IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ADEKAの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151254
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】クリーム用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220929BHJP
   A21D 13/13 20170101ALI20220929BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20220929BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20220929BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A23D9/00 510
A21D13/13
A21D13/80
A23D7/00 508
A21D2/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054238
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 耕児
(72)【発明者】
【氏名】小堀 悟
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DK04
4B026DL03
4B026DL08
4B026DP01
4B026DX02
4B032DB08
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK32
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK67
4B032DP54
(57)【要約】
【課題】固化性が良好であり、良好な風味や口溶けを呈すると共に、経時的なベタツキを抑制しうるコーティングクリームをもたらすクリーム用油脂組成物を提供する。
【解決手段】次の条件A及びBを満たす、クリーム用油脂組成物。
条件A:トリグリセリド組成における、トリラウリンに対する、結合脂肪酸残基としてラウリン酸残基を含有し且つ結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドの質量比が0.5~4.5である。
条件B:25℃でのSFC(Solid Fat Content)が46~75%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の条件A及びBを満たす、クリーム用油脂組成物。
条件A:トリグリセリド組成における、トリラウリンに対する、結合脂肪酸残基としてラウリン酸残基を含有し且つ結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドの質量比が0.5~4.5である。
条件B:25℃でのSFC(Solid Fat Content)が46~75%である。
【請求項2】
次の条件Cをさらに満たす、請求項1に記載のクリーム用油脂組成物。
条件C:ソルビタン脂肪酸エステルの含量が0.1~1.2質量%である。
【請求項3】
次の条件Dをさらに満たす、請求項1又は2に記載のクリーム用油脂組成物。
条件D:脂肪酸残基組成中の、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含量が0.4~1.5質量%である。
【請求項4】
次の油脂α及び油脂βを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
油脂α:次の条件(α1)と(α2)を満たすランダムエステル交換油脂。
条件(α1):脂肪酸残基組成中の、ステアリン酸残基(St)とパルミチン酸残基(P)の含量の和に対するラウリン酸残基(La)の含量の質量比[La/(St+P)]が0.12~1.40である。
条件(α2):構成トリグリセリド中の、飽和脂肪酸残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリドの含量が30~65質量%である。
油脂β:脂肪酸残基組成中の、ラウリン酸残基の含量が35質量%以上である、非エステル交換油脂。
【請求項5】
次の条件E及びFの少なくとも一方をさらに満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物。
条件E:油相中の液状油の含量が3質量%以下である。
条件F:油相中のココアバターの含量が3質量%以下である。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のクリーム用油脂組成物を用いてなるクリーム。
【請求項7】
コーティング用である、請求項6に記載のクリーム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のクリームとベーカリー食品とを複合してなる複合ベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリームの作成に好適なクリーム用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
外観や風味・食感の改良、調味料の固着などを目的として、油脂を含むコーティングクリームで、焼菓子類やパン類等のベーカリー食品の表面をコーティングすることが一般に行われている。
【0003】
このコーティングクリームに求められる特性としては、コーティング後の速やかな固化や、喫食した際の口溶けがある。この要求特性を得るために、従前よりコーティングクリームの製造に用いるための油脂組成物について検討がなされてきた。
【0004】
例えば、エステル交換反応処理がされておらず、かつ極度硬化油を65~85質量%含むラウリン系油脂を油脂全体の質量に対して80質量%以上含有し、ラウリン系油脂を原料に含むエステル交換油脂を含有せず、トランス脂肪酸の含有量が油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して3質量%以下である油脂組成物(特許文献1)や、特定のトリグリセリド組成を有する油脂組成物(特許文献2)が挙げられる。
【0005】
また、近年では、上記の要求特性に加えて、複合ベーカリー食品のコーティングの表面に経時的に液状油成分が染み出すことにより軟化しベタツキが生じる現象(以下、単に「経時的なベタツキ」ともいう。)の発生を抑制する検討も行われている(例えば特許文献3)。なお、この経時的なベタツキは経時的に液状油成分が染み出すことで生じるものであり、発生する時点が異なるため、コーティング後の固化が遅いことによるベタツキとは、当業者間では区別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-000041号公報
【特許文献2】特開2017-079737号公報
【特許文献3】特開2020-162512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従前検討されてきたコーティングクリームの製造に用いられる油脂組成物には、以下に示すような課題がみられた。
【0008】
特許文献1記載の油脂組成物においては、エステル交換油脂ではないラウリン系油脂を多く含むため、いわゆる石鹸臭と呼ばれる経時的な異味が生じやすいという課題があった。特に複合ベーカリー食品のコーティング部分は露光や曝露されやすく、異味が生じやすい環境に置かれる場合が散見されるため、経時的な風味の変化は抑制されることが望ましい。また、複合させるベーカリー食品によっては、経時的なベタツキが生じる場合があった。
【0009】
特許文献2記載の発明においては、2位にラウリン酸残基を有するトリグリセリドを一定量含む場合、トリグリセリド組成が複雑なものとなり、クリーミング性や口溶けは向上するが、複合させるベーカリー食品によっては、経時的なベタツキが生じる場合があった。
【0010】
特許文献3記載の発明においては、コーティング表面の染み出しを抑制しうるが、複合ベーカリー食品を喫食した際のコーティング部分の口溶けが悪く、口残りするものであった。
【0011】
したがって、本発明の課題は以下のとおりである。
(1)固化性のよいコーティングクリームを得ること。
(2)風味や口溶けのよいコーティングクリームを得ること。
(3)経時的なベタツキを抑制しうるコーティングクリームを得ること。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、クリーム用油脂組成物を特定の油脂組成とすることで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の内容を含むものである。
[1] 次の条件A及びBを満たす、クリーム用油脂組成物。
条件A:トリグリセリド組成における、トリラウリンに対する、結合脂肪酸残基としてラウリン酸残基を含有し且つ結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドの質量比が0.5~4.5である。
条件B:25℃でのSFC(Solid Fat Content)が46~75%である。
[2] 次の条件Cをさらに満たす、[1]に記載のクリーム用油脂組成物。
条件C:ソルビタン脂肪酸エステルの含量が0.1~1.2質量%である。
[3] 次の条件Dをさらに満たす、[1]又は[2]に記載のクリーム用油脂組成物。
条件D:脂肪酸残基組成中の、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含量が0.4~1.5質量%である。
[4] 次の油脂α及び油脂βを含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のクリーム用油脂組成物。
油脂α:次の条件(α1)と(α2)を満たすランダムエステル交換油脂。
条件(α1):脂肪酸残基組成中の、ステアリン酸残基(St)とパルミチン酸残基(P)の含量の和に対するラウリン酸残基(La)の含量の質量比[La/(St+P)]が0.12~1.40である。
条件(α2):構成トリグリセリド中の、飽和脂肪酸残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリドの含量が30~65質量%である。
油脂β:脂肪酸残基組成中の、ラウリン酸残基の含量が35質量%以上である、非エステル交換油脂。
[5] 次の条件E及びFの少なくとも一方をさらに満たす、[1]~[4]のいずれかに記載のクリーム用油脂組成物。
条件E:油相中の液状油の含量が3質量%以下である。
条件F:油相中のココアバターの含量が3質量%以下である。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のクリーム用油脂組成物を用いてなるクリーム。
[7] コーティング用である、[6]に記載のクリーム。
[8] [6]又は[7]に記載のクリームとベーカリー食品とを複合してなる複合ベーカリー食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
(1)固化性のよいコーティングクリームを得ることができる。
(2)風味や口溶けのよいコーティングクリームを得ることができる。
(3)経時的なベタツキを抑制しうるコーティングクリームを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0016】
[クリーム用油脂組成物]
本発明のクリーム用油脂組成物は、次の条件A及び条件Bを満たす。
条件A:トリグリセリド組成における、トリラウリンに対する、結合脂肪酸としてラウリン酸残基を含有し且つ結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドの質量比が0.5~4.5である。
条件B:25℃でのSFC(Solid Fat Content)が46~75%である。
【0017】
以下、本発明のクリーム用油脂組成物が満たすべき条件A及びBについて述べる。
【0018】
<条件A>
条件Aは、クリーム用油脂組成物の油相のトリグリセリド組成に関し、詳細には、該トリグリセリド組成における、トリラウリンに対する、結合脂肪酸としてラウリン酸残基を含有し且つ結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドの質量比に関する。
【0019】
本発明のクリーム用油脂組成物は、そのトリグリセリド組成において、トリラウリン(LaLaLa;トリラウロイルグリセロール)1質量部に対する、結合脂肪酸残基としてラウリン酸残基(La)を含有し且つ結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドの質量比(以下、「トリラウリン比」ともいう。)が0.5~4.5である。
【0020】
以下、結合脂肪酸残基としてラウリン酸残基を含有し且つ結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドを、SSLa+SLaLaともいう。Sは飽和脂肪酸残基を意味し、SSLaは結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドのうち結合脂肪酸残基としてラウリン酸残基(La)がひとつ結合しているものを意味し、SLaLaは結合脂肪酸残基の合計炭素数が46であるトリ飽和トリグリセリドのうち結合脂肪酸残基としてラウリン酸残基(La)が2つ結合しているものを意味する)。
【0021】
上記のSSLa+SLaLaとしては、具体的にはラウリン酸残基(La)、パルミチン酸残基(P)及びステアリン酸残基(St)が各1つ結合しているトリグリセリド、すわなち、ラウロイル-パルミトイル-ステアロイル-トリグリセリド(以下、単に「LaPSt」ともいう。)や、ラウリン酸残基(La)が2つとベヘン酸残基(B)が1つ結合しているトリグリセリド、すなわち、ジ-ラウロイル-モノ-ベヘノイル-トリグリセリドを挙げることができる。なお、グリセリン骨格に対して、各脂肪酸残基が結合する箇所は特に限定されない。
【0022】
条件Aにおけるトリラウリン比は、特にコーティング用途において、良好な口溶けを有するクリームを得たり、経時的なベタツキが抑制されたクリームを得たりする観点から、0.5~4.5の範囲にある。該トリラウリン比の下限は、好ましくは0.75以上、より好ましくは0.80以上、さらに好ましくは0.85以上であり、該トリラウリン比の上限は、好ましくは4.0以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは1.5以下、1.4以下又は1.0以下である。したがって好適な一実施形態において、該トリラウリン比の範囲は0.75~4.0、より好適には0.80~2.5、さらに好適には0.85~1.5、0.85~1.4又は0.85~1.0である。
【0023】
トリグリセリド組成におけるトリラウリンの含量は、本発明のクリーム用油脂組成物をコーティング用途に使用する場合に、その固化性及び口溶けをいっそう良好なものとし、且つ経時的なベタツキをいっそう抑制し得る観点から、その下限は好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上であり、該含量の上限は、好ましくは14質量%以下、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。したがって好適な一実施形態において、トリグリセリド組成におけるトリラウリンの含量は4~14質量%であり、より好適には5~12質量%、さらに好適には6~10質量%である。
【0024】
同様の観点から、トリグリセリド組成におけるSSLa+SLaLaの含量の下限は、好ましくは3.5質量%以上、より好ましくは4.2質量%以上、さらに好ましくは6.4質量%以上であり、該含量の上限は、好ましくは12質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは9.5質量%以下である。したがって好適な一実施形態において、トリグリセリド組成におけるSSLa+SLaLaの含量は3.5~12質量%であり、より好適には4.2~11質量%、さらに好適には6.4~9.5質量%である。
【0025】
本発明において、クリーム用油脂組成物の油相のトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定することができる。本発明において示すトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した値に基づく。
【0026】
<条件B>
条件Bは、クリーム用油脂組成物の25℃でのSFC(Solid Fat Content;固体脂含量)に関する。
【0027】
本発明のクリーム用油脂組成物は、25℃でのSFCが46~75%である。
【0028】
25℃でのSFCが上記範囲内にあることで、本発明のクリーム用油脂組成物を用いて得られるクリーム、特にコーティングクリームが、良好な固化性を有するものとなり、また経時的なベタツキの抑制を図ることができるようになる。
【0029】
本発明の効果をより享受し得る観点から、本発明のクリーム用油脂組成物の25℃でのSFCの下限は、好ましくは49%以上、より好ましくは52%以上、さらに好ましくは55%以上であり、該25℃でのSFCの上限は、好ましくは70%以下、より好ましくは66%以下、さらに好ましくは62%以下である。したがって好適な一実施形態において、25℃でのSFCは49~70%であり、より好適には52~66%、さらに好適には55~62%である。
【0030】
本発明において、SFCの値は、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料(油脂又は油脂組成物)のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。
【0031】
即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値をSFCとする(以下、SFCの測定について同様である。)。
【0032】
なお、本発明においては、特にコーティング用途において、良好な固化性を有するクリームを得る観点、良好な口溶けを有するクリームを得る観点から、25℃でのSFCの値に対する35℃でのSFCの値の比[(35℃でのSFC)/(25℃でのSFC)]は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.17以上、さらに好ましくは0.19以上であり、該比の上限は、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.39以下、さらにより好ましくは0.36以下である。したがって好適な一実施形態において、25℃でのSFCの値に対する35℃でのSFCの値の比[(35℃でのSFC)/(25℃でのSFC)]は0.15~0.45であり、より好適には0.17~0.39、さらに好適には0.19~0.36である。
【0033】
<その他好適条件>
本発明のクリーム用油脂組成物は、上記の条件A及びBに加えて、次の条件C及び条件Dのいずれか1つ、好ましくはその両方を満たすことが好適である。これにより、特にコーティング用途において、固化性がよく、風味や口溶けが良好であって、経時的なベタツキを抑制することができるクリームをもたらすという本発明の効果をよりいっそう高めることができる。
条件C:ソルビタン脂肪酸エステルの含量が0.1~1.2質量%である。
条件D:脂肪酸残基組成中の、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含量が0.4~1.5質量%である。
【0034】
以下、条件C及び条件Dについて述べる。
【0035】
<条件C>
条件Cは、クリーム用油脂組成物中のソルビタン脂肪酸エステルの含量に関する。
【0036】
本発明のクリーム用油脂組成物は、ソルビタン脂肪酸エステルを0.1~1.2質量%含有することが好ましい。
【0037】
条件A及びBを満たすと共に、クリーム用油脂組成物中のソルビタン脂肪酸エステルの含量が上記範囲にあると、本発明のクリーム用油脂組成物を用いて得られるクリーム、特にコーティングクリームの経時的なベタツキをいっそう好ましく抑制することができるほか、喫食時の口溶けを良好なものとし得る。
【0038】
本発明の効果をさらに高める観点から、本発明のクリーム用油脂組成物中のソルビタン脂肪酸エステルの含量の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、該含量の上限は、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下である。したがって好適な一実施形態において、ソルビタン脂肪酸エステルの含量は0.1~1.2質量%であり、より好適には0.2~1.0質量%、さらに好適には0.4~0.8質量%である。
【0039】
本発明のクリーム用油脂組成物に含有させ得るソルビタン脂肪酸エステルとしては、特に限定されないが、その効果をさらに向上させる観点から、エステル化率が65%以上であるソルビタン脂肪酸エステル(以下、「高エステル化ソルビタン脂肪酸エステル」ともいう。)が好ましい。
【0040】
ソルビタン脂肪酸エステルとして、高エステル化ソルビタン脂肪酸エステルを含有することで、固化性をいっそう良好なものとすることができるほか、経時的なベタツキをいっそう抑制することができる。
【0041】
本発明において、ソルビタン脂肪酸エステルのエステル化率(%)とは、下記式により算出される値である。下記式中のエステル価および水酸基価は、例えば「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.3.3-1996 エステル価]および[2.3.6-1996 ヒドロキシル価]に準じて測定される。
エステル化率(%)={エステル価/(エステル価+水酸基価)}×100
【0042】
高エステル化ソルビタン脂肪酸エステルとしては、そのエステル化率が65%以上である限り、任意のソルビタン脂肪酸エステルを使用することができる。高エステル化ソルビタン脂肪酸エステルにおいて、エステル化率は、好ましくは70%以上、より好ましくは73%以上である。
【0043】
工業的に生産され又は商業的に販売されており入手が容易である観点から、高エステル化ソルビタン脂肪酸エステルにおいて、エステル化率の上限は、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。
【0044】
中でも、本発明の効果をさらに高める観点から、高エステル化ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタントリ脂肪酸エステルであることが好ましい。ソルビタントリ脂肪酸エステルは、ソルビタンと脂肪酸のエステル化合物であって、ソルビタンが有する水酸基のうち3ヵ所で、脂肪酸とのエステル結合が形成されている化合物である。
【0045】
本発明において、高エステル化ソルビタン脂肪酸エステルに含まれる脂肪酸残基の種類は、特に制限されず、例えば、炭素数10~30の脂肪酸残基であってもよく、飽和脂肪酸残基でも、不飽和脂肪酸残基でもよい。
【0046】
本発明のクリーム用油脂組成物を特にコーティング用途に用いた際に、いっそうベタツキを抑制する観点から、高エステル化ソルビタン脂肪酸エステルは、炭素数12以上の飽和脂肪酸残基を主体として含むことが好ましく、炭素数12~22の飽和脂肪酸残基を主体として含むことがより好ましく、炭素数12~18の飽和脂肪酸残基を主体として含むことがさらに好ましく、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基を主体として含むことがさらにより好ましい。
【0047】
ここで、ソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸残基についていう「主体として含む」とは、ソルビタン脂肪酸エステルの結合脂肪酸残基組成中、対象となる脂肪酸残基の含量が65質量%以上であることを指し、該含量は好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0048】
<条件D>
条件Dは、脂肪酸残基組成中の、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含量に関する。
【0049】
本発明のクリーム用油脂組成物は、好ましくは、その脂肪酸残基組成中に炭素数20以上の飽和脂肪酸残基を0.4~1.5質量%含有する。
【0050】
条件A及びBを満たすと共に、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含量が上記範囲内であることで、経時的なベタツキをいっそう抑制することができるようになる。
【0051】
経時的なベタツキの発生をいっそう抑制する観点から、脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含量の下限は、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上であり、該含量の上限は、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.3質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。したがって好適な一実施形態において、脂肪酸残基組成中の炭素数20以上の飽和脂肪酸残基の含量は0.4~1.5質量%であり、より好適には0.5~1.3質量%、さらに好適には0.6~1.0質量%である。
【0052】
経時的なベタツキをいっそう抑制する観点からは、クリーム用油脂組成物のトリグリセリド組成において、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基を含有する、モノ飽和ジ不飽和トリグリセリド(以下、「HUU」ともいう。Hは炭素数20以上の飽和脂肪酸残基を指し、Uは不飽和脂肪酸残基を指す。)の含量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。該HUUの含量の下限は特に限定されず、0質量%であってよい。
【0053】
HUUの含量が上記範囲にあることにより、経時的なベタツキをいっそう抑制することができる理由は明らかではないが、発明者らは次のとおり推察している。すなわち、通常、モノ飽和ジ不飽和トリグリセリドは液状油成分として考えられているところ、比較的長鎖である炭素数20以上の飽和脂肪酸残基を含有するモノ飽和ジ不飽和トリグリセリドの含量が一定範囲にあることにより、液状油成分の融点が上昇し、常温での粘度が高まることで液状油成分の移行が抑制されるためであると推察している。
【0054】
本発明のクリーム用油脂組成物の脂肪酸残基組成において、不飽和脂肪酸残基(U)1質量部に対する飽和脂肪酸残基(S)の質量比[S/U]は、好ましくは4.5以上、より好ましくは4.6以上、4.8以上又は5.0以上、さらに好ましくは5.2以上であり、その上限は、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.7以下、さらに好ましくは7.5以下又は7.3以下である。したがって好適な一実施形態において、脂肪酸残基組成において、不飽和脂肪酸残基1質量部に対する飽和脂肪酸残基の質量比は4.5~8.0であり、より好適には5.0~7.7、さらに好適には5.2~7.3である。
【0055】
また、本発明のクリーム用油脂組成物において、脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基の含量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは28質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上又は32質量%以上であり、その上限は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは42質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下又は38質量%以下である。したがって好適な一実施形態において、脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基の含量は25~45質量%であり、より好適には28~42質量%、さらに好適には32~40質量%である。
【0056】
さらに、本発明のクリーム用油脂組成物において、脂肪酸残基組成中の、ステアリン酸残基(St)とパルミチン酸残基(P)の含量の和に対するラウリン酸残基(La)の含量の質量比[La/(St+P)]は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上であり、その上限は、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.3以下である。したがって好適な一実施形態において、脂肪酸残基組成中のLa/(St+P)は0.5~1.8であり、より好適には0.7~1.5、さらに好適には0.8~1.3である。
【0057】
脂肪酸残基組成中のLa及びSt、P等の脂肪酸残基の含量については、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」、「AOCS法Ce-1h05」を参考に、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。
【0058】
本発明のクレーム用油脂組成物がさらに満たすことが好適な条件E、Fについては後述する。
【0059】
<本発明に使用することのできる油脂>
以下、本発明のクリーム用油脂組成物に用いることのできる油脂について述べる。
【0060】
本発明のクリーム用油脂組成物に用いることのできる油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びココアバター等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂、鶏油、魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。上記油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合し用いることができる。
【0061】
ここで、本発明のクリーム用油脂組成物は、含有し得る油脂について次の条件E及びFの少なくとも一方を満たすことが好ましい。
条件E:油相中の液状油の含量が3質量%以下である。
条件F:油相中のココアバターの含量が3質量%以下である。
ここで、液状油とは、常温(25℃)で液状を呈する油脂を意味し、例えば、大豆油、菜種油等が挙げられる。
【0062】
クリーム用油脂組成物に液状油を含有させた場合には、固化性が悪化し、製造直後にべたつきやすい上、経時的なベタツキが生じやすい傾向にある。また、クリーム用油脂組成物にココアバターを含有させた場合には、相溶性の問題からブルーム現象が発生する場合があり、外観や食味を損ねてしまう場合がある。
【0063】
本発明のクリーム用油脂組成物は、条件A及びBに加えて、上記条件E及びFの少なくとも一方を満たすことが好ましく、条件E及びFの両方を満たすことがより好ましい。条件Eについて、本発明の効果をより享受し得る観点から、油相中の液状油の含量は、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、1.5質量%以下又は1質量%以下である。該液状油の含量の下限は特に限定されず、0質量%であってよい。また、条件Fについて、本発明の効果をより享受し得る観点から、油相中のココアバターの含量は、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、1.5質量%以下又は1質量%以下である。該ココアバターの含量の下限は特に限定されず、0質量%であってよい。
【0064】
上記条件A及びBを好ましく満たす観点から、本発明のクリーム用油脂組成物は、次に述べる油脂α及び油脂βを含有することが好ましい。
【0065】
・油脂α:次の条件(α1)と(α2)を満たすランダムエステル交換油脂。
条件(α1):脂肪酸残基組成中の、ステアリン酸残基(St)とパルミチン酸残基(P)の含量の和に対するラウリン酸残基(La)の含量の質量比[La/(St+P)]が0.12~1.40である。
条件(α2):構成トリグリセリド中の、飽和脂肪酸残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリドの含量が30~65質量%である。
【0066】
・油脂β:脂肪酸残基組成中の、ラウリン酸残基の含量が35質量%以上である、非エステル交換油脂。
【0067】
以下、油脂α、油脂βについて述べる。
【0068】
-油脂α-
油脂αは、条件(α1)と(α2)を満たすランダムエステル交換油脂である。まず、条件(α1)について述べる。
【0069】
--条件(α1)--
条件(α1)は、脂肪酸残基組成中の、StとPの含量の和に対するLaの含量の質量比[La/(St+P)]に関する。
【0070】
油脂αにおける該質量比[La/(St+P)]は、固化性のよいコーティングクリームを得たり、風味や口溶けのよいコーティングクリームを得たりする観点から、その下限は0.12以上であり、好ましくは0.35以上、より好ましくは0.38以上又は0.40以上であり、該質量比の上限は1.40以下であり、好ましくは1.20以下、より好ましくは1.15以下又は1.10以下である。例えば、該質量比の範囲は、0.12~1.40であり、好ましくは0.35~1.20、より好ましくは0.38~1.15又は0.40~1.10である。
【0071】
--条件(α2)--
次に、条件(α2)について述べる。条件(α2)は、構成トリグリセリド中の、飽和脂肪残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリド(以下、単に「炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリド」ともいう。)の含量に関する。斯かる炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドとしては、例えばLaPStやジ-ミリストイル-モノ-ステアロイル-トリグリセリド、トリラウリンなどを挙げることができる。
【0072】
油脂αにおける炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドの含量は、経時的なベタツキの発生を抑制する観点から、その下限は、30質量%以上であり、好ましくは33質量%以上、より好ましくは36質量%以上又は38質量%以上であり、該含量の上限は、65質量%以下であり、好ましくは61質量%以下、より好ましくは55質量%以下又は52質量%以下である。例えば、該含量の範囲は、30~65質量%であり、好ましくは33~61質量%、より好ましくは36~55質量%又は38~52質量%である。
【0073】
とりわけ、炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリド中の、LaPStが5~35質量%であることが好ましく、7~32質量%であることがより好ましく、9~30質量%であることがさらに好ましい。
【0074】
なお、本発明において好ましく用いられる油脂αは、構成トリグリセリド組成中の、トリラウリンの含量が1~10質量%の範囲にあることが好ましい。トリラウリンは、グリセリン骨格に対して結合する脂肪酸残基の合計炭素数が36であるため、上記の炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドに該当するものである。
【0075】
経時的なベタツキをいっそう抑制する観点から、油脂αの構成トリグリセリド組成中のトリラウリンの含量は、より好ましくは1.0~9.0質量%、さらに好ましくは1.0~7.0質量%、さらにより好ましくは1.0~5.5質量%である。
【0076】
なお、油脂αの構成トリグリセリド中のトリラウリンの含量が1質量%未満であっても、経時的なベタツキを抑制することが可能であるが、油脂αが条件(α1)及び(α2)を満たしながら、トリラウリンの含量を1質量%未満とすることは工業生産の観点から困難である。
【0077】
上記条件(α1)及び(α2)を満たすランダムエステル交換油脂であれば特に限定されず油脂αとして用いることができる。油脂αとしては、例えば、(i)パーム核油と、(ii)ヨウ素価40以下のパームステアリンやパーム油の極度硬化油とを、前者(i)対後者(ii)で40:60~80:20の質量比で混合した油脂配合物を常法に則りランダムエステル交換した油脂を好ましく用いることができる。
【0078】
油脂αとして用いられるランダムエステル交換油脂を得るためのランダムエステル交換の手法については、常法により行うことができ、例えばナトリウムメトキシドなどの化学的触媒を用いる手法であっても、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼ等の酵素を用いる手法であっても行うことができる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0079】
-油脂β-
油脂βは、脂肪酸残基組成中の、ラウリン酸残基の含量が35質量%以上である、非エステル交換油脂である。
【0080】
本発明において「非エステル交換油脂」とは、搾油後に、常法の精製工程を経て得られた精製油脂、あるいは精製油脂に対して水素添加、分別を行った加工油脂であって、この加工の手法として位置特異性エステル交換又はランダムエステル交換等のエステル交換を行わない油脂を指す。
【0081】
油脂βにおける脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基の含量は、良好な口溶けを有するコーティングクリームを得たり、経時的なベタツキが抑制されたコーティングクリームを得たりする観点から、その下限は、35質量%以上であり、好ましくは40質量%以上、より好ましくは44質量%以上又は48質量%以上である。該含量の上限は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは66質量%以下、さらに好ましくは62質量%以下である。例えば、該含量の範囲は好ましくは35~70質量%、より好ましくは40~66質量%、さらに好ましくは44~62質量%である。
【0082】
また、良好な口溶けを有するコーティングクリームを得たり、経時的なベタツキが抑制されたコーティングクリームを得たりする観点から、油脂βにおける脂肪酸残基組成中の質量比[La/(St+P)]は、2.00~6.20の範囲にあることが好ましい。該質量比の下限は、好ましくは2.00以上、より好ましくは2.70以上、さらに好ましくは3.50以上、さらにより好ましくは4.30以上であり、該質量比の上限は、好ましくは6.20以下、より好ましくは6.00以下、さらに好ましくは5.80以下、さらにより好ましくは5.70以下である。例えば、該質量比の範囲は、好ましくは2.00~6.20、より好ましくは2.70~6.00、さらに好ましくは3.50~5.80、さらにより好ましくは4.30~5.70である。
【0083】
さらに、特にコーティング用途において、良好な口溶けを有するクリームを得たり、経時的なベタツキが抑制されたクリームを得たりする観点から、油脂βの構成トリグリセリド組成中のトリラウリンの含量は、15~35質量%であることが好ましく、18~32質量%であることがより好ましく、20~29質量%であることがさらに好ましい。
【0084】
なお、染み出しの発生を抑制する観点から、本発明に使用される非エステル交換油脂のヨウ素価の上限は好ましくは25以下、より好ましくは23以下、さらに好ましくは20以下、さらにより好ましくは15以下又は10以下であり、該ヨウ素価の下限は0以上であり、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、さらにより好ましくは4以上である。ヨウ素価を上記範囲に調整する手法としては、水素添加や分別といった手法をとることができる。
【0085】
脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基の含量が35質量%以上である非エステル交換油脂であれば特に限定されず油脂βとして用いることができる。油脂βとしては、例えば、パーム核油や、パーム核油を分別して得られるパーム核ステアリン、パーム核油の極度硬化油を好ましく用いることができる。
【0086】
-油脂γ-
上記Dを好ましく満たす観点から、本発明のクリーム用油脂組成物は、次に述べる油脂γを含有することが好ましい。
【0087】
・油脂γ:次の条件(γ1)及び(γ2)を満たすランダムエステル交換油脂。
条件(γ1):トリグリセリドを構成する脂肪酸残基として、オレイン酸残基を5~44質量%、オレイン酸を含む炭素数16~18の脂肪酸残基を60~97質量%、炭素数20~22の飽和脂肪酸残基を3~30質量%含有する。
条件(γ2):ヨウ素価が53以下である。
【0088】
油脂γを用いることで、条件Dを好ましく満たすことができるほか、経時的なベタツキをいっそう好ましく抑制することができる。
【0089】
--条件(γ1)--
まず条件(γ1)について述べる。条件(γ1)は、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基組成に関する。
【0090】
油脂γにおいて、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基組成中の、オレイン酸残基の含量は5~44質量%であり、好ましくは10~41質量%、より好ましくは15~39質量%である。
【0091】
油脂γにおいて、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基組成中の、オレイン酸残基を含む炭素数16~18の脂肪酸残基の含量は60~97質量%であり、好ましくは65~95質量%、より好ましくは70~93質量%である。
【0092】
また、油脂γにおいて、トリグリセリドを構成する脂肪酸残基組成中の、炭素数20~22の飽和脂肪酸残基の含量は3~30質量%であり、好ましくは5~25質量%、より好ましくは7~20質量%である。
【0093】
--条件(γ2)--
次に、条件(γ2)について述べる。条件(γ2)は、ヨウ素価に関する。
【0094】
油脂γは、ヨウ素価が53以下であり、好ましくは50以下、より好ましくは48以下である。ヨウ素価が53よりも大きいと、経時的なベタツキの抑制について、油脂γを併用する効果が乏しくなってしまう。該ヨウ素価の下限は特に限定されず、例えば、5以上、10以上、15以上などとし得る。
【0095】
油脂γは、炭素数16~18の脂肪酸残基を多く含有する油脂と、炭素数20~22の飽和脂肪酸残基を多く含有する油脂とを混合した油脂配合物(以下、「油脂配合物γ」ともいう。)をランダムエステル交換することにより、得ることができる。
【0096】
上記の炭素数16~18の脂肪酸残基を多く含有する油脂としては、例えば、パーム油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油、バターオイル等の各種動植物油脂並びにこれら油脂を原料として水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられ、これらの中から必要に応じて1種又は2種以上を使用することができる。
【0097】
上記の炭素数20~22の飽和脂肪酸残基を多く含有する油脂としては、例えば、ハイエルシン菜種油、魚油、サル脂、並びにこれらの油脂を原料として水素添加、分別及びエステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられ、これらの中から必要に応じて1種又は2種以上を使用することができる。
【0098】
油脂γは、油脂配合物γをランダムエステル交換して得ることができる。ランダムエステル交換反応は、上記油脂αを得る際と同様に常法によって行ってよい。
【0099】
<クリーム用油脂組成物の製造方法>
本発明のクリーム用油脂組成物は、上記条件A及びBを満たすクリーム用油脂組成物が得られる限り、その製造方法は特に限定されない。例えば、本発明のクリーム用油脂組成物は、上記条件A及びBを満たすように、好ましくは上記条件A、B及びCまたは上記条件A、B及びDを満たすように、さらに好ましくは上記条件A~Dの全てを満たすように、各種油脂や後述するその他成分を、それぞれ溶解した状態で混合して油相を調製した後、必要に応じ、水相を添加して乳化し、冷却し、結晶化させることにより製造してよい。油脂としては、上記条件A及びBを好ましく満たすクリーム用油脂組成物を得る観点から、上記の油脂α及び油脂βを用いることが好ましく、必要に応じて油脂γやその他油脂を用いてよい。以下、本発明のクリーム用油脂組成物の製造方法について好適な一例を示す。
【0100】
上記条件A及びBを満たすクリーム用油脂組成物が得られる限り、使用する油脂の種類や量は特に限定されないが、好ましく上記条件A及びBを満たす観点からは、クリーム用油脂組成物中の油脂αの含量が好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは65~85質量%となるように、また、クリーム用油脂組成物中の油脂βの含量が好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~35質量%、さらに好ましくは15~30質量%となるように、油脂αと油脂βを混合して用いることが好適である。
【0101】
また、油脂γについても任意の量を含有させてよいが、好ましく条件A、B及びDを満たすクリーム用油脂組成物を得る観点からは、クリーム用油脂組成物中の油脂γの含量が好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~12質量%、さらに好ましくは0~10質量%となるように、油脂α及びβと共に油脂γを用いることが好適である。
【0102】
本発明のクリーム用油脂組成物の製造方法は上記要件の他は、特に制限されず、通常の油脂組成物の製造方法と同様に製造してよい。
【0103】
詳細には、先ず、上記条件A及びB、好ましくは上記条件A、B及びDを満たすことができるように、各種油脂を1種又は2種以上選択して、加熱溶解し、混合・撹拌を行い、油相を調製する。尚、条件Cを好ましく満たすクリーム用油脂組成物を得るに際しては、ソルビタン脂肪酸エステルを含有させればよい。ソルビタン脂肪酸エステルや、油溶性のその他の成分については、必要により油相に含有させてよい。また、必要に応じて、水に水溶性のその他の成分を添加した水相を調製した後、該水相を油相に添加し、乳化する。
【0104】
次に、得られた混合物を殺菌処理に付すのが好ましい。尚、殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0105】
その後、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0106】
尚、クリーム用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、任意に、窒素、空気等を含気させてもよい。
【0107】
また、本発明のクリーム用油脂組成物は、本発明の効果を奏する限りにおいて、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、蔗糖・液糖・はちみつ・ブドウ糖・麦芽糖・オリゴ糖・水飴・ソルビトール・還元水飴・モラセス等の糖類や糖アルコール類、デキストリン類、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0108】
乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン、サポニン類等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0109】
増粘安定剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0110】
本発明のクリーム用油脂組成物において、上記その他の成分の含量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、クリーム用油脂組成物の全量を100質量%としたとき、好ましくは20質量%以下、15質量%以下又は10質量%以下である。
【0111】
<クリーム用油脂組成物の好適な用途>
本発明のクリーム用油脂組成物によれば、特にコーティング用途において、固化性に優れ、風味・口溶けが良好であり、且つ経時的なベタツキが抑制されたクリームを得ることができ、シュガークリームやバタークリーム等のクリーム類の製造に好適に使用される。
【0112】
本発明のクリーム用油脂組成物はさらに、ベーカリー食品と複合させた場合において、固化性が良好であり、経時的なベタツキを抑制できるため、製造直後は勿論、時間が経過した場合であってもベタツキが抑えられ、外観にも優れた複合ベーカリー食品を得ることができる。よって、本発明のクリーム用油脂組成物は、ベーカリー食品と複合させる用途に好適に用いることができる。
【0113】
ベーカリー食品と複合させる方法としては、例えば、ロールインやフィリング、サンド、トッピング、コーティング等の方法が挙げられるが、本発明のクリーム用油脂組成物は固化性が良好であり、ベーカリー食品と複合させた場合であっても経時的なベタツキを抑制できるため、特にコーティング用途に用いられることが好ましい。
【0114】
[クリーム]
本発明のクリーム用油脂組成物を用いてクリームを製造することができる。本発明は、斯かるクリームも提供する。以下、本発明のクリームについて説明する。
【0115】
本発明におけるクリームとは、本発明のクリーム用油脂組成物を用いてなる、油脂を連続相とするクリームの総称である。本発明のクリームは、例えば、(1)本発明のクリーム用油脂組成物を溶解し、糖類や乳等の粉体、乳化剤を加え十分に混錬する方法、(2)本発明のクリーム用油脂組成物をクリーミングし、ここに、糖類や、卵類、乳等を配合する方法、(3)糖類や卵類、乳等を事前に調製しておいたクリームに添加し、これをクリーミングする方法、(4)糖類や卵類、乳等を含有する本発明のクリーム用油脂組成物をクリーミングする方法等により得ることができる。(1)の製造方法により含水させないタイプの本発明のクリームが得られ、(2)~(4)の製造方法により含水させるタイプの本発明のクリームが得られる。
【0116】
本発明のクリームは、含水させないタイプのクリーム、すなわち無水のクリームに加えて、油中水型或いは油中水中油型の乳化形態を持つクリームも含み、いわゆるバタークリームやシュガークリームが該当する。とりわけコーティングクリームとして用いる際に、コーティングの対象となる食品と本発明のクリームとの結着性を高める観点やコーティングしやすいクリームを得る観点、固化性のよいクリームを得る観点から、本発明のクリームは無水のクリームであることが好ましい。例えば上記(2)~(4)の方法で得られるような含水させるタイプのクリームであってもコーティング用途に用いること自体は可能であるが、水分を含有させることにより、生じるクリームが強く増粘し、コーティング用のクリームとして適したものが得られない場合がある。
【0117】
なお、本発明において「無水である」とは、本発明のクリーム中の水分の含量が1質量%以下であることを指す。該水分の含量は、好ましくは0.9質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.7質量%以下である。
【0118】
なお、本発明のクリームの製造の過程においては、リファイニングの工程や含気させる工程(例えばクリーミングやガスの吹込み)を任意に導入することができる。
【0119】
本発明のクリームは、固化性が良好であるほか、経時的なベタツキが抑制されており、例えばバターケーキと複合させ、25℃環境下にて10日間保管した場合であっても、その表面にベタツキがほとんど又は全くなく、指で触れた場合であっても付着物は見られないなど、ベタツキが有意に抑制されている。
【0120】
本発明のクリームは、その製造に用いられる油脂として、本発明のクリーム用油脂組成物を用いる以外は、従来公知の任意の方法により製造してよい。
【0121】
本発明のクリームにおける本発明のクリーム用油脂組成物の使用量は特に限定されるものではないが、本発明の効果を十分に得る観点からは、クリーム中に好ましくは30~100質量%、より好ましくは35~100質量%、さらに好ましくは40~100質量%の量にて本発明のクリーム用油脂組成物を含有することが好適である。
【0122】
なお、本発明のクリームを製造する際、本発明のクリーム用油脂組成物以外の油脂(「その他油脂」ともいう。)を加えてもよい。
【0123】
本発明のクリームの製造に際し、含有させることができるその他油脂としては、例えば大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びココアバター等の植物性油脂、乳脂、バター、牛脂、豚脂、鶏油、魚油及び鯨油等の動物性油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂が挙げられる。上記油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合し用いてもよい。
【0124】
クリーム中のその他油脂の含量は、好ましくは25質量%以下、22質量%以下、19質量%以下又は16質量%以下である。該その他油脂の含量の下限は特に限定されず、含んでいなくてよい(0質量%)。
【0125】
ここで、本発明のクリームは、本発明のクリーム用油脂組成物について述べた条件E及びF(以下に改めて示す。)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、それらの両方を満たすことが好ましい。
条件E:油相中の液状油の含量が3質量%以下である。
条件F:油相中のココアバターの含量が3質量%以下である。
液状油の定義や、条件E、Fの好適態様、これら条件E、Fを満たすことが好ましい理由については、上記[クリーム用油脂組成物]欄にて説明したとおりである。
【0126】
[複合ベーカリー食品]
本発明のクリームを用いて複合ベーカリー食品を製造することができる。本発明は、斯かる複合ベーカリー食品も提供する。以下、本発明の複合ベーカリー食品について説明する。
【0127】
本発明の複合ベーカリー食品は、本発明のクリーム用油脂組成物を用いた本発明のクリームとベーカリー食品とを複合してなる。クリームとベーカリー食品とを複合するとは、ベーカリー食品の表面にクリームをトッピングやコーティングしたり、ベーカリー食品の内部にフィリングやサンドしたり、ベーカリー食品を製造する際にロールインしたりすることをいう。とくに、本発明のクリームは製造直後のベタツキや経時的なベタツキを抑制できるという特徴を有していることから、とりわけクリームとベーカリー食品とを複合する手法としてはコーティングが好ましい。したがって本発明の複合ベーカリー食品としては、ベーカリー食品を本発明のクリームによりコーティングしたものであることが好ましい。
【0128】
本発明に用いられるベーカリー食品としては、例えば、食パン、菓子パン、バターロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ等のパン類、パイやペストリー、パウンドケーキ、スポンジケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等のバターケーキ、アイスボックスクッキー、ワイヤーカットクッキー、サブレ、ラングドシャクッキー等のクッキー、ビスケット、ワッフル、スコーン等の菓子類を選択することができる。
【0129】
本発明のクリームは、製造直後のベタツキや、経時的なベタツキを抑制することができるという特徴を有していることから、油脂分を比較的多く含有するリッチな配合のパン類や菓子類であっても問題なく適用することができる。
【0130】
複合ベーカリー食品を製造する際に使用されるクリームの量は、選択されるベーカリー食品の種類によっても異なるが、例えばベーカリー食品100質量部に対して、クリーム50~200質量部を使用してよい。
【0131】
また、複合の手法としてコーティングを選択する場合において、その厚さは特に限定されないが、好ましくは0.5mm~10mm、より好ましくは0.7mm~9mm、さらに好ましくは0.9~8mmの範囲とすることが好適である。0.5mmよりも薄いとクリームの風味を感じにくくなる場合があり、10mmよりも厚いと、作業性に優れない上、コストも嵩む傾向にある。
【実施例0132】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、以下において、「部」及び「%」は、別途明示のない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0133】
<クリーム用油脂組成物の油相組成の測定>
-トリグリセリド組成の測定-
実施例及び比較例で製造したクリーム用油脂組成物の油相のトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した。
【0134】
各種測定条件は以下のとおりである。
(検出器):示差屈折検出器
(カラム):ドコシルカラム(DCS)
(移動相):アセトン:アセトニトリル=65:35(体積比)
(流速):1ml/min
(カラム温度):40℃
(背圧):3.8MPa
【0135】
-脂肪酸組成の測定-
実施例及び比較例で製造したクリーム用油脂組成物の油相の脂肪酸組成は、AOCS法「Ce-1h05」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した。
【0136】
各種測定条件は以下のとおりである。
(注入方式)スプリット方式
(検出器)FID検出器
(キャリアガス)ヘリウム 1ml/min
(カラム)SUPELCO社製「SP-2560」(0.25mm、0.20μm、100m)
(カラム温度)180℃
(分析時間)60分
(注入口温度)250℃
(検出器温度)250℃
(スプリット比)100:1
【0137】
<クリーム用油脂組成物のSFCの測定>
実施例及び比較例で製造したクリーム用油脂組成物のSFCは、AOCS official methodのcd16b-93に記載されるパルスNMR(ダイレクト法)にて測定した。25℃におけるSFCは、25℃に設定された恒温槽にて30分静置した試料(クリーム用油脂組成物)について測定した。35℃におけるSFCも同様に、35℃に設定された恒温槽にて30分静置した試料について測定した。
【0138】
以下、実施例及び比較例で用いた油脂の製造について述べる。
【0139】
<製造例1>(ランダムエステル交換油脂(1)の製造)
パーム核油50部と、パーム油に対し、沃素価が1以下となるまで水素添加を施した、パーム極度硬化油50部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、四口フラスコに入れ、液温110℃で真空下30分加熱した。この後、対油0.2%の割合でランダムエステル交換触媒のナトリウムメトキシドを加えて、液温を85℃に調整して更に真空下で1時間加熱してランダムエステル交換反応を行った後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和した。次に、白土を加え漂白(白土量は対油3%、処理温度85℃)を行い、白土を濾別した後、脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量対油5%)を行って、ランダムエステル交換油脂(1)を得た。
【0140】
<製造例2>(ランダムエステル交換油脂(2)の製造)
パーム核油75部と、パーム油に対し、沃素価が1以下となるまで水素添加を施した、パーム極度硬化油25部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂(2)を得た。
【0141】
<製造例3>(ランダムエステル交換油脂(3)の製造)
パームオレイン80部と、ハイエルシン菜種油に対し、沃素価が1以下となるまで水素添加を施した、菜種極度硬化油20部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂(3)を得た。
【0142】
<製造例4>(ランダムエステル交換油脂(4)の製造)
パームオレイン100部を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂(4)を得た。
【0143】
ランダムエステル交換油脂(1)及びランダムエステル交換油脂(2)は油脂αに、ランダムエステル交換油脂(3)は油脂γにそれぞれ該当し、また、ランダムエステル交換油脂(4)はその他油脂である。
【0144】
さらに、その他油脂として液状油である菜種油を使用した。
【0145】
各油脂の組成については表1のとおりである。
【0146】
【表1】
【0147】
<検討1>
クリーム用油脂組成物を製造し、該油脂組成物を用いて製造したクリームの固化性、喫食時の口溶け、経時的なベタツキの発生の程度について検討した。
【0148】
[実施例1]
ランダムエステル交換油脂(1)23質量部、ランダムエステル交換油脂(2)49質量部、パーム核ステアリン23質量部、ランダムエステル交換油脂(3)5質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物Ex-1を得た。
【0149】
[実施例2]
ランダムエステル交換油脂(1)37質量部、ランダムエステル交換油脂(2)33質量部、パーム核ステアリン28質量部、ランダムエステル交換油脂(3)2質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物Ex-2を得た。
【0150】
[実施例3]
ランダムエステル交換油脂(1)50質量部、ランダムエステル交換油脂(2)25質量部、パーム核ステアリン20質量部、ランダムエステル交換油脂(3)5質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物Ex-3を得た。
【0151】
[実施例4]
ランダムエステル交換油脂(1)50質量部、ランダムエステル交換油脂(2)25質量部、パーム核油20質量部、ランダムエステル交換油脂(3)5質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物Ex-4を得た。
【0152】
[実施例5]
ランダムエステル交換油脂(1)20質量部、ランダムエステル交換油脂(2)40質量部、パーム核ステアリン25質量部、ランダムエステル交換油脂(3)5質量部、菜種油10質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物Ex-5を得た。
【0153】
[実施例6]
ランダムエステル交換油脂(1)40質量部、ランダムエステル交換油脂(2)20質量部、パーム核ステアリン25質量部、ランダムエステル交換油脂(4)15質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物Ex-6を得た。
【0154】
[実施例7]
ランダムエステル交換油脂(1)50質量部、ランダムエステル交換油脂(2)30質量部、パーム核ステアリン20質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物Ex-7を得た。
【0155】
[比較例1]
ランダムエステル交換油脂(1)36質量部、ランダムエステル交換油脂(2)34質量部、ランダムエステル交換油脂(4)30質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物CEx-1を得た。
【0156】
[比較例2]
ランダムエステル交換油脂(1)25質量部、パーム核油10質量部、パーム核ステアリン20質量部、ランダムエステル交換油脂(3)15質量部、ランダムエステル交換油脂(4)30質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物CEx-2を得た。
【0157】
[比較例3]
ランダムエステル交換油脂(1)20質量部、パーム核油25質量部、パーム核ステアリン35質量部、ランダムエステル交換油脂(3)5質量部、ランダムエステル交換油脂(4)15質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物CEx-3を得た。
【0158】
[比較例4]
パーム核油50質量部、パーム核ステアリン30質量部、ランダムエステル交換油脂(3)10質量部、ランダムエステル交換油脂(4)10質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物CEx-4を得た。
【0159】
[比較例5]
ランダムエステル交換油脂(1)15質量部、ランダムエステル交換油脂(2)15質量部、パーム核ステアリン10質量部、ランダムエステル交換油脂(3)20質量部、ランダムエステル交換油脂(4)40質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で、混合し、十分に撹拌したものに、ソルビタントリステアレート(ダニスコジャパン社製「GRINSTED STS Q」)を0.5質量部添加し、撹拌しながら十分に溶解させ、徐冷させて、クリーム用油脂組成物CEx-5を得た。
【0160】
得られたクリーム用油脂組成物Ex-1~7及びCEx-1~5の詳細はそれぞれ表2-1及び2-2のとおりである。
【0161】
【表2-1】
【0162】
【表2-2】
【0163】
<コーティング用のクリームの製造>
上記のようにして得られたクリーム用油脂組成物Ex-1~7、CEx-1~5を用いて、以下の配合、製法によりコーティング用のシュガークリームを製造した。なお、製造に使用したクリーム用油脂組成物の付番と製造されたクリームの付番は対応している。
【0164】
[実施例8~14]
融解したクリーム用油脂組成物Ex-1~7 35質量部にレシチン0.5質量部を溶解し、粉糖55質量部、脱脂粉乳10質量部を加えて混合した後、常法によりリファイニング処理を行い、コーティング用のシュガークリームEx-1~7を製造した。
【0165】
[比較例6~10]
融解したクリーム用油脂組成物CEx-1~5 35質量部、粉糖55質量部、脱脂粉乳10質量部を加えて混合した後、常法によりリファイニング処理を行い、コーティング用のシュガークリームCEx-1~5を製造した。
【0166】
<バターケーキの製造>
以下の配合、製法により、コーティングに供するためのバターケーキを製造した。
【0167】
まず、全卵150質量部をミキサーで低速で均一な状態が得られるまで撹拌混合した後、薄力粉100質量部、グラニュー糖120質量部、アーモンドプードル40質量部、ベーキングパウダー2質量部、食塩0.5質量部を加え、比重0.9になるまで中速で撹拌混合した。ここにバター(よつ葉乳業(株)製「よつ葉無塩バター」)130質量部を融解させた状態で加えてさらに撹拌し、バターケーキ生地を調製した。この生地を、セパレート紙を敷いた八取天板に流し込み、上火190℃下火170℃にセットしたオーブンで15分焼成し、バターケーキを得た。得られたバターケーキは、粗熱をとった後に、4cm角にカットし、以降の評価に供した。
【0168】
<コーティングバターケーキの製造>
シュガークリームEx-1~7、シュガークリームCEx-1~5を、45℃に調整したものに、4cm角にカットされたバターケーキをくぐらせコーティングして、バット上にとり、15℃の恒温槽で15分静置して冷却し、コーティングバターケーキEx-1~7、コーティングバターケーキCEx-1~5を、それぞれ20個ずつ得た。
【0169】
なお、得られたコーティングバターケーキのコーティングの厚みは2mmであった。
【0170】
<コーティングバターケーキの評価>
コーティング用のシュガークリームEx-1~7、コーティング用のシュガークリームCEx-1~5について、「製造直後の固化性」を以下の評価方法に則って評価を行った。
【0171】
また、コーティングバターケーキEx-1~7、コーティングバターケーキCEx-1~5について、「喫食時の口溶け」及び「経時的なベタツキ」を、以下の評価基準に則って評価を行った。
【0172】
なお、いずれの評価も±以上の評点がついたものを合格品とした。
【0173】
-製造直後の固化性-
実施例及び比較例で製造したシュガークリームについて、以下の手順で固化性の評価を行った。
【0174】
詳細には、試料(シュガークリーム)を調製した後、カップに等量ずつ秤量したものを20℃設定の恒温槽に静置した。そして、試料表面を指で触り、指への付着物がなくなるまでの時間(すなわち固化時間)を測定し、下記評価基準に則って評価を行った。
【0175】
[評価基準]
+++:10分未満
++:10分以上15分未満
+:15分以上20分未満
±:20分以上25分未満
-:25分以上30分未満
--:30分以上
【0176】
-喫食時の口溶け-
実施例及び比較例で製造したコーティングバターケーキについて、10人の専門パネラーにより下記評価基準に従って官能評価を実施した。そして10人の専門パネラーの合計点を求め、合計点が45~50点の場合に+++、39~44点の場合に++、34~38点の場合に+、30~33点の場合に±、14~29点の場合に-、0~13点の場合に--とした。なお、評価に先立ち、パネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0177】
[評価基準]
5点:極めて良好である
3点:良好である
1点:やや不良である
0点:不良である
【0178】
-経時的なベタツキ-
実施例及び比較例で製造したコーティングバターケーキについて、以下の手順で経時的なベタツキの評価を行った。詳細には、試料(バターケーキ)10個を25℃設定の恒温槽に静置した。そして1日おきに、試料表面を指で触り、指への付着物が生じるまでの期間を測定し、下記評価基準に則って評価を行った。
【0179】
[評価基準]
+++:21日経過時点でもベタツキが発生していなかった
++:16~20日時点
+:10~15日時点
±:6~9日時
-:3~5日時点
--:製造直後~2日時点
【0180】
評価結果を表3に示す。
【0181】
【表3】
【0182】
<検討2>
クリーム用油脂組成物中のソルビタン脂肪酸エステルの量について検討を行った。
【0183】
[実施例8]
ソルビタントリステアレートを使用しなかった以外は、実施例2と同様の配合・製法により、クリーム用油脂組成物Ex-8を得た。
【0184】
[実施例9]
ソルビタントリステアレートの配合量を0.5質量部から0.15質量部に変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法により、クリーム用油脂組成物Ex-9を得た。
【0185】
[実施例10]
ソルビタントリステアレートの配合量を0.5質量部から0.3質量部に変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法により、クリーム用油脂組成物Ex-10を得た。
【0186】
[実施例11]
ソルビタントリステアレートの配合量を0.5質量部から0.9質量部に変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法により、クリーム用油脂組成物Ex-11を得た。
【0187】
クリーム用油脂組成物Ex-2、及びクリーム用油脂組成物Ex-8~11を用いて、検討1と同様に評価を行った。その結果を表4に示す。
【0188】
【表4】
【0189】
評価の結果、ソルビタン脂肪酸エステルを含有しない場合であっても、上記条件A及びBを満たすクリーム用油脂組成物は、染み出しが抑制されると共に、口溶けや固化性が良好なコーティングクリームが得られることが確認された。またクリーム用油脂組成物中のソルビタン脂肪酸エステルの含量が増すにつれ、口溶け・固化性・経時的なベタツキが改善される傾向にあることが確認された。