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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151335
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ペースト状組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20220929BHJP
   A01H 6/46 20180101ALN20220929BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A01H6/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054363
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦田 かなえ
(72)【発明者】
【氏名】塔野岡 卓司
(72)【発明者】
【氏名】金子 成延
【テーマコード(参考)】
2B030
4B023
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB02
2B030AD09
2B030CA08
2B030CB02
4B023LE30
4B023LG05
4B023LK08
4B023LP07
4B023LP17
(57)【要約】
【課題】本発明は、オオムギ由来澱粉を含み、均一なペースト状を示し、食品素材として有用な組成物の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、オオムギ由来澱粉及び水性成分を少なくとも含む原料を、62℃以上67℃未満で2分以上加熱処理することを含む、ペースト状組成物の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オオムギ由来澱粉及び水性成分を少なくとも含む原料を、62℃以上67℃未満で2分以上加熱処理することを含む、ペースト状組成物の製造方法。
【請求項2】
オオムギが、四国裸84号、ユメサキボシ、ファイバースノウ、はるか二条、ハルヒメボシ、サチホゴールデン、シュンライ、又はトヨノカゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オオムギが、fra1遺伝子変異株、又は、前記変異株を交配親とし、前記変異株で特定されるfra1遺伝子変異を有する系統である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
原料における水性成分の量が、オオムギ由来澱粉に対し2~20倍量である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ペースト状組成物は、製造後、常温で放置したときの粘度が、300cP以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法により得られるペースト状組成物と、他の食品原料を、オオムギ由来澱粉のα化温度以上で加熱処理することを含む、食品の製造方法。
【請求項7】
食品がレトルトパウチ食品である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大麦は、小麦やコメと同様にその主成分は澱粉であるが、食物繊維を10%程度と豊富に含むことから健康食品素材として注目されている。大麦をすりつぶす、破砕するなどして得られる大麦種子由来の粉末又は粉末を分散させた水は、食物繊維源を含むペースト~ゲル状の食品素材として有用であると考えられる。粉末や粉末を分散させた水系の食品素材は、食品の材料として使用する際に均一に混合できるよう、沈殿しない形で提供することが望まれる。
【0003】
特許文献1には、水に浸漬した大麦から製造するリキッド状大麦加工品が記載されている。特許文献2には、過熱水蒸気による高温加熱でピューレ状にした食品素材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6251433号公報
【特許文献2】特開2015-6176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の食品はいずれも、その製造過程において特殊な浸漬工程と破砕・加熱工程を含み、機器を必要とし簡便さに欠けるという問題がある。また、原料である大麦の澱粉特性に関し考慮されていない。
【0006】
本発明は、オオムギ由来澱粉を含み、均一なペースト状を示し、食品素材として有用な組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の〔1〕~〔7〕を提供する。
〔1〕オオムギ由来澱粉及び水性成分を少なくとも含む原料を、62℃以上67℃未満で2分以上加熱処理することを含む、ペースト状組成物の製造方法。
〔2〕オオムギが、四国裸84号、ユメサキボシ、ファイバースノウ、はるか二条、ハルヒメボシ、サチホゴールデン、シュンライ、又はトヨノカゼである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕オオムギが、fra1遺伝子変異株、又は、前記変異株を交配親とし、前記変異株で特定されるfra1遺伝子変異を有する系統である、〔1〕に記載の方法。
〔4〕原料における水性成分の量が、オオムギ由来澱粉に対し2~20倍量である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕ペースト状組成物は、製造後、常温で放置したときの粘度が、300cP以上である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法により得られるペースト状組成物と、他の食品原料を、オオムギ由来澱粉のα化温度以上で加熱処理することを含む、食品の製造方法。
〔7〕食品がレトルトパウチ食品である、〔6〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、均一なペースト状を示し、食品素材として有用な組成物を得ることができることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、オオムギ由来澱粉等の原料を加熱処理することにより、食品素材として有用なペースト状組成物を得ることができる。
【0010】
〔原料〕
ペースト状組成物の原料は、オオムギ由来澱粉および水性成分を少なくとも含む。
【0011】
-オオムギ澱粉-
オオムギ由来澱粉は、オオムギ(Hordeum vulgare)を原料とする未α化澱粉である。オオムギの産地、種類等には、特に制限はない。産地は、国産でもよいし外国産(例えば、ロシア、ウクライナ、フランス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、トルコ)でもよい。オオムギは、皮麦と裸麦に分類され、それぞれについて、穂の穀粒の付き方により二条大麦、六条大麦に分類され、さらに粳性品種及び糯性品種に分類される。これらのうち、粳性品種(例えば、アミロース含量が20%以上、好ましくは20%以上30%未満)が好ましい 。オオムギの国内の品種としては、例えば、四国裸84号、ユメサキボシ、ファイバースノウ、はるか二条、ハルヒメボシ、サチホゴールデン、シュンライ、トヨノカゼが挙げられる。オオムギは、fra1遺伝子変異種でもよい。fra1遺伝子変異種(破砕デンプン粒変異遺伝子導入系統)は、fra1遺伝子に1以上の変異を有する種であり、具体的には、イネの粉状質胚乳変異遺伝子FLO6のオオムギホモログに1以上の変異を有する種である。fra1遺伝子変異種としては、例えば、四国裸84号のfra1遺伝子導入株、関東皮92号、関東皮96号、関系b556、関系b564、関系b572が挙げられる。fra1遺伝子変異種の後代、例えば、上記fra1遺伝子変異種のいずれかを交配親とし、交配親で特定されるfra1遺伝子変異を有する系統でもよい。オオムギは、上記品種の1種でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0012】
オオムギ由来澱粉は、オオムギ(通常は種子)に含まれる澱粉であり、オオムギを粉砕して得ることができる。粉砕は乾式製粉または湿式製粉等の通常の製粉方法に従って、必要に応じて粉砕装置を用いて行うことができる。粉砕後、必要に応じて分級を行ってもよい。得られる大麦粉は、澱粉以外の成分(例えば、食物繊維、タンパク質、澱粉以外の糖類)を含むが、原料としてこれらの成分も含んだまま(すなわち、大麦粉をオオムギ由来澱粉として)用いることが好ましい。これにより、食物繊維(通常、10重量%程度含まれる)など栄養価の高いペースト状組成物を得ることができ、付加価値を有する食品素材として用いることができる。オオムギ由来澱粉は、1種単独でもよいし、品種、収穫年度、栽培方法、粉砕方法、物性(例えば粒度)が異なる2以上のオオムギ由来澱粉の組み合わせでもよい。
【0013】
-水性成分-
水性成分としては、いわゆる水のほか、水以外の液体、例えば、液状の食品又は食品原料(例えば、牛乳、豆乳、果汁、乳飲料、茶、コーヒー、出汁、スープ及びこれらの水溶液)が挙げられる。
【0014】
-加水量-
原料における水性成分の含有量は、オオムギ由来澱粉の量に対し、通常、2倍以上、好ましくは4倍以上、より好ましくは6倍以上、更に好ましくは8倍以上である。上限は、通常20倍以下、好ましくは18倍以下、より好ましくは16倍以下、更に好ましくは14倍以下である。これにより、作業性が良好となり、均質なペースト状の組成物を得られやすくなる。
【0015】
原料の調製にあたり、水性成分とオオムギ由来澱粉(未α化)は、それぞれ一括添加してもよいし、複数回に分けて分割添加してもよい。また、添加後、適宜撹拌してもよい。
【0016】
-任意成分-
原料は、オオムギ由来澱粉及び水性成分以外の任意の原料成分を含んでもよい。任意の原料成分としては、例えば、塩、胡椒、油脂、動物性クリーム(生クリーム、ホイップなど)、スキムミルク、植物性(例:豆乳、ココナツ、アーモンドなどの豆)クリーム、植物性タンパク(豆類など)、植物性デンプン(コーンスターチ、タピオカスターチなど)、穀物・野菜・果実類、卵、ココア、果汁(レモン果汁など)、タンパク質(肉、魚、それらの加工品、大豆等植物加工品)、酒、香料、香辛料、甘味料(砂糖、グラニュー糖、ハチミツなど)、オオムギ由来澱粉以外の澱粉、添加剤(酸味料、着色料、保存料、膨化剤(発泡剤)など)、及びこれらから選ばれる2以上の組み合わせが挙げられる。
【0017】
任意成分の添加時期は、例えば、加熱処理前、加熱処理の間、加熱処理後(冷却前)、及びこれらの2以上の組み合わせが挙げられるが、特に限定されない。任意成分を複数用いる場合には、それぞれの適切な添加時期を定めることができる。添加後は必要に応じて撹拌してもよい。
【0018】
〔加熱処理〕
上記の、オオムギ由来澱粉と水性成分を少なくとも含む原料は加熱処理に供される。加熱処理における温度条件は、通常61℃以上、好ましくは62℃以上である。これにより、沈殿を抑制して均一なペースト状の組成物を得ることができる。上限は、67℃未満、好ましくは65℃以下、より好ましくは64℃以下である。これにより、粘度の上昇を抑制でき、澱粉の完全なα化又は老化を抑制できる。加熱時間は、通常2分以上であり、好ましくは3分以上又は5分以上、より好ましくは7分以上又は8分以上である。これにより、沈殿の発生が抑制され、組成物が適度なペースト状を示すことができる。上限は、通常15分以内、14分以内、13分以内、12分以内または11分以内、好ましくは10分以内である。これにより、澱粉のα化の進行を抑制でき、老化を抑制できる。
【0019】
原料を加熱する方法は特に限定されず、例えば、恒温槽、鍋、電磁調理器(例えば、電子レンジ)等を用いて工程1で得られた組成物を直接加温する方法、組成物を予め小容器又は袋(例えば、パウチ袋)に入れ、これを湯煎する方法が挙げられ、作業性が良好なため後者が好ましい。加熱処理は、組成物を撹拌(例えば、手作業による撹拌、機械による撹拌)しながら行ってもよい。加熱終了後は、通常は常温(例えば、約20℃(15~25℃))まで冷却する。
【0020】
〔物性〕
ペースト状組成物における「ペースト状」とは、ある程度流動性のある、液面を斜めにするとこぼれる状態を意味し、製造後常温に戻して放置(例えば、常温に戻して翌朝まで一晩:12~20時間)したときの粘度が、通常300cP以上であることが好ましい。また、ペースト状組成物は、老化していないことが好ましい。老化か否かの判断指標としては、例えば、製造直後及び常温に戻して放置後の粘度の比較が挙げられる。一例を挙げると、常温に戻して放置後(例えば、約16時間)の粘度が通常950cP以下であり、調製直後の粘度に対し2倍未満であり、かつ、両者の差分が700以下であることである場合に老化していないと判断できる。
【0021】
〔食品の製造方法〕
ペースト状組成物は、オオムギ由来澱粉のα化が未了であり、ペースト状を呈する。そのまま、又は必要に応じて他の食品素材とともに、α化温度以上に追加加熱することにより喫食できる加工食品(例えば、レトルトパウチ食品)として利用できる。これにより調理の手間の簡便化、食品の風味、物性の改善が期待できる。また、柔らかく飲み込みやすいことから、年配者、病人等のための嚥下困難者用食品、乳児用の離乳食としても利用できる。α化のための加熱温度は、加熱時間にもよるが、通常90℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上である。上限は、通常120℃以下である。加熱時間は、加熱温度にもよるが、通常5分以上、好ましくは8分以上、より好ましくは10分以上である。上限は、通常20分以下、好ましくは15分以下である。他の食品素材を用いる場合、加熱の時期は特に限定されず、他の食品素材への添加前に加熱してから他の原料に添加してもよいし、他の食品素材の少なくとも一部と混合してから加熱してもよい。他の食品素材としては、上述の任意成分として例示したもののほか、穀類(例えば、米、小麦、そば、大麦)、卵、乳製品(例えば、チーズ、バター)、水性原料(上記例示したとおり)が挙げられる。食品素材から得られる食品としては、例えば、ゼリー、パン類、麺類、餅、焼成菓子、クリーム類、ピザ、お好み焼き等が挙げられる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0023】
実施例1~6及び比較例1~6
(1)材料:搗精済みの大麦(表1)を、サタケの小型製粉機(SRG05A,0.5mmスクリーン)に投入し乾式製粉を行った。大麦は、表1に示す各品種(つくば市で収穫、2019年産)を用いた。得られた大麦粉はラミジップに入れ、冷蔵庫に保存した。大麦粉の水分含量(ザルトリウス水分計で測定、2回の平均値)、粒度を表1に示す。なお、各品種のアミロース含量は30%未満であった。
【0024】
【表1】
【0025】
(2)加温:ラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA、パーキンエルマー社製)を用い、大麦粉2.5g:蒸留水25ml(10倍加水)の混合物を撹拌しながら設定温度(60℃、62℃、65℃、67℃)まで加熱し保持した(開始から10分間で加熱終了)。加熱後は室温(25℃)下で一晩放置した。
【0026】
(3)粘度測定:RVAを用い、調製時および一晩放置後のサンプルについて、20℃下で3分間撹拌した時点での粘度を記録した(表2)。
【0027】
(4)沈殿の有無の観察:常温で一晩(約16時間)放置後の沈殿の有無を目視観察した(表2)。
【0028】
【表2】
【0029】
加熱処理を60℃以下又は67℃以上で行った比較例1~6では、沈殿が生じるか又は常温放置後の粘度が950cPを超えており、かつ常温放置後の粘度が調製時の粘度の2倍を超えるか又は差分が700を超えていた。60℃を超えて70℃未満で加熱処理を行った実施例1~6では、ペースト状(常温放置後の粘度が300cP以上)で、沈殿せず、粘度の上昇が抑制され糊化が進んでいなかった(表2)。
【0030】
これらの結果は、本発明により、α化が未了であり、均一なペースト状を示し、食品素材として有用な組成物を得ることができることを示している。