(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151258
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】半導体ウエハの研削方法、研削装置、及び半導体ウエハ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220929BHJP
B24B 9/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01L21/304 631
B24B9/00 601H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054244
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】沼口 浩之
(72)【発明者】
【氏名】土井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】一木 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】久徳 進次
(72)【発明者】
【氏名】為藤 美斗子
(72)【発明者】
【氏名】日高 悠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一介
【テーマコード(参考)】
3C049
5F057
【Fターム(参考)】
3C049AA04
3C049AA13
3C049AA18
3C049BA02
3C049BA09
3C049BB09
3C049BC02
3C049CA01
3C049CB01
3C049CB10
5F057AA04
5F057CA15
5F057CA16
5F057DA11
5F057EB17
5F057GA03
5F057GA16
5F057GA23
(57)【要約】
【課題】半導体ウエハの外周部に在るリング状の凸部を研削する際に、スクラッチの発生を抑制することができる、半導体ウエハの研削方法、研削装置、及び半導体ウエハを提供する。
【解決手段】回路形成領域に対応する裏面の中央の平坦部が薄化され、平坦部を取り囲む裏面の外周部にリング状の凸部が形成された半導体ウエハの凸部を研削する半導体ウエハの研削方法であって、半導体ウエハの外側で低くなるように砥石を斜めに傾けて凸部に当接させて、研削後の凸部のリング内側の高さと平坦部の高さとの差分が、研削時に発生する粒子の粒径以上となるように、凸部を斜めに研削する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路形成領域に対応する裏面の中央の平坦部が薄化され、前記平坦部を取り囲む裏面の外周部にリング状の凸部が形成された半導体ウエハの前記凸部を研削する半導体ウエハの研削方法であって、
前記半導体ウエハの外側で低くなるように砥石を斜めに傾けて前記凸部に当接させて、研削後の前記凸部のリング内側の高さと前記平坦部の高さとの差分が、研削時に発生する粒子の粒径以上となるように、前記凸部を斜めに研削する、
半導体ウエハの研削方法。
【請求項2】
前記差分が、前記粒子の粒径に等しい、
請求項1に記載の半導体ウエハの研削方法。
【請求項3】
前記粒子の粒径が、30μmである、
請求項1又は請求項2に記載の半導体ウエハの研削方法。
【請求項4】
前記砥石の研削面と水平面とが成す角度θが、0°より大きく且つ装置の構造に応じて下記式(1)で定まる最大角度θ
maxより小さく、
【数1】
上記式(1)において、X
2は、研削終了時の半導体ウエハの高さであり、Yは、前記砥石と前記凸部のリング内側とが当接る位置から前記砥石の端部までの長さである、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体ウエハの研削方法。
【請求項5】
前記砥石の研削面と水平面とが成す角度θが、0<θ≦85.61°の範囲である、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の半導体ウエハの研削方法。
【請求項6】
前記砥石の研削面と水平面とが成す角度θが、0<θ≦0.65°の範囲である、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の半導体ウエハの研削方法。
【請求項7】
前記凸部は、
粒度の粗い第1砥石を用いた粗研削により第1目標高さまで研削され、
前記第1砥石より粒度の細かい第2砥石を用いた仕上げ研削により前記第1目標高さより低い第2目標高さまで研削される、
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の半導体ウエハの研削方法。
【請求項8】
前記粗研削は、第1送り速度により行われ、
前記仕上げ研削は、前記第1送り速度より遅い第2送り速度により行われる、
請求項7に記載の半導体ウエハの研削方法。
【請求項9】
砥石と、
半導体ウエハが載置されるステージと、
前記砥石を前記半導体ウエハに当接させると共に、当接位置で前記砥石が上昇又は下降させるように、前記砥石を移動させる位置決め機構と、
前記ステージを回転駆動する第1駆動部と、
前記砥石を回転駆動する第2駆動部と、
前記位置決め機構、前記第1駆動部、前記第2駆動部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
回路形成領域に対応する裏面の中央の平坦部が薄化され、前記平坦部を取り囲む裏面の外周部にリング状の凸部が形成された半導体ウエハの前記凸部を研削する場合に、
前記位置決め機構を制御して、前記半導体ウエハの外側で低くなるように前記砥石を斜めに傾けて前記凸部に当接させ、
前記位置決め機構、前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御して、研削後の前記凸部のリング内側の高さと前記平坦部の高さとの差分が、研削時に発生する粒子の粒径以上となるように、前記砥石を下降させながら前記凸部を斜めに研削する、
研削装置。
【請求項10】
回路形成領域に対応する裏面の中央の薄化された平坦部と、
前記平坦部を取り囲む裏面の外周部に形成されたリング状の凸部と、
を備え、
前記凸部は、リング内側の高さがリング外側の高さよりも高くなる傾斜面を有し、
前記凸部のリング内側の高さと前記平坦部の高さとの差分が、研削時に発生する粒子の粒径以上である、
半導体ウエハ。
【請求項11】
前記傾斜面が、砥石により研削された被研削面である、
請求項10に記載の半導体ウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハの研削方法、研削装置、及び半導体ウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハを薄化する研削技術として「TAIKO(登録商標)プロセス」と呼ばれる方法が知られている。この方法では、半導体ウエハの裏面を、外周部を残してその内側だけを研削して薄化する。元の厚みのリング状の外周部が、太鼓のように内側の薄化部を支えることで、ウエハの割れや反りを低減する。
【0003】
リング状の外周部は、ダイシング工程の前に研削により薄化される。砥石を用いて半導体ウエハの表面やエッジを研磨する装置は種々知られている(特許文献1、2)。しかしながら、TAIKO(登録商標)プロセスで作製された特殊な形状の半導体ウエハを加工対象とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-300609号公報
【特許文献2】特開2002-36080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
TAIKO(登録商標)プロセスで作製された半導体ウエハは、リング状の外周部が内側と同等の厚さまで研削される。このため、研削時に発生する固い粒子が砥石と裏面中央部との間に挟まったまま砥石が摺動されることで、ウエハの裏面中央部にスクラッチと呼ばれる欠陥を発生させる。このような欠陥の発生は、チップの歩留まりを低下させる。
【0006】
本発明の目的は、半導体ウエハの外周部に在るリング状の凸部を研削する際に、スクラッチの発生を抑制することができる、半導体ウエハの研削方法、研削装置、及び半導体ウエハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の半導体ウエハの研削方法は、回路形成領域に対応する裏面の中央の平坦部が薄化され、前記平坦部を取り囲む裏面の外周部にリング状の凸部が形成された半導体ウエハの前記凸部を研削する半導体ウエハの研削方法であって、前記半導体ウエハの外側で低くなるように砥石を斜めに傾けて前記凸部に当接させて、研削後の前記凸部のリング内側の高さと前記平坦部の高さとの差分が、研削時に発生する粒子の粒径以上となるように、前記凸部を斜めに研削する。
【0008】
本開示の研削装置は、砥石と、半導体ウエハが載置されるステージと、前記砥石を前記半導体ウエハに当接させると共に、前記当接位置で前記砥石が上昇又は下降させるように、前記砥石を移動させる位置決め機構と、前記ステージを回転駆動する第1駆動部と、前記砥石を回転駆動する第2駆動部と、前記位置決め機構、前記第1駆動部、前記第2駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、回路形成領域に対応する裏面の中央の平坦部が薄化され、前記平坦部を取り囲む裏面の外周部にリング状の凸部が形成された半導体ウエハの前記凸部を研削する場合に、前記位置決め機構を制御して、前記半導体ウエハの外側で低くなるように前記砥石を斜めに傾けて前記凸部に当接させ、前記位置決め機構、前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御して、研削後の前記凸部のリング内側の高さと前記平坦部の高さとの差分が、研削時に発生する粒子の粒径以上となるように、前記砥石を下降させながら前記凸部を斜めに研削する。
【0009】
本開示の半導体ウエハは、回路形成領域に対応する裏面の中央の薄化された平坦部と、前記平坦部を取り囲む裏面の外周部に形成されたリング状の凸部と、を備え、前記凸部は、リング内側の高さがリング外側の高さよりも高くなる傾斜面を有し、前記凸部のリング内側の高さと前記平坦部の高さとの差分が、研削時に発生する粒子の粒径以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体ウエハの外周部に在るリング状の凸部を研削する際に、スクラッチの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】研削対象である半導体ウエハの形状を示す概略図である。(A)は裏面側から見た半導体ウエハの平面図であり、(B)は外周部の部分断面図である。
【
図2】(A)から(E)まではリング研削工程前後の半導体ウエハの加工工程を示す工程図である。
【
図3】リング部を研削する理由を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る研削装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る研削後の半導体ウエハの形状の一例を示す部分断面図である。
【
図6】(A)及び(B)は砥石をウエハに斜めに当てて研削する場合の効果を説明するための図である。
【
図7】砥石をウエハに斜めにする角度に対する装置上の制約を説明する図である。
【
図8】(A)から(C)まではリング研削処理を説明するための工程図である。
【
図9】制御部周りの構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】リング研削プログラムの制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
<研削対象の半導体ウエハ>
まず、研削対象について説明する。
本実施の形態では、TAIKO(登録商標)プロセスで作製された半導体ウエハを研削対象とする。
図1は研削対象である半導体ウエハの形状を示す概略図である。
図1(A)に示すように、半導体ウエハ(以下、「ウエハ」という。)10の裏面12bは、中央部が平坦部14とされ、外周部にリング状の凸部16が形成されている。リング状の凸部16は、ウエハ10の裏面12bを、外周部を残してその中央部だけを研削して薄化することにより形成される。
【0014】
A-A線で切断したときの断面を見ると、
図1(B)に示すように、ウエハ10は、平坦部14が薄化されているのに対し、凸部16は平坦部14の何倍もの厚みを有している。例えば、平坦部14は厚さ100μm以下であり、凸部16は厚さ600μm以上である。また、ウエハ10のエッジは、角が取れたR形状である。このため、凸部16の断面形状は、内側の側面が基板面に略垂直であり、外側の側面が外側に向かって凸のR形状である、半楕円形状である。
【0015】
<半導体ウエハの加工工程>
次に、リング研削工程前後のウエハの加工工程について説明する。
TAIKO(登録商標)プロセスで作製されたウエハ10を準備する(
図2(A))。次に、ウエハ10の裏面12b上に、裏面12bを覆うように、スパッタリング等により銅等の金属からなる裏面電極18を形成する。また、研削に先立って、ウエハ10の表面12aの回路形成領域に、表面保護テープ20を貼り付ける(
図2(B))。次に、リング状の凸部16を、平坦部14と略同じ高さになるまで研削する(
図2(C))。
【0016】
研削終了後に、表面保護テープ20を剥離して、回路形成領域である表面12aを露出させる(
図2(D))。次に、ダイシングに先立って、ウエハ10の裏面12bを覆うように、裏面電極18が形成された裏面12b全体にダイシングテープ22を貼り付ける。そして、ダイシングブレード24によりウエハ10を複数のチップにダイシングし、ウエハ10をエクスパンドして各チップを取り出す(
図2(E))。
【0017】
ここで、リング状の凸部16を除去する理由について説明する。
第1の理由は、凸部16が在るとダイシングテープ22を上手く貼り付けることができないからである。
図3に示すように、凸部16を残したままダイシングテープ22を貼り付けると、テープとウエハとの間に大きな隙間26が生じ、ダイシングテープ22が剥がれ易くなる。また、ダイシングテープ22を貼り付けるために押圧ローラを当てた際に、段差で応力が発生してウエハ10が破損する可能性がある。
【0018】
第2の理由は、非常に厚い凸部16はダイシングされず、ウエハ10をエクスパンドして各チップを取り出す際に邪魔になるからである。これらの理由から、ダイシング工程の前に、リング状の凸部16を研削して平坦化する必要がある。
【0019】
<研削装置>
次に、研削装置について説明する。
図4は本発明の実施形態に係る研削装置の構成の一例を示す概略図である。
図4に示すように、研削装置30は、ウエハ10を載置するステージ40、研削ヘッド50、及び制御部60を備えている。ステージ40は、その載置面にウエハ10を真空吸着して、水平に保持するように構成されている。研削ヘッド50は、円盤状の砥石52と、砥石52を支持する砥石支持部54とを備えている。砥石52は、ダイヤモンド等の砥粒を含有する研削砥石である。
【0020】
研削装置30は、ステージ40を回転軸R1の周りに回転させるステージ駆動部42と、研削ヘッド50を回転軸R2の周りに回転させるヘッド駆動部56と、研削ヘッド50を支持すると共に研削ヘッド50の位置決めを行うヘッド位置決め機構58とを更に備えている。ヘッド位置決め機構58は、研削ヘッド50をx、y、zの各方向に移動させる。また、ヘッド位置決め機構58は、砥石52の研削面52aが水平面に対し所定の角度だけ傾くように、研削ヘッド50をy軸に対して回転させる。
【0021】
本実施の形態の研削装置30は、2つの研削ヘッド50、即ち、第1研削ヘッド50Aと第2研削ヘッド50Bとを備えている。第1研削ヘッド50Aは、粒度が粗い粗研削用の第1砥石52Aを備えており、第1ヘッド駆動部56Aにより回転駆動される。第2研削ヘッド50Bは、第1砥石52Aより粒度が細かい仕上げ研削用の第2砥石52Bを備えており、第2ヘッド駆動部56Bにより回転駆動される。
【0022】
第1研削ヘッド50A及び第2研削ヘッド50Bの各々は、入れ替え可能にヘッド位置決め機構58に支持されており、粗研削には第1研削ヘッド50A、仕上げ研削には第2研削ヘッド50Bが使用される。なお、第1研削ヘッド50A及び第2研削ヘッド50Bの各々を区別する必要がない場合には、それらを「研削ヘッド50」と総称する。
【0023】
制御部60は、パーソナルコンピュータ等である。ステージ駆動部42、ヘッド駆動部56、及びヘッド位置決め機構58の各々は、制御部60に接続されており、制御部60によって制御されている。制御部60の電気的な構成や動作については後述する。
【0024】
次に、研削装置30の動作について説明する。
ここでは、研削ヘッドの入れ替えについては説明を省略する。
【0025】
まず、ウエハ10の中心軸がステージ40の回転軸となるように、ステージ40にウエハ10を水平に載置する。ステージ駆動部42は、ステージ40を回転軸R1の周りに回転させ、ヘッド駆動部56は、研削ヘッド50を回転軸R2の周りに回転させる。ウエハ10はステージ40と共に回転する。
【0026】
ヘッド位置決め機構58により、研削ヘッド50が、砥石52の研削面52aが水平面に対し所定の角度だけ傾くように回転されると共に、ウエハ10に近づく方向に移動される。砥石52の研削面52aの所定位置がウエハ10の凸部16に当接した状態で、研削ヘッド50のxy方向の位置が固定される(
図7参照)。
【0027】
この状態で、研削ヘッド50をz軸に沿って所定の送り速度で下降させることにより、砥石52が、回転するウエハ10のリング状の凸部16を研削すると共に、自ら回転して凸部16を研削する。
【0028】
砥石52の直径は、ウエハ10の直径の半分くらいの大きさである。このため、凸部16を平坦部14と同じ高さまで研削すると、砥石52が裏面12bを傷つけてしまう。このため、本実施の形態では、凸部16は、平坦部14より所定のギャップGだけ高くなるように研削される。なお、裏面電極18が形成されている場合は、裏面12bは、裏面電極18の表面18bと読み替えればよい。
【0029】
また、
図6(A)に示すように、研削によって、脱落した砥粒やシリコンの削り屑等の固い粒子70が発生する。研削の終盤では、固い粒子70が、砥石52の研削面52aとウエハ10の裏面12b(又は表面18b)との間に挟まったまま、砥石52が摺動される虞がある。これらの粒子70は、裏面12b(又は表面18b)にスクラッチを発生させる。
【0030】
このため、本実施の形態では、ギャップGを粒子70の直径以上とし、
図6(B)に示すように、砥石52を斜めに傾けることで、砥石52の研削面52aと裏面12b(又は表面18b)との間にクリアランスを持たせる。これにより、粒子70が砥石52の摺動に巻き込まれないようにして、スクラッチの発生を大幅に低減することができる。
【0031】
<加工後の半導体ウエハ>
次に、研削加工後の半導体ウエハの形状について説明する。
図5に示すように、研削後の凸部16は、斜めに研削されており、内側の端部72が最も高く、外側に向かって低くなる。内側の端部72は、平坦部14よりギャップGだけ高くなる。粒子70の粒径は、20μm~30μmである。従って、内側の端部72と平坦部14との間のギャップGは、30μm~34μmの間が好ましい。また、凸部16を除去する理由として説明した通り、段差はダイシング工程では邪魔になる。従って、ギャップGは小さい方がより好ましく、G≒30μmがより好ましい。
【0032】
なお、研削前の凸部16の幅Lは、例えば、5.4mm程度である。凸部16は回路が形成されない不要部分であるため、研削後の凸部16の幅Lについては特に制限がない。角度θを大きくすることで、幅Lが短くなっても問題はない。
【0033】
凸部16の被研削面74は、全体としては、円錐台の側面のような傾斜面である。被研削面74は、水平面に対し角度θだけ傾いている。
図6(A)及び
図6(B)を参照して説明した通り、ギャップGを粒子70の直径以上とした場合には、砥石52が少しでも傾いていれば、研削面52aと裏面12b(又は表面18b)との間にクリアランスを持たせることができる。従って、0<θ、であればよい。
【0034】
しかしながら、
図7に示すように、角度θには装置上の制約がある。上記の通り、砥石52の直径は、ウエハ10の直径の半分くらいの大きさであるため、砥石52を大きく傾けるとステージ40に当たってしまう。研削の開始から終了まで、砥石52がステージ40に当たらない角度θで砥石52を傾ける必要がある。
【0035】
研削終了時の凸部16の高さをX2とする。また、砥石52が接点52bで凸部16の内側の端部72に当接するとする。端部52cがステージ40に当たるときの最大角度を「θmax」、接点52bから端部52cまでの長さを「Y」とする。最大角度θmaxは下記式(1)で求められる。
【0036】
【0037】
実際に使用する装置で最大角度θmaxを算出した。
砥石52の直径は75mmである。接点52bが砥石52の中央部にある場合、Y=37.5mmである。長さYは、接点52bをずらすことで変化させる。従って、長さYは、0<Y≦37.5mmの範囲で変更可能である。研削終了時のウエハの厚さX2は、例えば、340μmとすることができる。これは、テープ厚さ200μm、平坦部の厚さ100μm、及びギャップ30μmを足し合わせた値である。
【0038】
X2=340μmで固定とし、Yの値を種々変更したときの最大角度θmaxを下記表1に示す。Y=0.34mmのときθmax=90°となり研削不能となる。このため、Y=0.341mmをYの最小値とした。
【0039】
【0040】
X2=340μmでは、0.52°≦θmax≦85.61°の範囲となる。従って、砥石52の傾き角度θは、0<θ≦85.61°の範囲とすることができる。また、砥石52の中央部を当接させて研削することが好ましく、長さYは30mm~37.5mmが好ましい。従って、最大角度θmaxは、0.52°~0.65°が好ましい。よって、砥石52の傾き角度θは、0<θ≦0.65°の範囲がより好ましく、0<θ≦0.52°の範囲がさらに好ましい。
【0041】
<リング研削処理>
次に、
図4及び
図8(A)~(C)を参照してリング研削処理について説明する。
リング研削処理は、粗研削工程と仕上げ研削工程とに分けて行われる。
【0042】
(粗研削工程)
まず、粗研削工程では、
図8(A)及び(B)に示すように、粒度の粗い第1砥石52Aを取り付けた第1研削ヘッド50A用い、比較的速い第1送り速度で第1研削ヘッド50Aを下降させて、ウエハ10の凸部16を第1目標高さX
1まで研削する。最終目標高さは、裏面12bの平坦部14よりギャップGだけ高い第2目標高さX
2である。第1目標高さX
1は、第2目標高さX
2より数十μmだけ高い。即ち、最終目標高さの手前までは、粗研削で迅速に削り進む。
【0043】
以下に、粗研削工程の第1制御パラメータの一例を示す。送り速度は、複数段階で変化させてもよい。
【0044】
・送り速度
1.0μm/秒~6.0μm/秒
・砥石回転数
5000rpm以下
・ステージ回転数
砥石と逆回転とする
【0045】
研削前の凸部の高さX0を840μmとし、第1目標高さX1を410μmとすると、粗研削工程で430μm(=310μm+40μm+80μm)が削り取られる。
【0046】
(仕上げ研削工程)
次に、仕上げ研削工程では、
図8(B)及び(C)に示すように、粒度の細かい第2砥石52を用い、第1送り速度より遅い第2送り速度で第2研削ヘッド50Bを下降させて、ウエハ10の凸部16を第2目標高さX
2まで研削する。即ち、最後の数十μmは、仕上げ研削で丁寧に削る。
【0047】
送り速度を低下させることで、表面へのダメージを低減して、欠けやクラックの発生を抑制することができる。また、送り速度を低下させることで、砥粒の脱落を抑制することもでき、スクラッチの低減に繋がる。
【0048】
以下に、仕上げ研削工程の第2制御パラメータの一例を示す。送り速度は、複数段階で変化させてもよい。
【0049】
・送り速度
1.0μm/秒以下
・砥石回転数
5000rpm以下
・ステージ回転数
砥石と逆回転とする
【0050】
第1目標高さX
1を410μmとし、第2目標高さX
2を340μmとすると、仕上げ研削工程で70μm(=60μm+10μm)が削り取られる。
図8(C)に示す加工物から、表面保護テープ20か除去されて、
図7に示す最終加工物が得られる。この例では、最終加工物の凸部16の高さは140μmとなる。
【0051】
<リング研削プログラム>
上述したリング研削処理は、オペレータの操作により各工程を実施してもよいが、
図4に示す研削装置30の制御部60により各部を制御して自動的に行うこともできる。
【0052】
制御部60は、装置全体の制御及び各種演算を行うコンピュータとして構成されている。即ち、制御部60は、
図9に示すように、CPU60A、ROM60B、RAM60C、不揮発性のメモリ60D、及び入出力インターフェイス(I/O)60Eを備えている。各部はバス60Fを介して互いに接続されている。CPU60Aは、ROM60B等の記憶装置からプログラムを読み出し、RAM60Cをワークエリアとして使用してプログラムを実行する。
【0053】
制御部60のI/O60Eには、表示部62、入力部64、通信部66、記憶部68、ヘッド駆動部56、ヘッド位置決め機構58、及びステージ駆動部42の各部が接続されている。制御部60は、各部と情報の授受を行って各部を制御する。
【0054】
表示部62は、ディスプレイ等の表示装置を備え、利用者に各種情報を表示する。入力部64は、マウス、キーボード等の入力装置を備え、利用者からの操作を受け付ける。通信部66は、有線又は無線の通信回線を介して外部装置と通信を行うためのインターフェイスである。
【0055】
記憶部68は、HDD等の記憶装置を備え、各種情報を記憶する。本実施の形態では、記憶部68には、リング研削プログラム68A、粗研削工程用の第1制御パラメータ68B、及び仕上げ研削工程用の第2制御パラメータ68Cが予め記憶されている。
【0056】
次に、リング研削プログラムについて説明する。
図10はリング研削プログラムの流れの一例を示すフローチャートである。このプログラムは、制御部60のCPU60Aにより実行される。リング研削プログラムは、オペレータにより、加工対象のウエハがステージにセットされ、リング研削工程の加工条件(傾き角度θ、目標高さ、平坦部の厚さ)が入力され、リング研削処理の開始が指示されると開始される。なお、研削装置の構成については
図4を参照されたい。
【0057】
まず、ステップS100で、砥石の傾き角度θ、第1目標高さX1、第2目標高さX2、及び平坦部の厚さDpを取得する。平坦部の厚さDpは、ウエハ10の平坦部14の厚さDに表面保護テープ20の厚さを加えたものである。
【0058】
次に、ステップS102で、砥石52を角度θだけ傾け可能か否かを判断する。砥石52を角度θだけ傾け可能である場合は、ステップS106に進む。砥石52を角度θだけ傾けられない場合は、ステップS104に進む。
【0059】
上述した通り、砥石52の傾き角度θは、装置上の制約により0より大きく且つθmax以下とされる。砥石52の傾き角度θの許容範囲を装置毎に予め定めておいて、角度θが許容範囲内であれば、砥石52を角度θだけ傾け可能であると判断すればよい。
【0060】
次に、ステップS104で、角度θを傾け可能な角度(0<θ≦θmaxの範囲の角度)に補正する。以下、補正を行った場合は、補正後の角度が傾き角度θである。
【0061】
次に、ステップS106で、ギャップGが予め定めた閾値以上かを判断する。ギャップGが閾値以上の場合は、ステップS110に進む。ギャップGが閾値未満の場合は、ステップS108に進む。
【0062】
ギャップGの閾値は、研削時に発生する固い粒子(脱落した砥粒やシリコンの削り屑等)の粒径の値(例えば、30μm)とする。なお、閾値は、砥粒の種類や粒径などに応じて変更してもよい。
【0063】
次に、ステップS108で、ギャップGが閾値以上になるように第2目標高さX2を補正し、第1目標高さX1と補正後の第2目標高さX2との差が所定値となるように第1目標高さX1を補正する。以下、補正を行った場合は、補正後の値が、第1目標高さX1、第2目標高さX2である。
【0064】
ギャップGが閾値以上となるように第2目標高さX2を補正した結果、第1目標高さX1が第2目標高さX2より低くなったり、第1目標高さX1と第2目標高さX2との差が小さくなったりする場合もある。これらの場合には、第1目標高さX1も補正する。
【0065】
次に、ステップS110で、砥石52の当接位置を決定する。
図7に示すように、砥石の傾き角度θ及び第2の目標高さX
2から長さYが算出される。長さYで定まる接点52bが、砥石52の当接位置である。
【0066】
次に、ステップS112で、粗研削用の第1砥石52Aを備える第1研削ヘッド50Aを準備する。
【0067】
次に、ステップS114で、粗研削工程用の第1制御パラメータを取得する。上述した通り、第1制御パラメータには、第1研削ヘッド50Aの送り速度、砥石回転数、及びステージ回転数が含まれる。また、第1制御パラメータに含まれる送り速度に応じて、各送り速度での研削量を決定する。なお、研削ヘッドの送り速度は、砥石の送り速度と同義である。
【0068】
次に、ステップS116で、第1制御パラメータ及び研削量を設定して粗研削処理を実行する。
【0069】
具体的には、設定された回転数でステージ40を回転させると共に第1研削ヘッド50Aを回転させる。続いて、砥石52Aを角度θだけ傾け、ステップS110で求めた当接位置でウエハ10の凸部16に当接するように第1研削ヘッド50Aを位置決めする。続いて、設定された送り速度で第1研削ヘッド50Aを下降させて、ウエハ10の凸部16を第1目標高さまで研削して、粗研削処理を終了する。
【0070】
次に、ステップS118で、ステージ40及び第1研削ヘッド50Aの回転を停止させ、第1研削ヘッド50Aを退避させる。
【0071】
次に、ステップS120で、仕上げ研削用の第2砥石52Bを備える第2研削ヘッド50Bを準備する。
【0072】
次に、ステップS122で、仕上げ研削工程用の第2制御パラメータを取得する。上述した通り、第2制御パラメータには、第2研削ヘッド50Bの送り速度、砥石回転数、及びステージ回転数が含まれる。また、第2制御パラメータに含まれる送り速度に応じて、各送り速度での研削量を決定する。
【0073】
次に、ステップS124で、第2制御パラメータ及び研削量を設定して仕上げ研削処理を実行する。
【0074】
具体的には、設定された回転数でステージ40を回転させると共に第2研削ヘッド50Bを回転させる。続いて、砥石52Aを角度θだけ傾け、ステップS110で求めた当接位置でウエハ10の凸部16に当接するように第2研削ヘッド50Bを位置決めする。続いて、設定された送り速度で第2研削ヘッド50Bを下降させて、ウエハ10の凸部16を第2目標高さまで研削して、仕上げ研削処理を終了する。
【0075】
次に、ステップS126で、ステージ40及び第2研削ヘッド50Bの回転を停止させ、第2研削ヘッド50Bを退避させて、ルーチンを終了する。
【0076】
本実施の形態に係るリング研削処理では、ウエハの平坦部と研削後の凸部との間に研削時に発生する粒子の直径以上のギャップを形成するように研削すると共に、砥石を斜めに傾けて研削する。これにより、研削の終盤で砥石の研削面とウエハの裏面との間にクリアランスを持たせることができ、裏面の回路形成領域におけるスクラッチの発生を防止することができる。
【0077】
また、砥石の傾き角度θの上限値を、砥石の大きさ、研削終了時の凸部の高さ、砥石の当接位置など、研削装置上の制約に応じて決定することができる。
【0078】
また、研削後も、ウエハにリング状の凸部が残ることで、ウエハの強度が保証される。一方、凸部も平坦化されており、凸部は平坦部に比べて数十μm高いだけなので、ダイシングテープを裏面全体に上手く貼り付けることができるし、凸部をダイシングすることも可能である。
【0079】
また、リング研削処理を、粗研削工程と仕上げ研削工程とに分け、最終目標高さの手前までは粗研削で迅速に削り進むと共に、最後の数十μmは仕上げ研削で丁寧に削ることができる。また、仕上げ研削工程で送り速度を低下させることで、表面へのダメージを低減して、欠けやクラックの発生を抑制することができる。また、送り速度を低下させることで、砥粒の脱落を抑制することもでき、スクラッチの低減にも繋がる。
【0080】
また、リング研削処理を自動化する場合に、オペレータからリング研削工程の加工条件の入力を受け付けるが、砥石の傾き角度θ、第1目標高さX1、及び第2目標高さX2の各々が適切か否かが判断され、不適切な値である場合は適切な値となるように補正される。これにより、スクラッチの発生を確実に抑制することができる。
【0081】
<変形例>
以上、半導体ウエハの研削方法、研削装置、及び半導体ウエハの例示的な実施の形態について説明したが、本発明は、実施の形態に記載の範囲には限定されない。本発明の主旨を逸脱しない範囲で実施の形態に多様な変更又は改良を加えることができ、当該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0082】
例えば、上記実施の形態で説明した半導体ウエハ及び砥石の寸法は一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において変更してもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
10 ウエハ
12a 表面
12b 裏面
14 平坦部
16 凸部
18 裏面電極
18b 表面
20 表面保護テープ
22 ダイシングテープ
24 ダイシングブレード
26 隙間
30 研削装置
40 ステージ
42 ステージ駆動部
50、50A、50B 研削ヘッド
52、52A、52B 砥石
52a 研削面
52b 接点
52c 端部
54 砥石支持部
56、56A、56B ヘッド駆動部
58 機構
60 制御部
62 表示部
64 入力部
66 通信部
68 記憶部
68A リング研削プログラム
68B 第1制御パラメータ
68C 第2制御パラメータ
70 粒子
72 端部
74 被研削面
θ 角度
θmax 最大角度
G ギャップ
L 幅
R1 回転軸
R2 回転軸