糖鎖への結合性を有し、Xが120以上の整数であるタンパク質を、大腸菌の形質転換体で組換えタンパク質として発現させたものである。
【0037】
本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質は、前記フコース含有糖鎖、特にFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加してもよく、例えば15個以下、好ましくは10個以下のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加してもよい。また、Xは120以上155以下であってよく、125以上155以下であってよい。
【0038】
特開2020-25535に開示されているように、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のC末端側の複数個のアミノ酸残基を欠失させることにより、当該アミノ酸残基を欠失させない場合に比べて大腸菌の形質転換体で製造した場合の生産性(発現量)を向上させることができる。
【0039】
また、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質は、熱に対する安定性を向上させる点で、(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換、(ii)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基のグリシン残基および/またはアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換、(iii)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換、のいずれか1つ以上を含んでいてもよい。
【0040】
特開2020-25535に開示されているように、前記(i)から(iii)に記載のアミノ酸置換を行うことにより、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質の熱に対する安定性を向上させることができる。前記(i)から(iii)に記載のアミノ酸置換は、単独であっても複数を組み合わせても熱に対する安定性の向上に効果があるが、熱に対する安定性をさらに向上させることができる点で、前記(i)から(iii)に記載のアミノ酸置換を複数組合せることがより好ましい。
【0041】
さらに、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列において、前記(i)から(iii)の置換により置換された位置以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基を欠失、置換若しくは挿入してもよく、例えば15個以下、好ましくは10個以下のアミノ酸残基を欠失、置換若しくは挿入してもよい。
【0042】
本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質の具体例としては、配列番号1、配列番号2(配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち1番目から127番目までのアミノ酸配列)、配列番号3(配列番号2の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号4(配列番号2の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号5(配列番号2の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、65番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号6(配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)、配列番号7(配列番号2で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)、配列番号8(配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)、配列番号9(配列番号4で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)および配列番号10(配列番号5で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)のいずれかで示されるフコース結合性タンパク質を挙げることができる。
【0043】
本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、そのN末端側および/またはC末端側に、フコース結合性タンパク質を検出する際に有用な付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。前記付加的なアミノ酸配列としては、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(以下、GSTとする。)、マルトース結合タンパク質、セルロース結合性ドメイン、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。
【0044】
これらの付加的なアミノ酸配列の中では、大腸菌を用いて製造した場合の生産性が高く、蛍光標識した抗ポリヒスチジン抗体あるいは抗GST抗体を用いることでフコース結合性タンパク質の検出が容易に行える点で、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドあるいはGSTであることが好ましく、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドであることがより好ましい。
【0045】
ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数特に制限はないが、ヒスチジンの繰返し配列が短い場合は抗ポリヒスチジン抗体による検出が困難となり、長い場合は、フコース結合性タンパク質の前記糖鎖への結合性が損なわれる可能性がある。従って、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数の長さはヒスチジンが5個から15個からなる繰返し配列であることが好ましく、5個から10個からなる繰返し配列であることがより好ましい。
【0046】
前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、または、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、抗ポリヒスチジン抗体による検出が効率的に行える点で、前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のN末端側に付加されていることが好ましい。
【0047】
さらに、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質は、そのN末端側および/またはC末端側に、フコース結合性タンパク質を水不溶性の担体に固定化する際に有用な、システイン残基またはリジン残基を含むオリゴペプチドからなる付加的なアミノ酸配列(以下、担体固定化用タグと呼ぶ。)を有していても良い。フコース結合性タンパク質を担体に固定化することで、例えば、特許文献3に記載されているヒトiPS細胞等の未分化細胞を除去するための未分化細胞吸着剤を作製することができる。前記担体固定化用タグの長さは、フコース結合性タンパク質がFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、特に制限はない。担体固定化用タグとしては、水不溶性担体への固定化が高選択的かつ高効率に行える点で、システイン残基を1つ以上含む2から10アミノ酸残基からなるオリゴペプチドが好ましく、具体的には、「Gly-Gly-Cys」の3アミノ酸残基からなるオリゴペプチド、「Ala-Ser-Gly-Gly-Cys」の5アミノ酸残基からなるオリゴペプチドおよび「Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Cys」の7アミノ酸残基からなるオリゴペプチドを例示することができる。前記システインを1つ以上含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、フコース結合性タンパク質の担体への固定化が効率的に行える点、さらにはフコース結合性タンパク質の活性中心から離れるため結合活性を阻害しにくいという点において、前記システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のC末端側に付加されていることが好ましい。
【0048】
本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドとしては、PelB、DsbA、MalE、TorT等といったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質をコードするDNAは、公知の方法により調製することができる。前記DNAの調製法として、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列から塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に合成する方法や、本発明の細胞分離方法におけるフコース結合性タンパク質をコードするDNAを直接人工的に調製する方法、またはBurkholderia cenocepaciaのゲノムDNA等からPCR法などのDNA増幅法を用いて調製する方法を例示することができる。
【0049】
なお、当該調製法において、前記塩基配列を設計する際は、形質転換する大腸菌におけるコドンの使用頻度を考慮することが好ましく、例えば、アルギニン(Arg)ではAGA、AGG、CGGまたはCGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないコドン(レアコドン)であるため、これらのコドン以外のコドンを選択して変換することが好ましい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database、http://www.kazusa.or.jp/codon/、アクセス日:2020年5月7日)を利用することによっても可能である。
【0050】
前記方法により調製したフコース結合性タンパク質をコードするDNAを用いて大腸菌を形質転換するには、当該DNAそのものを用いて形質転換してもよいが、例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等を基にしたベクター中の適切な位置に当該DNAを挿入して発現ベクターとし、それを用いて形質転換することが、安定した形質転換が実施できる点で好ましい。ここで、適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、および伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。またベクターに当該DNAを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性DNAに連結される状態でベクターに挿入することが好ましい。前記発現ベクターとして使用するベクターは、宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、pETベクター、pUCベクター、pTrcベクター、pCDFベクター、pBBRベクター等が例示できる。また、前記プロモータとしては、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、さらにはλファージのλPLプロモータ、λPRプロモータ等を挙げることができる。前記発現ベクターを用いて宿主である大腸菌を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行えばよく、例えば、宿主として大腸菌JM109株、大腸菌BL21(DE3)株、大腸菌NiCo21(DE3)株、大腸菌W3110株などを選択する場合には、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等を使用することができる。
【0051】
次に、本発明におけるフコース結合性タンパク質の製造方法について説明する。本発明におけるフコース結合性タンパク質は、前記形質転換体を培養することでフコース結合性タンパク質を生産する工程(以下、第1工程という。)と、得られた培養物からフコース結合性タンパク質を回収する工程(以下、第2工程という。)の2つの工程を含む工程により製造することができる。なお本明細書において、培養物とは、培養された形質転換体の細胞自体や細胞分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる。前記第1工程では、形質転換体をその培養に適した培地で培養すればよい。例えば、宿主として大腸菌を用いた場合、必要な栄養源を補ったTerrific Broth(TB)培地、Luria-Bertani(LB)培地等を使用することが好ましい。発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を含む場合、その遺伝子に対応した薬剤を培地に添加して第1工程を実施すれば、形質転換体の選択的増殖が可能となり、例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加することが好ましい。培養温度は利用する宿主に関して一般的に知られた温度であればよく、例えば宿主が大腸菌である場合、10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃であり、フコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。
【0052】
また、培地のpHは、利用する宿主に関して一般的に知られたpH範囲とすればよく、例えば宿主が大腸菌である場合、pH6.8からpH7.4の範囲、好ましくはpH7.0前後であり、フコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。発現ベクターに誘導性のプロモータを導入した場合は、フコース結合性タンパク質が良好に製造可能な条件下で培地に誘導剤を添加してその発現を誘導すればよい。好ましい誘導剤としては、例えば、tacプロモータやlacプロモータを使用する場合はisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を挙げることができ、その添加濃度は0.005mMから1.0mMの範囲、好ましくは0.01mMから0.5mMの範囲である。IPTG添加による発現誘導は、利用する宿主に関して一般的に知られた条件で行なえばよい。
【0053】
前記第2工程では、第1工程で得られた培養物から一般的に知られた回収方法によってフコース結合性タンパク質を回収する。例えば、フコース結合性タンパク質が培養液中に分泌生産される場合は細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清からフコース結合性タンパク質を回収すればよく、細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に発現する場合は、遠心分離操作により細胞を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加する等により細胞を破砕し、細胞破砕液からフコース結合性タンパク質を回収すればよい。また、フコース結合性タンパク質の純度を向上させたい場合には、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離精製法を挙げることができる。
【0054】
液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を使用することが好ましく、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて行なうことがより好ましい。また、前記クロマトグラフィーにより精製したフコース結合性タンパク質の純度および分子量は当該技術分野において公知の方法を用いて調べればよく、一例として、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)法やゲルろ過クロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0055】
本発明におけるフコース結合性タンパク質の糖鎖への結合親和性は、Enzyme-linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法等により評価することができる。一例として、表面プラズモン共鳴法について説明する。
【0056】
表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価は、例えば、Biacore T200機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトをフコース結合性タンパク質、固相を糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖)として測定することができる。糖鎖を固定したセンサーチップの作製は、ビオチン標識糖鎖を利用して、ストレプトアビジンをコートしたセンサーチップ(Sensor Chip SA、GEヘルスケア製)や、デキストランがコートされたセンサーチップ(Sensor Chip CM5、GEヘルスケア製)にあらかじめストレプトアビジンを固定したものを利用して行うことができる。また、結合性親和評価は当該機器に付属のカイネティクス解析プログラムを利用して行うことができる。
【0057】
次に、本発明の細胞分離方法における吸着剤について説明する。本発明の細胞分離方法における吸着剤に使用する水不溶性担体の原料に特に制限はなく、シリカゲルや金薄膜を蒸着させたガラスなどの無機系担体、アガロース、セルロース、キチン、キトサン等の多糖類を原料とした水に不溶性の多糖系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋多糖系担体、デキストラン、プルラン、デンプン、アルギン酸塩、カラギーナン等の水溶性多糖類を架橋剤で架橋した架橋多糖系担体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリスチレン等の合成高分子系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋合成高分子系担体を例示することができる。これらの担体の中では、水酸基を有し、後述する親水性高分子による修飾が容易に行える点で、アガロース、セルロース、デキストラン、プルラン等の電荷をもたない多糖系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋多糖系担体や、ポリ(メタ)アクリレートやポリウレタン等の親水性合成高分子系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋親水性合成高分子系担体が好ましい。また、吸着剤に使用する水不溶性担体は、細胞の非特異吸着を抑制する点で、前記の水不溶性担体表面が親水性高分子で修飾されていることが好ましく、親水性高分子が水不溶性担体に共有結合で固定されていることがより好ましい。
【0058】
水不溶性担体の表面を修飾する親水性高分子としては、アガロース、セルロース、デキストラン、プルラン、デンプン等の中性多糖類や、ポリ(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)やポリビニルアルコール等の水酸基を有する合成高分子を例示することができる。これら親水性高分子の中では、親水性が高く、不溶性担体表面への共有結合による固定が容易に行える点で、デキストラン、プルランおよびデンプンなどの中性多糖類が好ましく、デキストランおよびプルランがより好ましい。
【0059】
デキストランおよびプルランの分子量に特に制限はないが、不溶性担体表面の親水性修飾が十分に行える点で、数平均分子量が10,000から1,000,000のものが好ましい。吸着剤に使用する水不溶性担体の形状に特に制限はなく、粒子状、スポンジ状、平膜状、平板状、中空状、繊維状のいずれであってもよいが、吸着剤への細胞吸着を効率的に行える点で粒子状の担体であることが好ましく、真球状の粒子状担体であることがより好ましい。
【0060】
本発明の細胞分離方法における吸着剤に使用する水不溶性担体の、水に膨潤させた状態での平均粒径(メジアン径)は、担体から製造される吸着剤をカラムに充填した場合に分離対象の細胞が吸着剤表面と十分接触し、かつ吸着剤に結合しない細胞が吸着剤間の隙間を淀みなく通過できる点で、好ましくは100μm以上1000μm以下であり、より好ましくは100μm以上500μm以下であり、さらに好ましくは150μm以上300μm以下である。粒径が100μm未満の場合には、吸着剤に結合しない細胞が吸着剤間の隙間を通過しづらくなり、細胞の回収率が低下する。また、粒径が1000μm超の場合には、吸着剤に結合する細胞と吸着剤表面の接触が不十分となり、吸着剤に結合する細胞と結合しない細胞の分離効率が低下する。不溶性担体の粒径は、例えば、ベックマンコールター(株)製の精密粒度分布測定装置(製品名「Multisizer 3」)などを用いて測定することができる。
【0061】
あるいは、光学顕微鏡を用いて目盛り付きスライドグラスの画像を撮影したのち、同じ倍率で測定対象の複数個の粒子の画像を撮影し、物差しを用いて撮影した複数個の担体の粒径を測定し、その平均値を算出することで求めることができる。吸着剤に使用する水不溶性担体の細孔の有無に特に制限はなく、多孔性または無孔性のいずれであってもよい。 また、本発明の吸着剤に使用する水不溶性担体は、本発明の吸着剤に使用するフコース結合性タンパク質を担体に固定化するための活性官能基導入が容易に行える点で、水酸基を有する粒子状担体であることが好ましい。さらに、本発明の吸着剤に使用する水不溶性担体は市販品を使用してもよく、例えば、ポリ(メタ)アクリレートを原料としたトヨパール(東ソー製)、アガロースを原料としたSepharose(GEヘルスケア製)、セルロースを原料としたセルフィア(旭化成製)等を使用することができる。
【0062】
本発明の細胞分離方法における吸着剤は、水不溶性担体から反応性水不溶性担体を製造する工程(以下、工程Xとする。)と、該反応性水不溶性担体にフコース結合性タンパク質を作用させて固定化する工程(以下、工程Yとする。)の2つの工程を含む工程により製造することができる。以下に工程Xと工程Yの詳細を説明する。
【0063】
工程Xは、水不溶性担体にフコース結合性タンパク質を固定化するための反応性官能基を導入して反応性水不溶性担体を製造する工程である。水不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化するため反応性官能基は、一般的なタンパク質固定化用の官能基であれば特に制限されず、エポキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、活性エステル基、アミノ基、マレイミド基、ハロアセチル基等を例示することができる。水不溶性担体に前記官能基を導入する方法は、一般的な官能基導入方法であれば特に制限はされず、例えば、特許文献3に記載されている方法に従って行えばよい。
【0064】
工程Yは、工程Xで製造した反応性水不溶性担体に、本発明におけるフコース結合性タンパク質を固定化する工程である。工程Xで得られた反応性水不溶性担体にフコース結合性タンパク質を固定化する方法は、一般的なタンパク質の固定化方法であれば特に制限はされず、例えば、特許文献3に記載されている方法に従って行えばよい。
【0065】
水不溶性担体へのフコース結合性タンパク質の固定化量は、本発明の細胞分離方法において分離対象となる細胞とフコース結合性タンパク質との結合性を考慮したうえで適宜設定すればよく、1mLの水不溶性担体あたり0.01mg以上50mg以下が好ましく、0.05mg以上30mg以下がより好ましい。
【0066】
また、水不溶性担体へのフコース結合性タンパク質の固定化量は、固定化反応時の前記タンパク質の使用量や水不溶性担体への活性官能基導入量を調節することにより調整することができる。フコース結合性タンパク質の水不溶性担体への固定化量は、固定化反応液および反応後の洗浄液を回収して未反応のフコース結合性タンパク質量を求めたのち、固定化反応に使用したフコース結合性タンパク質量から未反応の本発明のフコース結合性タンパク質量を差し引くことで算出することができる。
【0067】
また、前述したように、本発明における吸着剤に使用する水不溶性担体は、細胞の非特異吸着を抑制する点で、親水性高分子が共有結合で固定されていることが好ましいことから、吸着剤を製造する場合には、前記工程Xで本発明のフコース結合性タンパク質を固定化するための官能基を導入する前に、水不溶性担体に親水性高分子を共有結合で固定することもできる。水不溶性担体に親水性高分子を共有結合で固定する方法は、一般的な共有結合形成反応であれば特に制限はなく、例えば、水不溶性担体表面の水酸基とエピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル等のエポキシ基含有化合物を塩基性条件下で反応させることで水不溶性担体にエポキシ基を導入したのち、エポキシ基と親水性高分子の水酸基を塩基性条件下で反応させる方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0068】
本発明の細胞分離方法は、フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる複数の吸着剤を用い、未分化度の異なる細胞集団を段階的に接触させていくことで、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞を、糖鎖の発現量の違いにより分離および精製するために有効な細胞分離方法である。本発明の細胞分離方法は、前記未分化マーカー糖鎖の発現量の違いにより細胞を分離回収することが可能であることから、従来の方法では困難であった、特に未分化度が低い細胞の未分化マーカー発現量に応じた分離に有用であるため、ヒトiPS細胞などの未分化細胞から、とりわけ未分化度の低い細胞、すなわち未分化逸脱細胞を効率良く除去・分取することができ、高品質な未分化度の高い再生医療用細胞の調製や未分化逸脱細胞の機能解析などに極めて有効な手段である。
【0069】
また、本発明の細胞分離方法は、従来の磁気ビーズによる細胞分離方法、セルソーターによる細胞のソーティング、細胞ローリングカラムによる細胞分離方法と比べ、大量の細胞を簡便に処理することができ、未分化度の異なる細胞集団の大量精製においても極めて有効な手段である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】実施例1と比較例1と参考例1における、各細胞フラクションの2102Ep細胞回収率を示したグラフである。
【
図2】実施例1と比較例1と参考例1における、各細胞フラクションの2102Ep細胞のBC2LCN陽性率を示したグラフである。
【実施例0071】
以下、作製例、実施例、比較例、参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
作製例1 吸着剤156GGC-A、B、C、Dの作製
特開2019-000063の実施例1から3に記載の方法に従い、吸着剤調製時の固定化BC2LCN反応量を変えることで、フコース結合性タンパク質156GGC(以下、BC2LCNと記す。)の固定化量が異なる4種類の吸着剤(吸着剤156GGC-A、B、C、D)を作製した。各吸着剤のBC2LCN固定化量は、吸着剤156GGC-Aは146mg/L-吸着剤、吸着剤156GGC-Bは307mg/L-吸着剤、吸着剤156GGC-Cは412mg/L-吸着剤、吸着剤156GGC-Dは682mg/L-吸着剤であった(表1)。
【0073】
【0074】
実施例1 吸着剤156GGC-A、B、C、Dを積層したカラムを用いた2012Ep細胞からの未分化度の異なる細胞集団の分離
実施例1は、フコース結合性タンパク質の固定化量が異なる吸着剤を積層したカラムを用いた「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAc」からなる構造を含む糖鎖を有するヒト胎児性がん細胞である2102Ep細胞(Embryonal Carcinoma Cells Cl.4/D3細胞(コスモバイオより入手)からの未分化度の異なる細胞集団の分離方法に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μMの親水性ナイロンメッシュフィルター(コーニング製)を装着したカラムを1本作製した。次に、作製例1で作製した吸着剤156GGC-DをMACS緩衝液(ミルテニーバイオテク製)で置換したのち、12時間以上放置後の吸着剤の沈降体積が50%となるように調整した吸着剤の50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mL添加して、吸着剤156GGC-Dをカラムに充填した(吸着剤容量は0.5mL)。次に同様の手順にて、作製例1で作製した吸着剤156GGC-Cを吸着剤156GGC-Dの上部に吸着剤容量0.5mLで充填した。次に同様の手順にて、作製例1で作製した吸着剤156GGC-Bを吸着剤156GGC-Cの上部に吸着剤容量0.5mLで充填した。次に同様の手順にて、作製例1で作製した吸着剤156GGC-Aを吸着剤156GGC-Bの上部に吸着剤容量0.5mLで充填した。このようにして、カラムの上部から、吸着剤156GGC-A、吸着剤156GGC-B、吸着剤156GGC-C、吸着剤156GGC-Dがそれぞれ0.5mLの充填容量となるように、この順番で積層充填されたカラムを作製した。以下作製したこのカラムを、カラムXと記す。
(2)2102Ep細胞の培養と細胞懸濁液の調製
2102Ep細胞は、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、富士フイルム和光純薬製)を添加したD-MEM培地(High Glucose、富士フイルム和光純薬製)を用い、直径6cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)または直径10cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。次に、Cell Tracker Orange(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いた2102Ep細胞の蛍光染色は以下の方法で行った。2102Ep細胞を培養中のシャーレ内の培地を廃棄後、無血清のRPMI 1640培地(富士フイルム和光純薬製)を添加して細胞を洗浄したのち、この培地を廃棄した。次に、Cell Tracker Orangeを最終濃度が10μMとなるように無血清のRPMI 1640培地に溶解した液を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。前記蛍光試薬液を廃棄後、前記10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次に、10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を廃棄したのち、再び新しい10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。
【0075】
次に、細胞の回収と細胞懸濁液の調製を以下の方法で行った。細胞培養中のシャーレ内の10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を廃棄してD-PBS(-)(細胞科学研究所製)を添加したのち、細胞を洗浄してD-PBS(-)を廃棄した。次に、Accutase(イノベーティブセルテクノロジー製)を添加し、数分間放置することで2102Ep細胞を剥離させ、50mLチューブへ回収した。細胞を遠心分離して沈降させたのち、細胞を前述のMACS緩衝液にて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナー(コーニング製、目開き40μm)を用いてろ過することにより、Cell Tracker Orangeで染色した2102Ep細胞の細胞懸濁液を調製した。得られた2102Ep細胞液の一部を分取し、10倍希釈して血球計算盤にて細胞密度の算出を行った。以下、この細胞密度を元にして、カラムへのアプライ細胞液量x細胞密度の値から、カラムへの添加細胞数を算出した。
(3)吸着剤を積層充填したカラムを用いた2012Ep細胞からのBC2LCN陽性率の異なる集団の分離
前記(1)で作製したカラムXを垂直に立てた状態で、前記(2)で調製した2012Ep細胞懸濁液を、添加細胞数がカラム当たり7.8×106個となるよう、混合細胞液量0.1mLでカラム上部に添加した。次に、カラム上部より1.0mLのMACS緩衝液を静かに添加し、針部からの流出液計1.1mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.1と記載する。)。次に、カラム上部より1.0mLのMACS緩衝液を静かに添加し、針部からの流出液計1.0mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.2と記載する。)。次に、カラム上部より1.0mLのMACS緩衝液を静かに添加し、針部からの流出液計1.0mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.3と記載する。)。次に、カラム上部より1.0mLのMACS緩衝液を静かに添加し、針部からの流出液計1.0mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.4と記載する。)。次に、カラム上部より1.0mLの、0.2Mフコースと10mM EDTAを含むMACS緩衝液(以下、細胞剥離溶液と記載する。)を静かに添加し、針部からの流出液計1.0mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.5と記載する。)。次に、カラム上部より1.0mLの細胞剥離溶液を静かに添加し、針部からの流出液計1.0mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.6と記載する。)。次に、カラム上部より1.0mLの細胞剥離溶液を静かに添加し、針部からの流出液計1.0mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.7と記載する。)。次に、カラム上部より1.0mLの細胞剥離溶液を静かに添加し、針部からの流出液計1.0mLを別容器に回収した(以下これを、細胞液Fr.8と記載する。)。
(4)各細胞液Fr.における2012Ep細胞の細胞回収率とBC2LCN陽性率の測定
上記操作により得られた細胞液Fr.1~8について、細胞液のうち0.5mLをMACS緩衝液2mLで希釈した後、セルストレーナー・キャップ付き5mLポリスチレンラウンドチューブ(コーニング製)に分取し、細胞数計測用内部標準ビーズとしてCountBright Absolute Counting Beads(インビトロゲン製)を50μL、および細胞生死判定試薬として7-AADを50μL添加した後、セルソーターBD FACSAria(ベクトン・ディッキンソン製)にて細胞数の測定を行った。各細胞Fr.に含まれる細胞数はドットプロットで得られた内部標準ビーズの粒子数を元に、比例計算により算出した。各細胞Fr.の細胞回収率は各細胞Fr.に含まれる細胞数をそれぞれ前記(3)に記載の添加細胞数(7.8×106個)で除することにより算出した。
【0076】
また、細胞液Fr.1~8について、各細胞液Fr.に含まれる細胞のBC2LCN陽性率の測定を以下のようにして行った。それぞれのFr.の細胞液を1.5mLのエッペンドルフチューブに0.5mLずつ分取し、遠心して上清を廃棄後、MACS緩衝液1.0mLに懸濁することで細胞を洗浄した。遠心後、上清を廃棄して得られた細胞ペレットを0.5%(vol./vol.)のBC2LCN-FITC(富士フィルム和光純薬製)を含むMACS緩衝液1mLに懸濁し、暗所にて室温で30分間静置した。30分の反応後、エッペンドルフチューブ内にて上記のMACS緩衝液による細胞洗浄操作を行い、得られた細胞ペレットを2mLのMACS緩衝液に懸濁した。5mLポリスチレンラウンドチューブ(コーニング製)に細胞懸濁液を移した後、細胞数計測用内部標準ビーズとしてCountBright Absolute Counting Beads(インビトロゲン製)を50μL、および細胞生死判定試薬として7-AADを50μL添加し、セルソーターBD FACSAria(ベクトン・ディッキンソン製)にて細胞集団の蛍光強度の解析を行った。細胞のBC2LCN陽性率はBC2LCN-FITCで非染色の2102Ep細胞を陰性細胞集団とし、蛍光試薬との反応によりFITCの蛍光強度が増大した細胞集団を陽性細胞集団とすることで、BC2LCN陽性率=(それぞれの細胞液Fr.に含まれる陽性生細胞の数)÷(それぞれの細胞Fr.に含まれる総生細胞数)として算出した。すなわち、BC2LCN陽性率とは、未分化マーカーのひとつであるBC2LCN反応性を有する糖鎖構造を持つ細胞集団の割合を示すものである。
【0077】
FACS解析の結果、各細胞液Fr.における2102p細胞の回収率は、Fr.1=1.2%、Fr.2=2.4%、Fr.3=4.3%、Fr.4=5.8%、Fr.5=33.3%、Fr.6=20.5%、Fr.7=5.6%、Fr.8=7.1%であった。また、それぞれの細胞Fr.における2102Ep細胞のBC2LCN陽性率は、Fr.1=31.9%、Fr.2=38.9%、Fr.3=58.6%、Fr.4=60.0%、Fr.5=82.3%、Fr.6=81.0%、Fr.7=80.1%、Fr.8=76.7%であった。表2と
図1に、実施例1の各細胞液Fr.における2102p細胞の回収率を、表3と
図2に各細胞液Fr.に含まれる細胞のBC2LCN陽性率を示す。
【0078】
この結果から、フコース結合性タンパク質固定化量の異なる4種の吸着剤をカラム上部から吸着剤156GGC-A(146mg BC2LCN 固定/mL-吸着剤)、吸着剤156GGC-B(307mg BC2LCN 固定/mL-吸着剤)、吸着剤156GGC-C(412mg BC2LCN 固定/mL-吸着剤)、吸着剤156GGC-D(682mg BC2LCN 固定/mL-吸着剤)の順になるように積層充填したカラム(カラムX)では、MACS緩衝液の通液により取得した流出細胞Fr.の未分化度(BC2LCN陽性率)は、Fr.1=31.9%、Fr.2=38.9%、Fr.3=58.6%、Fr.4=60.0%であり、未分化度の異なる2102Ep細胞集団を、未分化度が低い細胞集団から高い細胞集団へとそれぞれ細胞Fr.として分取できることが明らかとなった。
【0079】
この結果は、カラム上端部からカラム下端部の方向へ充填されている吸着剤の、フコース結合性タンパク質固定化量が小から大へと濃度勾配を有するために、未分化度が高い細胞集団がカラム上部の充填剤、未分化度が低い細胞集団がカラム下部の充填剤へ選択的に結合することで、未分化度の違いによる細胞の分布が生じ、MACS緩衝液によるカラムからの流出細胞Fr.にはまず未分化度の低い細胞が流出し、細胞Fr.の分取ごとに、次第に未分化度の高い細胞が流出した結果であると解釈できる。従って、フコース結合性タンパク質固定化量の異なる吸着剤をカラムに積層充填し、未分化度の異なる細胞集団を、フコース結合性タンパク質固定化量の低い吸着剤から高い吸着剤へと段階的に接触させていくことで、未分化度の異なる細胞が細胞Fr.として分取可能であることが確認された。
【0080】
比較例1 吸着剤156GGC-Bを充填したカラムを用いた2012Ep細胞からの未分化度の異なる細胞集団の分離
吸着剤156GGC-B(307mg/L-吸着剤)をMACS緩衝液(ミルテニーバイオテク製)で置換したのち、12時間以上放置後の吸着剤の沈降体積が50%となるように調整した吸着剤の50%懸濁液を調製し、作製したカラムに4.0mL添加して、吸着剤156GGC-Bをカラムに充填した(吸着剤容量は2.0mL)。以下作製したこのカラムを、カラムYと記す。カラムへの吸着剤充填以外の操作は実施例1と同様の方法で、2102Ep細胞の調製、カラムへの通液、得られた細胞Fr.のFACS解析を行った。
【0081】
FACS解析の結果、それぞれの細胞Fr.における2102p細胞の回収率は、Fr.1=13.4%、Fr.2=14.3%、Fr.3=3.2%、Fr.4=3.3%、Fr.5=10.3%、Fr.6=8.1%、Fr.7=2.3%、Fr.8=1.2%であった。また、それぞれの細胞Fr.における2102Ep細胞のBC2LCN陽性率は、Fr.1=71.2%、Fr.2=74.5%、Fr.3=80.8%、Fr.4=85.6%、Fr.5=88.5%、Fr.6=83.5%、Fr.7=80.2%、Fr.8=87.3%であった。表2と
図1に、比較例1の各細胞液Fr.における2102p細胞の回収率を、表3と
図2に各細胞液Fr.に含まれる細胞のBC2LCN陽性率を示す。
【0082】
この結果から、フコース結合性タンパク質固定化量が単一の吸着剤156GGC-B(307mg/L-吸着剤)のみを充填したカラム(カラムY)では、MACS緩衝液の通液により取得した流出細胞Fr.の未分化度(BC2LCN陽性率)は、Fr.1=71.2%、Fr.2=74.5%、Fr.3=80.8%、Fr.4=85.6%であり、次第に高くなってはいるものの、BC2LCN陽性率のFr.間での差は実施例1と比べて小さく、また実施例1のようにBC2LCN陽性率が30%~60%程度の未分化度が低い細胞集団を個別に分離することはできなかった。従って、フコース結合性タンパク質固定化量が単一の吸着剤をカラムに充填し、未分化度の異なる細胞集団を接触させた場合、未分化度が大きく異なる細胞を細胞Fr.として分取できないことが確認された。
【0083】
参考例1 トヨパールHW-40ECを充填したカラムを用いた2012Ep細胞からの未分化度の異なる細胞集団の分離
BC2LCNを固定化していないトヨパールHW-40EC(東ソー製)をMACS緩衝液(ミルテニーバイオテク製)で置換したのち、12時間以上放置後の吸着剤の沈降体積が50%となるように調整した吸着剤の50%懸濁液を調製し、作製したカラムに4.0mL添加して、吸着剤トヨパールHW-40ECをカラムに充填した(吸着剤容量は2.0mL)。以下作製したこのカラムを、カラムZと記す。カラムへの吸着剤充填以外の操作は実施例1と同様の方法で、2102Ep細胞の調製、カラムへの通液、得られた細胞Fr.のFACS解析を行った。
【0084】
FACS解析の結果、それぞれの細胞Fr.における2102p細胞の回収率は、Fr.1=22.5%、Fr.2=33.0%、Fr.3=3.6%、Fr.4=0.8%、Fr.5=1.7%、Fr.6=2.9%、Fr.7=0.9%、Fr.8=1.9%であった。また、それぞれの細胞Fr.における2102Ep細胞のBC2LCN陽性率は、Fr.1=79.5%、Fr.2=74.0%、Fr.3=84.0%、Fr.4=82.7%であった(Fr.5~8は未測定)。表2と
図1に、参考例1の各細胞液Fr.における2102p細胞の回収率を、表3と
図2に各細胞液Fr.に含まれる細胞のBC2LCN陽性率を示す。
【0085】
この結果から、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤トヨパールHW-40ECを充填したカラム(カラムZ)では、MACS緩衝液の通液により取得した流出細胞Fr.の未分化度(BC2LCN陽性率)は、Fr.1=79.5%、Fr.2=74.0%、Fr.3=84.0%、Fr.4=82.7%であり、2102Ep細胞が吸着剤に吸着せず素通りした結果、未分化度が異なる細胞集団を個別に分離することはできなかった。従って、フコース結合性タンパク質を固定化していない吸着剤をカラムに充填し、未分化度の異なる細胞集団を接触させた場合、未分化度が異なる細胞を細胞Fr.として分取できないことが確認された。
【0086】
【0087】