(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151302
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】リサイクルポリエステルの製造方法、リサイクル装置及び機能層除去剤
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20220929BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
B08B3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054299
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 清徳
(72)【発明者】
【氏名】開 俊啓
【テーマコード(参考)】
3B201
4F401
【Fターム(参考)】
3B201AA08
3B201AB13
3B201BA02
3B201BB02
3B201BB11
3B201BB21
3B201BB82
3B201BB83
3B201BB87
3B201BB88
3B201BB94
3B201BB95
3B201CB23
3B201CC01
3B201CC11
4F401AA22
4F401AB10
4F401AC13
4F401AD07
4F401BA06
4F401CA02
4F401CA35
4F401EA04
4F401EA08
4F401EA59
(57)【要約】
【課題】
ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を剥離でき、基材フィルムを回収することのできるリサイクルポリエステルの製造方法、リサイクル装置及び機能層除去剤を提案することを課題とする。
【解決手段】
ポリエステルフィルム表面にハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する水系洗浄剤で洗浄する工程(A)と、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する工程(B)を有するリサイクルポリエステルの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、ハードコート層を除去する、機能層除去工程(A)と、ハードコート層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)と、を有するリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項2】
ポリエステルフィルムの表面に膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、該機能層を除去する、機能層除去工程(A)と、該機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)と、を有するリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄剤が、水系洗浄剤である、請求項1又は2に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記(a)アルカリ性化剤の含有量が、15~60質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウムを含有する、請求項5に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項7】
前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒が、1価アルコール類を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項8】
前記1価アルコール類が、メタノール、エタノール、1-ブタノール及びベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項7に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項9】
前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒の含有量が、5~85質量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のリサイクルポリエステルの製造方法により回収したポリエステルフィルムを原料として少なくとも一部に含むリサイクルポリエステル製品。
【請求項11】
洗浄装置を有するポリエステルフィルムのリサイクル装置であって、洗浄装置において、ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、
ハードコート層を除去したポリエステルフィルムを回収することを特徴とする、ポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項12】
洗浄装置を有するポリエステルフィルムのリサイクル装置であって、洗浄装置において、ポリエステルフィルムの表面に膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、
該機能層を除去したポリエステルフィルムを回収することを特徴とする、ポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項13】
前記ハードコート層又は機能層を除去したポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流すリンス装置をさらに備える請求項11又は12に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項14】
前記洗浄剤が水系洗浄剤であり、前記リンス装置において、水で水系洗浄剤を洗い流す請求項13に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項15】
前記ハードコート層又は機能層を除去したポリエステルフィルムを乾燥する乾燥装置を備える請求項11~14のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項16】
前記洗浄装置の前段に巻き出し装置を有する請求項11~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項17】
ロールトゥロール方式で回収する請求項16に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項18】
前記洗浄装置の前段に裁断装置をさらに備える請求項11~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
【請求項19】
ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を備える積層ポリエステルフィルムからハードコート層を除去するための除去剤であって、
(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する、ポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項20】
ポリエステルフィルムの表面に膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムから該機能層を除去するための除去剤であって、
(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する、ポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項21】
前記除去剤が水系除去剤である請求項19又は20に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項22】
前記(a)アルカリ性化剤の含有量が、15~60質量%である、請求項19~21のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項23】
前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む、請求項19~22のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項24】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウムを含有する、請求項23に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項25】
前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒が、1価アルコール類を含有する、請求項19~24のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項26】
前記1価アルコール類が、メタノール、エタノール、1-ブタノール及びベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項25に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【請求項27】
前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒の含有量が、5~85質量%である、請求項19~26のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルポリエステルの製造方法、リサイクル装置及び機能層除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃プラスチックは、埋め立て、海洋投棄、焼却等の処理がなされていたが、埋め立て場所の確保が困難になりつつあり、海洋投棄はプラスチックが分解しないために環境面で問題になっている。また、焼却によって熱として利用することはできるが、炭酸ガスの排出により、地球温暖化につながるという問題がある。
【0003】
そこで、昨今の環境問題の高まりから、廃プラスチックの再利用、再生等のリサイクルが必要とされており、そのための研究開発が盛んに行われている。また、プラスチックはその多くが化石燃料により生産されており、資源の有効利用の点からも、リサイクル方法の構築が求められている。
【0004】
ところで、プラスチックフィルムの一種であるポリエステルフィルムは、基材フィルムとして有用であり、片面又は両面に種々の機能層が積層された、積層フィルムとして使用されることが多い。機能層としては、ハードコート層、粘接着層、加飾層、遮光層、偏光層、紫外線遮蔽層など、様々な機能層があり、機能層に応じた材料をポリエステルフィルムに積層した積層フィルムが使用されている。
【0005】
このような積層フィルムは、使用後にほとんど再利用されておらず、廃棄、焼却等がなされている。
【0006】
機能層が積層された積層フィルムをそのまま再溶融してリサイクルしようとしても、機能層を構成する材料が溶融ポリマー中に混入するため、押し出し時に異臭を発生したり、ポリマーの溶融粘度が低下したりしてフィルム製膜時の破断の原因となる。
また、仮に製膜できたとしても得られたフィルムの着色や、異物混入などによる品質の劣化が避けられない。
【0007】
また、仮に機能層を物理的に削り取るなどして剥離除去し、溶融押出しした場合も、押出し時の濾過工程で、残存した機能層によってフィルターが目詰まりを起こし、正常な製膜ができなくなるなどの問題が生じる。
【0008】
積層フィルムのリサイクル方法として、例えば、特許文献1に開示される技術がある。この技術は、基材フィルムの少なくとも片面に易溶解性樹脂層と表面機能層をこの順に積層してなる積層フィルムである。このような構成としたうえで、使用後に、易溶解性樹脂層のみ溶解可能であって、基材フィルムを溶解しない溶媒で洗浄することにより、積層フィルムから基材フィルムを分離回収しようというものである。分離回収したものは再溶融され、基材フィルムを構成していた樹脂組成物を再生することを可能としたものである。
【0009】
また、特許文献2には、基材フィルムの少なくとも一方の面に有する機能層を除去する方法であって、ロール状に巻き取られた前記基材フィルムを長尺状の状態でアルカリ性処理液に接触させる工程を含むことを特徴とする機能層の除去方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-169005号公報
【特許文献2】特開2020-090094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示される方法は、上述のように、基材フィルムの表面に易溶解性樹脂層と表面機能層とをこの順に積層してなる積層フィルムを前提としており、易溶解性樹脂層を溶解させることによって、機能層を除去しようとするものである。
すなわち、易溶解性樹脂層を有さない、大部分の積層ポリエステルフィルムに用いることはできず、汎用性のない技術である。
【0012】
また、上記特許文献2に開示される方法は、アルカリ性処理液に接触させることで機能層を除去するものであるが、機能層がハードコート層や厚膜である場合のアルカリ性処理液の機能層除去能に関しては一切検討されていない。
【0013】
上記実情に鑑みて、易溶解性樹脂層を有さない積層ポリエステルフィルムであっても、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層に対して優れた剥離性を有し、基材フィルムを回収することのできるリサイクルポリエステルの製造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らの検討により、従来のアルカリ性処理液では、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去しにくい場合があることが分かった。
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、アルカリ性化剤と、比誘電率が5以上36以下である有機溶媒とを含有する洗浄剤を用いることで、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去することができ、効率的に基材のポリエステルフィルムを回収し得ることを見出した。本発明は係る知見に基づき完成したものである。すなわち、本発明は、以下の態様を有するものである。
[1]ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、ハードコート層を除去する、機能層除去工程(A)と、ハードコート層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)と、を有するリサイクルポリエステルの製造方法。
[2]ポリエステルフィルムの表面に膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、該機能層を除去する、機能層除去工程(A)と、該機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)と、を有するリサイクルポリエステルの製造方法。
[3]前記洗浄剤が、水系洗浄剤である、上記[1]又は[2]に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
[4]前記(a)アルカリ性化剤の含有量が、15~60質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
[5]前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
[6]前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウムを含有する、上記[5]に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
[7]前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒が、1価アルコール類を含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
[8]前記1価アルコール類が、メタノール、エタノール、1-ブタノール及びベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、上記[7]に記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
[9]前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒の含有量が、5~85質量%である、上記[1]~[8]のいずれかに記載のリサイクルポリエステルの製造方法。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載のリサイクルポリエステルの製造方法により回収したポリエステルフィルムを原料として少なくとも一部に含むリサイクルポリエステル製品。
[11]洗浄装置を有するポリエステルフィルムのリサイクル装置であって、洗浄装置において、ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、ハードコート層を除去したポリエステルフィルムを回収することを特徴とする、ポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[12]洗浄装置を有するポリエステルフィルムのリサイクル装置であって、洗浄装置において、ポリエステルフィルムの表面に膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、該機能層を除去したポリエステルフィルムを回収することを特徴とする、ポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[13]前記ハードコート層又は機能層を除去したポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流すリンス装置をさらに備える上記[11]又は[12]に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[14]前記洗浄剤が水系洗浄剤であり、前記リンス装置において、水で水系洗浄剤を洗い流す上記[13]に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[15]前記ハードコート層又は機能層を除去したポリエステルフィルムを乾燥する乾燥装置を備える上記[11]~[14]のいずれかに記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[16]前記洗浄装置の前段に巻き出し装置を有する上記[11]~[15]のいずれかに記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[17]ロールトゥロール方式で回収する上記[16]に記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[18]前記洗浄装置の前段に裁断装置をさらに備える上記[11]~[15]のいずれかに記載のポリエステルフィルムのリサイクル装置。
[19]ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を備える積層ポリエステルフィルムからハードコート層を除去するための除去剤であって、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する、ポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[20]ポリエステルフィルムの表面に膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムから該機能層を除去するための除去剤であって、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する、ポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[21]前記除去剤が水系除去剤である上記[19]又は[20]に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[22]前記(a)アルカリ性化剤の含有量が、15~60質量%である、上記[19]~[21]のいずれかに記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[23]前記(a)アルカリ性化剤が、アルカリ金属水酸化物を含む、上記[19]~[22]のいずれかに記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[24]前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウムを含有する、上記[23]に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[25]前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒が、1価アルコール類を含有する、上記[19]~[24]のいずれかに記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[26]前記1価アルコール類が、メタノール、エタノール、1-ブタノール及びベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、上記[25]に記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
[27]前記(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒の含有量が、5~85質量%である、上記[19]~[26]のいずれかに記載のポリエステルフィルム用機能層除去剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリサイクルポリエステルの製造方法によれば、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を有する積層ポリエステルフィルムから、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を容易に除去することができ、効率的に基材フィルム(ポリエステルフィルム)を回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第一の態様に係る、リサイクルポリエステルの製造方法は、ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、ハードコート層を除去する、機能層除去工程(A)と、ハードコート層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)を有する。
【0017】
本発明の第二の態様に係る、リサイクルポリエステルの製造方法は、ポリエステルフィルムの表面に膜厚1μm以上の機能層を備える積層ポリエステルフィルムを、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄し、機能層を除去する、機能層除去工程(A)と、機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する、回収工程(B)を有する。
【0018】
ここで、機能層除去工程(A)において、いずれも(a)アルカリ性化剤と(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を併用することが重要であり、併用によって、ポリエステルフィルム上のハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を効果的に除去することができる。
【0019】
本発明において、(a)成分は、電離したヒドロキシル基が求核攻撃することで、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を溶解、膨潤させて、ポリエステルフィルムとハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層との界面での結合を弱める作用を有し、ポリエステルフィルムからハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去する作用を有する。
そこで、水溶媒中で、(a)成分がイオン化した状態で、いかに安定して存在できるかが、洗浄剤の洗浄力を左右する重要な要因になると考えた。
【0020】
また、上述の(a)成分と(b)成分を併用することで、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を効果的に除去することができる機構については、定かではないが、(b)成分が、水溶媒中における(a)成分のイオン安定化をサポートする役割を担っていると推定している。
(a)成分のイオン安定化をサポートする条件として、(b)成分は、自身も水溶媒中においてイオン化しながら、それでいて安定して存在できることが必要である。
本発明において、(b)成分は、イオンの状態で安定して、水溶媒に取り囲まれることにより、イオン化した(a)成分と共存し、さらには(a)成分の電離を促進する効果を有するため、高い洗浄力を発現できると考えられる。
【0021】
<積層ポリエステルフィルム>
本発明における積層ポリエステルフィルムとは、基材フィルムであるポリエステルフィルムの表面に樹脂層などの機能層が積層されたものをいう。
ポリエステルフィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造の場合、二層構造、三層構造などでもよいし、四層又はそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。また、ポリエステルフィルムは、二軸延伸フィルム等の延伸フィルムであっても未延伸フィルムであってもよい。
ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、特に限定されるものではなく、市場に流通しているものを適宜使用できる。具体的には、ジカルボン酸とジオールを重縮合してなるポリエステルが挙げられ、ジカルボン酸としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族グリコールが好ましい。
上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などが挙げられる。上記脂肪族グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等を挙げることができる。
ポリエステルはホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。また、ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸、グリコール以外の第三成分を共重合体成分として含んでもよい。
ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレートなどが挙げられ、これらの中ではポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、これらは、共重合体ポリエステルであってもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートは、ジカルボン酸単位の30モル%以下程度でテレフタル酸以外のジカルボン酸単位を有し、また、ジオール単位の30モル%程度でエチレングリコール以外のジオール単位を有してもよい。
【0022】
本発明の第一の態様に係る積層ポリエステルフィルムは、基材フィルムであるポリエステルフィルムの表面にハードコート層が積層されたものをいう。ハードコート層は、ポリエステルフィルムに耐擦傷性などを付与するために設けられる層であり、ハードコート層を形成する材料としては、特に限定されないが、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、テトラエトキシシラン等の反応性ケイ素化合物の硬化物などが挙げられる。
【0023】
ハードコート層は単層でもよいし、複数の層が積層されていてもよい。
なお、第一の態様におけるハードコート層は、膜厚についての制限はなく、1μm未満であっても十分な洗浄効果が得られる。
【0024】
本発明の第二の態様に係る積層ポリエステルフィルムは、基材フィルムであるポリエステルフィルムの表面に膜厚が1μm以上の機能層が積層されたものである。
【0025】
一般的に、機能層を設ける方法としては2通りある。1つは、インラインコーティングと呼ばれ、ポリエステルフィルムの製造工程内でコーティングを行う方法である。具体的には、ポリエステルを溶融押出してから縦延伸後、横延伸前の段階でコーティングを行う。かかる方法によれば、機能層がフィルムの延伸に追従して引き延ばされるため、後者のオフラインコーティングによって設けられた機能層に比べて、薄膜とすることができる。
もう一方は、オフラインコーティングと呼ばれ、フィルムの製膜後に、別工程の塗布装置を用いて機能層を設ける方法である。
【0026】
本発明の第二の態様においては、後者の方法によって設けられた機能層を除去することを主な目的としており、従来のアルカリ性処理液では除去が困難であった膜厚が1μm以上の機能層であっても、容易に機能層を除去することができる。
【0027】
上記機能層は、その構成成分は特に限定されるものではないが、本発明のリサイクルポリエステルの製造方法によって除去する観点からは、樹脂により構成されていることが好ましい。上記機能層としては、例えば、ハードコート層、粘接着層、離型層、加飾層、遮光層、紫外線遮蔽層、易接着層(プライマー層)、帯電防止層、屈折率調整層、オリゴマー封止層などが挙げられる。
【0028】
ハードコート層は、ポリエステルフィルムに耐擦傷性などを付与するために設けられる層であり、ハードコート層を形成する材料としては、特に限定されないが、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、テトラエトキシシラン等の反応性ケイ素化合物の硬化物などが挙げられる。
【0029】
粘接着層は、他の機器等に粘接着させるために設けられる層であり、粘接着層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、公知のアクリル系、ゴム系、シリコーン系等の粘着樹脂を使用することができる。
【0030】
離型層は、ポリエステルフィルムに離型性を付与するために設けられる層であり、例えば、セラミック電子部品の製造時に使用するグリーンシート成形用工程紙、偏光板、光学フィルター等のフラットパネルディスプレイ製造時に使用する光学部材の粘着セパレータなどに使用される離型フィルムに設けられる層である。離型層を構成する材料としては、特に制限はなく、例えば、硬化型シリコーン樹脂を主成分とするもの、あるいはウレタン樹脂、エポキシ樹脂等とのグラフト重合等による変性シリコーン樹脂等、長鎖アルキル基含有化合物、フッ素化合物、炭化水素系ワックス等が挙げられる。
【0031】
加飾層は、意匠性を付与するために設けられる層であり、加飾層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂に顔料、染料等が加えられ装飾がなされる。
【0032】
遮光層又は紫外線遮蔽層は、内容物を紫外線、可視光等から保護するために設けられる層であり、遮光層又は紫外線遮蔽層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、加飾層で記載した各種樹脂や、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、硫酸バリウム等の無機充填剤、木粉、パルプ粉等、セルロース粉末等の有機充填剤が挙げられる。
【0033】
易接着層(プライマー層)は、他の層やフィルムをポリエステルフィルム上に接着させるために設けられる層であり、特に限定されないが、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂等や、各種架橋剤、粒子等が挙げられる。
【0034】
帯電防止層は、他の材質との接触や剥離などにより発生する帯電を防ぐために設けられる層である。帯電防止層に使用される帯電防止剤としては、特に限定されないが、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性界面活性剤、ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(4-スチレンサルフォネート)等の導電性高分子、SnO2(Sbドープ)、In2O3(Snドープ)、ZnO(Alドープ)等の金属酸化物フィラー、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)などのカーボン化合物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用して使用してもよい。また、帯電防止層は、帯電防止剤を含む樹脂組成物から形成されてもよい。樹脂組成物に含有される樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、及びウレタン樹脂などが挙げられる。
【0035】
屈折率調整層は、屈折率を調整するために設けられる層であり、屈折率調整層を構成する材料としては、特に限定されないが、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、酸化ジルコニウムや酸化チタン等の金属酸化物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用して使用してもよい。
【0036】
オリゴマー封止層は、加熱工程後のフィルム白化・異物防止のために設けられる層であり、特に限定されないが、例えば、オリゴマー封止層を構成する材料としてはアミン系化合物、イオン性樹脂などが挙げられる。また、オリゴマー封止層は、高架橋塗膜等などであってもよい。
【0037】
上記機能層は単層でも良いし、二種以上の層が積層されていてもよい。二種以上の層が積層されている場合、少なくとも一層が樹脂により構成されている層であることが好ましい。
上記機能層の膜厚は、1μm以上であり、本発明は、膜厚が1μm以上の機能層をも除去し得る。一方、膜厚は薄いほど除去は容易であるので、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。機能層の膜厚が1μmよりも薄い場合には、機能層の除去が容易であり、リサイクルがより効率的に行える。
なお、機能層が二種以上の層から積層されてなる場合は、各層の合計厚みを前記膜厚とする。
【0038】
<洗浄剤>
本発明の方法では、機能層除去工程(A)において、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄することを特徴とする。
【0039】
(アルカリ性化剤)
本発明の洗浄剤を構成する(a)アルカリ性化剤は、洗浄液をアルカリ性とするものであり、アルカリ剤とも呼べる。アルカリ性化剤としては、後述する(b)成分や相溶化剤との組み合わせが好適である点から、無機アルカリ性化剤であることが好ましい。
【0040】
無機アルカリ性化剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属のケイ酸塩;アンモニアなどが挙げられる。
【0041】
本洗浄剤における無機アルカリ性化剤のうち、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、入手容易性から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましく、洗浄性から水酸化カリウムが特に好ましい。
【0042】
本洗浄剤における無機アルカリ性化剤としては、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。特に、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムを組み合わせて使用することが、効果及び取り扱い性の点から好ましい。
【0043】
有機アルカリ性化剤としては、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-シクロヘキシルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリイソプロパノールアミン、等の有機アミン化合物等が挙げられる。
【0044】
本洗浄剤における有機アルカリ性化剤のうち、汎用性からモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましく、入手容易性からモノエタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましく、洗浄性からモノエタノールアミンが特に好ましい。
【0045】
また、洗浄剤全体における(a)アルカリ性化剤の含有量は、15~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましく、25~40質量%であることがさらに好ましい。上記範囲内であると、洗浄剤として良好な効果が得られる。
【0046】
(比誘電率が5以上36以下である有機溶媒)
本洗浄剤は、(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する。本発明において、(b)成分は、上述のとおり、水溶媒中における(a)成分のイオン安定化をサポートする役割を担っていると推定しており、(b)成分自身も水溶媒中においてイオン化しながら、それでいて安定して存在する必要がある。
【0047】
そこで、併用する有機溶媒のイオン化指標として比誘電率に着目した。例えば、後述の比較例に用いるベンジルアミン(比誘電率:4.6)の場合、水溶媒に対する溶解性が乏しく、水溶媒中ではイオン化しにくいと考えられる。
また、後述の比較例に用いるエチレングリコール(比誘電率:37.7)の場合には、水溶媒中では溶解しやすい反面、ジオール部分のヒドロキシル基が洗浄対象物に速やかに吸着するため、(a)成分のイオン安定化をサポートしにくいと考えられる。
そのため、比誘電率がかかる範囲である有機溶媒を選択的に用いることにより、有機溶媒自体が、水溶媒中でイオンの状態で安定して水溶媒に取り囲まれ、イオン化した上記(a)成分と共存し、さらには(a)成分の電離を促進する効果を有するため、高い洗浄力を発現できる。
かかる観点から、(b)成分の比誘電率は5以上36以下、好ましくは8以上35以下、より好ましくは10以上34以下、特に好ましくは12以上33以下である。
【0048】
(b)成分を満たすものとしては、分極の観点から、1価アルコール類を含有することが好ましく、立体障害の観点から、第1級アルコール類を含有することがより好ましい。扱いやすさや汎用性の観点から、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、ベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することがさらに好ましく、メタノール、エタノール、1-ブタノール及びベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが特に好ましい。
ただし、第2級及び第3級アルコール類を用いた場合でも、後述する浸漬時間を長くすることで、所望するレベルの除去効果を得られる場合がある。
【0049】
洗浄剤における(b)成分の含有量は、5~85質量%が好ましく、7~80質量%がより好ましく、10~75質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、(a)アルカリ性化剤の量を適切なものとすることができ、洗浄剤が高い洗浄力を発現できる。
また、洗浄剤において、前記(a)成分に加え、後述の相溶化剤を併用する場合や、洗浄剤を水系洗浄剤とする場合には、洗浄剤における(b)成分の含有量は、好ましくは5~70質量%、より好ましくは7~60質量%、さらに好ましくは10~50質量%、特に好ましくは20~50質量%である。上記範囲内であれば、(a)アルカリ性化剤及び後述の相溶化剤の量を適切なものとすることができる。また、水系とする場合には、一定量以上の水を含有させることもできる。
【0050】
本発明に係る洗浄剤は、水系洗浄剤であることが好ましい。水系洗浄剤は、上記(a)及び(b)成分を水に溶解させ、また、希釈させたものである。水系洗浄剤は引火点を上げることができるため比較的安全性が高く、また、後述するリンス工程において、水を使用できる点でも有利である。
【0051】
本発明に係る洗浄剤は、上記(a)成分及び(b)成分以外にも種々の添加剤を配合することができ、例えば、相溶化剤、酸化防止剤、防錆剤、pH調整剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤などを添加することができる。
【0052】
(相溶化剤)
相溶化剤とは、上記(a)成分及び(b)成分と併用することで、積層ポリエステルフィルムからのハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層の溶出を助ける働きを有するともに、上記(a)成分、(b)成分、及びその他任意に添加される添加剤等を可溶化する機能を有する。特に、洗浄剤が水を含む場合にも、前記(a)成分及び(b)成分の相溶性を良好なものとすることができる。代表的には、後述する化合物が挙げられる。
【0053】
相溶化剤としては、特に制限はなく、アニオン系相溶化剤、カチオン系相溶化剤、ノニオン系相溶化剤、両性相溶化剤のいずれも使用することができる。
なお、相溶化剤には、上記(b)成分にも相当する化合物が含まれることから、本発明に係る洗浄剤において、相溶化剤は、上記(b)成分と併用するに際し、(b)成分とは異なるものを用いる。
【0054】
アニオン系相溶化剤としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルカルボン酸、芳香族カルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α-スルホン化脂肪酸、N-メチル-N-オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、これらの塩等が挙げられる。
【0055】
カチオン系相溶化剤としては、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウム、アルキルピリジニウム、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム、N,N-ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム及びこれらの塩等が挙げられる。
【0056】
ノニオン系相溶化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル等の芳香族基含有エーテル;ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール又は2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエトキシレート等のアセチレングリコール;多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のエステル系相溶化剤;ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸トリエタノールアミド等のアルカノールアミド;アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド等のグルコシド系相溶化剤;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;モルホリン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリイソプロパノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイド等の水酸基含有アミン化合物などの有機アミン化合物が挙げられる。
【0057】
両性相溶化剤としては、N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N-ジアルキル-N,N-ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2-アルキル-1-カルボキシメチル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン類、N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩等のアミノカルボン酸類が挙げられる。
【0058】
なお、相溶化剤としては、前記(a)成分が含まれる場合があるが、アルカノールアミン化合物、アルカノールアミド化合物、及び下記に該当する炭素数12以上のヒドロキシ化合物については、相溶化剤として取り扱う。
アルカノールアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等が挙げられ、アルカノールアミド化合物としては、モノエタノールアミド、ジエタノールアミド及びトリエタノールアミド等が挙げられる。
また、炭素数12以上のヒドロキシ化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシアルキレングリコール系、アセチレングリコール系、エステル系及びグルコシド系の炭素数12以上のヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0059】
洗浄剤における相溶化剤のうち、相溶性及び取り扱い性の観点から、芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有アミン化合物の使用が好ましい。具体的な化合物としては、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。
なお、ここでは上述のように、(a)アルカリ性化剤とは異なる化合物を用いることが前提である。
【0060】
前記(a)成分と相溶化剤の組み合わせの具体例としては、アルカリ性化剤として無機アルカリ性化剤を使用する場合には、相溶化剤としては、アニオン系相溶化剤、カチオン系相溶化剤、ノニオン系相溶化剤、及び両性相溶化剤のいずれか少なくとも1つを使用すればよい。
また、(a)成分として、有機アルカリ性化剤を使用する場合には、相溶化剤としては、アニオン系相溶化剤、カチオン系相溶化剤、有機アミン化合物以外のノニオン系相溶化剤、及び両性相溶化剤のいずれか少なくとも1つを使用すればよい。
【0061】
また、本発明の洗浄剤においては、(a)成分として無機アルカリ性化剤を使用し、かつ相溶化剤として芳香族スルホン酸塩及び水酸基含有アミン化合物から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
なかでも、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種の無機アルカリ性化剤と、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の芳香族スルホン酸塩との組み合わせが好ましい。
また、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種の無機アルカリ性化剤と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリイソプロパノールアミンから選択される少なくとも1種の水酸基含有アミン化合物の組み合わせが好ましく、これらの中でも、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選択される少なくとも1種の無機アルカリ性化剤と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンから選択される少なくとも1種の水酸基含有アミン化合物を併用した組み合わせが特に好ましい。
【0062】
前記相溶化剤は、単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
洗浄剤が、相溶化剤を含有する場合、相溶化剤の含有量は、1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、8~20質量%がさらに好ましい。上記範囲内であると、十分な洗浄性が得られる。
【0064】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、特に限定されず、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等を用いることができる。
【0065】
(防錆剤)
防錆剤としては、クロム酸塩、モリブデン酸塩、亜硝酸ナトリウム等の無機化合物が挙げられる。
【0066】
(pH調整剤)
pH調整剤としては乳酸、二酸化炭素、コハク酸、グルコン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸、リン酸等が挙げられる。
【0067】
(防腐剤)
防腐剤としてはパラベン系、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、プロピオン酸塩系、デヒドロ酢酸、二酸化硫黄及びピロ亜硫酸ナトリウム系等が挙げられる。
【0068】
(粘度調整剤)
粘度調整剤としては高分子化合物、層状無機粒子などが挙げられる。
【0069】
(消泡剤)
消泡剤としては、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、ポリエーテル系化合物、アセチレングリコール系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等が挙げられる。
【0070】
[リサイクルポリエステルの製造方法]
本発明のリサイクルポリエステルの製造方法(以下、単に「製造方法」と記載することがある。)は、機能層除去工程(A)と回収工程(B)を有する。
【0071】
<機能層除去工程(A)>
本発明に係る機能層除去工程は、前記洗浄剤を用いて、積層ポリエステルフィルムのハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去する工程である。除去の方法としては、例えば、洗浄剤の入った洗浄槽に浸漬する浸漬法、溶液状態の洗浄剤を塗布する塗布法、溶液状態の洗浄剤又は気化した洗浄剤を吹き付ける吹き付け法などが挙げられる。これらのうち、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層への洗浄剤の浸透性の点から、浸漬法が好ましい。
【0072】
浸漬法における洗浄剤の温度としては、室温(20℃)以上であることが好ましい。室温(20℃)以上であると、洗浄液の粘度が低く、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層へ浸透しやすいため良好な洗浄性が得られる。以上の観点から、浸漬法における洗浄剤の温度としては40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、60℃以上であることが特に好ましい。
また、洗浄剤の温度の上限値としては、洗浄剤を溶液状態で用いる場合には、沸点以下の温度が好ましい。本願の好適な態様である水系洗浄剤の場合は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。
なお、浸漬法以外においても洗浄時の洗浄液の温度は、上記と同様である。また、浸漬法における剥離洗浄では、加水分解反応を進める目的として、マイクロ波照射を行ってもよい。
【0073】
洗浄剤のpHは、洗浄性の観点から12以上が好ましく、13以上がより好ましい。
【0074】
浸漬時間については、1秒以上、30分以下が好ましい。1秒以上であると、洗浄剤がハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層へ充分に浸透し、洗浄性が発揮できる。一方、30分以内であると、基材であるポリエステルフィルムが過度に溶解することなく、回収した際に得られるポリエステルの量を確保できる。以上の観点から、15秒以上、20分以下であることがより好ましく、30秒以上、15分以下であることがさらに好ましく、1分以上、10分以下であることが特に好ましく、1分以上、5分以下であることがとりわけ好ましい。
【0075】
機能層除去工程の具体的な態様は、廃材である積層フィルムの形状による。
【0076】
廃材である積層ポリエステルフィルムが、ロール状である場合には、洗浄剤を入れた洗浄槽の前段に巻き出し装置を設置しておき、該装置から積層ポリエステルフィルムを巻き出して、洗浄槽中に導入して洗浄することが好ましい。そして、連続的に次の回収工程(B)に移行する態様が好ましい。
また、機能層除去工程から後述するリンス工程において、積層ポリエステルフィルムから効率良くハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去する目的で、ロールブラシ、超音波、マイクロ/ナノバブル、水流、圧縮冷気などの物理的手段を備えた設備を設けてもよい。
【0077】
廃材である積層ポリエステルフィルムが、塊状である場合には、洗浄工程の前に裁断又は破砕装置を設置しておき、フレーク状にして洗浄槽に導入することが好ましい。フレーク状にすることで、積層ポリエステルフィルムと洗浄剤との接触面積が大きくなって、洗浄剤が浸透しやすくなり、効率的にハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去することができる。
また、フレーク状の積層ポリエステルフィルム同士による摩擦が生じることからも、効率的にハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去することができる。本態様では、ベルトコンベア等を利用して、フレーク状の積層ポリエステルフィルムを連続的に洗浄槽に導入する方法が好ましい。このような態様をとることで、高い生産性で洗浄することができる。
なお、本態様の場合には、洗浄はバッチ式で行うこともできる。より具体的には、洗浄工程前に裁断又は破砕したフレーク状物を、例えば特開2004-27072号公報等で開示されているような加圧式洗浄装置に投入して洗浄することができる。
【0078】
なお、廃材である積層ポリエステルフィルムが、ロール状である場合であっても、洗浄工程の前に裁断又は破砕装置を設置しておき、フレーク状にして洗浄層に導入してもよい。予め適当なサイズの裁断物又は粉砕物としておくことにより洗浄効率を向上させることもできる。
また、この際、上記のとおり、ベルトコンベア等を利用して、フレーク状の積層ポリエステルフィルムを連続的に洗浄槽に導入する方法を採用してもよいし、洗浄工程前に裁断又は破砕したフレーク状物を、前記加圧式洗浄装置に投入してバッチ式に洗浄してもよい。
【0079】
<回収工程(B)>
本発明のリサイクルポリエステルの製造方法では、前記機能層除去工程(A)の後に、基材フィルムであるポリエステルフィルムを回収する。回収工程の前段で、後述するリンス工程、及び乾燥工程を有することが好ましい。回収の方法としては、廃材である積層ポリエステルフィルムの形状に応じて、適当な方法を選択することができる。
【0080】
廃材である積層ポリエステルフィルムが、ロール状の場合は、ロールトゥロールで連続的に行い、適宜洗浄工程、リンス工程及び乾燥工程を経て、巻き取ることで効率的に回収することができる。
【0081】
廃材である積層ポリエステルフィルムが塊状の場合は、上述のように、機能層除去工程の前に、裁断工程を有することが好ましい。本態様の場合には、ベルトコンベア等を利用して、連続的にリンス工程、乾燥工程を通過させて、フレーク状のポリエステルを回収する態様が好ましい。
なお、上述した加圧式洗浄装置により、廃材であるロール状又は塊状の積層ポリエステルフィルムをバッチ式に洗浄した場合、当該加圧式洗浄装置内で連続的にリンス工程、乾燥工程を行い、フレーク状のポリエステルを回収してもよいし、当該加圧式洗浄装置による洗浄後、バッチ式にリンス工程及び乾燥工程を行ってもよい。
【0082】
上述のようにして回収されたポリエステルフィルムは、回収後、ペレット状にすることが、取り扱いの点で有利である。
【0083】
<リンス工程>
本発明では、機能層除去工程(A)の後、回収工程(B)の前に、洗浄剤を洗い流すリンス工程を有することが好ましい。具体的には、リンス液により、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去したポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流す工程を指す。
【0084】
リンス液としては、洗浄剤を洗い流し得るものであれば特に限定されないが、本発明の好適な態様である水系洗浄剤を用いる場合には、リンス工程に水を用いることができる。
【0085】
リンス工程の温度としては、効率的に洗い流せるとの観点から、室温付近であることが好ましく、具体的には5~50℃であることが好ましく、5~30℃であることがより好ましい。
【0086】
洗浄剤を洗い流す方法としては、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去したポリエステルフィルムに対してリンス液を吹き付ける吹き付け法、ポリエステルフィルムをリンス液の入ったリンス槽に浸漬する浸漬法などが挙げられる。ただし、洗い流す必要のない洗浄剤を使用する場合には、リンス工程は省略可能である。
【0087】
<乾燥工程>
リンス工程の後には、乾燥工程を経ることが好ましい。乾燥工程によって、ポリエステルフィルム上に残存した洗浄剤及び/又はリンス液を除去できる。なお、リンス工程が省略される場合には、乾燥工程は、機能層除去工程(A)の後に行われるとよい。
【0088】
乾燥工程の条件としては、特に限定されず、通常70~150℃で、1~30分程度の時間乾燥される。乾燥方法としては、赤外線ヒーターやオーブン等による加熱乾燥、熱風乾燥機等による熱風乾燥やマイクロ波加熱乾燥など、一般的な方法を用いることができる。
【0089】
<リサイクルポリエステル製品製造工程>
本発明の製造方法においては、上記回収工程で回収されたポリエステルフィルムを原料としてリサイクル(再生利用)し、リサイクルポリエステル製品を製造する、リサイクルポリエステル製品製造工程を有することが好ましい。また、該製造工程の前段で、後述するペレット製造工程によりポリエステルをペレット化し、該ペレットを用いて後述するリサイクルポリエステル製品を製造することが好ましい。
【0090】
<ペレット製造工程>
乾燥されたポリエステルフィルムは、ペレット製造工程により、ペレットに加工されることが好ましい。特に、廃材である積層ポリエステルフィルムが塊状の場合は、上述のように、裁断又は破砕されており、得られるリサイクルポリエステルはフレーク状である。フレーク状のポリエステルは、ペレット化することで取り扱い性が格段に向上する。
ペレットは、取り扱いの点で有利であるだけでなく、保管、その後の加工等も行いやすいというメリットもある。
【0091】
[リサイクルポリエステル製品]
本発明のリサイクルポリエステルの製造方法により得られたポリエステルフィルムは、ポリエステル原料として利用でき、いわゆるリサイクルポリエステル製品として、再利用することができる。具体的には、回収したポリエステルはペレット化して、ペレット状のポリエステル(ポリエステル製品)として保管することができる。
また、回収されたポリエステルは、溶融押出し等によってポリエステルフィルムなどの各種のポリエステル製品に成形することもできる。
なお、回収されたポリエステルは、その製造容易性から、一旦ペレット化した後に、各種製品に成形することが好ましい。
【0092】
用途としては、通常のポリエステル製品と同様の用途に用いることができ、例えば、基材フィルムであるポリエステルフィルムとして使用することができる。当該基材フィルムに、機能層を形成することで、積層ポリエステルフィルムとして再利用することも可能である。
【0093】
本発明の製造方法により回収したポリエステルフィルム(リサイクルポエステル)は、原料として少なくとも一部に含むことができ、従来の方法で製造されたポリエステルと混合して使用することもできる。また、リサイクルポリエステルと従来の方法で製造されたポリエステルを用いた多層フィルムとすることもできる。
【0094】
リサイクルポリエステル製品としては、フィルム以外にも、各種用途に使用可能であり、例えばペットボトル、ポリエステル繊維、ポリエステルシート、ポリエステル容器などを製造することもできる。
【0095】
なお、剥離したハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層に関しても、必要に応じて回収し、再利用することも可能である。
【0096】
<機能層除去剤>
本発明の別の態様によれば、ポリエステルフィルムの表面に特定の機能層を備える積層ポリエステルフィルムから機能層を除去するための除去剤(以下「本除去剤」ともいう)が提供される。
すなわち、本除去剤の第一の態様は、上述したリサイクルポリエステルの製造方法における機能層除去工程(A)で使用される洗浄剤を、前記積層ポリエステルフィルムからハードコート層を除去するために使用するものである。
また、本除去剤の第二の態様は、上述したリサイクルポリエステルの製造方法における機能層除去工程(A)で使用される洗浄剤を、前記積層ポリエステルフィルムから膜厚1μm以上の機能層を除去するために使用するものである。
本除去剤の具体的態様及び好ましい態様は、上記洗浄剤と同じであり、これらを全て援用することができる。
本除去剤は、ポリエステルフィルムからハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を容易に除去することができ、積層ポリエステルフィルムから効率的にポリエステルフィルムを回収することができる。
【0097】
[ポリエステルフィルムのリサイクル装置]
本発明に係るポリエステルフィルムのリサイクル装置は、洗浄装置を有する。リサイクル装置は、洗浄装置にて洗浄され、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する。
【0098】
ポリエステルフィルムを回収する手段は、特に限定されないが、ロール状の場合には、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去したポリエステルフィルムを回収する巻取ロールを使用すればよい。
塊状の場合には、ベルトコンベヤなどの搬送装置により、所定の回収位置にハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去したポリエステルフィルムを搬送させて回収してもよい。
【0099】
ポリエステルフィルムを巻き出す、及び裁断する手段は、特に限定されないが、ロール状の場合は、巻き出し装置を有していることが好ましく、さらには、巻き取りもロールで行う、いわゆるロールトゥロール方式であることが、効率的にポリエステルフィルムの回収が行える点で好ましい。
塊状の場合は、裁断装置を有していることが好ましい。裁断によって、廃材はフレーク状になり、前述のように、洗浄工程がより効率的になる。なお、ここで裁断には破砕も含まれる。
【0100】
リサイクル装置は、ペレット製造装置を有することも好ましく、回収されたポリエステルフィルムは、取り扱い性を容易にするために、ペレット製造装置でペレット化することが好ましい。特に塊状の廃材から回収されたポリエステルフィルムは、ペレット化することで取扱い性をより一層良好にできる。
【0101】
さらに、リサイクル装置は、以下で詳述する通り、リンス装置、及び乾燥装置を好ましくは有する。
【0102】
(洗浄装置)
洗浄装置は、(a)アルカリ性化剤、及び(b)比誘電率が5以上36以下である有機溶媒を含有する洗浄剤で洗浄する装置である。典型的には、洗浄槽に上記洗浄剤を満たした洗浄槽が挙げられ、ここに廃材である積層ポリエステルフィルムを導入し、浸漬して洗浄する。その他、溶液状態の洗浄剤を塗布する塗布装置、溶液状態又は気化した洗浄剤や、洗浄剤のミストを形成してミストを吹き付ける吹付装置などがある。
【0103】
洗浄剤は上記の通りであり、洗浄剤としては、水系洗浄剤が好ましい。水系洗浄剤を用いることで、後述するリンス装置で水によるリンスを行うことができ、好ましい。
【0104】
(リンス装置)
リンス装置は、洗浄剤にてハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を除去した後に、ポリエステルフィルムに付着した洗浄剤を洗い流すための装置である。具体的には、リンス液を吹き付ける吹付装置、リンス液に浸漬させる浸漬装置などが挙げられる。上述のように、洗浄剤として水系洗浄剤を用いることで、リンス工程で水を用いることができ、安全性が高く、また防爆装置などが不要であることからコスト面でも好ましい。
【0105】
洗浄剤とともに、ポリエステルフィルムから剥離したハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層も同時に洗い流される場合がある。水と、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を構成していた材料はその後分離され、水はリンス工程で再利用することができ、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を構成していた材料も再利用することが可能である。リンス装置は省略されてもよい。
【0106】
(乾燥装置)
乾燥装置は、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層が剥離され、洗浄剤が洗い流されたポリエステルフィルムを乾燥するためのものであり、乾燥条件については、前述の通りである。乾燥装置としては、赤外線ヒーター、オーブン、熱風乾燥機、及びマイクロ波加熱乾燥機などが挙げられる。乾燥装置における乾燥工程を経て、ポリエステル基材は回収される。なお、リンス装置が省略される場合にも、乾燥装置は、ハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層が剥離されたポリエステルフィルムを乾燥するとよい。
【実施例0107】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0108】
<評価方法>
(1)洗浄試験
各実施例及び比較例で調製した洗浄剤を30mlの容器に入れ、3×4cmの積層ポリエステルフィルムを浸漬させた。洗浄剤の温度、及び浸漬時間は、表に記載の通りである。
【0109】
(2)ハードコート層の除去率評価:膜厚測定
洗浄前後のフィルムにプラチナを蒸着して、蒸着後に3×9mmのフィルムを切り出して、その断面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-3400N)で観察してハードコート層の膜厚を測定した。機能層の除去率は以下の式から算出した。
機能層の除去率(%)=100-(洗浄後のハードコート層の膜厚÷洗浄前のハードコート層の膜厚)×100
なお、評価基準は以下のとおりとした。
◎(Excellent):除去率70~100%
〇(Good) :除去率50~70%
△(Fair) :除去率20~50%
×(Poor) :除去率0~20%
【0110】
<積層ポリエステルフィルム>
下記手順にてアクリル系ハードコート層を有する積層ポリエステルフィルムを得た。
(アクリル系ハードコート溶液の調製)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート24質量部、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート6質量部、光重合開始剤(商品名:Omnirad 184、IGM Resins B.V.製)1.5質量部、トルエン70質量部の混合塗液とし、アクリル系ハードコート溶液を得た。
(アクリル系ハードコートフィルムの調製)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μmの市販品(三菱ケミカル(株)製「ダイヤホイル」))上に、上記アクリル系ハードコート溶液を乾燥膜厚が10μmとなるよう塗布し、紫外線を照射して硬化させ、アクリル系ハードコート層を有する積層ポリエステルフィルムを得た。
【0111】
[実施例1]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、(b)成分であるベンジルアルコール(比誘電率;13.0)を28質量部、相溶化剤としてモノエタノールアミン13質量部、その他成分として水を29質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、80℃に加温した洗浄剤に、1分間及び3分間、それぞれ浸漬させて洗浄し、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0112】
[実施例2]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、(b)成分である1-ブタノール(比誘電率;17.8)を41質量部、その他成分として水を29質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様にして、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0113】
[実施例3]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、(b)成分であるイソプロパノール(比誘電率;20.1)を41質量部、その他成分として水を29質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、80℃に加温した洗浄剤に、1分間、3分間及び5分間、それぞれ浸漬させて洗浄し、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0114】
[実施例4]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、(b)成分であるエタノール(比誘電率;25.3)を41質量部、その他成分として水を29質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、実施例3と同様にして、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0115】
[実施例5]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、(b)成分であるメタノール(比誘電率;32.6)を41質量部、その他成分として水を29質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様にして、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0116】
[比較例1]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、(b)成分の代わりにベンジルアミン(比誘電率:4.6)を41質量部、その他成分として水を29質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様にして、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0117】
[比較例2]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、(b)成分の代わりに、エチレングリコール(比誘電率:37.7)を41質量部、その他成分として水を29質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様にして、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0118】
[比較例3]
(a)成分である水酸化カリウム30質量部、その他成分として水を70質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様にして、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0119】
[比較例4]
(a)成分である水酸化カリウム5質量部、その他成分として水を95質量部となるように混合し、洗浄剤を調製した。
上記の積層ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様にして、洗浄性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0120】
【0121】
表1に示すように、(a)成分及び(b)成分を含有する洗浄剤で、積層ポリエステルフィルムを洗浄することで、積層ポリエステルフィルムからハードコート層又は膜厚1μm以上の機能層を容易に除去することができた。
これは、(b)成分自体がイオンの状態で安定して、水溶媒に取り囲まれることにより、イオン化した(a)成分と共存し、さらには(a)成分の電離を促進する効果を有するため、高い洗浄力を発現できたと考えられる。